2000/11/09

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150 参院・外交・防衛委員会

海野徹議員(民主党) の日朝国交正常化交渉についての質問


○海野徹君 おはようございます。民主党・新緑風会の海野徹でございます。

 大変日ごろ、外務大臣、いろいろ外交交渉で御苦労されていると思いますが、きょうは、日朝国交正常化交渉を中心にして幾つか御質問させていただきたいと思います。

 先ほど、深みのある議論を北京ではやった、しかしながら、こちらも慎重だけれども先方も大変慎重だと、だからなかなか会談内容をつまびらかにするわけにいかないというようなお話がありました。しかしながら、それだけに、次回の交渉の日程も決まらないままに、準備ができたらやろうよという話で終わっちゃったということだったんですね。ただ、大臣は、焦る必要は全くない、原理原則論に立って国民が納得する形で今後交渉していくんだというようなお話がありました。

 そういうお話、大変私も、要するに関係改善というのはやらなくちゃいけない、しかしながら急ぐ必要はないという論点でいろいろお話しさせていただきたいなと思いますが、いろんなところで国民の意向を聞いておりますね。その国民の意向を聞きますと、正常化交渉というのは慎重にという意見が非常に多い、圧倒的だと。

 こういう国民の意向を含めて考えて大臣はそういうような御答弁をされたと思うんですが、いま一度この点について、国民が慎重にと言う背景にはどういう背景があるのか、大臣としてはどういう御認識をされているのか、まずお伺いさせていただきたいと思います。

○国務大臣(河野洋平君) 各種の世論調査などを拝見しますと、この日朝交渉に対して、今議員が御指摘のように決して急ぐべきではないと、慎重にやれというそういう調査の結果が非常に多い。それから、もっと言いますと、北朝鮮という国に対して何といいますか、好感度は決して高くないというようなことが示されていることは私もよく承知しております。

 私は、若干の反省を込めて申し上げたいと思うんですが、今我々が日朝の国交正常化をやらなければならないと考えている理由は幾つかあります。

 まず申し上げれば、我が国と北朝鮮との間にある歴史的な問題、つまりその結果起こっている不正常な関係というものを正常化する、これはやはり我々はやらなければならない問題だと思っています。それから、それからよって来る問題でもありますけれども、我が国の安全保障上の問題を見ても、やはりこの極めて地理的にも近いところにある北朝鮮との関係をよくしておくと。よくというのは、正常にしておくという必要は私はあると思います。さらに言えば、国際的にも、現下、北朝鮮に対して例えば核の不拡散の問題、こういった問題が、これは国際社会から見ても問題だというふうに指摘をされていると思うんです。

 国交の正常化を我々がなし遂げるということであれば、米朝関係、南北関係と三つのトラックがそれぞれ交渉が成立するとすれば、北東アジアの平和とか安定とかというものはやはり今よりは格段によくなることは間違いがない。そしてそのときには、恐らくミサイル問題というものも何らかの形で解決をしているだろうと思いますから、ということになれば、国際社会が持つミサイルの輸出を初めとする拡散問題についても不安は除去されるという問題があると思うんですね。こういう問題を考えると、やはり正常化交渉というものはやらなければいけない問題だというふうに思うんです。

 しかし一方で、そういう問題があるということを我々がもっと国民の皆様によく説明をするということがあるいは十分でないかもしれないという点に私はある種の反省を持っているわけです。こうした説明責任といいますか、こういう問題があるんですよ、だからやらなければならないのですということを十分に果たして理解されているかどうかということをまず考える必要があると思います。

 しかし、その一方で、今議員が御指摘になりましたように、大変高い世論調査の結果、七割前後の日朝交渉には慎重たるべしという世論というものがあるということもまた我々は承知をしておりますから、この世論というものは決して無視できないというふうにも思うわけです。

