平成十四年七月二十四日(水曜日)
○工藤委員 自由党の工藤堅太郎でございます。
参考人の先生方には、お忙しい中を御出席いただきまして、私からも厚く御礼を申し上げたいと存じます。
これまでの質問と重複する点が多々あろうかと存じますけれども、どうぞよろしくお願いを申し上げます。大分のどがやられておりまして、しゃべり過ぎだそうでありますが、お聞き苦しいと思いますけれども、御容赦をお願いいたします。
まず、櫻井よしこ参考人に二、三お尋ねをいたします。
総務大臣が、来月五日の住基ネットの稼働は、あくまで個人の住所、氏名、性別、生年月日の四項目に限って運用するので、システム上、個人情報の外部流出は考えられないというように話しておられるわけでありますが、参考人はかなりの自治体関係者と接触をされて、その対応ぶりに危険性が感じられると訴えておられるわけでありますけれども、その根拠はどのようなものか、まずお伺いをいたします。
○櫻井参考人 工藤先生にお答えいたします。
地方自治体に行ってみますと、総務省が机の上でお考えになっている住基ネットの構成図というのがございますけれども、それと地方自治体の実態がまず全く違います。例えば、総務省がお考えになっているこのネットワークの構成図の中では、住民基本台帳の部分は完全に独立している形になっているんですね。この住基ネットの回線はほかとはつながっていませんというふうにおっしゃるんですね。
きょう実は、余りにもややこしい図なのでそれを持ってこなかったんですけれども、もし必要であれば後ほど委員会に届けさせていただきますけれども、ある県で、総務省の指示に従いつつ、住民基本台帳ネットワークのコンピューター構成図をつくって、それに従って一生懸命つくろうとしているんですが、そこに民間の企業の方が手伝いに来ました。地方自治体の六四%ですか、六〇%以上が専任の職員を一人も置いておりません。ゼロ人でございます。民間企業に丸投げしているというところが自治体の大体七〇%でございますから、いろいろな自治体に民間の企業の方が行っているんですが、民間のコンピューター技師に対してある県が、こういうものをつくれと総務省に言われているんだけれども困りました、どうやったらいいでしょうと言って、その大事な大事な構成図を見せたんですね。
その構成図を見ましたら、もう見事にこの住民基本台帳ネットワークは、セグメントとしては分かれているんですけれども、線としては全部つながっているんです。しかも、小中学校、公民館、図書館もずうっとつながっていて、住民基本台帳ともつながっていて、それがほかのさまざまな行政サービスのラインともつながっていて、そしてインターネットにつながっているんですね。ということは、これは現実は全然違うんだなと。
それから、先生もおっしゃいましたけれども、とても厳重にファイアウオールを設けているんだとおっしゃるんですが、本当に地方自治体に行ってみますと、いや、うちはまだ、独立した端末機を使うようにと指示されているんだけれども、そんな余裕も職員もないし、この今使っている端末機で住民基本台帳ネットワークの打ち込みの作業をやっているんですとおっしゃるんですね。だから、端末機も一緒だということはラインも一緒だということですね。
まず第一に、ですから、独立したラインであるということが真っ赤なうそであるということが一つ。
それから、地方自治体の方々に聞いてみますと、いや、これは四情報だけではなくて、例えば、住民が引っ越したときに一緒についていく児童手当とか介護保険とかそれから生活保護とか、そういうのも全部くっついているんです、これはもう最初からくっついているんですと。そのほかにサービスを広げていきますから、サービスが広がっていけばいくほど、いろいろな情報がここにぶら下がってきます。四情報は本人確認のための情報として入れますけれども、この本人確認のための十一けたの番号もしくは四けたの暗証番号をネットで拾っていけば、これは十分にとれるんですというのが地方自治体の方及び地方自治体を助けている技術者の言葉でございますから、私は、これは大変に危険なことだというふうに申し上げてまいりました。
○工藤委員 ありがとうございます。
総務省は、今回の住基ネットの稼働について、先ほど申し上げましたように、極めて制約した上で運用するので何ら問題はない、このように言っているわけでありますが、去る六月七日に、電子政府構想を進めるためと称して、現行法の住基ネットの利用事務九十三件を二百六十四件に拡大する電子政府関連法案を閣議決定しました。
さすがに、この法案、個人情報保護関連法案が審議中であるといったようなこととか、まだ住基ネットが稼働していないというようなことで、それに新たな要件を加えるということは与党内でも反対があったということで、事実上断念したというような状況でありますが、こうした政府の対応は、将来あらゆる行政事務をネット化していこうという意図が明白でありまして、そこには個人情報保護に対する基本的な思考が欠落をしている、私はこのように思うわけであります。まさに近い将来、総背番号制に移行して一元化した巨大ネットワークができ上がることになるおそれが大である、このように思います。
そこで、世界の現状に精通しておられる櫻井参考人、こうした社会の出現はどのような問題を惹起してくるんだろう、どのように思われるのか、その点をできるだけ簡潔にひとつお願いします。
○櫻井参考人 日本が今導入しようとしている住民基本台帳ネットワークというシステムは、国民に赤ちゃんからお年寄りまで番号を振って、カードを持たせて、そのカードにICチップを埋め込むシステムでございますが、これは、世界広しといえども日本しか採用していない仕組みなんですね。どの国も、ICチップが入っているようなカードを国民に持たせるようなことはしておりません。
もしこれが実現いたしましたら、いろいろな個人情報が一元的に集まってまいりますし、先ほど申し上げたように、これはインターネットにもつながるような構図になっております。もちろんファイアウオールはありますけれども、技術的にこのファイアウオールを破ることは不可能ではございません。そうしたときに、私たち国民一人一人の情報は、裸で金魚鉢の中に入れられて国際社会の中に置かれるようなもので、それは極めて外部からねらわれやすいと思いますし、また、ネット犯罪の七、八割は内部からの流出でございますから、それも多発すると思います。
