2004/01/19

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第159回国会における小泉内閣総理大臣施政方針演説


(はじめに)

 昨年11月に行われた総選挙において国民の信任を頂き、再び内閣総理大臣の重責を担うことになりました。「構造改革なくして日本の再生と発展はない」というこれまでの方針を堅持し、「天の将(まさ)に大任をこの人に降(くだ)さんとするや、必ずまずその心志(しんし)を苦しめ、その筋骨(きんこつ)を労せしむ」という孟子の言葉を改めてかみしめ、断固たる決意をもって改革を推進してまいります。

 私は就任以来、「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」との方針で改革を進めるとともに、国際社会の一員として我が国が建設的な役割を果たすことに全力を傾けてまいりました。

 我々が目指す社会は、国民一人ひとりや、地域・企業が主役となり、努力が報われ再挑戦できる社会です。現場の知恵や創意工夫は、日本の潜在力をいかした経済成長につながります。国は、国民の安全と安心を確保しなければなりません。国民、地域、企業の努力を支援するとともに、科学技術を振興し我が国の将来の発展基盤を整備します。国際社会にあっては、世界の平和と繁栄を実現するため積極的に貢献します。

 本年は、これまでの改革の成果をいかすとともに、郵政事業や道路公団の民営化、地方分権を進める三位一体の改革、年金改革などこれまで困難とされてきた改革を具体化し、日本再生の歩みを確実にする年であります。

 私は、自由民主党及び公明党による連立政権の安定した基盤に立って、改革の芽を大きな木に育て、自信と誇りに満ちた、世界から信頼される国を実現したいと思います。

(イラク復興支援とテロとの闘い)

 昨年11月、イラク復興支援に中心的な役割を果たす中で殉職された奥克彦大使、井ノ上正盛一等書記官のお二人に改めて心から哀悼の意を表します。

 イラクに安定した民主的政権ができることは、国際社会にとっても中東にエネルギーの多くを依存する我が国にとっても極めて重要です。国際社会がテロとの闘いを続けている中で、テロに屈して、イラクをテロの温床にしてしまえば、イラクのみならず、世界にテロの脅威が広がります。イラク人によるイラク人のための政府を立ち上げて、イラク国民が希望をもって自国の再建に努力することができる環境を整備することが、国際社会の責務です。

 現在、37か国がイラク国内で活動し、90を超える国と国際機関が支援に取り組んでいます。国連もすべての加盟国に対し、国家再建に向けたイラク人の努力を支援することを要請しています。

 戦後我が国は多くの国から援助を受けて発展し、今や世界の国々を支援する立場になりました。日本の平和と安全は日本一国では確保できません。世界の平和と安定の中に、日本の発展と繁栄があります。イラクの復興に、我が国は積極的に貢献してまいります。

 その際、物的な貢献は行うが、人的な貢献は危険を伴う可能性があるから他の国に任せるということでは、国際社会の一員として責任を果たしたとは言えません。資金協力と自衛隊や復興支援職員による人的貢献を、車の両輪として進めてまいります。

 資金面では、当面の支援として電力、教育、水・衛生、雇用などの分野を中心に総額15億ドルの無償資金を供与するとともに、中期的な電気通信、運輸等の経済基盤の整備も含め、総額50億ドルまでの支援を実施することとしており、真にイラクの復興にいかされるよう努めてまいります。

 人的な面では、イラクが必ずしも安全とは言えない状況にあるため、日ごろから訓練を積み、厳しい環境においても十分に活動し、危険を回避する能力を持っている自衛隊を派遣することとしました。武力行使は致しません。戦闘行為が行われていない地域で活動し、近くで戦闘行為が行われるに至った場合には活動の一時休止や避難等を行い、防衛庁長官の指示を待つこととしています。安全確保のため、万全の配慮をします。

 自衛隊は、海外の平和活動で大きな成果を上げており、イランでも大地震による被災者支援のための物資の輸送に当たりました。イラクにおいても、現地社会と良好な関係を築きながら、医療、給水、学校等公共施設の復旧・整備や物資の輸送などイラクの人々から評価される支援ができると考えています。

 自衛隊は、既に現地において人道復興支援活動に着手していますが、今後、現地の情勢や治安状況を注視しつつ、本格的な支援活動を行ってまいります。困難な任務に当たる自衛隊員に、敬意を表します。

