2002/10/10-1

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参院・外交防衛委員会


平成十四年十月十日(木曜日)

○委員長(松村龍二君) 外交、防衛等に関する調査のうち、日朝関係に関する件を議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。

○舛添要一君 最初に、拉致問題についてお伺いしたいと思います。
 昨日、拉致された御本人五人、十五日に一時帰国ということでございますけれども、少し距離を置いて見ますと、生存なさっているとされている方と死亡されたと言われている方、この家族の分断につながらないか。そして、十五日にこれ五人帰ってこられると大変なニュースになりますね。しかし、片一方で家族が人質に取られているわけですから、先般の寺越さんの例を見ても分かりますように、本人がマインドコントロールを受けているのか、それから人質取られて本当のことを言えるかどうか分からない。
 これは、二週間帰国されるということですけれども、二週間でそういうこと、縛りが取れるはずはないので、こういう小出し小出しに北朝鮮側が出してくる、それは一つのカードだと思うんですけれども、こちら側としてはそういうことに対してある程度の警戒感、なし崩し的に譲歩してしまうということがないか、そのことを政府の方はしっかり確信を持っておられるかどうか、安倍官房副長官。

○内閣官房副長官(安倍晋三君) まず、今回、十五日に五人の生存しておられる方々の帰国について、家族を分断することにはならないかという御質問でございますが、まずこの五人の方々本人のみの十五日の帰国ということにつきましては、昨日家族会の皆様のまず御了承をいただいたわけでございます。家族会からは横田御夫妻、そして増元さんと蓮池さんにお越しをいただきました。横田さん、増元さん、それぞれ北朝鮮の発表によると既に死亡しているとされる被害者の家族、御両親、御家族の方々でございますが、皆様も家族全員の帰国を求めるべきであるという主張をしてこられました。今回のこの十五日の帰国、それは大変すばらしい成果であるというお話でございました。
 そしてまた、まだ家族が残っている、被害者の方の家族が残っているではないかという御指摘でございますが、そもそもは、御本人たちの意思もあって、家族に訪朝してもらいたいというのが当初の北朝鮮側の要望であったわけでございますが、しかしながら、家族の皆様方のしっかりとした団結、そして私どもの政府の決意、そしてまた田中局長が大変粘り強く交渉した結果、当初はこちらから向こうに行ってもらいたいということでなかなか固かったわけでございますが、今回、向こう側から取りあえず御本人たちの帰国という成果を得たのではないかと、私はこのように考えております。
 しかし、私どもの要求はあくまでも家族も含めての全員の帰国でございますから、その基本的な考え方は変えずにあくまでもその原則を守って北朝鮮側に交渉をしていきたい、こう思っております。

○舛添要一君 アメリカ大統領特使のケリーさんがピョンヤンを訪問なさって、その直後のこういう決定だということで、何らかのアメリカの大統領特使の力があったのかどうなのか、その点。
 もう一つ、その絡みで明確にしておきたいのは、これは田中外務省局長、いろんな報道がなされています。どれが正しいのか分からない。ある報道によると、ケリー特使が官房長官ないし副官房長官に会見したい、それを意図的に田中局長が拒否をした、拉致問題については触れてもらいたくないんじゃないかと、そういう勘ぐりのような報道がありますから、これはあなたの名誉のためにも、どういう外交をやってこられたのか、そこのところを安倍官房長官、田中局長、双方に明らかにしていただきたいと思います。

○政府参考人(田中均君) ただいま御指摘の点でございますけれども、何点か申し上げたいと思います。
 第一点は、ケリー特使が訪朝するに先立って日本に事前の協議のために参りました。実は、私は、先方の要請もございまして、個人的な会談をしたいということで、彼らが着いた日に会談の機会を持ちました。その中で、私は、米国の対応の方針、そういうことを議論しつつ、日本についての拉致問題の重要性ということを時間を掛けて説明をいたしました。ただ、そのときはまだピョンヤンに派遣をした調査団が帰国していなかった、帰国はしていましたけれども、東京には台風のために戻れなかったという状況の中で、ケリー国務次官補に対しては、調査団がまだ東京に戻っていないという事情を説明した上で、現段階でこの件についてお話を、調査団の件についてお話をすることはまだできないということを説明いたしました。
 その後、翌日、正式な会合の機会が事務次官等との間で持たれまして、その際に、調査団の報告も踏まえた形で北朝鮮に対して誠意ある対応をしてもらいたいということを米国から伝えていただきたいということを明示的に要請をいたしまして、ケリー国務次官補もピョンヤンにおいてその旨を明確に先方に伝えたということでございました。
 したがって、米国に対して、報道されているように拉致の問題に深入りするななんということを申し上げたことはございませんし、政府としてきちんと米国に依頼をしているということでございます。
 それから、具体的な会合等のアレンジメントについては、これは米国側が関係の局と協議をして決めたものでございまして、私が官房長官とか安倍副長官との会談を妨げたとか、そういったようなことは一切ございません。これは事実無根でございます。
 以上でございます。

○舛添要一君 安倍副官房長官、今の理解でよろしゅうございますか。

○内閣官房副長官(安倍晋三君) 田中局長が申し上げたとおりだと思います。
 一日の夜、田中局長がジム・ケリーと会った後、私も福田長官とともに一行と会いました。そして、そのときの段階では確かに、田中局長がおっしゃったようにまだ調査団が帰国をしておりませんでしたので、調査団の報告があり次第またもう一度連絡するということを申し上げまして、調査団の聞き取り調査を、私どもが報告を聞き終わったのが午前三時でございました。午前三時に、本人はもう寝ておられましたので、代理の方に私の方からすぐの方がいいだろうということで連絡をいたしまして、まだ不十分なので協力をしてもらえるように要請してもらいたいということを申し上げたということでございます。

○舛添要一君 もう一点、先ほど質問いたしましたけれども、ケリー特使のピョンヤンにおける外交、これが今回の五人の一時帰国に影響があったのかどうなのか。これは外務省でも内閣でも、お答えできる方、お願いします。

○国務大臣(川口順子君) 家族の帰国が可能になるについては様々な要素が働いたと思います。ケリーの訪朝……

○舛添要一君 本人、生存者本人。

○国務大臣(川口順子君) ごめんなさい、本人の。失礼しました。本人というつもりで申し上げましたが、ちょっと言い間違えまして、失礼しました。
 様々な要素が働いたと思います。今、先生御質問のケリーのお話もあったと思いますけれども、何よりも家族、生存なさっている方の御家族の方が非常に強い御希望をお持ちで動かれたということでもございますし、それから北朝鮮側も、これは総理とのお話でも、それからこの間政府調査団が行きましたけれども、その際にも、生存されているとされる方については本人の希望も含めてできるだけ早期に、家族も含めてできるだけ早期に帰国できるように最大限努力をするということを言っておりまして、様々な御家族の御希望、日本の働き掛け、そして国際的な情勢、いろいろなことがそういう方向に働いたと思います。

