2003年7月7日 |
156 参議院・本会議
イラク復興支援特別措置法案の趣旨説明と質疑
質問者=舛添要一(自民)、千葉景子(民主)、遠山清彦(公明)、小泉親司(共産)、平野達男(自由)
平成十五年七月七日(月曜日)
○議長(倉田寛之君) 日程第一 イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法案(趣旨説明)
本案について提出者の趣旨説明を求めます。国務大臣福田内閣官房長官。
〔国務大臣福田康夫君登壇、拍手〕
○国務大臣(福田康夫君) ただいま議題となりましたイラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法案について、その趣旨を御説明いたします。
この法律案は、国際連合安全保障理事会決議第六百七十八号、第六百八十七号及び第千四百四十一号並びにこれらに関連する同理事会決議に基づき国際連合加盟国によりイラクに対して行われた武力行使並びにこれに引き続く事態を受けて、国家の速やかな再建を図るためにイラクにおいて行われている国民生活の安定と向上、民主的な手段による統治組織の設立等に向けたイラクの国民による自主的な努力を支援し、促進しようとする国際社会の取組に対して、我が国が主体的かつ積極的に寄与するため、国際連合安全保障理事会決議第千四百八十三号を踏まえ、人道復興支援活動及び安全確保支援活動について必要な事項を定めることを目的として提出するものであります。
以上がこの法律案の提案理由であります。
次に、この法律案の内容について、その概要を説明いたします。
第一に、基本原則として、政府が対応措置を適切かつ迅速に実施すること、対応措置の実施は武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならないこと、対応措置は戦闘行為が行われることのない地域等で行うことなどを定めております。
第二に、この法律に基づき実施される対応措置を人道復興支援活動及び安全確保支援活動とし、これらの活動のいずれかを実施することが必要な場合には閣議の決定により基本計画を定めることとしております。
第三に、基本計画には、対応措置に関する基本方針、対応措置の種類及び内容、対応措置を実施する区域の範囲、外国の領域で対応措置を実施する場合の自衛隊の部隊等の規模等を定めることとしております。
第四に、内閣総理大臣は、基本計画の決定又は変更があったときは、その内容、また、基本計画に定める対応措置が終了したときは、その結果を、遅滞なく国会に報告しなければならないこととしております。
第五に、内閣総理大臣は、基本計画に定められた自衛隊の部隊等が実施する対応措置については、原則として当該対応措置を開始した日から二十日以内に国会の承認を求めなければならないこととしております。
第六に、対応措置の実施を命ぜられた自衛官は、自己又は自己とともに現場に所在する他の自衛隊員等若しくはその職務を行うに伴い自己の管理下に入った者の生命又は身体を防衛するために一定の要件に従って武器の使用ができることとしております。
なお、この法律案は、施行の日から起算して四年を経過した日にその効力を失うこととしておりますが、必要がある場合、別に法律に定めるところにより、四年以内の期間を定めて効力を延長することができることとしております。
以上がこの法律案の趣旨でございます。
何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御賛同あらんことをお願いいたします。(拍手)
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○議長(倉田寛之君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。舛添要一君。
〔舛添要一君登壇、拍手〕
○舛添要一君 私は、自由民主党・保守新党を代表して、ただいま議題となりましたイラク復興支援特別措置法案につきまして、内閣総理大臣に質問をいたします。
私は、六月二十日から五日間にわたりまして、与党イラク調査団の一員として現地の状況をつぶさに視察してまいりましたが、それを踏まえて、我が国がイラク国民のために何ができるかという観点から所見を述べたいと思います。
振り返ってみますと、三月二十日に英米軍がイラクに軍事行動を起こすに至る過程で、先進国間で見解の相違が生まれたことは事実であります。しかしながら、五月二十二日には、国連安全保障理事会において、イラクの戦後復興に国際社会が一致協力することをうたった安保理決議一四八三がほぼ満場一致で採択されました。既にイラクへは少なくとも十六か国が軍隊を派遣しており、また、派遣を決定したり検討したりしている国は約四十か国以上に上ります。
今や、イラク復興、人道支援に努力することは国連加盟国の義務であります。まずは、我が国としてもその崇高な義務を履行する決意であることを小泉総理に再確認していただきたいと思います。
私たち調査団も現地で停電、水不足などで大いに悩まされましたし、バグダッド市内にはごみの山が随所にできており、下水があふれ、伝染病などの発生も懸念されております。これらの問題を解決することこそ正に今そこにあるニーズであり、そのニーズに迅速にこたえなければなりません。そのためにも、一日も早くイラク復興支援特別措置法を成立させて、我が国が国際協力の輪の中に入ることが不可欠であります。
ちなみに、生活インフラの遅れは、戦争の結果というよりは、サダム・フセインの独裁の帰結であります。米英軍による精密誘導兵器による攻撃は建造物に対する被害を最小限にとどめており、イラクの犯罪者が行った略奪、放火の被害の方がはるかに目立っております。サダム・フセインというおぞましい独裁者は、一族の栄華のために、過去四半世紀にわたり国民の生活を犠牲にしてきたのであります。イラク国民はこぞってフセイン体制の崩壊を歓迎しております。
現在、イラク国民が求めているものの第一が治安、第二が水と電気、第三が仕事であります。これらのどれが欠けても生活が成り立ちませんので、イラク国民の不満は募ることになります。
まず第一の治安でありますが、全体的に改善の方向にあります。私たち調査団は、陸路を車でヨルダンのアンマンからバグダッドへ移動しました。バグダッド市内をくまなく視察した後は、南部の大都市バスラへ移りました。総計約千五百キロにも及ぶ行程を車で移動しましたが、幸い危険な目に遭うことは一度もありませんでした。
しかしながら、サダム・フセインの残党が散発的に英米軍などを襲撃しており、一〇〇%安全とは言えない状況であります。だからこそ、民間人ではなく、自衛隊が行く必要があるのであります。特にバグダッド近郊のファルージャやラマディでは、サダムに厚遇された部族が反抗を繰り返しております。また、略奪などの犯罪も発生しております。実際には、武器の回収、いわゆる刀狩りも期待した成果を上げているとは言えない状況にあります。
したがって、派遣される自衛隊に対しては、装甲車や無反動砲などの重装備を施す必要があると考えます。危機管理の常識として、重装備の方が不測の事態を避け得ることを銘記する必要があります。日本政府としてはどのような装備をお考えなのか、総理の答弁を求めます。
更に言えば、武器使用基準の緩和が必要だと考えます。今回は、緊急性を要するため、残念ながら十分な議論を展開する時間がありません。しかし、任務遂行のための武器使用など、せめて国際基準にまで移行することが不可欠であります。それが、自衛隊が安全を確保しつつ国際貢献を行い得る条件だと思います。今後、この課題に正面から取り組むことを強く総理に要望したいと思います。
少なくとも、不安定なイラクの現状に適合的な部隊の行動基準、ルール・オブ・エンゲージメントを策定すべきだと考えますが、政府にその準備があるのかどうか、総理の見解を求めます。
次の問題は、自衛隊にどのような任務を与えるかということであります。
私たち調査団は、連合国暫定統治機構、OCPAのブレマー長官やソーヤーズ大使と会見しましたが、彼らは、自衛隊の任務は日本自らが決めればいい、イラク復興のための仕事は山ほどあると強調していました。
私は、自己完結性を持つ自衛隊を活用する道は、第一に浄水・給水活動であると考えます。私たちが訪ねたとき、気温は、バグダッドが四十度、バスラが五十度でした。きれいな水をイラク国民に、また現地でイラクの復興支援に当たっている世界じゅうの人々に供給することは実に尊敬に値する貢献であります。
