2002/07/24-2

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平成十四年七月二十四日(水曜日)

大畠委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。岩崎忠夫君。

岩崎委員 おはようございます。自由民主党の岩崎忠夫でございます。
 参考人各位におかれましては、大変お忙しいところを早朝からお越しいただきまして、まことにありがとうございました。時間も余りありませんので、早速質問に入らせていただきます。
 まず、参考人全員にお伺いしたいんですが、個人情報保護法制を整備する緊急性についての御認識をお伺いしたいと思うのであります。
 近年、高度情報化社会の進展に伴いまして、個人情報がデータベース化され、そして企業の顧客情報が大量に流出したり、あるいは個人情報が不正に売買されるなどの事件が相次いで社会問題化しているわけであります。このようにIT化が進む一方で、個人情報を保護する法制の整備を急ぎますことは、国民のプライバシーを守る上からも必要不可欠のことだと思われるのであります。
 この個人情報保護に関しましては、ほとんどの先進国で民間部門を含む保護法制が整備されているところであります。情報通信技術が進展する中で、民間部門を含んだ個人情報保護の仕組みを早急に整えますことは急務であると思われますが、民間部門を含んだ個人情報保護法制の整備の緊急性の基本的な認識について、時間がありませんので、各参考人にそれぞれ一言ずつお答えいただきたいと思います。

藤原(靜)参考人 岩崎議員の仰せのとおりだと存じます。
 国民の不安、誤解を除くためにも個人情報保護法制の整備をしていただきたい。これは焦眉の問題であると考えております。

大橋参考人 国の行政機関において個人情報保護法が制定されたときに、宿題が二つあったというふうに思っています。それは、民間部門の規制、それから紙の個人情報処理の問題、その二つの解決策として今、保護法案が上程されたというふうに思っております。
 保護の空白の部分というものをなくしていくという趣旨、これが国民の個人情報に対する不安を解消していく手段であると思います。それから、先ほど申しましたように、国民の利便性あるいは省力化ということが期待される住基ネットを今後実施していくためにも、この個人情報保護法制が必要であるというふうに思っております。

櫻井参考人 私は、悪法であるならば、ない方がよろしいかと思っております。
 個人情報を保護するための法整備はもちろん重要でありますけれども、今提出されている民間個人情報保護法案、行政個人情報保護法案はいずれも悪法であると思いますので、もし整備なさるのであるならば、もう一度法案を根本からつくり直していただきたいと存じます。

藤原(宏)参考人 個人情報保護法制の整備が緊急課題であることは十分に認識しております。
 しかし、現在の行政機関の保有する個人情報保護法は、いわば行政機関個人情報利用法になっております。行政機関が自分たちで個人情報を利用し合えるだけ利用しましょうという発想でつくられておりまして、先ほどの名寄せを制限する、コントロールするという発想が全く欠落しておりますので、抜本的につくり直していただきたい。以上を願う次第でございます。

岩崎委員 各参考人とも、中には、法案の中身についてはいろいろな意見がある、場合によっては抜本的に見直すべきだ、こういう意見も入っておりましたが、個人情報保護のための法制整備を基本的に急ぐべきだ、そういう意見であるというように承った次第であります。
 私がこのような質問をいたしましたのは、法案に反対する論調の中には、個人情報保護に対する認識が必ずしも十分でない、そのように見受けられる発言が一部に見られるからであります。また、法整備の緊急性に対しまして、私どもの国会審議が必ずしもこれに対応できていない、こういうことの自戒を込めて御質問をさせていただきました。
 次に、基本原則のメディアへの適用について藤原靜雄参考人にお尋ねをいたします。
 これまでの委員会での質疑や報道等によりまして、個人情報保護法案をめぐりますメディアに関する論点はかなり整理されてきたように思われますが、その中で大きな論点として残されているものに、基本原則をメディアにも及ぼすことの是非、そして基本原則の持つ意味合いは何かということがあると思うのであります。
 私は、ともに憲法に由来します個人情報保護と表現の自由とがあたかも対立概念であるかのような言い方がされますのは大変に問題であって、個人情報保護と表現の自由とは基本的に両立し得るものだ、そういうように考えております。報道といえども、報道の自由とともに、取材されたり記事にされたりする方の人格権が尊重されるべきことは論をまちません。また、報道機関が自主規制に取り組んでいるからといって、基本原則は適用しなくてもいいんだ、そういうようなことは言えないのではないかと思うのであります。
 問題は、法案の基本原則の法的性質について、誤解も含めてさまざまな理解がされ、これが議論を混乱させているかに思われることであります。ただいま藤原参考人から、基本原則の法的性質は、いわば各人による努力義務規定であるとの説明を受けました。そのような努力であれば報道機関においても日ごろ実践されていることだと思いますし、本法案は、そのことを基本的な理念あるいは考え方として明確にしたにすぎないことになります。また、ヨーロッパの個人情報保護法制と比較してみましても、むしろこの法案はメディアが規制対象にならないように、メディア保護に手厚い、メディアに配慮した緩やかな法制だとのお話を今伺った次第であります。
 そこで、藤原靜雄参考人にお尋ねをいたします。法案の基本原則がそのような法的効果を持つにとどまるものであれば、あえてメディアを基本原則の適用除外とするまでの必要はないと思いますが、どのようにお考えでしょうか、お伺いをしたいと思います。

