1997/06/04

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140 衆院・外務委員会

安倍晋三議員(自民党)の拉致事件についての質問


○安倍(晋)委員 私は、ただいま大変大きな問題となっております日本人に対する北朝鮮の拉致疑惑について幾つか質問をさせていただきたいと思います。

 先般、十六日の当委員会において質問をさせていただきました件から、最初にお話を伺いたいと思うわけであります。

 一九七八年に、日本で起こっていると同様の事件がレバノンであったわけでございまして、五人説、四人説それぞれあるわけでございますが、数名のレバノン人が一九七八年に拉致されたわけであります。そのうち二名がベオグラードにおいて独力で脱出をしてクウェート大使館に逃げ込んで、その後レバノンに帰ってきたわけであります。そして、その後レバノンのブストロ外務大臣が駐レバノン北朝鮮貿易代表部代表を呼び出して交渉した結果、残りの人たちも帰ってきたという事件であります。このことにつきましては、地元のオリエント紙あるいはアイケ紙において、それぞれ一九七八年の十月三十日付で報道をされているわけであります。

 この件は、我が国がこれから拉致をされている人たちを取り戻す上においていい教訓になるのではないかということで、外務省に知っている限りの情報を開示していただくように御質問をしたわけでございますが、十六日当時はまだ外務省にはその情報が入っていなかったということでございます。現在のところ、どれくらいの情報を得ているかどうかについて、まずお伺いしたいと思います。

○加藤(良)政府委員 委員御指摘の件につきまして、先般来、我が方からレバノン政府に対して照会をいたしておりました。しかし、内戦とか庁舎の移転ということが重なりまして、当時の資料の多くが既に失われており、文書を通じて当時の事実関係を確認することはできないというのが先方の回答であったわけでございます。

 そういう中で、私たちの方から、既に退任している者を含む当時のレバノン政府関係者にさらに照会いたしましたところ、事実関係等が必ずしも十分明らかでないところもございますけれども、レバノン人の女性の誘拐疑惑に関してレバノン政府が北朝鮮の通商代表部に当時抗議を行いまして、北朝鮮側はこれに対する直接の回答をしなかったということがございましたけれども、その後これらの女性が、委員御指摘のような経過をたどって最終的にレバノンに帰国したということであった模様でございます。

 そういうことでございまして、いかなる経過が具体的にあったかというのは判然としないのでございますけれども、当時レバノンと北朝鮮の国交樹立の話が動いていて、一九八一年にその国交は樹立されるわけでございます。そして、一九七九年当時、レバノンは北朝鮮との国交がなかったわけでありますけれども、北朝鮮とは党の関係などを通じて相当良好な関係にあったということがもしかしたらその背景にあるのかもしれないということが、そのレバノン側の関係者から指摘されております。

○安倍(晋)委員 そういう意味では大分いろいろな情報をとっていただいたわけでございますが、このことは本当に参考になっていくのではないか、私はこのように期待しておりますので、今後とも調査をしていただきますように、よろしくお願いしたいと思います。

 国会におきましても、拉致疑惑に関する日本人及び日本人の家族に対する支援をする議員連盟が発足いたしまして、大変な数の議員に参加をしていただきました。残念ながら、まだまだ自民党、新進党以外の皆さんには、余りたくさんの皆さんには参加をしていただいていないわけでございますが、こうした議連が今後果たしていく役割は大変大きなものがあると思いますし、北朝鮮に対して大きなプレッシャーにもなる、こういうふうに思っております。北朝鮮に早く人道的な支援をしようという心優しい人たちが余り参加をしていただいていないという皮肉な現状にあるわけでございますが、今後とも議連を通じて私も頑張っていきたい、このように思っておる次第でございます。

 続きまして、警察庁に質問をいたしたいと思うわけでありますが、先般十六日も質問をいたしました辛光洙事件であります。

 この辛光洙事件というのは、日本人の原敕晁さんに北朝鮮の、これはかなり大物スパイと言われておりますが、辛光洙が入れかわって、この原敕晁さんを拉致して、原敕晁さんに成りかわって辛光洙が入ってきて、原敕晁さんの名前でパスポートあるいは免許証も取得をして、そして韓国に再入国をしていろいろな活動をしていた中で逮捕をされたということであります。

 裁判記録からもいろいろなことがはっきりしてきているわけでございますが、我が国国内の北朝鮮系の商工団体の会長、理事長が実際にこの原敕晁さんを拉致する謀議に明らかにかかわっていたということも裁判記録ではっきりいたしているわけでございまして、その二人とも特定することができます。一人は、原敕晁さんが勤めていた中華料理店のオーナーであり店長であります。この人がその商工団体の理事長だったわけでありますが、彼が、自分のところにいいのがいるからこれを拉致してしまおうということで謀議した結果、原敕晁さんはある日忽然と姿を消すわけであります。そして、この成りかわった辛光洙がスパイとして活動したということであります。

