2003/05/08

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民主党・基本法案及び事態法修正案に関する与党からの意見に対する考え方


基本法案に関する問題点について

1 人権規定
憲法で保障された国民の権利と自由を法律で更に制度化することは、かえって憲法上の権限等をせまく解することにならないか。(第2条〜第6条)

→ 憲法で保障する基本的人権のうち、緊急事態において、ともすれば侵されるおそれの強いものにつき、入念的にその保障を謳うとともに、権利の救済について重要な事項を明記することが必要と考え、本法案で敢えて明記したものである。

法制化が憲法上の権限等を狭く解釈することになるとの懸念は当たらない。

2 緊急事態の概念
緊急事態の概念に自然災害をも取り入れることは、現在の災害対策基本法や原子力災害対策特別措置法との上下関係に連なり、現在機能している諸法との整合性や無用の混乱を招くことになり、十分な検討が必要と思われる。

→ この基本法案は、緊急事態における国民の保護その他の緊急事態への対処及び緊急事態の未然の防止に関し基本となる事項を定めるものであり、各種の緊急事態に関する個別の法制度のあり方を示す役割を有するものである。

本法案の成立後に、その趣旨に基づき個別の政策判断を加え、各種の緊急事態に関する既存の法制度について適宜見直していくべきものであり、混乱が生じるようなものではない。

3 事後的検証
緊急事態に限らず行政各部が実施した措置については、国会は絶えず当該措置の相当性に係る事後的検証は、法律がなくても行われるべきものである。(第9条)

→ 緊急事態に対処するための措置は、その性質上、国民の権利・義務に対して公権力の行使にわたることが想定されるものである。

「法律がなくても事後的検証は行われるべき」とあるが、公権力の行使に当たって、時の政府による濫用の可能性が排除できない中、法律のないままこれを放置することは、国会による民主的統制を危殆に頻しめるおそれもあり、適切ではない。

4 危機管理庁
 危機管理庁を常設機関として設置すると現在の警察、消防、原子力委員会、自衛隊、災害における地方自治体の諸活動との合理的な区分けが必要になり特に各地方支分部局まで置くことにすると、行政改革、地方分権の流れに逆行することになるおそれがあり、慎重に検討する必要がある。(第2条)

→ 大規模自然災害等の緊急事態が発生した場合、その都度、内閣に対策本部が設置されてきたが、各省庁から派遣された人員が中心になるなど機動性に欠ける面があり、初動対応の遅れが懸念されてきた。さらに実際の対処措置の実施については各省庁が行うことから、相互連絡の不都合や機能の重複など、縦割り体制の弊害が指摘されてきたところである。よって内閣に常設の危機管理庁を設け、十分な人員と予算を確保するとともに、権限を集中させることによって、情報の集約、関係省庁との連絡調整、救援活動実施等を円滑に行わせることとしたものである。

地方分権についての懸念に対しては、緊急事態に際して危機管理庁が必要な支援を決定するための情報(被災の状況等)を収集し、又は初動的な救援措置を実施するためには、地方事務所を設け、速やかに被災現地に到着できるようにする必要があると判断したものであり、地方を側面的に支援することを目的としており、地方分権の趣旨に反するものではない。

行革の観点からは、危機管理庁の設置により、行政の無駄や重複を防ぐことが期待でき、迅速かつ効率的な運用が可能となり、行政改革の先駆けとなるものと期待できるものである。

5 政府開発援助
政府開発援助は、我が国の存立の為の施策の一部とは云え緊急事態法の一環になるかどうか議論を要すると思われる。

→ 政府案が武力攻撃事態に限定した内容になっているのに対し、民主案においては、政府開発援助を適切に推進していくことが、予防外交の観点から、良好な外交関係の維持につながり、本法の目的である「我が国の平和及び安全の確保並びに国民の生命、身体及び財産の保護」に資すると判断したものである。


「武力攻撃事態対処法修正案」にかかる問題点について

1.武力攻撃事態の定義及び認定について
「判断の根拠」まで示すこととすると、主観的な要素が強く、機微にわたる点まで示すことにもなりかねない。
したがって、判断の前提となった事実だけを示すことで十分ではないか。

→ 政府は、どのような事態が認定されるかは、個別具体的に「客観的に判断される」「客観的に認められる」場合としており、その判断基準は必ずしも明確でない。恣意的な認定を避けるためにも、なぜそのような判断に至ったのかを担保する必要がある。仮に「判断の前提となった事実を示す」のみであれば、それが恣意的な認定を避け得るほど具体的なものであることが必要である。

2.基本的人権の保障
すでに、憲法の保障する国民の自由と権利の尊重について規定しており、重ねて規定する必要性に乏しい。民主党案では、表現の仕方にも問題があり。

→ 緊急事態においては、より迅速かつ強力な対処措置が必要となることから、考慮すべき「公共の福祉」についても、平常時と比較して異なる様相が想定されることにより、人権侵害の危険性が生じやすい状況が予測される。よって憲法で規定されている基本的人権のうち、より人権侵害の可能性の強いものについて、本法にて入念的に規定したものである。なお表現の仕方については、上記の理由から、より具体的・強調的なものとなったものであり、ご指摘の批判には当たらないと考える。

3.指定公共機関の定義について(民間放送事業者の除外)
NHKが放送できなくなった時などを考えると、民法を指定公共機関に指定できる仕組みは必要。なお、報道の自由を制限することは全く考えていない。

→ 「報道の自由を制限することは全く考えていない」とする趣旨は当然であり、どのような政権であれこの趣旨が徹底するように、法的な歯止めが必要である。NHKが放送できなくなったというような極端な場合を想定して、「報道の自由」をおびやかす余地を残すのは妥当ではない。

4.国際法及び国際慣例の遵守
自衛隊法第88条と全く同じ規定ぶりであり、重ねて規定する必要性に乏しい。

→ 本規定は、我が国の自衛権に基づく武力の行使が、関連する国際の法規及び慣例の遵守の下、我が国を防衛するために必要最小限度の範囲内にとどまるべきことを規定したものであり、自衛隊法第88条にて規定したものを、重ねて入念的に規定したものである。重ねて規定する必要性に乏しいとの批判には当たらない。

5.施行期日について
国民保護法制と密接な関係を有する条項について、国民保護法制の整備をまって施行することについては、検討の余地があると考えるが、理念や基本的手続などその他の条項については、一日も早い成立、施行を図ることが国民の期待に応えることとなる。

→ 「国民保護法制と密接な関係を有する条項」が何処を意味するのかが必ずしも明らかではないが、本来、国民保護法制とは、警報の発令や避難の指示、保健衛生や国民生活安定に係る措置など、国民の生命・身体・財産を保護するための措置であり、武力攻撃事態への対処すべてに係る事項である。よって何処の条項に関係するなどの性格のものではなく、いわば武力攻撃事態法全体に関係するものであるから、指摘の批判は当たらないと考える。


2003/05/08

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