2001/03/09

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福岡地方検察庁前次席検事による捜査情報漏洩問題について

法務大臣発言要旨



 福岡地方検察庁前次席検事山下永壽による捜査情報漏洩問題につきましては,法曹関係者の間での特別な関係による不公平な取扱いがあるとの疑いを国民に抱かせるに至り,その信頼を回復するためには真相を徹底して解明することが不可欠であるとの認識に立って,最高検察庁において厳正な捜査及び調査が行われてきたところでありますが,同庁からの調査結果の報告を受け,これを基に関係者に対する処分等を決しましたので,ここに御報告申し上げます。
 最高検察庁の報告によると,平成12年12月28日,山下前次席検事は,脅迫事件の被疑者の夫である福岡高等裁判所判事に対し,被疑者がストーカー行為で告訴されていること及び同事件の被害者の連絡先や犯行に使用された携帯電話の番号など捜査情報の一部を告知したことが判明しております。
 山下前次席検事による情報告知の目的は,被疑者の夫に捜査に対する協力を求め,早期にかつ可能な限り関係者の名誉等が害されない妥当な事件処理を目指したものであるという報告を受けておりますが,被害者の方の実情を含む事件の全体像を把握していない段階で,罪証隠滅防止のための適切な措置を欠いた極めて独善的かつ軽率な行為であり,山下前次席検事の行為は,被害者の方に多大の御迷惑をお掛けするとともに,検察と裁判所が癒着しているのではないかとの国民の疑惑や不信を招き,司法に対する信頼を著しく失墜させたものであると言わざるを得ず,また,組織の長である渡部検事正が,事前事後にわたり報告を受けていたにもかかわらず,適切な措置が採られなかったことなど,山下前次席検事個人の問題にとどまらず,検察全体の問題でもあると認識しており,検察に関することを所管する法務大臣としても極めて遺憾であり,深くお詫び申し上げます。
 今回の事件を契機として,国民から検察官に対し,市民感覚からずれて独善に陥っているのではないか,被害者の心情に対する理解が十分でない,警察等の捜査関係機関に対する理解が十分でない等の厳しい批判がなされております。
 国民の検察に対する信頼を回復するためには,これらの批判を真しかつ謙虚に受け止め,検察官の意識改革を図る必要があると考えるに至りました。そこで,本日,関係部局に対し,
    ・ 検事を一定期間市民感覚を学ぶことができる場所で執務させることを含む人事・教育制度の抜本的見直しを検討すること
    ・ 幹部を含む検察官が犯罪被害者の心情や捜査現場の第一線で汗を流している警察官の活動等に対する理解を深めるための具体的方策を検討すること
    ・ 部内研修等の充実強化を通じて検察官が独善に陥ることを防止するとともに検察官としての基本的在り方についての教育を徹底すること
を命じたところであります。
 また,今回の事件に関連して,検事と裁判官の関係の在り方が問われておりますが,法務省においても,当省への出向者が裁判官に偏っている現状を改め,裁判官以外からも広く人材を受け入れるための方策を検討してまいりたいと考えております。
 さらに,公訴権の行使や検察運営に関し民意を反映させることは,検察が独善に陥ることを防ぐとともに,検察に対する国民の信頼と理解を得る上で大きな意義があり,具体的には,検察審査会の一定の議決に法的拘束力を与えることに加えて,
      検察審査会が検察事務の改善に関し検事正に対して行う建議・勧告の制度を充実・実質化すること
などの制度改革が重要であると考えております。なお,この問題は,現在,司法制度改革審議会において「国民の司法参加」という論点で議論されているところでありますので,法務省としても,こうした意見を来る3月13日開催の第51回審議会において積極的に提言するとともに,最終報告において改革の具体的な方向性が示されたときには,その実現に向けて所要の措置をとってまいりたいと考えております。
 職員の処分とこれに関連する人事異動等について申し上げます。
 山下前次席検事は,極めて独善的かつ軽率な行為により国民の疑惑や不信を招いたばかりでなく,その後も自己の誤った行為を反省することなく,記者会見において自己の行為をことさら正当化するような発言を行って国民の疑惑や不信を増幅させました。同人の行為は,他人の非違をただすことを職務とする検察官としてあるまじきものであるものと認め,これらの点を考慮の上,懲戒処分として6月間の停職処分といたしました。
 次に,山下前次席検事の直属の上司である福岡地方検察庁検事正渡部尚については,情報告知を行う前後にわたって,山下前次席検事から報告を受けていたにもかかわらず,いずれの機会にも適切な指示を行わなかったことが明らかになりましたことから,検事正としての職務上の義務を怠ったものと認め,渡部検事正については懲戒処分として1月間俸給月額の100分の10の減給処分といたしました。
 福岡高等検察庁検事長豊島秀直及び同庁次席検事佐竹靖幸については,渡部検事正及び山下前次席検事に対する指揮・監督が万全ではなかったと認め,監督上の措置として,検事総長から厳重注意処分といたしました。
 なお,渡部検事正と山下前次席検事から辞職願いが提出されたので,これを承認することにしました。
 また,福岡高等検察庁豊島秀直検事長からは,管内検察庁に対して今回の事実関係を説明した上,必要な指導をすること,関係機関との間で今後の協力体制の在り方について協議することなど,所要の事後処理を行った上で,早期に職を辞したいとの申し出があったので,その意向を尊重することにしたいと考えています。
 佐竹高検次席検事についても,福岡高等検察庁・福岡地方検察庁の幹部の体制を一新するため,最高検察庁に異動させる予定であります。
 なお,福岡地方検察庁検事正の後任には,現仙台地方検察庁検事正鈴木芳夫を3月12日付けで発令する予定であります。

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