刑事裁判記録のインターネット公開
さきごろ、A新聞の三面トップにでかでかと、「脅迫事件の被告人が、自分の公判の証拠書類をインターネットで公開した」という記事がのっておりました。
報道によると、裁判所と検察庁はいたくご立腹(と書いてあるわけじゃありませんが、お役所語に通じた人間なら読みゃそれくらいわかります)、大阪弁護士会に正式に対策方を申し入れるとのこと。
刑事訴訟法の専門学者の方々のご意見も、「正当な行為だ」というのから、「法律を作って処罰できるようにしろ」というのまで、まことにバラエティに富んでいて、けっこう楽しめました。
ところで当の大阪弁護士会刑事弁護委員会は、「被告(正しくは「被告人」ですが、これはまあご愛嬌)に渡った記録の管理責任は弁護人にあるのか被告にあるのかは難しい問題だ。現在検討中で、早急に結論を出したい」と話している、そうです。
岡山弁護士会の会員室でも、この記事がひとしきり話題になりました。居あわせた数人の弁護士の意見は珍しくも…なにせ、3人いたら5つ学説が出ても変じゃない業界ですのでね…珍しくも、次の点で一致しました。
「これ全部、公判で証拠で出てるもんじゃないのか。そんなら、公開しちゃいかんなんて言えるわけないじゃないか。」
これはちょっと解説がいりますね。実は法律上、
- 刑事裁判は公開の法廷で行うことになっている。
- 公開の法廷は、誰が傍聴するのも自由、ということになっている。
- 裁判で提出される証拠は全部、法廷で朗読することになっている。(面倒なんで、双方承諾のうえで朗読を省略するのが普通だけど、とにかく原則はそうなっている。)
- つまり、理論としては、誰でもその刑事裁判の証拠を全部聞いても全然かまわんことになっている。
- 結論。それを被告人がインターネットで公開したからといって、誰が文句をつけられる筋合いのものでもないではないか。
というわけです。
いや実のところ、裁判所と検察庁がカッときてるのはわからんでもないけどね。ふだん「司法の権威」なんちゃって、お高くとまってるところへ持ってきて、いきなり向う脛を蹴飛ばされたようなもんですからね。法律の理論がどうのこうのという以前の、お役所としての体面上、当然の反応でしょう。
しかし、わからんのは大阪弁護士会のほうの反応ですね。なんか口の中でもごもご言ってるような感じで。「裁判の公開」てのは、弁護士としちゃ忘れたですむようなことじゃないんですけどね。
仮説1 |
そのことも言ったんだけど、記者が書かなかった。 |
仮説2 |
内部で結論が出てないもんだから、とりあえずもごもご言った。 |
仮説3 |
実は弁護士会も、裁判所・検察庁と同じく、「司法の権威」を重んじる団体になっちゃっている。 |
ああ、1だとまだいいんだけどなあ……2や3じゃホントに困るンだけどなあ……
(2001/11/13) |