2001年5月31日 |
介護保険導入から1年「見直しへの10の提言」 |
民主党「介護保険をより良くするワーキングチーム」 座 長 山井和則 事務局長 中村哲治 →10の提言解説編へ しかし一方では、サービス量の絶対的な不足、利用のための情報不足、施設と在宅の自己負担の不均衡、低所得者層における過重な負担、事務の煩雑さなど、各種の問題点も明らかになってきている。 その問題点の一部は、早急に解決に着手すべきであるし、適切な施策により解消が可能な問題もある。また、ハード面の整備でも、国民の生活や意識の変化に対応して、将来を見越したものにしてゆく必要がある。しかし、2001年になってから、全くと言ってよいほど国会では介護保険については議論されていない。 厚生労働省も、「おおむね順調、見直しは2003年度」という態度で、介護保険の改善のために、十分な取り組みをしているとは言い難い現状である。 介護保険の導入を最も推進した民主党としては、介護保険の更なる改善に取り組むことは当然の責務である。民主党では、昨年の総選挙後7月18日に、「介護保険をより良くするプロジェクトチーム」(座長:石毛^子衆議院議員、衆参87名参加)を立ち上げ、厚生省や各種団体からヒアリングを進める一方、大津市、仙台市において、現地調査と現場の意見を聞く公聴会を実施し、介護保険スタートから半年経った昨年9月26日に「7つの提言」を発表した。 9月の提言発表後もヒアリングや議論を重ね、今年に入り、山井和則座長、中村哲治事務局長に交代して、引き続きワーキングチームとして、介護保険見直しの議論を続けてきた中で、制度開始時の混乱が治まっても、広範な課題が見えてきた。 提言としてまとめた事項以外にも多くの改善すべき点があることは、ワーキングチームの活動などを通しても承知しているが、 今回、介護保険導入後1年の状況から課題を整理し、次の3点をベースに、新たな提言をまとめた。
<介護保険導入後1年で改善した点>
<介護保険導入後1年の主な課題>
<10の提言>
<提 言>
社会で支えあうという理念からすれば、基本的には保険料も利用料もその所得等に応じたものとすることが妥当だが、所得や資産が把握できない現状では、困難である。 保険料徴収の基準で市町村民税が世帯非課税である第二段階や、第一段階で生活保護を受けていない層などでは、保険料が過重な負担となって生活を圧迫している。このため、10月の保険料全額徴収前に早急に適切な対応を取る必要がある。又、利用料等の負担の重さから、必要なサービスを受けない人も多い。 根本的には、年金など高齢者の所得保障などとの関わりで総合的に対処すべき部分ではあるが、これには時間がかかり、現に困っている高齢者はその議論を待てない。当面、申請に基づく個別の減免など、次のような対策を、制度見直しの2005年までの時限措置として行うべきである。その際、財政的な裏づけは、その趣旨から、生活保護などの施策に準じて国の責任で行う。 1)保険料の減免 収入が無くても資産がある高齢者や、介護保険料の減免では対応できない保険外負担を考慮し、介護保険料、利用料の自己負担分等を低利又は無利子で貸し付け、本人の死亡時に相続人が返済する制度を創設する。 資産がある人にとってはリバースモゲージに近い効果が期待できる。 (2)生計困難な人に対する利用者負担の減免(事業者による減免) 現在の制度では、社会福祉法人である事業者にしか認められておらず、手続きが複雑なこともあってあまり利用されていない。この制度を、NPOや民間事業者でもできるようにし、合わせて手続きも簡素化して使いやすいものにする。 グループホーム、ユニット型の「個室」特別養護老人ホーム、ケアが受けられる高齢者住宅等、国民のニーズに合った施設は、まだまだ需要に足りない。そのため、利用者が施設を選ぶのではなく、施設が処遇のしやすい利用者を選ぶ「逆選択」という介護保険の理念と本末転倒した事態さえ起きている。これを解消するために、今まで以上に基盤整備を強力に進める。その際、今までの「質より量」という考え方を転換し、良質なものを大量にというように「質も量も」両方を重視する。 1)質の高い痴呆性高齢者向けグループホームの大幅増設 住宅としての位置付けに伴い、いわゆるホテルコスト(家賃、光熱水費等)の自己負担が必要となるが、ホテルコストの自己負担については、貧富にかかわらず個室が当然であるから、低所得者への利用制限にならないような対応策と併せてこれを検討する。 