藤原(靜)参考人 今の御質問の中にありましたように、また私が先ほど意見を述べさせていただきましたように、個人情報の適正な取り扱いに自主的に努力する、努力すべきということはメディアであっても当然のことでありますし、現にそのような取り組みも行われ始めたかのように承っております。ただ、諸外国と比べれば、その自主性、自主的取り組みというものはまだ十分とは言えないと思います。例えばドイツ等と比べても、苦情処理手続あるいは実効ある権利救済手続という意味で不十分なものであります。
 しかしながら、自主規制の方向、自主的取り組みの方向に動き始めた。だとすれば、各人が置かれた状況に応じて自主的に努力すれば足りるというのがその基本原則であります。ですから、そのような基本原則からメディアだけを除外すべき積極的な理由は見出しがたいのではないかと考えております。仮に、表現の自由という観点からメディアのみを除外すれば、他の自由にかかわる分野についてはなぜ除外しないのであるかという議論が始まろうかと思います。
 それから、先ほど櫻井参考人から御意見あったところですけれども、基本原則がメディアに及ぶといたしましても、行政による関与や罰則は予定されていない。また、これを根拠に直接に、先ほど申し上げましたように、開示請求権等が導かれるわけではございません。ただ、報道の自由、表現の自由が不当に妨げられないように、例えば四十条において配慮規定が置かれているわけであります。
 また、先ほど櫻井参考人から御意見のありました不法行為等、早稲田大学の江沢民事件でございますけれども、あらわれるときに、裁判所の解釈原理になるとしても、報道などを含む個人情報の有用性に配慮するということを法目的、第一条に掲げているわけであります。法目的に掲げている以上、メディアが一方的に不利になる、そのような解釈が裁判所でなされるとは考えておりません。先ほどの御主張というのは、裁判官の手からも全く自由な権力をつくれと言っているものに等しい、そのように考えております。

岩崎委員 ありがとうございました。個人情報の適正な取り扱いに自主的に努力すべきことはメディアであっても当然のこと、基本原則からメディアだけを除外すべき合理的な理由は見出しがたいと、明快なお考えを承りました。
 次に、民に厳しく官に甘いという批判があります。この問題について藤原靜雄参考人にお尋ねをいたします。
 防衛庁の個人情報リスト作成問題を機ににわかに高まってまいりましたのが、法案は民に厳しく官に甘いのではないかという批判であります。その論拠とされますのは、行政機関個人情報保護法案には罰則規定がないではないかなどのようであります。私は、そうではない。
 個人情報保護法案では、個人情報取扱事業者の自主性、自律性を尊重し、個人情報保護の観点から必要かつ最小限の規制にとどめているのに対し、行政機関個人情報保護法案においては、行政の公開性、透明性の観点を加味して、個人情報の取り扱いについてはより厳格に制度化されている、当然のごとく官に厳しいものになっていると受けとめているのであります。
 そこで、藤原靜雄参考人にお尋ねします。今回の法案で、個人情報の保護の内容について、実際に民に厳しく官に甘いようなものとなっているのでしょうか、お伺いをしたいと思います。端的にお答えいただきたいと思います。

藤原(靜)参考人 結論から申し上げれば、そのようなことは決してないと思います。
 時間の関係もありますので、ごく簡単に申し上げます。
 第一に、両法制の規律の内容ですが、先ほど申し上げたように、民は入り口と出口は、特に出口は厳しくしてあります。ただ、規律の中身は、自主規制をベースに緩やかなものになっております。これに対して、官は規律の中身そのものを詳細かつ広範に規律しているということで、その意味で官が厳しい。
 それから、近時論議になっております罰則規定の有無ですけれども、民間部門は、確かに罰則規定がございますけれども、個人情報の漏えいにつきまして、悪質な事業者の行為で、例えば主務大臣の命令にも従わない、そういった場合に初めてその命令違反に対して罰則が科せられるという仕組みであります。つまり、勧告を出して、それでもだめなら命令が出る、その後初めて罰則が来るという間接罰であります。一方、行政機関の場合は、これは直罰なわけです。直ちに罰則が来る。また、仕組みそのものも違いますが、罰則の点でも甘いことは決してないのではないか、そのように考えます。

岩崎委員 法案の内容は民に厳しく官に甘いというような批判は全く当たらないとの説明であるということだと承りました。
 次に、住基ネットの施行についての質問をいたします。大橋有弘参考人にお伺いをいたします。
 住民基本台帳ネットワークシステムは、地方公共団体共同のシステムとしてこの八月五日から稼働することになります。全地方公共団体では、稼働に向けてこれまで多額の予算計上を行い、データ整備や住民への広報活動など着実な準備を積み重ねてまいりました。また、住基ネットは、e―Japan重点計画に基づく電子政府、電子自治体構築のためにも重要な基盤となるものであります。これが仮に施行延期となれば、地方公共団体、住民双方に大きな混乱が生じるばかりか、政府が目指す平成十五年度までの電子政府、電子自治体の実現にとって大きな支障となるものであって、そのようなことはあってはならないことであります。
 大橋有弘参考人はこれまで住基ネットのシステムの構築にかかわってきたとのことでありますが、住基ネットのシステム構築に当たりましては、予想されるさまざまな問題を想定して、安全な上にも安全なシステムとなるよう、二重三重にセキュリティー措置を講じていると伺っているところであります。
 そこで、大橋有弘参考人にお伺いをします。他の参考人からの反対意見をお聞きになっての御感想をお伺いしたいと思いますし、とりわけ住基ネットについて、情報漏えいなどのセキュリティーや個人情報の一元化などのプライバシーなどについてこれを問題にする声があるわけでありますが、この点についてのお考えもお伺いしたいと思います。

