平成16年4月7日

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難民等の保護に関する法律案提案理由説明

民主党・新緑風会 江田五月


ただいま議題となりました難民等の保護に関する法律案につき、民主党・新緑風会の発議者を代表して、提案の趣旨と内容を説明します。

一九八一年、わが国は難民条約を批准しました。変動する国際情勢の嵐の中で、苛酷な運命に遭遇した人に、国境を越えて人の情けを及ぼそうというのは、国際社会を構成するすべての国が自覚すべき、共通の倫理であり文化的態度なのです。しかし、わが国の実態はどうでしょう。庇護を求める外国人に対し、余りにも冷酷であり、生活支援は、余りにも貧弱で人間味に欠けています。平成十五年の難民申請者数は三百三十六人、難民として認定された人はわずか十人にすぎません。

不認定の人や申請中の人の多くは、入国管理センターの施設に収容されています。そこでは、希望を失った人が自殺を図ったり暴力的行動に出たりすることも多く、それを抑えようとして職員が暴行を加えることも稀ではないのが現実です。収容される方も職員の方も、ともに疲れ切っており、意味のない対立が生まれてしまっているのです。

これらの事実は、現行の出入国管理及び難民認定法が明らかに欠陥法であることを示しています。ものの豊かな日本にはおよそふさわしくない、この人の情けの貧困は、上げて政治と行政の責任です。

政府改正案も、一歩前進と評価できる点もあることは率直に認めます。しかし、制度の根幹は従来と変わっていません。

そこで、国際的動向を踏まえた難民認定、生活支援のための新しい法制度が必要と考え、本法案を提出しました。

以下、本法案の主な内容について説明します。

第一は、難民認定委員会の設置についてです。本法案は、内閣府の外局に、専門家により構成される難民認定委員会を設置し、現在、法務省入国管理局が行っている難民認定業務を、ここに移管することとしました。

もともと、入国管理局が出入国管理と難民認定の両方を行う現行制度は、根本的な矛盾をはらんでいるのです。主権国家の厳正な規律が前面に出てくる手続と、庇護を求める流浪の民に国の温かい救済の手をさしのべる手続とを、同じ組織が行う制度ですから、対象者に混乱を与えるなど、運用が困難なのは当然です。しかも、難民調査官が国際情勢や難民が発生している地域の情報などを十分に入手していないケースも指摘されています。

そこで、この制度の矛盾を解消するため、また難民の認定には、調査に必要な専門知識や透明性、客観性、迅速性、公平性が求められることから、難民認定業務を法務省の入国管理業務から分離しました。政府改正案は、難民不認定に対する異議申立て段階における難民審査参与員制度を設けただけで、これでは従来の問題点は解消できません。

第二は、難民認定申請者の法的地位についてです。本法案は、申請者に特別の在留許可を与えます。現行法が申請者に法的地位を与えていないため、その多くが強制的に入管施設に収容されている実態を改善するためであります。ただし、制度の濫用を防止するため、退去強制手続や刑事手続の対象になっている者や、難民認定再申請者の一部の者に対しては、例外を設けます。政府改正案は、折角仮滞在制度を設けたのに、期間要件や直接入国要件があり、これでは、難民受入れに消極的な行政を変えないというメッセージだと受け取られかねません。

第三は、難民認定手続の透明化についてです。本法案では、難民認定委員会が難民認定基準を策定し公表するとともに、難民認定までの審査期間を原則六か月と設定しています。調査の際に弁護士等が関与することを可能にしました。また、不認定の場合、その理由を本人に通知することとしています。政府改正案では、不透明さの改善は期待できません。

第四は、異議申立ての期間についてです。本法案は、行政不服審査法による異議申立てができることとした結果、申立期間は六十日以内となります。政府改正案も、同法の適用を認めることとしたのに、なぜか申立期間を七日以内に限っています。

第五は、在留難民等に対する生活上の支援についてです。国内での難民受入れのための政策は、難民申請に至る入り口から、難民と認定された者が定住して安定した生活を始めるという出口までをカバーするものでなければなりません。また、条約難民のほか、人道的見地から政策判断で受入れたいわゆる条約外難民も、生活支援が必要です。そこで、本法案では、これらの難民等に対して生活上の支援を行うため、生活相談、日本語の習得、保健及び医療の確保、居住の安定、職業訓練及びあっせん、就学などについて生活支援推進計画を策定し、NGOなどとの協力のもとにその支援を行うものとしています。

以上のとおり、わが国の難民認定と難民等生活支援につき、現行法制の微修正でなく、国際人権に対する深い理解に裏打ちされた新しい法体制を整備しようというのが、私たちの提案です。国際情勢が苛酷さを増している今こそ、国際社会が抱える困難な課題を、わが国が積極的に担っていくとのメッセージを全世界に向けて発することが、何にも増して大切です。何とぞご審議の上、同僚議員の速やかなご賛同をたまわりますよう、お願いします。


2004/04/07

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