個人のプライバシーが侵害されるだけではなくて、これは日本という国の安全保障が根底から揺るがされることだと私は考えております。ですから、個人にとっても国家にとっても、情報の危機、安全保障の危機がやってくると思います。
○工藤委員 個人情報保護法案についてお尋ねをしたいんです。
作家の城山三郎氏が、著作活動に大きな制約が課せられ、いかに出版、表現の自由を侵す可能性が高いかを天下の悪法という言葉で断罪しておるわけでありますが、政府答弁では、城山さんのような作家や櫻井さんのようなフリージャーナリストも第五十五条の適用除外に該当する、何ら問題ない、このように言っているわけであります。こうした政府の見解に対しては、条文解釈上かなり無理がある、私もこう思うのでありますけれども、その辺、いかがお考えなんでしょうか。
○櫻井参考人 この点につきましては、先ほど来、少しでも、一部でも報道ということが含まれるならば適用除外になるんだという答弁がたびたびここでなされてまいりましたけれども、もしそうであるならば、基本原則にはっきりと、報道は除外する、表現者は除外する、報道だけではなくて、文学者それから芸術家、そういった表現をなりわいとする人たちはすべて除外するというふうに明確に書き込めばよろしいだけの話だと私は思います。
それを書かないで、いやいや、こういう条件ならば除外されるんだ云々とおっしゃる。それから、総務省の役人に聞きますと、そういうことは国会で御議論くださればよろしいではありませんかとおっしゃる。国会で議論したことが議事録に載ったとしても、法律になったとしても、小渕総理大臣の言葉でさえも今は無視されようとしているわけですから、基本原則においてマスコミを除外しないでおいて、その点についてもし御心配ならば国会で議論なさいませという言葉は、前例が余りにもございますから、私は信用することができません。
ですから、明確に、メディアと表現者、芸術家それから文学者、そういった人たちを適用除外にするということを書き込んでいくのが筋であろうかと思います。
○工藤委員 もう一点だけ櫻井参考人にお尋ねをします。
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法案についてでありますけれども、基本法では、先ほど来いろいろ話が出ておりますように、民間事業者に罰則規定が設けられているにもかかわらず、行政機関の方は何ら規定がない。
これまでも幾度となく住民基本台帳の流出事件はありましたし、先般当委員会で取り上げました防衛庁のリスト問題、特定の事柄をデータベース化して目的外に使用することの容易さを暗示しているわけであります。
また、本法案の三条では、使用目的があいまいな表現で規定されておりまして、国の行政機関による個人情報の収集、保有、利用が、民間事業者に比べて、法律や政令等の規定によるものだけに、極めて権力的に収集、使用されるおそれがあると私は思うのであります。
それゆえ、本来、こうした観点から、行政機関の取り扱う個人情報については二重、三重の保護規定を設けても不思議ではございません。改めて、罰則規定並びに厳格な運用についての御見解をお承りしたいと思います。
○櫻井参考人 日本におきまして個人情報をだれが一番多く持っているか、それは紛れもなく行政でございます。生まれたときには出生届、その後、どうもいろいろなことが行政側に通知されます。個人情報を百とすると、七割から八割方の個人情報は行政の手にあるというふうに言われているわけですけれども、その行政が、先ほど申し上げたように、国民の個人情報を一たん手にした場合、利用目的を変えることも相当の理由があればよい、もしくは、ほかのお役所に譲ることも相当の理由があればよい。相当の理由というのは、法的にはいかようにでも説明がつくあいまいな規定でございます。
しかも、そのことに対して、罰則がないですねと言うと、いいえ、ありますというふうにお役人は答えます。どういう罰則ですかと聞きますと、国家公務員法、地方公務員法がございます、守秘義務がありますと言います。守秘義務違反の場合は、一年以下の懲役もしくは三万円以下の罰金でございます。
しかし、注意をしなければならないのは、この罰則規定というのは、公務員が意図的に情報を売ったり流したりしたときのことなんですね。うっかり、管理が悪くて流出してしまいましたとか、そういったことについては罰則規定はないんです。ですから、この前防衛庁で行われたことについても、どういう罰則が与えられたでしょうか。ないわけですね。ですから、この前防衛庁で、情報開示を請求した人の個人情報が集められて庁内のLANで回されておりましたけれども、あのようなことは、この個人情報保護法案、行政個人情報保護法案が成立しましたら、すべて合法になります。ですから、私たちメディアの人間は、ここはちょっと問題なんじゃないんですかという問題提起もできない。問題提起しようとしたら、官僚の皆さん方は、あら、櫻井さん、何ですか、これは合法なんですよとおっしゃるに決まっているんですね。
このような行政個人情報保護法案は、他国に類例を見ない、官僚重視の、それから国民を軽視した、官僚こそが善で、情報を一手に握ってもよいんだという、官尊民卑の精神の最たるあらわれではないかと思います。
○工藤委員 大分時間も経過をいたしました。次に、藤原宏高参考人にお尋ねをいたします。
今回の住基ネット稼働について、日弁連が六、七月に全国三千二百四十一の市町村を対象に行ったアンケート、これで、回答率は四六%だったと聞いておりますけれども、コンピューターに精通している自治体の担当職員が意外と少ない、先ほども若干述べられておりましたが、万一トラブルが発生したときなど、解決に戸惑うのではないかと指摘していますが、正直なところ、各地で集会に参加をされて地域の現状を観察されてこられた参考人の視点から見られて、住基ネットが円滑に稼働するとお考えでしょうか。簡潔にどうぞお願いします。
○藤原(宏)参考人 お答えします。