大橋参考人 今お尋ねの件に関して、まず私なりの感想を申し上げたいと思いますけれども、住基ネットワークに関してはかなり大きな誤解があるのではないか、あるいはこれは行政側がきちんと説明をうまくし切れていないという反省があろうかとも思いますけれども、誤解があるというふうに私は思っております。
 システムの中身、そして制度ということに絡むものですから、なかなか理解しにくい面、そしてそれが国民の方からの理解がなかなか得られないという状況があろうかと思いますけれども、一方では、プライバシーが危ない、番号で管理する、牛は十けただけれども人間は十一けた、こういうレベルの議論ではなかなか国民の理解は得られないというふうに私は思っております。行政側はもっとこの問題について根本的な理解を求めるような努力をすべきでありますし、国民はこの問題そのものの反対をしているわけではないというふうに私は思っております。
 それから、国と自治体との関係ですけれども、この住基ネットはもともと、先ほど申しましたように、自治体の事務、住民基本台帳事務をつかさどっている市町村の仕事であります。それを市町村の中だけではなくネットワークで便利にする、効率化を図る、そして県、国はその結果として、自分の仕事に、別途集めている情報をそこから提供を受ける、恩恵にあずかる立場にあるというふうに思っています。
 そして、先ほど来、少し誤解なのか、あるいは内容を御存じないで、あるいはあえて誤解なのか、私はよくわかりませんけれども、名寄せの問題が出ております。
 名寄せというのは、それ自体が悪ではないんです。今の行政の事務の中で名寄せができないことには、我々は十分な個人のサービスを受けられないことになります。子供がしかるべき年齢になれば、義務教育、学校の就学の案内が来ます。選挙権も、しかるべき年齢に達したときにそれが案内される、通知される。あるいは、卑近な例で申しますと、私なども、役人をやっていた時代、それから大学へ行った時代の稼いだ、あるいは払った年金保険料、最終的には、しかるべき年齢に達したときにすべての保険料を名寄せして、そして適正な年金をいただくわけです。そういう意味で、名寄せというのは、それ自体が悪というのは全く誤解に満ちたものです。
 そして、その名寄せは、限られた範囲内でしか行っていけない、できない、それも当然のことであります。やたらに個人情報を集めて名寄せして、それを見て監視している人がどこにあるんでしょうか。どういう役所がその仕事をしているでしょうか。行政の制度、仕組みを少しでも御理解いただくならば、役所は権限に基づいた範囲内でしか個人情報を利用できないということになっております。それが大前提として御理解いただきたいと思います。行政が悪である、役人は悪であるという大前提では、私たちは、国民と行政の関係は成り立っていないというふうに思います。
 それから、セキュリティーに関してでございますけれども、一つの例を挙げて申し上げれば、通信回線は専用であります。そこに防火壁もある。そこを無理してこじあけて入ってきて得た情報は暗号化されております。この暗号化の技術は今このところ相当進んでおりまして、例えばこの暗号を解読するのに、一台数億円するスーパーコンピューターを何十台も並べて、何十年間そのコンピューターを回せば解けるかもしれない。でも、その間に、既に漏えいしたことはすぐ検知されておりますから、修正すればいいんです。つくり直せばいい。暗号コードは振り直せばいいんです。とても、何十年をかけて暗号解いている人なんかいないと思います。それで解いて得た情報は大した中身ではないんです。
 そういうことで、セキュリティーに関しても、やや誤解に満ちた議論がされているように思います。

岩崎委員 住基法上、システム運用上も、個人情報保護措置は十分に講じられている、こういう御意見でございました。
 私は、住基ネットワークシステムには非常に大きな誤解がある。国民総背番号制であり、国家機関があらゆる個人情報を住民票コードによって一元管理するシステムでないかというような大変壮大な誤解があるわけですが、これは全くあり得ない。住基のネットの基本的な点を全く理解しない意見だろうと思っているわけであります。
 住基ネットが保有するのは、本人の居住関係を公証する氏名、住所、性別、生年月日、この四情報だけであります。そして、法律に定める特定された行政機関と行政事務のためにだけこれが本人チェックのために提供されるのでありまして、提供を受けました行政機関は、その目的のためにだけ使う、目的外利用は一切禁止されている。そして、目的外利用したのにかかわった者は刑罰が加重された重大な守秘義務がかかっているわけでありますし、一切の名寄せや行政機関相互の照合にこの住基番号を使ってはいけないというように、明確に禁止規定をされているわけであります。
 論者が言うように、住民票コードを検索キーとしていかなる情報機関の個人情報データベースも検索することができるんじゃないかということは、これは一切できない、法的な禁止措置がされているわけでありまして、この点についての誤解が一切ないように。それに増して、やはり行政当局が住基ネットの説明あるいは個人情報保護法案等の説明が十分できていないことがこのような誤解を招いている。
 そのことを私は非常に残念に思いまして、行政当局がもう少ししっかり国民にPRをしていただきたいとお願い申し上げまして、質問を終えたいと思います。

大畠委員長 これにて岩崎君の質疑は終了いたしました。
 次に、野田佳彦君。

野田(佳)委員 民主党の野田佳彦でございます。
 きょうは、四名の参考人の皆様におかれましては、当委員会に大変お忙しいところお運びをいただきまして、心から感謝申し上げたいと思います。
 いろいろな質問を多少なりとも考えてきたんですが、今までの質疑を聞いていて、ちょっとこれは違う路線でざっくりいこうかというふうに思いました。
 この個人情報保護法の動きを、国民の不安を、誤解に基づいていると。私は、誤解ではなくて、極めて本質的な問題がある、そのことに対して敏感に国民は不安に思っているということが正解なんだろうと思っています。そのことを踏まえて順次質問をさせていただきますけれども、まず、櫻井参考人にお尋ねをしたいと思います。
 今国会も終盤に入りましたけれども、残念なことに、政治家のスキャンダルがとても多くて、そのことの問題がきょうもまた、同時期に政治倫理審査会で参考人招致をやっているという状況です。
 こういう問題が出てくることはとても残念なんですけれども、こういう問題に光を当てて真相究明をしていくというのは、もちろん国会の仕事でもあると同時に、取材をされている報道機関の皆さんの、あるいはフリーのジャーナリストの皆さんの丹念な取材があったから、こういう悪が、うみが暴き出されてくるんだろうというふうに思うんです。そういう報道をする立場にとって、個人情報保護法、私はとても欠陥が多い法律だと思いますけれども、この法律が成立をしているならば、恐らく巨悪は安心して眠れる、小悪ははびこる世の中になってしまうだろうと私は思うんです。
 特に、櫻井参考人の場合は、薬害エイズ問題等で大変丹念な取材をされてあの安部副学長を追及していったように、これまでも大変すばらしい実績がございますが、この法案が通ったら、櫻井さんの今やっていらっしゃるお仕事にどういう具体的な影響が出るか。基本原則は単なる努力規定ではないというふうに私は思っていますので、その点も踏まえてお考えをお聞かせいただきたいと思います。

