2002年9月

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市民が主役の司法 ―民主党が目指す司法改革―


第1.司法制度改革の必要性

人にはそれぞれ個性や自己主張があり、衝突します。したがって、社会があれば、必ず紛争か起きます。紛争は、社会が生きている証拠であり、社会の原動力です。しかし、紛争をそのまま放置しては、社会が混乱します。紛争に目を閉ざしたり、ふたをするのでなく、これを解決しなければなりません。最終的解決方法が裁判で、法律に従って結論を出します。これを担当する国の機能を司法と呼びます。

「2割司法」という言葉があります。社会にある紛争のうち、司法によって解決されるのは2割に過ぎないという意味です。紛争の多くは、泣き寝入りに終わるか、暴力団や示談屋、地域のボスや議員によって解決され、紛争解決のよりどころとなるべき法律がないがしろにされています。司法が機能していないのです。

そのうえ、日本は明治維新以来、中央集権の官僚国家で、何事でも事前規制でお上依存でした。しかし、これからは極力規制緩和し、問題が起きれば事後に紛争解決手続きのなかで処理する方向に変わっていきます。司法の役割は、これまで以上に重要になるのです。

紛争に関わった方なら、すぐおわかりでしょう。弁護士を頼もうとしても、身近にいない、いくらお金を取られるかわからない、時間がかかる。裁判所に行くと、まるで「お白州」で、言いたいことを聞いてもらえない。経済界からも、強い不満が寄せられています。司法制度改革は、待ったなしです。


第2.市民が主役の司法

日本は20世紀の前半まで、明治憲法の下で天皇が統治する国でした。裁判も、天皇の権威によって行われました。しかし第二次大戦後、現行の憲法により国民主権の国に変わりました。ところが司法だけは、建前はともかく、実質的には国民主権の司法へと衣替えをすることがありませんでした。

立法を担当する国会議員は選挙で選ばれ、行政を担当する官僚は国会の監督に服しますから、どちらも国民主権の原理に基づいています。しかし、司法を担当する裁判官は、司法試験で選抜され司法研修所で養成され、採用されると定年まで一生涯裁判官を務めます。キャリア裁判官と呼ばれる制度です。内閣が任命し、国民審査や弾劾裁判に服するという、国民主権の制度はありますが、形式だけで、国民には自分たちの司法だという実感はありません。実質的に、国民主権の司法と評価しうる、しかも立法や行政とは異なる、司法独自の仕組みを作らなければなりません。

1999年夏に、司法制度改革審議会が設置され、2年の審議を経た2001年6月、『意見書』を内閣に提出しました。これに基づき、同年秋、司法制度改革推進法が制定され、内閣総理大臣を本部長とする司法制度改革推進本部を設置、3年間で大規模な改革を行おうとしています。

民主党は、司法制度改革に不退転の決意で取り組むこととし、審議会にいくつかの提言をしてきました。『意見書』は、その提言を実現する手がかりになると考え、これを支援する姿勢をとります。しかし民主党は、『意見書』に満足してはいません。民主党がめざすのは、国民が、自分たちの司法だと実感できる司法、つまり市民が主役の司法の実現です。


第3.法曹人口の拡大と法曹養成

2割司法の一番の原因は、何と言っても司法サービスの量が貧弱なことです。日本の法曹人口(裁判官、検察官、弁護士の数)は約2万1,000人で、国民6,500人にひとりですから、欧米と比べると格段に見劣りします。しかも、国民と日常的に接する弁護士は大都市に多く、著しい偏在状態です。民主党は、法曹人口をまず5万人に増やし、将来は10万人にすることを目標としています。そのため、早急に、毎年新たに生まれる法曹を5,000人に増やします。

現在の司法試験合格者は、年間1,000人ですから、今の司法試験と司法研修所による養成では、民主党の目標は達成できません。そこで、法曹養成制度の大改革が不可欠です。現在、法科大学院を軸とする新制度の検討が急ピッチですすんでいます。文部科学省が大きな裁量権を持ちそうな点などが懸念されており、民主党は、『意見書』の提言が歪まないよう、しっかりと監視していきます。

法曹人口を増やすと、質が悪くなると危惧する意見があります。法科大学院の教育水準が大切です。地域の司法実務や人権ネットワークなどを活用し、多様な個性を大切にし、試験の点数では計れない感性や判断力を養えるようなカリキュラムにします。また、個々の弁護士に関する情報を最大限市民に公開することにより、市民が実質的に弁護士を選択できるようにするため、弁護士会にも適切な措置を求めます。


