1997/06/05 |
140 参院・法務委員会
橋本敦議員(共産党)の拉致事件についての質問部分
○橋本敦君 私はきょうは、最近新聞紙上でも大きな問題になっておりますが、三十四年前の昭和三十八年五月に十三歳で二人のおじと石川県の沖に出漁に出た少年、それが昭和六十二年一月になって北朝鮮で金英浩という名前で生存をしておられることが明らかになった事件についてお伺いしたいと思います。
この寺越武志さんについては、戸籍の上では死亡ということで戸籍が抹消されております。それによりますと、昭和三十八年五月十二日、推定午前二時ごろ、石川県の福浦灯台沖約二百三十数海里、ここで亡くなったということで、海上保安本部長の報告に基づいて除籍をされているわけであります。しかし、うれしいことに生きておられた。そのことがお母さんによって確認をされた。こういうことで戸籍の回復の申請が出されているわけであります。
まず法務省に伺いますが、こういう場合、戸籍の回復はどういう手続によって可能になるんですか。
○政府委員(濱崎恭生君) 御指摘の事例は、今お話がございましたように、海上保安庁の死亡認定に基づきまして本籍地の市町村に死亡報告がされ、それに基づいて死亡の戸籍上の処理をしたという事案と承知しております。こういった場合に、海上保安庁の方からこの死亡認定が誤っていたということで死亡報告取り消しの通知があれば、それに基づいて本籍地の市町村長がその戸籍を回復する手続をとるということになります。
○橋本敦君 お説のとおりですね。したがって、お母さんは、寺越友枝さんですが、海上保安庁に対して死亡認定の取り消しの申請をなさいました。その死亡認定の取り消しをするには、これは当然本人の生存を確認する必要がございます。お母さんはこれまで、昭和六十二年から平成七年の間、四回にわたって北朝鮮に行かれて息子さんと会いまして、そして一緒に写真も撮り、また武志さんから来た手紙もあり、また録音のテープも提供して、海上保安庁にぜひこの認定の取り消しをしてほしいという申請をなさいました。
海上保安庁に伺いますが、この手続は今どうなっているでしょうか。
○説明員(島坂治朗君) お答えいたします。
先週の五月三十日に金沢海上保安部に死亡認定の取り消し願が提出されまして、既に調査を開始しておるところでございます。
この調査の結果、従来の決定を変更すべき事由があれば速やかに認定の取り消しを行うことになるわけでございますけれども、一刻も早い死亡認定取り消しを希望されております御家族の意向も踏まえまして、現在、本件調査につきましては最大限の努力を払いまして行っておるところでございます。
○橋本敦君 今お話しのように、最大限の努力を払ってやっていただいていることは、私もそのとおり信頼をし、ぜひお願いしたいと思うわけであります。
取り消しのためには生存の確認が必要ですね。この生存の確認ということは、お母さんが提出された資料で疑問の余地がない、私はこう考えておるんですが、海上保安庁としてはこれらの資料を厳正に御検討いただいて、あとどんなふうに、どのくらいの期間でこのお母さんの願いがかなえられるようなそういう手続が進捗するのか、その見通しについてはいかがでしょうか。
○説明員(島坂治朗君) ただいま申し上げましたとおり、現在最大限の努力を払いまして本調査をしているところでございます。
○橋本敦君 この調査の困難は、まさに国交のない、海を越えた向こうに武志さんが生存しているというその事実です。そうでなければ、本人と直接会って確認することが可能であれば直ちにできる問題なんです。そこにこの問題の人権上の重要な問題があり、政府として全力を挙げて一日も早くやっていただきたいという大きな問題があるわけです。そういう意味では前例のないケースと言っていいでしょう。
お母さんはそういったことも十分承知の上で、この申請をなさった後の記者会見で、武志さんが自分の生まれた国に一回でもいいから戻ってくるようにしてやりたいんだ、皆さんの御協力をお願いしますと、こう言って泣き崩れておられた姿をテレビで私も見たんです。こういう願いにこたえて、まさに国民の人権を守ってあげなくちゃならない法務省として、私は法務大臣にも特段の御尽力を垢願いしたいと思うのですが、法務大臣いかがでしょうか。
○国務大臣(松浦功君) 当省の事務として御協力できる問題があれば、事情をそんたくして全面的に協力をしてまいりたい、こういう気持ちでございます。
○橋本敦君 海上保安庁にお伺いしますが、この審査のために外務省を通じていろいろ知りたいことを知る、そういう手続をやる必要があるんでしょうか。あるとすれば外務省にもぜひその協力をお願いしなきやなりません。海上保安庁は自分が死亡と認定したことですから自分の責任で取り消すということで、今までの資料の範囲でこれは可能であるということでやっていただけるんでしょうか、各省庁の協力がどうしても必要だという御判断なんでしょうか、その点はいかがですか。
○説明員(島坂治朗君) ただいま申し上げておりますように、先週の三十日に取り消し申請を受けまして、現在最大の努力を払って調査をやっておるところでございますが、何をどこまでやるかというようなことも含めまして、必要があれば関係省庁にお願いをするということも含めまして検討もいたしております。