第二の任務は、C130輸送機を使っての輸送活動であります。バグダッド空港もバスラ空港も民間機には閉鎖されたままです。したがって、復興支援活動の調整のためにも、空路での迅速な移動のニーズがあります。
私は陸路での武器弾薬や兵員の輸送を自衛隊が行う必要性はほとんどないと考えますが、政府としては派遣される自衛隊にどのような任務を付与するつもりなのか、具体的にお示しください。
次は、活動地域です。
バスラの方がバグダッドよりも安全だと思いますが、ここはイギリス軍が指揮をしております。自衛隊は米軍とは日ごろから共同訓練をしていますので、その点では米軍展開地域のバグダッドの方が活動が円滑になるでしょう。また、首都の方が日本の存在感は増すと思います。最終的には、付与される任務によって派遣地域が限定されることになると考えます。今後、専門的、実務的な細かい調査が必要ですが、現時点でどの地域を想定しているのか、総理の答弁を求めます。
続いて、文化の問題に触れたいと思います。
言うまでもなく、イラクはイスラム国です。イスラム文化は私たちの文化とは大きく異なります。私たちがバスラを訪れた翌日に、イギリス軍兵士がバスラ北方の村アマラ近郊のマジャルで襲われ、六人が亡くなりました。この事件は、刀狩りの最中にイラク女性の体をボディーチェックしたり、イスラム教徒が嫌う犬を捜索に使ったりしたことが引き金となったのです。
イスラム文化に対する深い理解なしに自衛隊を現地に送ってはなりません。派遣前に、必ずイスラム文化についての基本的な知識を隊員に授ける必要があります。総理、是非そのことを約束していただきたいと思います。日ごろの訓練の成果を上げるためにも、派遣先国の文化を尊重することが肝要であります。
また、派遣される隊員に是非とも女性隊員を含めていただきたいと思います。男女の役割区分が画然としているイスラム国では、女性でなければできない仕事がたくさんあります。私たちが視察した英米軍でも、女性隊員が数多く目立ちました。我が自衛隊の女性隊員の現地での活躍に期待したいものであります。この点についても総理の御所見をお述べいただきたいと思います。
最後に、自衛隊の国際貢献について述べたいと思います。
我が国憲法は自衛のためと国際貢献のための自衛隊の活用を禁じているとは思いません。それは前文を読めば自明であります。ところが、このことについての政府の見解が明白でないため、アフガニスタン、イラクと、事態が生じるために特別な立法措置を講じる羽目になっております。これでは、派遣先国民に感謝される迅速な支援ができなくなります。今後の課題として、恒久的な法律を整備することが不可欠であると考えますが、この点について総理の御見解をお伺いして、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 舛添議員にお答えいたします。
自衛隊員の安全確保のための方策についてのお尋ねでありますが、自衛隊の派遣に当たっては、十分な現地調査に基づき、隊員の安全性に十分配慮して活動内容や派遣地域を定めることは言うまでもありません。その上で、現地で実施する業務や治安情勢等を総合的に勘案して、隊員の安全確保のために必要にして最も効果的と思われる装備を決定するとともに、現場の状況に即した部隊行動の要領を策定し、部隊に示してまいります。
本法案に基づいて自衛隊が行う任務及び活動地域についてのお尋ねでありますが、現地に派遣した政府調査チームの報告等によれば、水の浄化、補給や航空機による物資の輸送などの活動分野が想定されますが、現時点において、自衛隊が実施する業務の内容及び具体的な活動地域はまだ決まっておりません。今後、イラクの現状や各国の取組について更に詳しく把握した上で、我が国にふさわしく、またイラク国民からも高い評価を受けることができるような業務を決定してまいりたいと考えます。その際、隊員の安全の確保、当該業務実施上の便宜などを踏まえ、御指摘の点をも参考にしつつ、具体的な活動地域を定めてまいります。
派遣されるイラク現地で必要とされる知識の事前教育、女性隊員の活用についてのお尋ねでございますが、現地を調査された舛添議員のお話も先日、直接お伺いいたしました。
確かに、御指摘のとおり、男性と女性の役割、日本とは違います。この点については、隊員に対してよく、イスラム文化、また日本との習慣とイラクでは違うという事前教育が必要なことは、また大変重要なことだと思います。自衛隊がイラクにおいて任務を円滑かつ安全に実施するためには派遣先の文化についての理解が不可欠であり、舛添議員御指摘のように、犬に対しても、日本人の犬に対する愛護精神とイラク国民の犬に対する考え方は全く違う、そういう点も踏まえて、私は派遣前にイスラム文化についての必要な教育を行っていく必要があると考えております。
現地において女性でなければできない仕事があるとの御指摘はもっともであると思う一方で、女性に行わせることが必ずしも適切でないとされる仕事もあるのかもしれないとの思いもありますので、隊員の人選については、イラク社会の風俗習慣を十分勘案するとともに、特に任務遂行に必要な経験や体力を踏まえて判断してまいります。
自衛、国際貢献のための恒久的な法律整備についてのお尋ねでありますが、本法案は、安保理決議一四八三を踏まえ、一日も早いイラクの復興を支援しようとする国際社会の取組に我が国として寄与することが必要であることから、そのような目的に従い、活動の内容や期限を限定した特別措置法案としたものであります。国際貢献のための恒久法の整備については、今後、国民的な議論を踏まえながら、憲法の前文と憲法の九条の整合性を十分考えながら、将来の課題として検討すべき課題であると考えます。(拍手)
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○議長(倉田寛之君) 千葉景子君。
〔千葉景子君登壇、拍手〕
○千葉景子君 私は、民主党・新緑風会を代表し、ただいま議題となりましたイラク人道復興支援特別措置法案について、総理及び関係大臣に質問をいたします。
小泉総理、あなたに見えるものは米国ブッシュ大統領の顔だけですか。あなたに聞こえるものは、米国からのブーツ・オン・ザ・グラウンドという陸上部隊の派遣を求める声や、今度はグラウンドでプレーしてほしいとの発言だけですか。イラクの人々の遠く日本へ寄せる思い、超大国米国がブッシュ政権の先制攻撃戦略の下、いわゆる帝国となっていくのではないかとの国際社会の懸念、そしてイラクや周辺中東諸国と我が国との長年にわたる友好関係が損なわれるのではないかとする国民の心配などが総理の胸をよぎることは全くないのでしょうか。
民主党は、政治的な思惑によって自衛隊の派遣のみが先行した本法案に対して反対であることをまず明確に申し上げておきます。
私は、自衛隊という実力部隊を海外へ派遣するような場合は、最低限与野党が一致した姿勢を取ることが我が国の国益上望ましいと考えております。さきの有事法制論議では、日本の平和と独立、国民の安全の確保という視点に立ち、シビリアンコントロールを徹底し、国民の基本的人権をどう確保していくかという見地から審議に臨み、合意を見たことは意義あることだと考えております。しかし、今回のイラク特別措置法案は、国の安全保障という有事法制とは全く意味が異なり、戦地に自衛隊を派遣しようとするものです。このような従来とは全く質の異なる事態であることを踏まえ、民主党は審議に臨み、自衛隊派遣を削除する修正案を提出しましたが、与党は修正要求を棚上げにしたまま衆議院で可決してしまいました。到底許されるものではありません。
御承知のように、民主党は、イラク攻撃に際して、新たな国連決議を求めるべきであり、国際法上も問題があるとして、米英等の武力攻撃に対して反対いたしました。この姿勢は今でも変わりません。しかし、この攻撃に反対であることと現に被害に苦しむイラク国民の復興支援活動にコミットすることとは別であるとの見地から、現地調査団の報告も踏まえ、我が国は民生面での復興支援については積極的に行うべきであると考えました。
安保理決議一四八三の採択に結集した国際社会の総意も、イラク戦争の経緯はいったんおき、イラクの戦後復興は民族自決の原則にのっとり、フセイン政権の抑圧から解放されたイラクの人々が、メソポタミア文明以来のその持てる力を発揮し、様々な民族、宗教の違いを克服して、平和で豊かな国に生まれ変わることを支援していくことにあります。米英当局の占領をできる限り早期に終了させ、イラク国民自身による暫定政権の発足、民生の安定、戦後の復興を急がなければなりません。そのためにも、国際社会の協調の中で、日本として可能かつ有効な協力を最大限実施することは当然のことです。