住基ネット自体は、セキュリティー上の欠陥があるだけではなくて、ネットワークシステム上にもバグがある疑いがあります。これは、地方自治体の職員の人たちが自由記載欄というところに本音をやっと書いてくれました。しかし、余りにも直前過ぎます。したがって、自治体の職員の人たちがこれは本当に問題だねということをやっとその六月の段階で言ってくれたということで、僕たちはその声を受けて皆様に申し上げているということでございまして、本当に隠された事実がわかってきたという重みを御理解いただきたいんであります。
それから、もう一点申し上げますと、自治体の意見は、個人情報保護の制度が前提であると、非常に不安だと言っているのは、理由ははっきりしているんです。自分はコンピューターは何もわからない、そしてセキュリティーの教育も受けたことがない、そういう自分たちがこれほどの巨大なネットワークを本当にさわっていいのかということであります。したがって、セキュリティーを、お金がないのであれば国はちゃんと予算措置をとって専門の技術者を雇わなきゃいけない、そういうことであろうと思います。
○工藤委員 藤原宏高参考人は、ある集会で、住基法は所定の事務処理以外の情報利用を禁じているが、情報のデータベース化は禁じていないと指摘をされて、警察や税務当局など行政当局がデータをつなぐと個人情報は容易に集められるとその危険性を話されておられますけれども、こうした状況を避けるためにはどのような方策が考えられるのか、教えていただきたいと思います。
○藤原(宏)参考人 国民に番号を振ってコンピューター管理する以上、名寄せは防げません。これは国民の選択の問題だと思っております。名寄せは防げない。したがって、乱用防止のガードがどれだけかかるのかというのは当然リスクを伴いながら考えなきゃいけない問題である。
したがって、もし名寄せを危険だと考えるんであれば、番号を振らない方策を考えなきゃいけない。それはまさに分散処理の考え方でございまして、きょうの私の参考資料のところにもちょっと触れておりますが、公的認証サービスをうまく使うことによって、電子証明書には番号が振られておりません、コンピューター的には本人かどうかはそれでも十分わかるんであります。それから、基本四情報は電子証明書からもとれる、したがって全国データベースも要らない。
なぜ、この制度を考えないのか。セキュリティーに膨大な負担のかかる全国センター方式だけに固執するのか。これは、今後、住基ネットから提供する情報を基本六情報以外に拡大しようとする意図があるからではないかと疑わざるを得ないんであります。
以上です。
○工藤委員 もう時間が参りましたので、最後の質問、もう一点、藤原宏高参考人にお伺いをいたします。
今のお話にも共通しますけれども、各省庁別に、国民の理解のもとに、国民の利便性に必要な個人情報を活用するためにのみ、必要最小限度においてデータを収集することで電子政府の実現は十分可能だ、私はこのように思っておりまして、今の先生のお話を伺って、同感だな、そういう思いをいたしたわけであります。各省庁が集めた個人情報をどの役所でも活用できるシステムでは個人情報のデータベース化が可能となって、人間のやることですから、どんな罰則規定を設けても目的外に使用する公務員が必ずあらわれるだろう、このように思うんでありますが、その点、いかがお考えでしょうか。
○藤原(宏)参考人 僕ら法律家としては、公務員の方々が悪いことをするなんていうのは信じたくありません。しかし、新聞報道を見る限り、我々法律家の認識としては、やはりそういう事態が起こり得るということを前提に法制度をつくるのが政府の責任であるというふうに思っております。
○工藤委員 参考人の先生方には、本日は、大変貴重な御意見をちょうだいいたしまして、本当にありがとうございました。
私は自由党でありますが、我が党では政府提出の各法案に反対しておりますことを申し上げまして、質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
○大畠委員長 これにて工藤君の質疑は終了いたしました。
次に、吉井英勝君。
○吉井委員 日本共産党の吉井英勝でございます。
本日は、四人の参考人の皆さん、本当にお忙しいところ、どうもありがとうございます。
最初に、住基ネットの稼働問題から伺っていきたいと思うんですが、四人の参考人の皆さん、お一人お一人から伺いたいと思います。
実は前に座っておられる大畠委員長も私ももともと技術屋出身なものですから、技術屋的感覚からしますと、コンピューターシステムというもの、これは技術的に見て一定の保護を行っていくという可能性はあるということ、それはわかるわけです。しかし同時に、技術的に、情報には侵入し、収集し、そして漏えいするという、この可能性もあるという、二つの面をしっかり見ておかなきゃいけない、技術屋的感覚からすると大体そういうものだと思います。暗号技術があればセキュリティーは一〇〇%万全などという、そういう簡単なものじゃない。
そういうことをちゃんと踏まえた上で、住基ネットの稼働が既に政府の方では仮運用を開始しましたが、トラブルが相次いでおりますし、先ほどもお話ありました各種の世論調査などでも、住基ネットの稼働の延期を求める世論が広がってきております。昨日でしたか、高知県の知事さんも懸念を表明しておられました。それでも政府は八月五日から稼働しようというわけですが、私たちはこれには反対という立場をとっております。
そこでお伺いしたいんですが、個人情報保護制度を未整備のままネットを稼働した場合、個人情報の漏えいの危険があります。個人情報漏えいの危険とその影響、そのときの政府の責任というものについていろいろな角度から議論がなされておりますが、四人の参考人、お一人お一人からこれをひとつ伺いたいと思っているんです。
あわせてもう一つは、十一けたの番号が生まれたときからずっとついてくるわけですが、そうなりますと、個人情報を国が管理するということができるというシステムでもあります。先ほど来お話ありました総背番号制につながる危険もあるわけですが、政府の方は、使用の事務を限定しているのでその心配はない、こういう言い方をしておりますが、この点についてもあわせて御見解を伺っておきたいというふうに思います。
○藤原(靜)参考人 御質問にお答えいたします。
