2002年7月18日 | 戻る/ホーム/民主党文書目次 |
民主党
民主党は、結党以来堅持してきた緊急事態に備える法制の整備は必要との認識から、政府提出の有事関連3法案の審議に真摯に臨んできた。本年3月28日に『緊急事態法制に対する民主党の基本方針』を示すとともに、国会審議を通じて多くの重要論点を提起し、政府・与党の姿勢を質してきた。
政府は、有事法制に対する姿勢・考え方を抜本的に改め、以下に述べる問題点を十分に踏まえて、関連法案を出し直すべきである。
1 有事法制審議に値しない防衛庁、外務省等の惨憺たる現状有事への対処にあたって、枢要な機能を果たすべき防衛庁・外務省が、危機管理能力の欠如、組織的な隠蔽体質、弛緩しきった規律・モラル等を露呈し、機関そのものの信頼性を根本から突き崩す事態となった。 2 不誠実かつ不十分な政府・与党の審議姿勢
防衛庁による公文書偽造問題、個人情報リスト作成問題を始め、外務省は、機密費事件以来、鈴木宗男議員の暗躍、中国による総領事館侵入事件に至るまで、組織的弛緩は留まるところを知らない。不祥事への処分も極めて甘く、法治国家にありながら、法の趣旨を歪める政府の姿勢からは、法の空白による政府の超法規措置を防ぐことから出発した有事法制の前提を根底から揺るがすものである。
有事に備える法制は、国民に開かれ、十分な議論を尽くし、理解を得た上で整備されるべきであるにも関わらず、政府答弁も「備えあれば憂いなし」といった稚拙な次元に留まっている。 3 多くの問題点を抱える法案
さらに、冷戦後の国際社会への洞察と展望、テロや不審船など新たな脅威への対処方針も提示されていない。政府の審議姿勢は、わが国の主権と国民の生命・財産の安全を確保し、基本的人権の保障をするためには極めて不十分であり、これでは国民への説明責任は果たせない。
法案の内容についても、以下のような重大な欠陥がある。 以上
(1)武力攻撃事態の定義及び認定の規定が不十分
「予測される事態」と「おそれのある事態」、「周辺事態」との区別、認定の客観的基準等の規定が曖昧であり、恣意的な「武力攻撃事態」の認定を許す恐れがある。
(2)国会承認、民主的統制のあり方が不適切
「武力攻撃事態」における「対処基本方針」の国会の承認について、「予測される事態」での「防衛出動待機命令」は事後承認、「おそれの場合」での「防衛出動命令」は原則、事前承認となるとの説明はあるが、法律の仕組みや手続きがわかりにくい。
さらに、「対処措置」の終了について、国会の決議等で可能にするべきと考えるが、本法案ではそのような規定はなく、民主的統制を十分に確保できない。
(3)表現の自由など基本的人権の確保に関する規定が曖昧
基本的人権の保障については単なる理念規定となっており、今後の個別法整備においてどのように基本的人権が確保されるか不明である。
(4)避難・警報、医療・救助など、国民の安全確保と被害の最小化への措置が先送り
政府案では自衛隊行動の円滑化のみが具体化されており、最も重要な国民の生命・財産の安全確保や基本的人権の保障、国民生活の維持、被害の最小化や復旧、ジュネーブ条約関連法制など人道的な側面などが軽視され、「2年以内を目標」に法整備をするという曖昧な規定で先送りされている。
(5)国民への情報提供についての規定が欠如
政府の説明責任を明示し、適切な情報公開がなされないと、民主的社会を脅かす危険がある。適正な情報公開について政府の責務が明記されていない。
(6)国民の損害への不服申立て、補償・賠償などの救済手続についての規定が不十分
武力攻撃事態で国民の権利が制限されたときの救済措置について、いかなる場合にどうなるのか、手続や基準等が不明確であり、十分に国民の権利が確保されない恐れがある。
(7)地方公共団体や指定公共機関の役割・権限・内容等が不明確
国民の安全確保に極めて大きな役割を果たすべき地方公共団体の具体的な権限、責務、態勢整備、予算措置等について、義務規定が先行しながら、基本的な考え方すら示されていない。これでは、地方自治体は計画的な態勢整備ができない。また、指定公共機関に、民間報道機関も含まれるとすると、報道の自由が侵害される恐れがある。
(8)米軍との関係についての基本方針が不明確
「周辺事態」と「武力攻撃事態」における米軍の行動とわが国の対処との関係が不明確であり、政府の恣意的な判断によってわが国を武力紛争に巻き込む懸念がある。また有事において、米軍の行動による危害や損害、人権侵害を受けた場合の対応等についての特別な取極めのあり方が定められていない。
(9)「自衛隊法88条に基づく武力行使」と「本法案における自衛隊の活動」との関係が不明確
政府は、戦闘行為が始まった場合、「戦闘地域」では自衛隊法88条に基づく行動であれば、あらゆる武力行使に関わる行動について、民事・刑事・行政上の責任が問われないとの答弁であるが、その場合に今回の有事関連法案との関係が不明確である。
(10)迅速かつ適切な対処を図れる仕組みか疑問
有事に対処するための権限継承順位についての規定がなく、また対策本部、安全保障会議、専門委員会の権限行使のあり方、各省庁、地方公共機関等の関係が曖昧で、現実に機能するか、疑問である。
以上の点を勘案すると、本法案は極めて問題が多く、根本から議論し直すべきである。その上で、真に国民の安全と基本的人権が確保される緊急事態への法整備を行うべきである。
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