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参議院選挙制度改革に関する協議会報告書

  1. この協議会の経緯

     参議院選挙制度改革に関する協議会(以下「協議会」という。)は、参議院選挙制度の改革について協議を行うため、平成11年6月16日、各会派代表者懇談会の下に設置された。

     第1回協議会(平成11年6月24日)及び第2回協議会(平成11年7月7日)では、(1)有識者懇談会とは組織的な関係がないこと等の協議会の位置付け・性格、(2)報告書の提出時期、(3)各党合意の原則、多数決で決めないこと、特定の方向付けをもった議論をしないこと等の協議会の運営方針等の選挙制度改革の論議の前提、(4)協議会で議論する内容等について協議を行った。

     第3回協議会(平成11年7月21日)では、「参議院選挙制度の変遷」及び「参議院選挙制度に関する最近の主な問題点・意見」が資料として配付されるとともに、これらの点について事務局から説明を聴取した上で協議を行ったほか、比例代表選挙制度を廃止して都道府県選挙区のみとすることが憲法第43条第1項に抵触するかどうか、参議院の定数を削減した場合における参議院の審議の在り方等について協議を行った。

     第4回協議会(平成11年11月17日)では、「いわゆるアメリカ上院方式について」、「いわゆる候補者推薦制度について」、「候補者推薦制度に関する過去の経緯」及び「参議院選挙制度に関する最近の主な問題点の指摘及び改革意見」が資料として配付されるとともに、これらの点について事務局から説明を聴取した上で協議を行った。また、事務局がまとめた「これまでの参議院議員選挙制度の主な課題」について協議を行った結果、時間的制約もあり、「総定数問題(増減すべきか、増減の場合その方法はどうするか)」、「定数較差」並びに比例代表制度の改善問題のうち「拘束式か、ミックス方式か、非拘束式か、相対多数当選制か」、「比例代表選出議員の当選後の政党移動をどう考えるか」及び「繰上当選等における解党した政党の名簿の有効性」について今後協議を行うこととなった。

     第5回協議会(平成11年12月7日)では、選挙区と比例代表の削減割合、参議院の役割、逆転区の解消問題、較差是正問題、繰り上げ当選等における解党した政党の名簿の有効性等について協議を行った。

     第6回協議会(平成11年12月15日)では、「比例代表選出議員の党籍離脱と議員の身分に関する問題について」(比例代表制導入時における法律案提出者の考え方、学説及び諸外国の立法例)、「政党が離合集散した場合の比例代表名簿の効力に関する問題について」及び「参議院選挙区選出議員選挙の選挙区人口、配分定数及び定数格差の状況」が資料として配付されるとともに、これらの点について事務局から説明を聴取した上で協議した。また、参議院の在り方論とともに、総定数問題、逆転区の解消問題等の当面の課題に対処する必要性等について協議を行った。

     第7回協議会(平成12年2月9日)では、参議院の在り方及び逆転区等を含めた定数問題について各会派からの意見が報告され、参議院の在り方論とともに、選挙制度の抜本改革の困難性、総定数問題、逆転区の解消問題、較差是正問題等について、協議を行い、座長において報告書試案を作成することとなった。

     第8回協議会(平成12年2月16日)では、座長において作成された報告書試案について協議を行った。

     第9回(平成12年2月25日)では、第8回協議会において示され各委員における検討を経た座長試案について、参議院の役割と在り方、二院制を採用する国及び直接公選型上院の増加傾向とその理由、参議院創設時の議席配分方法、一票の価値の考え方等に関し事務局から補足して説明を聴取した上で、協議の取りまとめが行われた。

  2. 参議院の役割と在り方

      参議院は、議会制民主主義の原理である国民主権、権力分立及び議院内閣制の整合性ある実現と、多元的な国民の意思の反映のために創設された、もう一つの直接公選で選ばれた全国民の代表による議院という、民主主義における新しいタイプの議会制度である。旧来の抑制・均衡・補完という二院制の説明概念では、こうした民主的な役割は言いつくせないものがある。

     参議院の主な役割は、第一に、議院内閣制の弱点を補完して衆議院及び内閣に対するチェックアンドバランスを発揮すること、第二に、異なる制度、時期による選挙によって、国民の多元的な意思を、よりよく国会に反映することにある。

     そもそも両議院の国民代表としての存在意義には何ら違いはなく、いわゆる憲法上の衆議院の優越事項とは、議院内閣制に係る役割の差に由来するものにすぎず、役割の優劣を意味しない。むしろ参議院は、本来の議会の任務である行政への抑止の役割をより重く担っているとみるべきである。

