2003/07/01 日誌に戻る

156 参院・法務委員会 会議録

平成十五年七月一日(火曜日)  午前十時開会

  本日の会議に付した案件
○法務及び司法行政等に関する調査
 (性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律案に関する件)
○裁判の迅速化に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○民事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○人事訴訟法案(内閣提出、衆議院送付)

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○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 昨六月三十日、青木幹雄君が委員を辞任され、その補欠として南野知惠子君が選任されました。
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○委員長(魚住裕一郎君) 法務及び司法行政等に関する調査のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律案に関する件を議題といたします。

 本件につきましては、南野知惠子君から委員長の手元に性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律案の草案が提出されております。内容はお手元に配付のとおりでございます。

 この際、まず提案者から草案の趣旨について説明を聴取いたします。南野知惠子君。

○南野知惠子君 ただいま議題となりました性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律案の草案につきまして、その趣旨及び主な内容を御説明申し上げます。

 性同一性障害は、生物学的な性と性の自己意識が一致しない疾患であり、性同一性障害を有する者は、諸外国の統計等から推測し、おおよそ男性三万人に一人、女性十万人に一人の割合で存在するとも言われております。

 性同一性障害につきましては、我が国では、日本精神神経学会がまとめましたガイドラインに基づき診断と治療が行われております。性別適合手術も医学的かつ法的に適正な治療として実施されるようになっているほか、性同一性障害を理由とする名の変更もその多くが家庭裁判所によって許可されているのに対して、戸籍の訂正手続による戸籍の続柄の記載の変更はほとんどが不許可となっております。そのようなことなどから、性同一性障害者は、社会生活上様々な問題を抱えている状況にあり、その治療の効果を高め、社会的な不利益を解消するためにも、立法による対応を求める議論が高まっているところでございます。

 本草案は、以上のような性同一性障害者が置かれている状況等にかんがみ、性同一性障害者について、法令上の性別の取扱いの特例を定めようとするものであります。

 次に、本草案の主な内容について御説明申し上げます。

 第一に、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的には他の性別であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについて必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の診断が一致しているものを性同一性障害者とし、そのうち、二十歳以上であること、現に婚姻をしていないこと、現に子がいないこと、生殖腺又はその機能がないこと等の要件を満たす者について、家庭裁判所は、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができることとしております。

 第二に、性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法その他の法令の規定の適用については、他の性別に変わったものとみなすとともに、その効果は審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすことはないものとしております。

 第三に、性別の取扱いの変更の審判を受けた者については、新戸籍を編製することを基本とし、その者の戸籍の続柄の記載の変更手続が行われることとしております。

 なお、この法律は、公布の日から起算して一年を経過した日から施行することとするとともに、性別の取扱いの変更の審判の請求をすることができる性同一性障害者の範囲等について法律の施行後三年を目途に検討等を行う旨の規定を設けております。

 以上がこの法律案の草案の趣旨及び主な内容であります。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
 以上でございます。

○委員長(魚住裕一郎君) 本草案に対し、質疑、御意見等がございましたら御発言願います。──別に御発言もないようですから、本草案を性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律案として本委員会から提出することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(魚住裕一郎君) 御異議ないと認めます。よって、さよう決定いたしました。
 なお、本会議における趣旨説明の内容につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(魚住裕一郎君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。

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○委員長(魚住裕一郎君) 裁判の迅速化に関する法律案、民事訴訟法等の一部を改正する法律案及び人事訴訟法案を一括して議題といたします。
 まず、三案について政府から趣旨説明を聴取いたします。森山法務大臣。

○国務大臣(森山眞弓君) まず、裁判の迅速化に関する法律案について、その趣旨を御説明いたします。

 我が国においては、司法を通じて権利利益が適切に実現されることその他の求められる役割を司法が十全に果たすために公正かつ適正な手続の下で裁判が迅速に行われることが不可欠であることに加え、内外の社会経済情勢等の変化に伴い、裁判がより迅速に行われることについての国民の要請にこたえることが緊要となっております。この法律案は、このような状況にかんがみ、裁判の迅速化に関し、その趣旨、国の責務その他の基本となる事項を定めることにより、裁判所における手続全体の一層の迅速化を図り、もって国民の期待にこたえる司法制度の実現に資することを目的とするものであります。

