2003年6月11日

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民主党イラク調査団報告書


T 調査団メンバー及び日程表

(1)団長:


随行:
末松義規(衆)
首藤信彦(衆)
若林秀樹(参)
内田優香
 「次の内閣」イラク問題等PT事務局長
 「次の内閣」外務副大臣、外務委員会理事(先遣)
 国際局副局長
 政策調査会事務局
(2)日程: 6月2日〜8日  ヨルダン(ヨルダン政府高官との会談)及び
 イラク(各方面の関係者との会談、視察)
※ 会談・視察先詳細別添参照


U 報告ポイント

● 戦争被害と支援ニーズ

○米軍攻撃(バグダット)は、かなり正確なミサイル・ピンポイント攻撃であり、地上戦の痕跡はあまり見られないことから、限定された軍事目標のみ被害をもたらした程度。

○むしろ、主要な被害は、戦争時の広範な強盗・略奪・放火によって生じたもの。さらに、とくに、長年の軍事優先の政策がもたらす社会の疲弊に加え、13年間に及ぶ国連経済制裁による経済的ダメージが大きい。

○従って、どのレベルまでの回復・復興が必要かという判断の下、短期・中期に支援ニーズを分けて詳細に検討していく必要がある。特に、前政権崩壊から暫定政権樹立までの混乱を最小化するための支援が必要。

● イラクの治安・統治問題

○復興における最大の問題は、フセイン・バース党政権追放による統治再編の大混乱を米国とイラク側諸勢力との話し合いの中でいかに収拾・安定化させていけるか否かに尽きる。その意味で、米国主導したのOCPA(または、CPA。連合国暫定当局)の統治再編過程と、国連主導の国際的な経済復興努力は、車の両輪となるものであり、双方で適切な協力を行っていくことが重要。 米国等の占領は、長期化となる見込み。

○治安維持の要は米英軍が担っており、治安状況はかなり改善されているものの、米軍に対する小規模な反乱はイラク中西部を中心に継続的に生じている。

● 自衛隊派遣問題

○多国籍軍のメンバーとなり得ない自衛隊の派遣については、治安維持などへの支援ニーズは否定し得ないものの、イラク国民に直接見え、手放しに歓迎されるような復興支援ニーズを特定することは困難。

○現時点での治安状況では、戦闘区域と非戦闘区域を区別することは困難であり、最近の武装反乱活動などを考えると、現在の防護武器や、武器使用基準では不十分と言わざるを得ない。

○純粋な支援マターと捉えるよりも、日米関係に焦点を当てた優れて政治的な問題とし認識すべきとの指摘あり。因みに、イラク戦争に反対してきた仏、独、加、露、中国は、軍隊派遣やOCPAへの要員派遣を行っていない。


V 報告概要

1.イラクの現状

(1)戦争被害

○バグダッドを現地視察してみると、米軍のミサイル攻撃は、かなり正確なピンポイント攻撃であったことが分かった。また、地上戦の痕跡もほとんど見られない。情報・通信施設やイラク指導部などの軍事戦略目標の破壊以外は、ほとんど直接の被害は出ていない。

○むしろ、主な被害は、戦争のドサクサに紛れた広範な略奪・強盗・放火によって生じている。また、長年の軍事優先の政策がもたらす社会の疲弊に加え、13年間にあたる国連経済制裁による影響も大きい。とくに、略奪は、UNDPやFAOなどの国連機関、電力施設・病院・学校などの主要インフラ、各省庁などの公共施設等、極めて広範囲に及んでいる。

(2)米軍などの占領・統治

○是非はともかくとして、占領軍たる米軍の存在は、治安維持の要となっている。(要所に戦車等配備)

○このように、米軍の主要任務は、警察・治安維持となっているが、イラク中部を中心として散発的・継続的に起こっている小規模な反乱(対戦車ミサイル攻撃、手榴弾攻撃、銃撃戦等)鎮圧にも対応が必要となっている。

○ブレマー文民行政官主導下のOCPA(連合国暫定当局、旧ORHAの改組)を中心に、イラク暫定政府立ち上げに向けた活動が活発化。米国等の占領は、長期化となる見込み。

(3)米軍などに対するイラク人の見方

○バース党時代の受益者や戦闘被災者を除けば、概ね、圧制者だったサダム・フセイン追放を歓迎。

○ただし、米軍に心を許しているわけではなく、治安と毎日の生活保障を米軍に期待している模様。従って、生活不安・不満が高まってくれば、米軍に対する憎悪が高まっていくとの見方が強い。

(4)治安

○クルド地域(キルクークやトルクメン居住地域は除く)の北部・シーア派地域の南部、ヨルダン国境地帯の西部の治安は、かなり改善しているが、スンニー派でバース党支持の強かった中部からシリア国境に至る西部は未だ不穏な動きが見られ、治安はかなり不安定。米軍によれば、イラク全土で、1日平均5〜10件の対米軍攻撃がある由。