議員の御質問は、前半はリスク管理、マネジメントの問題、つまり、人間のやることである以上、必ずセキュリティーホール等があって、そこで失敗が起こるのではないかという問題。それから二番目は、世論調査等で不安があるではないか、それを前提にして住基台帳法を個人情報保護法がないままにスタートさせるのはどうかという御質問。それから、十一けたの番号をつけたときにオーウェルの言っているような世界が来るのではないか、それについてどう思うかという御質問であったかと理解しておりますけれども、その前提で手短にお答えさせていただきます。
まず、第一の個人情報保護法制の方ですけれども、私は、本日、個人情報保護法、そして行政機関等個人情報保護法を専ら専門にする者として来たわけでございますけれども、法案を拝見する限り、住民基本台帳法の中にもかなりの個人情報保護の規定が入っている、そのように受けとめました。つまり、個人情報保護法制と住民基本台帳法の個人情報保護は、恐らく法的に言えば一般法と特別法の関係になるんじゃないか、そのように思いました。
それから、二つ目ですけれども、オーウェルの世界が来るかどうかという御質問ですが、諸外国でやっております、これまた私は専門でありませんけれども、北米型の社会保障番号を使う、北欧型のように住民の登録番号等を使うといったような管理型のものに比べれば、住基台帳法というのは、法案にあるものは四情報プラス二情報、そして目的事務が限られているということでありますから、セキュリティーの問題さえきちんとすればおっしゃるような懸念はないのではないか。セキュリティーは、私自身も、研修等で徹底的にしていただきたいとは思っております。
○大橋参考人 ただいま先生の方から技術者としての御懸念があったと思いますので、そのことを少しお伝えしたいと思います。
おっしゃるとおり、技術論の中で、安全性の確率は一〇〇%で世の中動いておりません。たとえ飛行機であっても、技術論からすれば、何がしかの危険、リスクを負って空を飛んでおります。その危険性を見た上でそれの対処というものが考えられる、そうしないと動きません。確率論というものは、確率論的にゼロということはあり得ないけれども、事実上それはなしに近いというふうに考える。そして、その〇・何%からのリスクに関してはそれなりの措置をとるというのが技術論の本質だというふうに思っております。
それから、先ほど来お話し申し上げていますように、住基法の住基ネット自体で厳密な保護措置がとられている。そして、今、民間における包括的な基本法制ができ上がらないと直ちに漏れて危ないということは、これは大きな誤解に近いのではないかというふうに思います。法律の中にあれだけの厳しい規定がある、それにもかかわらずというのは、私は理解できないところであります。民間においての利用まで規制している。このたぐいの法律は余りないというふうに私は認識しております。それは、民間に漏れないような万全を期すと同時に、それを悪用する悪い人がいるということまでそれを規制しようとしています。我々は、マイナーな悪のために便利さを捨てるということは考えるべきではないというふうに思っています。
それから、番号の話ですけれども、十一けた、子供のころから云々とありますけれども、先生を含め我々は番号をいっぱい背負っております。国民総背番号というやや情緒的な言葉に乗っておりますけれども、我々は、先ほど来申しましたように、この情報通信ネットワーク社会において、私を特定してもらう、そうしないと私は私の受けるべきサービスが受けられない、あるいはほかの人にその情報が伝わってしまう。あくまでそれは、きちんと私であるということを、本人を確認していただきたい、そういうために番号というものがいろいろなシステムの中に活用されているわけです。
○櫻井参考人 大橋先生が、暗号技術があればかなり何十年も大丈夫だというお話を先ほどのお答えの中でおっしゃいまして、私は、このような現実離れをしたことをおっしゃる方がおられるのかと大変に驚きました。暗号技術があれば、それが何十年もかかって日本国民の情報を守ってくれることができる、一つの暗号技術が何十年もかけなければ解くことができないような時代ではないからこそ、技術者が頭を痛めているのだと思います。
もちろん、一つの技術はある意味では立派なものがあるかもしれませんけれども、世界じゅうのコンピューターの専門家たちが、ハッカーと呼ばれる人たちも含めて、日々本当に驚くほどの技術革新を、革新というのか改善というのかわかりませんけれども行っておりまして、一つのいわゆる暗号もしくはファイアウオールというものをつくっても、それはすぐに破られるかもしれないという危険があるからみんな大変に心配しているのでありまして、ある一つの暗号を使えば何十年も大丈夫だという担保があれば、このような場で私も発言するようなことはないかと思います。
さて、情報が漏えいした場合の危険と損害でございますけれども、これはもう本当に取り戻すことができないような損害が生じると思います。なぜならば、情報というのは、一たん漏れ出したらそれを取り戻すということはできないんですね。
これはある大手広告代理店の実際の体験でございますけれども、大変大事なお客様、クライアントからあるソフトの開発を頼まれまして、お客さんの情報を管理するソフトですけれども、これを六百万円で請け負ってソフトをつくりました。
このソフトの中に一つ問題がございまして、大事なお客様の情報が漏えいしてしまいました。クライアントは当然のことながら大変に怒りまして、この大手の、本当に日本を代表するような大手の広告代理店でございますが、必死にこの情報の回収に走りました。
情報の回収といいましても、コンピューターで流れた情報というのは完全に回収することは実態として不可能なんですね。それでも、この大手の広告代理店はここまでやったかというくらいの努力をして情報を回収しまして、それでも回収し切れたという保証はなかったのですけれども、クライアントの方がまあそれで勘弁してやろうと言って許した。それまでの費用は一億八千万円かかっているんですね。六百万円で請け負ったソフトが一億八千万円かかりました。
これは、たった一つの小さなプロジェクトの具体例でございます。日本国民一億二千五百万人の情報が漏れた場合、それをどうやって回収するのか、一体だれが責任を持って弁償するのか、弁償することができるのか、私は、できないというふうに思います。
