1997/05/16 |
140 衆院・外務委員会
安倍晋三議員(自民党)の拉致事件についての質問部分
○安倍(晋)委員 北朝鮮についてほかにも質問をしたいことがあるわけでございますが、その前に、当然、このCTBTに加盟をしないということは、先ほども申し上げましたように、将来の核開発あるいは既に持っている核の精度を高めるということにも結びついてくるわけでございます。
実際に核を所有しているのではないか、そういう疑惑のある国について、外務省はどれくらい把握をしておられるのか、ここでお伺いをしたいと思います。
○河村政府委員 我が国政府といたしましては、いわゆる五つの核兵器国以外に核を保有している国があるのかないのか、あるとすれば具体的にどの国かについて確定的なことを述べるのは残念ながら困難でございますけれども、一般的に敷居国と呼ばれておりますのは、インド、パキスタン及びイスラエルの三カ国でございます。
○安倍(晋)委員 先ほど申し上げました、北朝鮮がこの条約に署名をするという意思について、極めて大きな問題があるということでございますが、これは我が国の安全保障にとっても大変大きな意味もあるのではないか、こういうように思うわけでございます。
この北朝鮮に関しまして、きょうの読売新聞の一面に、北朝鮮の日本人妻の里帰りを容認するという記事が出ておりました。これについて、今まで四十年間、北朝鮮は一貫してこのことを認めてこない、極めて非人道的な態度に終始をしてきたわけでございます。これはある意味では大きな転換にもなってくる、これが事実であれば、我が国が毅然とした態度をとってきた成果である、こういうふうに私は思うわけでございます。
そういう観点から、我が国もこれからいろいろな人道上の問題を抱えているわけでありますから、一貫した、毅然とした態度がこういう譲歩を引き出すことができるのではないかという教訓にもなってくるのではないかと思うわけでございます。
まず、このことが事実であるかどうか、そして、もし事実であればどの程度の規模であるかどうか、そしてまた、規模等にもよるのでしょうけれども、それによって、食糧援助について我が国は事実上今凍結をしたような形になっているわけでありますが、その政策を変更するということになってくるのかどうかについて、三点、お伺いをしたいと思います。
○池田国務大臣 まず、いわゆる日本人妻の件につきましては、従来から我が国といたしましては、日本人妻の方々との間の音信だとか、あるいは一時帰国だとか、そういったことは当然認められてしかるべきだということで、いろいろな機会に北朝鮮に対する働きかけをしてまいったわけでございます。そして、ここ数年間、公式の表立っての直接の交渉という場はない形になっておるわけでございますけれども、しかし我々といたしまして、我々なりにそういった状況の中でもいろいろな努力を傾ける、そういうことはやっておるわけでございます。
そうしてまた、この日本人妻の問題以外にも、我々として、北朝鮮に従来とは違った姿勢と申しましょうか、その対応を求めなくてはならない問題も幾つかございます。そういった問題につきましても、北朝鮮側の姿勢の変化を期待しつつ、それを引き出すための直接あるいは間接の、我々なりの努力はしてきたということは御答弁させていただきたいと思います。
しかしながら、現段階において、それではそれが現実のものになるか、実現するかどうかという点につきましては、何分北朝鮮側の判断により決まることでございますので、私どもといたしましても、今確たる方向について御答弁を申し上げ得るような段階には至っておりませんけれども、なお引き続き、ねばり強く真剣に努力はしてまいりたい、こう思います。
それからまた、委員が御指摘になりました、いわゆる人道的な見地からの食糧支援との関連でございますが、この点については、私ども、現在のような北朝鮮との関係ではございますが、人道的な観点から緊急に支援をすること、必要があればそれに応ずるということはあり得るわけで、一昨年、昨年も御承知のとおり、そういうことをしてきたわけでございます。