このようなイラクの復興支援を考えるとき、本来イラク国民にとって何が必要かを真摯に検討し、その結果どういう支援をすべきかという答えが出てくるのが通常の姿ではないでしょうか。民主党は、党としての調査団を派遣し、イラクの現状をつぶさに調査し、日本としてどのような支援ができるかを検討いたしました。調査団の地に足が着いた綿密な調査と分析の結果、イラクの人々が自らの手でイラクの再建に当たるべきとの基本認識の下、教育・医療施設などの復旧やイラク国民の雇用創出を図るイラク復興ジャパン・プランを提案し、あるべき支援の在り方を発表できたことは意義あることだと自負しております。
ところが、政府提案の法案は、イラク戦争後の米英両国による占領地にあくまでも自衛隊部隊を派遣しようとするもので、派遣部隊から死傷者が出たり、あるいは自衛隊が他国民と交戦するという可能性も否定できないものです。
実際、イラクでは今なお米兵等が毎日死傷していると伝えられており、そういう状況では、政府案が想定する戦闘地域と非戦闘地域、戦闘員と非戦闘員の峻別は困難であり、海外での武力行使、武力行使との一体化の可能性も生じ得るのです。また、法案では、占領行政を行う連合国暫定統治機構、CPAの同意を受入れ国の同意に代わるものとして認めていますが、交戦権の行使につながる可能性もあります。以上のような懸念から、民主党は自衛隊の活動を削除すべきであると判断したものです。
国際社会の合意やイラク国民の関与が薄いこのような法案は、政策的なニーズに基づくというより、自民党総裁選等の政治的な思惑が先行したものと言わざるを得ず、到底許されるものではないと考えます。もし自衛隊部隊の派遣のための復興ニーズがあり、その必要性があるのであれば、総理は国民にしかるべく説明する責任があります。また、このままで派遣される自衛隊員に本当に理解、納得してもらえるのでしょうか。自衛隊部隊のイラク本土派遣を骨格とするこの法案の提出にこだわる背景は何でしょう。総理、明確に説明していただきたい。
そもそも、政府は本格的な復興ニーズの調査は法案成立後と先送りにしております。国会のシビリアンコントロールを徹底する見地からは、まず詳細な情報を国会に提供してその判断を仰ぐべきだと考えますが、外務大臣及び防衛庁長官から現地情勢について御説明いただきたい。
政府案では、イラク攻撃は国連安保理決議六七八、六八七、一四四一等に基づくものと位置付け、正当化しています。民主党は、イラク攻撃に際し、既存の国連決議では国際法上正当化は不十分として新たな国連安保理決議の採択を求めましたし、国際的にも様々な議論があるところです。このままでは、必要な支援を人道的な見地から行おうとする活動にまでもが疑念が生じ、活動を封ずることになります。だからこそ、民主党は法案からの削除を求める修正案を提出したのです。ここで改めて、この部分を削除するおつもりがないのか、総理及び外務大臣から御答弁をいただきたい。
自衛隊の活動に関し、対応措置の実施は戦闘行為が行われていない地域に限るとされています。現地の治安情勢は、戦闘地域と非戦闘地域の峻別あるいは戦闘員と非戦闘員の区別は困難なばかりか、反対勢力が対戦車ミサイル等を使用しており、戦闘状態に移行しやすく、武力行使との一体化のおそれを指摘せざるを得ません。相変わらずのフィクションに依存する姿勢にはあきれるほかありません。本当にこれで任務を達成できるのか。危険が伴う現地での活動が予定されている自衛隊のトップに立つ防衛庁長官及び総理から御所見をお伺いしたいと思います。
また、受入れ国の同意に代えて、安保理決議等に従って施政を行う機関の同意を要件としております。現在、国連決議によって追認され、占領行政を行う連合国暫定統治機構、CPAの同意が予定されていますが、自衛隊が占領行政を行う米英軍の指揮下に入る状態になると、交戦権を否認する憲法上の制約に抵触するおそれが出ます。総理及び外務大臣から、憲法との関連も含め、明確な御答弁をいただきたい。
当初の政府案には大量破壊兵器処理支援活動がありましたが、自民党の了承を得る過程で削除されました。大量破壊兵器の存在については、政府は攻撃支持の理由としていたはずです。情報操作の可能性について米英で政治問題化していますが、政府のイラク攻撃の支持表明をどう説明されるおつもりなのか。もし、このまま大量破壊兵器の存在が明らかにならなければ、政府が支持した前提が根底から崩れます。一体どのような情報に基づき政府は攻撃を支持されたのか、当時の状況及び現在の米英における議論を踏まえて、総理及び外務大臣からお答えいただきたい。
自衛隊派遣には、部隊規模や派遣期間等を定めた基本計画を閣議決定し、基本計画に定められた自衛隊の部隊等が実施する対応措置は、防衛庁長官が派遣を命じた日から二十日以内に国会に付議、事後承認を得ることとされています。私は、対応措置の実施について、国会による民主的統制を徹底する意味で、原則として国会の事前承認とすべきだと考えます。
政府は迅速な対応を強調しますが、自衛隊を海外の言わば命を失う危険のある紛争地に派遣することは戦後初めてのことであり、重い選択であるはずです。この点に関しては、過去、テロ対策特別措置法の議論の際も民主党の主張がおおよそ理解されていたにもかかわらず、当時の与党の政局的な思惑によって排除された経緯がございます。
繰り返しますが、今回こそ、政局ではなく国益を踏まえた政策上の慎重な判断をすべきです。総理、官房長官から日本の国益を踏まえたしっかりとした御答弁をいただきたい。
法律の有効期限が施行から四年を経過した日に失効するとされていることについて伺います。
米国による占領統治が長期化するほどイラク国民からの反発が強まるおそれがあります。このことを考えると、四年の期限の大幅な期間短縮が必要ではないでしょうか。総理及び官房長官の御所見を伺います。
最後に、武器使用基準について伺います。
法案をなるべく軽いものにするために、今回は、従来から懸案とされている武器使用基準の緩和は行わず、PKO法に準拠するものとなったと伺っております。これこそ正に、政府が取るべき姿勢ではなく、まず自衛隊の派遣ありきという対米配慮、国会の会期を計算に入れた言わば政局的な思惑によって判断した証拠ではないでしょうか。一体、現行の武器使用基準によって、重火器で武装する反対勢力が濶歩する地域で自衛隊が安全に任務を達成できるとお考えなのか。また、法律の改正ではなく部隊行動基準、ROEの変更で重火器の携帯を認めるとの話も聞こえてきますが、実際の部隊を預かる防衛庁長官、このような規定であなたは派遣する自衛隊員の命を危険にさらすことに同意するのですか。しっかりとした御答弁をお伺いをしたい。
冷戦後のイデオロギー対立が終えんし、九・一一のテロを経験し、混迷を深める国際情勢で、各国政府は、今、多発する紛争解決へのかかわりについて悩みながら決定し、行動している状態です。国際社会は米国の一国主義を危ぶみ、国連の関与を強く求めているのです。イラク戦争後の国際社会、中東地域の在り方については多様な見解があり、国際政治の認識には幅広い視野を持たなければなりません。
今回の法案の成立を強行して自衛隊部隊の派遣に至った場合、日本外交は米国一辺倒と受け取られないのか、日本の行動が国際社会からどのように評価されると総理はお考えなのでしょうか。総理、政局に流された安易な決定をしたら後の祭りです。政局を離れ、冷静な判断の下、この法案を抜本的に改めるよう再考を強く求めます。この点につき、総理の御所見を御披瀝いただき、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 千葉議員にお答えいたします。
本法案を提出する背景についてのお尋ねですが、イラクにおいては、現状でも医療やエネルギーなど社会の生活基盤が不十分であり、治安も良好でない地域もあります。現在、これに対して国際社会は復興の支援促進に取り組んでおり、我が国としても、安保理決議一四八三を踏まえ、我が国にふさわしい一層の貢献を行うことが必要であると考え、本法案を提出したところであります。
また、イラク復興支援を行うために、厳しい環境下においても活動を遂行できる自己完結性を備えた自衛隊の能力や、これまでの国際協力の経験等を活用することは極めて合理的かつ自然であると考えます。
