2006年1月24日 | >>会議録 |
2006年通常国会代表質問(原稿)
民主党・新緑風会 江田 五月
私は、民主党・新緑風会を代表して、小泉内閣総理大臣に対し質問します。
序章1.ライブドア事件について
まず冒頭、ライブドアの件につき伺います。昨夜、堀江貴文社長以下の幹部4人が、東京地検に逮捕されました。報道はヘリまで動員して拘置所への移送を実況中継し、国中が推移を注目しています。私は昨日昼、質問通告を終えていましたが、この事件も項目に入っているので、昨夜来の展開につき、伺わせて下さい。
最先端のITの世界なら、市場原理が最も厳しく貫かれる場だから、コンプライアンスなどは当然だと思いたいですよね。ところが、その世界の最優等生の一人であるホリエモンのライブドアに、捜査の手が入ったのです。堀江社長は、小泉さん、あなたたちが見込んで、政敵への刺客に登用した人ですよね。武部幹事長も竹中大臣も、選挙の応援にまで出かけて、彼をヒーローにするために血眼でした。総選挙での自民党圧勝は、こういう人物により偽装され粉飾されたものだったのです。もし堀江容疑者が当選していたら、自民党の金融政策はどうなっていたでしょう。空恐ろしさを禁じえません。小泉首相、あなたはご自身の責任を、どうお感じになっていますか。昨日の前原代表の質問に「総選挙で応援したこととは別の問題であると考えております」と答弁されましたが、逮捕された今も同じご意見ですか。お伺いします。
序章2. 参議院改革について
次に、参議院議員全員の気持ちを代弁して伺います。私たちは超党派で、参議院改革に取り組んでいます。まず決算審議が随分充実し、政府の協力もいただいて、明日の本会議でも平成16年度決算概要報告と質疑が行われます。今後ともご協力いただけますね、伺います。さらに今国会から、参議院に「政府開発援助等に関する特別委員会」を設置しました。ODAは政府でも見直しが行われていますが、参議院は党派を超えて目を光らせ、真に意味のあるODAへの改革に取り組みます。ぜひこの点でもご協力下さい、如何ですか。
第1.大雪被害について
さて、大変残念なことに、昨年に続き今年もまた、災害へのお見舞いから話を始めることになりました。暮れから始まった記録的豪雪は、既に100名を超える死者を出しました。心からお見舞い申し上げます。ところで今回の大雪被害の特徴は、過疎地のお年寄りの皆さんを直撃しているということです。大雪が降ったこと自体は自然現象ですが、過疎の高齢者に被害が集中したことは自然現象ではありません。社会現象であり政治の問題です。こうした地域や人々が、この国の安全・安心の社会システムから見捨てられています。そのことが、記録的豪雪によってあぶり出されたのです。違いますか。
効率優先で、非効率部分をどんどん切り捨てるやり方が、こうした地域を作り出しているのであり、だからこれは政治の責任なのです。降りしきる雪の中で、若いものに頼ることも出来ず、一人で心細い思いに駆られながら屋根に上って雪かきを試み、落下して雪の中で死んでいったお年寄りの心中を、小泉さん、あなたの感性はどうお察しになりますか、伺います。政治は、体でいえば心臓や脳など中枢部分だけでなく、小指の先まで末梢神経も毛細血管も張り巡らさなければなりません。末端部分もなくてはならない大切な役割を果たしているのです。地方の除雪費用は底をついています。国の最大限の支援をお願いします、如何ですか。
ところで小泉さん、あなたの施政方針演説の、あれはないですよ。朝青龍や琴欧州、野茂やイチローなどは、もちろん素晴らしい活躍です。しかしこれをあなたの手柄のように言うのは、我田引水も度が過ぎる。彼らの活躍は政治のおかげでもあなたの功績でもないし、政治に利用すべきものでもありません。もちろんあの日、朝青龍と琴欧州がともに負けたのも、あなたのせいではありません。せめて国会では、ワイドショー受けを狙うのでなく、政治の話をしましょう。雪国の被害こそが、政治の話なのです。
第2.耐震強度偽装やライブドアと市場原理
さて、昨年末から国民が憂慮している耐震強度偽装問題につき伺います。事案の概要は改めて申し上げませんが、それにしても先日の証人喚問の証言拒否は、酷いものでした。小嶋社長、オジャマモンと言うのだそうですが、証言の中で政治家の具体的関与が出てきました。関係範囲は広く、構造は根深いので、多角的な検討が必要ですが、ここでぜひ小泉総理大臣に伺っておきます。私はこの問題は、現在のわが国の抱える病理現象を、象徴的にあらわしていると思いますが、どういう感想をお持ちですか。また国会が、政治家の関与を含めて、もっと事案解明を進めるべきだと思います。国民は注視しています。小泉さん、あなたがリーダーシップを発揮されるおつもりはありませんか。
