- (目的)
第一条
- この法律は、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の関与の下に、女性に対して組織的かつ継続的な性的な行為の強制が行われ、これによりそれらの女性の尊厳と名誉が著しく害された事実を踏まえ、そのような事実について謝罪の意を表し及びそれらの女性の名誉等の回復に資するための措置を我が国の責任において講ずることが緊要な課題となっていることにかんがみ、これに対処するために必要な基本的事項を定めることにより、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図り、もって関係諸国民と我が国民との信頼関係の醸成及び我が国の国際社会における名誉ある地位の保持に資することを目的とする。
- (定義)
第二条
- この法律において「戦時における性的強制」とは、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の直接又は間接の関与の下に、その意に反して集められた女性に対して行われた組織的かつ継続的な性的な行為の強制をいう。
- 2
- この法律において「戦時性的強制被害者」とは、戦時における性的強制により被害を受けた女性であって、旧戸籍法(大正三年法律第二十六号)の規定による本籍を有していた者以外の者であったものをいう。
- (名誉回復等のための措置)
第三条
- 政府は、できるだけ速やかに、かつ、確実に、戦時における性的強制により戦時性的強制被害者の尊厳と名誉が害された事実について謝罪の意を表し及びその名誉等の回復に資するために必要な措置を講ずるものとする。
- 2
- 前項の措置には、戦時性的強制被害者に対する金銭の支給を含むものとする。
- (基本方針)
第四条
- 政府は、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図るための施策に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。
- 2
- 基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。
- 一
- 前条に規定する措置の内容及びその実施の方法等に関する事項
- 二
- 前条に規定する措置を講ずるに当たって必要となる関係国の政府等との協議等に関する事項
- 三
- いまだ判明していない戦時における性的強制及びそれによる被害の実態の調査に関する事項
- 四
- 前三号に掲げるもののほか、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進に関し必要な事項
- 3
- 政府は、基本方針を定め、又は変更したときは、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
- (関係国の政府等との関係に関する配慮)
第五条
- 政府は、第三条に規定する措置を講ずるに当たっては、我が国が締結した条約その他の国際約束との関係に留意しつつ、関係国の政府等と協議等を行い、その理解と協力の下に、これを行うよう特に配慮するものとする。
- (戦時性的強制被害者の人権等への配慮)
第六条
- 政府は、第三条に規定する措置を実施するに当たっては、戦時性的強制被害者の意向に留意するとともに、その人権に十分に配慮しなければならない。
- 2
- 政府は、第四条第二項第三号の調査を実施するに当たっては、戦時性的強制被害者その他の関係人の名誉を害しないよう配慮しなければならない。
- (国民の理解)
第七条
- 政府は、第三条に規定する措置を講ずるに当たっては、国民の理解を得るよう努めるものとする。
- (財政上の措置等)
第八条
- 政府は、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図るため必要な財政上又は法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
- (国会に対する報告等)
第九条
- 政府は、毎年、国会に、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進に関して講じた施策及び第四条第二項第三号の調査により判明した事実について報告するとともに、その概要を公表しなければならない。
- (戦時性的強制被害者問題解決促進会議)
第十条
- 総理府に、特別の機関として、戦時性的強制被害者問題解決促進会議(以下「会議」という。)を置く。
- 2
- 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
- 一
- 基本方針の案を作成すること。
- 二
- 戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図るための施策について必要な関係行政機関相互の調整をすること。
- 三
- 前二号に掲げるもののほか、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進に関する重要事項について審議し、及びそれに関する施策の実施を推進すること。
- (会議の組織等)
第十一条
- 会議は、会長及び委員をもって組織する。
- 2
- 会長は、内閣総理大臣をもって充てる。
- 3
- 委員は、関係行政機関の長のうちから、内閣総理大臣が任命する。
- 4
- 会議に、専門の事項を調査させるため、専門委員を置くことができる。
- 5
- 専門委員は、学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
- 6
- 前各項に定めるもののほか、会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
- 附 則
(施行期日)
1
- この法律は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第三項及び第四項の規定は、公布の日から施行する。
- (総理府設置法の一部改正)
2
- 総理府設置法(昭和二十四年法律第百二十七号)の一部を次のように改正する。
第十四条の二の次に次の一条を加える。
- (戦時性的強制被害者問題解決促進会議)
第十四条の三 本府に、戦時性的強制被害者問題解決促進会議を置く。
2
- 戦時性的強制被害者問題解決促進会議の組織及び所掌事務については、戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律(平成十二年法律第 号)の定めるところによる。
- (内閣府設置法の一部改正)
3
- 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
附則第二条に次の一項を加える。
- 3
- 内閣府は、第三条第二項の任務を達成するため、第四条第三項及び前二項に規定する事務のほか、戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律(平成十二年法律第 号)が同法附則第五項の規定により効力を失うまでの間、同法の規定による戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図るための施策に関する事務をつかさどる。
附則第四条の次に次の一条を加える。
- (戦時性的強制被害者問題解決促進会議)
第四条の二 戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律が同法附則第五項の規定により効力を失うまでの間、同法の定めるところにより内閣府に置かれる戦時性的強制被害者問題解決促進会議は、本府に置く。
- (中央省庁等改革のための国の行政組織関係法律の整備等に関する法律の一部改正)
- 4
- 中央省庁等改革のための国の行政組織関係法律の整備等に関する法律(平成十一年法律第百二号)の一部を次のように改正する。
目次中「第三十条の二」を「第三十条の三」に改める。
第四章中第三十条の二の次に次の一条を加える。
- (戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律の一部改正)
第三十条の三 戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律(平成十二年法律第 号)の一部を次のように改正する。
第十条第一項中「総理府」を「内閣府」に改める。
第十一条第三項中「関係行政機関の長」を「内閣官房長官、関係行政機関の長及び内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第九条第一項に規定する特命担当大臣」に改める。
- (この法律の失効)
5
- この法律は、附則第一項の政令で定める日から起算して十年を経過した日にその効力を失う。
- 理 由
- 今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の関与の下に、女性に対して組織的かつ継続的な性的な行為の強制が行われ、これによりそれらの女性の尊厳と名誉が著しく害された事実を踏まえ、そのような事実について謝罪の意を表し及びそれらの女性の名誉等の回復に資するための措置を我が国の責任において講ずることが緊要な課題となっていることにかんがみ、これに対処するために必要な基本的事項を定めることにより、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図る必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
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