2001/06/26 |
平成13年6月26日 閣議決定
<新世紀維新が目指すもの − 日本経済の再生シナリオ>
1.経済再生の第一歩としての不良債権問題の抜本的解決
2.構造改革のための7つの改革プログラム
(経済社会の活性化のために)
(1)民営化・規制改革プログラム
(2)チャレンジャー支援プログラム −
個人、企業の潜在力の発揮
(豊かな生活とセ−フティ−ネットを充実するために)
(3)保険機能強化プログラム
(4)知的資産倍増プログラム
(5)生活維新プログラム
(政府機能を強化し、役割分担を抜本的に見直すために)
(6)地方自立・活性化プログラム
(7)財政改革プログラム
3.政策プロセスの改革
4.中長期の経済財政運営と平成14年度予算編成
第1章 構造改革と経済の活性化
1.構造改革と真の景気回復
2.不良債権問題の抜本的解決 − 日本経済再生の第一歩
3.経済の再生
4.財政構造改革
第2章 新世紀型の社会資本整備 − 効果と効率の追求
1.新世紀型の社会資本整備に向けて
2.硬直性の打破
3.事業主体としての国と地方
4.重点的に推進すべき分野
5.効率性?透明性の追求
6.経済・財政との整合性
第3章 社会保障制度の改革 − 国民の安心と生活の安定を支える
1.国民の「安心」と生活の「安定」を支える社会保障制度の確立
2.社会保障制度全体に共通する課題
3.医療制度の改革
4.年金制度の改革
5.介護
6.子育て支援
第4章 個性ある地方の競争 − 自立した国・地方関係の確立
1.地方の潜在力の発揮
2.個性と自律
3.自立し得る自治体
4.地方の自律的判断の確立
5.地方財政にかかる制度の抜本改革
6.地方財政の健全化への取組み
第5章 経済財政の中期見通しと政策プロセスの改革
1.中期的な経済財政の展望
2.中期的な経済財政計画の策定と予算編成プロセスの刷新
3.改革を通じる中期目標(プライマリーバランス等)の達成
4.政策プロセスの改革
第6章 平成14年度経済財政運営の基本的考え方
1.景気の現状と経済の先行き
2.平成14年度予算
21世紀の日本では、実力に見合った経済成長が実現する。そこでは、国民が自信と誇りに満ち、努力するものが夢と希望をもって活躍し、市場のルールと社会正義が重視される。また、それは誰もが豊かな自然と共生し、安全で安心に暮らせるとともに、世界に開かれ、外国人にとっても魅力がある社会でなければならない。新世紀維新が目指すのは、このような社会である。
(1)民営化・規制改革プログラム
「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」という原則の下に、国民の利益の観点に立って、特殊法人等の見直し、民営化を強力に推進し、特殊法人等向け補助金等を削減する。郵政事業の民営化問題を含めた具体的な検討、公的金融機能の抜本見直しなどにより、民間金融機関をはじめとする民間部門の活動の場と収益機会を拡大する。
医療、介護、福祉、教育など従来主として公的ないしは非営利の主体によって供給されてきた分野に競争原理を導入する。国際競争力のある大学づくりを目指し、民営化を含め、国立大学に民間的発想の経営手法を導入する。また、規制を極力撤廃し、自由な経済活動の範囲をできる限り広げるとともに、消費者・生活者本位の経済社会システムを実現する。
(2)チャレンジャー支援プログラム −
個人、企業の潜在力の発揮
個人の潜在力を十分に発揮させるために、個人の意欲を阻害しない「頑張りがいのある社会システム」を構築する。このため、従来の預貯金中心の貯蓄優遇から株式投資などの投資優遇へという金融のあり方の切り替えや起業・創業の重要性を踏まえ、税制を含めた諸制度のあり方を検討する。
さらに、公正取引委員会の体制を強化し、その機能を充実させるなど、競争環境の積極的な創造や市場監視の機能・体制を充実させ、競争政策を強力に実施する。市場支配力を有する通信事業者への非対称規制の前倒し実施、放送、通信の融合を推進する。なお、周波数などの公共資源は、公開入札など市場原理を活用することも含め、最適な配分方式について検討する。
また、ITモデルエリア、IT教育支援等によってIT革命を推進する。
(豊かな生活とセーフティーネットを充実するために)
(3)保険機能強化プログラム
国民一人一人にとってライフステージの各段階にわたる自分の生活と社会保障制度との関わりが分かるようにする。こうしたことを通じて、「分かりやすくて信頼される社会保障制度」を実現する。このため、ITの活用により、社会保障番号制導入とあわせ、個人レベルで社会保障の給付と負担が分かるように情報提供を行う仕組みとして「社会保障個人会計(仮称)」の構築に向けて検討を進める。
公的年金については、「人口減少社会」の下で「持続可能で安心できる」制度を構築するとともに、公的年金及び私的年金の役割分担により、高齢者の生活を総合的に保障する。
医療については、医療サービスの標準化、ITを活用した医療情報の開示、医療機関経営の近代化・効率化などからなる「医療サービス効率化プログラム(仮称)」を推進することなどにより、医療の質を落とさずにコストを下げ、維持可能な制度とする。
(4)知的資産倍増プログラム
人材大国と科学技術創造立国を実現するために、知的資産を倍増するとの観点から、教育改革を進めるとともに、ライフサイエンス、IT、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野への戦略的重点化を図る。
大学教育に対する公的支援については、機関補助に世界最高水準の大学を作るための競争という観点を反映させる。また、個人支援を重視する方向で、公的支援全体を見直す中で、教育を受ける意欲と能力がある人が確実にこれを受けられるよう、奨学金の充実や教育を受ける個人の自助努力を支援する施策を検討する。民間からの教育研究資金の流入を活発化するため、大学が受ける寄附金・大学が行う受託研究の充実のための環境整備について、税制面での対応を含め検討する。また、社会人に対する自己啓発の支援を充実する。
(5)生活維新プログラム
人々が自らのライフスタイルに合わせ、男女が共同して社会に参画し、将来にわたってのびのびと働き生活できる基盤を整備する。