 世界各国が協力してイラク復興を支援するよう、今後とも外交努力を重ねるとともに、中東和平に尽力し、アラブ諸国との対話を深めます。

 アフガニスタンにおけるテロとの闘いは依然として続いています。昨年12月にリビアが大量破壊兵器の開発計画の廃棄と即時の査察受入れを決定したことは、大きな意義を有するものです。北朝鮮を含め、他の国にも責任ある対応を強く期待します。テロの防止・根絶及び大量破壊兵器の不拡散に向けた国際的取組に引き続き積極的に参画してまいります。

(進展する改革 ―「官から民へ」「国から地方へ」の具体化―)

 日本経済は、企業収益が改善し、設備投資が増加するなど、着実に回復しています。経済成長はこの1年半連続で実質プラスになり、名目でも過去半年プラスとなりました。雇用情勢は厳しいものの、求人が増加するなど持ち直しの動きがあり、物価にも下げ止まりの兆しがあります。平成15年度の補正予算は、14年ぶりに国債を増発することなく編成しました。国主導の財政出動に頼らなくても、構造改革の成果が現れています。

 地域の再生は、元気な日本経済を実現する鍵です。民間の活力と地方のやる気を引き出す金融・税制・規制・歳出の改革を更に加速し、政府は日銀と一体となって、デフレ克服と経済活性化を目指します。

 「民間にできることは民間に」との方針の下、最大の課題は郵貯・年金を財源とする財政投融資を通じて特殊法人が事業を行う公的部門の改革であるとの認識で、行財政改革を進めてまいりました。

 改革の本丸とも言うべき郵政事業の民営化については、現在、経済財政諮問会議において具体的な検討を進めています。本年秋ごろまでに国民にとってより良いサービスが可能となる民営化案をまとめ、平成17年に改革法案を提出します。

 道路関係四公団については、競争原理を導入し、ファミリー企業を見直すとともに、日本道路公団を地域分割した上で、民営化します。9342キロの整備計画を前提とすることなく、一つひとつの道路を厳格に精査し、自主性を確保された会社が建設する有料道路と、国自らが建設する道路に分けるとともに、「抜本的見直し区間」を設定しました。規格の見直しなどによる建設コストの徹底した縮減により、有料道路の事業費を当初の約20兆円からほぼ半分に減らします。債務は民営化時点から増加させず、45年後にはすべて返済します。また、通行料金を当面平均1割程度引き下げるとともに、多様なサービスを提供してまいります。このような改革は、民営化推進委員会の意見を基本的に尊重したものであります。今国会に関連法案を提出し、平成17年度に民営化を実現します。

 財政投融資については、郵貯・年金の預託義務を既に廃止するとともに、規模の圧縮を進め、平成16年度当初計画の規模は、平成8年度の約40兆円から半減し、20兆円になりました。

 163の特殊法人のうち既に8割を、廃止、民営化、独立行政法人化することにより、事業を徹底して見直し、透明性を高め、評価を厳正に行うこととしました。特殊法人や独立行政法人の役員退職金は大幅に引き下げ、国家公務員並とします。

 国家公務員の定員については、治安や入国管理など真に必要な分野で増員しつつ、全体として削減します。

 公務員制度改革については、公務員が国民全体の奉仕者として職務に専念できるよう、具体化を進めます。

 「地方にできることは地方に」との原則の下、「三位一体改革」は大きな一歩を踏み出しました。平成16年度に補助金1兆円の廃止・縮減等を行うとともに、地方の歳出の徹底的な抑制を図り、地方交付税を1兆2000億円減額します。また、平成18年度までに所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施することとし、当面の措置として所得譲与税を創設し、4200億円の税源を移譲します。平成18年度に向け、全体像を示しつつ、地方の自由度や裁量を拡大するための改革を推進します。

 現行特例法の期限後も引き続き市町村合併を推進するための措置を講じます。

 道州制については、北海道が地方の自立・再生の先行事例となるよう支援してまいります。

(暮らしの改革の実現)

 構造改革は国民の暮らしを変えつつあります。

 「世界最先端のIT国家」に向け、高速インターネットは世界で最も速く、かつ、安くなり、株式取引に占めるインターネット取引の割合は3年間で6パーセントから19パーセントに急成長しました。本年度末には、国の行政機関への申請や届出のほぼすべてを家庭や企業のパソコンから行えるようになります。技術革新と規制改革の効果があいまって、ICカードを使った定期券が普及し、電子タグを活用して店頭で食品の産地情報を提供する試みが始まっています。家庭のIT基盤整備につながる地上デジタルテレビジョン放送の普及を促進し、暮らしの中でITを実感できる社会を実現いたします。情報通信の安全対策を強化し、信頼性を高めつつ、電子政府を推進します。IT分野におけるアジアとの国際協力を推進します。

