2003年12月16日

戻るホームイラク目次


158 参議院外交防衛委員会−(2)

質問者=榛葉賀津也(民主)、若林秀樹(民主)


平成十五年十二月十六日(火曜日)

○榛葉賀津也君 民主党・新緑風会の榛葉賀津也でございます。
 質問の冒頭、まずもって、イラクのため、日本のために文字どおり命を懸けて御尽力をされました奥大使、井ノ上一等書記官、そして現地職員のズーラ氏に心から哀悼の誠をささげたいと思います。
 尊い三名の死から我々が学ばなければならないこと、それは、ひるんではいけないというような精神論ではなくて、なぜ彼らが死ななければならなかったのか、そしてどういう経緯で死に至ったのかと、その現状を冷静に認識をして、我々日本が何をすべきなのか、そして何ができるのかをしっかりと考え直すことなんだろうというふうに私は思っています。この三名は、文字どおり身を挺してイラクの治安の厳しさを我々に示してくれたというふうに私は認識をしております。
 一昨日、フセイン大統領が拘束をされました。しかし、翌日になって治安が良くなるかというと、そうではありません。依然として治安は回復しない、テロは引き続き起こっている。
 総理、まず最初に、今のイラクの治安状況、どのように御認識でしょうか。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 米英軍のみならず、米英軍に協力する部隊も民間人も外交官も、無差別的にテロリストのグループと思われる組織あるいはテロリストによって襲撃され、命を落としている、こういう現状を見ると、かなり厳しい状況にあると。
 フセイン元大統領が拘束され、これが今後もう二度とフセイン政権が戻ってくることはないと。フセインの影におびえていた人も一面ではほっとしている面もありますけれども、これが必ずしもすぐ治安の安定に結び付くような状況にはなっていないと思いますが、いずれ、このテロリストのみならず、フセイン元大統領の拘束がより一層イラクの治安の安定、回復に向けての大きな一歩であるように期待しております。
○榛葉賀津也君 昨夜、イラクではフセインを支持する者たちのテロも発生をいたしました。そして、正体不明、アルカイダかもしれない、正体不明のテロも続発している。そして、フセインの恩赦によって釈放された様々な犯罪者も凶暴な事件を起こしている。ゲリラ戦ともテロとも事件とも言えない、すべてが混ざったような大変厳しい状況で、元フセイン大統領のナンバーツーであるイーブラハムもまだ見付かっていない。多くの残党も残っている。そのような治安の中、我々日本には、できることと、やりたいけれどもできないことがあると思うんです。幾らイラク人のためになるといっても、日本は法治国家ですから、できることとできないことがある。
 例えば、先ほど来議論があるように、自衛隊が幾ら正体不明のテロを撲滅しようと思っても、武力を行使してそれを撲滅することはできない。国又は国に準ずる組織を、我々自衛隊が海外に行ってそこと武力を行使することはできないんです。にもかかわらず、総理はこのような治安状況のイラクに自衛隊を派遣するという大変重い決断をされました。今、自衛隊がこの基本計画にのっとって派遣された場合、正に現場では、この治安が悪化している現場では何が起こるか、これを想像しますと、私は政治家としてどうしても責任取ることができないという思いから逃げることができないんです。今日は、テレビをごらんの国民の方々と同じ目線で、より具体的に現場を想定して質問をしたいというふうに思います。
 まず最初に、イラクで自衛隊が武器を使用する際、それが憲法であるとかイラク特措法に禁じているいわゆる武力行使、これに当たるかどうかの判断は、相手が国又は国に準ずる者かどうか、すなわち国際性、計画性、組織性、そして継続性、この四つの要素を兼ね備えているかどうかということなんだろうというふうに思います。ところが、その相手が国又は国に準ずる組織かどうかという判断は、現場の自衛官が行うんではなくて、現場から八千四百キロも離れた東京の防衛庁長官がそれをしろっていうんでしょう。内閣総理大臣、それに間違いないですね。総理。
○国務大臣(石破茂君) これは前の法案審議のときにもお答えをしたと思いますが、相手が国又は国に準ずる者であろうがなかろうが、この法案に定められた武器使用の権限が変わるわけではございません。相手が国又は国に準ずる者であったから正当防衛、緊急避難を危害許容要件として武器使用ができないなぞということは、私は一度も申し上げたことはございません。その場合に、身を守るという行為は相手がいかなるものであったとしてもこれは行い得る、当然のことでございます。
○榛葉賀津也君 国又は国に準ずる者の判断は防衛庁長官がなさるんですね、イエスかノーでお答えください。
○国務大臣(石破茂君) これも条文に書いてあるとおりのことでございます。つまり、そのようなことが起こりました場合には、一時休止、退避するなどして指示を待つということになっております。その指示をするのは防衛庁長官でございますし、したがいましてその判断を現場の隊員に負わせるというようなことはございません。
○榛葉賀津也君 一時退避するんですね。それまでの間、じゃ防衛庁長官が判断するまでの間、現場の自衛官は何をするんですか。
○国務大臣(石破茂君) それはどういう状況、まさしく国民の目線に立って状況をリアルに示しながらというふうにおっしゃいました。それは戦闘が行われるようになったということと、我々がそれと遭遇したということは別の話でございます。そしてまた、活動をする期間においてそのようなことが行われることがないと認められるということは、逆の認められるようになったということも、我々がそういうようなものに遭遇をし、武器を使用しているという状況は想定をされません。
 ですから、その間何をしているのだというお話ですが、実際に我々に対して急迫不正の侵害が加えられた場合には、これは法に定められた要件で武器を使用することに相なります。そうでなければ、そういうような情報に基づいて、退避をし、休止し、指示を待つ、この二つの判断、二つの行為の態様が考えられます。
○榛葉賀津也君 それが現場が全く分かっていないと思うんですね。事件はですね、映画じゃないけれども、防衛庁の会議室で起こっているんじゃないんですよ、現場で起こっているんですよ。正にテロリストかどうかも分からない、武器を持っているかどうかも分からない。しかし、その可能性のある人間が、イラク人が自衛官に向かってやってくる。その人間に対して、怪しい人間に対して撃つのかどうなのか。撃ったら相手が憲法の武力行使を禁止する相手だったかもしれない。正にその判断を現場の自衛官ができないというんです。八千四百キロ離れた防衛庁長官の指示を待たないとその怪しい判断をできないというんですね。