 これらを考えて、もう一方、北朝鮮政策については、我々はアメリカ、韓国と政策調整をしながら今日まで来ているということもあって、こうした三カ国間の政策調整というものも考え、これは、韓国は金大中大統領を先頭に南北の交渉をやり遂げて将来の民族の統一という夢を果たしたいという強い気持ちがあるでしょう。そのためには、やはり日本もまた北朝鮮との関係を改善してほしいという韓国には韓国のお考えがある。アメリカには、やはり日本、韓国とともどもにスクラムを組んでミサイル交渉をよい方向に持っていきたいという気持ちもある。我が方には、先ほど申し上げたように、やはり過去の清算ということを初めとしてやっておかなければならない問題があるということでありますから、この三カ国の政策調整ということも考えながら今私は日朝交渉に臨んでいるわけでございますが、この日朝交渉に臨むに当たりましては、先ほど依田議員にも御答弁申し上げましたように、我が方として主張すべきことはきちっと主張をし、決して焦らずに、私は、急がずにというのではなくて焦らずにこの交渉には臨まなければいけない、こんなふうに考えております。

○海野徹君 今、大臣から、説明が余り十分でないから国民の納得を得られていない部分があるのではないかと、説明責任ということに触れられましたし、もっとも非常にタフな相手ですから、なかなか要するに情報も得にくいし、説明するにしても説明が余り明確にできない部分があるかと思いますが、確かにこの七割という世論調査というのは直近の数字ですから、大変やはり慎重にというのは、米支援に絡んで、じゃ一体拉致の問題あるいはミサイルの問題、核の問題、これは具体的に明確な何か解決のめどが得られたのか、あるいはその千二百億とか千三百億円という数字が余りに巨額過ぎるんじゃないかと、一国の食糧支援として。

 大体、一国の食糧支援というのは、十億とか十五億とかというのが今までの支援の金額だったんですね。そうなると、後ほどまた御指摘させていただきますが、余剰米対策で農民保護だと、そのために要するに我々の税金を使ってはたまらないよというような、そういう深層心理というのは何となくあるやに私は思うんですね。

 だから、そういった意味で、非常に冷ややかだったというのは、説明責任なだけに、要するに国内問題とそのタフな交渉相手である北朝鮮との問題が何となくあやふやなままに進んでいってしまっているということがあるんではないかなと、そんなふうに思います。タフな相手ですから、どんなふうにタフかというのは、各担当所管の方々にお聞きしてからまた大臣にお伺いしたいと思います。

 金融庁にお伺いしたいんですが、金融庁いらっしゃいますね、去る八月の交渉のとき、北朝鮮側の団長であった鄭泰和大使が、国交正常化を待つまでもなく、とにかく朝銀の問題を頼む、公的資金を入れてくれというような要望をしたということなんですが、そういうことは聞いておりますか、まず。

○政府参考人(西川和人君) お答えいたします。
 私どもはそのようなことは承知いたしておりません。

○海野徹君 聞いていないということなんですが、これはかなり広く、まさに周知の事実になっているんです。

 朝銀の実態というのは、不良債権が相当入っている。情報によれば、ことしの七月に入ってからすべて調査に入ったと。調査に入ったところ、その全組合が債務超過に陥っている。回収不能額は約八千億円あると。それを要するに朝銀大阪のような形で処理したら、朝銀大阪は三千億円を超えていましたから、八千億円をまた処理したら一兆一千億円の公的資金を入れなくちゃいけない。そういうような状況まで来ている。これは国交正常化の経済協力の一部に含めるんだというような議論もされている。

 一体、要するに朝銀の実態というのはどういうふうになっておりますか。検査をされて、それで得られた実態はどういうような実態ですか。

○政府参考人(西川和人君) 金融庁といたしましては、信用組合につきまして、平成十四年四月に控えておりますいわゆるペイオフの解禁をにらみまして、今後の存続可能性を確かめる、確認いたすと、そういうような趣旨で、本年の七月以降、これは北朝鮮系とかなんとかいうことで差をつけるということではなく、いわばあらゆる信用組合につきまして集中的に検査を実施しているところでございます。

 御指摘の北朝鮮系の五つの信用組合、このうちの一つにつきましては、今事務年度ではなくて昨事務年度、五月から検査を開始しておりますけれども、それ以外の四つの信用組合につきましてはことしの七月から検査をスタートさせております。そして、それらのうち、実は二つの信用組合、朝銀西信用組合と朝銀北東信用組合につきましては検査を既に終了いたしまして、検査の結果につきましても、これは去る十一月八日でございますけれども、それぞれ相手方に通知をしてございます。