櫻井参考人 お答えさせていただきます。
 もしこの個人情報保護法案が成立していたとしたら、一連の薬害エイズ事件の報道はほとんどが成り立たなかったであろうというふうに私は考えます。
 例えば、個人情報をとるときに、その利用の目的が明確にされなければならないということが基本原則の第四条にございます。また、第五条は、個人情報は適法かつ適正な方法で取得しなければならないという規定がございます。また、第八条では、「個人情報の取扱いに当たっては、本人が適切に関与し得るよう配慮されなければならない。」というふうに書いてございます。
 私は、生物製剤課長だった松村明仁さんも、帝京大副学長だった安部英さんも、その周辺を、ここで詳細を申し上げることはできないんですけれども、極めて多くの方々、それから一見関係のないような人のところまで足を運んで、何十時間という時間を費やして取材をいたしましたけれども、これが、どのような目的でこの情報を得ようとするのかとか、本人の確認を得ているのかとか、その情報を得たときに、本人に、これを公表していいのか、どういうふうに扱ったらいいのかということを申し上げて了承を得なければならないとしたら、あの報道は一切表に出なかったというふうに思います。
 ですから、その私の体験からも、この個人情報保護法案を成立させるようなことがあれば、この国のジャーナリズムは死ぬと思います。死なない、大丈夫である、十分な配慮をしているというのは、ジャーナリズムを全く存じていらっしゃらない方のおっしゃることだと思います。

野田(佳)委員 引き続き櫻井参考人にお尋ねをしたいと思います。
 もう一方の行政機関の個人情報保護法にかかわることでありますけれども、これは当然住基ネットの問題にもかかわってまいります。
 先ほどのお話で、九月十一日のあの同時多発テロ以降のアメリカの動きについて御示唆をいただきました。結局は、通し番号をつけようとしながらも、一方でやはり懸命な、デモクラシーの危機に思いをいたして、議会が最終的には歯どめをかけたという動きだったと思いますけれども、私は、それと同じような事例を、ちょうど昨年の今ごろですけれども、韓国に行ってまいりまして、韓国におけるプライバシー保護制度合同調査団という、一部の国会議員と、そして首長、ジャーナリスト、学者の皆さんと行ったんです。
 御案内のとおり、韓国は、もう三十数年前から国民に番号はつけられております。そして、九七年にICカードの導入も図られようとしました。しかし、結局は、やはり国会議員や市民活動家のさまざまな意見が噴出をして、カード化までは阻止をしたという経緯があるんですね。
 番号は完全に社会の中に溶け込んできている。もう社会的なインフラだと思います。旅館に泊まるにも、商取引するにも、土地取引するにも、あるいは自動車の登録をするにも番号は必要です。これは、南北分断の歴史を考えると、やはりいまだに厳しい緊張関係がありますから、そのことはあの国にとっては必然だったのかもしれませんが、さすがにカード化までは踏みとどまっているんですね。そこまでいったらプライバシーの侵害になってしまう、その漏えいの危機もいっぱいあるということで、ぎりぎり歯どめをかけている。
 私は、これも国のありようを、民主主義とは何ぞや、自由主義とは何ぞやという、まさに深い洞察を踏まえた動きだったと思うんです。アメリカもそうだ。韓国もそうだ。だけれども、今、日本の議論というのは、残念ながら、民主主義とは何ぞや、自由主義とは何ぞやという深い洞察を踏まえてこの議論ができていないように私は思うんです。
 私は、櫻井参考人の立論といいますか御主張には、まさに自由とかデモクラシーを踏まえた今回の法案に対する姿勢が見えてくるように思いますけれども、その点についてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。

櫻井参考人 先ほどの十五分間のスピーチでも申し上げましたけれども、この個人情報保護法案、住民基本台帳ネットワーク、すべてを含めて通してきますのは、官僚による国民の支配でございます。その国民の中には政治家の皆さん方も入っていると思っていただきたいと思います。
 例えば、アメリカでは、国会議員の皆さん方がITコーカスというのをつくっております。百五十名ほどの議員の方々が集まって、このコンピューター社会、インターネット社会に技術というものをどのように政治に従わせていくのか、技術によって政治が振り回されるのではなく、政治の思うところに技術をどのように取り込んでいくかということを非常によく勉強しているんですね。政治家でありながら、その辺のコンピューター技師とは負けないくらいの技術論を闘わせるくらいの実力が彼らにはございます。
 国会議員の皆さん方は非常にまじめな方たちが多いと思います。住民の方々を思っている方も多いと思いますけれども、本当に、例えば、住民を守るために、デモクラシーの国として、民主主義の国としてこの国を守るために、では、私たちはコンピューターをどういうふうに使うのかということについて、技術論を少しでもお勉強なさったことがあるだろうかとちょっと問いたいと思うんですね。
 私は、技術と観念論というものが一致しなければ観念論は空回りをしてしまうというふうに思います。例えばこの行政個人情報保護法案のことを、先ほど大橋先生は、目的外利用されるようなことはない、住基ネットではそのようなことはないとおっしゃいましたけれども、住基ネットがこの行政個人情報保護法案と重なりますと、住基ネットで集められた情報は、行政に入った途端に行政個人情報保護法案によって規定されるんですね。その行政個人情報保護法案は、第三条で、利用目的を変更する場合には、相当の関連性があればよろしいと書いてございます。そして、ある特定の役所が得た情報をほかの役所に使い回しすることについて、その第八条で、これも、内部で利用する場合、相当な理由があれば一つの役所からほかの役所、独立行政法人もしくは地方自治体に使い回しをしてもよろしいということを法律で書いてあるのが行政個人情報保護法案ですね。ですから、これは使い回しされることは確かなんです。
 それから、岩崎先生ですか、罰則はあるというふうにおっしゃいましたが、これは罰則がないんです。そこのところを御認識を新たにしていただきたいと思いますし、この三つの法律のどこを見ても、国民に十分な情報を与え、メディアに十分な自由を与え、そしてそれをもって国民に考える能力を育てさせて民主主義をもっと充実した健全なものにしていこうという意図はどこにもないと思います。
 アメリカで大統領が生まれましたときに往々にして言われるのは、あのケネディ大統領でさえもCIA長官には頭が上がらなかったといいます。その理由は何か。行政府が余りにも多くの個人情報を、プライバシーを知っているからなんですね。アメリカの議員の皆さん方は、このように政治がいわゆる官僚に従うのではだめなんだ、政治がイニシアチブをとらなければならないんだということでITコーカスをしているんですね。
 そういう意味で、デモクラシー、自由、そして政治の理念と技術をどういうふうに結びつけていくかということを委員の皆様方全員に心して学んでいただきたいとお願い申し上げたいと思います。

