2004年10月13日 |
民 主 党
T 基本認識
○民主党は、ブッシュ大統領の「主要な戦闘の終結」宣言の後も、イラクが「戦闘地域」「非戦闘地域」を峻別できない情勢下にあり、憲法そしてイラク特措法に定める自衛隊の派遣要件を満たしていないと主張し、自衛隊のイラクからの撤退を求めてきた。
○パウエル米国務長官を始め、米調査団最終報告等により、イラクにおける大量破壊兵器の存在が公式に否定されたことによりイラク戦争の正当性は根底から崩れた。小泉総理は、民主党が提起した重大な懸念に耳を貸さなかったばかりか、独自の情報収集・分析を怠り、不正確かつ恣意的な情報に基づいて、安易にアメリカのイラク攻撃を支持したことに対し、しっかりと国民に釈明すべきである。
○本年6月28日に行われたイラクへの主権移譲後も、イラクの治安は一向に改善する兆しを見せておらず、復興も頓挫している。また、幅広い国際協調体制を再構築するためには多くの課題を残しており、仏・露・中といった国連安保理理事国のみならず、独・印やアラブ諸国など、多くの国が積極的に関与できる環境も充分に整っていない。
〇小泉総理は、誤った根拠に基づき行われた戦争がもたらした今日のイラクに対する責任の一端を担うものであるが、一向に改善しないイラクの治安情勢を見ても、米英主導のこれまでのイラク復興支援のあり方に問題があることは明らかである。
○自衛隊主導の復興支援を再考するとともに、企業、NGO、国際機関も含めた「民」との連携を活かし、「人間の安全保障」の視点に立ったわが国にふさわしいイラクの復興支援活動を実施していくことが重要である。
U 復興支援政策
1.支援の前提
○基本的な立場: 食糧や医療などの緊急人道支援は、世界食糧計画(WFP)などの配給や、既に国際社会からの支援などが一部実施されている。また、電力施設等の基礎生活インフラも、世銀などの国際機関やわが国などの援助プログラム等も提示されている。もともと、イラクは豊かな石油資源を持ち、先進国なみのインフラが整備された国家であったことに加え、国民の教育レベル、技術レベルも高い。日本企業も参加して、これら既存のイラクの資源や財産を有効に活用できる態勢の整備を支援することに主眼を置くべきである。
○日本のNGO等への対応: イラク全土は治安が回復しておらず、未だ退避勧告状況下にあり、人質問題が懸念される中、NGOや企業を始めとした文民が活動できる環境が整ってはいない。しかし、現地スタッフの活用などを通して貢献できる道はある。尚、日本人の活動についても、明確な自己責任原則の下に活動し危機管理対応を有していると認められるNGO等の支援要請に対しては、治安情勢を踏まえ、可能な限り支援を行っていく。
〇援助のあり方: 民主党としては、対イラク復興支援を機に、「紛争下における援助のあり方」を今後さらに検討していくことが必要である。とくに、治安悪化のため日本人を現地に参加させ難い事態を想定した場合に、従来の手取り足取り的な援助ではないやり方で、イラク人自身の自立・独立性を強化していくことが有益と思われる。TV会議などの近代的技術を駆使して、隣国・隣接地域等から「きめ細かなモニタリング」を通じた支援の実施が可能となるようなシステムを構築していくことが必要である。また、国内においては、支援募金を呼びかけ、支援の輪を広げていくことも重要である。
2.復興支援の具体策
民主党は、対イラク支援に二国間援助や多国間援助など、国際社会による支援の枠組みがある中、わが国政府の対外公約(総額50億ドル)を念頭に入れながら、より効果的な「日本の顔の見える援助」を模索していくべきであると考える。2003年6月にまとめた民主党のイラク復興支援策を踏まえながら、以下、イラクの現状に基づく当面の具対策を提示する。
【1】情報の共有― 「イラク情報センター」(仮称)の創設
官邸・外務省等が有する各国の動向に関する情報や、防衛庁が有する現地サマワの治安などに関する情報はもちろん、NGOや、現地に拠点をもつ企業も、独自の観点からさまざまな情報を有している。しかし、そのほとんどが有機的に活用されておらず、現地で復興支援活動に従事する人達に共有されていないのが実態である。また、せっかくイラク人のため実施した支援も、実施主体間で十分な連携がとれていないため、必要な復興ニーズに応えきれていない。