専門家が、専門家としての誇りを失い、ごまかして儲けることばかりに目が行って、ばれれば責任を他になすり付けるというのでは、国民は頼るものがありません。偽装を求められた建築士が、断れば他に仕事が行ってしまうと恐れるということは、ほかにも偽装に手を貸す建築士がいるということです。建築士がプロの誇りを失うということは、他のプロにも職業上の倫理観喪失が蔓延しているということです。
計画経済がうまく行かず、「見えざる手」の調整機能を大切にしようというので、市場原理が強調されます。私も、そのこと自体に反対ではありません。しかし、市場原理も万能ではないようですね。
二つの問題があります。一つは、市場のほうがより良く最適配分を達成できる場面と、市場に任せてはいけない場面とを、適切に区分することです。例えば耐震構造検査は、市場に任せさえすれば良い結果が得られるのか。答えはノーですね。丸投げではダメで、任せるにしても適切な制度設計が必要だったことは明らかです。民間検査会社の格付け制度や抜き取り検査制度などの整備に取り組んではいかがですか、伺います。
二つめは、市場の質ということです。ドイツの社会学者、マックスウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」という古典を思い出します。同じ資本主義でも、これを支える市場や取引のあり方は一律ではありません。それぞれの社会に特有の市場の「ありよう」があり、それは、その社会を構成している人々の市民倫理の質によって決まるのです。市場原理に頼るには、質の高い市場がなければなりません。はげたかが跳梁跋扈する市場では、偽装マンションの住民のように、市民は食い物にされるだけです。日本の市場の質は、果たしてこれでよいのでしょうか。
日本社会の市民の質は、これまで結構良質でした。まじめで誠実で、仕事熱心で、人が見ていなくても悪いことはしないという恥や罪の意識は当たり前でした。しかし今、この倫理観が危機的なまでに崩壊しています。その実例が耐震偽装やライブドアの事件です。だから象徴的と言ったのであって、専門家や経済人だけではありません。警察官の不祥事。マスコミ関係者の事件。残念ながら私たち政治家の事件も依然続いています。そして、後に述べる働く意欲を失った若者のこともあります。今や日本社会は偽装社会で、背骨がぼろぼろになっています。政治はこの事態を、深刻に受け止めなければなりません。
私はここで、歴代自民党政権と、とりわけ小泉首相に、責任を痛感していただきたいと思います。昨年、自民党は結党50年を祝われました。この間、大きな成果も挙げられましたが、問題はこの10年、特に小泉内閣の5年です。硬直した行政制度、非効率な産業部門、天文学的財政赤字、どれをとっても長い自民党政治のつけであり負の遺産なのです。そこで「構造改革」というわけですが、ここでまた、倫理観の希薄化という影の部分が現れてきました。小泉さん、あなたにそういう問題意識があるかどうか、伺います。
そんな矢先に先週末、再開したばかりの米国産牛肉の輸入を再禁止するという事態が起きました。見つかったから良かったではすみません。あなた方に任せていたら、食の安全までがイラク戦争の二の舞で、日米関係優先の餌食にされるところでした。政府の失態なのですが、責任の認識がありますか、伺います。
第3.小泉自民党と前原民主党との違い
小泉首相、あなたの政治哲学は、私なりに推測してみると、おそらく次のようなことでしょう。まず現状認識。日本は今や、人間にたとえると、無駄な脂肪が内臓に厚く張り付いて著しく非効率になり、このまま放置すると早晩、生活習慣病で回復不可能に陥る状態です。そこであなたの対策。構造改革で市場原理を徹底させ、非効率や不採算の部分をそぎ落として、元の健康体に戻すことです。そして5年の小泉構造改革で、かなり健康体になったというわけでしょう。
さて、現状認識は私たちも同じです。時代の変化も改革の必要も、受け止めなければなりません。そして確かに最近、景気が良くなってきたことを示す経済指標が多くなってきました。確かな手応えを感じている人々も、増えてきていると思います。しかしその陰で、どれほど多くの人々が泣いているでしょうか。長引く不況の間に、例えばここ3年だけでも、倒産した企業は約50,000社、リストラされた人は約309万人、実に毎年100万人です。年間の自殺者の数も、この7年連続、3万人を下っていません。