野田(佳)委員 今回の個人情報保護法の審議は住基ネットの問題にもすごく深くかかわっていますけれども、そのことを端的にお話をされたのが平成十一年六月の小渕元総理の御発言でございました。自由主義とか民主主義とかを踏まえた御発言かどうかはわかりませんが、しかし、少なくとも包括的な個人情報保護法の制定が住基ネット稼働の前提であるというお話をされて、それを踏まえて附則もつけられたわけでございます。
 これは、今になってみると、時間的にも、今、衆議院でこういう状況でございますので、とても法案が通る状況ではないことはもう明らかです。今国会、もう成立はしません。でも、にもかかわらず政府の答弁は、小渕元総理の発言には法的拘束力はないという言い方です。法的拘束力云々ではなくて、私は、政治家の言葉の重みをどう考えるかだと思うんです。櫻井参考人は先ほど、官の暴走、独走をおっしゃっています。私は、時の総理大臣、トップの方が政治家として国民にあるいは国会に約束をしたこと、そのことをどう受けとめるか。政治主導の国と言われながら、総理大臣の言葉がこんなに、役所側の答弁の都合で、法的拘束力もないと一言で言われちゃうととまってしまう、納得してしまう与野党の政治家では私はいけないというふうに思っています。
 そういう意味では、ちょうど今櫻井参考人も住基ネットの延期、凍結に向けて大変精力的な動きをされていますけれども、その点のお考えをぜひお伺いしたいと思います。

櫻井参考人 まさに野田さんのおっしゃるとおりだと思います。
 例えば、小渕さんは、現職の総理大臣として、自民党の党首として、国会の場で三度にわたりまして、住民基本台帳ネットワークの施行については、政府は個人情報の保護に万全を期するために速やかに所要の措置を講ずるものとするということをお答えになりました。三度にわたって現職の総理大臣が、皆様方の党首としても、総理大臣としてもお答えになったわけですね。
 それを今になりまして、いや、あれは小渕さんの個人的見解でありますと。そして、小渕さんは、総理大臣は行政府の長であって立法府の長ではありませんと。行政府の長は法律をつくることはできないんです、だから、法案を考え、中身を吟味して文言をつくって、法案として国会に提出したところで総理大臣がおっしゃったことの意味は全うされるのです、そこで個人情報保護の措置は万全の措置がとられたことになるんですということを福田官房長官がおっしゃいましたが、これは何と天につばする言葉でございましょうか。これは、政治家が政治家の最も重い職責であります総理大臣の責任を放棄するものでございます。政治家の責任を放棄して官僚の指示に唯々諾々と従うというのがこの答弁ではありませんでしょうか。もし政治家が、国会でどのような約束をしても、答弁をしても、その答弁の内容をただの作文にして、内閣法制局にでも相談をして法案にして国会に提出すればそれで責任が果たせるというのであるならば、こんなことはだれにでもできます。
 そして、皆様方の現実の政治活動をお考えになっていただければ、法案を提出しただけで本当に内閣総理大臣の責任は全うされるんでしょうか。そうであるならば、なぜ今小泉さんは闘っているんですか。なぜ道路公団の改革法案を出して、そこでこれですべてよしとならないんでしょうか。なぜ特殊法人の改革法案を出した段階ですべてこの特殊法人の改革は全うされましたということにならないんでしょうか。有事法制もそうです。郵政三事業の関連法案もそうですね。医療法案もすべてそうです。法案を提出した段階で責任が全うされるのであるならば、それから先小泉さんが批判されたり褒められたりすることは全くないのでございまして、そのようなことで政治家の責任が全うされるということを皆さん本当に信じておられるのであるならば、これは政治に対するこの上ない否定であり侮辱であると思いますし、皆さん方を国会に送った国民に対するこの上ない裏切りだというふうに私は思います。
 したがって、小渕さんが約束をしたこの個人情報の保護に万全を期するために速やかに所要の措置を講ずるということが実行されない限り、つまり、これは、国会の皆さん方は個人情報保護法案だという形で論議をしてまいりました。私は、個人的に、個人情報保護法案が成立したとしても個人情報は守ることができないという考えでおりますけれども、表向きの形式論としても、皆さん方は個人情報保護法案を成立させることが個人情報の保護に万全を期するための措置であるという前提でお話しになってこられたわけですから、この個人情報保護法案が通らないまま住民基本台帳ネットワークを施行することは、明らかに法律違反でございます。
 なぜならば、今申し上げたこの個人情報保護に万全の措置を速やかに講ずるというのは、改正住民基本台帳ネットワーク、附則第一条第二項となって法律となっているからですね。この法律を満たさずに施行するということは、行政府及び立法府がみずから法律違反を犯すことになるということを申し上げたいと思います。

野田(佳)委員 時間が本当に少なくなってしまいまして、藤原宏高参考人にたくさん聞きたいことがございましたが、絞ってというか、例えば、もう一人の藤原靜雄参考人、さっき官に甘く民に厳しいということに対する岩崎委員の御質問に答えがございましたが、多分全く違うお立場だと思います。そのことについてひとつ触れていただきたいのと、それから大橋参考人から、名寄せの問題については何か誤解があるんではないか、そのものは悪ではないというお立場のお話がございました。あるいはセキュリティーについてもお話がございました。私は、多分、藤原参考人は全く違う立場だと思っています。
 藤原参考人、私は以前、「サイバースペースと法規制」という御著書を読ませていただいたことがございます。また、最近も、「電子署名と認証制度」ですか、まさにこの分野の専門家です。まとめて、短時間ですが、言いたいことがあれば言っていただきたいと思います。