○舛添要一君 今回の五人の件以外に、そもそも調査報告書を私も全部読みましたけれども、にわかに信じ難い点がたくさんあります。
 そして、今回帰ってこられる五人というのは、ある意味で北朝鮮にとっては衛生無害ですね。例えば、田口八重子さん、これは李恩恵と言われている。それから横田めぐみさん、これは工作機関で教授をやったりしているわけですから、この人たちが生きて帰ってくるということになれば非常に北朝鮮のスパイも日本における大打撃を受けると。そういうことですから、北朝鮮もこれは非常によく考えた外交をやっていると思いますから、是非そういうことを踏まえて、ある意味でだまされないようにやっていただきたいと思いますが。
 今回話題になっている件を含めて百件近くが拉致されたんじゃないかという疑惑が起こってきている。最初に警察庁の方に、現在、その後出てきた事例、その後各県警に問い合わせがあった事例を含めて、現在の捜査の進展具合について簡単に御説明願いたいと思います。

○政府参考人(奥村萬壽雄君) お答えをいたします。
 この北朝鮮によります日本人拉致容疑事案につきまして、警察といたしましては、事案の重大性にかんがみまして、これまで日本の国内外において鋭意捜査を行ってきたところでございます。
 そうした捜査の結果を総合的に検討いたしました結果、今般、曽我ひとみさん、曽我ミヨシさん、それから石岡亨さん、松木薫さんの四名につきましても北朝鮮による拉致容疑事案と新たに判断したわけであります。これによりまして、北朝鮮による拉致容疑事案は現時点で十件十五名となったところであります。
 それからまた、原敕晁さんを拉致いたしました辛光洙、それから有本恵子さんを拉致いたしましたよど号グループの犯人の一人であります魚本公博容疑者、この二人につきましては逮捕令状を取ったところでございます。
 それからまた、先般派遣をされました拉致に関する事実調査チームによる現地調査結果につきましては、現在その内容を精査し、また分析をいたしまして所要の裏付け捜査を行っているところでありますけれども、今回の北朝鮮による事実関係の説明には非常に不十分な点あるいは疑わしい点がありますので、私ども警察といたしましては、今後とも内閣官房、外務省等と十分に連携をいたしまして北朝鮮に対して更に詳細な説明を求めていきたいと思っております。
 一方、拉致容疑事案であると判断をしております十件十五名以外の事案につきましても北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案があると考えておりまして、現在それらにつきまして各府県警察で所要の捜査、また調査を進めておるところでございます。

○舛添要一君 今後の国交正常化交渉とこの拉致問題との絡みですけれども、二十九日、三十日にマレーシアにおいて二日間交渉をやるということですね。
 ただ、心配すれば切りがないんで、最悪のシナリオというか悪い方を少し申し上げますと、日朝の平壌宣言には拉致という言葉が一言も書かれておりません。したがいまして、紙を基にしてやったときにちゃんと北朝鮮側が今後とも誠意ある態度を続けていくのかどうなのか。それから、例えば今警察から話がありました辛光洙、これは口頭では金正日総書記は責任者の処罰をしたと言っていますけれども、じゃ、その辛光洙をどういうふうにして処罰して、今牢屋に入っているのか死刑になったのか何にも言えない。それについては調査報告書は、これは日朝の法的枠組みがないから正常化してからの話だと、こういうふうになっていますね。だから、鶏と卵みたいな側面があって、正常化を進める形で拉致問題を一歩一歩やっていくと、その態度は大変結構だと思いますけれども、どちらもアブハチ取らずになってしまうという危険性も一つあるので、平壌宣言に拉致が入っていなかったことの埋め合わせ、拉致という言葉が入っていなかったこと、その弱みをちゃんと補強できるだけの外交体制、構築なさっているのか、そしてまた、その決意で臨むのか、これは政府、外務省、是非お伺いしたいと思います。

○国務大臣(川口順子君) まず、正常化交渉の中で、拉致問題についてはこれは最優先の問題として取り上げていくということでございます。そして、拉致の問題だけではなく、この平壌宣言に盛られたすべてのこと、これについてきちんと真剣に議論をしていくということでございまして、仮にこの平壌宣言の精神と基本原則、これに北朝鮮側がこれを守らないということがあれば、その場合は正常化の過程が前に進んでいかないということになるわけでございまして、これは政府を全体を挙げてこの交渉に際してきちんとすべてのことを取り上げ、そして必要な措置を我が国も取りながら進めていくということでございますので、この交渉の過程については、その時々で、そういった状況についてもちろんお話をしていくわけですし、また御質問もいただけると思いますので、これについては、交渉をきちんと進めるということについては政府に御信頼をいただきたいと思っています。
 それから、拉致の問題が入っていないということでございますけれども、これは……

○舛添要一君 拉致という言葉が入っていない。

○国務大臣(川口順子君) 言葉が入っていない。言葉は入っておりませんけれども、会談で総理がいらっしゃいましたときには、この問題については厳しく総理から追及をしていただいておりまして、平壌宣言には「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」という形で、これも含め、そして工作船の話も含め、そこで取り扱っているわけでございます。

○舛添要一君 今、工作船の話が出ましたので、続きまして工作船、不審船の話をしたいと思いますけれども、国土交通省、これは船を揚げまして相当のレベルまで調査が今進んでいると思います。警察とも連携の上だと思いますが、例えばプリペイド携帯電話が出てきたと。そうすると、これはいつ、だれが買ってどこと通信をしたか、そういうことも分かりますから、日本側における北朝鮮の協力者、支援体制も分かると思いますけれども、既に報道がされていますけれども、相当な重武装をやっている。今の海上保安庁の力ではとても簡単に撃墜、この前は本当に運が良くてミサイルが当たらなかったわけですけれども、非常に私は懸念をしておりますので、取りあえず現在までの調査結果の概要について、国土交通省、報告願います。