 以下、法律案の内容について、その概要を御説明申し上げます。

 第一に、裁判の迅速化は、第一審の訴訟手続を二年以内のできるだけ短い期間内に終局させること等を目標として、充実した手続を実施すること並びにこれを支える制度及び体制の整備を図ることにより行われるものとしております。そして、この制度及び体制の整備は、訴訟手続その他の裁判所における手続の整備、法曹人口の大幅な増加、裁判所及び検察庁の人的体制の充実、弁護士の体制の整備等により行われるものとするとともに、裁判の迅速化に当たっては、当事者の正当な権利利益が害されないよう、手続が公正かつ適正に実施されることが確保されなければならないものとしております。

 第二に、裁判の迅速化に関する国の責務について所要の規定を置くとともに、政府においても所要の措置を講じなければならないものとし、日本弁護士連合会の責務についても所要の規定を置いております。

 第三に、裁判所における手続を実施する者は、充実した手続を実施することにより、可能な限り裁判の迅速化に係る目標を実現するよう努めるものとし、当事者等は、可能な限り裁判の迅速化に係る目標が実現できるよう、手続上の権利は誠実にこれを行使しなければならないものとしております。

 第四に、最高裁判所は、裁判の迅速化を推進するため必要な事項を明らかにするため、裁判の迅速化に係る総合的かつ多角的な検証を行い、その結果を二年ごとに国民に明らかにするため公表するものとするとともに、検証の結果については、国の施策の策定及び実施に当たって適切な活用が図られなければならないものとしております。

 以上がこの法律案の趣旨であります。

 次に、民事訴訟法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 現行の民事訴訟法は、民事訴訟を国民に利用しやすく、分かりやすいものとする等のために平成八年に制定されたものでありますが、近年の社会経済情勢の変化等に伴う民事紛争の複雑・多様化を踏まえ、民事裁判の一層の充実及び迅速化が求められております。例えば、争点が多数であるような複雑な事件や、その解決のために専門的な知見を要する事件が増加しており、これらの事件への対応を強化する必要があるとの指摘がされております。

 そこで、この法律案は、民事裁判を国民がより利用しやすいものとする等の観点から、司法制度改革の一環として、民事裁判の充実及び迅速化を図るため、民事訴訟手続を改善しようとするものであります。

 この法律案の要点を申し上げますと、第一は、計画審理の推進を図ることであります。具体的には、裁判所及び当事者には訴訟手続の計画的な進行を図る責務があることを明らかにするとともに、裁判所は、複雑な事件等について、当事者双方との協議の結果を踏まえて、審理の計画を定めなければならないこととしております。

 第二は、訴えの提起前における証拠収集手続を拡充することであります。当事者が訴えの提起前に必要な証拠や情報を入手することができるようにするため、訴えの提起前においても、相手方に対して照会をすることができる手続及び文書の所持者に対して文書の送付を嘱託することができる手続を設けるなど、訴えの提起前における証拠収集手続を拡充しております。

 第三は、専門委員制度を設けることであります。医事関係事件や建築関係事件等の審理において医療、建築等についての専門的な知見が問題となる場合において、専門家に専門委員として訴訟手続への関与を求め、必要な説明を聴くことができることとしております。

 第四は、特許権及び実用新案権等に関する訴えについて、その管轄を専門的な処理体制が整備されている裁判所に専属化することであります。これらの訴えについて、第一審の管轄を東京地方裁判所又は大阪地方裁判所に、控訴審の管轄を東京高等裁判所に専属化することなどにより、裁判所の専門的処理体制の一層の強化を図ることとしております。