(i)多機能高層都市プログラムの推進により職住近接を可能とする。
(ii)「働く女性にやさしい社会」を構築するため、税や社会保障制度の見直しに当たっては、個人単位化を進めるとともに、雇用に関する「性による差別」を撤廃する。
(iii)保育所待機児童をゼロとするプログラムを推進するとともに、放課後児童の受入体制の整備を図る。
(iv)バリアフリー化の推進等により、高齢者などが年齢等にかかわりなく働きやすく暮らしやすい環境を整備する。
(v)ごみゼロと脱温暖化の社会づくり、自然との共生などを通じ、地球と共生する「環の国」づくりを推進する。
(vi)国民に安全(人の生命、健康に関わる良質な環境や水と食料などの確保を図るヒューマン・セキュリティ、安全な国土)と治安を確保し、安心して暮らせる社会を保障する。
(政府機能を強化し、役割分担を抜本的に見直すために)
(6)地方自立・活性化プログラム
(地方の潜在力の発揮)
「個性ある地方」の自立した発展と活性化を促進することが重要な課題である。このため、すみやかな市町村の再編を促進する。歳出の効率化を図り、受益と負担の関係を明確化するとの観点に立ち、地方財政の立て直しを行う。
「行政サービスの権限を住民に近い場に」を基本原則として、国庫補助負担金を整理合理化するとともに、国の地方に対する関与の縮小に応じて、地方交付税制度を見直す。特定の事業について、地方の負担意識を薄める仕組みを縮小するなど、制度の簡素化を行う。また、地方行財政の効率化などを前提に、地方税の充実確保により、社会資本整備・社会保障サービス等を担う主体として地方行政の基本的な財源を地方が自ら賄える形にすることが必要である。
水道など地方公営企業への民間的経営手法の導入を促進し、介護福祉、まちづくり、リサイクルなど社会事業を担うNPOの支援強化など地方の活性化を図る。
(地域に密着した産業の活性化等)
意欲と能力のある経営体に施策を集中することなどにより、食料自給率の向上等に向け、農林水産業の構造改革を推進する。また、地方の活性化のために、都市と農山漁村の共生と対流、観光交流、おいしい水、きれいな空気に囲まれた豊かな生活空間の確保を通じ「美しい日本」の維持、創造を図ることが重要である。
(7)財政改革プログラム
巨額の財政赤字を抱えている我が国財政の状況を改善し、21世紀にふさわしい、簡素で効率的な政府を作るため、財政の改革に取り組む。
特に、資源配分の硬直性を打破するため、例えば公共事業に関しては、特定財源を見直すとともに、「公共事業」と「非公共事業」の区分にとらわれない配分、弾力的な地域間配分を行う。さらに、政策目標に照らし、公共事業以外のより適切な政策手段がないか十分に審査する。
また、経済社会の状況変化やこれまでの整備状況などを踏まえ、公共事業関係の長期計画については、各計画の必要性も含め見直しを行う。
(1)不良債権の確実な最終処理と情報開示
「緊急経済対策」は、バランスシートからはずすことこそが不良債権の最終処理になるとの認識の下、明確なスケジュールを設定した。主要行には、新規不良債権の発生メカニズムを把握の上でそのスケジュールを前提に、迅速に処理が行われることが期待される。
このような取組みは、パブリック・プレッシャーの下で、金融機関の自主的な判断で進められることになる。それが実効性を持つためには、@不良債権の厳格な把握とその情報開示、A不良債権処理の進捗に関する情報開示等が必要である。
(2)処理状況の厳格な点検
不良債権の処理状況について、2〜3年以内にオフバランスシート化するという目標の進捗状況を定期的に厳しく点検するとともに、さらに、不良債権比率、与信費用比率といった新たな指標等も参考に、不良債権の新規発生の状況を含む不良債権問題全体の改善状況について的確な把握に努める。
(3)産業の再生なくして不良債権の最終的解決なし
不良債権問題の背景には、借り手である企業/産業側の過剰債務や非効率性といった構造問題がある。不良債権問題は、借り手が抱えるこうした構造問題と一体的に解決されることが必要である。法的整理のためには、会社更生法、民事再生法があるが、より使い易くするために必要な見直しを行うべきである。また、私的整理については、その公正、円滑化に資するためのガイドラインを関係者間で早急にとりまとめることが期待される。
(4)RCCによる不良債権処理と企業再生
緊急経済対策に沿って不良債権の最終処理を確実に実現するため、RCCの機能を抜本的に拡充することとする。その上で、目標期間である2〜3年以内に主要行が最終処理を行うことが困難な不良債権については、RCCに譲渡等するよう要請する。
具体的には、まず、今国会で金融再生法が改正され、RCCによる資産買取りが3年間延長されたが、さらに、RCCに信託兼営を認め、信託方式による不良債権の引受けも可能とする等、RCCが幅広く金融機関の不良債権の引受けを行い得るよう、所要の措置を講ずる。また、
RCCは、受け入れた債権について、債務者企業の再建可能性に応じ、厳正な回収に努める一方、再建すべき企業と認められる企業については、法的・私的再建手続等を活用し、その再生を図る。このため、例えば、企業再構築を図る組織の新設等、RCCの機能・組織の拡充を図る。
さらに、米国のRTCの例も参考に、不良債権や担保不動産の証券化を積極的に進める。なお、これにより、債権流動化市場の育成を図り、銀行による不良債権処理や土地の流動化等が促進されることを期待する。
(5)不良債権処理の影響に備えたセーフティーネットの充実
不良債権処理は、将来の経済成長のための必要条件ではあるが、十分条件ではない。不良債権処理という「後向きの構造改革」に加え、以下に述べるような「前向きの構造改革」を実行することが重要である。実体経済が再生することは、失業を新規成長分野で吸収するということを可能にするし、不良債権の新規発生を抑制するということにも寄与するからである。
不良債権処理が雇用に与える影響を正確に予測することは困難であるが、ある程度の影響があることは否定できない。このような雇用への影響に対しては、財政のビルト・イン・スタビライザー機能があるが、雇用への影響を最小限に抑えるため、雇用対策法、雇用保険法、離転職者向け教育訓練、緊急雇用創出特別奨励金等の制度・施策を活用する。また、離職後失業期間中の住宅ローン負担・教育費負担に対する支援、起業者に対する支援など、制度横断的な施策の拡充を行う。さらに、雇用情勢によっては、モラルハザードに留意しつつセーフティーネットの一層の充実を図る。