 ただ、個別の検査結果につきましては、やはり取引先等に不測の損害を与えるおそれがありますほか、個別企業の経営内容を当事者の意に反して開示をする、そういったことになる等の問題がございますことから、当局から公表いたしますことは適当ではないというふうに考えている次第でございます。

○海野徹君 再度お伺いさせていただきますが、じゃ、調査はした、検査はした、公表は要するにいろんな問題があってできないと。いろんなところからの情報で、非常に要するに不良債権が多くて、全部債務超過だと、回収不能額が八千億円だというような具体的な数字というのは、全くこれは根拠がないということなんですか。

○政府参考人(西川和人君) ただいま申し上げましたように、ちょっと繰り返しになりますけれども、個別の検査結果につきましては、いろいろな理由がございまして、当局から公表することは適当でないと考えております。したがいまして、今先生がおっしゃいました不良債権が幾らあるのかとか、そういうことにつきましてもコメントを差し控えさせていただきたいと思います。

○海野徹君 わかりました。コメントを差し控えるということで大体わかりましたから。
 それでは次に、通産省にお伺いしたいんですが、やはり八月の交渉のとき、国交正常化に先立ってもう一つ要望したいことがあるということが、これは今停止されている日朝間の貿易保険、これを再開してほしいというような話があったということなんですが、これは事実ですか、通産省。

○政府参考人(奥村裕一君) お答え申し上げます。
 貿易保険の再開につきましては、私どもはまだ正式に先方からそういうふうな要望は承っておりません。

○海野徹君 これは国交正常化の前にどうしてもやってほしいということで、それだけ多分いろんな背景が要するに北朝鮮側にはあると思うんですけれどもね。

 実際に、貿易保険を停止したのは一九七五年ですね。そのとき、約四百億円ほどの未払いがあるという数字が出ているんですが、それが要するに金利あるいは孫金利がつくと、日朝貿易決済協議会なんかの話ですと一千億円を超えるんじゃないかという話があるわけなんです。その辺のことは実態をつかんでいらっしゃいますか。

○政府参考人(奥村裕一君) 今おっしゃいました日朝貿易決済協議会の方で先方と当たっております数字は、大体一千億円前後というふうに聞いております。

○海野徹君 そういうような一千億円前後という話を聞きながらも、まだ北朝鮮側からそういう要請があったということはどの方面からもないんですね。

○政府参考人(奥村裕一君) 公式にはございません。

○海野徹君 はい、わかりました。
 それでは外務大臣にお伺いしたいんですが、北朝鮮の経済が大変深刻をきわめているということが今の状況でもおわかりだと思うんです。

 今回の北京で行われた正常化交渉においても、拉致の問題も何か話題にはのっけたけれどもすぐ引っ込めたような話を自民党の外交部会で話したとかなんとかという話もあるんですが、我が国の安全とか国家主権にかかわる問題については何ら進展が見られなかったんじゃないかということなんですよね。

 そうすると、一体十月二十七日に決定した五十万トンというのは何を意味したんだという疑問がわいてくるんですが、これは、ではどういうことを意味していることになりますか。

○国務大臣(河野洋平君) 二つお答えをしたいと思います。
 一つは、昨年来、北朝鮮が非常に積極的に外交の分野で活躍をした。ヨーロッパ各地とも外交関係を樹立するし、新たな相手とも積極的に交渉に当たっている。こういう状況は一体何を意味するのかということが我々にとってはどうしても知っておかなければならないことでございましたから、私も外国の要人、北との外交関係を持つ国の要人の方々とお目にかかるときにいつも、一体これはどういうことだと推測できるかという話を何度もいたしましたが、そのときに一番最初に言うのは、やはり経済が危機的状況だということがあるだろうと、とりわけ食糧が非常に厳しいと。しかし、食糧だけではなくて、経済全般が非常に危機的状況だということが国際社会にわっと出てきている理由の一つだろうと。