この人々が生きてきた現場は、不採算や非効率の部分だったかもしれません。市場原理が機能して経済が再び活況を呈するようになれば、生きていればいつの日か、次の仕事を見つけられるかもしれません。しかし、この人々にもそれぞれの毎日の人生があるのです。
君の犠牲は、後の繁栄の礎なのだから、安んじて成仏しなさいというのが小泉流です。あなたにとっては、過疎地のお年寄りは、いなくなった方がいいのでしょう。効率の悪い企業や産業は淘汰しよう。そこで生活してきた人は、ホームレスになろうが自殺しようが、自己責任。ですね。
私たちの対策は、全く違います。憲法13条は、個人の尊重をうたい、幸福追求権は国政上最大の尊重を要すると定めています。後の繁栄のためとはいえ、誰一人も個人を犠牲にしてはなりません。企業は従業員をリストラ出来ますが、国は国民をリストラ出来ません。国は、いくら効率が悪く採算の取れない地域や産業であっても、そこに生活する人々を見捨てることは許されません。見捨てた方が全体を救うことになるという理屈が、たとえ成り立ったとしても、許されないのです。これは、世界全体でも同じです。いかなる人種も民族も、抹殺することは許されません。それが21世紀ではありませんか。
そんな甘いことを言っていると、改革なんかできないというのが、あなたの立場でしょう。私たちは、そうは考えません。何のための改革かをしっかり踏まえ、多様な政策を組み合わせて実現していけば、トレードオフ時代でも適切な改革は十分可能です。不採算部分に市場からの退場を迫ることが必要でも、同時にそこで働いて来た人々の円滑な労働移動に万全を期することは、政策の力で十分可能なのです。改革のために人々を裸で寒空に放り出すのでなく、救済の手を差し伸べて、人間は温かいのだ、人の世は生きてみる価値があるのだということを示すのが、政治の最大の役割だと思います。人を大切にするのです。
誰もがみな勝ち組に成ることは出来ないのです。成果の影やコストの部分にしっかり光を当て、救いを求めている人々の声に耳を傾けることこそ、政治の仕事です。なぜなら、そうした声はしばしば、より大きな問題が起きる前兆であり警鐘だからです。昨年の総選挙では、私たちはあなたの一転突破主義にしてやられましたが、まさにあなたの言うとおり、次は私たちにとって「ピンチはチャンス」ですから、どうぞ油断しないようにして下さい。反論がありますか。
第4.具体的課題―― 景気、経済、財政
具体的に聞いていきます。景気回復はあくまで、リストラや外注化によって利益の出る体質をつくった企業の業績の話で、その成果が働らく人々の賃金や暮らしぶりにまで及んでいるかどうかは、はなはだ疑問です。大企業や最先端産業の力強さが後発部門に行き渡って、多くの人々が幸せを分かち合うようにするには、それなりの政策努力が必要です。例えば、企業活動の成果配分をめぐって、今年も既に労使の鞘当てが始まっています。賃上げは当然の要求であると考えますが、小泉さん、労働分配率につき何か発言するお考えはないのですか。働く人々をもっと大切にしてください、伺います。
深刻なのは、フリーターやニートと呼ばれる若者が、増加の一途をたどっていることです。去年の推計で、時間雇用のフリーターと呼ばれる若者が213万人、また仕事を探してさえいないニートと呼ばれる若者が64万人にも上っています。この人たちの多くは、結婚して子どもを持ちたくても経済的に難しく、現在の日本が抱えるもっとも重要で深刻な課題である少子化の一因にさえなっています。これは、この10年余にわたって企業が正規の新規採用を手控えてきた結果で、景気回復の負の遺産ともいえます。ことは重大です。
そのほかにも、パート労働や派遣労働なども含めて、非正規雇用が膨大な数に上っています。自由な労働形態と多様な雇用関係が生まれ、その中で多様な選択が可能となら、一概に悪いとはいえません。しかし現実は、そのようなきれいごとは通用しません。社会保障のあり方、雇用の安定性についての法規制、労働組合の有無などから、非正規雇用の皆さんの状況は劣悪です。さらにこれが、正規雇用を含め国全体での働く人々の立場を弱く悪く不安定にしています。非正規雇用の改革のために知恵を出す必要があると思いますが、この問題について、小泉首相の肉声はほとんど聞いたことがありません。関心ありませんか、その原因や対策について何かお考えはありませんか、お聞かせください。