本法案に引用した一連の国連安保理決議につきお尋ねがありましたが、本法案は、イラク国内における主要な戦闘が終了した中で、イラク復興に関する国際社会の取組に対し、我が国が主体的、積極的に寄与することを目的とするものであります。その上で、イラク復興に関する国際社会の取組の契機となったのが今般の米英軍等による武力行使であることを示す必要があるため、一連の安保理決議を引用したものであり、法案から削除することは考えておりません。
危険が伴うイラクにおける自衛隊の活動に対する所見についてでございますが、隊員の安全確保については、政府全体として基本的な方針の策定から活動の実施の際に至るまで最大限の配慮を行うところであり、自衛隊の任務は十分達成できるものと考えております。
なお、いわゆる非戦闘地域については、我が国が独自に収集した情報や諸外国等から得た情報を総合的に分析し、活動期間中の状況変化の可能性なども含めて合理的に判断することが可能であり、憲法上の問題は生じないものと考えます。
自衛隊の現地における活動が交戦権を否定する憲法に抵触するのではないかとの御指摘であります。
我が国が現地で活動を行うに当たっては、国連安保理決議で施政機関としての地位を認められた米英当局と緊密な連携を図ることとなりますが、自衛隊が米英軍の指揮下に入ることは全く想定されておりません。また、我が国はイラクに対して武力を行使したことのない非交戦国であり、本法案にある支援活動の内容は占領行政そのものではありません。憲法第九条で禁じている交戦権の行使に当たるものではありません。
イラクに対する武力行使への支持表明についてでございますが、イラクには多くの大量破壊兵器に関する疑惑があり、査察への非協力を始め、イラクが関連安保理決議の重大な違反を犯してきたことについては、関連安保理決議や国連の査察団による累次の報告を通じても明らかにされていたとおりであります。武力行使なしには大量破壊兵器の脅威を除去し得ないという状況に至り、我が国としては国益に照らし、同盟国である米国等の関連安保理決議に基づく行動を支持しました。
対応措置の実施について国会の事前承認とすべきとのお尋ねでありますが、迅速な派遣を目指す観点から、また国会で十分に御審議いただいた上、本法案が成立する運びになれば、イラクの復興支援のための自衛隊派遣について国会の承認が得られたことと考えることもできることから、国会との関係については事後承認としております。
法案の有効期間についてでございますが、四年を有効期間としたのは、イラクの復興にはそれなりの期間がかかると見込まれること及び我が国による国際協力の観点からは余り短い期間は適当でないことから、テロ対策特措法と同様の二年は短いと考えております。他方、余りに長い期間を想定することは適切ではなく、四年という期間は適切なものと考えております。
本法案の目的と国際社会からの評価につきお尋ねがございました。
本法案は、安保理決議一四八三が国連加盟国に人道復興支援等の実施を要請していることを踏まえ、イラク国家再建のための努力を支援、促進しようとする国際社会の取組に対し我が国として主体的に寄与するためのものであります。したがって、法案の成立によって対米一辺倒と受け取られることはないと考えます。
本法案に基づく我が国の活動については、国際協調の下で我が国にふさわしい貢献と評価されるものと考えております。
残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
〔国務大臣福田康夫君登壇、拍手〕
○国務大臣(福田康夫君) 千葉議員にお答えをいたします。
ただいま総理からも答弁がございました。重複する部分もございます。
まず、対応措置の実施についての国会の事前承認についてのお尋ねがございました。
イラクへの自衛隊の派遣を前提として、その基本的枠組みは、基本原則、対応措置の内容といったように法案中に既に規定されておりまして、このような本法案が成立すれば、自衛隊の派遣についても国会の同意が得られたと考えられます。したがって、迅速な派遣を目指す観点からも、自衛隊の対応措置の実施について措置を開始した日から二十日以内に承認を求めることで十分と考えております。
また、法律の有効期間についてお尋ねがございました。
四年を有効期間としたのは、イラクの復興にはそれなりの期間がかかるということが見込まれること及び我が国による国際協力の観点からは余り短い期間は適当でないと考えたからであります。
また、今後、仮にイラク人による施政を行う機関が発足した場合にも活動を継続することも考えられますので、四年で終了するか否かは不明でございます。したがいまして、延長に関する規定も置いてございます。
以上であります。(拍手)
〔国務大臣川口順子君登壇、拍手〕
○国務大臣(川口順子君) 千葉議員から四つの御質問がございましたので、順番にお答えをしたいと思います。
まず、イラクの現地情勢に関するお尋ねですが、イラクでは、フセイン政権の残党による散発的、局地的な抵抗があるものの、戦闘は基本的に終了しているものと承知しています。こうした中で多くの国々がイラクの人道復興のために支援を行っており、現地では、治安の回復に努めるとともに、水、電気等の公共サービスの回復等に向けた努力が進められております。
次に、本法案に引用した関連の安保理決議に関するお尋ねでございましたが、これにつきましては、総理から御答弁ございましたように、復興のために国際社会の支援を必要とする現在のイラクの状況は、イラクが一連の安保理決議を遵守しないためにやむを得ず行われた米英等による武力行使を契機としたものであり、本法案においてこれら一連の安保理決議を引用することが必要かつ適切であると考えます。
自衛隊の派遣と憲法上の関連についてのお尋ねにつきましては、総理からも御答弁ありましたように、米英の統合された司令部より同意を取得することとしております。自衛隊は米英軍の指揮下に入ることはなく、また、本法案に基づく自衛隊の活動は武力の行使に当たるものではありません。非交戦国である我が国が本法案に基づく活動を行ったとしても、交戦権を行使をすることにはなりません。憲法第九条に反するものではございません。
イラクに対する武力行使への支持表明についてのお尋ねにつきましては、総理がお答えしたとおり、イラクには多くの大量破壊兵器に関する疑惑があり、イラクが関連安保理決議の重大な違反を継続的に犯してきたことが国際社会の一致した認識でした。武力行使なしには国際社会全体の問題である大量破壊兵器の脅威を除去し得ないという状況に至り、我が国としては、国益に照らし、同盟国である米国等の関連安保理決議に基づく行動を支持いたしました。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣石破茂君登壇、拍手〕
○国務大臣(石破茂君) 千葉議員よりイラクの現地情勢についてお尋ねがございました。
ただいま外務大臣からも答弁がございましたが、イラクでは主要な戦闘は基本的に終了しておりますが、一部地域において、フセイン政権の残党による散発的、局地的な抵抗があると承知をいたしております。
こうした中で、米国や英国はもとより、多くの国々がイラクの人道復興のために支援を行っており、現地では地元警察と米軍等が協力して治安状況の改善に努めているほか、水、電気等の公共サービスの回復等に向けた努力が進められるなど、正常な市民生活が送れるよう様々な努力が行われておると承知をいたしております。
今後とも、現地情勢につきましては、防衛庁としてもその把握に努め、適時適切に御説明できますよう努めてまいります。
次に、危険が伴う現地で自衛隊が任務を達成できるかとのお尋ねがございました。
法案第九条におきましては、「対応措置の実施に当たっては、その円滑かつ効果的な推進に努めるとともに、イラク復興支援職員及び自衛隊の部隊等の安全の確保に配慮しなければならない。」と定めております。
また、法案におきましては、対応措置の実施はいわゆる非戦闘地域において実施することとされておりますが、これは、我が国が憲法の禁ずる武力の行使をしたとの評価を受けないよう、他国による武力の行使との一体化の問題を生じないことを制度的に担保する仕組みの一環として設けたものであります。
したがいまして、自衛隊の活動を実施する際には、各種の情報に基づき現地の治安状況を正確に把握しつつ、実施要項においてこのようないわゆる非戦闘地域の要件を満たすよう実施区域を指定し、また、自衛隊の活動の指揮監督に万全を期してまいります。