○なお、旧フセイン支持派は、約2週間前アウダ党(「帰還」という意味)を結成して、徹底交戦を呼びかけた模様。また、新しい武装組織をつくり始めている由。

○バグダットでは、ここ数週間でかなり治安が改善されたが、夜は未だ外出禁止状態。(調査団が昼間、市内の総合小児病院視察中に、すぐそばで強盗団による殺人事件が発生し、女性を含む数名が死亡、視察中の小児病院に担ぎ込まれてきた。)

○市民の間に未だ大量の武器が保有されていることが主要な不安定要因であることから、OCPAが6月1日〜14日の間に刀狩(武器回収)を実施中。同時に、米軍は、学校・病院など、武器・弾薬を回収中。

○現在のところ、国内分裂のような状況は呈していないが、米国主導による統治機構再編がうまくいかない場合には、自治を拡大した連邦制を求めるクルドやシーア派地域で分裂の動きが高まると見る向きが強い。(シーア派イラク・イスラム最高評議会(SCIRI)のハキーム師、クルド民主党(KDP)のバルザーニ党首)

2.OCPA(連合暫定当局、旧ORHA)の活動

(1)治安維持

○市内要所に米軍を配備するとともに、武器回収政策等を実施中。また、イラク警察官の復職や育成を強化すると同時に、裁判手続きや監獄整備に努めている。

(2)統治機構作り

○ブレマー文民行政官は、国内基盤の薄い反フセイン派組織だけでなく、知識層や部族長をも含めた「政治評議会」(OCPA諮問機関)を7月中旬までに立ち上げるとともに、各省担当顧問を任命することや、憲法を起草する「憲法評議会」を設置する旨を表明。9月をメドに、これらの暫定行政機構を実質的に機能させたい考え。

○しかし、バース党色一掃を図る中、諸部族や宗教各派のとりまとめに相当の困難も予想される。各部族・各宗教勢力による棲み分けを考慮した形での統治機構が必要との指摘あり。

○イラク復興の鍵を握る最重要の課題であるため、我が国としても必要とされる協力があれば積極的に協力すべきである。

(3) 人道、復興援助

○国連などと協調しながら実施。

3.国際社会の対応

(1)国連

○デ・メロ国連事務総長代表より、米国を中心としたOCPAの治安維持機能と統治機構作りへの期待表明がなされるとともに、国連としては、イラク復興援助のために、ドナー国会合(6月末にNYで準備会合、9月に本会合)開催に尽力するとの発言あり。また、安保理決議1483号において示された国連の限定的な役割(米軍との役割分担)を再確認した。

○略奪などの被害を受けたUNDPや、UNICEFを訪問。日本の協力への謝意・期待表明がなされた。とくに、UNICEF側より、米国主導で学校の教科書を全面改訂する動きがあることに懸念が表明された。

(2)各国の対応

○仏臨時代理大使より、仏・独は、OCPAには要員を送らない、軍隊も派遣しない旨の説明あり。ポーランド大使館臨時代理大使より、ポーランドは、米側要請を受けて、バグダットより以南の中部地域で多国籍軍を指揮する準備に入っている旨の説明あり。

4.支援ニーズ

(1) 短期

○わが国としては、既に、政府関係者やJICA総裁などが訪問し、わが国の支援プログラムが動きはじめている。イラク国民のために、我が国としてふさわしい支援を積極的に行っていくべきである。

○食料や医療などの緊急人道援助は、WFPなどの配給や、国際社会からの医療支援などで不十分ながらもとりあえずは手当てされている。また、電力施設についても、わが国などの援助プログラムが始動している。

○緊急度が高いのは、失業対策(UNDPによれば、国民の60%が失業状態)。旧公務員や軍人などの生活不安は治安問題とも結びつく危険性あり。職業訓練を充実される必要性は大きい。

○略奪にあった学校・医療施設や上下水道などの復旧には、速やかな支援が必要。さらに、米軍の攻撃を受けた放送・通信施設等の回復・整備は重要。

○わが国として、治安維持協力の観点から、交番システムなどの警察機能協力や、未機能の交通浸透の回復などへの協力、さらには、行政機構整備のための指導・協力なども、適切有効な協力と思われる。

○国連特別代表室に、日本人のリエゾン・オフィサーを置くことも一考に値する。また、現地国連機関(UNDP、UNICEF、FAOなど)の日本人スタッフの増員を進めるべきである。

○ジャパン・プラットフォームや、ピース・ウィンズなどは、戦争前或いは直後から現地のニーズにそくし、現地の人々の目線に立った支援活動を行っており、これらのNGOがより広範に活動できるよう後押しすべきである。

