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9 自由と分権に基づく新しい組織原理の構想
いまやわれわれは好むと否とにかかわらず連合政権時代に入ったのであるが、そのことは、政党の組織なり運営なりについても、検討が加えられねばならぬように思われる。
自民党は大福帳的組織であり、綱領にしても、その名に値いするものではない。この数年、近代政党としての新綱領つくりと取組んではきたが、一向に陽の目をみない。綱領をもつことのできないまでに陳腐化し骨董化してきているのである。また組織面での改革についても、一向にまとまりがつかない、近代政党として論外のものである。
一方、革新政党の組織は、民主集中制の原則が常識のようにされている。しかし、この場合重点は民主にあるのか、集中にあるのか、明確ではない。共産党の場合は、明らかに集中に重点がおかれ、宮本委員長のもとでの独裁的運営である。運動の現場で、共産党の代表とどんなに話しあってみても、重大な内容であれば、必ず代々木の裁可が必要とされる。社会党も、協会派の進出とともに、共産党ほどではないが集中への重点が漸次強まってきた。私は端的にいって、こういう方式は連合時代にふさわしくないと思う。
今回の総選挙で新自由クラブが進出した秘密は、クラブという呼称にあったのではないかと言った人がある。もちろん厳密に科学的に分析してのことではないが、私は一笑にふせないものがあるように思う。つまり、その言葉のなかに、党員の義務としてでなく、非党員のボランティア活動をまきおこさせる何かがあるのではないか、ということである。「考える会」は将来社会のあるべき柱として、自由と民主主義、分権と自治、制御と誘導、参加と公開、保障と連帯をあげているが、私はこれからの政党組織についても、分権と自治、参加と公開の二つが重視されねばならないと思う。中央集権政治に対し地方分権を主張するわれわれは、政党組織についても、当然分権と参加の 視点に立つべきである。つまり中央の党本部が強い権限をもつのではなく、地方組織が自主性をもち、党員個々人の市民としての主体性が尊重され、党員の活動についても、義務としての服従よりも、ボランティアとしての参加が大切にされるのであり、このことが価値観の多様化した時代のあり方だと思う。議員の活動にしても、万事党決定で拘束するのではなく、ある程度自由な行動が許さるべきだと思う。統制委員会ではなく調整委員会があればよいのだ。つまり、旧来の党という理念から、連合という理念にかわるべきではないのか。われわれが現代の社会主義が市民社会主義だ というのは、こうしたことをふまえてのことである。
この場合、政党と労働組合との関係はどうあるべきか。私は十年以上もまえ、労働組合は政治的自由の原則にたつべきだと主張して、党内で反撃をうけた。労倒組合は政治理念での結合体ではなく、思想信条や政党支持のいかんをこえた、経済的利益の実現と権利の擁護拡張のための結合体であり、特定の政党を支持することには、価値観の多様化とともに無理がおきる。政党も労倒組合の機関決定による支持によりかかっていては、そのことから党活動が制約され、広く国民の支持をうける障害となる。ただしこのことは、共産党の主張する「政党支持自由」とは異質の見地にたっている。共産党にとっては党が最高の権威であり、労働組合も市民団体も、当然、党の系列下に立つべきだという原則に立っており、彼らの主張する「政党支持自由」は、社会党一党の支持に反対するための戦術的なものであり、共産党一党支持であるなら、敢えてそのことに反対しないのである。大衆団体を共産党の意のままに支配するために介入をつづけたのが今日までの現実であった。
かつて総評と社会党との間に存在した運命共同体的固いきずなの果した歴史的な役割を否定する者はいないだろう。しかしそれが遺産として継承されるのではなく、今日ではかえって桎梏と化してしまっている。私が西ドイツ労働総同盟を訪問した際に、同同盟が組合員のなかの多様な政治思想の共存を体現するために、社民党政権に反対する野党であるキリスト教社会同盟員に三名の執行部のポストを設けている話を聞いて感銘を受けたことがある。フランス、イタリアをみても、政党と労働組合との関係については、両者の独立と自発的協力という原則のために細心の注意が払われてきているのである。
日本でも、最近は野党が多党化しており、たとえば一兆円減税闘争一つをとってみても野党四党はもちろん新自由クラブとも支持協力関係を結ぶようになってきているのが実情である。選挙活動においても労働組合の機関決定による支援を失うことは、目先不利の感をまぬがれないが、さきに見たように、各種の労働組合員の意識調査によると、政党支持も多様化しており、組合の組織内候補の場合は別として、はたしてどの程度に決定が生かされているのか、疑問なのである。また特定の労働組合の支持をうけるために、その組合の政治的要求を無条件に請負ってゆくことが、政党の活動にとってどんなマイナス作用をおこしているかも、冷静に考えなければならない。
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