○政府参考人(深谷憲一君) お答え申し上げます。
 委員御指摘の事案に関してでございますが、御案内のとおり、九月十一日に現地で引揚げを行いまして、去る十月六日に船体を陸揚げしたところでございます。これまで行ってまいりました一連の作業によりまして、船体そのもののほか、小型舟艇、水中スクーター、武器類等多数の証拠物を我々は回収をしているところでございます。
 これらの証拠物につきましては、現在鋭意整理、分析、鑑定を進めてきておりますけれども、その中でも、工作船の船尾に観音開きの扉がある、その中で発見された小型舟艇、水中スクーター、こういったものが過去に北朝鮮のものと特定されたものと同様の特徴を持っている、あるいは北朝鮮の国民が付けると言われております金日成バッジも発見されたり、あるいはたばこでございますとか菓子類、そういった北朝鮮製のものが多数発見された、こういうことから総合的に判断しまして北朝鮮の工作船であったと特定したところでございますが、先般の日朝首脳会談におきまして、金国防委員長がこの事案についての北朝鮮の関与を認める趣旨の御発言をされておりますが、そのことが今申し上げましたような物証としても裏付けられたかなというふうに考えておるところでございますけれども。
 海上保安庁といたしましては、国民の安全それから安心、これを確保するためにも、この事案の全容を解明していくということが極めて大事であろうというふうに認識をいたしておりまして、携帯電話などにつきましてもそのための重要な証拠物の一つというふうに認識しておりまして、引き続き関係方面の御協力もいただきながら徹底的な捜査をしてまいりたいというふうに考えております。

○舛添要一君 今後、警察と協力して、日本におけるこういう北朝鮮の工作船活動を支援するような組織についても壊滅的に根こそぎ逮捕する、そういう方針で臨むようにお願いしておきたいと思います。
 不審船絡みの話でもう一つ。この日朝首脳会談を前にした九月四日、能登沖で不審船が出てきた、これは北朝鮮のフラッグを、旗を付けた形で出てきた。これについて、これまた内閣が意図的に発表を遅らせたりしたのではないかという一連の報道がなされていますけれども、現在、内閣の方でこの九月四日の能登沖の不審船についての調査をやっているということですが、まとまっているところで結構ですので、安倍官房副長官、この事案について反省点、ないし言われているように、日朝首脳会談を成功させるために、不審船が出てきたんだけれどもマスコミに知らせるなと、そういう態度で臨まれたんですか。

○内閣官房副長官(安倍晋三君) この不審船の引揚げ調査、あるいはその調査結果の公表が首脳会談のスケジュールまた首脳会談そのものに影響されたのではないかという御懸念でございますが、そういうことは一切ございません。総理も私に、この不審船につきましてはこの訪朝にかかわりなくしっかりとやるようにということで、しっかりと対処するようにという指示が具体的にございました。

○舛添要一君 先般引き揚げられました不審船についてもそうなんですけれども、どうも海上保安庁と自衛隊との協力体制というのが、はたから見ているとうまくいっていないような感じがする。あれは、ロケットを撃たれて海上保安庁の船が沈没しても、後ろに海上自衛隊の護衛艦の一隻も来ていない、こういうことではそれは薄ら寒い状況があるわけですけれども、その前の、P3Cで写真撮って、わざわざ、その場で伝送できないとか、いろんな不備がございました。
 防衛庁長官、そういうことを含めて、これは海上保安庁との連携というのを今後どうするのか。法的な不備があれば我々がその法的な不備を埋めればいいわけですけれども、まずその協力体制、今後大丈夫ですか。

○国務大臣(石破茂君) これは三年前の能登半島沖の不審船事案のときから指摘をされている事項だと思います。そのときから本当に十分な連携が取れていたのか。あのとき初めて海上警備行動が発令をされましたが、結果として取り逃がすことになった。なぜ取り逃がしたのかということの反面、では追い付いていたとしたらどうなったんだということ。つまり、今回の、昨年の暮れの事案で明らかなように、自爆をするような人たち、そういう人たちが、仮に保安官であれ自衛官であれ、乗り移ったとしたときにどういう行動に出るのだろうかというような議論が当時ございました。
 昨年、自衛隊法を改正いたしまして、海上保安庁法の改正に合わせる形で自衛隊法も改正をした、停船命令に従わない場合にどのようにするのかということであります。そういうような条文も作りました。あるいは、多衆集合、九十条第三項のところで武器使用の権限も強化をした次第であります。
 先生御指摘のように、情報の伝達というものに遅滞があってはならない、必ずすぐに伝えるようにということと、じゃ海上保安庁が出て、御指摘のように本当に船が沈んじゃってから自衛隊が出るということは私はあってはならないと思っているんです。他方、考えなきゃいけないことは、それでは何でも自衛隊が出ればいいのかということを考えてみた場合に、たとえそれが警察権の行使であったとしても、外形からは護衛艦が出てきたということになるわけで、そのことがどういうような意味を持つのか、そこの兼ね合いをどう考えるかということだと私は思っているんです。
 今、海上警備行動というのがあります。法理的には、治安出動というものを海上自衛隊に下令することも法理上は可能であります。そうしますと、今ある条文の中で一体どこまでできるのかという法律的な側面、情報伝達も含めた運用的な側面、そして自衛隊のどのような部隊が出るべきなのか、どのような船が出るべきなのかという運用、装備の面、そういうものを合わせまして何が一番いいんだろうか、何が抑止力として、また事態の拡大を防ぐという意味で、そして無用な犠牲を出さないという意味で何が一番いいのかということにつきまして早急に結論を出しませんと、これは政府としての責任を果たしたことにはならないというふうに私は考えております。
 党内におきまして、先生が御指摘されましたことも踏まえまして、きちんとした結論を出しますように、海上保安庁ともよく連携をしながら努力をしてまいりたいと存じます。

○舛添要一君 二十四、五年前の話ですが、この拉致の問題が集中して起こったのは。しかし、今、海に囲まれた我が日本で海岸を夜散歩していたら、いつさらわれるか分からない、こんな不安を持って生活するような国は国家の体をなしていないわけです。海上保安庁もそうですが、自衛隊、我々平気で散歩できるんですか、今。
 それからもう一つ、情報があればですけれども、日朝首脳会談以降、金正日総書記はもう工作船活動をやめると言った。やめていますか、動いていませんか、そういうことの情報はちゃんとありますか。これは防衛庁でも内閣でも。機密でお答えになれないならなれないで構わないですけれども。

○国務大臣(石破茂君) 現在のところ、そのような情報は承知をいたしておりません。

○舛添要一君 それにつけても、テロも含めて、こういう工作船も含めて、やっぱり有事のときにどうするかという体制がなっていないからこういうことになるんで、さきの通常国会で有事法制というのは日の目を見ませんでした。いろんな不備があります。私は、これはテロも含めて少し網を大きく広げる形で有事法制の整備をしないといけないというふうに思いますけれども、この臨時国会でちゃんとやる決意なんですか、安倍官房副長官。