中小企業の連鎖倒産等の防止のため、信用保証協会の保証や政府系金融機関の貸付を活用するなど、金融面で適切に対応するとともに、経営の健全化に向け中小企業が自ら行う経営革新を積極的に支援する。
上記に加え、新たな市場と雇用を創出する構造改革と雇用対策の一体的な施策の具体化について、産業構造改革・雇用対策本部での検討が期待される。
(1)科学技術創造立国・世界最先端のIT国家への足固め
20世紀の最後の20年間で、機械や工場などの物的な資本は、最も重要な生産要素の座を、特許やノウハウ、経営企画力など無形資産に譲った。付加価値や経済成長を生み出す最も重要な要素は「知識/知恵」である。21世紀の日本は、科学技術創造立国及び世界最先端のIT国家を目指さなければならない。
新しいテクノロジーとして、@ライフサイエンス、A情報通信(IT)、B環境、Cナノテクノロジー・材料の4分野への重点的な研究開発を進める。これら4分野を含め「科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定)の着実な実行が必要である。また、こうしたテクノロジーが潜在的能力を最大限に活かし、@循環型社会の構築/環境の保全、A高齢化社会への対応、B都市の再生など、21世紀の日本が真に必要としている社会的ニーズに応えられるよう、重点的な資源配分が行われなければならない。
こうした目的のために、民間企業の研究開発や国・大学から民間企業への技術移転を促進するとともに、新しい技術を活かして事業を起こそうとするベンチャー・ビジネス等の支援に資する環境整備について検討する。
5年以内に世界最先端のIT国家になるとの目標達成に向け、「e-Japan重点計画」(平成13年3月29日)及び「e-Japan2002プログラム」に基づき、重点的かつ戦略的にIT施策を積極的に推進する。
(2)人材大国の確立
経済社会が大きく変貌し、ITを始め、技術革新も急速な進展を見せるなか、労働力には、柔軟で質の高い技術、能力が備わっている必要がある。このため、教育全般について、そのあり方を検討する必要がある。特に国立大学については、法人化して、自主性を高めるとともに、大学運営に外部専門家の参加を得、民営化を含め民間的発想の経営手法を導入し国際競争力のある大学を目指す。他方、学生・社会人に対しては、奨学金の充実や教育を受ける個人の自助努力を支援する施策について検討する。
職業能力開発については、IT教育訓練などの充実を図るとともに、それが十分に活用されるよう、自己啓発支援等の仕組みを強化する。
(3)民間活力が発揮されるための環境整備
(i)規制改革
国際的な交流が盛んになるにつれ、我が国の価格が概して割高であることが大きく浮き彫りにされている。このような高コスト構造を解決するためには、経済活動が極力民間に委ねられ、自由な活動と創意工夫によって効率化が進められることが不可欠である。
経済的規制の改革は、電気通信、エネルギー等の分野でまだ課題を残している。特にNTTのあり方については、公正有効な競争が実現するよう、競争の進展状況等を踏まえ速やかに抜本的な見直しを行うべきである。また、周波数などについては、公開入札など市場原理を活用することも含め、最適な配分方式について検討する。他方、社会的規制の改革はさらに遅れている。特に、医療、労働、教育、環境等の分野での規制改革は、サービス部門における今後の雇用創出のためにも重要である。本年発足した総合規制改革会議における、これら重点検討分野の検討が期待される。
(ii)競争政策
メガコンペティションの下で、金融、産業の分野における外資の参入や産業再編の進展に対応するとともに、談合・横並び体質からの脱却と市場の活性化を図るため、競争政策の積極的な展開が求められている。これとあわせ、公正取引委員会における審査の透明性の向上及び審査の迅速化が図られる必要がある。
また、規制緩和が進む公益事業分野において、自由かつ公正な競争が確保されるよう十分な監視をするとともに、特に電気通信分野においては、市場支配力を有する通信事業者への非対称規制を前倒し実施する。さらに、新たな省庁体制の中で、公正取引委員会の位置付けについて、規制当局からの独立性、中立性等の観点からよりふさわしい体制に移行することを検討する。
(4)規制改革のみならず制度改革に踏み込む
司法制度は、社会の複雑化、多様化、国際化、事前規制型から事後チェック型行政への移行といった変化に対応し、見直されなければならない。司法制度改革は社会的インフラとして重要であり、「司法制度改革審議会意見書」(平成13年6月12日)を最大限尊重して着実に改革が進められるべきである。
経済法制については、現在商法の抜本改正が検討されているが、我が国の競争力の向上に結びつくように、民間事業者の意見も十分に踏まえた改正が行われることが期待される。また、社会経済構造の変革と事後監視型社会への転換に対応し、国民や企業の経済活動にかかわる民事・刑事の基本法について、抜本的に見直す。
「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」ことを原則に、国民の利益の観点に立って、徹底した行政改革を行い、特殊法人等や国営施設の見直し、民営化を進めることが必要である。郵政三事業については、予定どおり平成15年の公社化を実現し、その後のあり方については、総理の懇談会において、民営化問題を含めた具体的な検討を進める。
それでも残る公的部門については、徹底した効率化を進めるために、企業会計制度を踏まえて公会計制度の見直しを行うとともに、その適切な情報公開を行うことが必要である。また、早急に電子政府化を実現することが重要である。
(5)資産市場の構造改革
(i)証券市場の構造改革