(2) 中期

○日本の企業等が、過去に手がけたり、建設したものを中心に、援助や復興を行っていくことが適切と思われる。

○教育面における支援

○民主化の支援等


【ニーズがあると思われる支援項目】

短期  * 失業対策(職業訓練など)※学校・医療施設、上下水道、発電所・配電所や放送・通信施設等の復旧
 * 化学・生物兵器、劣化ウラン弾による被害者の調査及び治療
 * 警察機能の整備のための協力(「交番システム」の紹介など)
 * 国連機関との連携強化(国連特別代表室へのリエゾン・オフィサーの派遣や、現地国連機関の日本人スタッフの増強など)
 * NGOの活動の後押し(資金面、現地大使館を通じた情報提供の強化など)

中期

 *

インフラ整備など(橋、病院等、日本が過去に手がけたものを重点的に行う)
 * 女性のエンパワーメント
 ・ 寡婦への雇用支援(マイクロ・クレディットなど)
 ・ 母子保健(リプロダクティブ・ヘルス)への支援等
 * 孤児対策
 * ハンディキャップ対策
 * コンピューター・リタラシーの向上


5.自衛隊派遣問題

(1) 問題意識

調査団として、(1)自衛隊派遣の具体的なイラク復興ニーズ、(2)憲法の制約から、多国籍軍とは一線を画すべき位置づけをもった自衛隊員の安全性、(3)イラク戦争に従来反対してきた民主党の立場を踏まえて調査を行った。

(2)支援ニーズ

○自衛隊という軍事組織でなければ果たせないイラク復興支援のニーズについては、自衛隊による(反乱等への)直接の武力行使が不可能である以上、イラク国民の眼に見えるような復興援助を特定するのは困難であった。

○また、イラクの正統政府が存在しない現時点では、PKO派遣の類似性や援助実施手続きに照らしてみても、支援ニーズの確定は難しいのではないかとの意見があった。(なお、現地の米軍によれば、現時点で、65カ国が多国籍軍に参加表明をしており、そのうち、大隊規模で参加する国は20カ国にのぼる由。これら多国籍軍の役割は、治安維持、反乱鎮圧、地域統治機構整備などが主なもの。また、参考情報ながら、米軍補給活動の半分は、酷暑用の水補給である由。)

(3)自衛隊員の安全性

○隊員の安全性については、占領軍の治安維持・統治機構づくり次第との見方が多い中、米軍指揮下での活動は反対勢力から攻撃の標的にされやすいので、危険であるとの指摘が多かった。

○一方、国連の旗での活動は、より安全であるとの発言が多かったが、その可能性は、米側の立場を踏まえれば、極めて低いと言わざるを得ない。

○また、現時点では、戦闘区域と非戦闘区域を区別することは困難であり、また戦闘員と非戦闘員を区別することも困難である。さらに、最近の反乱活動が対戦車ミサイル、手榴弾、マシンガン等の使用であることを考えれば、隊員自身の安全を守るためには、現在の防護武器や、武器使用基準では不十分との見解が多かった。

(4)政治性

○国連事務総長特別代表や、OCPA駐在の高官は、自衛隊派遣に関するわが国の特殊事情や機微を十分理解している旨の発言がなされた。いずれにせよ、自衛隊派遣問題は、イラク国民に直接見えるような復興援助としては捉えられず、米国との関係に焦点を当てた優れて政治的な問題であるとの指摘が多かった。因みに、前述のように、民主党と同じく、イラク戦争に反対を唱えてきた仏・独・加・中・露などは、軍隊派遣やOCPAへの要員派遣は行わない由。

   以上


【参考資料】イラクでの面会先・視察先
(6/2-8) ※順不同

(ヨルダン)
○アブダッラー・ヨルダン計画大臣
○バック・ヨルダン外務担当国務大臣
○アイマン中佐(Crisis Management Center)
○ソブヒ・ハッダート・BBCイラク特派員(イラク人ジャーナリスト。ロイター、朝日新聞などとの特派員歴も持つ事情通)

(イラク)
○クワイシー教授(スンニ派オピニオン・リーダー)
○アヤトラ・ムハンマド・バーキル・アル・ハキーム師
○ムハンマド・トフィーク・クルド愛国同盟(PUK)政治局メンバー
○元バース党地域支部長
○アン・クロイド英労働党議員(ブレア首相特別派遣代表)
○ガドバーン・石油省顧問
○デ・メロ国連事務総長特別代表
○ドュボアUNDP常駐代表
○デュロイUNICEF常駐代表
○クロスOCPA(連合国暫定当局国際局長。旧復興人道支援室(ORHA)次長)及びキンキャノンOCPA広報部長。
○ジョーンズ米中央軍大佐
○バルザーニ・クルド民主党(KDP)党首
○ムサーウィ・イラク国民議会(INC)政治関係部長
○仏大使館臨時代理大使
○ポーランド大使館臨時代理大使
○邦人NGO(ジャパン・プラットフォーム、ピース・ウィンズ、BHN)
○邦人特派員
○総合小児病院、配電所など


2003/06/11

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