2007年6月29日 | 戻る/ホーム/民主党文書目次 |
安倍総理大臣問責決議案趣旨説明
民主党・新緑風会 小川敏夫
私は、民主党・新緑風会の小川敏夫です。提出者を代表して、安倍総理大臣問責決議案の趣旨を説明いたします。
これに先立ちまして、昨日、宮沢喜一元総理大臣が亡くなられましたことに、謹んで哀悼の気持ちを表させていただきます。宮沢元総理は、現下の議会制民主主義を無視した安倍総理の姿勢をうるえていたのではないかとお気持ちを察するところでございます。
安倍総理、あなたは、国民の支持率を70%も得て、さっそうと総理に就任しました。初めての戦後生まれの総理として、国民はあなたに大きな期待を寄せていたのです。
しかし、私は、あなたには期待を寄せてはいませんでした。あなたが述べる改革や「主張する外交」なるものが、どれだけ有効なものなのか、それと共に、政治倫理の確立や、議会運営などの政治手法について、どれ程のものなのか、大きく疑問に感じていたからであります。
そして、私が抱いていた疑問は、直ぐに現実のものとなり、あなたに対する国民の期待と支持はしぼむ一途の道を辿って今日に到っております。
具体的に示しましょう。あなたが小泉政権の中枢として直接関わった先の郵政民営化を争点とする総選挙において、郵政民営化に反対して離党した議員達を復党させました。このことは、あなたの政治姿勢がその場その場のご都合主義であることを如実に示すものであります。
あなたは、総理就任直後には、道路特定財源の見直しについて、一般財源化を前提に見直すと明解に約束しました。ところが、わずか3ヶ月後には、全額を義務付けている仕組みを改めるだけとして、当初の一般財源化を前提にという約束が反古にされ、見せかけだけの改革もどきへと変えられてしまいました。このことは、あなたがいわゆる族議員の抵抗に屈したもので、あなたの指導力と改革への意気込みが欠如していることを露呈したものです。
はたまた、あなたが自ら起用した本間政府税調会長や佐田行革担当大臣がスキャンダルや政治とカネをめぐる問題で就任早々に辞任したことから、あなたの人事に対する基本姿勢が問われることになりました。
年が明けると、更に続いて柳沢厚生労働大臣の「女性は子どもを産む機械」という女性を蔑視する発言があり、米軍再編問題では、当事者である久間防衛大臣が「アメリカは分かっていない」などと発言し、アメリカ側の反発を招きました。このいずれの発言も、当然に辞任を求め、或いは大臣を罷免するのが総理としてあるべき本来の姿勢であるのですが、政府税調会長や佐田行革担当大臣の辞任に続いて、任命責任を問われることを回避したかったのでしょう、総理はこのような問題大臣をそのまま居座らせてしまったのです。
そして更に続いて、松岡前農水大臣の事務所費、水道光熱費の不正計上問題が発覚しました。
「ナントカ還元水」という言葉が国民の間に広く知れ渡りましたが、国民の誰もが、水道光熱費が不要の議員会館で年に500万円を超える水道光熱費を計上したことは、不適切と思っているのでしょう。しかし、あなたは、自身で任命した大臣等が次々とスキャンダルや政治とカネの問題等でドミノ倒しのごとく倒れていく事態を回避したいとの一心だったのでしょう。あなたは、松岡前大臣の処理は適正であるとあなた自身も言い張るようになりました。そこには政治倫理を尊重する姿勢は全くありません。ただあなたが総理の座に居座り続けることに執着している姿しか浮かんでこないのです。
こうして、国民のあなたに対する期待はしぼむ一方となり、内閣支持率も下がり続けました。そしてまた、あなたの保身のために辞めるべき人を辞めさせないまま国民の批判の矢面に立たせ続けたことが、松岡前大臣に大きな不幸な事態をもたらす結果を招いてしまったのです。
政治とカネにまつわる不正に対する国民の怒りは松岡前大臣に向いていましたが、真に批判を受けるべきなのは、総理、あなた自身ではなかったのでしょうか。
又、この事務所問題で大きく揺れていた今年の早い時期、あなたは、決定的失策を重ねています。
一つは、今、国民の大きな怒りを呼んでいる「消えた年金記録」の問題です。
あなたは、今年2月14日衆議院予算委員会で、民主党の長妻昭議員から、この問題に対して、加入者全員に加入記録を送付して対応するように求められました。