証券市場の活性化のためには、企業が活性化し、収益力を高めることが基本である。しかし、同時に、市場監視・取締体制の充実、インサイダー取引や株価操縦等不公正取引に対するルールの明確化、会計基準・会計監査を一層厳格化することなど、インフラの整備も必要である。さらに、個人投資家の市場参加が戦略的に重要であるとの観点から、その拡大を図るために、貯蓄優遇から投資優遇への金融のあり方の切り替えなどを踏まえ、税制を含めた関連する諸制度における対応について検討を行う。
金融システムの構造改革という観点からは、銀行の株式保有のリスクは適切に規制されるべきである。こうした施策は、銀行や企業の株式持合いの縮小を通じて、株式市場の市場メカニズムを一層発揮させることにもつながる。ただし、その場合、保有株式の売却が、短期的には株式市場の需給等を通じ、株価水準によっては金融システムの安定性や経済に好ましくない影響を与える可能性を考慮し、一時的な仕組みとして、銀行保有株式取得機構(仮称)の設立に向け早急に検討を進めなければならない。
(ii)不動産市場の構造改革
バブル崩壊以降、低迷を続ける不動産市場の活性化を図る契機としては、構造改革につながるようなプロジェクトによって需要が創出されることも重要である。その点で、本年5月に発足した都市再生本部が選定し、実施しようとしている21世紀型都市再生プロジェクトは重要であり、積極的に推進すべきである。
このようなプロジェクトが円滑に推進されるためにも、土地の整形・集約化のための事業の促進、国の施設の建替え等におけるPFIの積極的活用が必要である。
また、住宅ストックの流通や有効活用を促進するために、中古住宅等の評価システムの確立や取引価格情報の開示など、市場情報の提供体制を整備する必要がある。
(6)労働市場の構造改革
構造改革に伴う雇用への影響を最小限にするためにも、成長分野の拡大を促進するとともに、そうした分野への円滑な労働移動が促進され、労働力の再配置が円滑に実現するように環境整備を進める必要がある。なかでも重要なのは、@自発的な能力開発の支援、A派遣、有期雇用、裁量労働、フレックス就業等の多様な就労形態を選択することが可能になるような制度改革、Bキャリア・カウンセリングの充実と職業訓練の円滑化、C性別や年齢にかかわらず働ける環境の整備、である。特に女性の労働参加を支援するために、保育所待機児童ゼロ作戦及び放課後児童の受入体制の整備を進める。
このような施策の充実によって、今後雇用機会の拡大が見込まれるサービス部門への労働移動が円滑に行われることとなる。試算によれば、新規分野を含むサービス分野においては、5年間で530万人の雇用機会の創出が期待される。
(7)税制改革
税制は、政府活動のための財源を調達する基本的な仕組みであるが、所得・資産の分配、経済の資源配分、納税・徴収費用に結果として大きな影響を与える。したがって、公平・中立・簡素を税制改革の指針としなければならない。
経済が大きく変容する状況下においては、その環境条件の変化に合わせて、これらの指針に基づき、不断に税制を改革していくことが必要である。我が国は、数次にわたって税制改革を実施してきたが、21世紀にふさわしい税制を実現するためには、さらなる税制改革が求められる。所得、消費、資産等の適切な課税ベースの選択、できるだけ広い課税ベースの確保、政策目的に対して有効な政策手段であるかの検証等、幅広く税制を不断に見直していくことが不可欠である。
とりわけ、経済の市場化、グローバル化、少子・高齢化という観点から、貯蓄・消費行動、投資・起業行動、労働供給・就業形態に対する誘因を十分に考慮して、個人、企業の経済行動に対して中立的な税制を構築しなければならない。
租税特別措置について聖域なく徹底した見直しを行い、効率的な企業経営を促進するための制度整備の一環として連結納税制度の導入に向けた検討を進める。
(2)明確なビジョンに基づく抜本的な構造改革
我が国は、明確なビジョンに基づき、公共投資の硬直性を打破し、豊かな国民生活や力強い経済活動の基盤となる、効果の大きい社会資本を最も効率的に整備する仕組みを確立しなければならない。そのために抜本的な構造改革に着手すべきである。また、公共投資の水準を経済や財政と整合性のとれたものとすることが必要である。
公共事業を厳選することは、実は全ての日本人にとってプラスになる。真に必要な公共投資へ集中することにより、国民の充足感は高まり、日本経済の生産性も向上する。同時に、そうした公共投資は、生活様式の選択肢を多様化するとともに、新たなビジネス・チャンスを創造することを通じ、従来以上に多くの民間の消費や投資を生みだすことが期待される(クラウディング・イン)。
(2)公共投資基本計画や分野毎に作成される長期計画など公共事業関係の「計画」は、事業の着実な推進を支えている面もあるが、他方、資源配分を硬直的なものとし、経済動向や財政事情を迅速に事業へ反映することを困難にしている面がある。こうした点を踏まえ、「計画」について以下の諸点や必要性そのものを含め見直しを行う。
(i)各計画の目標については、アウトカム目標を重視するとともに、これまでの整備状況や経済社会の変化、費用対効果の観点等を踏まえて見直す。
(ii)整備が相当程度に進んだことなどに鑑み、例えば、実質的な着手に至っていない大規模公共事業については、改めて費用対効果や実施可能性を厳しく検証した上で、実施の当否などを判断する。また、代替手段のあるものについては、費用対効果の観点から最も適切なものを選択する。
(iii)巨額の赤字を生んでいるプロジェクトの存在に鑑み、特殊法人等が借入金等で実施する公共事業については、経済社会の変化等を踏まえ、採算性を厳しく検証するとともに、情報開示を進め、将来の国民負担につながらないようにする。
(iv)地方が主体的に決定すべき地方単独事業は、国の各種公共事業関係計画の目標とは位置付けない。
(v)異なる分野の計画間の整合性を確保する。
(3)ハードからソフトへの政策手段の転換
政策目的に照らし、公共事業(ハード)以外のより適切な政策対応(ソフト=例えば、民間主導で生産性を向上させるための制度の整備など)がないか事前に十分審査する必要がある。例えば、農業については、食料の安定供給、自然環境の保全等を目指した構造改革が喫緊の課題となっている。こうした農業政策の目的に照らし、費用対効果の観点を踏まえ、公共事業から公共事業以外の政策手段へシフトしていくことが必要である。
また、雇用確保等のためには、重点を公共事業からより適切かつ効果的な政策(雇用促進策等)へ移していくべきである。