 現実は、ですから総理、撃つのか逃げるのか、危なかったらですよ、退避するか非戦闘地域へ行くというんですよ。そんなことが現場で可能ですか。撃つか逃げるか、いわゆる殺されるかですよ。
 どうですか、総理。
○国務大臣(石破茂君) 先ほど来お答えをしておるとおりでございまして、そのことは憲法判断とは何の関係もございません。相手が国又は国に準ずる組織であろうが物取りであろうがテロリストであろうが、急迫不正の侵害があった場合に正当防衛、緊急避難を危害許容要件として武器を使用できる。それは、相手がどのような者なのか、それについて隊員が判断をすることでもございません。まして、防衛庁まで判断を求めるということではございません。この議論はPKOのときからしておることであって、いいですか、相手が国又は国に準ずる者であろうがなかろうが、自らに対して急迫不正の侵害があった場合に正当防衛、緊急避難を危害許容要件として武器を使用し得るということは何ら変わりはございません。
 このことは憲法論議とは一切かかわり合いのないことでございます。現場の人が、これは国又は国に準ずる者なのだろうか、正当防衛、緊急避難の要件を満たしているけれども使っていいのだろうか使っちゃいけないのだろうか、そのような判断をするような法律にはなっておりません。このような議論は──何がですか。
○榛葉賀津也君 長官が行うんでしょう。
○国務大臣(石破茂君) 長官が行うものではありませんよ。その場合に撃つのか撃たないのかは、それは隊員の判断です。現場に指揮官があるときは指揮官の命令に従う、法律に書いてあるとおりでございます。そのことを防衛庁長官が判断をするということはございません。防衛庁長官が判断をいたしますのは、活動を休止し、避難し、指示を待つ、その場合の指示で、実施区域を変更するということになれば、それは防衛庁長官の判断を待つことになります。
 しかしながら、実際に安全な地域へ避難していく、その場合に、防衛庁長官、ここに避難してもよろしいでしょうか、そのような判断を仰ぐことはございません。それは現場の判断でございます。実施区域を変更するということになれば、それは防衛庁長官の判断ということになりますが、どこに逃げましょうかということについて判断を仰ぐものでもございませんし、この場合に撃っていいかどうかという判断を仰ぐものでもございません。
○榛葉賀津也君 ここから先が安全で、ここから先が安全でないということは何にも書いていないんですよ。それは正に現場が防衛庁長官の判断を、来るまでに常に危険に遭遇するんです。
 次に、交戦規定、いわゆるROEについてお伺いします。
 これも極めて非現実的なんですね。交戦規定、いわゆる敵が来る場合、警告をする、そして威嚇射撃をする、そしてそれでも駄目な場合は急所を外して撃つのかどうなのかという、いわゆる交戦規定でございます。これ、アラビア語で止まれ、撃つぞ、そしてその怪しい人間が何を答えているかも分からない状況で、一体これ、実際に機能するんでしょうか、長官。
○国務大臣(石破茂君) 先生が中東の状況について大変にお詳しいということにつきましては、私は平素から大変な敬意を払ってお話を承っておるつもりでございます。
 しかし、同時に、これだけは申し上げておきたいのでございますけれども、実際に赴く自衛官たちがこの場合にどうやって身を守ることができるかということを一番真剣に考えています。そして、部下の命を預かる指揮官たちも本当に真剣に考えています。佐藤政務官が、前政務官がお話しいただきました、先ほど。それは、本当に防衛庁に務めていただいて、そして現場の隊員と何度も何度も話をして、現場の隊員が何を考えて行動しているかということを御理解いただいて御質問をいただいたのだと思っています。
 榛葉先生にも是非御理解をいただきたいと思うのは、本当に我々が机上の空論、言葉の遊び、そのようなことで隊員の命をお預かりしていいとは思いません。現場の指揮官もそのようなことは考えておりません。どうすればいいか。
 例えば、今、現地の言葉で何と言うんだということをおっしゃいました。私はアラビア語を存じませんからこうだということを申し上げるだけの知識を、ごめんなさい、持ち合わせておりません。しかし、どういうようにして警告をするのかということは、当然、現地の方に分からないような形で警告をしても意味がないわけでございます。アラビア語の基本的なものをどうやってマスターするか、そのカリキュラムを作って今やっておるところでございます。
 しかし、じゃ、急所をねらって撃つとか、そのようなことは非現実的ではないかと。あるいは、じゃ警告射撃せずに撃ってもいいのかということになってしまいます、先生そんなことをおっしゃっておられるのではないでしょうけれども。どうしたらば自分の身を守ることができるか。
 それは結局、急迫不正の判断というものをどう行うか、そのROEに従って行動した場合には現場の指揮官あるいは隊員の責任は問わない、それがROEの意味でございます。それは文民統制というものをきちんと形にするためにROE、部隊行動基準というものはございます。それは、判断が遅れないためにということと、法律に基づいて作られたROE、法の趣旨を体して作られたROE、それに従っている限りにおいて決して責任を問われることはないんだ、二重の意味をROEは持っております。
 それが、委員御指摘のように、非現実的なものだというふうに隊員が思わないように、私どもも、気が付いたところ、おかしなところ、それはもうすべて言ってくれということを申しております。足らざる点があれば、どうぞまた御指摘をいただきたいと思います。
○榛葉賀津也君 アラビア語で言えますかどうかなんということを言っているんじゃないんです。そういった基本的な訓練を防衛庁がやっていることは私もよく存じ上げている。しかし、現場ではいろいろなことが起こるということです。正に防衛庁長官おっしゃったように、机上の空論ではなくて、現場の自衛官が困らないように我々がきっちりといろんな場面を具体的に想定しなければいけない。具体的な、基本的なアラビア語を覚えて、止まってくれ、止まらないと撃つぞと言う。しかし、その人間がアラビア語で何か知らないけれども返事をして、また迫ってきた。その人間は道を尋ねているのかもしれない。
 しかし、カンボジアのときだってそうでしょう。カンボジアのときだって、自衛官の体験談は、我々じっとうずくまるしかなかったと言っている自衛官が一杯いるんです。トリガー引けなかったと言う自衛官が一杯いるんです。さらに、言葉が全く使わない自衛官が現場にいるときで、そのようなときに具体的に現場のことをどう考えているんですかということを私は聞いているんであります。