さて、この弁償ということですけれども、私は先ほど一つ間違えまして、地方自治体が税金で住基ネットを整えているから、地方自治体の首長さんは税金でやってもらえるからというので引き受けた方もいらっしゃると申し上げましたが、これは実は税金ではございませんで、地方交付税からのお金なんですね。地方交付税というのは、もともと地方自治体が自分のために使うことができる大切な財源なんですね。だから、国が、あたかも中央が出しているという形をとりながら、実態は、本当は地方自治体に行っていいはずのお金を使わせている。
しかも、法律上、この住基ネットは国は責任をとらないのでございます。大橋先生が説明なさったと思いますけれども、情報は地方自治体が集めて、それを国がお借りするという立場なんですね。国は、いいところだけをとっているんです。手間も暇もお金も自治体に全部負担させます。そして、国は、その情報のおこぼれを使うと称して使い放題に使うことができる。それは、行政個人情報保護法案によって担保されるわけですから、使い放題になります。
しかも、もし問題が起きたときに責任をとらされるのは地方自治体の首長なんですね。
京都の宇治市で、十九万人の住民全員の基本台帳情報がネットで売られたことがございました。これに対して裁判が起こされまして、一審、二審、最高裁、全部宇治市が負けました。一人一万五千円の損害賠償です。一万円と、五千円の弁護費用ですね、払いなさいと言われました。原告はそのとき三名でございましたから四万五千円で済みましたけれども、十九万人全員が提訴した場合、宇治市という小さな町は二十八億五千万円を市の財政から払わなければならないんですね。
このような法的責任そして危険に首長は直面する。しかし、このようなシステムを半ば強制的に、半ば以上強制的に地方自治体にさせる国は何の責任もとらないんですね。そして、気楽に議論をして、片山総務大臣は地方自治体の要請によってこれをしておりますと。とんでもないことでございます。
さて、技術的にどれほど穴があるか。これは日弁連の調査でございますが、トラブルが試運転で発生したというのは三一%、三分の一に上ります。その中で、簡単にトラブルは解決しなかったといったのが三八%でございます。最後まで、どこまで努力しても解決することができなかったのが三%ございます。インターネットのオンラインというのは、一つでも穴があればこれはとられてしまうんです。ですから、三%もの自治体が最後まで解決しなかったというのは大変な事態でございます。
そして、自治体の皆さん方がやりたくないというのは、お金がかかる割に住民へのサービスというものは全く充実していない。費用対効果について、これは合理的だと思いますかという質問に対して、合理的と答えた地方自治体は三千三百の中でわずか七%でございます。ほかは、合理的ではない、計算に合わないという答えをしているということを申し上げて、このような仕組みを稼働させるということ自身がおかしいと私は思いますし、四情報だけが入るのだということも、片山総務大臣は電子政府をつくるときにこれは役立つとおっしゃっているわけですから、電子政府というのはすべての行政事務に使っていくということを意味していると思いますので、当然、この番号が使われる機会はもう歯どめがきかなくなるところまでふえていく、その分の危険性も大きくなるというふうに認識をしております。
○藤原(宏)参考人 我々弁護士としては、個人情報保護法制が未整備のまま住基ネットが稼働するなんという事態は信じたくありません。それは、今のこの国会の場でも依然として誤解がまかり通っております。
まず第一の誤解。住基ネットは、なるほど、基本四情報そこそこです。しかし、八月五日から稼働したときには、その本人確認情報が行政機関のデータベースとくっつくということをだれも理解していない。行政機関のデータベースが全部電子化されれば、そこには前科の有無とかそういう犯歴情報まで入ってくる、それが住民票コードとくっつくということをだれも理解していない。基本六情報だけであると依然として言っておられる。これは全く残念です。
そして、番号がつく。これは共通番号だというところが致命的なんです。共通番号じゃなければ名寄せは困難です。従来は、個々の役所が紙のデータベースを持っていた。番号もない。だから、実際に名寄せはできないんです。やろうと思ったら何年もかかる。だから、リスクはない。しかし、全部オンライン化されてデータベースがつくられ、しかも共通番号であれば、一朝一夕に生まれて死ぬまで全部個人情報は集められるわけです。したがって、それを前提として制度を考えないというのは全く残念です。
それからもう一つ。法律家の立場からいえば、住民基本台帳法は個人情報保護としては全く十分ではありません。住民基本台帳法が十分だと言っておられるのは全くの誤解です。私の資料の四を見てください。ちゃんと書いてあります。これがいまだに理解されていないということも全く残念です。
現在の地方自治体のセキュリティーのレベルから考えたら、電子政府に対応した我が国としては、二十四時間あらゆる端末を監視するぐらいの根性がなきゃ電子化は進められないのであります。二十四時間全部の端末を監視するということは、どれだけのコストがかかるのかということは政府は計算したことがあるのでしょうか。一万台の端末がある。各市町村について一人の人間が自分の市町村の端末を二十四時間見るだけだって、三交代要るわけですから、一万人以上の職員が要る。そして、その人がログファイルをきちんと見ていかない限りは不正のアクセスはとめられないんですね。ですから、その予算をどうして政府はとろうとしないのか。それは市町村が各自やる事務だということでほったらかしにするということは、政府が欠陥の仕組みを自治体に強制することになりませんか。
僕ら法律家の見地からいけば、住基法には、附則として「所要の措置を講ずるものとする。」とある。したがって、個人情報保護法制がとられてない現状では、今は、政府は違法ではないか。個人情報保護法制をとらない住基法自体、今の政府の状態は違法であろうと思います。そして、その違法状態のまま住基ネットを稼働するということであれば、これは、データ漏えい事故について政府が責任を負うのは当然のことだろう、裁判所も当然認めてくれるだろうというふうに信ずるものであります。