     次に、あたかも国際的に一院制が時代の趨勢であるかのような誤解が多いが、二院制の採用は現代的な必要性に基づくものであり、現実に近年20近い国々が新たに二院制を導入したところである。民主主義の成熟した人口の多い諸国はもちろん、一元的な政治体制から脱した国々において、二院制は強く支持されている。特に、平成9年の上院議長会議(上院サミット)において明らかになったように、参議院のような直接公選型の上院を設ける国々の増加も顕著であるが、これらは国民主権の最終的保障を図るため創設され、下院との関係で積極的で強い権能を有する点で共通している。我が国の二院制は、民主主義を強化するこうした新しい二院制の先駆的制度であるとみることができる。

     協議会においては、こうした参議院の歴史的な役割と在り方に沿った議論が行われたところであるが、制度の改正に当たっては、参議院の在るべき役割に適合した選挙制度の改革の検討が必要であるというのが一致した意見であった。

  3. 当面の改革

     1.拘束名簿式比例代表制と選挙区制について

    (1)拘束名簿式比例代表制と選挙区制抜本改革について

     現行の拘束名簿式比例代表制と選挙区制については、現行制度を維持すべきとする意見のほかに、これを抜本的に改革する意見として、比例代表制及び都道府県単位の選挙区制を廃止し、全国を広域的な10程度のブロックの選挙区に分割して個人選挙とする意見、比例代表制を廃止し、全国を広域的な5つのブロックの選挙区に分割して個人選挙とする意見、比例代表制を廃止し、候補者推薦制とする意見等が出された。

     しかしながら、これらの抜本的な改革は、次回の通常選挙に間に合わせることは時間的に困難であること、また、候補者推薦制については推薦母体の構成、推薦手続等をどのようなものとすれば憲法の要請する諸原則に適合したものとなるかについての慎重な検討が必要であることから、協議会においては、当面は現行の比例代表制と選挙区制という制度の基本的な枠組みは維持することを前提としつつ、何らかの改革を行う余地があるかどうかを検討することとし、抜本改革案については、参議院の役割と在り方を踏まえつつ引き続き検討が行われるべきであることで意見が一致した。なお、選挙制度審議会等の第三者機関等においで検討すべきとする意見もあった。

    (2)拘束名簿式比例代表制について

     拘束名簿式比例代表制については、次のような検討が行われた。

     拘束名簿式には、選挙において政党が中心になるため政党政治の弊害が生じているという意見や、非拘束名簿式あるいは拘束・非拘束混合方式とした方が有権者と候補者との距離が近くなるという意見等があった。

     これに対し、非拘東名簿式又は拘束・非拘束混合方式は、旧全国区と同じように個人本位の選挙となり、金がかかるとともに過酷な選挙運動を強いられるおそれがあるという意見、拘束名簿式は政党が参議院議員として相応しい識見ある候補者を立てることができ、そのことを通じて国民の多様な職域を代表する者が議員となることができるという意見、拘束名簿式を採用しつつ名簿の順位を男女交互にしなければならないとする国もある等この方式には積極的に活用する余地があるという意見等があった。

     いずれにしても、現行の拘束名簿式比例代表制の仕組みそのものを改めるとなると抜本的な改革となり、その実現は容易でないことから、当面は現行の拘束名簿式比例代表制を維持することを前提として議論を進めることとなった。

    (3)選挙区制について

     選挙区制については、次のような検討が行われた。

     まず、各都道府県の定数を同じとする方式(アメリカ上院方式)をとることができるかについて検討が行われた。しかし、この方式を採用すると、選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差が1対19.15(鳥取県−東京都)となり、最高裁判決が選挙区間の人口較差について認めている「国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲」を逸脱するおそれがあること、また、法律上も都道府県という地域の代表であると解釈されることになりかねず、参議院議員も全国民代表であるとする憲法第43条第1項と矛盾抵触するのではないかとされた。

     次に、都道府県を選挙区の単位とすることの是非について検討が行われた。この点については、もとより参議院の選挙区選出議員は都道府県という地域代表的役割を持っており、特に衆議院が小選挙区制を採用して選挙区が細分化されたことに伴って、事実上の都道府県代表としてその意見を国政に反映させるという役割に対する都道府県民の期待が相対的に高まりつつあるという意見等があった。