(2)受益者の負担が少ない構造が公共事業への依存体質を生む一因となり、必要性の低い事業を生んでいる。
(i)特定の事業について、地方債の発行を許可してその償還費を後年度に交付税措置する仕組み等は、地方が自分で効果的な事業を選択し、効率的に行っていこうという意欲を損なっている面がある。地方主導に改めるため、こうした資源配分の仕組みを縮小し、自らの選択と財源で効果的に推進する方向で見直していくべきである。
(ii)また、公共事業について受益と負担のバランスを見直し、適正な受益者負担等を求める。
(1)事業評価
・経済社会状況の変化等により費用対効果の低下した事業を改めて見直すルールづくり、第三者による評価内容のチェックと資料・データの公開、事前評価に当たっては同種事業の事後評価の結果を踏まえて行うなどの改善が必要である。
・ライフサイクル全体の費用対効果を評価する。
(2)官民の役割分担
・建設、維持、管理、運営それぞれについて、可能なものは民間に任せることを基本にする。国及び地方公共団体等の事業にPFI事業の活用を進める。
(3)関連事業間の総合的調整・実施
・目的が類似する社会資本については、計画の段階できちんと調整を行い、重複的な投資を防ぐ仕組みを作る。
(4)事業の発注・実施手続
・公共事業のコストを縮減する。
・競争政策を強化する。
・電子入札を拡大する。
・住民が求める社会資本を可能な限り早期に整備するため、住民参加型の手法を活用し、事業が認定された後は関連する手続きの迅速化を図る。
(5)時間管理
・工事に長期間を要することによる金利コストを十分認識し、多数の事業を長期間にわたり並行的に進めるのではなく、事業を絞り、短期間で迅速に実施する。
・費用対効果も考え、工期短縮効果の高い技術を活用する。
(6)既存ストックの有効活用
・既存ストックの有効活用を図るため、他の用途への転用、IT等を活用したストックの適正な管理等を推進する必要がある。
(2)「自助と自律」を基本とした持続可能で安心できる制度の再構築
社会保障が、長期にわたって経済の伸び以上に拡大を続けることは事実上不可能である。今後は、「給付は厚く、負担は軽く」というわけにはいかない。社会保障の3本柱である年金、医療、介護は「自助と自律」の精神を基本として、世代間の給付と負担の均衡を図り、相互に支えあう、将来にわたり持続可能な、安心できる社会保障制度の再構築が求められている。そのためにも、国民の一人一人が社会保障の意義、役割、内容をよく理解し、痛みを分かち合って、制度を支えるという自覚をもって取り組むことが大切である。
(3)時代の要請に応える
個人のライフスタイル、就労形態、家族形態の多様化が急速に進んでいる。特に、女性が働くことが当たり前になってきている。この変化に現在の社会保障制度は十分に対応しきれておらず、働く意欲のある女性や高齢者の就業、パート労働、派遣労働などに不利な面が残されている。現行制度の持つ「非中立」的な効果を緩和し、国民にとって多様な選択を可能にする制度への転換を進め、国民の能力発揮を支えることが、男女共同参画社会、生涯現役社会への道を拓く。
また、少子化、すなわち出生率の低下は日本の将来に大きな影響を与える問題である。子どもを産み育てやすい環境を整備し、少子化の流れを変えるため、積極的な対応策を社会全体で進めることが不可欠である。
(4)「価値」ある効率的な仕組みへ
社会保障制度は国民生活の安定のために極めて重要な基盤であるが、それが公的なものであるが故に制度そのものに非効率を伴いやすい組織上の問題がある。その意味で、民間部門で実現可能な機能はそこに委ね、公的制度と補完性、競合性を合わせもった総合的な保障システムによって国民生活の安定を実現していくことが重要である。
また、制度の実施面においても、質量両面でのサービスの非効率性も否定できない。例えば、医療や福祉といったサービスに関しては、供給主体に一定の制限があるなど様々な規制がある。また、サービスを需要する個人ではなく、供給者である医師や施設がサービスの量や内容を決定する要素が強いこともあって、利用者が本当に必要としているサービスが提供されない、あるいは、ムダのない効率的なサービスとなりにくいという面がある。
社会保障の果たす機能を維持しながら、ムダのない「価値」ある仕組みになるよう、これまでの考え方にとらわれない思い切った制度改革・規制改革を進めていく必要がある。
(5)活力ある「共助」の社会の構築
健康、介護、保育などのサービスは、高齢化の進行や男女共同参画の進展などに伴い、多様な需要が急速に拡大する成長分野である。規制改革やIT、バイオ・ゲノム等の技術革新などによって、新規産業や新規雇用を創出する未来指向型の分野でもある。
また、高齢者や子どもたちにとって何が幸せかという視点に立って、地域住民やNPO等のボランティアの幅広い参加によって介護や子育て等を社会全体で支え合う「共助」の社会を築き、すべての国民が積極的に社会に参加し、それぞれの役割を果たすことができる活力ある社会がここから生まれる。
(2)国民の合意と納得の形成
社会保障負担に対する国民の合意と納得を形成するためには、国民一人一人にとってライフステージの各段階にわたる自分の生活と社会保障制度との関わりや、個人と社会との関わりが分かるようにし、分かりやすく信頼される制度としていくことが非常に重要である。このため、ITの活用により、社会保障番号制導入とあわせ、個人レベルで社会保障の給付と負担が分かるように情報提供を行う仕組みとして「社会保障個人会計(仮称)」システムの構築に向けて検討を進める(社会保障分野でのe-governmentの実現)。このことにより、社会保障制度の運営コストの削減や、公的給付と私的給付の効率的な組合せによる老後所得保障の充実、多様化なども可能になる。
(3)女性、高齢者の社会参画の拡大、就労形態の多様化への対応
働く意欲と能力のある女性や高齢者の就業を抑制しないよう、年金、医療、税制等の制度設計の見直しを進めるとともに、仕事と家庭の両立を図るため、労働法制の見直しを一層進める。特に、世帯単位が中心となっている現行制度を個人単位の制度とする方向で検討を進め、女性の就業が不利にならない制度とする。