○内閣官房副長官(安倍晋三君) さきの国会におきまして、私どもが提出をいたしました武力攻撃事態対処法案につきましていろいろな御議論がございました。また、提出に当たりまして、我が党の部会におきましても委員からいろいろと御指摘がございました。その御指摘があったことはそのまま国会でも論点となったわけでございますが、私どもはそういう論点を踏まえながらこの法案をどうすべきか、そういう検討をいたしております。また、議員の皆様方におかれましても、どう修正すべきかということを今検討していただいているところでございます。
 特に、今、石破長官からもお話がございました、いわゆる工作船、テロ、ゲリラへの対応が十分なのかということでございますが、二十四条におきましてこうしたことへの対処についても検討するということが書かれておりますが、しかしこれはもう喫緊の課題ではないか、中身はどうなのかということについてもっとはっきりと示すべきではないかという御指摘がございました。私どももその御指摘は極めて重要な御指摘であるという認識を持っております。
 いずれにいたしましても、対話と抑止でございまして、抑止が十分であるかどうかということの上におきましてやはりこれは法整備をしなければいけないという決意の下、前国会で提出をしたわけでございます。残念ながら成立をしなかったわけでございますが、いろいろな論点等もう一度見直しまして、この国会におきまして、来るべき国会におきまして是非とも成立を図っていきたい、こう考えております。

○舛添要一君 今、対話と抑止ということをおっしゃいましたけれども、抑止の側面の安全保障の問題に移りたいと思います。
 日朝平壌宣言では、核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した。それから、ミサイル発射のモラトリアムを二〇〇三年以降も更に延長していくということが明記されておりますけれども、まず最初に、ミサイル問題、核問題、今後外務省としてはどういう対応をこの平壌宣言を実効あらせるためにやる決意なのか、それをお答え願いたいと思います。

○国務大臣(川口順子君) 平壌宣言に書いてございますように、核、ミサイル等の、先ほどの工作船も含みますけれども、安全保障問題は、これは一つの大きな問題グループとして認識をしているわけでして、これに対応するために安全保障協議を立ち上げるということです。
 今度の二十九日、三十日に第十二回目の交渉が行われるわけでございますけれども、正常化交渉が行われるわけですけれども、その中で、今後どういうテーマをどういうふうに取り上げていくかということの話をし、あわせて、日朝の安全保障協議、これをどのような形でやっていくかということの話もしたいと考えております。
 当然ながら、この問題の議論に当たっては、今までもやってまいりましたけれども、米国、韓国等と綿密に、緊密に連携を取りながら話を進めていく必要があると考えています。

○舛添要一君 先ほど拉致問題についてもお答えいただきましたけれども、この安全保障の問題についても、日本側として納得のいく回答が北朝鮮側から出ないならば正常化をすることはないということを断言できますか。

○国務大臣(川口順子君) 今後の正常化の交渉、これは安全保障問題も含みますけれども、日朝平壌宣言の精神と基本原則にのっとって進めていくということでございまして、これに違反をするということがあれば正常化のこの過程というのは前に進んでいかないということになると思います。

○舛添要一君 核開発疑惑なんかの検証、これは主としてアメリカ及び国際機関に任せないといけない状況になっていますけれども、私、実は二十年以上前にフランスのランドサット衛星から撮った写真を解析して、北朝鮮どうも核開発やっているんじゃないかというようなことを、核兵器の開発を、そういうのはかなり二十年前の偵察写真でもはっきり分かる。
 ところが、我が国が情報収集のためにまともな衛星持っていない。これもしかもどの省庁がやるのかもばらばらであると、今のところは内閣でしょうけれども。まあ偵察衛星という言葉を使うと嫌がる方がいるから情報収集衛星でもいいんですけれども、こんなものは持っていて専守防衛ですから情報をちゃんとやるべきなんですけれども、これ今後政府としてちゃんと進める気はあるんですか。

○政府参考人(貞岡義幸君) 御説明します。
 情報収集衛星につきましては、現在、平成十四年度冬期及び平成十五年度夏期の打ち上げに向け鋭意準備を進めているところであります。情報収集衛星は外交、防衛等の安全保障のために必要な情報の収集を主目的の一つとしておりますので、舛添先生御指摘のような我が国の安全保障にかかわる事項には十分に関心を持って打ち上げ後の情報収集衛星の運用を図ってまいりたいと考えております。

○舛添要一君 北朝鮮が核兵器を作っているらしい、ないしはサリンを作っているらしい、炭疽ガスをそこで何か作っているらしい、こういう情報を我々キャッチしたとしますね。空から見たい、それで偵察衛星、我がその情報収集衛星が持ってきました。正にこれは核兵器作っているぞというのは今の解析能力からするとかなり分かります。
 こういう使用は平和目的ですか、そうじゃありませんか。

○政府参考人(貞岡義幸君) 政府としましては、そういうのも我が国の安全保障にかかわる情報収集の一環と考えており、平和利用というふうに考えております。

○舛添要一君 私がその問題を提起したのは、情報収集衛星は平和目的になっているんです。これ難癖付ければ今のだって、平和という言葉の解釈次第ですけれども、非常にあいまいになるんです。だから、こういう国会決議をちゃんと見直すかどうなのか。つまり、平和目的という言葉が入っているから防衛庁が入れないんですよ。防衛庁がちゃんとやれないような情報収集衛星でちゃんとできるんですか、これは。石破長官。

○国務大臣(石破茂君) 今、事務方から答弁がありましたように、この情報収集衛星によります情報の収集なるものは、これは、決して軍事目的というよりも、平和目的にかなうものだというふうに私は考えております。
 むしろ、問題は、情報収集衛星で正しく撃ちそうだねということがたまたまその上空を周回しているときに撮れたといたしましょう、仮に撮れたといたしましょう。それだけでは全然駄目で、撃たれたミサイルが一体何時何分どこへ弾着するのということ、これが理解をできなければ、これは手の打ちようがないわけです、仮に将来BMDというものがあるにしても。
 しかし、先生御高承のとおり、それは今、早期警戒衛星の静止衛星はアメリカからの情報をいただいてやっておる。それは日米同盟の信頼関係の下にやっておるわけであります。今そういう形で、BMDの配備の有無は別といたしまして、正否は別といたしまして、情報伝達の形はできている。
 しかし、本当にそこで国会決議がどうなるのかということにつきましては、正しく国会で御議論をいただくべきものだと思いますが、私といたしましては、本当にそれが侵略的なものではなくて防衛的なものであったとした場合にどうなのだろうか。今、政府が、答弁申し上げましたように、平和目的ということであります。それは宇宙の平和利用というものをどう考えるかということでございますが、これはあくまで国会の御決議でございますので、国会での御議論、それに私どもはまたせていただくのが立場かと、そのように考えておる次第でございます。