最後に、本法案に基づく武器使用や隊員の安全確保についてお尋ねがございました。
派遣される自衛隊員の安全確保につきましては、現地の治安状況を考慮し、活動する区域や実施する業務を定めるとともに、携行する武器の種類や現地での部隊運用につきましても安全確保の観点から十分に検討してまいります。
他方、活動を実施する自衛官は、いわゆる非戦闘地域内において活動を実施するといたしましても、不測の事態に遭遇する可能性が全く排除されるわけではございません。そのため、当該自衛官は、自己を防衛するためやむを得ない理由がある場合にはその事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができ、そのために必要とされる武器を携行いたします。
これらの措置等により、派遣される自衛官は、現地の状況に合わせて必要な武器を携行し、十分に訓練を積み、必要な武器使用権限について付与された上で派遣されるものであります。自己完結性と相まって、自衛隊ならではの活動が可能となるのであります。
いずれにせよ、隊員の安全確保に特に万全を期して派遣するのが私の責任であると考えております。
以上でございます。(拍手)
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○議長(倉田寛之君) 遠山清彦君。
〔遠山清彦君登壇、拍手〕
○遠山清彦君 私は、公明党を代表し、ただいま議題となりましたイラク人道復興支援特別措置法案につきまして、内閣総理大臣に質問いたします。
今日の世界、そして日本を取り巻く状況は一層厳しさを増しております。相次ぐテロ事件、内戦の頻発、難民の発生、そして大量破壊兵器の拡散と、国際社会全体で知恵と労力を出し合わなければ解決できない難問があふれております。
日本も国際平和を希求する諸国家の一員として、またその安全と繁栄を国際平和に大きく依存する国家国民として、これらの問題解決に積極的かつ主体的に取り組まなければならないことは言うまでもありません。
特に、人間の安全保障や平和の構築、平和の定着という新概念を二十一世紀の外交の柱に据えた以上、日本は、それをスローガンで終わらせるのではなく、行動で示していく必要があります。
その意味でも、今回のイラク復興支援に対しては、日本は、法的、財政的な制約に配慮することは当然ですが、自らの国力に応じ、でき得ることはすべてやっていくという姿勢を持つことが重要だと考えます。これは、国連安保理決議一四八三が明快に示しているとおり、何よりも人道上の要請であります。
この点に関し、まず、イラク復興支援に日本が取り組む意義について総理の所見と決意を伺います。
さて、イラクの医療の現状は誠に深刻であり、医療支援は急務であります。政府を始め、与野党や医療支援NGOの調査報告でもこの点は一致して指摘されており、私自身も本年六月にイラク北部地域を現地調査した際、病院を視察し、その実情を確認いたしました。
小泉総理は、この医療支援分野でアラブ諸国との共同作業を模索し、五月二十四日のエジプトのムバラク大統領との首脳会談の結果、日本、エジプト両国が共同でイラクに対する医療支援を行うことが合意されました。日本がアラブ諸国とともに復興支援を行う構想は、イラク戦後の中東地域の安定化に資するという面からも高く評価するところですが、現地で苦しんでいる人々のことを思えば、一刻も早い実施が求められております。
明日、日本及びエジプト両政府の合同調査団がバグダッドに派遣されるとのことですが、支援実施の見通しと期待される成果について、このプロジェクトを当初から主導されている小泉総理自身の見解を伺います。
さらに、政府には、イラク北部のクルド人自治区における化学兵器被害の調査と医療支援も検討していただきたいと思います。私が公明党派遣団の一員として六月に同地域を訪れ、自治区政府の保健大臣から直接聴取したところによれば、サダム・フセイン政権時代、自治区内の実に二百か所以上の村々で化学兵器が使用されたとのことで、その被害の調査を日本にお願いしたいという要望を受けました。
先般、衆議院本会議において、我が党の太田幹事長代行からも同じ質問をさせていただきましたが、明快な答弁をいただけませんでしたので、改めて総理に要望を申し上げ、答弁を求めます。
次に、衆議院の審議では、自衛隊派遣の是非が焦点の一つとなりました。イラクを実際に視察、調査した者の一人として、私は自衛隊派遣のニーズは明確にあると考えます。
周知のとおり、イラクでの活動環境は非常に厳しく、地域格差はあるにせよ、食糧、水、電力、住居等の自給能力と安全確保能力の保持が不可欠であり、そのような自己完結性を備えた組織として、自衛隊は復興支援のための即戦力となり得ます。
また、与党調査団の報告にもあるとおり、人道支援物資の輸送や水の浄水、補給に関して自衛隊に対する期待が高まっております。これらの分野における自衛隊の能力は、今日までの国連PKO活動への参加実績を通じて立証済みです。
特に、特に浄水・給水分野では、一九九四年、ルワンダ難民救援のためにザイールに派遣された自衛隊の給水隊員四十三名が、車載型浄水セット八台を使って一日平均千二百トン、約二か月間の活動期間の間に約七万トンの給水を行い、現地で高い評価を得ました。
また、現在も継続中の東ティモール国際平和協力業務においても、最近、自衛隊はスアイ宿営地から撤退しましたが、給水所だけは残してほしいとの現地の強い要望があり、六名の隊員が残って作業を継続していると聞いております。
そこで伺いますが、このような実績を有する自衛隊が実際にイラクで浄水・給水作業に取り組む際には、どの程度の規模の給水ができると想定されているのか、また、給水の対象にはだれが想定されているのか、総理の答弁を求めます。
私は、本年三月、六月と、二回イランを訪問し、政府要人とも対話をしてまいりました。イランは日本との友好関係を重視しており、我が国にとっても、イランは、エネルギー政策のみならず、日本の中東外交戦略上最重要の国の一つであると言っても過言ではありません。
最近、イランの核開発疑惑やその他の問題をめぐり、イランと米国とのあつれきが激化し、アザデガン油田開発問題に象徴されるように、その影響が我が国にも及び始めています。イランはイラクとアフガニスタンの間に位置しており、同国での更なる混乱は、中東和平にとっても、国際平和にとっても決して好ましいことではありません。
政府としては、イランと粘り強い対話を重ね、同国が国際社会で孤立化することのないよう外交努力を傾けるべきです。小泉総理自身が早い機会にハタミ大統領と直接対話するべきであると思います。油田開発問題への政府の対応も含めて、総理の見解をお聞かせください。
最後に、国連改革について伺います。
イラク危機をめぐる国連の機能不全を受けて、国連改革の断行を求める声が高まっております。日本は、従来から国連憲章のいわゆる旧敵国条項の削除や国連安保理理事国の拡大を含む諸改革を唱えてきました。様々な問題を抱えていても、世界百九十一か国の代表が集い、討議する唯一の国際機関である国連の重要性は不変でありますが、時代の変化に応じた改革の実施も必要です。そのためには、小泉総理の強いリーダーシップと行動力が不可欠です。
この点に対する総理の所見と決意を求め、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 遠山議員にお答えします。
遠山議員は、実際にイラク現地調査をされ、日ごろから国際活動に熱心なことについてはよく承知しておりまして、敬意を表しております。
イラク復興支援に取り組む意義についてでございますが、イラク復興支援は、イラク国民の人道面での困窮を緩和するとの人道的意義に加え、エネルギーの安定供給に直結する中東地域の安定にもつながるとの意義を有しております。
我が国は、御指摘の人間の安全保障や平和構築の理念も踏まえ、国際協調の下、イラク支援に積極的に取り組み、我が国にふさわしいできる限りの貢献を行っていく考えであります。
イラクに対するエジプトとの合同医療支援についてでございますが、明日よりエジプトとの合同調査団を派遣し、イラクに対し医療分野でいかなる協力が必要か見極める考えであります。その上で、イラク国内の病院への医療機材の供与や、我が国が長年技術協力を行ってきているエジプトにおいてイラク人医療関係者の研修を行うことを含め、日本とエジプト両国で実施可能な支援を行ってまいりたいと考えます。