ことしも国連機関WFPあるいはDHAあたりからアピールが出され、そして韓国、米国を初め幾つかの国がそれに応じていることは御承知のとおりでございますが、我が国といたしましてこれにどういうふうに対応していくかはまだ慎重に検討中でございます。
その背景には、御指摘のように、人道的な観点からというならば、我が国としても北朝鮮に適切な対応を求めなくてはいけないという問題がある、日本人妻の問題もそうでございますし、また行方不明になっておられる方々の消息、どうなっておるのか、それにかかわる疑惑の問題等々もあるわけでございますね。それと食糧の支援が直接リンクするというわけではございませんけれども、やはり我が国国民の気持ちとして、これはそういったような問題が放置されたままで、一方において緊急人道支援と言われても釈然としないのは、これは当然のことでございますので、その辺で環境の整備がされるということ、そのために北朝鮮側のいわば対応なり姿勢なりの変化というものが望まれるというのは、そういった意味の関連というものは、これは否定できないんだと思います。
そういったことでございますので、いろいろその他の観点も総合的に勘案しながら、これからどう対応するかを見きわめ、検討を続けてまいりたい、こう思っております。
○安倍(晋)委員 ただいまの質問は通告をしていなかったわけでございますが、こうした着実な前進に対する外務大臣初め外務省の御努力に対して、本当に敬意を表する次第でございます。
この日本人妻以外に、ただいま大臣もお触れになったわけでございますが、政府が公式に認めているだけで七件十人の日本人が拉致をされているわけでございます。私は、十人だけではない、もっと多くの人数が恐らく拉致をされているんだ、こういうふうに思います。
最近の報道によりますと、我が国以外で、レバノンで一九七八年に数名の女性が拉致をされた。しかし、当時は国交がなかったレバノンが努力をした成果として、一年数カ月後にはその人たちがレバノンに戻ってきた、取り戻すことに成功したという報道もございます。
もしこれが事実とすれば、我が国も今国交がないわけでございますが、あらゆる手段を使って、例えば食糧問題等の人道援助も絡めていくのは私は当然であると思っております。少女を初め、我が国政府が当然守らなければいけない人命と人権がまさに侵害をされてしまったわけでありますが、これに対して政府が何もできない、これは国家としての義務を放棄しているに等しい、このように思うわけであります。そういう意味では、あらゆる手段、人道問題とはいえ食糧援助の問題が絡んでくるのは私は当然ではないか、こんなようにも思うわけであります。
このレバノンの件について、外務省が承知をしておられるかどうか、わかる範囲でお答えをいただきたいと思います。
○登政府委員 まず初めに、この件につきましては、私どももレバノンの新聞報道によりまして承知しております。その事実は、ただいま安倍先生の方から御指摘のあったとおりでございますので、ここで改めて詳細を繰り返す必要はないかと存じます。
この事件が報道されましたのは一九七九年でございまして、この事件が起きたのはその前年の七八年、今から十九年前でございます。その当時、レバノンは内戦で大変な混乱状況にございまして、私ども、この新聞報道以外の点はよく承知しておりません。
最近になりまして、改めてこの件につきましてレバノン側に照会を行っているところでございますけれども、レバノン外務省の説明によりましても、この事件は既に二十年近く前の件でございまして、その間にレバノンの内戦によってレバノン外務省も再三移転して、外交文書も紛失してしまっているということから、よくわからないけれども日本側がこの問題を重視していることはよく理解するので、できる限り調べてみようというふうにレバノン側は言っておりますので、今、外務省といたしましても、レバノン側の調査の結果を待っている、そういう状況でございます。
○安倍(晋)委員 この拉致疑惑については、もう既に随分前から世の中ではそういううわさはありました。また、私の父の支援者のお嬢さん、有本恵子さんという方も実は拉致をされているわけであります。そのことは早くから知っていたわけでございますが、残念ながら、今までマスコミもこのことは取り上げてこなかったというのも事実でございますし、また政府全体としても正面から取り上げてこなかったのもそれは事実であると私は思います。