○舛添要一君 是非、この平和利用という文言の国会決議をみんなで検討したいということを同僚の議員に御提案申し上げたいと思います。
 さて、時間も大分迫りましたので、最後に少し広い視野からの国際情勢ということを考えてみたいと思いますけれども、今回の日朝首脳会談に至った背景、私は主たるものが二つあると思っています。一つは、ブッシュ大統領の悪の枢軸発言、力による政策、それからもう一つは、飢えて国民が食えないという北朝鮮の飢餓状況、そういうものを前提にしての首脳会談だったというように思いますけれども、それ以外に何か付け加えること、ないしはこういう要因があるんじゃないかというようなことを、田中局長、例えば、ないし外務大臣でも構いませんが、ありましたらお答え願いたいと思います。

○政府参考人(田中均君) 委員が御指摘になった二つの点、米国のブッシュ政権が非常に強い態度を取って北朝鮮に対応しているということは一つの要因であることは間違いないというふうに思います。
 ただ、同時に、北朝鮮側も自国の経済事情ということもありましょうし、それから、周りの国、中国、ロシアにおける経済的な改革、発展というものを見て、やはり一定の経済改革を進める必要性、そういうものに対する認識が強くなっているということも事実だと思います。
 ですから、これは今に始まったことではなくて、例えば南北の関係に見ましても、南北の共同宣言以降、幾つかの分野で、例えば最近も鉄道の連結という話が実現に向けて動き出しましたけれども、そういう形で、それからヨーロッパとの関係でも、外交関係を結んでいるということがございますし、北朝鮮自身が一定の対話路線を進めたいという意欲を持っているという状況もこれまたあるというふうに考えております。
 私どもとしては、そういう北朝鮮が一面追い詰められた状況、その中で対話を求めるという状況を活用しながら、日本にとって日本の安全を担保できるような正常化を進めたい、そのための交渉をやりたいと、こういうことだろうというふうに考えます。

○舛添要一君 調査報告書、政府の調査報告書を見ても、拉致問題についてはどうもやっぱり金正日独裁体制の下ではまともな真実が出てこないのかなという感じがしますけれども、こういう独裁体制を民主化させる展望というのは、これは力でだけでやるわけにいかないでしょうけれども、こういう展望を現実に抱いて交渉なさっていますか、安倍副長官。

○内閣官房副長官(安倍晋三君) 大切なことは、平壌宣言にのっとって私どもが交渉を続けていく。その交渉を続けていく中で、北朝鮮側も世界の中で孤立をしているということの不利益また危険性を更に認識を深めていく。そしてまた、いろいろな情報が北朝鮮の中に入っていく。やはり情報が入っていくということが民主化への大きな私はてこになるんではないか。その情報が入っていくという可能性がより高まっていくということに私はこの正常化交渉を続けていくことがつながっていくんではないかと、このように考えております。

○舛添要一君 矢野副大臣、新たに副大臣におなりになったところですけれども、今後是非、外務省、しっかり体制を組んでこの拉致問題を含めて解決していただきたいと思いますけれども、御決意のほどをお述べいただきたいと思います。

○副大臣(矢野哲朗君) まだ就任させていただいて一週間強の私でありまして、ただ、今御指摘のとおり、強い外交の展開というふうな思いは私も一にするところでありますけれども、強い外交の展開というふうな具体的な行動を起こすに当たって、まず内から体制を整えるということも大変重要なことなんではないかなと。いろいろ昨年から外務省の体質について御指摘がありました。外務省としても、行動計画を立て、これに基づいてひとつ内なる整備をやっていこうというふうな思いでもあります。
 この行動計画でありますけれども、期限を切ってその成果をというふうなことでありますから、十分に成果が上がるべく私も体制を整えてみたいなと。あわせて、並行的に積極的な外交展開を志してみたいなと、こんな思いであります。

○舛添要一君 ありがとうございました。時間が参りましたので終わります。


○遠山清彦君 公明党の遠山清彦でございます。
 まず最初に、警察庁にお話をお伺いしたいというふうに思いますが、よろしいですか。
 九月十七日以降、北朝鮮当局が公式に拉致を実行してきたことを認めて以来、様々な報道がされてきているわけでございます。この報道の中で、いろんな新しい事実、元々あったのかもしれませんけれども、国民としては、私も含めて知らなかったような事実がいろいろ出てきた。いろいろ出てくる中で、国民の中には、こんなに元々いろいろな事実や情報があったのに、なぜ日本の警察は北朝鮮が認めるまで本気で捜査をしてこなかったのかと思っている人もいることは事実でございます。
 ましてや、曽我ひとみさんのケースの場合には日本人の請負業者がかかわっていたというようなことが示唆されていることもあり、やはり今までの捜査というのはちょっと甘かったんではないか。あるいは、日本の社会の中で、この拉致問題というのは捏造である、あるいは作り話であるといったような意見や風説を流す団体や個人がいたこともあるわけでありますけれども、これらの意見に引きずられた面もあったのではないかというふうに思いますけれども、いかがでしょうか。

○政府参考人(奥村萬壽雄君) 警察といたしましては、この北朝鮮による日本人拉致容疑事案につきましては非常に重大であるという認識の下に、日本の国内外におきまして正に地面をはい、そして血のにじむような捜査を一生懸命行ってきたところであります。その結果、北朝鮮による拉致容疑事案は現時点で十件十五名と判断するに至ったところでありますし、また一部の被疑者につきましては逮捕令状を取りまして、今国際手配をしているところであります。
 今、委員御指摘のありましたような拉致が捏造だというような意見とか議論もありましたけれども、警察といたしましては、日本国民が北朝鮮という外国に連れていかれたという極めて重大な事案だと。この重大性にかんがみまして、警察といたしましてはできる限りの精一杯の捜査をしてきたところだというふうに考えております。

○遠山清彦君 今、警備局長から血のにじむような捜査をされてきたということで、それは一面事実であろうとは思うんですね。
 ただ、例えばこれは九月二十四日付けの毎日新聞で報道されている話ですけれども、また有名な、今有名な話になっておりますが、一九八八年九月六日にポーランドの消印で石岡さんの手紙が御家族の元に届きました。その一か月後、この手紙にも有本さんの、有本恵子さんの家族にこれを渡すようにということがあったので有本さんの家族にもこの手紙が行って、この有本さんの家族がある衆議院議員の秘書の仲介で警察庁と外務省に相談をしたけれども、記事によれば全く取り合ってもらえなかったと。なぜ取り合わなかったのか、御説明をそれぞれ外務省と警察庁からいただければと思います。

