2002/03/04 |
金浦小学校6年B組の皆さんへ(お返事)
参議院議員 江田 五月
塚本さん、高橋先生、金浦小学校6年B組の皆さん。
お便り、有難うございました。
一生懸命、自分で考え、勉強している君たちの様子を思い浮かべて、頼もしく思っています。しかし、答えを正確に、同時にやさしく書くのは、なかなか難しい質問です。ちょっと不正確かもしれませんが、簡単に、そしてわかりやすく書くことをお許しください。それでも難しいかも知れません。
塚本さん、まず、あなたの質問がはっきりしません。「平和主義」とは何かということでしょうか。それなら、たぶん教科書に書いてあるでしょう。もっと具体的に、平和主義なのに、「アフガニスタンの戦争で自衛隊が行くのがおかしい!!」のではないか、ということでしょうか。後者の質問に、お答えします。
同時多発テロが起きました。これは、はっきりしています。アフガニスタン領内に隠れているビンラディンとその一派が犯人だと断定できました。これは、ブッシュ大統領の言うことを信用することにします。そこで、国連の決議や、各国首脳の話し合いなどで、国際社会が一致して、この地球上にテロリストの隠れ家や訓練場所をなくそうということになりました。日本も、そのために出来ることはしようということになりました。
そこで、何が出来るかです。自衛隊は、緊急の事態でも組織的に活動して、物資の輸送や人の救助などをする訓練をしています。こういう事態に活動するのに適した、国の組織です。そこで、自衛隊の皆さんに行ってもらおうということになりました。
しかし、日本には憲法があり、「平和主義」を採っています。自衛隊は、日本を守るための部隊です。専守防衛といいます。そして、憲法9条があるにもかかわらず、そこまでの範囲なら、自衛隊は憲法違反ではないと解釈されています。違う解釈もあって、ここのところはちょっと難しいのですが、これ以上知りたければ、また質問してください。高橋先生が、参考書を教えてくれるかもしれません。
いずれにせよ、専守防衛以外の目的のために使うのは、憲法に違反するのではないかとの疑問が出てきます。例えば、アメリカと日本が約束して、日本が攻撃された場合だけでなく、アメリカが攻撃された場合にも、日本が、自国が攻撃された場合と同じように受け止めて、アメリカを助ける軍事行動をとることが出来るかという疑問です。集団的自衛権といいます。政府の解釈は、日本にも独立国として集団的自衛権という権利はあるけれど、憲法で専守防衛以外はダメとなっているから、その権利を行使することはできないというものです。私も、この解釈でいいと思っています。
もうひとつの例は、国際社会が共同して、国際秩序を乱す行為をやめさせるために、実力行使をする場合には、日本は何が出来るかということです。集団安全保障といいます。これは、日本のために自衛隊を使うのでなく、国際社会のために使うのだから、憲法前文の「国際協調主義」の精神から考えれば、許されるのではないかと思います。但し、自衛隊が武力行使をすることは、憲法9条の精神から許されないとも思います。
そこで、今回の事態には、ビンラディン一派を国際社会に引きずり出すための国際社会の共同行動のひとつとして、アメリカが軍事行動をすることに対し、日本が、軍事行動と一体とならず、戦争地域に入っていかないという限度で、自衛隊を後方支援部隊として、油の補給などのためにインド洋などに派遣しようということになったのです。
憲法9条の読み方は、あれこれ理屈をつけて、ものすごく複雑になっています。例えば、2項の「前項の目的を達するため」という文言を使って、その目的以外の戦力ならもっていいというように解釈するなどです。こういうやり方でいいのかどうか。もっと書いてある通りに素直に理解すべきではないのか。いや、それでは現実に合わないから、日本も一人前の軍隊を持てるように、憲法を変えてしまうほうがいいのではないか。いやいや、もう世界は、20世紀のように各国が軍事力で競い合う時代ではないので、21世紀にふさわしい国家のあり方を考え、9条の精神を大切にして、国際協調に徹した、疑問のないすっきりした書き方にしたほうがいいのではないか。議論は複雑に絡み合っています。私は、どちらかというと一番最後の立場です。
私は、もし国連が、どこかの国の部隊ではなく、国連自身の部隊を持つならば、日本も、自衛隊とは別組織で、日本の部隊ではなく国際公務員として、国連軍や国連警察軍に参加することは、許されると思っています。
今日はここまで。また議論しましょう。
中学に行っても、しっかり自分で考える訓練を続けてください。高橋先生、子供たちをよろしくお願いします。
塚本さんからのお便り
追記(担任より)
前略 突然の不躾なお手紙をお許し下さい。
昨今の情勢から判断して,我々教師の力だけで「日本国憲法の平和主義の解釈」について子どもたちに伝えることは困難だと感じています。一定の価値観を押しつけることなく,かつ「一概に解決できない難しい問題」だということを子どもたちに伝えるためには,やはり国民の代表者である皆様お一人お一人がどういう立場でこうした問題を考え,行動を具現化されているかということを知るのが一番だと考えました。そこで政党等のWebページを活用させていただき,担任として皆様お一人お一人にこの書簡をお送りするサポートをしました。
どなたにお送りするかについて我々教師側の意図は全くありません。ただ,子どもたちがあなた様へお送りすることを決める際に,「御所属の政党が与党でいらっしゃるか野党でいらっしゃるか」ということは意識させました。それは,できるだけ様々なお立場からのお考えを知らせてやりたいからです。したがって,本校6年生がそれぞれ国会議員の方へそのお考えをお尋ねし御回答いただいたものについては,全員で御拝読させていただこうと考えています。決してあなた様御自身の御業績等を御批判申し上げるような活動ではありません。くれぐれも誤解なさいませんようお願い申し上げます。
この子どもたちは,総合的な学習の時間を活用して第2次世界大戦の記録をディジタル資料として残す活動を行っています。そういう所以もあって,特別問題意識も高いわけです。その内容は3週間以内にアップロードします。担任高橋個人のWebページよりリンクも張りますので,御興味がおありになれば後日御覧下さい。また,今年度前半はメディア・リテラシーの学習にも取り組みました。今までどのような学びを構築してきた子どもたちか,その一端は御理解いただけるかと思います。
御多忙な折甚だ恐縮ですが,上記のような目的でこの書簡を送らせていただいています。子どもたちには「皆様は御多忙だし諸般の事情をおもちなので,御返信いただけないのが普通。」と伝えております。この取り組みに御理解いただき,そして御返信をしてくださるお時間が許すようであれば,ぜひ御協力下さい。よろしくお願い申し上げます。
なお,子どもたちは3月18日に卒業していきます。勝手なことを申し上げるのですが,できましたら,3月10日頃までに御反応いただければ幸いです。
ますますの御活躍を祈念しております。どうかお体を御自愛下さい。おじゃまいたしました。岡山県笠岡市立金浦小学校
第6学年担任 笠行和美
高橋伸明
2002/03/04 |