したがって、国は、きちんと電子政府に対応した環境としては、セキュリティー基本法をつくり、専門の技術者を雇い、その専門の技術者をちゃんと地方自治体に振り分けるぐらいの根性を持たなきゃ簡単にこの住基ネットを動かしてはいけない。ところが、残念なことに、施行してからチェックしましょう、これは順番が逆ではないでしょうか。こんな簡単なことはだれでもわかる。
以上です。
○吉井委員 もう時間が参りましたので、二人の藤原参考人に一言ずつだけお聞きしておきたいんですが、先ほど、藤原靜雄参考人からもお話ありました解釈基準の問題ですね。
この基本原則は努力義務規定なんですが、解釈基準として使われたときに、これはメディアにとって自粛、萎縮効果を持つというふうになってくると私は思うんですが、政府の基本原則の法的性格というものについて、お二人の藤原参考人から、もう時間がありませんので、一言ずつお答えいただいて、質問を終わりにしたいと思います。
○大畠委員長 規定の時間が来ていますので、簡潔にお考えをお願いします。
○藤原(靜)参考人 先ほど申し上げましたように、民事不法行為訴訟等の解釈基準のときにはなり得ると思います。要するに、違法性の判断の一つの要素にはなり得る。ただし、議員おっしゃった萎縮効果ということにつきましては、基本原則が萎縮効果でありますと、それぞれの現在あります守秘義務規定すべて萎縮効果を持つという論法が成り立ってしまうと思います。
以上です。
○藤原(宏)参考人 お答えします。
基本原則をメディアに適用除外しないで具体的な罰則規定だけを除外するというのは、法律の矛盾であると思います。
○吉井委員 もう時間が参りましたので、終わります。どうもありがとうございました。
○大畠委員長 これにて吉井君の質疑は終了いたしました。
次に、北川れん子さん。
○北川委員 社民党・市民連合の北川れん子といいます。
きょうは、四人の参考人、貴重な御発言、そして資料をいただきまして、本当にありがとうございます。
杉並の区長の方が区民アンケートをとりまして、その結果も出てきてまいっております。その集計結果では、凍結、延期が七一・二%ということであり、またヤフーを使っていらっしゃる皆さんのアンケート結果も、凍結は九一%。やはり、時間がかかるほどに、この住民基本台帳ネットワークのありようの欺瞞性と、それが管理、監視につながるという市民感覚というものが如実に沸騰してきていると思うんです。
藤原宏高参考人にお伺いをいたしますが、きょうは、本当に貴重な、後も使い回すことが十分可能な資料をおつくりいただきまして、本当にありがとうございます。
この中に、先ほど、それぞれの事務規定の内容が、何もわざわざネットワークを使わなくてもいいんじゃないかというので、一つ、やはりパスポートの問題があります。具体的な行政事務ごとの中の旅券法三条一項のパスポートの中に、戸籍の問題等絡めて、本籍地入りの住民票を改めてとらなければいけないから必要ないんじゃないかというふうにお書きいただいているんですが、この住基ネットの問題と戸籍の問題また本籍の問題等々を絡め合わせて、今お考えになる点がございましたらお伺いしたいので、よろしくお願いします。
○藤原(宏)参考人 資料五のところで今の部分は検討させていただいておって、決して十分な検討ではありませんが、旅券法については、現状では全く意味がない。ただし、多分、政府の方では、旅券法は改正される考えではないかというふうには思っております。つまり、現在、旅券法で「本籍の入った住民票」という規定はいずれ改正して、多分、基本六情報だけでいいという改正は行うのではないかなというふうには考えています。この点だけは。
○北川委員 きょう野党の参考人でお越しいただいた櫻井よしこ、藤原宏高参考人の御質疑が、それぞれやはり鮮明な誤解、曲解というものを訂正してくださったという意味で、すごく大きな一場面を今後つくっていくことになったと思います。この日本の国にとって、人々にとって、住民基本台帳が動くということが不幸の始まり、そして、これの不幸を少しばかりとどめる個人情報保護法が成立もしないのに施行しようとしている国の動きというものがあったわけですが、それにも増して、個人情報保護法自身が持っている欺瞞性といいますか、それが役人の、行政、官僚の人たちの仕事の権益の幅が広がり、権限の幅が広がり、市民への重圧となるという点なども御提言いただいたわけです。
藤原宏高参考人にお伺いしたいんですが、弁護士としての立場から、この住基ネットを動かすときの九九年の議論の中にもあったんですが、これは憲法違反ではないかと。憲法十三条等々に関しましてなんですけれども、この憲法違反論議に関してはどのようにお考えになっているか、お伺いしたいと思います。
○藤原(宏)参考人 残念ながら、私自身は平成十一年の改正当時の議論には直接はかかわっておりませんで、憲法違反かどうかという点については、ちょっとこの場ではお答えは勘弁させてください。
○北川委員 憲法違反論議というものに関してはなかなか御慎重な御発言だったと思うんですけれども、やはり幸福を追求する権利というものに関してかなりの規制をかけてくるということが、きょうのそれぞれの御発言の中にあったというふうに拝察するんです。
櫻井よしこ参考人におかれましては、少し違った観点で。
与党の皆さんの中に亀裂が出ているというのが産経新聞の中でも報道されています。三十一日の会期末を前に、住民基本台帳ネットワークの八月五日の稼働問題が終盤国会の波乱要因として浮上している、自民党の中に同調する動きが強まっていると。それのリーダーとして櫻井よしこ参考人はいらっしゃったという面があると思うんですが、この間の与党の、また特に自民党の中での櫻井よしこさんと考えを一にする人たちの動きを御紹介いただき、今どういうふうに考えていらっしゃるかということを御披露いただきたいんですけれども。
○櫻井参考人 北川さんにお答えをさせていただきます。
まず、私が与党の議員の皆さん方と軌を一にしているという事実はございません。
