私は、提出会派を代表して、環境委員長川口順子君の解任決議案の提案理由を説明いたします。まず、決議案の案文を朗読いたします。
本院は、環境委員長川口順子君を委員長の職より解任する。
右決議する。
以下、提案理由を申し述べます。
今般、川口環境委員長は四月二十三、二十四の両日、本院の許可を得て中国に渡航されたものの、議院運営委員会理事会からの許可を得ないまま一方的に中国滞在を延長し、二十五日の環境委員会を流会に至らしめました。これはまさに本院による渡航許可違反、かつ、委員長が自らの責任で招集した委員会を個人渡航の無許可延長によって流会に至らしめるという、憲政史上にも例のない事案であり、およそ委員長として不適格の誹りを免れないものであります。
あらためて申し上げるまでもなく、議運理事会は、国会開会中における常任委員長の海外渡航を、
・院からの海外派遣である場合、
・渡航期間が本会議・委員会審議のない週末や祝日の範囲内である場合、
・国際会議、冠婚葬祭などやむをえない理由として議運委員長が判断した場合であって、
・なおかつ当該委員会理事会の了承をとった場合以外は自粛すること
を申し合わせております。
川口委員長の今回の渡航は、院の公務や国際会議ではなく、議員個人の政治経済事情視察として認められたものであります。その際、特記すべきことは、自由民主党所属の岩城議運委員長が申合せの趣旨と常任委員長の職責の両立について熟慮された結果、所属会派の自民党自身が、当初三日間の希望が出されていたものを二日間に短縮して申請し、同理事会において認められたものであることであります。
にもかかわらず、川口議員は渡航目的にある中国要人との会談が本院から許可された期限内では行えないことが判明するや、帰国日に電話にて自民党国対に滞在期限の延長を口頭で要請され、岩城議運委員長から同日中の帰国を勧奨されたにもかかわらず、それを無視して、現地滞在を続けたものであり、このことは議運委員会を代表しての岩城委員長の調整努力を無にするばかりか、参議院規則第百八十七条の規定に照らしても凡そ看過できないものであります。
いま一つの大きな問題は、自ら招集した環境委員会の流会であります。ここで申し上げておきたいのは、環境委員会理事会メンバーも、現下の国際情勢に鑑み、渡航の趣旨を一定程度理解し、異例のことながら今回の川口委員長の渡航を容認していたことであります。
しかるに議運理事会での調整の結果、川口委員長の帰国が一日早まったことを理由に、是非翌二十五日木曜日には審議したいと提案したのは他ならぬ政府与党であります。その提案に野党も理解を示して、同日の委員会開会を合意したものであります。
この決定は言うまでもなく川口委員長の責任において行われたものであります。中国要人との面談がすべての免罪符になるが如き今回の一方的流会は、周辺の一定の理解に乗じた暴挙以外の何物でもありません。
さらに極めて遺憾なことは、川口委員長が、渡航先から与党理事も含めて環境委員会理事会メンバーの誰一人に対しても直接の事情説明もなされないまま、自民党国対委員長にのみ直接連絡を行い、自民党国対の了承をとったと称して、一方的な渡航延長に至ったことであります。
すべての常任委員長は、党派を超えて各会派の理解と協力を得つつ、不偏不党、中立公平な委員会運営につとめることは、議会運営の常識であり良識であります。岩城議運委員長の中立公正な対応に比して自民党国対の対応はあまりに良識を欠いており、その自民党国対に対応を委ねた川口委員長には遺憾ながらその資質と行動において、常任委員長たる環境委員長の職務に不適格と言わざるを得ません。
次に今回の不祥事の議員外交全体に関わる問題について申し上げます。
われわれが大型連休前の、常識的には常任委員長の不在など許されないこの時期に、あえて川口委員長の外遊に理解を示したのは、川口議員が、ご自身の弁明書の末尾に掲げておられるように、我が国の主権と領土を守る国益の追求のために尽力いただくことを期待してのことであります。
川口議員の今回の訪中の主要目的は、中国の王外交部長及び楊国務委員との面談でありました。ご自身も納得の上で、二日間の渡航計画を立て、帰国翌日には重要な委員会審議日程を自ら招集し、出発されました。しかるに現地において、残念ながら、王部長との面談は先方の都合でかなわず、二日間の日程内では楊国務委員とも面談が困難ということが明らかになりました。川口議員の弁明を信ずる限り、残念ながら先方は川口議員の渡航日程には配慮を行わなかったわけであります。要するに、今回の党機関紙論文ひとつをとっても生易しい交渉相手ではない中国側から当初から足許を見られていたのではないかとの指摘も存在します。