 もちろん、それ以外にも幾つも理由があって、例えば金正日氏が国内的に実権をきちっと握って非常に自信を深めたということもあるかもしれない。それから、金正日氏自身が、CNNをずっと見ておられるそうですけれども、そういうものをずっと見て、国際社会の中における自分たちの立場、外国と自分たちとの間の格差といいますか状況の違い、そういったものもよくわかっている、そういったことから国際社会の中に出てきているということがあるだろうということを聞いておりまして、経済的な危機的な状況、とりわけ食糧問題は非常に危機的な状況だということがございました。

 そこで、米の支援の問題でございますが、私がまず申し上げておきたいと思いますことは、米支援はあくまでも人道的な支援でございます。これは、我が国の隣国、近隣の国に食糧で本当に困っている国があれば、それに対して人道的支援を行うということは、これはあって当然だと私は思います。そのことと非常に厳しい交渉をするということとは、それは別といえば別。

 あるいはお互いの信頼関係をつくる、あるいはお互いに相手の困難な状況というものはわかって、そういうときには助け合う。助け合うというか、助ける相手なんだなということを先方がわかっているということが、交渉の中にいずれ、つまり交渉をそれによって譲歩するとか妥協するとか何をするとかということを具体的に私は申し上げているのではありませんが、相手と話し合う、交渉する以上、先方に対して、この自分の交渉相手はだれかが困っているときにはやはりちゃんと助ける国なんだなということをわからせておくということは大事なことではないかというふうに私は思いまして、人道的支援は、これはやるということを私は決心をいたしました。

 問題は、数量をどのぐらいやるか、それからどのタイミングでやるかというようなことが問題でございました。

 少し長くなって、お許しをいただければ数量等についてももうちょっと御説明を申し上げたいと思いますが、九月にWFP、国連の機構が、北朝鮮のことしいっぱいの食糧の不足分は十九万五千トン程度であろうということを発表いたしました。この十九万五千トンが十二月までに不足するであろうということを発表したのですが、WFPはそれ以前にも、二〇〇〇年度における北朝鮮の食糧の不足分として約三十万トン不足をするということを言っておりまして、その三十万トンのうちの十万トンは依然として充足されていないという状況にございます。

 したがって、充足されていない十万トン、プラス新たに不足するという発表をした十九万五千トンを足しますと、年内におよそ三十万トンが不足するということを我々はこのWFPの発表から承知をしているわけでございます。さらにWFPは、来年度もまたことしと同じ程度の不足分が発生すると。ことしと同じ程度ということは、つまりことしの不足分と称して発表されたのは約五十八万トンでございますから、それだけの数字は不足するであろうということをWFPは言ったわけです。

 我々が考えますと、年内の三十万トン、それから来年、ことし程度不足するであろうということであるとすれば、五十八万トンをそれに足すとおよそ八十八万トン。毎年WFPの発表は、そういってもさらにそれに一定程度の不足分が追加発表されるわけですから、それを考えると、足らないだろうと言われる数のおよそ半数が五十万トンという数字になるということを私は知っておりました。

 それからもう一つは、例えば十万トンの米を北に支援するといった場合に、その十万トンの米を集めて北に届けるまでにかかる時間ですね。これは我々の経験で言えば、ことし三月に十万トンの支援を行ったわけですが、その十万トンの支援を行うと発表したのが三月、その十万トンが完全に北側に渡ったのは八月でございます。やはり五カ月近い時間がそれにかかっております。そういうことを考えると、不足分五十万トンの支援を我々は行うと今発表するというのは、時期的に、先方の食糧の危機的状況から考えれば今は大事なタイミングだなということを考えました。

 さらに、私は先ほども申し上げましたけれども、アメリカ、韓国などとの政策調整でいろいろ意見交換をしておりますときにさまざまなアドバイス、示唆を得ているわけでございますが、そうしたものを総合いたしますと、ここで五十万トンの支援をするという発表をすることは北に対して相当強いインパクトを与えることになるというふうにも私は判断をいたしましたので、私の責任において決めさせていただきました。