私は、与党の皆さん方、野党の皆さん方、ほぼ全員にこの住民基本台帳ネットワークは大いに問題があるということを訴えました。そして、私なりの資料もお送りいたしました。これは、与党野党問わず、日本の国民の代表である政治家の皆さん方全員という意味でお送り申し上げました。
そして、野党の皆さん方ともいろいろお話をいたしましたし、与党の方とも個別にいろいろお話をいたしましたけれども、私の立場は、あくまでも私はジャーナリストでございます。そしてもう一つの立場は、国民共通番号制に反対する会というものをつくりまして、その代表を務めておりますけれども、私はどこの政党と軌を一にしてという行動をとったつもりはございません。ただしそれは、勉強会とか意見交換会がございます場合には、野党の皆さん方の会合にも出席をしてまいりましたし、与党の皆さん方の会合にも出席をしてまいりました。一人でも多くの皆さん方に私の感じている問題点を理解していただきたいと思って説得を続けてまいりました。
それで感じたことは、与党の方も野党の方も最初はこの住基ネットの問題点について余り意識しておられなかったんですね。問題を共有して、時間を費やしてお話をともに進めていく間に、与党の方も野党の方も、なるほどそれは問題なのだという認識を高めてくださったのが現実でございます。
今現在、確かに自民党の中では住基ネットを考える議員連盟というものができて活動しております。私も呼ばれて参りましたけれども、これは私はあくまでも外部の人間として呼ばれて参りましたもので、その中に入っている立場ではございませんので、その会議に出て、どういう議論が行われてどういう質問が出たかというふうなことについては存じ上げておりますけれども、それ以上のことは存じ上げてはおりません。
○北川委員 私は、櫻井よしこさんが、街頭でチラシを配って、住基ネットって御存じですか、こういうふうな仕組みというのが八月五日から施行される、現実には七月二十二日から試運転に入った、そういう動きをしていらっしゃるということもあわせまして、何も与党自民党と軌を一にしてという意味で言ったのではなくて、そういう外の世界に向けて言っていらっしゃる動きを受けとめて、そしてその議論をしようということを野党与党に、私はちょっと野党の立場だったものですから自分のことを言わずに申しわけなかったんですが、その中に同調者が出てきた、そういう動きを大きく広げていってくださる原動力になったという意味でお伺いしたかったわけです。
そして、この住基ネットの持っている問題も、そして個人情報保護法の持っている問題も、私が先ほど憲法に抵触するのではないかと言ったのは、これが子供の年齢、意見表明ができない人たちもからめ捕られていく問題としてあるということですね。
例えば、マスコミの立場、ジャーナリストの立場で個人情報保護法の問題を論議する点が多いわけですが、個人情報取扱事業者と規定されるのは年齢に関係がありません。今の若い世代は、十八歳未満であってもいろいろな形でのインターネットの利用というものは取得しています。そういう意味でいうと、十八歳未満であっても、あなたがあしたから個人情報取扱事業者だとみなされれば、主務大臣がついて管理する可能性というのは、幅が持たされたわけですね。
そういう意味においても、私自身は、やはりこれは慎重であるべきだし、本来の意味の個人情報保護法にはなっていないものであるという意味で考えているわけですが、その辺におかれまして、住民基本台帳ネットワークもそうなんですが、赤ちゃんから付番をする、それも全国共通の番号である、そういう意味を考えられて、この間、動いて外の世界の声も聞かれている櫻井よしこ参考人におかれましては、そういう点を重視してと言ったら申しわけないんですが、その方面から、外の世界の人たちと街頭で出会った面も含めて、何か考えるところがあれば、感じられたことがあれば御披露していただきたいんですけれども。
○櫻井参考人 私は、街頭でも多くの方と会話をいたしまして、そのときに多くの質問を受けました。
いろいろな方が、あなたはコンピューターに反対ですかと聞きました。私はコンピューターに大賛成でございます。いろいろな方が、あなたは番号制に反対ですかと聞きました。私は番号制は必要だと思っております。ただし、今論じられているような、赤ちゃんからお年寄りまで十一けたの番号でそれを共通番号とするということに大きな問題があるというふうに答えてまいりました。
私は、例えば、運転免許の番号とか保険証の番号とか、それからいろいろなセットの銀行口座の番号とか、いろいろな番号がございますが、そういう番号はこのコンピューター社会においては当然必要なんですね。それがなければやはり効率よい運営ということをすることができませんので、番号は必要だけれども、番号はできるだけ限定した目的のために使うべきだという立場でございます。
欧米社会でも、一つの番号で個人のほぼ全体の情報を管理しようなどという一極集中管理の仕組みというのはないんですね。ですから、私は、欧米でも分散管理の方向に行っていますよと。番号も使う、コンピューターも使う、それによって効率のよい社会、それから生産性の高い社会をつくるのは当たり前の話なんです、日本の二十一世紀を考えますと。しかし、やり方が違うんじゃないんですか、このやり方では必ず失敗しますよということを申し上げてきまして、議論を重ねれば、大半の人、ほぼ全員が理解をしてくれました。
国会議員の皆さん方、与党の方も野党の方も、かなり精力的に動いていらっしゃいますけれども、私は、そのような政治家の姿を見ているときに、なるほど、一つの事案をよくよく勉強なさって、何が自分の選挙区の住民のためになるのか、何が国民のためになるのかということを本当に国民の代表として判断したときにこういう行動になるんだというふうに実感をしております。
そのことに気がつかずに、いや、地方自治体が反対していることにも目をつぶり、各種世論調査で圧倒的な大多数が凍結を希望していることにも目をつぶり、そして首長さんたちの不平不満にも耳をかさずに住基ネットを稼働させるというのは、私は、みずから政治家であることをやめて官僚のしもべになる道を選んだ人々だというふうに認識をしております。