化学兵器被害の調査と医療支援についてでございますが、我が国は、国際協調の下、イラクが一日も早く再建され、イラクの人々の生活が正常化するよう、御指摘の点も踏まえ、現地の状況等を踏まえ、速やかにできる限りの措置を講じていく考えであります。
自衛隊が実施する業務の具体的な内容についてでございますが、現地に派遣した政府調査チームの報告等によれば、水の浄化、補給や航空機による物資輸送などの活動分野が想定されますが、現時点において自衛隊が実施する業務の具体的内容は確定しておりません。
今後、イラクの現状や各国の取組について更に詳しく把握した上で、我が国にふさわしく、またイラク国民からも評価を受けることができるような業務を決定してまいりたいと考えます。
我が国の対イラン政策についてでございますが、我が国は、唯一の被爆国として、イランをめぐる核開発疑惑等に関する国際社会の懸念を共有しております。イランがIAEAに完全に協力するとともに、追加議定書の早期かつ無条件の締結及び完全履行を通じて懸念を払拭するよう求めております。また、エネルギー資源に乏しい我が国にとってエネルギーの安定供給は最重要の政策の一つであり、イランにおける原油自主開発の推進は重要な課題であります。
我が国にとってこれら双方の課題が重要であるとの認識に立って対応していくとともに、今後ともイランとの二国間対話を通じてイランの改革路線及び対外関係改善路線を助長していく考えであります。
国連改革についてでございますが、安保理改革や旧敵国条項削除の問題を含む国連改革については、私は昨年の国連演説でも取り上げました。さらに、改革のかぎを握る米国の協力を得ることが必要と考え、先般の日米首脳会談でこれを取り上げ、国連改革の重要性について一致いたしました。
今後とも、関係各国と精力的に協力しながら、改革の実現に向けて取り組んでまいります。(拍手)
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○副議長(本岡昭次君) 小泉親司君。
〔小泉親司君登壇、拍手〕
○小泉親司君 日本共産党を代表して、イラク特措法案について、小泉純一郎総理に質問をいたします。
まず、私は、依然として戦争が続くイラクに戦後初めて自衛隊地上部隊を派遣する重大な本法案が、衆議院でわずか四十数時間の審議で与党三党によって強行されたことに強く抗議をするものであります。
イラク特措法案は、自衛隊のイラク派兵によって米英軍による軍事占領を支援することに核心があります。アメリカのイラクでの戦争は、国連憲章に照らして何の道理もない無法極まる戦争であります。最も貴ぶべき人命を奪い、イラクの子供たちや女性たちを始め、イラク国民に惨劇を与えるものでありました。今回の法案がこの無法な戦争を正当化していることは断じて容認できないことであります。
重大なことは、ブッシュ政権がイラクへの戦争を合理化する最大の理由とし、小泉総理がその戦争を支持する最大の根拠としてきた大量破壊兵器がいまだに発見されていないことであります。それどころか、米英の議会では、実は米英政府が情報操作を行い、戦争を仕組んだのではないかという重大な疑惑が深まっております。総理は、この重大な疑惑がある今、戦争をいち早く支持し、戦争を後押ししてきたことをどう総括しているのですか。今なお、ブッシュ大統領の言い分さえ聞いていれば間違いはないという考えなのですか。
総理は、米英両政府に追従して、イラクが大量破壊兵器を保有していると断定までしてきたのですから、その根拠と責任を明確にすべきであります。あなたが戦争の大義としてきたことが根底から揺らいでいるのですから、これらの諸点を明確にお答え願いたいと思います。
しかも、イラクの戦争は、フセイン政権転覆を目的とした征服戦争にほかならないことがますます明らかになっています。にもかかわらず、イラク戦争支持についての総括もせず、ただただ自衛隊派兵に狂奔するのは、余りにも無謀で言語道断であります。
フランス、中国、ロシアといった国連安保理の常任理事国を始め、国連の圧倒的多数の国が米英のイラク戦争を正当性がないと批判し続け、軍隊の派遣を始めとする支援を拒否している中、征服戦争に続く占領体制に自衛隊を派兵することにどんな大義があるというのですか。
総理は、衆議院の審議で自衛隊の派兵について聞かれ、軍隊派遣は国連安保理で全会一致で決められたのだから当然だと答弁しましたが、我が党の追及に、国連決議は軍隊をもって支援活動しろ、そこまでは言っていませんよと答弁を修正されました。こんないい加減なことで自衛隊派兵が強行されていいのですか。
では、自衛隊派兵はどこから要請があったのですか。ブーツ・オン・ザ・グラウンドと言われて、ブッシュ米政権から言われただけなのではないのですか。明確な答弁を求めるものであります。
米英両軍による軍事占領もまた国連決議に基づかない無法なものであることが衆議院の審議を通じて明らかとなりました。国際法学者の参考人は、国連安保理決議一四八三は米英軍のイラク攻撃を正当化していない、米英が強行に事実上の軍事占領に踏み切った以上、ハーグ陸戦法規やジュネーブ条約などの国際法を遵守すべきだと言っているだけだと証言しました。正鵠を射た見解であります。総理は、衆議院で、国連決議が米英による戦争と占領支配を正当化していないことを認めましたが、それでは法案との整合性をどのように考えるのですか。明確にしていただきたいと思います。
総理は、自衛隊を派兵しても占領軍には加わらない、指揮命令も受けない、だから憲法には違反しないとしています。しかし、自衛隊がイラクに入る上で占領軍の同意を得るのではないのですか。ブッシュ政権に大きな影響力を持つアメリカの外交専門機関は、イラクの法と秩序のすべてをCPA、つまり米英占領機構が掌握しているとしています。イラクにおいて、占領軍の了解なく自衛隊がどのように独自の行動ができると言うのですか。これでも占領軍の傘下での活動ではないとでも言うのですか。
しかも、イラクでは停戦合意がありません。防衛庁長官でさえ、法的には戦争状態だと答弁しているのであります。自衛隊の占領軍への協力はまさしく憲法違反の交戦権行使以外の何物でもないではありませんか。明確にしていただきたいのであります。
米英占領軍がイラク国民から歓迎されず、逆に反感と憎悪を増幅させていることは、我が党を始め野党の調査報告で明らかとなっています。総理は、自衛隊が米英軍を支援しても無法な占領に対するイラク国民からの反感、抵抗は起こらないとでも言うのですか。お答えいただきたいと思います。
国連安保理決議は、安全、安定の確保は専ら当局、つまり占領機構の任務だとしています。政府はどこの指揮も受けないと言っていますが、米英占領軍の指揮を受けないで支援活動ができるという根拠をお示しいただきたいと思います。
今、米英軍は、イラクを三つの区域に分けて、砂漠のサソリ作戦に続いて砂漠のガラガラヘビ作戦を行っています。米軍司令官は攻撃的なイラク残党掃討作戦だと述べています。自衛隊はこのような戦闘作戦を支援することも可能なのですか。
戦闘地域か非戦闘地域かの区別ができるという政府見解の虚構も明白であります。テロ特措法では、当初、インド洋からアフガニスタンを攻撃した巡航ミサイル艦の周りは戦闘地域ではない、それは、戦闘地域とは、人を殺傷し物を破壊する行為であるから、攻撃されたアフガニスタンだけだという政府の珍答弁も飛び出しました。他国の領土への地上部隊派遣ではこのようなごまかしは通用しません。
政府は調査の上決めるとしていますが、自衛隊が支援対象とする米英軍から離れて自衛隊だけが安全なところにいるなどということが実際に許されるのですか。米英軍が実際にやっているフセイン政権やバース党の残党掃討作戦なるものは、どこを攻撃地域にするかさえ米英軍自身も分からないとしています。だから、米軍司令官はイラク全土が戦闘地域だと言っているのです。どこからどこが戦闘地域か否か、日本政府が線引きできるなどというのは正に砂上に楼閣を築くようなものではないのですか。日本が特定できるという論拠を明確にしていただきたい。
線引きができるなどという虚構の下に実際の戦闘地域に自衛隊を派兵するのは、憲法違反の武力行使となることは明確ではありませんか。答弁を求めるものであります。
我が党は、今回、イラクに調査団を派遣し、イラク復興に力を尽くす国連機関を始め、NGOの人々からの意見を聞いてまいりました。これらの人々はこぞって、イラクの国民にとって必要なのは軍隊の派遣ではない、イラク国民の水や医療体制を整えることと言っております。最近、イラクから帰国したボランティア団体のお医者さんも、必要とされているのは自衛隊ではない、専門の看護師や医療機材だと述べています。