 さて問題は、議員がお尋ねになった、ではそれがどういう意味があったのかというお尋ねでございますが、私は、五十万トンの支援をしますと発表して、そして直ちにその結果がこれだけ出ましたというものではないと。そんな結果を私はもともと期待をして五十万トンと言っているわけではないのであって、このことが交渉をする相手方との間の信頼関係をつくっていくという意味でまさに一つの意味がある、こう考えているわけでございまして、私は、これからの交渉というものにまだまだ慎重にではありますけれども、先方とお互いにお互いの立場を考えた、厳しい交渉であっても、お互いに相手の立場を考えた交渉というものをすることができるようになるのではないか、こんなふうに思っているわけでございます。

○海野徹君 相手を考えて、要するに信頼醸成のために、結果を何か期待したものじゃないという話を今最後にされました。ただ、やっぱり支援の決定過程に非常に問題があるんではないかなと私は思うわけなんです。

 大臣は、今数字的な説明をされている中で、私も幾つか大臣の談話をとらせていただいている、その中で、一つには、あくまで人道支援だとおっしゃるんですが、人道的な支援と言うにはやっぱりそれなりの量があると思うんですね。今、大臣からずっとお話を聞きまして、タイミングの問題、これも人道的なタイミングの問題を言われていました。しかしながら、人道的支援となると一定の要するに枠がはまってくるのかな、それには説得力が余りにもないなと私はどうもとってしまうんです。

 それで、大臣が百万トンぐらい大体不足するからこれを、先ほど八十万トンとか言っていましたけれども、約半分、五十万トンだと。それが日米で負担するんだというような発言もされているんですが、そういう負担、そういう発言はしては……

○国務大臣(河野洋平君) それは違います。ありません。

○海野徹君 ないですか。それだけ、じゃお聞かせください。

○国務大臣(河野洋平君) 食糧支援を日米でシェアしようといいますか、そういうことを言っているわけではございません。

 韓国は韓国で北に対する支援をしようと考えておられるようで、ただし、韓国の場合には、米の支援というよりは肥料を支援したいというようなことを主として言っておられます。

 アメリカの場合には、米の支援についてもちろん言っておられますけれども、我々と一定数をシェアしようということを言っているわけではないわけでございまして、そこはそういう調整をしているかというお尋ねであれば、それはそうではございません。ただし、アメリカも支援は考えていることは間違いございません。

○海野徹君 直接的なアメリカとのやりとりがあって日米で負担をというんじゃなくて、そういう方向へ行くだろうという期待の発言だったというわけですね。日米で必ずしもシェアするという問題じゃなくて、あくまで我々がこれだけやればあとは要するにアメリカなり韓国なりがやるだろうというような、そういうような発言だというわけですね。期待の発言だというわけですね、日米で負担をという。それは発言していないということですか。だけれども、実際は、発言したということでいろいろ報道されていますけれども。

○国務大臣(河野洋平君) 強いて言えば、同じように支援するなら支援の発表を早くした方がインパクトが強いだろうという私の判断はありました。日本はこれだけしますということを言えば、いずれそれはもちろんアメリカも何がしかの支援はなさると思います。

 しかし、私は私なりに、繰り返して申し上げますが、米の支援はあくまで人道支援でございますが、その人道支援を行う際に、そのタイミングや量については総合的な判断をするということを私は考えているわけです。

○海野徹君 この問題だけでもかなり議論をさせていただきたいんですけれども、先ほど言った、私なりに解釈すれば人道的支援というのはある一定の量があるだろうな、これは少なくてもいいんだろうな、WFPの要するに要請の範囲内でいいだろうなと私は思っているわけなんです。五十万トンという数字は、やっぱりどう考えても、ある意味では戦略的に考えるんだったらもっと多い方がいいんだろうと、非常に中途半端だと。

 となると、いわば信頼醸成のためのある意味では手段みたいな形でやったのかな。あくまで交渉のテーブルに着くために要するに以前から約束されたものを履行しただけなのかな。それは何か外務大臣が、七月には人道支援と言ったにもかかわらず、交渉の過程とは切り離すということを言いながら、拉致家族、拉致被害者の方々と話しているとき、いや、これはやっぱり出さないとなかなかテーブルに着いてくれないからねというような発言をしたというような報道もされているものですから、どうやって一、二カ月の間に変わっていってしまったのかというのは、新聞報道あるいはホームページで見る限り我々は釈然としないところが残るわけなんですよ。