○委員長(松村龍二君) どちらを先。

○遠山清彦君 警察庁、最初でいいです。

○政府参考人(奥村萬壽雄君) ただいまの報道は承知しております。
 事実関係を申し上げますと、これは昭和六十三年の秋でありますけれども、有本恵子さんの御家族から有本恵子さんが北朝鮮におられるという趣旨の手紙が届いたという御相談を受けました。その時点で私ども警察といたしましては、関係者から事情聴取をする、あるいは海外の治安機関との情報交換等をやりまして、必要な捜査を開始をしております。それから、その後、御家族が私ども警察庁の方へ来られました。その際も、当時の担当者が事情を更に詳しく伺うというようなことをしておりまして、私どもといたしましては誠実に対応させていただいているところでありまして、取り合わなかったというふうなことはないというふうに承知をしております。

○国務大臣(川口順子君) 有本さんの御家族からの御依頼につきましては、これは外務省としてお話を承ったということだったと私は承知をしております。
 当時、国交が北朝鮮と我が国との間にはございませんで、これを現実的に取り上げていく、働き掛けていくということにつきましては、現実的に制約があったわけでございます。その後、一九九一年になりまして一月に日朝の間の国交正常化交渉が開催をされたわけでございます。そのときに御家族からの御依頼を受けまして、本会談の際にこの問題を取り上げて北朝鮮側に対して調査を申し入れたということでございます。

○遠山清彦君 警察庁の方に一言だけ申し上げますけれども、今年の通常国会でも、ここに有本さんの御家族を始めとして、外交防衛委員会で御家族の方来ていただいていろいろと参考人質疑やりましたけれども、今、局長は明確に取り合わなかったという報道は間違っていると否定をされたわけでありますけれども、しかし、この九月十七日以来の御家族のお話を聞いても、その前の、我々が参考人招致ここでしたのも前ですけれども、前の御家族の話を聞いても、誠実に対応されたというふうに御家族で思っている方はほとんどいらっしゃらないというのがあるというふうに私は思います。その場にいたわけじゃありませんからあれですけれども、少なくとも御家族の皆さんはなかなか取り合ってもらえなかったというふうな御認識でいるということを真摯に受け止めて、また今後の捜査に生かしていただきたいというふうに思っております。
 そこで、次の質問に移らさせていただきますが、今、川口外務大臣が国交がないので、これは警察庁もそうですよ、国交がないので捜査するのは難しい、それはそのとおりだと思います。向こうでの捜査権は全くありませんから、これは大変に難しい、外務省にとっても警察庁にとっても難しいようなケースであったというふうに思うわけです。ただ、今後の捜査で日本の国内での、つまり北朝鮮の中に今捜査員を派遣してあちこち事情聴取するとかというのは不可能でしょうから、現時点では。ただ、国内での調査を、これはもう既に調査、捜査は着手されていると思いますけれども、徹底的にやっていただきたいと思うわけです。
 その理由の一つは、この北朝鮮の拉致の問題をいろいろと考えてみますに、やはり日本国内で拉致に協力をした人物や団体がいたであろうということは、これはまだ推測の域を出ない部分もありますけれども、大体多くの人がいろんな報道等を読んだらそういうふうに思っているわけですね。
 ですから、例えばあの不審船、舛添先生もおっしゃっていましたけれども、の中からプリペイド式の携帯電話が出てきたとか、日本製のゴムボートが出てきたとか、日本の中で物品を調達していた人がいたのではないか。あるいは、北朝鮮が拉致をしようと対象者のリストを仮に作っていたとして、その相手の日本人の素行調査や事前の人物調査などという形で協力をしていた人間や団体が日本の国内に既に前からあったということはもう想定され得るわけでありまして、こういった日本サイドの、必ずしも日本人とは限らないかもしれませんけれども、日本国内にいた人物あるいは団体による拉致協力の実態解明について警察当局として今後どう取り組んでいかれるのか、伺いたいと思います。

○政府参考人(奥村萬壽雄君) ただいま委員御指摘のような、日本人拉致事案について日本国内の協力者がいたんじゃないかという報道があることは私ども承知しておりますし、また今回の事実調査における北朝鮮側の回答の中で日本人の請負団体というふうなことも言われておりますけれども、現在これらの拉致容疑事案につきまして私ども捜査中でございまして、そういうケースがあったのかどうかということについてはお答えを差し控えたいと思いますけれども、いずれにしましても、これら拉致容疑事案の全容解明に向けまして私ども全力でこれに当たっていきたいというふうに考えております。

○遠山清彦君 是非、これは国内の捜査権のあるエリアでの話ですから全力でやっていただきたいというふうに思うわけでありますけれども。
 次に、ちょっとこれ、最初警察庁さんに聞こうと思ったんですが、法務省さんに聞きたいことがございます。それは、今後警察の方で捜査しまして、仮にある特定の拉致案件について特定の個人や団体の関与が裏付けられた場合、これは当局として、政府としてどういうふうに対応していくのかということなんですね。
 これは、この罪は、拉致の罪は、日本の刑法で言いますと二百二十六条の国外移送目的略取罪、あるいは幇助した場合は幇助罪に当たるわけでありますけれども、新聞ではこれは七年の時効が成立していると断定調の話が多いんですね。ところが、私、今回勉強してみましたら、必ずしも時効が成立したと言い切れない、時効が成立していないと考え得る余地があると思うんですね。
 幾つかあると思うんですけれども、二つだけ主なものを申し上げたいと思いますが、一つは、これは誘拐とか拉致に関する判例でも出ておりますし、学説上もそうでありますけれども、難しい言葉で言えば、一定の法益侵害が継続している状態では犯罪事実が継続していると。つまり、これは継続犯だと。つまり、拉致された人がまだ日本に戻されていないわけですから、原状回復していない。つまり、犯罪行為自体が終わっていない。犯罪行為自体が終わっていなければ時効が起算されないんですね。時効自体がまだ発生していないということになるので、もう時効が成立しているから、これに関与した人、罪に問えませんよということは言えないのではないか。
 それからもう一つは、刑事訴訟法の二百五十五条にありますけれども、拉致の実行にかかわった人が国外にいる場合には、国外にいる期間はずっと時効停止しますね。そうすると、時効七年といっても、今後の捜査いかんによってはこれ、時効が成立してから罪を問えないということは、例えば日本国内で二十年前に拉致に関与した人がいたとしても時効じゃないんです。ということを考え得るのではないかと私は思いますが、法務省、どうでしょうか。