○北川委員 すごく力強い御発言をいただいたと思うんですが、福島の矢祭町が、全国初めて住基ネットの離脱というのを表明しました。七千三百人の町ということで、私は存じ上げない町だったんですが、こういう動きがある。また、市の職員なり首長さんなりを勇気づけていくという意味で、櫻井よしこ参考人がされてきたこの間の動きというのは、いろいろな人たちに勇気を与えていったと思うんです。
藤原宏高参考人にお伺いしたいんですが、この住基ネットの離脱に関して福田官房長官は、参加は法律上の義務、説得し、最終的には参加をしていただく、義務違反だというような、義務違反というのは法律違反という意味ではないのかもわかりませんが、地方自治体分権化の時代に入りまして、こういう矢祭町の意見表明と行動というものに関して、政府は、こういうものは義務違反だという言い方をしているんですが、これに対してのお考え等をお伺いできれば幸いです。
○藤原(宏)参考人 住民基本台帳法上、接続をしないというのは、住民基本台帳法の条文からすれば違法のように考えられるというのはそのとおりだと思います。
しかし、附則にある所要の措置を実施しないという政府も違法なわけですから、お互い違法な同士がどっちが違法だというのはいかがなものかと思います。
○北川委員 同じ違法者同士ということで、カウントダウンに入ってきて、あと残すところ五日ばかりになったわけですね、審議は。野党の方は十二日に凍結案というものを出しているんですが、それが総務委員会の段階ではとまったままになって、いわゆる業界用語でつるしがおろされないというところにあります。これが終盤国会の波乱の要素ということでの紹介記事になっていったと思うんです。
藤原靜雄参考人の方に今度はお伺いしたいわけですが、藤原靜雄参考人のレジュメの中に、基本原則の法的効果というところをお書きになっていまして、それほどこの義務規定の段階で司法判断を仰がれるというようなこと、迎えることはないんじゃないかという意味で言われたというふうに理解しているんですけれども、「法学教室」というものの中にも藤原靜雄参考人は、「例えば、民法上の不法行為による損害賠償請求の場面では、基本原則は、違法性の判断要素となり得るであろうし、また、差止請求等の場合にも、請求権の底にある人格権の一つの現われとして参酌されることはあり得よう。」と、民法上、裁判になった場合に、このことが使われるのかな、使われないのかなという面が、このレジュメよりは少し突っ込んで述べていらっしゃると思うんですよ。
でも、三宅弘弁護士なども新聞紙上で言われているんですけれども、人権擁護法があります。これについては、彼はこういうふうに言っているんですね。「「つきまとい」とされる取材行為を「救済」を名目に人権委員会がメディアを規制することになる。その際、個人情報保護法も適用され、同法の定める「適正な取得」に違反するかどうかが判断されるだろう。」というふうにも言われていますし、九九年八月の、自民党の報道と人権のあり方に関する検討会の内容の中にも、やはり司法判断、民法上の判断の中に組み込まれていくんではないか、組み込んでいこうよという積極的な意見もあったと聞いているんです。
藤原靜雄参考人にお伺いしたいのは、やはり、こういう人権擁護法の出てきている動き、そして自民党の検討会の中での発言等々も絡めて、今、いかがでしょうか。司法判断がやはり密接に絡んでくるのではないかと思うんですが、その辺の御見解をもう少し詳しくお伺いしたいと思います。
○藤原(靜)参考人 お答えいたします。
まず、人権擁護法案というお話でございますけれども、私が北川議員の質問を正確に理解していればという前提でございますけれども、そもそも個人情報保護法というのは、我が国におきましては一九八〇年のOECDの勧告以来の懸念でありまして、それが昭和六十三年に公的部門だけできた。民間部門がずうっと先進諸国の中でも珍しく、ないままに今日に至ったということで、個人情報保護法の必要性というものはずうっと意識されておりました。
そもそも個人情報保護法案が出されたのも、ほかの法案より私が理解している限りではずっと早いし、私の希望であれば、もっと早く通していただきたかったし、審議していただきたかった。そうであれば、ほかのものとセットであるとかほかのものと絡めて論じられる必要もなかったのになと思っております。
それから、司法判断のところでございますけれども、これは先ほどの御質問にもあったんですけれども、確かに、解釈の原理と申しますのは、解釈の基準と申しますのは、その物差しの一つとして使われる可能性はある。違法性を裁判官が判断するときに、その物差しの一つとして使うであろう。
しかし、それは、私が最初の意見陳述の中で申し上げましたように、メディア等がその目的のために、やむにやまれぬその公益のために行動したのであれば、そのことを含めて適正であったとか適法であったとかというのを裁判官はきちんと判断するし、今までもしてきたのではないかという、そういう前提で解釈基準の一つになり得ると申し上げているわけです。
○北川委員 やはりそこにおいてはあいまい性が残り、メディアが対象になるというところにおいて、社民党は対案という中で、やはりこの基本原則というものは憲法上で賄えるのではないかという立場を示したわけですけれども、その辺のことがありまして再確認をさせていただきたいという意味でお伺いをいたしました。
あと少しお伺いしたい点があったんですけれども、時間が来たというところになりましたので、きょうは本当にどうもありがとうございました。
○大畠委員長 これにて北川さんの質疑は終了いたしました。
これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
参考人の皆さんに一言御礼を申し上げます。
本当に長時間にわたり貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。これからの委員会の質疑の参考に十分させていただきたいと思います。委員会を代表して御礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)
次回は、来る二十六日金曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午後零時九分散会