また、労働移動の活発化、就労形態の多様化などに対応して、派遣労働に対する規制改革を推進するとともに、パート労働、派遣労働に対する社会保障制度の適用を拡大するとともに、ポータビリティを容易にするなど中立性を高めセーフティーネットの機能を強化する。
さらに、高齢者は資産や所得等の経済状況が極めて多様であり、年齢で一律に社会的弱者とみなすのではなく、経済的な負担能力に応じた応分の負担を求めるとともに、高額の所得や資産を有する者に対する社会保障給付のあり方を見直す。
(4)医療、介護、保育等のサービス分野での規制改革
医療、介護、保育等サービス給付を内容とする分野においては、そのサービスが効率的、かつ、十分に供給されることが重要である。そのためには、規制改革を進めることが極めて重要である。その際、サービスの質の確保に関するルールを設け、十分なチェックを行っていくことが必要である。(いわば、「入口の規制ではなく事後の規制」)
これにより、営利・非営利を問わず様々な主体による多様なサービスの提供を実現していくとともに、NPOやボランティア活動などを社会保障サービスの中に組み込み、地域住民の「共助」によるサービスの提供を支援していくことが可能になる。
例えば、男女共同参画社会に向けて、保育所の公設民営化やPFIの導入、保育ママ、幼稚園における預かり保育等多様な保育サービスの拡充などの規制改革を行う。
(2)「医療サービス効率化プログラム(仮称)」の策定
医療機関、保険者、消費者(国民)のそれぞれが痛みを分かち合い、医療サービスの効率化に取り組み、質が高くムダのない医療を実現するため、次のような事項を考慮して「医療サービス効率化プログラム(仮称)」を策定し、これを推進する。
(i)医療サービスの標準化と診療報酬体系の見直し
医療の専門性に立脚し、科学的に分析・評価を行って得られた情報を活用して医療を行う「根拠に基づく医療」(EBM)を推進し、国民が理解し納得できる医療サービスの標準化を行う。
医療サービスの費用対効果(value for money)の向上を図るとともに、それを踏まえた支払い方式の見直し(包括払・定額払(診断群別定額報酬支払い方式等)の拡大等)や薬価制度の見直しを行う。
また、診療報酬・薬価改定に当たっては、近年の賃金・物価の動向や経済財政とのバランス等を踏まえて行う必要がある。
(ii)患者本位の医療サービスの実現
患者自身が理解し納得して選択できる患者本位の医療サービスを実現する。このため、インフォームドコンセントの制度化、医療・医療機関に関する情報開示、医療情報のデータベース化・ネットワーク化による国民への情報提供の拡充、医療関係者相互の評価・チェック体制の充実による適正な診療の確保、医療機関の広告規制の緩和等を行う。
(iii)医療提供体制の見直し
病床数の削減、病院・診療所の機能分化の促進(慢性期・急性期の機能分化・かかりつけ医機能の充実・在宅医療の推進・包括的地域医療体制の整備等)、公的な医療機関の役割に沿った運営、高齢者医療の介護サービスへの円滑な移行を推進する。
(iv)医療機関経営の近代化・効率化
医療機関の経営に関する情報の開示・外部評価(外部の専門家による経営診断・監査の実施)等を行うことにより、医療機関経営の近代化・効率化を進める。また、設備投資原資の調達の多様化や医療資源の効率的利用(高額医療機器の共同利用・稼働率の向上等)を促進するとともに、株式会社方式による経営などを含めた経営に関する規制の見直しを検討する。
また、医療サービスのIT化の促進、電子カルテ、電子レセプトの推進により、医療機関運営コストの削減を推進する。
(v)消費者(支払者−患者・保険者)機能の強化
患者の選択による医療機関相互の競争の促進を進めるとともに、保険者機能の強化を図る。このため、保険者の権限を強化し、保険者と医療機関との契約や保険者と医療機関の連携強化(健診、予防)、レセプト審査、支払事務等の抜本的効率化を進める。
(vi)公民ミックスによる医療サービスの提供など公的医療保険の守備範囲の見直し
公的保険による診療と保険によらない診療(自由診療)との併用に関する規制の緩和など患者の選択による多様な診療の組合せを可能にする等公的医療保険の対象となる医療の範囲を見直す。
(vii)負担の適正化
患者・国民にも、真に必要な医療に対する負担を求める。このため、適正な患者自己負担の実現・保険料負担の設定を行う。
特に高齢者医療については、医療と介護・施設と在宅を通じた患者負担の均衡を確保し、サービス利用の適正化を実現する。
(3)医療費総額の伸びの抑制
(2)の「医療サービス効率化プログラム(仮称)」等の改革を推進することにより、医療の質を落とさずに、コストを下げることによって、「価値」ある医療制度を実現し、医療費総額の伸びの抑制を行う。
また医療費、特に高齢化の進展に伴って増加する老人医療費については、経済の動向と大きく乖離しないよう、目標となる医療費の伸び率を設定し、その伸びを抑制するための新たな枠組みを構築する。
あわせて高齢者医療制度などについて、費用負担の仕組みをはじめ、そのあり方を見直していく。
(2)今後の検討課題
今後は、次のような課題について検討していくことが必要である。
(i)就労形態の多様化・個人のライフサイクルの多様化等に対応した制度設計の見直し
パート労働者、派遣労働者については、年金保障が十分でないなどの指摘があり、年金適用のあり方を見直していく。また、女性の労働力率の上昇、就労形態の多様化を踏まえ、夫婦片働きの世帯(いわゆる専業主婦のいる世帯)を標準とした現在の給付設計を見直していく。さらに、勤労収入等のある高齢者に対する年金給付のあり方を検討する。
(ii)世代間・世代内の公平を確保するための年金税制の見直し
公的年金や企業年金等に対しては、一般の給与所得などとは異なり、特別の所得として扱われ、若年世代の給与所得者に比べ優遇した課税が行われている。この点を含めた年金税制のあり方について、世代間の公平や、拠出・運用・給付の各段階を通じた負担の適正化の観点から見直していく。
(iii)年金制度の運営面における信頼の確保
国民年金の未納・未加入者の増大といった、いわゆる「空洞化」に対して、徹底した対策を講じるとともに、若年世代の年金制度に対する理解を深めるため、学校教育などにおける取組みを強化していく。