○国務大臣(石破茂君) ありとあらゆる場合を想定していると申しました。それはどういう場合かというのをこの場で御披瀝をすることは決して適切だとは思いません。しかし、本当に、現場に赴く自衛官、カンボジアの例をおっしゃいました、カンボジアの例も教訓として、すべて自衛隊の中で受け継がれ、どう対応するのか。あるいはゴランでも、あるいは東ティモールでもそうです。実際にそういうような思いをした自衛官たちがこの場合にはどうなんだということを議論し、場面を想定して、迷わないように考えております。
 もう一つは、この条文に書いてありますように、現場に上官があるときは、その指揮に従うということが書いてございます。一人一人の負担に負わせるということではなく、一人一人の判断に帰するものではなく、自衛隊というのは基本的に、書き方として自衛官はという書き方をしてございますが、警察とは違いまして、部隊単位で動くものでございます。現場に上官があるときは、その判断に従う。基本的に現場に上官はあります。その人間に対しましては、更にこの場合にどうする、どうする。委員が今御指摘になりましたように、相手がアラビア語で何か言っている、分からないと。その場合にどうするのか、そういう場合も含めまして、ありとあらゆる想定をいたしております。
 これで一〇〇%ということは申しません。毎日、朝から晩まで、この場合はどうだ、この場合はどうだ、外国のPKOでどんな例があった、外国のPKFでどんな例があった、それこそ何百という例を積み重ねていきながら議論をし、万全を期すべく努力をしておるところでございます。
○榛葉賀津也君 私がなぜこのような具体的なことを例に挙げるかというと、やはり奥さんと井ノ上さんの例なんです。我々はこのような悲劇を絶対に起こしてはいけない。しかも、彼らは交通事故で死んだんじゃないんです。我々がなぜこの事件にショックを受けるのか。それは、ひょっとしたら起こるかもしれない、起こるんじゃないかとみんなも感じていた。そして、思っていたところにやっぱり起こってしまったかと、なぜ防げなかったんだというこの悔しさと無念さがこの問題を私は更に深刻化させていると思うんです。ですから、この自衛官の問題も、私は、細かい問題だからいいのではなくて、きっちりとこの問題を議論して絶対にこういう問題が起こらないようにしなければいけないんです。しかし、現実、起こり得るんですよ。
 総理、先ほどの佐藤委員の質問で、自衛隊はできないことをできるのが自衛隊なんだ、民間ができないことをやる、自己完結的に自衛隊はできるんだと、だから自衛隊に行ってもらうというふうにおっしゃった。しかし、我々の法治国家としての法の枠組みで自衛隊にやってほしくてもできないことは一杯ある。状況が非戦闘地域からいわゆる戦闘地域に変われば我々のそこでの復旧支援活動も基本的にはできなくなる、退避しなければいけないんですから、非戦闘地域に逃げなければいけないんですから。水支援や復旧支援等の事業、いわゆる自衛隊にできることをやっていても、それができない状況になってしまう。そして、先ほど来話があるように自衛官に危害が及ぶ可能性がある。現実問題として、我々、二人の日本人も現場で命をなくしている。
 今回のこの基本計画で小泉総理は、自衛隊をイラクに派遣し、もし自衛官に命を落とす等の事件があった場合、政治責任をお取りになるつもりですか。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 自衛隊が武力行使に行くのではありません。正当防衛は武力行使に当たらない。今いろいろな想定をしながら、安全確保のためには十分な配慮をしていかなきゃならないと思っております。
 そういう中で、自衛隊ができる分野があるからこそ自衛隊派遣すると。そして、イラク人から必要とされるような任務を遂行していただく。それを立派に果たし、無事帰国してもらうのが私の責任だと思っております。
○榛葉賀津也君 戦争開戦以来、五百名を超える米英兵が既に命をなくしました。そして、それよりもはるかに多くのイラク人も亡くなっております。五月一日のいわゆるブッシュの戦闘終結宣言以降も、その戦闘終結宣言前の死よりもはるかに上回っている。昨日もテロが起こった。
 自衛官にどのような危険があるかどうかは、これは総理の言うように、以前言いましたよね、死ぬかもしれない、現地に行ってみなきゃ分からない。私は極めて無責任な対応であると言わざるを得ないと思います。
 もう一つ、具体的な質問をしたいと思います。
 邦人が誘拐された場合、普通なら自国の仲間が誘拐された場合は当然それを奪還に行くというのが普通だと思うんですけれども、自衛隊員が誘拐された場合、これはどのように現地の自衛隊は対応されるんですか。
○国務大臣(石破茂君) 一般の民間人の方の場合には退避勧告が今出ておるわけでございまして、それを勧告に従わずに行かれたということをどう考えるかということがございましょう。
 自衛隊員だったらどうなのだというお話でございますが、それは自衛隊員が拉致、誘拐の場合をおっしゃっておられるんだろうと思います。自衛隊員の場合には、それが拉致、誘拐をされた場合にはもちろん現地の治安機関ともいろんな連携を取っていたします。私どもが、現地のCPAが治安を管理しておる中にあって勝手な行動をしてはならないというのは当然のことでございます。それぞれの国が勝手な行動をみんながばらばらにし始めたら、それは治安の維持ということにもつながりません。
 しかしながら、我々の構成員であります自衛官が拉致をされた場合にはそれを捜索に行くというのは当然にあることでございます。拉致をされても捜索にも行かないというようなことが組織としてあっていいことだとは私は思いません。そして、捜索をしに行った場合に発見をされた、そうすれば説得をするということになる、拉致をした相手方をね、ということになるのでしょう。そして、その過程においてどういうような場面が生ずるか、それは法律にのっとってやることでございます。しかしながら、自衛隊員が誘拐をされる、拉致をされた場合に捜索にも行かないということだとは私は思いません。
○榛葉賀津也君 テロリストが説得に応じるかどうかは別問題としてですね。
 では、イラクの復興支援職員、これが拉致された場合はどうなるんですか。
○国務大臣(石破茂君) それは、復興支援職員という方が活動をします場合には、この議論の当初からずっとお答えを申し上げているとおりでございますが、復興職員は自衛隊員ではございません。したがいまして、それが活動を行う場合には自衛隊が活動を行う地域よりも更に、つまり何の権限も持っていない、訓練もしていない、装備も持っていない、そういうような復興支援職員が活動します地域は、相当に安全が確保された地域でなければそんなことはできません。したがって、そういう場合に拉致とか誘拐とか、そういうことが起こるというのは極めて考えにくいことでございます。