特に私は、マスコミの態度は大きな問題であったと思います。例えば、五月十日の毎日新聞で記者が北朝鮮の参事官に対して質問をしているわけであります。いろいろな質問をしているのですけれども、その質問は、食糧不足の現状とか、各国の反応はどうなんだと、日本の態度は慎重だけれども、それに対して怒りはないか、まさにごまをするというか、北朝鮮の宙官のごとくごまをする態度に終始一貫をして、我が国の問題については全く質問をしないという態度に終始一貫してきたというのが、私は、残念ながら日本の多くのマスコミの態度であった、このように思うわけでございます。しかし、やっと今、政府も本格的にこの問題に対して取り組んできたわけでございます。
その拉致疑惑の中の一つでありますが、原敕晁さんという方、中華料理店の店員だった方が、一九八〇年六月に北朝鮮の工作員によって拉致をされたわけでございます。なぜその拉致がわかったかというと、辛光洙という北朝鮮のスパイが原敕晁さんに成りかわって、そのパスポートを使って韓国に潜入をして、そして韓国で逮捕されたわけであります。
そして裁判になって、その裁判の中で、自分は原敕晁氏という男に成りかわっていたということを述べているわけであります。そしてそのときに、だれに成りかわろうかという謀議を実は大阪でやったというわけであります。その謀議にかかわっていた人が、これは北朝鮮系の商工団体の会長さんと理事長さんであります。三人で謀議をした結果、身寄りのない人をさらって、そのかわりに入れかわらせてスパイを送り込もうという謀議をしたわけであります。
原敕晁さんは、実際はお兄さんがおられるわけでありますが、戸籍上はいろいろな家族の事情で、たまたま天涯孤独のような戸籍になっていたわけであります。しかも、運の悪いことに、その原敕晁さんが働いておりましたのもその理事長さんが経営をしている中華料理屋であったわけでございます。そして、ある日忽然と原さんは消えて、そしてその後、この辛光洙が成りかわって日本に入国をしてきたというわけであります。
そして、そのことはすべて韓国の裁判の記録には出ております。しかし、現在この中華料理店もそのままあります。そして、そのときの理事長、かつての会長も、堂々と日本でそのまま暮らしを続けているわけであります。裁判の記録にそのように厳然たる事実があるのに、私は、日本の警察はどうしているんだと、これは強い憤りと疑問を感じるわけであります。この問題について、警察が知っている範囲でお話をしていただきたいと思います。
○米村説明員 お答えいたします。
先生御指摘の事件は、昭和六十年六月に韓国当局によって発表されたいわゆる辛光洙事件というものでございます。
日本人拉致という極めて重要な問題でありまして、当時、警察庁といたしましては、国際刑事警察機構、ICPOを通じるなど、関係資料の収集も含めて韓国当局と所要の情報交換、あるいは国内における捜査を行ったところであります。その結果、御指摘の大阪府居住の日本人男性につきましては、昭和五十五年六月、北朝鮮からの指示を受けた北朝鮮工作員によって宮崎県の海岸に連れ出され、工作船によって北朝鮮に拉致された可能性が極めて高いというふうに判断をいたしております。
今申し上げましたとおり、これまで本事件につきましては、韓国当局との情報交換を含め所要の捜査を実施しているところであり、これにつきまして法務、検察当局等の関係機関とも適宜必要な協議あるいは検討を行っております。しかしながら、公開捜査に絡むいろいろな各種の問題等がございまして、本事件に関しまして、日本国内関係者に対する強制捜査の実施には至っていないという現状でございます。
以上でございます。
○安倍(晋)委員 辛光洙は、パスポートあるいは免許証の偽造を行っておりまして、公文書偽造、我が国の国内の罪も犯しているわけでございますから、当然私は韓国に対して、今刑務所に入っているその辛光洙に対して取り調べを行いたいという意思を伝えてもらいたい、このように思うわけであります。