 じゃ、何でとにかく全量国産米にされたんですか。

 それでは、九月二十八日に食糧庁が、「最近の需給・価格動向にかんがみ、緊急に米の需給と稲作経営の安定を図る観点から」というようないろいろ総合対策をやっている。これで七十五万トンの市場隔離、別枠扱いを実施すると決めているんですよね。これと要するにぴったりタイミングが一致してくるんですよ。全量国産米でやったというのは、やっぱり何らかのこういうような要請があったから国産米なんですね。

 というのは、WFPからの話ですと、トウモロコシでもジャガイモでも何でもいいという話ですよね。米じゃなくてもいいんですよ。別に国産米じゃなくても、あるいはタイ米でしたらもっと国民負担は少なくなるという試算も出ています。そういう説明も受けています。しかしながら国産米でやった。ベトナムも大変今米の輸出で困っているんですよね。水害を受けてまた被害も大きい。我々はそういうような東南アジアを含めた近隣諸国で、同じ人道的だったら、そういう国も困っているんだったら、そこのベトナム米を買ってそれで出したって、これも両方に人道支援になるんじゃないかと思うんですけれども、その辺どうなんでしょう。

○国務大臣(河野洋平君) 食糧支援は米ではなくてもいいではないか、トウモロコシでもいいではないかという、あるいはそれ以外のものでもいいのではないかというまず最初のお尋ねについて申し上げれば、確かに韓国が北朝鮮に食糧支援をしたのはトウモロコシでございます。トウモロコシと米でございます。トウモロコシを食糧支援として送ったという事例もございます。

 しかし、議員も御承知のとおり、朝鮮半島の人たち、北朝鮮の人を含めて米が主食であることは間違いがない。食糧支援というときに、主食である米を送るということができるなら米を送るということがいいにこしたことはないと、これはまず申し上げておきます。

 問題は、米にもいろいろあるだろう、ベトナム米もあるだろうしタイ米もあるだろうし、あるいは国産米もあるだろうし、それはどうかというお尋ねでございますが、ここは実を言いますと、どの米を送ることが一番適当かという問題については、これはなかなか外務省だけで決められることではございません。食糧庁の意見というものもございます。農水省には農水省の政策的判断もあろうかと思いますから、そこは何も外務省だけがこれでなければいけない、こうしてほしいということを言うというほど私にすべての決定能力があるわけではございません。それらはいずれも日本の国内事情というものをあれこれ検討した結果、このやり方が一番いいというふうに判断をしたわけでございます。

○海野徹君 人道支援から政治的支援、政治判断を大臣がされて五十万トンと決められた。これは非常に私自身は誤った政治判断になる可能性がある、大変失礼な話なんですがそういうふうに私は思います。

 というのは、日本というのはそんな簡単に千二百億円も出すんだという印象を与えてしまったんじゃないか。余剰米対策なんだから、むしろおれたちが感謝してもらわなくちゃいけないということで、本当にそういった意味では、まあ外交というのはお互いに腹の探り合いですから、要するに自分が優位に立って相手をできるだけ劣勢な状況に置きながら交渉するというのがこれはもう鉄則だと思いますから、そういった意味では、大変日本の外交姿勢が問われてくるんじゃないかなという意味でも私は政治的な判断に誤りがあったんじゃないかなと思います。

 戦略的にやるんだったら、百万トンとか二百万トンという数字でないと本当の意味で戦略的にならないわけでありまして、だから戦略的にも誤ったこれは決断だったんではないかなというふうな私は感想を持っております。だから、今回の会談の開催だけを決めるのに使われてしまったのかなというふうに思います。この問題はまたいつかお話しさせていただく機会があると思うんです。

 それじゃ、警察庁の方にちょっとお伺いします。

 覚せい剤の問題なんですけれども、金正日総書記の秘密口座というか秘密資金がスイス銀行に四十三億ドルあると言われています。それはアヘンとか覚せい剤の密輸ですか、それによって得られたものもそれに含まれているということなんですが、非常に北朝鮮はアヘンというか、それを百トンほど製造する能力を持って、大半が日本へ来ているという話なんです。