 廃棄物の発生を減らすため、消費者のみならず生産者が積極的な役割を果たす仕組みを、家電、自動車、パソコンなど製品の特性に応じて整えてまいりました。身近なところでは、既にほぼすべての中央省庁食堂において、生ごみのリサイクルを実施しています。トウモロコシやおがくずで作る食器などのバイオマス製品の試験利用も進められています。

 香川県豊島(てしま)では、多くの関係者の努力により、不法投棄により損なわれた美しい島を取り戻すための事業が始まっています。このような環境汚染を二度と起こさないため、できるだけ早期に大規模な不法投棄を無くし、ゴミゼロ社会を目指します。

 組織の内部から公益のために違法行為を通報する人を保護する仕組みを整備してまいります。

(安全への備え)

 国民の安全への備えは国の基本的な責務です。

 空港や港湾など「水際」での取締りや危機管理体制の整備、重要施設の警備など国内テロ対策を強化し、在外公館の警備や海外の日本人の安全確保に努めてまいります。大規模テロや武装不審船など緊急事態に的確に対処できる態勢を整備します。

 有事に際して国民の安全を確保するため関係法案の成立を図り、総合的な有事法制を築き上げます。

 安全保障をめぐる環境の変化に対応するため、弾道ミサイル防衛システムの整備に着手するとともに、防衛力全般について見直してまいります。

 「世界一安全な国、日本」の復活は急務です。政府を挙げ、一刻も早く国民の治安に対する信頼を回復します。

 来年度は、地方公務員全体を1万人削減する中で、「空き交番」の解消を目指し、3000人を超える警察官を増員し、退職警察官も活用して交番機能を強化します。安全な街づくりを含め、市民と地域が一体となった犯罪が生じにくい社会環境の整備を進めます。出入国管理を徹底し、暴力団や外国人組織犯罪対策を強化します。

 被害に遭われた方々への情報提供や、保護・支援の充実に努めてまいります。

 司法を国民に身近なものとするため、刑事裁判に国民が参加する裁判員制度の導入や全国どこでも気軽に法律相談できる司法ネットの整備など司法制度改革を進めます。

 昨年の交通事故死者数は46年ぶりに8000人を下回りました。10年間で5000人以下にすることを目指します。

 学校・病院など重要な建築物と住宅の耐震化を促進し、消防・防災対策を強力に推進します。住居の確保などの被災者支援をはじめ、災害復旧・復興対策を充実します。

(安心の確保)

 若者と高齢者が支え合い国民が安心して暮らすことができる社会保障制度を構築してまいります。

 年金については、少なくとも現役世代の平均的収入の50パーセントの給付水準を確保しつつ、負担が過大とならないよう保険料を極力抑制する一方、年金課税の適正化により基礎年金の国庫負担割合の二分の一への引上げに道筋をつける改革案を取りまとめました。今国会に関係法案を提出します。

 医療や介護については、将来にわたり良質で効率的なサービスを国民が享受できるよう基盤を整備するとともに、安定的な運営を目指した改革を進めます。

 保育所の「待機児童ゼロ作戦」を着実に実施し、来年度も受入児童を5万人増やすとともに、育児休業制度を充実します。児童手当の支給対象年齢を就学前から小学校第3学年修了まで引き上げます。子供を安心して生み、子育ての喜びを実感できる社会を目指し、少子化対策に政府一体で取り組みます。 

 女性が持てる能力を発揮し、様々な分野で活躍すれば、活力や多様性に満ちた社会になります。これまで女性の進出が少なかった分野も含め、女性のチャレンジする意欲を支援してまいります。

 建築物や公共交通機関のみならず制度や意識も含めて社会のバリアフリー化を促進するとともに、人権に関する教育や啓発を進め、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う社会を構築してまいります。

 消費者の視点に立って、BSEへの対応をはじめ食の安全と信頼を確保します。SARSや鳥インフルエンザ対策に万全を期します。

(地域の再生と経済活性化)