藤原(宏)参考人 まとめられるかどうかわかりませんが、簡単に申し上げます。
 行政機関がさまざまな情報を電子化して蓄積するということで名寄せはできるということですから、それはある意味では膨大な権力を持つことに等しい。従来の紙であればそういうことはできない。したがって、行政機関の中でわからない形で個人情報が勝手に使われるようなことは決してあってはならない。見えないわけです。民間は幾らでも、マスコミが厳しく指摘するとか、そういう方法でコントロールができる。しかし、行政機関の中は見えないのであります。したがって、行政機関の保有する個人情報保護法というものは、きちんと見えない中でも機能する法律でなければいけない。
 ところが、現在の法案は、目的外利用の規定はありますが、罰則はありません。先ほどの自民党の先生の質問は、厳しい処罰があるかのような説明は誤解であります。それから、現在の住民基本台帳法上も目的外利用は禁止されておりますが、単なる努力義務に等しい。全く努力義務としかなっておりません。罰則はありません。この点も極めて誤解されているのではないかと申し上げたい。
 そういうことで、現在の状態では、行政機関が保有する個人情報保護法は、今後の電子政府の時代においては全く何の歯どめにもなっていないということで、官に甘いということを御理解いただきたい。
 それから、セキュリティーは、日弁連はこれまでも六回ほど地方自治体の現場の職員の人たちと勉強会をしてきましたが、不正は地方自治体の中から起こるとはっきり市町村の担当者が言っておるんです。つまり、住基ネットの担当者の中から、不正は市町村の中から起こると言っておるんです。
 それは簡単です。コミュニケーションサーバーと言われる全国のデータベースを検索できる端末があたかも廊下の隅のようなところに置かれており、だれがさわってもいいかのようなところに管理されておって、そして、その機械をだれが扱うのか、専任の担当者も決まっていない。セキュリティーの教育も受けていない。これが現状です。
 そういう中で一万台を超えるであろう端末を持つ住基ネットを動かせば何が起こるのか。技術的に万全だから問題はないということを我々は信じていいんでしょうか。そうではありません。担当者は危険だと言っておるんです。その声をどうして国会は聞かないんでしょうか。
 以上です。

野田(佳)委員 時間が来たので終わりますが、本当は参考人をもっとお呼びして聞きたい方がたくさんいらっしゃる。例えば、堀部参考人、園部参考人、検討部会や専門委員会の座長クラスの方にも来ていただきたかったというふうに私は思います。そのことはちょっと残念ですので、また次にチャンスがあればと思います。
 終わります。

大畠委員長 これにて野田君の質疑は終了いたしました。
 次に、河合正智君。

河合委員 参考人の諸先生におかれましては、御多忙のところ御出席を賜りまして、最初に厚く御礼を申し上げさせていただきます。
 藤原靜雄教授は鼎談の中で、「およそ法律の底には政治の情熱、道徳の理念、経済の必要が流れている」という尾高朝雄先生の言葉を引かれております。この議題となっております個人情報保護法制につきましても、人類にとりまして、農業革命、産業革命に次ぐ第三のデジタル革命によるIT社会の角度からの政治の情熱、それからIT社会特有の情報漏えい等によるプライバシーの侵害等の社会の要請、それから第三番目でございますが、経済の必要ということにつきまして、ネットワーク社会といえばもはや単なる国内問題ではない、一九八〇年のOECDガイドライン、一九九五年のEU指令は、個人データの流通と保護の問題は国際的な枠組みを必要とする問題であることが確認されていますと述べられております。
 特に、この内閣委員会におきましても、この第三の問題、この問題につきまして議論が非常に欠けていると私は認識しております。
 したがいまして、私は、個人情報保護法におけるメディアの取り扱いにつきましての国際的な水準について、特に、時間の関係で、藤原靜雄先生にお伺いさせていただきます。
 日本国内に、本法案はメディア規制法であるといったキャンペーンがございますけれども、国際比較を通して、果たしてそれがどうなのかを明らかにさせていただきたいと思います。
 まず、EU指令についてお伺いさせていただきたいと思います。
 EU指令の第九条では、加盟国は、プライバシーの権利と言論の自由に関する現行の規定を調和させる必要がある場合に限り、ジャーナリズム、芸術または文学上の目的のためにのみ行われる個人データの処理について適用除外を定めるものとすると定めておりますけれども、これをどのように解釈すべきとお考えでしょうか、お伺いさせていただきます。

藤原(靜)参考人 お答えいたします。
 現行のEU指令の第九条の文言につきましては、EUにおきましても報道関係の団体が積極的なロビー活動を展開したところであります。ただ、御指摘のとおり、報道分野を一括適用除外にせよとの主張は受け入れられておりません。つまり、例外的な条件を置くための条件の整備をメディアに求めているわけです。
 その場合、その適用除外というのは比例原則に反してはならない。つまり、実際に意見の表明の自由が侵害される可能性があって、この自由を実際上行使するために必要な場合にのみ、その場合に初めて適用除外が選択されるということでございます。
 つまり、個人のプライバシーの権利は適切に守らなければならない。適用除外というのは、この指令のほかの規定や他の特別な規定に基づく例外が十分に柔軟でありまして、プライバシー保護と意見の表明の自由というものが調整できるときには、場合によってはそういう国では必要もないということを明確に述べております。そして、適用除外の範囲からはセキュリティーというものは除かれております。要するに、比例原則、つまり、実効ある権利救済が一般の国民に対してなされて初めてメディアの特権も認められる、そういう立場であります。

河合委員 EU指令第二十九条に基づく作業部会におきまして、適用除外はメディアやジャーナリスト自体を守るものではない、ジャーナリズム目的のための個人データの処理を守るのであるとしております。そこで、私は、ジャーナリズム目的、文学上、芸術上の表現目的のみを適用除外としている、このことにつきまして、ここで言うジャーナリズム目的というのは、公共性、公益性といった概念が内包されているのではないかと考えます。
 特に、先ほど藤原靜雄参考人は、陳述されました中で大綱を引かれました。この大綱の記述につきまして、また、先生は論文で、「報道機関も適用除外についての配慮を受けた結果として相応の責任を負う」と述べられておりますが、その見解について改めてお伺いさせていただきます。