     結局、当面は現行の選挙区制を維持することを前提として議論を進めることとなった。

    2.議員定数について

    (1)議員定数を削減すべきかどうかについて

    1. 議員定数を削減すべきであるとして、次のような意見が出された。

      <1>中央省庁等改革に係る大綱(平成11年1月26日中央省庁等改革推進本部決定)は、「国の行政機関の職員の定員について、10年間で少なくとも10分の1の削減を行う」としており、また、中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)は、「国の行政組織並びに事務及び事業の減量、効率化並びに国が果たす役割の重点化を積極的かつ計画的に推進する」(第32条)と規定している。そこで、同じ国家機関であり、しかも、これを監視すべき地位にある立法機関でもある参議院においても、その構成をスリム化した上で、立法に係る事務の効率化やその果たすべき役割の重点化を推進する必要がある。

      <2>現下のゆゆしい経済情勢の下で民間企業においてはリストラが進行し、平成11年の年間完全失業率は47%とかつてない厳しい状況にある。このような厳しい雇用情勢を受けて、世論調査の結果やマスコミヘの投書等には、国会議員の定数削減を求める声が多い。国民の選良である国会議員が国民世論に耳を傾けることなくひとり安穏としてその地位を保持していることは、国民の国会議員ひいては国政に対する不信感を醸成しかねない。

      <3>参議院に期待されている役割を十分に果たすために選挙制度等の抜本改革が必要であるとする立場から、議員定数を削減することは抜本改革の端緒となるものであって、後退にはならない。

    2. これに対し、議員定数は削減すべきではないとして、次のような意見が出された。

      <1>国会議員は、主権者である国民の意見を国政に反映させるパイプ役であり、それを細くすべきではない。公務員や民間企業におけるリストラを理由に国会議員の定数も削減すべきとの議論があるが、福祉や住民サービスを担う役割を持つ公務員の数を削減したり、企業が安易に人減らしすること自体に問題がある。

      <2>議員定数の問題を議論する前提として、公選による第二院としての参議院の在り方についてまず十分な検討を行うべきことが必要である。参議院は、全国民の代表として衆議院とほぼ同様の権限を有しており、委員会審議の現状等からすれば議員が多すぎるという状況にはない。

      <3>衆議院の議員定数が削減されたことを参議院の議員定数の削減に結びつける議論は、理念や哲学がなく、また、主体性を欠き、そのような議論は参議院の自己否定にもつながる。

      <4>参議院の議員定数の人口に対する比率は、二院制を採用する諸外国と比較して多すぎることはないし、憲法制定当時、参議院の定数を衆議院の定数の3分の2内外とする旨の議論があったことからすれば、現行の定数が多すぎるという議論には根拠がない。

      <5>選挙区制において議員定数を削減すると2人区が増加することになるが、それは選挙区制の骨格に影響を及ぼすおそれがある。

    3. 結局、抜本改革の必要性は十分認めつつ、諸般の事情を考慮すれば当面ある程度の議員定数の削減を行うべきであるとするのが多数意見であった。

    (2)議員定数についての具体的な意見

    1. 議員定数についての具体的な意見として、

      <1>現行議員定数の少なくとも5%程度を削減すべきであるとする意見、<2>削減するにしても逆転区の解消分に止めるべきであるとする意見及び・憲法の原則に基づけば一議員定数の較差是正のために必要な増員もやむを得ず、逆転区の解消に当たっても増員で解決すべきとする意見があった。

    2. 定数削減を行うとすれば<1>現行の比例代表制と選挙区制はそれぞれ等しく評価されていることから、現行の両制度の定数比に応じて定数を削減するべきであるとする意見、<2>そのことは原則とすべきであるとする意見及び<3>比例代表制はより民意を忠実に反映しており、削減するなら選挙区選出議員を削減すべきであるとする意見があった。

    3. なお、議員定数を削減すべきであるとする意見は、上記のような定数削減の観点に立ちつつ、公選による二院制を採用する憲法において参議院に期待されている役割を損なわない程度の数を削減すべきであるという意見であった。また、削減に当たっては、参議院に期待されている役割をより十分に果たすべく、今後とも組織、運営等可能な限りの参議院改革を継続して行うことが極めて重要であるという指があった。