 歴史と文化をいかし自然との共生を目指す、琵琶湖・淀川流域圏の再生が始まりました。稚内や石垣では、港とまちの連携に加え、海外や周辺観光地との交流を促進し、観光振興と市街地の活性化に向けた施策が動き出しています。松山では、小説「坂の上の雲」をモデルに、歩きやすく住みやすい街づくりが進んでいます。地域の知恵や民間のやる気をいかし、全国で都市再生を進めてまいります。

 昨年4月から開始した構造改革特区が動き出しています。群馬県太田市では、小学校から英語で授業を実施する小中高一貫校を開設することとしたところ、定員の2倍の入学希望者がありました。国際物流特区では、夜間の通関取扱件数が大幅に増加し輸出入も増えるなど、目に見える成果が上がっています。幼稚園と保育所の幼児が一緒に活動できる幼保一体化特区、農家が経営する民宿でどぶろくを造って提供できるふるさと再生特区など、各地域が知恵を絞った特区が全国に236件誕生しています。今後も特区の提案を着実に実現していくとともに、その成果を速やかに全国に広げてまいります。

 2010年に日本を訪れる外国人旅行者を倍増し、「住んでよし、訪れてよしの国づくり」を実現するため、日本の魅力を海外に発信し、各地域が美しい自然や良好な景観をいかした観光を進めるなど、「観光立国」を積極的に推進します。

 対日直接投資は、昨年5月に設置した総合案内窓口を通じて780の投資案件が発掘されるなど、着実に進展しています。5年間での倍増目標に向け、外国企業にとって日本を魅力ある市場にしてまいります。

 愛知県高浜市では、株式会社を設立し一括して業務を委託することにより、市職員の人件費を削減するとともに、地域の雇用を創出しています。

 地方自治体や企業からの要望を一括して受け止め、行政サービスの民間開放の促進など地域の実情に合わせた制度改革や施策の連携により、経済活性化と雇用創造を通じた地域の再生を全面的に支援してまいります。

 米作りを始めとする農業と、流通を含む食品産業の活性化を図ります。やる気と能力のある経営を支援し、農産物の輸出も視野に置いた積極的な農政改革を展開します。美しい農山漁村づくりを目指すとともに、都市との交流を推進してまいります。

 「緑の雇用」により森林整備の担い手の育成と地域への定住促進を図り、多様で健全な森林の育成を推進します。

 雇用対策に全力を挙げます。求人と求職のミスマッチの解消や早期再就職の支援を推進します。企業実習と一体となった教育訓練の実施、地域が民間を活用して実施する若者向けの職業紹介など「若者自立・挑戦プラン」を実施します。65歳までの雇用機会確保や中高年者の再就職を促進します。

 530万人雇用創出プログラムを着実に実施します。

 主要銀行の不良債権残高は、この1年半で9兆円以上減少し、不良債権比率も目標に向け順調に低下しています。平成16年度には不良債権問題を終結させます。金融機能の強化のため新たな公的資金制度を整備してまいります。

 市場における個人の資産運用を拡大し、地域や中小企業に必要な資金を行き渡らせるため、監視機能の強化や株式のペーパーレス化により証券市場への信頼と利便性を高め、銀行と証券の連携を進めます。信託業の担い手や対象を拡大し、土地担保や個人保証に頼らない資金調達を促進します。

 昨年発足した産業再生機構は、9件の支援を決定しました。全国に設置した中小企業再生支援協議会は、2600社を超える企業の相談に応え、200件近い再生計画を支援し、着実に成果を上げています。民間の叡智と活力を最大限活用して、産業再生を着実に進めます。

 これまで1000万円以上必要だった会社設立の資本金を1円でも可能とする特例を認めた結果、1年間で8000近い企業が誕生しました。ベンチャー企業への個人投資を伸ばす優遇税制を拡充し、起業や新事業への挑戦を支援してまいります。

 「総合規制改革会議」の終了後も、民間人を主体とする新たな審議機関を設置するとともに、平成16年度を初年度とする新たな3か年計画を策定し、規制改革を加速します。

 21世紀にふさわしい競争政策を確立するため、独禁法の見直しに取り組みます。

 平成16年度予算の編成に当たっては、一般歳出を実質的に前年度の水準以下に抑制しました。財政の基礎的収支は改善しています。主要な分野で増額したのは、社会保障のほか、科学技術振興と中小企業予算だけであり、それ以外についてはすべての分野を減額し、各分野においてメリハリの利いた予算配分を行いました。新たな試みとして、成果を厳しく問う一方で複数年度執行を弾力化するとともに、少子化対策など複数省庁にまたがる政策の予算を制度改革と組み合わせて効率化するなど、歳出の質の改善に努めます。