参議院の一員として、川口議員の今回の渡航が、国益追求の観点から大きな成果を挙げたことを願わずにはいられませんが、かかる状況下で川口委員長が環境委員会理事懇談会での発言のように、ご自身が中国の前外相である楊国務委員の「国務委員就任後会談できた最初の日本人」であることを強調されればされるほど、渡航許可条件に反し、自らの招集した委員会を流会にしてまで、先方の都合に合わせて、なんとしても楊国務委員との日本人初の面談を実現するのだという、よく言えば強い意欲、別の見方では功を焦るようなその執念に、逆に、日本国の国益追求の視点から一抹の懸念を禁じ得ないこともまた事実であります。
また、今回の不祥事は、川口委員長個人の問題にとどまらず、議員の外交努力全般、さらに言えば外交活動と議会活動の両立に向けての努力に冷水を浴びせかけるものでもあります。
内外に緊急課題が山積する中で、与野党・政府内外の国会議員が、国会日程と外交日程の両立を図るために並々ならぬ日程上の努力を行っていることは議員各位ご存じのとおりであります。
あと一日現地滞在を延ばすことで有益な会談ができるのに、もう一日早い日程で現地に入れればより国益にかなうセッションに参加できたのに、そんな思いを抱きながらも、国会との両立のため制約された日程をやりくりしながら、そして徐々に渡航ルールも見直しながら、相互の信頼関係を築き上げてきたのが先人の努力なのではありませんか。
常任委員長等の海外渡航申合せは、自由民主党の鈴木政二議運委員長時代に実質的に合意した申合せであり、この申合せは渡航自粛を規定しつつ、逆に言えば一定の要件を満たす限りにおいて議員外交活動を認めるという趣旨のものでもあります。このルールの更なる改善が必要であるにせよ、今回のように、関係者との調整の結果、ご本人も含めて納得された日程を、現地であと一日延長すれば要人とアポが取れるからと勝手に変更してしまえば、そもそも何のためのルールなのか、申合せの自己否定につながるものであります。
国会は、総理、閣僚をはじめとして政府に対して厳しい出張日程を求めながら、議員間ではお手盛りで、現地の日程調整次第で渡航許可日程の変更を許すというのでは、まさに国権の最高機関としてけじめがつかず、折角一定の条件の下で議員外交の可能性を開くルールを作り、改善したとしても、それを無にするものであります。
結びに、多少の私見を交えることをお許し願いたいと存じます。
川口委員長、あなたの優れた識見や誇り高い人格、そして合理的かつややドライな思考様式は、私が二十数年前にあなたを上司としていただいたときから、お世辞抜きに、個人的に尊敬し、また敬愛するところでありました。しかるに今回、決議案の提出と採決に至るまでの原因となった川口委員長の行動には、誠に遺憾の念を禁じえません。
あるいは、川口委員長には今回の事案が、議員の海外渡航に関する申合せの弾力化につながればという思いもおありだったのかもしれません。たった10分の委員会と中国の国務委員との会談とどちらが重要かという与党議員の発言も耳にしました。
10分の審議入り、10分の議了案件採決、たかが10分、されど10分、であります。議場の議員各位にはこの10分の重みと価値がおわりでない議員はいないと信じます。
川口委員長、ルール違反をもってルールの見直しを求めるという、傲慢な姿勢は、あなたのこれまでの生き様にも、良識の府である参議院にもふさわしいものとは到底思えません。
ルールは遵守する、しかるのちに、ルールの問題点は、きちんと党派を超えて議論をするというのが、本院に相応しい議論の流儀ではないでしょうか。
川口委員長、あなたと私は、ともにこの夏の任期満了をもって退任する議員であります。
「立つ鳥跡を濁さず」と申します。
破ったルールの始末はつけなければなりません。
本来は、本議決案の提出、採決の前に、委員長が自らの職を辞してけじめをおつけになるのが筋であったとは存じますが、今後の議員外交の在り方を再検討する意味でも、本決議案の可決という、院としての最大のけじめをつけるべきである、
そしてそのうえで、今後の院の在り方を議論すべきであることを申し上げて、
私の環境委員長川口順子君解任決議の提案理由説明といたします。
会派を超えて、良識ある議員各位のご賛同を心からお願い申し上げます。
2013年5月9日 |