 第五は、少額訴訟に関する特則を適用することができる事件の範囲を拡大することであります。少額訴訟に関する特則を適用することができる事件の範囲を定める訴額の上限額を三十万円から六十万円に引き上げることとしております。

 なお、この法律の制定に伴い、最高裁判所規則の改正等所要の手続が必要となりますので、その期間を考慮いたしまして、この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしております。
 以上がこの法律案の趣旨であります。

 最後に、人事訴訟法案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 複雑・多様化する我が国の社会において、司法機能の充実の重要性はますます高まっており、民事裁判の一層の充実及び迅速化が求められております。民事訴訟の一類型である人事訴訟については、現在、家庭裁判所で調停が行われ、これが不成立となると地方裁判所に訴えを提起することとされており、手続を国民が利用しにくいと指摘されております。また、人事訴訟の手続についても、明治三十一年に制定された現行の人事訴訟手続法の規律を改めて、より適正かつ迅速な審理を可能にする必要があると指摘されております。

 そこで、この法律案は、民事裁判を国民がより利用しやすいものとする等の観点から、司法制度改革の一環として、家庭裁判所の機能の拡充による人事訴訟の充実及び迅速化を図るため、人事訴訟に関する手続について、現行の人事訴訟手続法を廃止して、新たな法律を制定しようとするものであります。

 この法律案の要点を申し上げますと、第一は、人事訴訟の家庭裁判所への移管を行うことであります。具体的には、離婚、認知等の人事訴訟の第一審の管轄を地方裁判所から家庭裁判所に移管するとともに、これと密接に関連する損害賠償訴訟を家庭裁判所で併せて審理することができるようにすることとしております。

 第二は、家庭裁判所調査官制度の拡充であります。離婚訴訟における親権者の指定や養育費、財産分与等の申立てについて、家庭裁判所調査官の調査を活用することができることとしております。

 第三は、参与員制度の拡充であります。人事訴訟の審理及び裁判に国民の良識を反映させるため、国民の中から選任された参与員の関与を求め、その意見を聴くことができるようにすることとしております。

 第四は、人事訴訟手続の見直しであります。具体的には、当事者尋問等について、憲法が定める範囲内において公開停止の要件及び手続を明確に規定することや、裁判上の和解により離婚又は離縁をすることができるようにすることなど、人事訴訟手続を全面的に見直すこととしております。

 なお、この法律の制定に伴い、最高裁判所規則の改正等所要の手続が必要となりますので、その期間を考慮いたしまして、この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしております。
 以上がこの法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに可決くださいますようお願いいたします。
 ありがとうございました。

○委員長(魚住裕一郎君) 次に、裁判の迅速化に関する法律案の衆議院における修正部分について、修正案提出者衆議院議員山花郁夫君から説明を聴取いたします。衆議院議員山花郁夫君。

○衆議院議員(山花郁夫君) ただいま議題となりました法律案に対する衆議院における修正部分について、提出者を代表して、その趣旨及び概要を御説明いたします。

 第一は、裁判の審理の充実は裁判の迅速化の前提であるということを明確にするため、第一条の「目的」について、「公正かつ適正な手続」の表記を「公正かつ適正で充実した手続」の表記に改めようとするものであります。

 第二は、裁判の迅速化の実現により、当事者の正当な権利義務が害されることのないようにするため、第七条の「当事者等の責務」について、「当事者等の正当な権利の行使を妨げるものと解してはならない。」との規定を付け加えようとするものであります。

 第三は、最高裁判所による検証は外部の有識者による客観的な判断が不可欠であることを明確にするため、第八条の「最高裁判所による検証」について、「総合的かつ多角的な検証」の表記を「総合的、客観的かつ多角的な検証」の表記に改めようとするものであります。

 以上が本法律案に対する衆議院における修正部分の趣旨及び概要であります。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願いいたします。

○委員長(魚住裕一郎君) 以上で趣旨説明及び衆議院における修正部分の説明の聴取は終わりました。
 三案に対する質疑は後日に譲ることとし、本日はこれにて散会いたします。

   午前十時十九分散会


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