(iv)年金積立金のあり方
年金積立金について、平成13年度から市場運用への転換が行われたことも踏まえ、少子高齢化の進展した将来において有効に活用し積立金水準を引き下げる。
(v)自助努力の支援
公的年金の見直しに合わせ私的年金を拡充し、企業年金の改革や確定拠出年金の早期実施・普及等を図る。また、高齢者の有する資産を活用して老後の生活資金を賄う方法(リバースモーゲージなど)について環境整備を推進する。
(vi)年金保険料引上げの凍結解除等
年金保険料引上げの凍結を早期に解除する。年金保険料の凍結を続けると、積立金の取崩しが始まり、現在の現役世代の負担が軽く、将来世代の負担がより重くなってしまう。
特例的なスライド停止などの影響を踏まえ、物価スライドのあり方を見直す。
(vii)平成12年度改正法附則への対応
基礎年金の国庫負担については、平成12年度改正法附則(「当面平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の1/2への引上げを図るものとする」と規定。)をどのように具体化していくかについて、安定した財源確保の具体的方策と一体的に鋭意検討する。
(3)地方が潜在力を自由に発揮できる仕組みに
自立した地方が、それぞれの多様な個性と創造性を十分に発揮し、互いに競争していく中で経済社会の活力を引き出す新たな国と地方の姿を描き、その実現に向けて、国と地方にかかる制度の抜本的な改革が必要である。
(2)「自助と自律の精神」−
自らの判断と財源による魅力ある地域づくり
今後は、国と地方が互いに関与・依存しあう仕組みを改め、「自助と自律の精神」のもとで、各自治体が自らの判断と財源で、行政サービスや地域づくりに取り組める仕組みに是正する必要がある。
(1)すみやかな市町村の再編を
市町村合併や広域行政をより強力に促進し、目途を立てすみやかな市町村の再編を促す。
(2)規模等に応じて市町村の責任を
人口数千の団体と数十万の団体が同じように行政サービスを担うという仕組みを見直し、団体規模等に応じて仕事や責任を変える仕組みをさらに検討する。(例えば、人口30万以上の自治体には一層の仕事と責任を付与、小規模町村の場合は仕事と責任を小さくし、都道府県などが肩代わり等)
(2)受益と負担の関係の明確化
地域に必要なサービスを住民が負担との見合いで自主的に選択し得る仕組みが、地方自治の前提であり、自助と自律の精神がこれから生まれる。こうした観点から、
(i)国庫補助負担金を、全国的、広域的に便益が及ぶものや、国が国民に最低限保障すべき行政サービス水準の維持達成など国の負担が特に必要なものに限定する。
(ii)国が地方に要請する仕事の洗い直し・縮小に応じて、補助金や地方交付税、あるいは地方財政計画により財源を手当てする歳出の範囲・水準を縮小する。このことは、地方が自由に独自の行政サービスを選択し提供する範囲が増えるということである。
(2)地方交付税を客観的基準で調整する簡素な仕組みに
地域間には、経済力・財政力に大きな差がある。したがって、上記のような見直しを行う一方、財政力の低い自治体が自主的な歳出が行えるように交付税を交付することが必要である。今後、国の関与の廃止・縮小に対応して、できるだけ客観的かつ単純な基準で交付額を決定するような簡素な仕組みにしていくべきである。
(3)地方税の充実確保
地方の自律性を高めるためには、地方行財政の効率化を前提に、自らの判断で使える財源を中心とした「自助と自律」にふさわしい歳入基盤を確立することが重要である。そうした観点から、地方税を充実確保することとし、国と地方の役割分担の見直しを踏まえつつ、国庫補助負担金の整理合理化や地方交付税のあり方の見直しとともに、税源移譲を含め国と地方の税源配分について根本から見直しそのあり方を検討する。その際、国・地方それぞれの財政事情や個々の自治体に与える影響等を踏まえる必要がある。
また、地方税収の基盤となる経済力の発展や、サービス水準と負担を考えた税の水準について、各自治体の自主的な判断や努力が望まれる。
また、法人事業税の外形標準課税については、中小法人の取扱い、雇用への影響の問題等これまでの検討経緯を踏まえつつ、各方面の意見を聴きながら課税の仕組み等についてさらに検討を深め、景気の状況等も勘案して導入を図る。
(2)新しい行政手法
(i)ニューパブリックマネージメント
国民は、納税者として公共サービスの費用を負担しており、公共サービスを提供する行政にとってのいわば顧客である。国民は、納税の対価として最も価値のある公共サービスを受ける権利を有し、行政は顧客である国民の満足度の最大化を追求する必要がある。
そのための新たな行政手法として、ニューパブリックマネージメントが世界的に大きな流れとなっている。これは、公共部門においても企業経営的な手法を導入し、より効率的で質の高い行政サービスの提供を目指すという革新的な行政運営の考え方である。その理論は、@徹底した競争原理の導入、A業績/成果による評価、B政策の企画立案と実施執行の分離という概念に基づいている。
(ii)改革方策
海外では、この考え方は、@民営化・行政法人化を推進する、A業績や成果に関する目標、それに対応する予算、責任の所在等を契約などの形で明確化する、B発生主義を活用した公会計を導入する、などの形で具体化されてきている。例えば、イギリスでは、行政の各分野において「市場化テスト」を行い、民間でできることはできるだけ民間に委ねるとともに、民間にできないものについても実施執行部門をできる限り行政法人化するなどの改革を進めている。
我が国の行財政改革を推進していく上でも、こうした新しい行政手法の考え方を十分に活かし、政策プロセスの改革を図っていくことが重要である。具体的には、
・公共サービスの提供について、市場メカニズムをできるだけ活用していくため、「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」という原則の下に、公共サービスの属性に応じて、民営化、民間委託、PFIの活用、独立行政法人化等の方策の活用に関する検討を進める。
・事業に関する費用対効果などの事前評価等によって、維持費用も含めてそれに要する費用を明確化し、事業の採否や選択などの政策決定に反映する。