 皮肉なことに、この辛光洙につきましては、一九八九年七月十四日に、盧泰愚大統領に対して、在日韓国人政治犯の釈放に関する要望というのを出したのですね。これは、衆参超党派の百三十数名の議員の皆さんが、この二十九人の政治犯を釈放してくれ、この人たちは無罪だと言って、土井たか子さん、菅直人さんを初め多数の議員の皆さんが釈放要求したわけでありますが、なぜかこの二十九人の政治犯の中にこの辛光洙が入っていたのですね。

 この辛光洙というのは、まさに原敕晁さんに成りかわって、我が国としては許すことのできないスパイですね、その人を釈放しようということを何と我が国の国会議員がやっていたので、私は大変驚いてしまったわけであります。

 この辛光洙は今刑務所で服役中であります。この辛光洙については、十六日の当委員会でも私が質問したように、パスポートあるいは免許証、これを公文書偽造している、我が国の国内の法律にも違反をしているわけでありますから、当然これは警察もこの辛光洙を韓国政府とかけ合って調べるべきである、私はこういうふうに思うわけでございますが、警察庁の御見解を承りたいと思います。

○内田説明員 委員御指摘の辛光洙事件でございますけれども、この辛光洙事件も含めまして、一連の北朝鮮による拉致の疑いのある事件につきましては、今後とも、韓国当局との情報交換を含めまして、関係機関と連携をしつつ、所要の捜査を継続してまいる所存であります。よろしくお願いします。

○安倍(晋)委員 これはまさに国家による犯罪なのですね。国家による犯罪ですから、これを解決していくためには、やはり国家が強い意思を持って相対していかなければ、決してこれを解決することはできない、このように思うわけであります。まさにその入れかわってしまったスパイが捕まっていて、その人に対してまだ尋問を行っていないとすれば、怠慢のそしりを受けてもしようがないのではないか、私はこういうふうに思っております。

 そして、しかも調書の中で謀議に加わった人たちがのうのうとしているわけであります。それで本当に我が国の治安が守られているかどうかというのは、これは本当に耳を疑わざるを得ないようなことが公然と起こっているわけでございます。

 その点について外務大臣にお伺いをしたいと思うわけでございますが、この調書をとるべく韓国政府にぜひとも交渉をしていただきたいと私は思うわけでございます。外務省としての御見解をお伺いしたいと思います。

○池田国務大臣 我が国の法に違反した行為が行われた場合には、当然のこととして、捜査当局中心に政府としてもきちんと対応しなくてはいかぬ話だと思います。ましてや、我が国の国民の安全にかかわる問題であるならば、外務省も含めまして、政府としても当然大きな関心を持っているところでございますので、いずれにいたしましても、関係省庁ともよく相談をしながら適切に対応してまいりたいと思います。

○安倍(晋)委員 では、もう一度警察にお伺いします。この辛光洙を尋問するのですか、しないのですか。答えてください。

○内田説明員 先ほどもお答え申し上げましたけれども、辛光洙事件を含めまして一連の北朝鮮拉致の疑いのある事件につきましては、韓国当局との情報交換を含めて、関係機関と連携をしつつ、所要の捜査を実施してまいる所存でございます。

 なお、個別の事件の捜査の個別具体的な内容につきましては、捜査上の秘密の保持というような観点から、答弁を差し控えさせていただきます。

○安倍(晋)委員 当然、その秘密の保持というのも必要なのでしょうけれども、我々としては、疑いとしては、本当にやっているのかどうかという疑いを持たざるを得ないのですね。今まで何回かの拉致議連において関係省庁の皆さんにお集まりをいただきまして質問をさせていただいたのですが、そういう疑問も本当にわいてくるような答弁ばかりであったわけでございます。

 ですから、きょうは厳しく質問をさせていただいているわけでございます。ぜひとも、そこにもうスパイが捕まっているわけですから、しかもこの人は原敕晁さんに入れかわってしまったわけですね。原敕晁さんはいまだに行方不明なのです。ですから、その重要な、容疑者というよりも、これはもう刑が確定している人ですね、確定しているわけですよ、韓国において。ですから、その人に尋問をしないというのは、もう全く捜査当局がやる気がないということ以外にはないと私は思うわけでありますから、これはぜひともやっていただきたい。政府が強い意思を持って韓国側と交渉して、この辛光洙に対する尋問を行っていただきたいと強く要求をいたしたい、このように思う次第であります。