 それが誘拐をされた場合には、我々の活動と一体的な活動をしているのか、それともそうではないのか。そういうことによって、先ほど捜索に行くことは当然だということを申しました。そういうことになるのか、それとも、全く我々の活動、自衛隊の活動と違う活動をされておられた場合に、現地の治安機関に第一義的にその対応をお願いするということは、事柄の性質上、当然差異が出るのは当たり前のことでございます。
 人道復興職員を自衛隊が守るべきだ、あるいはそれを捜索に行くべきだという御議論は、それは御議論としてはあるのかもしれませんが、それは自衛隊員が活動している場面、そして状況、それと人道復興支援職員の場合にはおのずから違う。それを前提に置いて議論すべきものだと私は思っております。
○榛葉賀津也君 そうですか、人道復興支援職員と違うんですか。以前は同じというふうに言っていたんですけれども。まあ、結構でしょう。
 NGOの職員が拉致された場合、これはどうなりますか。先ほど、そういった想定は考えにくいと言った。でも、あちこちであるんですよ、想定できるんですよ。イラクの状況、分かっているでしょう。
○国務大臣(石破茂君) 赤堀さんという方、学校の復旧に当たっておられた方ですが、その方がイラクから出国をされました。それをもってたしか最後だと思っております。私が報道で知る限りにおいてです、間違っていたらごめんなさい。
 現在、今、退避勧告が出ているのですね。イラクにおいて活動するということは、それは危ない、退避しなさいという勧告が外務省から出ておる、その中において行っておられる方々。本来、日本政府としてそういうようなことはお勧めしませんという勧告が出ているわけです、退避してくださいということを言っておるわけですね。その中においてNGOの方々が活動をされる。委員の御指摘は、そういうような退避勧告を看過して行かれた方々も自衛隊は守るべきだ、あるいはそれを救出に行くべきだという御議論なのでしょうか、あるいはそうではないのでしょうか。
 今の法律で考えました場合に、そのようなことは予定をしておりません。それを予定をしておらないと申し上げましたのは、本来、邦人の方は退避勧告に従っていただける、そうでなければ退避勧告の意味も何もございません。したがって、その事実にもかかわらず、そういうことが行った、行われた場合にどう対応するか。少なくとも、そういうことはあり得べきではないと思っております。
 やはり治安というものが確保されて、そしてNGOの方々の崇高な思いというものが実現する、そういう環境が実現をされるということが望ましいと思っています。
○榛葉賀津也君 それはダブルスタンダードですよ。今の治安の悪化の状況と、これから先、NGOも行く可能性があるんですから。そして、その状況で治安が悪化して、若しくはその治安がいいと思っても拉致される可能性があるんだ。そして、そのときにNGO職員、日本の旗の下で、奥さんも言っていますよ、頑張れ日本のNGO、正にNGOに対する期待も高まってくる。これから多くの外務省職員とともにNGOがきっちりと現地で働いてもらう場面が今後増えてくるでしょう。そのような場合に十分拉致の可能性がある、その場合はどうするんですかと言っているんです。
○国務大臣(石破茂君) いや、私はダブルスタンダードと申し上げたつもりは全くございませんで、現在、NGOの方であれ何であれ、退避勧告が出ておることは事実でございましょう。それは事実でしょう。にもかかわらず、治安が非常に悪い。NGOの方々がどんなにそれをやろうと思ってもそれが実現できる環境にない。そうであれば、その思いも達成されない。
 奥さんがおっしゃっておられることは、私もイラク便りの中ですべて読みました。頑張れ日本のNGO。NGOの活動がどれだけ意味のあるもので、そして現地の人々に喜ばれるものであるかということは、私もずっと外務委員会に籍を置いてある程度知っておるつもりでございます。しかしながら、それが実現できる環境にない。そこにNGOの方々が行かれるということは想定できないということを申し上げておるわけです。
 それで、仮に退避勧告が解除をされてNGOの方々も行けるというような治安状況になりました、にもかかわらずそのような状況になってしまいましたという仮定において物事を申し上げた場合に、そこにおいて自衛隊が、自衛官あるいは活動を同じくしている政府復興職員、それと同じというふうに評価をして捜索に行くべきなのか、救助に行くべきなのか、その場合の武器使用権限はどうなるのかというところまで御議論をいただいて、それでも自衛隊は行くべきなのである、退避勧告が解除をされNGOが行くようになった状況において拉致され、誘拐された場合に、自衛隊はそれを救出に行くべきであるというふうな御議論であれば、それは御議論として承ります。
 しかしながら、私は、そういう場合において、まず第一義的に現地の治安機関、これが対応し、私どもは外務省とともにその対応策を考えることはございますが、その場合に、第一義的に現地の治安機関が当たるべきだということは、私はことわりの当然だと思っています。
○榛葉賀津也君 時間がなくなりました。
 復興支援の途中に犠牲者が出た場合、撤回もあり得ると。それは長官が昨日の衆議院の答弁でもおっしゃったことでございますけれども、そのような場合、イラク国民にとっても日米同盟にとっても、正に最悪のシナリオですよ。正にこのような形で、私は大義もないこの形で自衛隊をイラクに派遣すること、それは全くもって間違った外交判断であるということを改めて指摘をして、同僚委員に質問を代わりたいと思います。
○委員長(山本一太君) 関連質疑を許します。若林秀樹君。
○若林秀樹君 民主党の若林秀樹でございます。
 私の方からも、今回イラクで亡くなられました奥大使、井ノ上書記官、そして現地職員の方に心から御冥福をお祈り申し上げたいと思います。
 全く個人的な件で恐縮でございますが、奥書記官は、済みません、書記官と、私が大使館にいたときの書記官だった、すぐそれが出ちゃうんですけれども、九三年に私が最初に勤務したときの一緒の同僚でした。彼からイロハ、外交のイロハ、復興援助のイロハを教えていただいた仲間でした。そのときの上司が堂道参事官でありました。あれから十年、堂道さんはイラクを担当する中東アフリカ局長になり、私は国会議員となり、そしてイラクで亡くなられた奥さんのこの件について話すなんというのは、だれも本当に想像できなかったと思います。非常に悔しくもあり、残念でもあります。今、天国にいたらどんなことを聞きたいだろうと、そんなことを思いながら少し質問を進めさせていただきたいと思います。