→ 官民が容易に利用できる「イラク情報共有センター」(仮称)を設立し、安全情報や各援助主体の実績、進捗状況、物資調達、計画管理などを始めとする各種情報を交換し、イラクでの人道復興活動に役立てる。
【2】雇用― 現地ニーズの把握― 「ジャパン・ファンド」(仮称)の創設等
国民の50%以上が依然失業状態という調査もあり、とくに、数十万人にのぼる失職中の旧公務員や旧軍人・治安関係者などの生活不安は、反米感情を増幅させ更には治安問題と結びつく危険性があり、現地の治安の回復も思うように進まないため、必要な文民支援が頓挫している。
(1)「ジャパン・ファンド(雇用促進基金)」の創設:イラクで起業(ベンチャー&スモール・ビジネス等)を行おうとするイラク人、また、下記「職業訓練センター」での技術修得を目指しているイラク人、さらに、女性のエンパワーメントを促進するイラク人などを支援するために、「ジャパン・ファンド(雇用促進基金)」(仮称)を創設する。
(2)「NGO等による職業訓練センター」(仮称)の創設:イラクやヨルダンには、NGO在イラク調整委員会(NCCI)があり、NGO約100団体の連絡・とりまとめを行っているが、このようなNGOの連絡会とも積極的に連携し、隣国ヨルダンのアンマンに、NGO等による「職業訓練センター」(仮称)を設立・運営する。日本企業や各NGOがこれまで蓄積してきたノウハウや情報を下に、的確に現地ニーズを把握し、それらに基づき、技術者、医療従事者、教育者等を養成し、順次に帰国させるプログラムを実施する。
(3)日本企業等の参加の環境整備:雇用を持続的に拡大させていくには、東南アジア発展の例に見られるように日本企業などの参加を容易にする方策が必要である。その意味で、雇用拡大に協力する企業に対し、「ジャパン・ファンド」の活用や、対イラク投資リスク軽減化などを検討していく。
【3】治安回復― 市民生活を尊重した警察制度の導入
未だテロ攻撃や強盗・略奪など継続的に発生しており、イラク国民の不安も大きい。わが国や国際社会が経済活動を行うため、実際に起業して、復興努力を推進するためにも治安回復は不可欠である。
→ 国民を監視の下に置く警察国家だったイラクの警察・行政機構の民主化を促進し、治安を早期に回復していくため、高度技術等を使った警察システム、市民生活を尊重した警官のモラル等に関するガイダンスや訓練などを実施する。その際、NATO諸国とも緊密に連携していく。
→ 日本企業やNGOの連携・協力により、せっかく設立した企業が武装勢力の攻撃対象にならないような配慮(経営トップに中立的な地元有力者を起用すること等)も重要である。
【4】生活基礎インフラの整備― 周辺諸国との連携
電力、上下水道や、放送・通信施設、学校・医療施設の整備等の早期復旧が急がれる。
→ これらのプロジェクトを、イラク国民の雇用創出に役立てるだけでなく、アラブやアジア諸国等との共同プロジェクトを行うなど、これら諸国との外交協力関係を同時に強化していく。
【5】子どもたちの救済― 「子どもの家」の設置、緊急高度医療支援
将来を担うイラク人たちが、自立と共生に基づく健全な社会を構築していくことを側面支援していくことは、イラクのみならず地域の安定と発展のためにも重要である。
→ イラク戦争により両親を亡くしたり、負傷した子どもたちを中心とした施設の設置及び運営を広範に展開する。
→ 先進国での高度医療のために来日したムハンマド君のような子どもたちや劣化ウランなどの影響で苦しみ、医療が必要な子どもたちに医療機会をスムーズに提供するスキームを構築する。
【6】選挙の態勢整備― 国連及び国際社会との連携
来年1月までに予定されているイラク国民による選挙の実施が治安悪化で危ぶまれているが、平穏かつ公正な選挙によるイラク政権の樹立は、政権の正当性の観点からも極めて重要である。
→ 選挙監視の十分な実績がある国連や欧州諸国の動向を踏まえながら、治安状況を見定めつつ、わが国から選挙監視団を派遣することも念頭におき、実施態勢の整備に協力していく。以 上
2004年10月13日 |