○橋本敦君 外務省、お越しと思いますが、外務省も海上保安庁から相談なり協力要請があれば全面的に協力していただけると思うのですが、いかがでしょうか。
○説明員(別所浩郎君) 先ほどから海上保安庁さんの方から御説明のとおり、死亡認定取り消し願ということについては海上保安庁さんの方で今調査検討をしておられるというふうに伺っているわけでございますが、外務省といたしましても、当然のことながら、寺越さんの件につきましては重大な関心を有しておりまして、今後も御本人や家族の御意向がかなっためにいかなる方法が効果的か探りながら、海上保安庁ほか関係省庁とも連絡しつつ努力してまいりたいと思っております。
○橋本敦君 その協力はぜひお願いしたいんですが、海上保安庁に重ねてお伺いします。全力を挙げて協力をして進めていきたいというお話がございました。海上保安庁の気持ちとして、まさに今出された資料で武志さんが生きておられるという心証を強くお持ちだと私は思うんです。したがって、手続はいろいろ要りますが、あらゆる努力や省庁との協力もお願いしなきやなりませんが、可能な限り早くこの死亡認定の取り消しをして戸籍の回復が可能になるようにしてあげたい、そういう気持ちでやってもらっていると私は信じておりますが、よろしいですか。
○説明員(島坂治朗君) 海上保安庁といたしましては、先ほども申し上げましたとおり、御家族の御意向も十分踏まえて最大限の努力をしておるところでございます。
○橋本敦君 事は人権にかかわる重大な問題でありますから、ぜひともよろしくお願いをいたします。
北朝鮮側から海難で救助したとかなんとか、いろんなアンサーがあればこれまたそれも進むんでしょうが、私も私なりに手続の困難であることはわかりますけれども、たとえ北朝鮮の対応がどうであれ、こちら側だけの資料でも生存しているという状況が十分確認できるということの蓋然性がこれは確定的に強くなれば、日本政府の決断として死亡認定を取り消すというぐらいの英断があってこそ人権が守られると私は思いますよ。
そういう強い立場でこの問題に対処していただくことができるように重ねて海上保安庁に、今あなたがおっしゃった御家族の気持ちを考えて全力を尽くすという意味は、政府の責任においてそういった腹をくくってやるということのように理解したいと思いますが、よろしいですか。
○説明員(島坂治朗君) 繰り返しになりますけれども、御家族の御心情も踏まえまして全力でこの作業を進めておるところでございます。
○橋本敦君 それ以上あなたは言えないという気持ちの中に、私が言ったことも含めて全力を挙げていただいておるということを善意で確信しておきましょう。私はそれはまさに政府として国民の人権を守る道だと思います。
法務大臣も先ほど、必要な協力があれば必要な立場で協力するとおっしゃっていただいたことの趣旨も、可能な限りお母さんの気持ちを入れて国民の人権を守っていくというお気持ちだと、こう理解させていただいたんですが、よろしゅうございますか。
○国務大臣(松浦功君) そのとおりでございます。結構でございます。
○橋本敦君 それと全然話が変わる問題に移ります。
いわゆる日本人拉致事件の問題でありますが、私はもう十年も前にこの問題について予算委員会で質問をさせていただきました。当時の国家公安委員長、今の梶山官房長官は、昭和五十三年以来一連のアベック行方不明事件、恐らくは北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚でございます、解明が大変困難ではあっても、事態の重大性にかんがみて、今後とも真相究明に全力を尽くしますとおっしゃっていただきました。当時の宇野外務大臣もその予算委員会、六十三年三月二十六日ですが、ただいま国家公安委員長が申されたような気持ち、全く同じでございます、この近代国家、我々の主権が侵されておったという問題は先ほど申し上げましたけれども、今平和な世界において全くもって許しがたい人道上の問題がかりそめにも行われているということに対しましては強い怒りを覚えておりますと、こうおっしゃいました。
自来、長い年月がたちました。との問題について家族の人たちは、拉致された子供たちのことも気にしながら、声を上げずに辛抱してまいりました。しかし、今日になってもその音さたが、政府の責任で解明されるという方向に進まない、そういう気持ちの中で苦慮しておられましたが、たまたまその中で、御存じのように横田めぐみさんの事件が新たに問題になって、これが明らかになってまいりました。そこで、北朝鮮に拉致された人々の家族が三月二十五日に家族会を結成されまして、新聞、テレビでも大きく報道されたところであります。
この横田めぐみさんの情報が入りまして、いち早くお父さんに御連絡したのは私の部屋からでございましたけれども、「文芸春秋」でお父さんはそのときのことをおっしゃって、娘が姿を消して二十年、「初めて耳にした娘の消息に、私の身体はショックと驚きで震えました。」と、「議員会館のある永田町に向かう途中、次第に「娘は生きていた」という喜びが湧き上がってきました。」、そして、「一刻も早くめぐみを救出できるなら自分の命さえ惜しいとは思いません。代われるものなら代わってやりたいと思うのは、子を持つ親なら誰でも同じではないでしょうか。」と、こうおっしゃっていますが、まさに家族の皆さんはそうだと思います。