このときの謀議の中で、身寄りのない人を探そうということで意思を決定したわけであります。たまたまこの原敕晁さんにはお兄さんがいた、また、成りかわったスパイが韓国で捕まったということで表に出たわけでございますが、私は、恐らく原さん以外にも何人もこのように、本当に天涯孤独であればわからないわけでありますから、連れ去られた日本人が確実にいる、ある意味では確信もいたしております。
もちろん、ただいま申し上げましたように、この商工団体の会長、理事長はかかわったとはいえ、日本にたくさんあるそうした団体の人たちがすべて悪いとは私は申し上げません。たまたま、この二人がそういうことにかかわったということであります。立派な人もたくさんおられるということも、つけ加えておきたいと思うわけでございます。
ただいま申し上げましたように、これはぜひとも警察として全力を挙げて韓国に対してそういう働きかけをしていただきたいと思うわけでございますし、また、外務省も当然外交当局として協力をしていただきたい、こういうように思うわけであります。
現在のところ、こうした拉致作戦というのは一段落をしたようでございますが、特に私の地元は下関でございまして、日本のラジオよりも平壌放送の方がよく聞こえるぐらいなのですが、いまだにこの平壌放送の中で、ある時間になりますと番号を言うのですね。朝鮮語で五、四、八、九、六と番号をずっと言うのですね。これは、我が国の国内に潜入しているスパイに対して、乱数表に基づいた暗号を堂々と平壌放送で送っているわけでございます。これはある意味では、極めて日本に対して敵対的な行動を堂々としているわけでございますが、この事実を警察庁または外務省は把握をしているのかどうか、お伺いしたいと思います。
○米村説明員 お答えいたします。
御指摘のような内容の報道等がなされているということは十分承知をしております。警察といたしましては、公共の安全と秩序の維持という警察責務を果たすために、この種の諜報通信に係る情報の収集、分析、整理等は行っているところでございますが、その具体的内容につきましては、捜査上の制約、あるいは法令上の制約という観点から、御答弁を差し控えさせていただきたいと思います。
○安倍(晋)委員 できれば、もちろん解読できているのかどうかということはこの場ではお伺いをしないわけでございますが、そうすべく努力をしていただきたいと思うわけでございますし、もしそれがいわゆる謀略的な暗号であるのであれば、外務省当局として正式に抗議も申し入れていただきたいと思う次第であります。
これは通告した質問の中になかったわけでございますが、現在のところ、七件十名ということになっております。これは最近人数がふえたわけでございますが、さらにふえる可能性があるのかどうか。あるいは、断定はできないけれどもその疑いがあるという、もし人数がわかっていれば、件数がわかっていれば教えていただきたいと思います。
○米村説明員 御指摘の点については、警察としても十分関心を持って見ているところでございます。ただ、警察といたしましては、これまでの捜査の結果を総合的にかつ慎重に検討した結果、北朝鮮による拉致の疑いがあるという意味で判断しているのは七件十人ということでございますが、それ以外のものにつきましても重大な関心を持って引き続き捜査を行っているということでございます。
○安倍(晋)委員 拉致された人たちの家族の皆さんは、娘あるいは息子の無事な帰国を一日千秋の思いで今待っているわけであります。その御両親も、当然今まで日本の国民として税金を納めて、そして我が国の国民であることを誇りに思って今日まで来ております。
しかし、政府が、そのお嬢さん、息子さんたちが拉致をされて、これを取り戻すことができないというのは、本当にこれはまさに、国の威信と、そして我が国が安全を守ることができる、国民の生命と財産を守ることができるという、国民の政府に対するまさにクレジビリティーの問題にもかかわってくる、このようにも思うわけでございますから、全力を挙げて警察庁、そして外務省でこの問題に取り組んでいただきたいと思う次第でございます。
時間が参りますので、これで私の質問を終わらさせていただきます。ありがとうございました。
1997/05/16 |