平成13年(分)第1号
決 定
福岡高等裁判所長官
被申立人
青 山 正 明
上記被申立人に対し福岡高等裁判所から裁判官分限法6条の規定による申立てがあったので,当裁判所は,被申立人に陳述の機会を与えた上,次のとおり決定する。
主 文
被申立人を戒告する。
理 由
1 被申立人は,平成12年8月30日から福岡高等裁判所長官の職にある者である。
平成12年12月13日,福岡簡易裁判所に対し,古川龍一福岡高等裁判所判事の妻である古川園子を被疑者とする差押許可状の請求があった。担当書記官は,被疑者が古川判事の妻であることに気付き,上司である渡辺仁士福岡地方裁判所刑事首席書記官にその旨の報告をした。同首席書記官は,担当書記官に指示して,令状請求関係書類のすべてをコピーさせた上,松元和博福岡地方裁判所事務局長に上記令状請求があり令状が発付された旨の報告をしたところ,同事務局長から依頼を受け更に2部のコピーをとって同事務局長に交付した。同事務局長は,コピー1部を小長光馨一福岡地方裁判所長に渡して報告した(コピーは,即日,同事務局長に返還された。)上,同所長の了解を得て,土肥章大福岡高等裁判所事務局長にコピーを1部交付し,報告した。同事務局長は,コピーを受領し,保管した。被申立人は,同事務局長から上記令状が発付され関係書類のコピーがとられた事実の報告を受けた。
その後も平成12年12月22日,同13年1月9日,同月29日及び同月31日に園子を被疑者とする令状請求があり,渡辺首席書記官は,自ら令状請求関係書類の相当部分を3部コピーし,松元事務局長がコピー2部を受け取った上,1部を土肥事務局長に交付し,報告した。被申立人は,同事務局長から令状請求があった事実の報告を受けた。
以上の事実は,(1) 被申立人の履歴書,(2) 被申立人の陳述書,(3) 最高裁判所調査委員会作成の調査報告書により,これを認める。
2 以上の事実に基づき,被申立人の行為が裁判所法49条に該当するか否かを検討する。本件の事実関係の下においては,司法行政上執るべき措置を検討する目的で,令状の請求及び発付があった事実,被疑者名,被疑者が福岡高等裁判所判事の妻である事実,被疑事実の概要等を報告すること自体は,許容されるものであるが,令状請求関係書類のすべてないしは相当部分をコピーして報告したことは,報告に正確を期するためであったとはいえ,それが高度の密行性が要請される捜査情報であることにかんがみると,量的な観点からみても,コピーという永続性のある方法での伝達は情報漏れが起こりやすいという観点からみても,不適切であったといわざるを得ない。
福岡高等裁判所には同高等裁判所及び福岡地方裁判所の職員を監督する権限と責務があり(裁判所法80条2号),被申立人は,福岡高等裁判所長官として,福岡高等裁判所事務局長を監督し(同法59条2項),同高等裁判所の司法行政事務を総括する(同法20条1項)などの職責を有するところ,職員の上記行為の結果,国民から裁判所職員が捜査情報を漏らしたのではないかという疑惑を抱かれる事態を招き,司法に対する国民の信頼が著しく傷つけられたものである。これによれば,被申立人は,職員の指導,監督において職務の遂行に欠けるところがあったといわなければならない。
以上によれば,被申立人の上記行為は,裁判所法49条に該当する。
よって,裁判官分限法2条の規定により被申立人を戒告することとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
平成13年3月16日
最高裁判所大法廷
裁判長裁判官 山 口 繁
裁判官 千 種 秀 夫
裁判官 河 合 伸 一
裁判官 井 嶋 一 友
裁判官 福 田 博
裁判官 藤 井 正 雄
裁判官 元 原 利 文
裁判官 大 出 峻 郎
裁判官 金 谷 利 廣
裁判官 北 川 弘 治
裁判官 亀 山 継 夫
裁判官 奥 田 昌 道
裁判官 梶 谷 玄
裁判官 町 田 顯
裁判官 深 澤 武 久