○政府参考人(樋渡利秋君) 委員御指摘のとおりに、公訴時効は一般論で申し上げますと犯罪行為が終わったときから進行することになっております。また、公訴時効は犯人が国外にいる期間は進行を停止することというふうにされておりますところ、かかる時効の停止は、犯人が複数である場合、それぞれについて別個に判断すべきものと解されております。すなわち、複数の者が事件に関与している場合には、各人の我が国への入出国状況いかんによりまして、共犯者の中でも各々の時効完成の有無が異なる場合が生じ得るところであります。
 さらに、最初の御質問で略取・誘拐の罪の性質でございますが、これも委員御指摘のように、それを継続犯と見るか状態犯と見るか。すなわち、委員御指摘のように、まだ犯罪が終わっていないと見るのか、既に犯罪が既遂に達してあとは違法状態が続いているのかというところで犯罪行為が終了した、終わったときという起算点が異なるわけでございまして、そのいずれの時点を起算点とするかについては、この点をめぐりまして裁判例、学説が種々分かれている、そういう見解が分かれているところであります。
 これにつきましては、個々の事案の内容に応じまして司法の場で判断されるべきことでありまして、法務当局として意見を申し上げる立場にはないということで御理解いただきたいと思います。

○遠山清彦君 今、つらつらと長い説明があって、結論的には法務省としてなかなかこれだというふうに言えないということで、ただ、私も判例とか調べましたら、例えば昭和五十三年の七月の大阪高裁の誘拐関係に対する判決で、被誘拐者に対する実力支配が続く間は犯罪行為が継続する継続犯であるという例えば文言があるわけでして、北朝鮮に拉致をされた人たちが北朝鮮の実力の支配に継続して置かれている場合には、これはなかなか犯罪行為が終わったというふうに言えないのではないかということもあります。
 それから、学説上の争いがあることも私、認識しておりますけれども、通説では、大方の説では、ある犯罪が起こった後の結果が、行為が終わった時点というよりも、犯罪によって起こった結果が発生した時点から起算をすると。そうすると、この拉致なんかの場合には、拉致という行為が終わった時点を起算時点とするのか、拉致された人がその行為によってどういう結果に至ったのかというそこを見極めなければ、私は時効の起算点というのは軽々には決められないというふうに思っておりますので、政府の皆さんにもそれを御認識いただいて、またこれは最終的には司法の判断になると思いますけれども、警察庁の方にも是非捜査で、関与した者、日本国内、国外を問わず徹底追及をしていくという姿勢を持っていただきたいというふうに思います。
 続きまして、安倍副長官にお伺いしたいと思いますが、今後、正常化交渉が始まっていくということで、私は、大切なことは、これはもう副長官よく御存じだと思うんですが、やはり拉致問題の解明というものが北朝鮮によって他の懸案で日本側の譲歩を引き出すカードに使われないようにしなければいけない。そういう意味では、これはちょっと表現が難しいんですけれども、拉致問題と正常化交渉は不可分だと言えるんですが、他方、拉致問題のじゃ余り証拠もないような、だれが見ても作り話と思うような情報をもらう代わりに、経済協力とかほかの分野で日本側は譲歩しますよみたいな取引ということに使われてはいけないという意味では分けなきゃいけないと。正常化交渉のほかの案件がどう進むのであれ、拉致問題の解明というものは続けていかなきゃいけない、厳しくやっていかなきゃいけないというふうに思うんですけれども、この点についてはいかがでしょうか。

○内閣官房副長官(安倍晋三君) 今の御質問にお答えをする前に、先ほど法務省あるいは警察庁に対して御質問の件でございますが、私ども、実行犯等々の時効の問題、また再捜査の問題につきましては、専門幹事会におきましてもう一度すべての案件を洗うように、当事者と思われる者がいれば当然事情聴取等々をするようにという指示はいたしております。
 ただいまの御質問でございますが、私どもといたしましては、この正常化交渉におきまして拉致問題の解決を最優先事項といたしました。これは閣僚会議においてそのように政府の方針を決めたわけでございますが、それにのっとりまして正常化交渉の中において拉致問題の全面的な解決を図っていきたいと、こう思います。
 その中で、私どもが確信できないというか、私ども自体がそれが真実であるということが認定できない資料を出されるときにどう判断するかということでございますが、私どもはそれぞれの資料について私ども独自に認定をするということが極めて重要であると思います。それに対しての協力は当然求めていかなければいけないと、このように思っております。
 そういう意味におきましては、原則をしっかりと据えて、安易な妥協はせずに交渉をしていくということを申し上げておきたいと、このように思います。

○遠山清彦君 続きまして、これは安倍長官でも外務省でもいいんですけれども、先ほど舛添委員からも指摘がありました、公式文書に、金正日総書記が小泉総理にこの拉致問題で謝罪をして再発防止を約束したと報道されておりますが、公式文書にはやはりそういったところまで踏み込んで載っていないと。まして、今、日本は拉致問題の真相の解明というものを北朝鮮に強く要求をしている段階でありまして、私としては今後どういうふうに交渉が進展するか見守らなければいけないところもありますけれども、やはり日本政府と北朝鮮政府が合意をした文書の中に、北朝鮮側が拉致の問題について解明の努力をし続けるということを義務付けるような言葉を書いた文章を作る、あるいはこれは国交正常化、仮にするとしたら、そのときにどこまでこの拉致問題の解明が進んでいるかにもよると思うんですけれども、いずれにしましても、私は、あの日朝の平壌宣言だけを根拠に拉致問題の解明をしていくことはちょっと難しいのではないか、つまり北朝鮮側の努力を担保できないという意味では是非何らかの公式文書に、今後作る公式文書があればこの問題をしっかり書いていくべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(川口順子君) 北朝鮮による拉致問題への謝罪というのが公式文書にないということでございますけれども、まず、先ほどから申し上げていますように、この拉致の問題の解明、これは国交正常化交渉の中で最優先の事項としてやっていくということでございます。
 そして、紙の中では、この平壌宣言の中では、これは「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」というふうに書いてありますし、ここで二度と遺憾な問題が、「このような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとる」というふうに書いているわけでございますし、口頭でも金正日総書記が小泉総理に対してそういうことが遺憾であると、おわびをするということをおっしゃっていて、二度と発生させないということも言っているわけでございます。
 拉致の問題ということは、小泉総理が金正日総書記と会われてお話しになって、そこで初めて解明の入口に立つことができたということだと思います。今まではそれを言った途端に席を立って出ていってしまうというような状況であったわけで、この入口に立って、今後、正常化交渉の中でこれは強く相手に真相解明を求めていくということには変わりありませんし、北朝鮮側がこれに対して対応をきちんとしてくれるということについてはそれまでの金正日総書記の姿勢その他からも明らかだと思いますけれども、いずれにしてもこの平壌宣言の基本原則と精神にのっとって北朝鮮側が対応しない場合にはこの交渉は前に進んでいかないということでございますから、これについてはきちんとやっていくということでございます。