イラク復興への日本の支援は、自衛隊ではなく、憲法の平和原則に基づいて、食糧、水、医薬品、学校用具、上下水道や発電施設の修理など、国連を中心に、国連機関への協力を始め、非軍事的手段で積極的に行うべきであります。総理の見解をお聞きします。
以上、ただしてきたように、今回の法案は米英占領軍への支援法であり、自衛隊の海外派兵を恒常化する希代の違憲立法であります。日本共産党は、本院での徹底審議を強く求めるとともに、イラク特措法案は廃案にすべきであることを強く要求して、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 小泉親司議員にお答えいたします。
米英両国による武力行使に対する支持とイラクの大量破壊兵器問題についてですが、イラクには多くの大量破壊兵器に関する疑惑があり、査察への非協力を始め、イラクが関連安保理決議の重大な違反を犯してきたことについては、国連の査察団による累次の報告を通じて明らかにされていたとおりであります。
武力行使なしには大量破壊兵器の脅威を除去し得ないという状況に至り、我が国としては、国益に照らし、同盟国である米国等の関連安保理決議に基づく行動を支持いたしました。
本法案を提出する理由及び意義についてでございますが、イラクにおいては、現状でも医療やエネルギーなど社会の生活基盤が不十分であり、治安も良好でない地域もあります。現在、これに対して国際社会は復興の支援、促進に取り組んでおり、我が国としても、安保理決議一四八三を踏まえ、我が国にふさわしい一層の貢献を行うことが必要であると考え、本法案を提出したところであります。
なお、政府としては、米英によるイラク攻撃は累次の安保理決議に合致した行動であり、違法なものとは考えておりません。
安保理のどの決議で軍隊が派遣要請されたのかとのお尋ねですが、安保理決議一四八三はすべての出席国の賛成により採択されたものであり、イラクへの人道支援、復興支援を行うこと、イラクの国内における安全及び安定の回復に貢献することを国連加盟国に対して要請しております。
この決議は加盟国に対して特に軍隊の派遣だけを要請しているわけではありませんが、イラク復興への国際社会の取組が具体化する中で、我が国にふさわしい貢献の在り方につき幅広い見地から検討を行ってきた結果、自衛隊の派遣を含めて、速やかに我が国としてイラク復興支援を行う必要があると判断したものであります。
自衛隊派遣の理由についてでございますが、イラク復興支援に関して我が国としてふさわしい貢献を行うためには、厳しい環境下においても活動を遂行できる自己完結性を備えた自衛隊の能力や、これまでの国際協力の経験等を活用することが極めて合理的かつ自然であると考えます。
自衛隊の派遣を含むイラク復興支援の実施は、こうした我が国の主体的な判断によるものであり、米国からの要請だけによるものではございません。
イラクに対する武力行使及び占領の正当性についてでございますが、決議一四八三には武力行使の正当について直接の言及はありませんが、同決議を引用するまでもなく、イラクに対する武力行使は、決議六七八、六八七及び一四四一を含む関連安保理決議により正当化されると考えております。
また、決議一四八三は、占領国としての米英の統合された司令部、すなわち当局の関係国際法上の下での特定の権限、責任及び義務を確認するとともに、当局に対して領土の実効的な施政を通じたイラク国民の福祉の増進に関する権限を付与していること等から、米英が行う施政は国際法上正当なものと考えております。
イラク現地における自衛隊の活動と米英軍の指揮の関係についてですが、我が国は、決議一四八三を踏まえ、我が国の主体的な判断に基づき支援活動を行うこととなります。その際、国連安保理決議で施政機関としての地位を認められた米英当局と連携を図ることとなりますが、自衛隊が米英軍の指揮下に入ることは全く想定されておりません。活動地域の設定、変更などについても、隊員の安全性に十分配慮し、業務実施上の便宜をも踏まえた上で、我が国として主体的に判断することとなります。
自衛隊の派遣と憲法の禁ずる交戦権との関係についてですが、本法案に基づく自衛隊の活動は武力の行使に当たるものではありません。また、本法案では、これらの活動が他国の武力行使と一体化しないよう、活動を行う地域をいわゆる非戦闘地域に限っております。
さらに、我が国はイラクに対して武力を行使したことのない非交戦国であり、本法案にある支援活動の内容は占領行政そのものではありません。憲法第九条で禁じている交戦権の行使に当たるものではありません。
自衛隊の活動がイラク国民の反感を買うのではないかとの御指摘ですが、本法案に基づきイラクの復興支援を行うのに際しては、安保理決議一四八三の趣旨を十分に踏まえ、イラク国民の必要を的確に把握しつつ国づくりを支援し、イラク国民から評価を得られるよう努めてまいります。
米英軍による掃討作戦への支援として、弾薬武器、兵員の輸送が可能かとのお尋ねがありました。
本法案には輸送の対象を限定する規定はありませんが、弾薬武器、兵員の輸送については、現地の状況を十分に踏まえながら慎重に判断してまいります。
いずれにしても、実際に自衛隊がイラクに派遣された場合には、イラクの国内における安全及び安定を回復する活動に含まれないような軍事戦闘作戦は本法案に基づく支援の対象とはなりません。
非戦闘地域の線引きと武力行使についてですが、本法案に基づく活動の区域をいわゆる非戦闘地域の要件を満たすように設定するに際しては、我が国が独自に収集した情報や諸外国等から得た情報を総合的に分析し、活動期間中の状況変化の可能性なども含めて合理的に判断することが可能であると考えます。
本法案に基づく自衛隊の活動は、それ自体武力の行使に当たらず、また活動する地域をいわゆる非戦闘地域に限っていることなどから、他国による武力の行使との一体化の問題も生じないものと考えます。
自衛隊派遣以外は対イラク支援を積極的に行うべきでないかとのお尋ねでございます。
我が国は、これまでに約八千六百万ドルの対イラク人道復興支援を国際機関及びNGOを経由して実施、表明してきております。我が国にふさわしい貢献を行うためには、このような支援に加えて、厳しい環境下においても効果的な活動を遂行できる自己完結性を備えた自衛隊の能力及び国際協力の経験等を活用することも必要であると考えます。(拍手)
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○副議長(本岡昭次君) 平野達男君。
〔平野達男君登壇、拍手〕
○平野達男君 私は、国会改革連絡会(自由党・無所属の会)を代表しまして、ただいま議題となりましたイラク特措法案に関連して質問いたします。
自衛隊という、有事においては武力の行使という最も重大な任務を与えられる国の組織を動かすに当たっては、明確な基本理念と行動原則の下、慎重の上にも慎重な判断が必要であります。しかるに、政府は、国会会期末に法案を提出、しかも衆議院においては政局を絡め十分な審査をしないまま採決、参議院に送られてきたことは、国会の機能不全を示唆するものであり、強い懸念を表明するものであります。
かかる上は、参議院において十分な審議が行われ、正しい判断が行われるよう切に願うものであります。
冒頭、イラクの大量殺りく兵器に関してお聞きします。
イラクへの米英軍の侵攻は、イラクが大量殺りく兵器、いわゆるWMDを製造、保有していることを前提として実施されたものであります。しかし、その事実、証拠はいまだに確認されていません。WMDが発見されるか否かは、今後のイラク復興あるいは中東情勢に大きな影響を与えます。なぜWMDの確認にこれほど手間取っているのか、侵攻決定に至る米英の状況の判断にどこに問題があったのか、総理の見解を伺うものであります。
次に、法案の中身に入りますが、まず、極めて重大な点を指摘しておきます。
自衛隊の派遣については、国連の平和維持活動としての国連の決議と要請があれば、仮にそれが武力行使を伴うものであっても我が国は全面的に協力すべきであると考えます。このことは、当然、我が国憲法が定めている方向に沿うものであります。
しかしながら、政府が本法案の根拠としている国連安保理決議一四八三号は、人道支援については国連及びその他国際機関の任務、治安維持活動は占領国の役割と明記しており、この枠組みの下で自衛隊を派遣することは占領という軍政への協力をすることになり、これこそ憲法違反になるおそれがあることを申し上げておきます。