藤原(靜)参考人 相応の責任という議員の御質問の点でございますけれども、先ほど御質問の中にございましたように、EUの立案過程で最大の有力な議員たちが主張した中に、メディアとかジャーナリズム、ジャーナリスト自体を守るのではなく、表現の自由、国民のためのジャーナリズム目的の個人データ処理を守る、それが目的であるということが言われたわけです。
 指令は、表現の自由とプライバシーの権利の調整を求めている。指令から導かれる権利義務を制限するということが、先ほど申し上げました、また御質問の中にありました比例関係にあるというためには、特に専門委員会の見解によりますれば、各人がメディアに対して行使し得る保障がきちんと考慮されておらなければならない。つまり、例えば、公表以前に情報にアクセスする権利とか情報を訂正する権利を認める、これはメディアにとって大変な事態でございますから、許されないであろう。しかし、そうであるとするならば、公表後に反論権あるいは誤った情報を訂正する権利を認められてしかるべきではないか。それで比例関係にあると言えるのではないか。
 すべての場合において、個人というのは自分の権利の侵害に対して適切な権利救済が求められなければならない。したがって、権利救済でありますとかは適用除外にはならない。つまり、例外規定とか適用除外規定が比例原則にかなっているか否かということは審査される。そして、その審査の際には、ジャーナリストというものの持つ倫理的、職業的義務、あるいは当該職能にある者によって自発的に組織された団体による監視というものがきちんとなされているかどうか、そういったところを総合的に見る。つまり、何よりも実効的な権利救済があって初めて自分たちの先ほど申し上げたような特権というのは貫くことができる、そういう立場をとっております。

河合委員 次に、ドイツにおきます適用除外の対象につきましてお伺いさせていただきます。
 EU指令では、先ほど申し上げました適用除外としておりますのに対しまして、ドイツでは、適用除外の対象が、報道関係の専ら自己の報道編集上の、または文学的な目的となっております。
 ここで質問させていただきたいんです。ここで文学を挙げられておりますが、これはルポルタージュ的なものに限定されていると言われておりますが、それはなぜなのか。それから、ドイツにおきましては芸術は適用除外の対象から除外されておりますが、なぜなんでしょうか。また、日本では、一部でも報道が含まれていれば適用除外となるというふうにこの法律はつくられておりますが、日本とドイツを比較してどのようにお考えでしょうか。

藤原(靜)参考人 お答えいたします。
 今の御質問のとおり、芸術というものは、まず、ドイツの憲法でありますところの基本法五条三項にも規定されている、そういった事情があります。しかしながら、そもそも文学とか芸術といったものは大変外縁の定めにくいものであります。どこからどこまでが個人情報保護法との関係での文学であり芸術であるのかというのは一義的に定めがたい。
 そこで、ドイツの議論におきましては、従来、プレスの自由ということでメディアの特権が認められてきたわけでございますけれども、その場合、プレスといった場合には、定期的刊行物でございますとか週刊とか月刊とか季刊とかといったようなものが念頭に置かれて自由を認められてきた。そして、たまたま単発的に出る出版のようなものにつきましては、個人情報保護法との関係で議論があった。そこのところの議論を整理するために文学というものを入れて、これは出版というものについても配慮をしておりますよということを認めたわけです。ただ、その点は、既に我が国の方は認められているところでございます。
 それから、一部でも報道目的が入っていればという御質問でございますけれども、ドイツの場合は、これはEU指令を受けまして明文で専らと、つまり、主として報道目的でなければならないんだという規定ぶりになっております。そして、そのような前提でただいま各方面で議論がされているところであります。
 したがって、この両者を比べるならば、その場合、前提は、ドイツというのは、ヨーロッパの中でも個人情報保護を重く見ているけれども、ただし、歴史的な経緯から表現の自由を非常に重視している、その国に属すということでありますけれども、その表現の自由を重視している国においても専ら報道目的でなければならないという限界が引いてあるわけであります。
 それに比べますと、我が国の場合、たとえ一部でも報道目的がかかっていればジャーナリズムの自由、メディアの自由は守られるわけでございますから、非常に緩やかというか、表現の自由に厚く配慮した規定になっていると考えるわけでございます。

河合委員 翻って、日本の適用除外の意味についてお伺いさせていただきますが、ヨーロッパ各国の法制におきましては、EU指令に従いまして、メディアに関してすべての義務規定を適用除外としているわけではございません。特に安全管理措置につきましては、EUの個人情報保護に関する特別調査委員会による勧告、一九九七年になされておりますが、そこにおきましても適用除外は認められないということになっております。それにもかかわらず、日本では安全管理措置を含むすべての義務が適用除外となっておりますが、この点についてどのようにお考えでしょうか。

藤原(靜)参考人 お答えいたします。
 今の御質問にございましたように、安全管理義務というのは、個人情報保護法制を持つ国では、EUを受けて、ヨーロッパの諸国ではすべて義務規定となっております。おっしゃるとおりです。
 そして、それはなぜかと申しますと、個人情報保護の問題には、人格権につながる部分と、もう一つ、先ほど来議論になっておりますデータのセキュリティー、技術的なセキュリティーにつながる部分がある。どちらかというと安全管理義務というのはデータのセキュリティーにつながる部分であります。そこにおいて組織的または技術的に万全の措置をとることが求められる。そうでないと、今日新聞等をにぎわわせておりますように、ホームページ等から大量の情報が流出するというようなことになるわけです。したがって、比較法的に見ますと、安全管理義務を努力義務にしてしまうとか一般的な義務規定にしない国というのは非常に珍しいと思います。
 以上であります。

河合委員 次に、監督官庁と、それに関係しましてメディアの自主的な取り組みについてお伺いさせていただきたいと思います。
 藤原教授はこのようにお述べになったことがございます。我が国の実情というのは、独立した監督機関が不存在である、それからメディアの実効ある自主規制制度が欠如しているということを認識された上でお書きになっています。そのことを踏まえましてあわせてお伺いさせていただきますが、ヨーロッパ各国では、形態の違いはございますけれども、メディアについても何らかの監督機関が置かれております。それに対して、日本における個人情報保護法案では、メディアに関する主務大臣は置かれないという仕組みになっておりますが、この点についてどのようにお考えでしょうか。
 また、ヨーロッパ各国の法制におきましては、メディアがそれぞれ個人情報の取り扱いについて行動基準を策定しております。それに対して監督官庁が審査を行うなど、何らかの関与をする仕組みとなっております。日本の個人情報保護法案におきましては、監督官庁は関与しない、メディア自身による基本原則に沿った自主的な取り組みとその公表を求めているにとどまっておりますけれども、この点についてどのようにお考えでしょうか。