 奥さん、済みません、すぐ奥さんとなっちゃうんですが、奥大使も井ノ上書記官も外務省に入省され、本当に高い使命感を持って仕事をされ、そのことに悔いはないと思います。御遺族の方も誇りに思うと。すばらしいことだと思います。それ自体を私は否定するつもりは全然ありません。しかし、私は両外交官が亡くなられたのは、私は小泉総理の政策判断ミスによる結果だというふうに私は思います。
 二つです、それは。一つは、まずはやはり米国の大義なきイラク攻撃に対しまして小泉総理は支持をしたと。それがスタートでお二人ともCPAの前身でありますORHAに行かれたわけでございます。もう一つの政策判断ミスは、七月末にあれだけごり押しをしてイラク特措法を通しておきながら総選挙への影響、様々を考えて判断を先送りしたと、その結果ではないかというふうに思っております。
 奥さんは、あのころやはり最後まで自衛隊がイラクの地に入ることをやっぱり見届けたいと思ったんでしょう。だから彼は残ったんだと思います。イラクに自衛隊が派遣されていれば、彼はほかの仕事でそういう仕事に従事されていて、あそこに行くことはなかったと思います。私は派遣することを賛成しているわけじゃない、結果としてその判断がこういうことにつながっているということを申し上げたいんであります。
 その意味において、小泉総理のこの政策判断が今回の、改めて申し上げますが、事件に関連している、因果関係があるとお思いでしょうか。その点について簡単に答えてください。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 私は、今までの政策判断、間違ったと思っておりません。奥氏、井ノ上氏があのような形で命を落とされたということに対しては誠に残念でなりません。むしろ、ああいう優秀な外交官をねらい撃ちしたテロリストに対して強い憤りを覚えております。
 私たちは、このイラクの復興支援、人道支援に使命感と情熱を持って当たられた奥氏、井ノ上氏、さぞ無念だったと思いますし、日本としてこれからこの悲しみを越えてできるだけのことをしていかなきゃならないと思っておりますし、この奥氏、井ノ上氏の死の責任が私にあると言われますが、総理大臣としてイラクの復興支援に日本としてできることをやっていく、これが私の責任だと思っております。
○若林秀樹君 政策判断にミスがあるかどうかということをお伺いしているんではなく、単純に因果関係があるかどうかということを聞いているわけであります。これはやっぱり因果関係があるんです。それだけ難しい判断をしなきゃいけないのがこれはやっぱり総理でありますので、小泉総理の発言、一挙手一投足がいろんな面に影響するという重みを含めてやっぱり行動してほしいということであります。
 その上で、今回のテロの可能性をどの程度想定していたのか、総理にお伺いしたいと思います。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 私は、どういう状況かということを詳細には知っておりませんが、あの犯行の後、いろいろな状況調査等によりまして、あの地域はやっぱりかなり危険な地域だったろうと。そういう状況を知って、あえて赴いた奥氏、井ノ上氏、非常に自分として何かやらなきゃならないという強い使命感を持っておられたんだと思います。
 その後も、日本人外交官のみならず他国の民間人も殺害されているようであります。死の街道と呼ばれている面もあると聞いております。ということを考えますと、あの地域はかなり危険であるにもかかわらず、どうしてもやむにやまれない、何とかして自分の仕事をこなさなきゃならない、任務を果たさなきゃならないという強い使命感があったからこそ、恐らく奥氏にしても井ノ上氏にしても、危険を冒して必要な会議に出席しようということであのような残念な結果に陥ったんだと思っております。
○若林秀樹君 今の小泉総理の発言は、ある程度テロを想定していたという発言であります。その上で、その危険性を覚悟しながらあそこの会議に出ざるを得なかった。広い意味では、私は、川口大臣の訓令に基づいて行っているわけでありますから、今回のその可能性の高い地域にどうやってテロの襲撃を回避するような対策を取っていたのかお伺いしたいと思います。
○国務大臣(川口順子君) 総理が今おっしゃられましたように、イラクはいろいろなテロあるいは暴力ざたが起こっている地域、国であります。そして、その日本大使館に対する様々な情報についての収集も私どもは常に把握に努めてきておりまして、安全の対策についてはこれを可能な限り取ってきたということでございます。
 それで、出張を、についてどういうことをだれがその権限を持つかとか、そういうことについてはもちろんその組織組織でまあ判断をしていくということでありますけれども、安全をどのようにして守るかということについては、これは外務省の持っている現地の大使館における、あるいはこれはすべての国どこでもそうですけれども、行動のルール、マニュアルといったものがございます。これは、こういう時期でございますので、それがどういうものであるかということについては申し上げられないですけれども、それに加えて、それぞれの、イラクの場合、どういうような状況で想定される危険に対して守ったらいいかということは現地の情勢を一番把握している現地の大使館が知っている、一番よく分かっているということでございますので、その具体的、個別具体的な件についての安全の守り方、これについては基本的に現地の判断を尊重するという考え方でやってきております。
 いずれにしても、安全については今後引き続き状況に応じてそれぞれそのとき、その時々で対応していかなければいけない、これはしっかりやる必要があると思っています。
○若林秀樹君 その上でお伺いしますけれど、今回両外交官、現地職員が亡くなられた現場にその後だれも行っていないんですよね。なぜ、外務省、大使館が無理であれば日本国政府としてその原因究明になぜすぐに立ち行かないのか、これは非常に重要な問題です。もし、総理でも結構ですが、一応警察庁の方にもお伺いしましたけれど、お答えいただきたいと思うんです。手短に。
○政府参考人(奥村萬壽雄君) 現地へ日本の警察が行って捜査をすべきではなかったかというお尋ねでございますけれども、本件はイラクで起きた事件でございまして、関係者、証拠物等もイラク国内にございます。こうした場合は現地の捜査機関が必要な捜査を行うということが原則となっておりまして、現に現地の捜査機関が捜査に着手しているというふうに承知しております。
 ただ、我が国の警察といたしましても、本件事案、大変重大な事案でございますので、真相究明には可能な限り努力をしてまいりたいと考えております。そうした立場から、検視それから司法解剖等必要な手続を行っているところであります。
