河田英正の主張

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2002/01/20 負けた裁判費用は誰が支払うの?

弁護士に支払う費用は,現在の制度では勝訴しても敗訴しても依頼した当事者がそれぞれ支払います(英訳では「american rule」といわれています)。敗訴した人が,勝った人の弁護士費用まで支払うことは原則としてありません。不法行為を原因とする請求の場合や,住民訴訟などで住民が勝訴した場合などには敗訴した不法行為者,地方公共団体が一部支払うことはあります。

ところが,司法制度改革審議会の意見書は「勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に、弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである。」とし,「これを一律に導入することなく、このような敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方,敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等について検討すべきである。」と述べて敗訴者負担の導入を検討しています。、

一見,敗訴者負担の制度は,公平なように思えます。しかし,どんな事件も当初から絶対勝訴できると断言できる訴訟はありません。常に敗訴の危険をもっています。ハンセン国賠訴訟のように当初は負けることが強く予想されていても司法の判断を受け,そのことによって社会の制度自体の変更を求めようとする裁判もあります。このような訴訟は,敗訴した場合の莫大な費用を考えれば,もう起こすことができないことになるでしょう。公益目的でなされる行政裁判などは壊滅的です。

医療過誤訴訟などの同様に当初から原告側に大きな負担で訴訟が始められ,司法の場で事実関係の公正な解明が望まれる類型の訴訟にも重大な影響があります。常に,敗訴した場合の費用の負担を考え,訴訟費用を2重に負担できる経済的余裕がある人だけが裁判を利用できることになりかねません。司法へのアクセスを確保するといいながら,実は強者のための司法制度としようとしているのです。日本弁護士会はこのような考えから,原則的な敗訴者負担の導入には反対しています。

私も,敗訴者負担の導入には反対の立場であり,日弁連のプロジェクトチームの1員としてこの問題の検討に加わっています。


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