司法制度改革審議会 第47回議事概要
- 1. 日 時:平成13年2月13日(火) 13:30〜17:15
- 2. 場 所:司法制度改革審議会審議室
3. 出席者
- (委員・50音順、敬称略)
佐藤幸治(会長)、竹下守夫(会長代理)、木
剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本
勝、吉岡初子
(説明者)
菅原郁夫千葉大学法経学部教授
大渕憲一東北大学文学研究科教授
勅使川原和彦早稲田大学法学部助教授
- 4. 議 題
- ・「民事裁判利用者アンケート調査」について
- ・「裁判官制度の改革」について
- ・審議日程について
5. 会議経過
(1)
民事裁判利用者アンケートの調査結果について菅原教授らから報告がなされた(別紙1)、これに関連して質疑応答がなされ、その概要は以下のとおり。
○ 諸外国の同様の調査と比較して我が国に何か特徴的な傾向があるか。
(回答)同種の調査はアメリカで多く行われている。制度に対する満足度に関し、審理過程の評価が重要であること、審理期間の長さがそれ程には影響を与えていないことは共通しているが、相違点については直ちには答えられない。
○ アクセスの点では、費用や時間が重要な要素になっているのに、利用者の裁判制度に対する評価ではこれらの要素があまり重視されていないのはどういうことか。
(回答)実際に訴訟を利用した者は、アクセス面での障害を乗り越えてきているので、費用や時間以外のものを裁判に求めていると推測することも可能ではないか。
○ 今回の調査でも、裁判官の中立性、信頼性等に対する個別評価を見ると、50%以上が肯定的評価をするなど、かなり高い評価を得ているのに、裁判官に対する満足度という点では、満足している者が約46%であるのに対し、不満を感じている者が約37%とかなり多くなっているのはどのような理由によると考えられるか。
(回答)今回の調査ではそこまでの分析はできない。更に詳細な調査が必要。
(2)
裁判官制度の改革について、事務局から、米英独仏における裁判官の任命制度の概要(任命基準、任命手続、諮問的機関の有無等)、人事評価制度の概要(評価権者、評価基準、評価方法等)について説明がなされた。
次に、会長から、議論の出発点として、中間報告の趣旨等について概ね以下のとおり、確認がなされた。
○ いかにして、高い質の裁判官を確保し、これに独立性をもって司法権を行使させるかが重要。諸外国の制度も同様の観点から種々工夫している。「給源の多様化・多元化」の趣旨は、判事となる者全てに多様な知識・経験等を身につけさせるための制度的担保を整備すること、「任命手続の見直し」の趣旨は、裁判官の任命に対する国民の信頼感を高め、ひいては司法を国民の広い支持と理解の上に立脚したものとすること、「人事制度の見直し」の趣旨は、裁判官の職権行使の独立を充実させることにある。具体的方策としてどのようなものが考えられるかについては、これまでの審議の中で提示された主なものを審議用レジュメ(別紙2)の具体的方策のアイデアの例に記載。
引き続き、審議用レジュメに従い、意見交換が行われ、その概要は以下のとおり。なお、冒頭、木委員から意見書(別紙3)に従い、裁判官制度全般について意見が述べられた。
- これまで、裁判官、検察官等の大幅増員について合意しているが、抽象的レベルにとどまっている。今後、毎年、3000人の新規法曹が養成されていく中で、どの程度の裁判官数を想定するのか。特例制度を含め、判事補制度は、これまでの少ない法曹人口の中で歪んだ生成発展を遂げたものであり、裁判官制度の改革については、大幅増員の具体的イメージを念頭において、検討していく必要がある。
- 「給源の多様化・多元化」、「任命手続の見直し」、「人事制度の見直し」の三つの課題の根幹には、裁判官の量的拡大の問題があり、この点を議論すべき。また、今後、ロースクールで多数の法律専門家が養成されていくことになるが、法曹有資格者のみならず、多様な法曹周辺職種の養成やロークラークなどへの裁判所職員の職域拡大も考えていくべきではないか。