 続いて、やはり警察庁にお伺いをしたいわけでございますが、昭和五十八年に、有本恵子さんとIさん、Mさん、この方たちは親族の方たちの希望で名前を公表しておられませんから名前を申し上げませんが、有本恵子さんとIさん、Mさんがヨーロッパで拉致をされたということが言われております。三人とも手紙等で生存は確認をしているわけでございますが、この人たちを拉致するに際して、よど号犯人の妻たちがこれを手引きをした、こういう情報があるわけでございます。そのことについて、警察庁、これを把握しているかどうか、お伺いしたいと思います。

○内田説明員 今委員御指摘のような事実関係について報道がなされていることについては承知いたしております。

○安倍(晋)委員 それは報道をしていることはだれだって知っているのですよ。だから、そんなことは警察庁に聞かなくたってわかっていますから、警察庁がそれを把握しているのかどうかをまず答えてください。答えられないのか、知らないのか。

○内田説明員 恐縮でございます。
 個別具体的な捜査の内容については、答弁を差し控えさせていただきたいと思います。

○安倍(晋)委員 わかりました。これはこれ以上聞いてもしようがないようですから、この件についてはここでやめます。

 続きまして、寺越武志さんのケースなのですが、この寺越武志さんは、当時の報道によれば、寺越武志さんを初め三人の方が漁の最中に海難事故によって行方不明になった。そして、北朝鮮で生存しているのが後々わかったわけでございます。しかし実態は、何かを目撃したがために体当たりに遭って拉致をされたということが大体裏づけをされつつあるわけであります。

 残念ながら、この三人のうち武志さんしか今生存しておられないわけでございますが、武志さんのお母様と私は会いました。そのときに、このお母さんは、何回か北朝鮮に行って武志さんと面会をしておられます。このことについて拉致と決めるかどうかというのは、これは寺越さんを何とか取り返すということにおいては、むしろ明確にさせない方がいいのかもしれませんが、私がお母さんから聞いた話では、何回か送金をしてくれと言われたので送金をしたという話であります。しかし、送金したお金は、お母さんの話でも、残念ながら恐らく本人が自分のものとはできなかったということでございますが、この送金を必ず足利銀行にしてくれという指定をされるということだったのですね。

 そういうような形で、このケースだけではないわけでございますが、一般的に、朝銀大阪信組の問題もそうだったのですが、いろいろなお金が足利銀行を経由して北朝鮮に行っている、こう言われているわけでございます。

 きょうは国金局にも来ていただいていると思うのですが、果たして年間どれぐらい北朝鮮に日本からお金が送られているかどうか、実態を把握しているかどうかということについて御質問いたしたいと思います。

○長尾説明員 お答え申し上げます。
 私どもの持っています現行の外為法上でございますが、平常時におきまして、北朝鮮に限りませんで、海外の特定国との間の資金の流れを把握するということにつきましては、一つには、その特定の国との間の取引にかかわる許可とか、あるいは事前届け出ということを介して行う方法が考えられるわけでございます。

 ただ、この方法につきましては、一つは親族送金は既に許可不要になっております。それからもう一つ、寄附、贈与といったものも一千万円相当額までは許可不要ということになっておること等から、これにより送金実態を把握するということはちょっと期待できないという仕組みになっております。

 それからまた、私ども、外為法上、国際収支統計を作成するという観点から報告書をいろいろ徴収しているわけでございますけれども、これにつきましても、その報告の性格上、対象を五百万円相当額を超えるものということにしておるところでございます。

 したがいまして、今私どもの立場では、御指摘の北朝鮮を含めまして各国への送金を日常的に把握するということは行っていないということでございます。御理解賜りたいと思います。

○安倍(晋)委員 日本にとって安全保障上も、かつて核疑惑もあったわけでありますから、ある意味では極めて脅威になっているわけでありますし、また、拉致疑惑等々の問題もあります。また、日本人妻千八百名の問題もあります。また、最近は麻薬の問題もありました。

 しかしながら、大蔵省は日本と北朝鮮とのお金の行き来については――もう一度お伺いします。あるかないかだけでお答えをいただきたいと思うわけでございますが、全く把握できていないということですね。

○長尾説明員 そのとおりでございます。

○安倍(晋)委員 ということは、極めてテロ国家と言ってもいいと私は思うのですが、北朝鮮に対して我が国からどれぐらいお金が行っているかということを大蔵省は全く把握ができていないということが明確になったわけでございます。