 数年前まで大阪朝銀の副理事長をやった人間が捕まって、それも覚せい剤の密輸に関連していたというような話があったり、防衛庁の特二部隊ですか、がそういう覚せい剤の問題は担当しているんだという話もあったり、いろいろあるわけでありますが、覚せい剤がどんなルートでどの程度入っていますか。最近は、分析結果によるともう原産地がすぐわかるという話なんですけれども、その辺ちょっと教えてください。

○政府参考人(加地隆治君) お答えをいたします。
 平成十一年中におけます一キログラム以上の覚せい剤の密輸入事件でございますが、十五件を検挙しておりまして、その総押収量は一千五百十二・一キログラムに上っております。そのうち北朝鮮にかかわる事件につきましては二件でございまして、六百六十四・六キログラムを押収しておるところでございます。これは全押収量の四四・〇%を占めております。

 また、本年の九月末現在におけます一キログラム以上の覚せい剤の密輸入事件でございますが、十一件を検挙しておりまして、その総押収量は五百八十六・二キログラムに上っておるところでございます。そのうち、北朝鮮にかかわる事件につきましては一件でございまして、二百四十九・三キログラムを押収しており、全押収量の四二・五%を占めておるところでございます。

 いずれも、北朝鮮からの覚せい剤につきましては、北朝鮮を出た後は他の地域を経ることなく直接流入してきておるところでございます。

○海野徹君 国交正常化の中でいろいろ交渉相手である北朝鮮の問題をずっと議論させていただいているわけなんですが、朝銀の問題あるいは貿易保険の問題あるいは米、覚せい剤の問題等、北朝鮮側の状況をお聞きしているわけなんです。

 防衛庁長官、コーエン国防長官が九月二十二日に来られました。朝鮮半島情勢、軍事情勢のお話をされたかと思いますが、どういうような軍事情勢のお話がおありだったんでしょうか。

○国務大臣(虎島和夫君) これは、今回おいでになったときは余りそういう大きな問題の話はしませんでしたが、河野外務大臣と私と、実は九月に2プラス2がありました。それで訪米しましたとき、あるいはそれが済みましてから、私とコーエン国防長官と日米防衛首脳会談を行いました。その際には、当然のことでありますけれども、この問題は協議の場で出ました。

 結論から申し上げますと、現在いろいろ行われておるけれども、我々はもちろん南北首脳会談の成功を期待するし、また一方、我が国がすることがあれば、あるいは防衛庁がすることがあれば、このことに積極的にサポートしてその成功を期待したいというようなことも申し上げました。

 しかしながら、現実には、防衛問題に関する限り緊張緩和まで進むだけの具体的な取り決めはないというようなことで、注意深くこの問題については見守りながら、特に日米間の連携の重要性を再確認したということが現状でございます。

○海野徹君 ありがとうございました。
 再度、防衛庁長官にお伺いしたいんですが、これはお答えいただければ大変ありがたいと思うわけなんですが、アメリカの国防総省が、やっぱり九月二十二日に朝鮮半島の軍事情勢という報告を出しております。もう長官、それは十分御案内かと思うんですが。今、私がそれこそ金融庁あるいは通産省あるいは警察庁等、御質問させていただきながら、そしてこの朝鮮半島の軍事情勢等を御判断されて、これから我が国としては正常化交渉にどういうような姿勢で臨まれた方がよろしいかと思いますか。その辺、防衛庁長官の要するに御意見がお聞かせいただければ大変ありがたいんですが。

○国務大臣(虎島和夫君) 私どもの基本姿勢としては、防衛力整備というのは粛々とし、それを着実に充実していくという考えを、整備していくという考えを持っておるわけです。

 と同時に、一方では、特にアジアを中心とする防衛交流というのを活発にやっていこう、そしてお互いの交流の中からまた理解を深めていこうじゃないかということで、現に韓国あるいは中国あるいはインドネシアその他の国々との間は防衛交流というのが活発に行われておるわけでありますが、北朝鮮の方とはまだこのことは行われておらない。