- 当面、裁判官の大幅増員を念頭に置きつつ議論し、具体的にどの程度の増員が必要かは、今後、法曹人口について審議する際に検討すればよいのではないか。
- アメリカの裁判官の任命基準として掲げられている「誠実さ」、「勤勉さ」等の意義について、アメリカ国民は共通の認識を有しており、ルールの中にそれを取り入れた上、しかるべき者がこれに従って判断し、その結果を国民が受け入れる。我が国の場合、そもそも概念が抽象的に過ぎるということで、ルールに取り入れることは困難ではないか。
- どの国の任用制度を見ても、一定の基準があり、候補者の資質等を調査し、情報を公開するなどの手続があり、それによって国民の納得を得られている。我が国のように、事務総局が主導して、誰がどのように評価されて任用されるのか不透明な制度は問題。司法の中核を担う裁判官を任命・評価するプロセスを明確化すべき。
- 判事に比べ転勤の負担の比較的少ない若い特例判事補が離島支部等僻地の裁判官を務めており、現在の裁判官制度は判事補によって支えられている面もある。判事補制度が問題だとすると、判事補を経験した大半の判事に問題があるということになる。しかし、各種調査の結果から明らかなとおり、公平性、信頼性等の点で、裁判官は国民の高い評価を得ている。判事補制度が根本的に改める必要のある制度とは思わない。
- 任命手続に国民の意見を反映させる必要があるのはコンセンサスを得ていると思われるが、問題は方法論である。価値観が多様化していく中で、裁判官の評価自体ますます難しくなっていくのではないか。当事者が評価することになると、裁判の勝敗が評価に影響することもあり得、ひいては、裁判官の独立に影響を及ぼすことになりかねない。判断要素について、具体的に考えれば考えるほど、難しい問題を生じる。
- 判事補は、裁判所法上原則として一人で裁判することができないとされていることは、任命資格として実務経験を要求されていないことからすると理解できる。しかし、そのような判事補が、合議体でなら裁判に加わることができるとすることは、他の判事の職権によって、その職権が補われているということではないか。我々は21世紀のあるべき裁判官を考えていこうというのであるから、このように独立して職権を行使することができない判事補が憲法上の裁判官としてふさわしいのかという問題を検討すべき。
- 判事補が、単独で裁判をできないとしても、裁判長等の助けを借り、合議体の陪席の役割は十分果たすことは可能。そもそも、判事補が10年間原則として裁判することができないこと自体いいことなのかという問題もある。諸外国では、判事補のような、裁判官の職権の制限はない。ただし、任用後いきなり裁判長になるようなことはなく、しかるべき立場につくには事実上一定の経験を要するなど、運用面で調整している。また、弁護士と裁判官の仕事内容は異なり、弁護士からすぐに良い裁判官になれるわけではなく、一定のトレーニングが必要。
- 裁く立場の経験が長いだけで良い裁判官になれるわけではない。裁かれる立場を経験することが重要である。そのような経験を持つ者の中から、徹底した調査を行った上で、裁判官としての適任者をセレクトすることができる制度を整えることが必要。
- 裁く立場も裁かれる立場も重要ではないか。判事になる者がすべて多様な知識経験を有していることを担保する制度を考える必要がある。
- 判事の資格要件として、10年の実務経験を要するとしているのは、法律家として成熟していることを要求する趣旨であろう。裁判所法42条1項各号に列挙されている各職務の中で、判事補の経験だけを他に比べ劣るものとし、判事補を10年経験しても法律家として成熟していないとすることはおかしい。多様な経験が必要なのは、判事補から判事になる場合に限らず、弁護士、検察官から判事になる場合にもあてはまる。
- 裁かれる立場にある者は、国民と同じ目線に立っており、このような者の中から、判事を選んでこそ国民の納得も得られ、司法の国民的基盤を確立することになる。