4)ショートステイの個室化 グループホーム、家事援助、ケアマネージャーの介護サービス計画作成に対する介護報酬は低すぎる。ケアマネージャーの受け持ち利用者数の適正化やグループホームでの夜勤態勢の確保など、適正な事業執行を行うためにも、また介護関係職の労働環境を適正化するためにも、2年後の見直しを待たずに早急に介護報酬を見直すことが必要である。 「介護保険の要(かなめ)」と言われるケアマネージャーだが、「ケアマネージャー殺人事件」も発生し、その信頼が低下している。能力のばらつきも大きく、また業務が集中して多忙なことなどから、現状では期待された役割を十分に果たせていない。施設入所の希望が多くなっている理由の一つとして、ケアマネージャーがきちんと機能していないことがあげられている。 介護報酬の引き上げなどによりケアマネージャーの業務量の適正化、事業所からの業務の独立化を図るとともに、現職のケアマネージャーへの研修教育制度を確立し、また、ケアマネージャーや介護スタッフの研修受講を積極的に支援する制度を設け、人材養成と全体のレベルの底上げを早急に図る。 ケアマネージャーがきちんとモニタリングや相談などの業務を行うことにより、介護不安や在宅での介護プランの不備からくる施設志向を抑えることができる。 当初よりは改善されてきたと思われるが、依然訪問調査を行う人の痴呆に対する理解によって、要介護判定の結果が異なることがある。全国3ヵ所の高齢者痴呆介護研究・研修センターも動き始めているが、痴呆介護についての研究と、医師も含めた各職種における痴呆介護への正しい理解と対処ができる人材の養成を、より一層進めるべきである。また、グループホームを運営するための痴呆に関する専門的知識を要する職員の不足や、介護保険の要となるべきケアマネージャーの痴呆に対する理解のばらつきが問題である。 併せて、痴呆予防や痴呆の進行を遅らせる取り組みを強化する。 身体拘束ゼロ作戦も、身体拘束をなくすための素晴らしいマニュアル(冊子)が作成され、全国の介護保険施設に配布されている。施策の進捗状況と効果を検証するためにも、早急に精神病院や障害者施設なども含めて、実態調査を行うべきである。さらに、「身体拘束ゼロ3ヵ年戦略」を策定し、3年間という達成年次を決めて身体拘束ゼロの徹底をはかるべきである。また、介護保険施設のみならず、精神病院や障害者の施設にも拡大して、「身体拘束ゼロ作戦」を断行すべきである。 また、現場や家族の意識改革が不可欠である。そのため、すべての介護保険施設に、「身体拘束ゼロ作戦」の啓蒙のポスターを掲示し、家族や現場の意識改革を行う必要がある 入居施設やグループホームでは、それが密室化することなどにより、不正や人権侵害が行われやすい環境になることもある。それを未然に防ぐために、第三者評価を含めた各事業者における情報公開の徹底と、監督官庁による抜き打ち監査を含めた適切な監査とその結果の積極的な公開が求められる。 また、家庭でも、介護者による虐待や、特に一人暮らしの場合など、ケアマネージャーやホームヘルパーによる犯罪も発生している。研修での倫理面の教育と併せて、担当の高齢者に複数の人間が関わり牽制するなど、犯罪を発生させにくいシステムについて検討し、普及させる必要がある。 介護職は、訪問介護の家事援助も含めて、本来個々の利用者の状態に合わせた、精神的なケアも含めた高度なサービスを提供するものだが、医療職に比べてその専門性が軽視されてきた面がある。職員の定着率があまり良くなく、現場の職員にヒアリングをしても、その悪い労働条件から、そのまま勤め続ける自信が持てないという人も多い。 職員が定着しないのでは、いくら研修を充実しても費用対効果が悪くなり、結局国としても損失となる。現場の実態を調査し、職員の専門性確保のための施策の推進と、労働条件の改善を図る。 2年後の介護報酬見直しと4年後の制度見直しに向けて、審議会などが設置される予定になっている。その委員として現場(ケアマネージャー、ホームヘルパー、施設職員等)と利用者(65歳以上の利用者と65歳未満の特定疾病の利用者の両方)・介護家族の代表を加える。 介護サービスの提供者として、NPO法人の普及を促すために、介護サービス事業を非課税とし、社会福祉法人と同等の扱いとする。 |
2001年5月31日 |