 御指摘の警察職員の派遣につきましては、現地の情勢を見極めて、関係機関とも協議の上、慎重に判断していくものと考えております。
○若林秀樹君 要は、行っていないわけですよね。
 私は、やはり日本国民がそこで殺されているわけですよ。いいですか。広い意味での訓令によって行っているわけですから、そこに行けないような国が、他国へ行って、自衛隊まで派遣する資格なんかあるでしょうか。まずは自国民は自国民で守る、大変だったら護衛をアメリカに付けてでも行って、現場検証して、どういう状況だったのか、その判断があって次に初めて、私は、イラク派遣の話がある。ですから、自衛隊が現地でどうなったか、どうなるかによっては、その判断もしなきゃいけないんですよね。まず、ここで起きているにもかかわらず、それじゃ何もできていないということに対して、私は非常に情けないと思います。
 何か御発言があれば、お伺いしたいと思います。総理、済みません。総理にお伺いします。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) これは調査、日本だけでできるものではありませんので、米軍に協力を求めたり、現地の治安当局に協力を求めて、今、調査中であります。
○若林秀樹君 基本的には、こういう事件は現地警察当局に任せると言いますが、現地の政府、ほとんどないに等しいわけですから、やっぱりこういうことに対しては、我が国政府として、まずはやっぱりきちっとその捜査をする必要が私はあると思います。もし何かあれば。
○国務大臣(川口順子君) 今、総理がおっしゃられたとおりなんですけれども、事実関係として一つ申し上げておきたいことは、これは現地の大使館が事件の後、専門家を派遣をいたしております。したがって、政府は自ら調査をしています。
 調査に行った人は、これはイラク人であって専門家で、この道の専門家であるということであります。したがって、どういう、犯罪調査という意味では、捜査という意味では、何をしたらいいかということはよく分かっている人ということです。
 それから、現地で上村臨時代理大使が直後に、自分が是非行きたいという話がありました。それで、これについて我々としては、それを行うことによって二次災害が起こるということを是非避けなければいけないという考えを持ちました。その状況は今、続いています。プレスの方、日本のプレスの方、行っていらっしゃいますけれども、プレスということを付けて行くのと明らかに日本の大使館員が行くということでは、あの地域では非常に違いがあります。
 これは慎重にやらなければいけないと思っていますが、大使館として調査はいたしております。
○若林秀樹君 もうこれ以上は申し上げないと思ったんですけれども、要は、やっぱり自国民がそこで殺されているわけですから、その方がテロで殺されたのか日本人で特定されてやられたのか、そういうことも、検索、判断できる能力がないのに自衛隊を派遣して、そこで判断できるわけがない。まずはやっぱり目の前に起こっていることに対して日本国政府としてきちっとやるということが基本ではないかということであります。
 その上でお伺いしますけれども、事件発生からの不可解な情報の錯綜についてお伺いしたいと思います。
 両外交官から、十一時に襲撃されたというふうに聞いておりますが、十一時過ぎの会議に出て夕方まで五、六時間、ほとんど何の連絡もなかったと。最初に一報した情報が、買物をしていてその間に撃たれたという、この間の長い時間の間に何が起きたのか、お伺いしたいと思います。
○政府参考人(堂道秀明君) お答え申し上げます。
 奥大使、井ノ上書記官両名は現地事情に非常に精通しておりまして、治安の状況とか種々の危険についてもよく認知をしておったと考えております。
 両名は、イラク国民の利益に直結するいわゆる草の根無償の発掘にも取り組んでおりまして、そのために関連施設、関連地域に現地視察を度々行っております。そのため、移動の際には細心の注意を払うとともに、常時大使館に連絡を取れる体制を取っていたと承知をしております。
 事件が起きた十一月二十九日でありますが、ティクリットで開催予定のNGOや現地住民も交えた復興会議に出席するため、午前十時ごろバグダッドを出発しておりまして、午前十一時ごろには大使館と連絡を取ったことが確認されております。
 十八時四十分ごろでございますが、CPAより大使館に対しまして、ティクリット付近におきまして日本人らしき二名とレバノン人の運転手が殺害されたという連絡がございました。大使館としましては、両名が事件に巻き込まれた可能性があるとの懸念を高めた次第であります。
 しかし、この時点におきましては被害者を特定するID等は発見されておりませんでして、CPA、米軍等を通じて捜索の結果、深夜になりまして両名のパスポートが発見され、犠牲者が奥大使、井ノ上書記官であることが確認された次第であります。両名のパスポート等は米軍により地元住民より回収されております。
 事件発生時刻については、上村イラク臨時代理大使が奥大使と最後に連絡を取った午前十一時以降であります。両名は会議には出席しておりませんが、事件発生の正確な時刻までは現在のところ特定されておりません。
 それ以降、CPAよりの第一報を受けるまでの間につきましては、この復興会議が夕刻まで予定されていたこと、また、通常は夜に電話を定期的に報告をするという体制になっていたことから、イラク大使館の方より、この会議に出ていたものと考え、特段連絡を取らなかったと、こういうことであると承知しております。
○若林秀樹君 会議がありますとなかなか連絡が取れないというのは分かるんですけれども、十一時ごろ襲撃されて、米軍がそこへ行っているわけですよね。それで、その車も押収しながら、なぜ六時間後の米軍の情報が買物をしていたら撃たれたという情報にこれなるのか、非常に私はいい加減だというふうに思いますし、その後、訂正するまでに非常に時間が掛かっていると。これについて何か分かっていることがあったら、簡潔にお願いします。
○政府参考人(堂道秀明君) この米軍の当初の情報は、いわゆる初期情報、初期事件情報でございまして、私どもとしましても、これを受けた当初から幾つかの点につき確認を要する点があるものとしまして調査を要すると考えていた次第であります。
 したがいまして、先ほど大臣から御答弁がありましたとおり、私どもは、米軍に更に調査をするよう申し入れるとともに、現地にイラク人専門家を派遣し、現地警察を含めて独自の調査を行いました。その過程におきまして、十二月五日におきまして、米側より、更に調査の結果、当初の情報についてはある地域住民による誤った情報に基づくものであったとの通報があった次第であります。
○若林秀樹君 いずれにせよ、非常に情報が錯綜しておりまして不可解でありますので、きちっとこの点についても、今後はやっぱり調査していただきたいというふうに思います。