・業績や成果に関して目標を設定し、責任を明確にしつつ、実際に行われた事業の結果を事後的にも評価し、これを通じて政策決定、予算、人事評価などに適切にフィードバックしていく。
・こうしたことによって、目標達成に向けた柔軟で効率的な行政運営を可能とし、行政のマネージメント能力を高める。その際には、適正な行政運営を確保するための監査などが重要となる。
・このような行政運営手法を実現し、国民に対する説明責任を高めるため、情報公開制度などの定着を図るとともに、公会計制度のあり方についても、発生主義など企業会計的な考え方の活用範囲や貸借対照表の対象範囲などについての検討を進め、行政コストや公的部門の財務状況を明らかにするよう引き続き努める。その際、諸外国における発生主義を活用した予算等の実態について検討を行う。
以上のような基本的な方向性に沿って、具体的な改革を引き続き精力的に進めていく必要がある。
こうした取組みにより、行財政改革を推進し、納税の対価として公共サービスの提供を受ける国民の満足度の最大化を図っていくことが重要である。
(2)平成13年度、14年度の経済の姿
景気には、需要面に対する下押し圧力が強まり、短期的には構造改革のデフレ圧力がプラス効果を上回って顕在化してくる可能性が高いと考えられることから、的確に見通すことは困難であるが、平成13年度、14年度は低い経済成長になると見込まれる。
景気の現状を踏まえると、今後、年末にかけて調整圧力が強まるものと考えられる。このため、平成13年度のGDP成長は、当初の政府経済見通しをかなり下回るとみられる。
しかし、平成13年末以降、アメリカ経済の回復傾向が明らかになっていけば、輸出、生産が次第に回復に転じ、やがて設備投資も改善していくと見込まれる。また、適切な経済運営のもとで構造改革の進展の成果もあり、平成14年度の景気は徐々に回復への動きをたどることとなる。
(2)国債発行30兆円以下
平成14年度予算では、財政健全化の第一歩として国債発行額を30兆円以下に抑えることを目標とする。このため、抜本的な制度改革を含め、一般会計、特別会計を通じ歳出全般にわたり、スリム化、効率化を図る観点から聖域なく見直しを行う。また、特殊法人等の事務事業を抜本的に見直し、国の財政支出の整理・縮減を図る。
(3) 重点的に推進すべき分野
上記の各章及び「7つの改革プログラム」を踏まえ、以下に掲げる分野で、政策効果が顕著なものについて、重点的に推進する。
@ 循環型経済社会の構築など環境問題への対応
A 少子・高齢化への対応
B 地方の個性ある活性化、まちづくり
C 都市の再生−都市の魅力と国際競争力
D
科学技術の振興(ライフサイエンス等の4分野への重点化等)
E 人材育成、教育
F 世界最先端のIT国家の実現
〔注〕戦略的に重要性があり、かつ各省庁にまたがる分野については、有識者の識見等を活用しつつ、内閣(総合科学技術会議、IT戦略本部、都市再生本部等の活用を含む)が中心になって、それぞれの基本方針に則り、施策の強力な調整を行い、総合的な政策を決定する。
(4) 社会資本整備
公共投資が経済に占める比率は、第2章で述べたように欧米諸国などに比べ高い水準にあること等を考慮し、国の歳出全体を聖域なく見直す中で公共投資関係の予算を縮減する。
道路等の特定財源のあり方を見直すとともに、「公共事業」、「非公共事業」の区分にとらわれない配分などを行う。また、公共事業関係の計画の見直しを進める。さらに、政策目的に照らし、公共事業以外のより適切な政策対応がないか、十分に審査し、公共事業から公共事業以外の政策手段へのシフトを図る。また、事業評価を反映し、厳格な事業の選択を行う。さらに、PFIの活用、執行段階における競争の促進やコスト縮減、電子入札の拡大等による効率性、透明性の向上を図る。
(5)社会保障制度
社会保障制度については、セーフティーネットとしての機能を果たしながら、経済財政と均衡のとれた持続可能なものとなるよう、制度改革を進めていくことが必要である。
医療制度については、第3章を踏まえ、サービスの質を維持しつつ、高齢者医療制度をはじめとして効率的で持続可能な医療制度を構築する。医療費、特に老人医療費について、経済の動向と大きく乖離しないよう、その伸びを抑制するための新たな枠組みを構築する。年金制度については、第3章で述べた「今後の検討課題」についての検討を進める。また、社会保障制度全般にわたる規制改革、制度の効率化を進めつつ、特に、介護サービスの供給体制の整備、保育所の待機児童ゼロ作戦の推進、放課後児童の受入体制の整備を図る。
(6)地方財政
平成14年度においては、経済財政全体とのバランスも考慮して、「国債発行を30兆円以下とすることを目標とし、歳出を徹底的に見直す」としている国の財政健全化への取組みと同様に、地方財政計画の歳出を徹底的に見直したうえで、所要の財源を確保して、地方財政の健全化を図る。
その際、国の関与の縮減や国及び自治体が最低限保障すべき行政サービスの水準の見直しなどに応じて、国庫補助負担金や地方交付税により手当てする地方歳出を見直す。さらに、地方の自律性を高めるため、地方交付税の配分に当たっては、地方の負担意識を薄めることや、効率化への意欲を阻害することのないようその仕組みの見直しを図る。
(7)雇用対策等
不良債権の処理等が雇用に及ぼす影響に鑑み、サービス分野をはじめとして雇用機会の創出や労働移動の増加に対応する制度改革によって就業機会を拡大する。同時に、離職者、転職者に対する支援の強化などセーフティーネットの拡充等を図る。また、新たな市場と雇用を創出する効果の高い構造改革と雇用対策を一体的に推進する。
本「基本方針」においては、社会資本整備、社会保障制度、国と地方など財政構造改革の中核となる分野を中心に取り上げたが、こうした分野を含め、歳出全般について聖域無く、厳しく見直すべきことは言うまでも無い。経済財政諮問会議においてもこれらの分野を含め引き続き広範な検討を行う。また、経済財政諮問会議において、プライマリーバランスの黒字に向けた取組みをどのように進め、いつ頃までに達成するかなどを明確にするため、引き続き検討を行い、年内を目途に具体的な姿を示す。
2001/06/26 |