藤原(靜)参考人 ただいまの点についてお答えいたします。
 まず、主務大臣でございますけれども、主務大臣というのはメディアにもあるのが外国の姿であると思います。例えば、ドイツは州の内務大臣でございます。イギリスには文化・メディア・スポーツ担当大臣というのが存在いたします。もちろんこれはそれぞれの国の歴史、事情を反映していると思われるわけですけれども、主務大臣がいないという点についてのみ申し上げれば、その分、先ほども申し上げましたように、国民との関係でのメディアの側の自己責任が重くなるということだと存じます。
 そして、それについて自主的取り組みということと監督官庁ということでございますけれども、自主的取り組みということにつきましては、先ほど来申し上げておりますように、例えばドイツには報道評議会というものがございまして、メディアの各代表、さまざまなメディアの代表が出まして中立的な機関をつくっている。ただ、その中立的な機関はかなり長い歴史を持っているんでございますけれども、その中立的な機関でさえ、このたびの二〇〇一年の個人情報保護法が制定される、つまり、EU指令を受けた個人情報保護法が改正されるに当たりましては、やはり身内に甘いのではないかという批判を浴びまして、プレスコード、つまり、メディアに携わる者としての倫理コードを大幅に改定しております。その中には、個人情報保護の処理に関する苦情処理規程というものがきちんと定められていたり、新たに苦情処理手続に係る規程というのが詳細に定められております。従来も個人情報保護に留意するという程度の規程はあったのでございますけれども、ドイツの場合では、それでは不十分であるという批判を受けてつくったわけであります。
 それから、監督官庁ということでございますけれども、我が国の場合と違いまして、例えば、イギリスには、その自主規制をするガイドラインをおつくりになるときに国務大臣が出てくる。あるいは、ドイツの場合でも、表現の自由を尊重してメディアとの関係に配慮しますが、それでも内務省の担当者がオブザーバーとしてメディアが自主規制をつくるときには出てくる。さらに、フランスでいえば、クニールで自主規制のガイドラインそのものを審査してもらえるといったような仕組みになっております。そして、ただ審査することができるということでありまして、メディアは必ずしも、例えばフランスの場合でもドイツの場合でも、行政機関の審査を受ける必要はないわけです。しかし、その場合には、国民がどういうふうな態度を示すかということが大事になってくるわけであります。
 いずれにせよ、その自主規制というものにどのように取り組むかというのは、今後の重要な課題ではないかというふうに考えております。

河合委員 最後になると思いますが、第三者機関についてお伺いさせていただきます。
 藤原先生は、論文の中で、将来的な課題としまして、「苦情処理なども含めて、個人情報保護法制度の運用に最終的に責任を持つ独立した行政機関の必要性も議論されるべきであろう」とお述べになっております。
 現段階でこの法律におきまして第三者的な独立機関を選択しなかった理由。それから、第三者機関といいましても、例えばアメリカにおきましては、FTCにおきましては訴訟の提起権も有しておりまして、被害者にかわって裁判所に訴えることもできるわけでございますが、ヨーロッパ各国でもそれぞれ違いがあるように思います。どのようなタイプの第三者機関が日本の制度として将来検討するときにふさわしいとお考えでございますか、お伺いさせていただきます。

藤原(靜)参考人 第三者機関の問題というのは、行政法学においても非常に悩ましい問題でありまして、いろいろと難しい議論があるところでございます。それは、今から申し上げるような理由があるからであります。
 すなわち、一方においては、我が国においては常に行政改革の流れというものがあるわけでございます。組織が簡素化されなければならないし、もしも屋上屋を架すような組織であればつくらない方がいいという流れがずうっとあるわけでございます。しかしながら、もう一方に、確かに第三者的な中立な機関が重要な行政分野では重要である、そういう要請があるわけでございます。
 そこで、諸外国の様子を見てみますと、諸外国の委員会の中には、今御質問の中にありましたアメリカのFTCのように、特定の分野ではございますけれども強い権限を持つ機関もある。これに対してヨーロッパの場合には、どの国でも、例えばイギリス、ドイツ、フランスなどを見てみますと、六十人から八十人ぐらいの事務局体制を持った独立機関がある。
 しかしながら、その中でも、よく誤解されるので一言申し上げておきますと、例えばドイツの場合、公的部門は、連邦のデータ保護監察官、オンブズマン的な役所が包括的にコントロールしております。しかしながら、民間部門につきましては各州の内務省管轄でございます。つまり、民間部門につきましては、各州の官庁、内務省でありますとか首相府に置かれた部門でコントロールしているというわけです。そういうやり方もあるということです。
 さらに言えば、フランスのクニールというのはとても権限の強い機関でございますけれども、これは事前規制、届け出制の審査等もやるような機関でございます。さらに、イギリスのコミッショナーというものは、これはメディアのあり方にも口出しをする権限が条文上認められているような機関でございます。
 我が国の場合を考えますと、公的部門におきましては、情報公開・個人情報保護審査会というのができるわけでございます。私は、地方自治体の情報公開条例、二十年以上の歴史があるわけでございますけれども、その歴史を追って研究したことがございますけれども、この審査会の答申の持つ機能、審査会で答申が出て、それが行政機関、地方自治体でいえば首長部局等に与える影響というのは非常に大きなものがございます。つまり、この審査会が有効に働けば相当の部分カバーできる。
 それからさらにもう一つ、例えば我が国の場合、民間部門につきましても国民生活センター等での蓄積がございます。苦情処理、消費者問題でありますけれども、実際のアンケート、統計等によれば、個人情報保護の問題も多く来ております。ここでのノウハウもあるということで、私が現在申し上げられることは、その審査会でありますとかあるいは国民生活センター等の機関、こういった、現在与えられている、あるいは現在活躍している機関をまず利用してみて、その結果、それでもやはり第三者機関が要るということであれば、それは今後の課題として後日検討するというのがこれまでのこういう立法のあり方からして現実的ではないか、そのように考えております。

河合委員 貴重な御意見と御示唆を賜りました。大変ありがとうございました。

大畠委員長 これにて河合君の質疑は終了いたしました。


2002/07/24-2

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