これに対して、総理、あなたは驚くべき答弁をしております。即ち、そのような対応をすれば、年金に対する国民の不安をあおる結果になる危険性があるからとして、その対応を取りませんでした。しかし、問題が大きくなった今、政府与党の中からも、その対応を取ろうという声が上がっています。
総理、あなたは、この消えた年金問題のように、国民の関心が極めて高く、そして国民生活に直接重大な影響を与える事件が生じた時に、国民に知らせないまま頬被りしてしまおうとしたご自身を見つめて、恥ずかしいとは思いませんか。
消えた年金問題の存在を知りながら、騒ぎが大きくなったら大変だからと言って何の対策も取らないまま放置したことは、国民の生活を守るべき総理の職責を放棄したものであります。そして、この問題が、国民の知るところとなって大騒ぎとなるや、慌ててその場しのぎの対策でごまかそうとする総理を国民が支持する訳がありません。あなたの支持率が、ここにきて急落しているのは、国民があなたに正当な評価を与えるようになったからであります。
あなたは、国民の批判をかわそうとして、一年間で5000万件の統合を完了し、問題を全て解決するかのように国民に約束しました。しかし、これは国民を欺く全くのでたらめであります。あなたが約束したことの中身は、コンピューターに入っている5000万件のデータの照合作業を一年間でやり終えるということです。コンピューターに入っていない記録や、間違って入力されてしまったデータを調べ上げなければ、問題は解決しないのです。総理、あなたもこの事情は分かっているのでしょう。分かっていながら、あたかも単なるデータの照合作業をもって、完全な問題解決のように、真顔をもって真剣なまなざしと口調で訴えるあなたの姿は、相当な役者でも及ばないものがあると私は感じます。しかし、あなたにお芝居の能力があるとしても、総理としては失格です。
あなた自身、単なるコンピューター内のデータ照合だけで、消えた年金問題が全て解決するとは思っていないでしょうが、万が一そのように思い込んでいるとするならば、あなたは完全なる無能であります。
又、年金時効特例法なども、政府の責任により生じた未払いに対して政府は時効を主張しないという、最高裁の判例にもある当然のことを定めただけで、問題の根本解決にはなりません。しかも、元々は民主党が主張していたことであります。
消えた年金問題の存在を承知していながら、頬被りをして適切な対応を取らなかったため、問題の深刻さもさることながら、突然にこの問題を分からせる結果となったことによって国民の動揺は更に大きくなりました。この一件だけをもってしても、総理、あなたに総理大臣を続ける資格がないことは明らかです。
又、あなたと共に与党の皆さんも、この消えた年金問題について、年金は消えていないなどと馬鹿げた主張をしています。国民から見て、掛金を払ったのに、年金に結び付かないのですから、国民の視点からは消えた年金であることは明らかです。あなたや与党の皆さんは、自分の失点を隠すために、このような言葉の問題にすり替えようなどという姑息なことは止めた方が良いでしょう。そして、国民の立場に立って真の解決策を追求するよう最大限の努力をすることが、いずれ総理或いは与党の座を明け渡すことになるでしょうあなた方に課せられた、最後に国民に対して誠意を見せる重要な責務なのです。
二つ目は、いわゆる従軍慰安婦発言であります。
あなたは、ご自身の発言が、とりわけ海外において大きな影響を及ぼすことを分かっていたのでしょうか。あなたは、軍隊が直接民家に上がって女性を連行してきたような強制性を認める証拠はないとの発言をしました。このように、ことさらに一つの定義を作り上げてまで、一国の総理であるあなたが軍の強制性を否定する発言をする必要がどこにあったのでしょうか。あなたの発言が大きな引き金となって、米国議会における決議を促す結果をもたらし、我が国に対する各国の信頼が大きく損なわれました。
あなたは、4月下旬、決議がなされることを回避させなければならない問題を抱えて訪米しました。このように負の問題を抱えて外交に臨むことは、国益を損なう危険を伴うものです。実際、あなたの訪米はきっとあなたにとっては不本意であったでしょう、従軍慰安婦問題に対する反省の弁から始まりました。そして、米軍移転費用の負担、自衛隊のイラク派遣延長、米国産牛肉の輸入拡大など、日米の外交場面はアメリカが一方的に有利な外交展開となっています。あなたの従軍慰安婦発言は、あなたの人権感覚の欠如を表しただけでなく、外交感覚の乏しさと外交手腕の稚拙さを判りと示しました。もはや、あなたには我が国を切り盛りする資格は全くないのです。