 しかしながら、実は銀行が極めて限られているわけでありまして、信組、朝銀の信組の場合は外国に送金することができないわけでありますから、ほとんど足利銀行が一手にやっていると言っても過言ではないと私は思うわけでございます。銀行に対する監督権をこれから行使をしていただいて、ぜひとも、どれくらいの金が行っているかということは把握をしていく必要が当然あるのではないか、私はこういうふうに思う次第でございます。今、北朝鮮の状況がどんな状況にあるのかというのは、これはもう世界じゅうの人がみんな心配している状況にあるわけでありますから、そこはぜひとも大蔵省も真剣に考えていただきたい、こういうふうに思う次第でございます。

 もう時間がだんだんなくなってきたわけでございますが、このように北朝鮮との関係においては極めて多岐にわたっているわけでございます。

 拉致疑惑一つとってしても、外務省だけでは情報収集が不十分であると私は思います。先般、拉致議連で関係各省庁の皆さんからお話を伺ったところ、省庁間でのみんなが集まって、一堂に会しての情報交換というのは今までやったことがなかったということでございますから、今後こうした問題に対処していく。

 少なくとも、警察が認めているだけでも、七件十人が拉致をされた疑いが極めて濃いということになっているのですね。先ほど私がお話をいたしました有本恵子さんとか寺越さんのケースは、この十人の中に入っていません。入っていないのですね。にもかかわらず、私が今言った人数だけで六人もいるわけですから。この十人の中に入っていないのですね。

 ですから、まず間違いないだろうという中でも十六人、恐らく三十人近い人たちが拉致をされている中にあって、しっかりとした対策本部なり対策室なりを外務省の中に設けて、情報交換を行いながら、この人たちをどうすれば取り返すことができるかというのを協議する対策本部を設けるべきではないかと私は思うわけでございますが、外務大臣の御所見をお伺いしたいと思います。

○池田国務大臣 これまでも警察庁初め関係のあるところとは、随時協議はしてきたところでございますけれども、委員御指摘のように、それが恒常的なものあるいは定期的なものになっているわけではございません。事は国民の安全にかかわる問題でございますから、それをどういうふうに解決していくか、いろいろな手法を使い、またいろいろな配慮もしながら進めていかなくてはいけないと思います。

 徹底的にそれを追及していくという手法のみをとるのがいいのか、場合によっては、表現が適切かどうかわかりませんが、硬軟いろいろな手法をないまぜて、要は国民の安全を確保するという目的を達する上から、いろいろなことを考えながらでございますが、いずれにしてもそういったことを進めていく上において、関係する省庁間の情報の交換なり連絡というものは密にしなくてはいけないというのは御指摘のとおりだと思いますので、そういった関係省庁間の協議をより緊密化し、きちんと進めていくように、早急にそういったことを相談し、実施してまいりたいと思います。

○安倍(晋)委員 この問題につきましては、日本人の人権、もちろん生命財産がかかっている問題でございます。また外交問題としても大きな問題であると思いますから、私は、この外務委員会において集中審議をぜひともやっていただきたいと御要望申し上げる次第でございます。

 もう時間が参りましたが、最後に外務大臣に。先般、橋本総理が、日本の韓国人記者との懇談の中で、もし韓国から要請があれば米の援助も考えていいというお話がございました。

 この横田めぐみさんの拉致が報道されるようになってから、横田めぐみさんの問題を含めた拉致疑惑あるいは日本人妻そして麻薬の密輸入の問題、この三つの問題が解決をされなければ難しいという政府としての態度をとってきたわけでございますが、これに重大な変更があったのかどうか。

 最後にこれについてお伺いをさせていただきまして、私の質問を終わりたいと思います。

○池田国務大臣 ただいま御指摘の問題につきましては、これまでも政府はいろいろな要素、いろいろな状況を総合的に勘案しながら、どういうふうに対処していくか検討を進めてきたところでございますが、そういった政府の立場に変更はございません。

 そのことは、今御指摘になりました韓国の報道関係者と総理の懇談の席でも、総理は、日本がそう簡単に食糧支援を決めることができない難しい事情があるということをるる御説明なさった後で、それでは具体的に韓国政府から強い要請があった場合にどうなのかという質問があったことに対して、いや、そういう御要請があれば、それは政府間の話でございますし、考えますよということをおっしゃったわけでございますから、全体としてごらんいただければ、特にこれまでの方針と変わったことをおっしゃっていることはないというのは御理解賜れると思います。

 そして、現に総理御自身が、その翌日でございましたか、翌々日でございましたか、やはり記者の質問に答えて、いや、それは変えたわけじゃないということも明らかにしておられると思います。

○安倍(晋)委員 以上で質問を終わります。ありがとうございました


1997/06/04

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