第4.法曹一元 ―― 給源多様化

法曹人口の増大により、裁判官の増員も可能になります。しかし、キャリア裁判官の質が、今のままで良いのかという問題があります。

民主党は、法曹資格を得たものはまず弁護士になり、弁護実務の経験のなかで自らを鍛え、人望を得たもののなかから、裁判官に登用するという、法曹一元制度を提案しました。そのうえで、判事補制度を廃止することとあわせ、21世紀前半には全裁判官が弁護士経験を有することになるよう、法曹一元の実現プロセスを示しました。

『意見書』は、法曹一元の考え方に理解を示しながら、これを制度としては採用せず、裁判官の任用制度の改革と給源多様化を提案しました。最高裁判所も、裁判官推薦制度に取り組むなど、制度改革に取り組み始めています。民主党としては、法曹一元の考え方が最大限実現するよう、これからも政府の監視と具体的提案に努めます。


第5.陪審制と裁判員制度、司法チェック

世界には、官僚裁判官による裁判の制度のほか、国民から無作為に抽選で選ばれた陪審員により事実認定を行う陪審制度があります。日本も戦前、これを採用していましたが、戦争の激化に伴い停止されました。停止法は、戦争終結後は陪審制を復活すると規定していますが、復活は実現していません。

両制度はそれぞれ長所短所がありますが、民主党は、日本のキャリアシステムが制度疲労を起こしていることを直視し、陪審制の復活を真剣に検討するよう提案しました。陪審員を長期間拘束しないことなど、技術的な課題はありますが、知恵を絞れば克服できます。

『意見書』は、陪審制度復活に代えて、裁判員制度の導入を提言しています。これが官僚司法の欠陥を隠すだけのものに終わるのか、市民が主役の司法に向けた一歩となるかは、どういう制度設計にするかによって決まります。民主党は、国民から無作為に選ばれた裁判員の数を、官僚裁判官の倍以上とすることや、裁判員制度を、刑事重大事件だけでなく、行政訴訟などにも適用することを提案します。

行政に対する司法チェックは、国民主権の司法が担うべき重要な機能です。ところが現在は、三権分立の建前などを理由に、裁判所は行政に対するチェックを極力抑制してきました。民主党は、司法がもっと大胆に行政の適否を審査できるよう、思い切った検討を進めます。


第6.法律扶助、隣接職種、ジェンダーバランス

憲法は、裁判を受けることを基本的人権として保障しています。しかし現実には、弁護士の援助なしに裁判をするのは極めて困難です。弁護士に依頼すれば経費がかかります。弁護士に限らず、専門家の知識や経験の助けを得るには、報酬を支払わなければならないということを常識にする必要があります。

そこで、裁判を受ける権利を絵に描いた餅に終わらせないためには、弁護士費用を出せない人でも裁判が受けられるよう、弁護士費用の公的援助が必要です。そのため、2000年に民事法律扶助法が制定されましたが、予算が不十分で、窓口で受付を断ったりしているのが現状です。民主党は、法律扶助の財政支出を最大限増額します。

紛争の解決方法としては、裁判以外に、仲裁や調停など簡便な仕組みがあり、ADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外の紛争解決手段)と呼ばれています。民主党は、これをもっと充実させ、そこに、税理士、弁理士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士、社会保険労務士など、隣接法律専門職の皆さんに活躍してもらうことを提案します。また、隣接職種の皆さんの裁判所での役割も拡大します。

裁判所は男女間格差がなく、下級裁判所には多くの女性裁判官が登場しています。問題は最高裁判所で、15人の裁判官のうち、女性は1人だけです。民主党は、最高裁のジェンダーバランスを図ります。


第7.改革審議録のリアルタイム公開を

司法制度改革推進本部は、事務局会議、顧問会議、検討会などで役割分担して改革案の策定作業を進めています。民主党は、作業を成功させるために、リアルタイム公開を提案します。つまり、会議は常に傍聴者に完全公開することです。そうすると自由に意見が言えないと、これに反対する人がいますが、その程度の人なら、改革案策定に参加する資格はありません。市民が主役の司法の実現には、改革案策定の段階から、市民との対話が不可欠です。このような多様なプロセスを経て、実質的に国民主権のもとにあると言いうる司法を実現することを、民主党は約束します。

こうした多様な仕組みと運用で、立法や行政とは異なった、司法ならではの国民主権の実質をつくり出すのが、民主党のめざす司法改革です。国民が、確かに自分たちのものだと実感できるような司法を、民主党と一緒につくってみませんか。

ネクスト・キャビネット 日本を変える民主党の重点政策(第一書林刊) 掲載


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