    3.選挙区の配分定数について

    (1)逆転現象について

     いわゆる逆転現象、すなわち選挙区定数配分規定において人口が大きい選挙区が小さい選挙区より配分議席数が少なくなる現象の発生については、別表のとおり、直近の平成7年国勢調査人口において、鹿児島県選挙区と三重県選挙区の問に1件生じているが、1票の価値の平等の観点から、平成6年に8増8減の是正が行われたことに引き続き、これを速やかに解消するべきであるということで意見が一致した。

    (2)選挙区間の1議席当り人口の較差是正について

     従前から議論のある各選挙区配分定数の1議席当たりの人口の最大較差問題については、参議院創設時より、都道府県を選挙区とし、半数改選に応じて偶数配分としたことに併せて、各選挙区には最小限2名以上を配分するという条件が付されている。この条件を満たす限り、1議席当たり人口の最大較差は、最小選挙区の人口に大きく制約されることとなるが、そのことは、創設時に定数配分の前提として組み込まれていたものと考えられる。2名区以外の選挙区に関する同較差は、平成7年国勢調査人口において3.28倍程度にとどまっている。

     また、1票の価値は、厳密にいえば1議席当り人口の最大較差というより、選挙区等が議会に出せる単位人口当たりの代表の数のことである。アメリカ合衆国の連邦下院各州議席配分において、できる限り1票の価値の較差を1に近づけるべきであるとされたのは各州にその設定が委ねられた州内の小選挙区間の人口較差であって、各州間の較差は、憲法に各州最小1議席を持つことが規定され、1議席当たり人口の最大較差は数倍に達することがあった。他の先進民主主義国家でも、定数較差は、それぞれの事情を前提としており、それほど小さいわけではない。

     このような制度創設時の定数配分の考え方、各国の定数較差の実情及び最近の最高裁判例の動向等を勘案し、5倍程度の較差はなお容認すべき範囲であるとするのが多数意見であった。これに対し、参議院議員の定数較差についても、憲法の保障する選挙権の平等原則を貫くことが必要であるとする意見もあった。

    (3)選挙区への定数配分について

     選挙区への定数の配分規定の具体的見直しについて、参議院選挙制度創設時の考え方は、<1>各選挙区には最小限2以上の定数を偶数配分すること、<2>人口に比例して配分すること、<3>具体的な配分方式は従来の衆議院の四捨五入方式にならった奇数切上げ偶数切捨て方式とするものであった。昭和58年の最高裁判所大法廷判決における人口に比例して配分していないとの判断とは異なり、創設時においては、明らかに全議席が偶数で完全に比例配分されている。

     協議においては、各選挙区には最小限2以上の定数を偶数配分し、人口に比例して配分することが適当であることは大方の意見であった。また、今回の是正は、<1>定数削減を併せ行うものであることにかんがみ、どの選挙区においても定数が増加することがないように配分すべきであるという意見及び<2>増員を考慮して定数是正を徹底すべきではないかとする意見があった。

     なお、人口の変動に伴い定数を増減する自動的な再配分方式を導入する必要性等を議論すべきであるという意見があった。

    4.比例代表選出議員の政党間移動について

     比例代表選出議員が所属する政党の党籍を離脱した場合に、議員の身分を喪失させるかどうかに関する問題について検討を行った。

     この問題については、憲法第43条第1項等との適合性に関し、学説において、議席保有説(党籍離脱した場合に議席を喪失することを定めることは違憲であるとする説)、限定的議席喪失説(自由意思による党籍離脱の場合にのみ議席を喪失することを定めることは合憲であるとする説)及び議席喪失説(党籍雑税した場合に議席を喪失することを定めることは合憲であるとする説)があり、通説は議席保有説であるものの他の説の存在も無視できないところである。この問題は、衆議院の比例代表制度と共通する問題であり、衆議院とも協議をしつつ、さらに検討すべきであるとさた。

    5.解散した政党の名簿の有効性について

     比例代表選挙に名簿を提出し、当選者を出した政党がその後解散した場合、当該名簿から繰上補充を行うべきかどうかについて検討を行った。

     しかし、2つの政党が解散してそれが大同国結して新しい政党を結成したというような場合に解散した政党の名簿の効力を喪失させることが妥当か、あるいは、解散はしていないがほとんどの議員が離党しており実質的に解散に等しい状態になっている場合に名簿の効力を存続させることが妥当か等の問題があり、このような政党の離合集散に際して選挙管理機関等において名簿の効力を判定することには困難が予想されるところである。

     この問題も、また、衆議院の比例代表制度と共通する問題であり、衆議院とも協議をしつつ、慎重に検討すべきであるとされた。


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