この問題で、私は、重要な人権問題でありますから、ぜひ一刻も早い解決を望んでおるんですが、警察庁に伺います。これまで北朝鮮の拉致と見られる、認定された事件の件数と人数はどうなっておりますか。
○説明員(米村敏朗君) お答えいたします。
私どもの方でこれまで北朝鮮による拉致の疑いのある事件と判断しておりますのは七件、十人でございます。なお、これ以外に未遂であったと思われるものが一件、二人であると判断しております。
○橋本敦君 それ以外にもいろいろ疑惑のある事件があるんだというような情報は接しておられますか。
○説明員(米村敏朗君) お答えいたします。
警察といたしましては、ただいま申し上げました七件以外にも北朝鮮による拉致の可能性があるとして重大な関心を有している幾つかのケースについて、引き続き関連情報の収集等に努めているところであります。
○橋本敦君 私は、この問題については、まさに日本の国家主権の侵害にかかわるという問題であるし、国民の人権にかかわる問題ですから、これから北朝鮮との国交の関係という難しい壁をどう乗り越えて、どう早くこの人たちに救済の手を差し伸べるか、政府としても本当に大事な問題だと思っておるわけであります。
この問題について私はお願いがあるんですが、この家族会の皆さんだけの力でできることではありません。政府として全力を挙げて全面的に協力をする体制を一日も早くつくってやっていただきたいということがお願いでございます。
外務省は外務省として努力をなさっておると思いますが、外務省として現在、この事件の解決に向けてのめどというのはどうなんでしょうか。
○説明員(別所浩郎君) お答えします。
先生御指摘の北朝鮮による拉致の疑いが持たれている事件につきましては、もちろん捜査当局によって所要の捜査が進められているものと承知しております。そういった面につきましては、もちろん外務省としても関係機関と連携しながら情報の収集などやっておるわけでございますが、それと別にまた、今後ともこの問題の解決のためにどういつだ方法が効果的か、真剣に考えながら努力してまいりたいと思っております。
いずれにせよ、先生も御指摘のとおり、この件は我が国の国民の安全にかかわる重要な問題でございます。そういう認識に立ちまして、関係省庁等とより一層緊密に連絡をとりながら真剣に対処してまいりたいというふうに思っておるわけでございます。
○橋本敦君 北朝鮮側は拉致ということは一切認めないという立場をとっていることは、外交交渉その他で言われているとおりです。私どもは北朝鮮政府の態度については厳しい批判的態度を持っておりますが、それは別として、この問題を人道的な立場で各党派を挙げ、政府を挙げて一日も早く救援してあげていただきたいという気持ちは共通でございます。
昨日も池田外務大臣は外務委員会で、省庁間の連携を密にしていかないといけないので、各省の協議を密にして早急に相談を進めていきたいと答弁なさったことが報道されました。
私は、このことは本当に大事なことだと思うんです。今も、警察庁はこれからも必要な捜査、検討を続けていくというお話、外務省も努力をしていくというお話がございました。内閣官房にもお越しいただいて御意見を伺いたいんですが、それぞれの省庁の横の連携も深め、政府の対応として、この問題については必要な情報連絡会議あるいは関係閣僚会議、そのもとで必要な対策室を設けるなど、そういった体制をつくっていただくことが大事かと思いますが、いかがでしょうか。
○説明員(門司健次郎君) 本件につきましての関係省庁の対応につきましては先ほど御答弁ありましたけれども、内閣官房といたしましても、今後とも本件については関係省庁間の一層緊密な連携を図り、あるいは連絡をとり、いかなる対応が最も効果的かという観点から検討してまいりたいと思っております。
○橋本敦君 そこで、この問題で最後に法務大臣にお願いしたいんですが、池田外務大臣も御答弁がありましたが、各関係省庁の連絡ということになりますと、人権を預かる法務大臣も大事なその中のお一人でございます。法務大臣として、警察庁あるいは外務大臣、あるいは国家公安委員長、あるいは官房長官等とこの問題について御協議をぜひ進めていただきまして、適切な対策なり方法なりを見出していただきますように、連絡体制の強化、対策本部でも結構でございますが、一段の努力をぜひ法務大臣に私はお願いして、この件の質問は終わりたいと思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(松浦功君) 委員御指摘のとおり、大変重要な問題でございます。関係機関と十分に連絡をとって、いかなる方法が最も効果的であるかということについて前向きに検討を進めていく必要があるんではないかと思っております。最大限の努力をお約束申し上げます。
○橋本敦君 ありがとうございます。ぜひお願いしたいと思います。
1997/06/05 |