総論
- 「基本方針」の本来の意義は、小泉内閣が実行する改革プログラムを示すこと。しかし、全体から受ける印象は、学者・評論家の作文であり、「何がなんでも改革を実現する」との小泉総理の決意は感じられない。具体的な改革実現のスケジュール(いつまでにやるのか)、実現の手順(どのようにやるのか)もほとんど示されていない。
- 将来どのような日本を創るのかというビジョンに説得力がない。「基本方針」の背景にあるのは市場原理のみを強調した、20年遅れのサッチャリズムではないか。民主党は、市場原理をより重視することに異論はないが、同時にその結果として生じる不公正の是正に対し政治が十分に責任を果たすべきと考える。この社会的公正の実現という視点が「基本方針」には欠けている。
- 「基本方針」の位置付けが不明確である。閣議決定する以上、政府・与党全体を拘束するのは当然だが、自民党内からは早くも異論がでている。小泉総理は「与党を含めてこの基本方針でいく」ことを明確にすべき。このままでは参院選に向けた宣伝ペーパー以上の意味はなく、改革は絵に描いたモチになる。
不良債権処理
- オフバランス化の対象が極めて限定されており、不良債権の抜本処理に取り組む意思が政府にはないと考えざるを得ない。まずは要注意先64兆円の資産査定を厳格にやり直し、査定結果に基づく引き当て(間接償却)を完全に行わせるべきであり、ごく限られた債権の直接償却のみ強調するのは問題のすり替えにすぎない。
- 公的資金による資本注入を受けた金融機関については、民事再生法など法的整理を中心とするとの方針を明確にすべきである。企業の再建が確実でかつモラル・ハザードを招くことのないもので、かつ株主や経営者の責任を問える場合を除き、安易な債権放棄は認めるべきでない。
経済の再生
- 最も重要な経済の再生について具体的な政策が盛り込まれていないこと、タイムスケジュールも示されていないことは、「基本方針」の中身のなさを象徴している。
- 民主党が主張しているエンジェル税制の拡充、公正取引委員会の内閣府への移管、通信・放送公正競争委員会(日本版FCC)などの具体論が欠落している。公取については小泉総理が、日本版FCCについては竹中大臣が積極的な姿勢を示しているにもかかわらず、これより後退していることは問題である。
財政構造改革
- 財政構造改革の必要性と一般的な手順が書かれているだけで、資源配分の見直しの具体的な方向は特定財源の見直し、公共事業と非公共事業の区分にとらわれない配分等、抽象的な記述しかない。
- 「基本方針」は、近い将来の増税を前提にしているのではないかと思わせる。歳出の抜本的見直しを踏まえた削減策を実行することなく増税により財政再建を図ることは断じて容認できない。
- 予算編成における諮問会議の役割を高めることに異論はないが、各省庁の要求、与党の関与がどのようにこの新しいプロセスに組み込まれることになるのか不明である。政府と離れた立場での与党の勝手な放言を認めるべきではない。各省庁及び与党が一致して改革に取り組むことの担保を明確にすべきである。
公共事業改革
- 公共投資のGDP比を中期的に引き下げていくとだけ書かれており、実際にどのようなスケジュールでどこまで下げるか不明である。本当に公共投資を削減する意志があるのであれば、民主党が主張しているように、5年で3割削減という方針を、法律上明記すべきである。
- 公共投資の削減のためには、特定財源の一般財源化、長期計画の抜本的な見直しが必要であるが、これらの具体的な提言が欠けている。
- 公共投資を削減するためには、重点的に整備する分野ではなく、「重点的に削減する分野」(たとえば土地改良事業など)を明記すべきであるにもかかわらず、族議員からの反発をおそれ、具体的な指摘がなされていない。
雇用・社会保障制度改革
- これまでの雇用政策の総括なくして、突如出てきた「530万人の雇用」だが、いったいどのように生み出すのか、その根拠が示されていない。
- 不良債権処理の影響に備えたセーフティネットについては、「一層の充実を図る」「拡充、総合化」といった言葉のみで、従来のメニューを並べているだけにすぎない。具体的政策は提示されておらず、不良債権処理と同時に抜本的な雇用対策を行わねばならないとの危機意識を欠いている。
- 医療制度改革についていろいろ述べているが、いずれも従来、日本医師会等の反対で先送りされてきた課題であり、今回も実現できるかどうかは疑わしい。とくに診療報酬改定は、勤労者の所得が減少していることを十分に踏まえたものとすべきである。また、国民の最大の関心事である高齢者医療のあり方については方向性すら示されていない。
- 年金制度改革では、国民年金の空洞化を指摘しつつも、具体的対策に言及がなく、国民年金に対する危機感が全く感じられない。
- 子育て支援については、総理が所信表明で述べた項目の焼き直しにとどまっており、具体的数値目標及びスケジュールを示すべきである。
地方分権改革
- 補助金、交付税については「まず削減ありき」となっている。これでは自治体の自立を妨げ、分権改革に逆行する。
- 「法律による歳出の義務づけの見直し」と言うが、具体的な見直し対象が皆無である。
- 最終案においては「税源移譲」という言葉が盛り込まれたが、「歳入中立」の前提が欠けている。税源移譲は大増税を前提としているのではないか。逆に言えば、その時期まで「税源移譲」は行わない、とも取れる。
- いずれにしても地方交付税、補助金、税源移譲と言った地方財政の改革を議論するためには、民主党が提案しているように「改革の全体像」「タイムスケジュール」「手順」といった総合的な議論が必要。個別問題をバラバラに取り上げている「基本方針」では、議論の対象とならない。
2002年度予算編成
- 当面の経済についての危機意識を欠いている。本年末以降、米国経済の回復によりわが国の輸出・生産が回復に転じ、来年度は景気回復への動きをたどるとしているが、根拠なき楽観論と言わざるを得ない。
- 「基本方針」は、歳出の中身の見直しと制度の改革としての財政構造改革は経済成長を促進するもので、景気と対立するものではないと言い切っている。そうであるならば、当面改革すべき項目については、今年度予算の組替えも含めて、今すぐただちに着手すべきである。年内に実行すべき改革メニューを直ちに明らかにすべきである。
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