 それから、認識の話、お問い合わせでありますから申し上げますけれども、先般、南北の国防大臣クラスの協議が行われたと承知いたしておりますけれども、この中でも極めて防衛問題に関する議題は限られておる。したがって、まだ緊張緩和とか我が国の防衛力整備等々をこのことによって検討するという段階には立ち至っておらないというようなことで、やはり引き続き慎重な検討を加えながら、日米の間でもよく情報交換等々をやっていこうという話し合いになっておるのが現状であります。

○海野徹君 再び外務大臣にお伺いしたいんですが、日本人コックの原さんを拉致して韓国で捕まった辛光洙という、これは拉致の実行犯ですね、彼が非転向長期囚でずっと韓国に、これは法廷へ出ていろんな発言もしているわけなんですが、彼が南北首脳会談以降、ある意味では本国北朝鮮へ凱旋して大変な歓待を受けたというような話なんですが、これに対して外務省としては何らかのアクションを起こしたんですか。

○国務大臣(河野洋平君) ことしの九月二日に、今御指摘の非転向長期囚が韓国から北朝鮮に送還をされたわけですが、その中に、我が国政府が北朝鮮による拉致の疑いがあると判断しております事件の実行犯と見られる辛光洙が含まれていたということは承知しております。

 我が国政府としては、従来より、韓国政府に対して、辛光洙の問題を含め北朝鮮による拉致問題についての我が国の立場を繰り返し説明をしてきておりまして、韓国政府は非転向長期囚の送還に当たっても我が国の立場を踏まえて慎重に検討を行ったものと承知しておりますが、結果として、南北首脳会談以後の朝鮮半島情勢などを総合的に勘案した上、送還を決定したということのようであります。

 なお、我が国政府は、辛光洙が服役中であった当時より、警察当局におきまして担当官を派遣して韓国当局と緊密な情報交換を行ったり、同人への事情聴取につき韓国政府の協力を要請した経緯がございますほか、特に昨年末、同人が恩赦により釈放された後には、同人に対する事情聴取などを求める捜査共助要請を韓国側に対して改めて行うなどの対応をとってまいりました。

 韓国政府は、我が国よりの捜査共助要請にできる限り協力を行うという立場でありまして、共犯者とされる男性に対する事情聴取の実施や捜査資料の入手などについて必要な協力を行ってもらいましたが、辛光洙本人からの事情聴取に関しては、残念ながら本人の同意が得られなかったために実現をしませんでした。

 辛光洙の身柄が北朝鮮に送還されたことによりまして、我が国捜査当局が必要性を認識している捜査の一部の遂行が困難となったことはまことに残念でございますが、政府としては、辛光洙の事件を含め、拉致問題について我が国国民の生命にかかわる重大な問題であるとの認識のもと、今後とも粘り強く取り組んでまいりたいと思っております。

○海野徹君 時間もありませんから、最後に大臣に御決意のほどをお伺いしたいんです。
 今後の日朝正常化交渉、いろんな今指摘をさせていただきました。非常に難易度の高い交渉でありますから、外務大臣が直接また行かれていろんな交渉をしなくちゃいけないと思うわけなんですが、やはり獲得すべき日本の国益あるいは目標というのを十分検討していただいて、いただいていると思いますが、やるべきだと。それで、決して急いではならないと私は思っております。原則を主張し続けるべきだろうと。いろんなシグナルは国際的には発するべきだと思うんですが、決して急いではならないなと思っています。

 前回も私はお話ししました。孫子の兵法で四路五動という、道は四つあっても動きは五つ、急がない、動かないというのも強みを見せるための動きの一つだというお話をさせていただきました。ぜひその辺、急がずに慌てずに焦らずに、原理原則でやっていただきたいんですが、御決意のほどをお伺いしたいと思います。

○国務大臣(河野洋平君) 我が国の基本をしっかりと守って交渉に臨みたいと思います。
 交渉をどういう形で進めるか等については、この場面でございますからこれ以上申し上げることはお許しをいただきたいと思いますが、今の議員からの御指摘は十分お伺いをさせていただいた上で、私なりに判断をさせていただきたいと思っております。

○海野徹君 ありがとうございました。
 以上で終わります。


2000/11/09

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