なお、国連などを通じた人道支援については、イラクがどういう状態にあろうと現行法で対応可能であります。決議一四八三で明確な要請がされていることからも、積極的な実施を早急に行う必要があります。
イラクは民族間や宗派間の根強い対立という、平和に慣れた日本人の理解を大きく超えるかもしれない複雑な問題を抱えている国ととらえる必要があります。
アラブ人、クルド人、トルクメン人が居住し、特にもクルド人がフセインによる大量殺りく兵器使用によって虐殺されたことは動かし難い事実となっています。また、国民の六〇%を占めるシーア派と、一七%と少数派ながら、かつて英国によってイラク統治の権限と特権が与えられ、その体制を維持してきたスンニー派との宗派的かつ国の覇権をめぐる政治的な対立。
その一方で、国内では互いに対立しても、かつてはシーア派が多数を占めるイランとの戦争においては、イラクは宗派の対立を超えて一致して戦ったこともありまして、外からの脅威に対するアラブ民族の団結の強さを指摘する向きもあります。また、イスラム対キリストといった文明の衝突の可能性についても考慮に入れる必要があります。
これらはいずれも占領軍が行う統治や駐留を困難なものになることを予想させる要素であり、ブッシュ大統領が主たる戦闘の終結宣言を行った以降のイラクの状況はこのことを示すものにほかなりません。ちなみに、先週号の米国週刊誌タイムのイラク関連記事の見出しは、決して終わっていない戦争でした。米国においてこそイラクの状況は客観的にとらえられているように思えます。
早急に実現されなければならないイラク人による暫定政権の樹立も、その形、手続を間違えば大きな混乱を招くおそれがあります。
こうした状況を踏まえれば、イラクにおいては、一つの地域の偶発的な事件が広い範囲や国全体の騒乱へと発展するおそれを常に内在しているとともに、イラク国民の反感が高まり、占領軍はもとより、外国の軍隊は占領軍と同一とみなされ、自衛隊もどこで活動しようが標的にされる可能性を常にはらんでいると考える必要があります。
こうしたイラクの事情に関して総理はどのように考えているのでしょうか。見解をお聞きします。
また、本法案では、周辺事態法やテロ特措法と同じ考え方に立ち、戦闘地域と非戦闘地域との地域区分をしております。また、テロなどであっても、組織的、継続的なものでないものは戦闘行為とはみなさないという立場を取っています。この区分は、政府の解釈判断するところの憲法上の意味は持つかもしれませんが、現実と懸け離れた考え方であり、実態的な意味を持ちません。
どうしても法案の枠組みで自衛隊を派兵するというのであれば、戦闘行為に関するプロの判断に従った、自衛隊の安全確保を最優先した十分な装備を持たせることを絶対条件とすべきであると思いますが、総理の考えはどうでしょうか。
自衛権の発動はもとより、自衛隊を海外に派兵するに際しては、明確な基本理念と行動原則を確立し、その下で個別の事案を慎重に判断する必要があることは自由党がかねてから主張してきたところであり、自由党としての法案を既に提出しているところであります。
一方、小泉政権は、テロ特措法の制定によって自衛隊の派兵を決定、アフガニスタンで軍事行動を展開する米軍へのいわゆる後方支援を実施してきました。今回、新たにイラク復興支援法によって自衛隊をイラクに派兵し、事実上、占領軍の指揮下で安全確保支援活動を実施しようとしております。この間、国連ではアフガンへの国際平和維持活動参加への決議がされたにもかかわらず、自衛隊は派遣しておりません。
米軍によるアフガン侵攻は、米国による自衛権の発動でありました。テロ特措法は、集団的自衛権を行使しないと言っている我が国が自衛権を行使する米国を支援する法律であります。その一方で、国連中心主義を掲げていながら、アフガンへの国際平和維持活動へは不参加ということであります。
法案による自衛隊の派兵は、暫定政権さえ樹立されていない占領軍が統治する国への派兵を認めること、したがって、イラク国民への支援と言いながら、米英を主体とした占領軍への協力になること、政府の言うところの戦闘地域と非戦闘地域という区分の下での他国の領土内での活動であることなど、新たな先例をつくることになります。
小泉内閣は、二つの個別法によって海外派兵という既成事実をつくろうとしています。しかし、自衛隊派遣をめぐる小泉内閣の対応には、基本原則はおろか、一貫した方針らしきものは何も見えてきません。自衛隊の最高指揮監督者でもある総理は、自衛隊の活動に関し、いかなる基本理念を持って取り組んでいるのか、総理の肉声でお聞かせ願いたい。
総理は、さきの武力攻撃事態特別委員会における私の質問に答え、憲法の理念に合致する平和の定着のために自衛隊が海外で活動するためには、平素から基本理念の下に、一定の法律をつくるべきとの議論は理解できる旨答弁しておられます。我が党が主張する基本法制定に向けた前向きの姿勢と評価いたします。しかし、その一方、それを制定するかどうかは国民の議論を見守りたいとの発言でした。
我が国の安全保障や国際社会の平和維持に関する事項は、政治がまず判断をして方針を示し、それを国民に提示し、広く議論を聞くのが本来の姿であり、政治の責任であります。武力の行使と一体となる行為は行わず、憲法には抵触しないから問題はないとの主張かもしれません。しかし、自衛隊の海外派兵を、基本原則を固めないまま、結果としてなし崩し的に拡大していく過程と、多くの犠牲の上に敗戦に至ったかつてこの国がたどった不幸な道との間に、何かしらの共通点を見いだすことに危惧を抱く政治家は少なくないはずであります。漠然としているかもしれませんが、私もそうした危惧を抱いている一人であると思っております。
テロ特措法に続き、本法案によって新たに自衛隊の派遣を決めようとしている小泉内閣には、我が国の安全保障の基本理念とそれに基づく自衛隊の行動原則などを定めた基本法、すなわち憲法と個別法をつなぐ法の制定をする責務があります。総理の決意をお伺いします。
自衛隊の派遣に関し、個別法だけを積み上げることは、言わば一個一個の卵を積み上げるようなもので、正に累卵の危うきという事態をつくり上げていると言えます。このことに気付かない、気付いていても何もしない、歴史観なき場当たり的政治はこの国を危うくすると強く申し上げ、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 平野議員にお答えいたします。
イラクの大量破壊兵器問題についてですが、イラクには多くの大量破壊兵器に関する疑惑があり、イラクが関連安保理決議の重大な違反を犯してきたことについては、関連安保理決議や国連の査察団による累次の報告で明らかになっており、これは国際社会の一致した認識でありました。現在、米英豪による大量破壊兵器捜索活動が行われており、我が国としてもその行動を注視しております。
イラクへ派遣する自衛隊の安全確保についてですが、我が国が自衛隊をイラクへ派遣して人道復興支援や安全確保支援を行うことはイラク国民に歓迎されると思います。この法案に基づいて自衛隊を派遣するのは、戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域ですが、隊員の安全確保には最大限の配慮を行ってまいります。
自衛隊を派遣する際の装備ですが、自衛隊の派遣に当たっては、十分な現地調査に基づき、隊員の安全性に十分配慮して活動内容や派遣地域を定めることは言うまでもありません。その上で、現地で実施する業務や治安情勢等を総合的に勘案して、隊員の安全確保のために必要にして最も効果的と思われる装備を決定してまいりたいと考えます。
自衛隊派遣に係る基本理念及び安全保障の理念などを定めた基本法の制定についてでございますが、自衛隊は、我が国の平和と独立を守り国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、あわせて、近年における内外の諸情勢の変化なども踏まえ、国際貢献の分野においてもその能力と経験の活用が図られているところであります。私としては、今後とも、実績と国際的評価を積み重ねながら、幅広い国民の支持と理解を得られる分野で国際貢献を一層推進してまいりたいと考えます。
国際貢献のための恒久法の整備については、今後、国民的な議論を踏まえながら、将来の課題として検討すべき問題であると考えます。(拍手)
○副議長(本岡昭次君) これにて質疑は終了いたしました。
2003/07/07 |