又、私が当院予算委員会であなたの発言が我が国の国際信用を大きく損なうと指摘した際に、私を日本の歩みをおとしめようとしているのではないかと誹謗しました。自分を批判する人は、いわば非国民だと誹謗するあなたには、民主主義を基調とする我が国の総理を務める資格はありません。
このように、人の意見に耳を傾けず、自分の考えだけ押し通せば良いし、批判する者があれば排除すれば良いというあなたの姿勢は今国会の運営においても、強行採決の連発など、随所に示されました。もはや、あなたは、議会制民主主義を守るという観点からすると、最大の危険人物であります。
あなたはいじめ・自殺の連鎖や、未履修問題など教育の根幹に関わる問題が山積しているのに、これらに対する適切な対応策を放置する一方で、責任の所在が不明確で、中央集権の強化などを盛り込んだ教育関連法案を強行採決により成立させました。
このように、内閣の保身のためには他人の立場も考えず、なりふり構わない姿勢は、今国会の会期延長においても示されています。参議院議員選挙の投票日が本年7月22日と事実上決定され、日本国中がそれに向けて動いていたものを直前の今になって会期延長に伴って7月29日に変更されてしまいました。このことが、選挙に臨々方々だけでなく、多くの国民に少なからず影響を与えています。開票事務にあたる全国の市区町村職員の中には、夏休みの家族旅行を取り止めした人々も多くあるのではないでしょうか。選挙事務の変更や投開票会場に充てられる施設の利用の変更など、大きな不便と損失をもたらしました。こうした不便と損失を回避するため、これまで投票予定日の直前変更は避けられ、参院選の年の会期延長はつとめて避けられてきたものであります。
しかし総理は、これに意を介さずに会期を延長したのです。その理由たるや、天下り法案の成立のためというものですが、この法案が又、実にいい加減なものであるから問題なのです。
あなたはこの法案について、公務員の天下り規制を加えるものと言っています。しかし、現行法上、天下りは2年間という不十分な実態ではあるとしても、禁止されているのです。法案はこの禁止を解いて、天下りに一つのルールを設けた上で認めることになっているのです。即ち法案は、天下り規制の強化ではなく、天下り解禁法案なのです。その上、あなたは天下りについて、職員の斡旋を禁止し、天下り者の行為規制を設け、違反者の処罰規定を設けたと説明しています。しかし、法案をつぶさに検討してみますと、職員に禁止されているのは斡旋ではなく、命令と依頼でありました。天下り者の行為規制については、2年間だけで、以後は自由という、いわば2年経過後の働きかけ奨励法案でした。そしてその処罰規定も、不正行為を行った者だけが処罰され、単なる違反者には何の処罰もないという内容でありました。
このように看板に偽りあり、即ち天下り解禁法案をもってあたかも天下り抑制の切り札であるかのようなでたらめの説明による法案の審議のため、議会無視の会期延長を行った総理には、その資格がないことこの上ありません。このような偽りの天下り規制法案を審議時間がないことが分かっているのに参議院の審議に上げた総理の考えは、結局は自らの失政が招いた消えた年金問題などから国民の目を反らすために仕掛けた、目くらまし作戦に出たものと認められます。
しかし、このような軽薄で卑劣な作戦に国民が騙されることはないでしょう。あなたの築き上げた失政の数々は、到底あなたを総理にとどまることを許すものではありません。国民から厳しい審判の結果を受けることは必至の状況の今、あなたが取るべき唯一の道は、潔く総理の職を辞することでありますが、あなたには、このことすら理解し決断する力がないようでありますので、ここに総理、あなたの問責を求め、本問責決議案を提出するものであります。議員の皆様におかれましては議会制民主主義を守り、良識の府である参議院の存在価値をより一層高めるために本決議案にご賛同頂きますよう、お願い申し上げまして、趣旨説明を終わります。
2007年6月29日 | 戻る/ホーム/民主党文書目次 |