河田英正の主張 |
2001/06/10 精神障害者の犯罪と刑法改正
池田市でおきた痛ましい児童刺殺事件を契機にして,首相自らが刑法改正の検討を口にするなど,再び保安処分導入への動きが浮上してきた。
昭和49年5月に法制審議会は精神障害者に対して保安処分新設を内容とする刑法改正草案を発表した。これに対しては精神医療の現場,刑法学会などの学者,日弁連などが反対の声をあげ,公開意見交換会が法務省主導でなされ,これが大きな国民世論を形成し,法務省も検討の結果保安処分の導入はすべきでないとして平成7年に憲法に違反していると考えられる条項の削除と文語体条文を読みやすい現代用語化に書き直す内容とする刑法改正を実現させて,長い論争に終止符を打った。
この審議の経過をもう一度冷静に検討してみる必要があるのではないか。私は,日弁連の刑法改正問題委員会の副委員長として数年間この問題に関わってきた。この論議のなかに問題点はだしつくされている。
保安処分導入が論議されていた際に,新宿バス放火殺人事件が発生し,今回と同じような反応があった。精神科医野田正彰氏が10数例の精神障害者の犯罪について調査分析を実施した。その結果は,いずれも精神障害の医療のすさんだ医療の現場を報告するものであった。世界各国の制度の研究も法務省,日弁連によってなされた。日本が検討していたような内容とする保安処分の導入の例は先進国といわれている国にはなかった。
今回の事案は,まだ刑事責任能力の有無については明確ではない。冷静に事実を見つめ,犯罪から社会を防衛するシステムをどう考えるかはじっくりと検討しなければならない。エキセントリックな議論は,盲目的な小泉人気のありようとともに危険を感じる。
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