 その上で、最後に、その関係で、大使館の警護についてなぜいまだに民間会社に任せてやっているのか、それについて伺いたいと思います。
 今、イラクに軍組織を派遣している国の中で大使館を民間会社で警備を任せている国ありますでしょうか。川口大臣にお願いします。
○国務大臣(川口順子君) 今のは、イラクということ。一般に。
○若林秀樹君 イラクで。
○国務大臣(川口順子君) イラクということですね。
○若林秀樹君 はい。
○国務大臣(川口順子君) まず、一般論として申し上げますと、その存在をしている国が大使館の警備については責任を持つということがウィーン条約でなっています。
 イラクについて言えば、私の承知をしている限りは、日本以外の国は全部その国の武装警察、特殊警察あるいは軍によって警備をしているということでございます。
 外務省としてこの問題については問題意識を持っております。それで、どのようなやり方で警備をすることがいいかどうかということについて、これはかなり幅広い問題を有することでございますが、検討を開始をしたところでございます。
○若林秀樹君 確かにそれはウィーン条約で、公館はやっぱり不可侵である、ある意味で治外法権ということが確保されているわけで、正にあそこは、領土とは言えないまでも、国が基本的に、言わないまでも、そこを管理しなきゃいけない。接受国がそういう能力がないわけですから、私はやっぱり自衛隊というのは自国民を守る、正に専守防衛の観点から言えば自衛隊が守っても決しておかしくはない光景ではないかなというふうに思いますが。
 総理は、最初の会見のときに相互主義というお話をされました。相互主義といっても、もうほとんど現地政府にそういう守る能力がないわけですから、それで相互主義といっても私は通じないと思います。仮にイラクの大使館、今は武装した自衛隊が守らなきゃいけないかというと、そういう状況じゃないですから、そこは相互主義といってもやっぱり話合いによって解決できるわけですから、もっとよく見極めて、ましてや警備員ですから、民間警備員ですよ、ひょっとしたら家族を脅されて情報が漏えいされているかもしれない、そういうこともあり得るわけですよ。まずは一番その警護ということに対してやっぱり細心の注意を払わなきゃいけない。いまだに大使館の人はあの危機の中で働いているわけですよ。そういうところに思いを致したら、やっぱりそういう方に対してどうするかということを考えるべきだと思うんですが、いかがですか、総理。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 自衛隊派遣しようという場合に、正当防衛までが武力行使だといって批判される状況において、今自衛隊を派遣して治安警備に当たれということがどういう論議を呼び起こすかということも十分考えなきゃいけないと思っております。
 その点についてはよく国会でも議論する必要があるし、私どもも、自衛隊を今イラクに、大使館の警備に出せということを野党の自衛隊派遣に反対されている方が言うとは思っていませんでしたから、その点についてはよく民主党でも今後どういう考えか聞いてみたいと思いますので、国会において十分論議の価値のある問題だと思っております。
○若林秀樹君 これについては、民主党としてまだ議論を開始しているわけではありませんけれども、単純なやっぱり常識として私は考えてもおかしくないと思います。正に、自国民を守るのがやっぱり自衛隊の任務だとすれば、正に自衛隊を派遣する以前の問題として私はそれが論議されてもおかしくないんじゃないかなというふうに思いますので、そのことを申し上げて、次の質問へ移りたいというふうに思います。
 また総理にお伺いしたいと思いますが、総理はカンボジアPKOのときに、郵政大臣のときに、協力法の国会審議では、血を流してまで国際貢献しろという論議はなかったと、血を流してまでというのではない、撤退を含めて対応を要請という話がありました。
 今の状況を考えると、私はやっぱり百八十度に近いぐらいそのポジションは変わっていると思います。変わったことを非難しているのではありません。変わるというのは、やっぱり人間ですから時間を経れば学んでいろんなことは変わるわけです。どういう総理のその心境の変化があったのか、その当時と比べてどのように変わったのか、何を学んだのか、教えていただきたいと思います。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) そのカンボジアに自衛隊を派遣した場合の議論を間違えないでください。誤解しないでください。
 私は、カンボジアに派遣されたPKO、自衛隊の諸君は血を流す覚悟はしていなかったはずだと。汗を流すと。PKO活動に行くんで、戦闘部隊と戦う、想定していないはずだと。ところが、国内の一部から、警察官の方が亡くなられた、そのときに自衛隊なんだから戦うのは当たり前だという議論が一部に出たんです。だから、そのとき、私はそれは話が違うじゃないかと、あの協力法の趣旨は血を流してという議論はなかったはずだと、汗を流しても、血を流すという覚悟を持って自衛隊に行けというなんか言っていないはずだと。だから、そういう議論はおかしいと言ったんです。
○若林秀樹君 いや、ですから、自衛隊員もそういう覚悟を持って行っているわけですから、安全確保されているという枠組みで行っていてもそういうことが起こったということと今回の自衛隊派遣と何ら変わるものが私はないと思います。何でそのときは駄目で、今回そこまでやる必要があるかということに対してのつながりが私はないと思うんで、これは正直に答えてほしい。正直に答えてほしい。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 正直に答えているんですよ。今回も、自衛隊、戦闘行為に参加しろと、その覚悟をして行けとは言っていないんです。復興支援活動に行くんです。その際に、非戦闘地域というものを定めて、安全確保には十分配慮しようと。戦闘に参加しろなんて、そんなことを一つも言っていません。
 カンボジアの際には、そういう死者まで出したら、自衛隊なんだから血を流すのは当然だという議論が出てきたから、私はそういう議論で出したのではないということを閣僚として発言したんです。
○若林秀樹君 いや、それは撤退をしろということを含めて要請しているんです、そのときの発言を見て。よろしいです、全部ここにありますから。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 見ましょうか。
○若林秀樹君 いや、いいです、いいです。