 2010年代初頭には基礎的財政収支を黒字化することを目指します。

 多年度で税収を考え、多岐にわたる包括的かつ抜本的な改革を行った平成15年度税制改革は着実に効果を現しつつあり、来年度も1兆5000億円の先行減税が継続します。平成16年度においては、住宅ローン減税の期限を延長するとともに、土地や株式投資信託の譲渡益課税を軽減し、個人資産の活用と土地・住宅市場の活性化を図ります。

 公正で活力ある経済社会を実現するため、先般の与党税制改正大綱を踏まえ、社会保障制度の見直しや三位一体の改革と併せ、中長期的視点に立って、税制の抜本的改革に取り組んでまいります。

(将来の発展への基盤作り)

 地球環境の保全は小泉内閣の重要な課題であり、科学技術を活用して環境保護と経済発展の両立を図ってまいります。

 京都議定書の早期発効に引き続き努力し、さらに、すべての国が参加する共通ルールの構築を目指します。

 平成16年度中にすべての公用車を低公害車に切り替える目標を掲げたことにより、企業は技術開発を加速しました。新規登録車に占める低公害車の割合は6割を超えています。ディーゼル車について世界最高水準の排出ガス規制を実施し、世界に先駆けた環境対策を進めてまいります。太陽光による発電は世界一です。中長期的な環境・エネルギー政策の下、原子力発電の安全確保に全力を挙げるとともに、燃料電池や太陽光・風力発電などクリーン・エネルギーの普及を促進します。地球温暖化対策推進大綱の評価・見直しを行い、「脱温暖化」に向けた努力が経済の活力となる社会を構築してまいります。

 「科学技術創造立国」の実現に向け、ヒトゲノム解読の成果をいかした革新的ながん治療など、国民の暮らしを良くし、経済活性化につながる研究開発として「みらい創造プロジェクト」を戦略的に推進します。産学官の連携を推進し、地域や民間の活力を引き出しながら、科学技術を振興してまいります。

 「知的財産立国」を目指し、「順番待ち期間ゼロ」の特許審査を実現し、模倣品・海賊版対策を強化します。画期的な裁判所改革として、知的財産高等裁判所を創設します。

 能楽、人形浄瑠璃文楽が人類の優れた無形遺産としてユネスコに認定されるなど、我が国には世界に誇るべき伝統文化があります。世界で高く評価されている映画、アニメ、ゲームソフトなどの著作物を活用したビジネスを振興し、文化・芸術をいかした豊かな国づくりを進めてまいります。

 新しい時代を切り拓く心豊かでたくましい人材を育成し、人間力向上のための教育改革に全力を尽くします。

 初等中等教育の充実による確かな学力の育成を図ります。心身の健康に重要な食生活の大切さを教える「食育」を推進し、子供の体力向上に努めます。地域住民による学校を活用した小中学生の体験活動を支援するとともに、学校の安全確保のための対策を講じ、社会全体で子供を育む環境を整備します。

 本年4月には、国立大学が法人化されます。活力に富み個性豊かな大学づくりを目指します。意欲と能力のある若者が教育を受けられるよう、奨学金事業を更に拡充してまいります。

 教育基本法の改正については、国民的な議論を踏まえ、精力的に取り組んでまいります。

 非行問題等困難を抱える青少年を支援するとともに、青少年の社会的自立を促す対策を推進します。

 政府の活動の記録や歴史の事実を後世に伝えるため、公文書館における適切な保存や利用のための体制整備を図ります。

 海底の天然資源開発に我が国の権利が及ぶ大陸棚を画定するため、大陸棚調査を進めます。

 土地の境界や権利関係を示す地籍の調査を集中的に推進します。

(外交)

 北朝鮮については、日朝平壌宣言を基本に、拉致問題と、核・ミサイルなど安全保障上の問題の包括的な解決を目指します。関係国と連携しつつ、六者会合等における対話を通じ、北朝鮮に対し、核開発の廃棄を強く求めてまいります。拉致被害者並びに御家族の意向も踏まえ、拉致問題の一刻も早い全面解決に向け引き続き全力を尽くします。北朝鮮には、誠意ある行動をとるよう粘り強く働きかけてまいります。

 日米関係は日本外交の要であり、国際社会の諸課題に日米両国が協力してリーダーシップを発揮していくことは我が国にとって極めて重要であります。多岐にわたる分野において緊密な連携や対話を続け、日米安保体制の信頼性の向上に努め、強固な日米関係を構築してまいります。