○遠山清彦君 分かりました。
 次に、安倍副長官に再度お聞きしますけれども、誠に残念なことに、この拉致問題が、拉致被害についての報道が連日なされる中で、在日朝鮮人に対する暴行、暴行未遂、暴言、脅迫、無言電話などの嫌がらせが合計で三百件ほど発生しているという報道がございます。先日、神奈川県では女子小学生が日本人の男性に足をけられるという事件もあったわけですけれども、私、こういう人権感覚の疑われることは絶対あってはならないし、またこの拉致問題の解明するという立場からも百害あって一利なしの行動であるというふうに思いますが、安倍副長官の御見解を伺いたいと思います。

○内閣官房副長官(安倍晋三君) 私もそうした報道があったことを承知をしております。
 この問題につきましては、法務大臣から人権擁護を所管する担当部局に対し人権擁護活動を強化するよう指示がなされたわけでございまして、当然こうしたことが決して起こらないよう私どもも努めていきたいと、このように思っております。

○遠山清彦君 是非よろしく対応方をお願いしたいと思います。
 続きまして、石破防衛庁長官、御就任おめでとうございます。
 お聞きしたいと思いますが、もう既に出ている質問なので、簡潔に私、申し上げたいと思いますが、長官よく御存じのとおり、北朝鮮はスカッドB、スカッドC、それからノドン1ですか、これは日本全域が射程に入るミサイルというふうに言われていますけれども、既に配備済みと。テポドンも実験している、していないという話がいろいろあるわけでありますけれども、やはりこの安保協議で、先ほども長官、どなたかの答弁で申し上げていましたけれども、おっしゃっていましたけれども、やはりこの核兵器、大量破壊兵器、それから生物化学兵器も含んでですね、またミサイルの問題、これらの具体的な項目について、いわゆる米朝合意を履行してくれといって任せるんではなくて、やはり日朝というこの軸の中でも、これはお隣の国で核兵器持たれたり、それを搭載して攻撃できるミサイル持たれているときに、黙って見ているということはあり得ないわけで、ですからこの具体的な案件についてやはり北朝鮮が日本に対して脅威を与えないという担保を取るぐらい毅然とした態度で交渉していただきたいと思いますが、つまり具体的な案件について具体的な進捗がなければこれは正常化の合意もできないと私は思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) 委員の御見解に私は全く賛同をいたします。すなわち、御指摘になりましたように、米朝枠組み合意にお任せをというようなことであってはならないのであって、テポドンはそれはアラスカまで飛ぶのかもしれませんが、ノドンの脅威に実際に我が国は今もさらされておるわけだと思います。そしてまた、工作船は我が国を対象としたものであります。
 そして、ミサイルに生物化学兵器を載せれば、それはそのままノドンの脅威すなわち生物化学兵器の脅威になるわけですから、このことは当然我が国の脅威であるという認識の下に正常化交渉、そして何よりも安全保障の協議の場で我が国の問題として、国際的約束の履行ということは我が国の問題なんだという認識の下にきちんと交渉をしてまいりたい、そして国民の安全を確保したい、それが政府の役割だと認識をいたしております。

○遠山清彦君 ありがとうございます。
 最後の質問になるかと思いますけれども、再び安倍長官にお伺いをしたいと思います。実は日朝の首相協議ではほとんど話題にならなかった個別の案件で、しかし日朝間の中で特に日本側にとって深刻な問題として、これは今防衛庁長官が言及をしました工作船とも関係ありますけれども、麻薬の密輸問題が私はあるというふうに思っております。
 専門家によりますと、九〇年代後半から北朝鮮製の麻薬、覚せい剤、薬物の密輸が、日本向けが増えているというふうに指摘されているんですけれども、実際それを裏付ける事件も数多く起こっております。私が簡単に重立ったやつだけ言うと、一九九七年四月十五日のチソン二号事件で、日本国内で初めて北朝鮮から密輸された覚せい剤五十八・六キロが押収される事件がございました。九八年の八月二十三日には東シナ海の公海上で日本の暴力団員が北朝鮮船籍の漁船から二百二・六キロ、末端価格で百億円以上の覚せい剤を、これは北朝鮮製と後で分かりましたけれども、受け取った事件が起こる。九九年にも幾つか事件があったんですが、特に十月三日には何と史上最高の五百六十五キロの覚せい剤が台湾漁船によって北朝鮮から密輸をされて日本に運ばれたものが押収をされたわけでございます。
 このような大量な覚せい剤の薬物の密貿易、日本向けの密貿易をだれが一体やっているのかという点でありますけれども、実は今年七月に、だれがやっているかということについて非常に示唆をする事件が国外でございました、台湾と韓国でありますけれども。この二つの事件によって、もう時間がないので詳しく申し上げませんが、一つは台湾の方は、北朝鮮の海軍の船から麻薬を台湾の漁船が受け取ったというようなことが発覚したわけであります。つまり、国家が直接関与して薬物の密貿易をやっていたと。それから、韓国で書類送検された人の話によれば、民間の密売組織も北朝鮮にあるということが分かったわけでございます。
 今、日本は第三次薬物乱用期でございまして、未成年者に対する薬物の浸透が非常に心配をされている時期なわけでございます。北朝鮮からこのように大量の、何百キロという、一遍で何百キロという覚せい剤が北朝鮮から来ているという、それで、しかも国家がかかわっているということが今年に入って分かってきたわけでありますから、是非、この日朝交渉の過程の中でも、北朝鮮が国家ぐるみで日本に麻薬を密輸をするようなことがないように、この点についても具体的に毅然とした態度で臨んでいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○内閣官房副長官(安倍晋三君) 北朝鮮を仕出し地とする薬物の大量密輸事件が発生していることにつきましては、政府としても重大に受け止めております。八月に開催をされました日朝局長級協議等の場においても取り上げてきたところでございます。
 いずれにしろ、本問題については今後とも関係当局と緊密に連携をしつつ日朝国交正常化交渉等の場においてしかるべく取り上げていきたいと、このように考えております。また、北朝鮮側の誠実な対応を強く求めてまいりたいと思います。

○遠山清彦君 以上で終わります。


2002/10/10-1

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