 それで、まあそこで更に読みますと、血を流してまで国際貢献するとはなっておらず、憲法上の制限もある、日本の国際貢献には限界があることを心得なければいけない、欧米と一緒になってできないことをあえてしようというのはおかしいと。そこまで言っているわけですから、私は今回のその派遣とのつながりにおいてどういう心境の変化があったのかということを聞いているんです。駄目だとは言っていないんです。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 自衛隊にはできることとできないことがあるんです。米英軍みたいに掃討作戦、テロの掃討作戦とか戦闘行為に参加しないんです。自衛隊にはできないこととできることがある、できることは復興支援活動だと、できることはやるというのが一貫した私の考え方であります。
○若林秀樹君 でも、今回は万が一、時には血を流すこともあり得る、その上で国際貢献として我が国が国際社会の一員としてできることをやろうというのが小泉総理の発言の趣旨じゃないですか。そういう意味ではやっぱり違うと思いますよ、これについては。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) それは正当防衛まで血を流す行為かと。正当防衛をするためには安全な配慮をしなきゃいけない。そのために、敵が襲ってきたら戦う、そういう準備はしていかなきゃいかぬということであります。自衛隊、戦争しに行けと言っているんじゃないんです。復興支援活動に行けと言っているんです。ちっともおかしいと思いませんよ、私。
○若林秀樹君 いや、それは正当防衛でそういうことに遭遇すれば血を流すというのは、これは当然あり得ることですから、そこまで含めて覚悟しているという意味においては前回の九三年とはやっぱり多少違っているんじゃないですか。だから、違っていることを私は責めているわけじゃなくて、どういう心境の変化があったということ。ですから、もうこれ以上いいですよ。──じゃ、何ですか。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 違っていませんよ。どこへ行く場合でも正当防衛というのは私は認められております。正当防衛は武力行使には当たらないんです。それは武力行使と言う人もいるかもしれませんが、憲法上の正当防衛というのは武力行使に当たらないんです。
○若林秀樹君 まあ、その上でまたちょっと関連して質問させていただきますけれども、基本計画決定後の記者会見におきまして、小泉総理は憲法の前文の一部を取り上げ、派遣の論拠にいたしました。私は、やっぱり憲法というのは前文と条文があってセットでありますし、具体的には条文によって具体的な活動が規制されているわけですよね。そういう意味でいえば、私はやはり非常に御都合主義というか、本当に場当たり政治というか、もう本当に一部だけ取り上げてやっぱり使っているなという印象は強いと思います。
 その上でお伺いしたいんですけれども、昔、予算委員会で憲法の前文と憲法九条のすき間の、間にすき間があると、あいまいな点があるというのを覚えていらっしゃいますでしょうか。そしてまた、法律的な一貫性、明確性を問われれば答弁に窮するという発言もされました。なぜ今回、憲法の前文の一文のみ、一文のほかにもいろいろあるんです、憲法九条に触れずにその論拠としたか。私は、今回の派遣については、その前文と九条のすき間を埋めるための合理的な説明が小泉総理自身が見いだせなかったそのあかしではないか、だからああいう憲法の前文の一部分だけ使って、いかにもそれが正当性あるということについて、私は、明確にこれまでの発言から見ればしっかりした説明責任を果たしていないというふうに思いますが、いかがでしょうか。
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 私は、憲法の前文によって明確に説明し得たと思っています。憲法九条は多くの方が知っております。一方、憲法の前文、これを国会で議論される度合いは憲法九条よりも少ないと思っています。時間があります、記者会見には。全部を読むわけにはいけない。やっぱり、大事なところを読む必要がある。別につまみ食いとか何でもありません。私は、憲法の理念、平和主義、民主主義、基本的人権を尊重する、それで国際社会の中で自分の国のことだけ考えちゃいかぬと、圧政に苦しんでいる国民、これを除去しようとする努力をしようじゃないかと、それこそ自国が他国と対等の関係に立つんだという、言わば憲法の理念が前文に表明されている。あれを長々と最初から最後まで読んだら、聞いている人いい加減にしてくれと言うでしょう。どうやって短く大事な部分を取り上げるというのは政治家の判断なんですよ。
 そして、憲法にはあいまいな点が事実あるんです、日本国憲法には。自衛隊は戦力を持っていない。あいまいじゃないですか。そういうあいまいな点もあるんです、日本の憲法には。武力行使はしていない。復興支援活動は武力行使ですか。自己正当防衛までも武力行使だと言う人がいるぐらい憲法にはすっきりしない点があります。あいまいな点もあります。しかし、前文ということは、憲法の前文、前文ということは、憲法の部分的な各条の理念、指針を示したものであります。日本は武力を行使しないという九条がある。武力による威嚇、これもしない。しかし、憲法の前文でこれは世界の中で圧政や専制に苦しんでいる国民に手を差し伸べようと、それこそが他国と対等に立とうとする日本の責務だと言っている。この崇高な目的に向かって国家の名誉に懸けて全力を挙げようじゃないかということも書いてある。これをうまく調整させると。その理念と、日本は戦争に行かない、戦闘行為に参加しない、しかしイラクが立ち上がることができるように復興支援、人道支援に行こうという、正に憲法に合致した大義名分のある自衛隊派遣だということを言いたかったわけです。
○委員長(山本一太君) 若林秀樹君、簡潔にお願いいたします。
○若林秀樹君 もう時間が来ましたんですが、やはり今のお話を聞いていても、前文と九条のすき間を埋めるための合理的な説明は見いだせないというふうに思います。
 例えば、前文の中には、政府の行為によって及び戦争の惨禍が起きることのないようにするとか、様々なことが抜かしながら、このいい部分だけ取って、やっぱり私はその正当性を言ったんではないかなというふうに思います。
 いずれにせよ、私もイラクへの自衛隊派遣を反対するという立場を再度申し上げまして、私の質問を終わらさせていただきます。
 どうもありがとうございました。
○委員長(山本一太君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。
   午前十一時五十五分休憩


2003/12/16

戻るホームイラク目次