 沖縄に関する特別行動委員会最終報告の実施に取り組み、普天間飛行場の移設・返還を含め、県民負担の軽減に努めるとともに、地域特性をいかした経済的自立を支援します。沖縄県恩納村(おんなそん)に、世界に開かれた最高水準の教育研究を行う科学技術大学院大学を設立する構想を推進します。

 昨年11月から金浦(きんぽ)空港と羽田間の航空便運航が開始され、本年から韓国で日本語の歌の販売が解禁されるなど、日韓両国民の相互理解・交流はかつてないほど深まっています。日韓友好親善の機運をいかしながら、両国関係を一層高いレベルへと発展させていく考えです。

 中国との関係は最も重要な二国間関係の一つであり、昨年発足した新指導部との間で、未来志向の日中関係を発展させてまいります。日中経済関係は貿易や投資の拡大により緊密化しており、これを相互に利益となる形で進展させるとともに、日中両国はアジア地域、世界全体の課題の解決に向け協力します。

 昨年1月に私とプーチン大統領との間で採択した「日露行動計画」は、幅広い分野で着実に実現されつつあります。経済分野を始めとする大きな潜在力をいかしながら日露関係を発展させ、我が国固有の領土である北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結することを目指します。

 本年5月にEUの拡大を控えてダイナミックに発展する欧州は、国際社会において価値と課題を共有する大切なパートナーであり、幅広い分野において関係の強化・拡大に努めてまいります。

 昨年12月に、日本ASEAN特別首脳会議を開催いたしました。採択された東京宣言に基づき、新しい時代の「共に歩み共に進む」パートナーとしてASEAN諸国との関係を強化します。

 国際社会の平和と安全に対する脅威への対応が問われている中、国連の改革に努めてまいります。

 国際社会の責任ある一員として、アフガニスタン、スリランカ、東ティモールなどで「平和の定着と国造り」を支援してまいりました。我が国がより積極的に国際平和協力を推進するための体制作りに努めます。

 人間一人ひとりを重視する「人間の安全保障」の視点も踏まえ、途上国の貧困克服や持続的な成長、地球規模問題の解決に向け、ODAを戦略的に活用してまいります。

 多角的貿易体制を維持強化するため、WTO新ラウンド交渉の進展に努力します。戦略的課題として重要性が高まりつつあるメキシコ、東アジア諸国との経済連携協定の交渉については、将来にわたる日本経済の在り方を考え、積極的に取り組んでまいります。

(むすび)

 国民との対話、タウンミーティングは通算100回を数えました。今後も様々な形で開催します。

 先の総選挙に関し、公職選挙法違反容疑で衆議院議員が逮捕されたことは、誠に遺憾であります。「信なくば立たず。」国民の信頼を得ることができるよう、政治家一人ひとりが襟を正さなければなりません。更に政治改革を進め、信頼の政治の確立を目指します。

 我が国は、日本国憲法前文において、「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」との決意を世界に向かって明らかにしています。

 青年海外協力隊の諸君は、今も世界各地で活躍しています。南太平洋のサモアで感染症対策に従事する人や、アフリカのセネガルで農業指導を行う人など、3000人を超える日本人が、厳しい環境にもめげず、自ら進んで地域の人々のために活動しており、我が国の国際社会における信頼を高めています。

 ゴラン高原や東ティモールにおける国連平和維持活動やインド洋におけるテロ対策の支援など、日本が国際社会の一員として行うべき任務を、多くの自衛官が国民を代表して遂行しています。

 平和は唱えるだけでは実現できません。国際社会が力を合わせて築き上げるものであります。世界の平和と安定の中に我が国の安全と繁栄があることを考えるならば、日本も行動によって国際社会の一員としての責任を果たさなければなりません。

 古代中国の思想家である墨子は、「義を為すは、毀(そしり)を避け誉(ほまれ)に就くに非(あら)ず。」と述べています。すなわち、我々が世のためになることを行うのは、悪口を恐れたり、人から誉められるためではなく、人間として当然のことをなすという意味であります。

 世界の平和のため、苦しんでいる人々や国々のため、困難を乗り越えて行動するのは国家として当然のことであり、そうした姿勢こそが、憲法前文にある「国際社会において名誉ある地位」を実現することにつながるのではないでしょうか。

 国民並びに議員各位の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。


2004/01/19

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