- 判事には、社会経験、洞察力等の人間的資質のほか、裁判を主宰するための法的技術も求められる。多様な給源の中からこれらの能力を備えた適任者を選ぶという制度が望ましい。今の判事補制度に問題はあるが、社会経験等を補うことができれば、給源の一つとして残してもよい。判事の任命段階で、判事補だけしか経験していない者は任命しないなどということも考えられるのではないか。
- 判事補は実務経験が全くないにもかかわらず、憲法上の裁判官の立場が保障されている。他の職種の場合、10年の実務経験を経てようやく憲法上の裁判官としての判事になることができるのであり、判事補は他の職種に比べ特別扱いされている。この点の問題性を明確にすべき。判事補制度が問題ないという考えを徹底するのであれば、論理的には、修習を終えた者をいきなり権限の制約のない判事にしてもよいということになるのではないか。
- 国民から見て信頼でき、公正中立な判断ができる裁判官は、社会経験の豊富な者でなければならない。新聞報道によると、最高裁は、判事補に1年間の弁護士事務所研修をさせるという改革案を考えているようであるが、判事補の資格のままお客さんとして弁護士事務所に行っても本当の意味での経験はできない。裁判官としての身分を離れた上で弁護士経験をしてこそ意味がある。アメリカの裁判官が弁護士としての経験やロークラークとしての経験など多様な経験を有しているように、判事は、複数の職種を経験していることが必要ではないか。
- ユーザーの立場からは、裁判官には、公正、中立、予測可能な判断が要求されるのに対し、弁護士には弁護士なりのスキルが要求される。プロフェッショナルとしての両者の役割は異なり、弁護士経験があれば良い裁判官になれる訳ではない。新人弁護士がいきなり単独で大きな事件を扱わないのと同様、判事補の期間は、オンザジョッブトレーニングの意味合いがある。裁判官に多様な経験が備われば望ましいが、裁判官としての経験の方が有意義なこともあり、どのような経験をどの程度積めばよいかは一面的にとらえるべきではない。現在の裁判官制度は基本的に間違っておらず、その範囲内で改革すべき。
- 素晴らしい裁判官には、公正中立等の個人的資質が備わっていること、法律専門知識が備わっていること、人の問題を広く取り扱った経験を有することが要求される。問題は、給源として、裁判官である判事補をどのように考えるかである。修習生からは、裁判官である判事補として採用するのではなく、ロークラークとして採用し、徹底して裁判官の職務の訓練を受けさせ、他の職種も経験させて、判事に採用するというのが望ましいのではないか。他方、弁護士も、一定の見習い期間を設け、ある段階で、ローファームの経営者になるとか、裁判官に任官するとかいうのが望ましいのではないか。裁判官にしろ弁護士にしろ、限られた経験しか有しない者が何でもできるというのはおかしい。
- これまでの意見交換を踏まえ、次のような点については、大方の認識が一致したのではないか。
- ア 裁判所法は、判事の給源の多元性を予定しているにもかかわらず、運用の実際において、判事補のほとんどがそのまま判事になって判事補が判事の主要な給源となっていることは、その原因は様々考えられるにしても、問題がある。判事補制度がおかしいと単純に言うことはできないが、21世紀においてより高い質の裁判官を確保するため、判事について知識・経験の多様性を担保する制度を具体的に考えていく必要がある。この点は、判事補だけではなく、弁護士など他の給源から任命する場合にもあてはまるのではないか。このような裁判官制度改革については、今までの状況を前提とするのではなく、判事の大幅増員を前提として検討する必要がある。
イ 判事としての適任者を選任するためには、従来とは違った任命・指名過程の工夫、具体的仕組みを検討することが必要(なお、人事制度に関する昨年7月31日付け最高裁の回答書に記載されていた人事評価項目は、任命基準、人事評価基準として参考にできるのではないか。)。
(3) 3月以降の審議日程について、別紙4のとおり合意された。なお、次回は、裁判官制度改革について、法曹三者からのヒアリング及び意見交換を行うこととされた。
以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)