景気回復したからもういいだろうと、税金でも社会保障でも、負担増と給付減が迫ってきています。今国会では、医療が課題になりますが、負担増で数字のつじつま合わせをするだけで、本格的な制度改革は放置したままです。それぞれ聞きたいのですが、ここでは増税のうち定率減税の廃止について伺います。この措置は「所得税の抜本的な見直しを行うまでの間」と法律に規定したではありませんか。つまりこれは、所得税体系全体の見直しまで維持されるいわば恒久的措置のはずです。しかも、先般の総選挙では何も触れられていません。逆に「サラリーマン増税はしない」のではなかったですか。つまり、選挙の公約違反ではありませんか。
財政について伺います。新規国債の発行額は、来年度当初予算では29.97兆円と、4年ぶりに、ほんのわずかながら30兆円を下回ることになりました。公約達成で、ご同慶の至りですが、過去5回の小泉内閣の予算編成の中で、わずか2回しか達成できていないのですから、あまり鼻高々にならないでください。この種の公約は、違反しても「大したことない」と言われたのですから、達成しても「大したことない」ですか。
さてしかし、国の借金のうち普通国債の残高は、来年度末には542兆円と国内総生産を上回ります。このうち174兆円、つまり3分の1近くが、小泉政権のもとでの借金です。日本はついにイタリアを抜き、先進国の中で最悪の借金漬け国家となってしまいました。こうした中で、政府は、2010年代初頭には基礎的収支、いわゆるプライマリーバランスを黒字化するといっています。これ自体が、達成されそうもない経済成長率を、意図的に想定するなど、無理な計画で実現が危ぶまれます。その上これは、政府の支出を借金に頼らずに、その年の税収だけでまかなうということにすぎません。つまり日本の経済の最大の不安要因である国債残高が減るわけではないのです。それどころか、今後景気の回復で長期金利が上昇し、名目成長率を上回るようなことがあれば、国の借金はGDP比でますます増えることになります。プライマリーバランスの黒字化はせいぜい財政再建の一里塚でしかありません。その次の新しい目標をたてるべきだと考えますが、小泉首相はどのように考えられますか。
ところで、竹中さんが経済財政担当大臣のときの「改革と展望」の内閣府試算では、2010年に向けて名目成長率が長期金利を上回る楽観的なシナリオでしたが、与謝野さんに変わると、先日の「2005年度改定」では逆に、長期金利が2001年以降は名目成長率を上回る現実的なシナリオとなりました。この食い違いは、閣内不一致なのか、方針を変更したのか、なぜ変更したのか、小泉首相のご説明を伺います。
景気回復の原動力の一つは、不良債権処理に目途がつき金融の機能が回復したことです。しかし私は、ここでも負の側面を指摘しないわけには行きません。長期にわたった実質ゼロ金利により、庶民に利子として渡すべき巨額の負担を免れ、さらに巨額の税金による救済も受けた結果、つまり国民の懐からの持ち出しの結果でしかありません。ところが、いつの間にか金融機関の責任者のほとんどは、結局何の責任も問われないままに終わりそうです。例の住宅金融専門会社への税金投入の際、私は法的処理を主張し、さらにアメリカのように、経営者の民事刑事の厳格な責任追及を主張しましたが、この時もお咎めなしでした。こうして、経営者に大変なモラルハザードが残りました。その典型例がホリエモンなのだと思いますが、小泉首相のお考えを伺います。
第5.具体的課題―― 制度改革の提案
(1)改革の方向
小泉内閣は「小さな政府」を標榜しています。私たちは、小ささの競争はしないといっています。うまく噛み合いません。私の考えを聞いてください。私はもちろん、行政サービスに無駄があると思います。「ダムの無駄」は、その最たるもので、止めなければなりません。行政がいかにも非効率だというものもあります。改めなければなりません。しかし、現に行政が提供しているサービスは、国民にとって必要なもののほうが圧倒的に多いと思います。それでも、果たして行政が提供するのが良いのか、民間のほうがもっと上質のサービスを提供できるのか、そこが問題です。行政は堅苦しくて、細かなところに気が回らない、民間ならばもっとずっと良いサービスを提供できる、そういう場面が一杯あるはずです。そこを「市民に、市場に、地方に」という方向でサービスの担い手を変えれば、サービスの質を良くし行政はスリムに出来ます。社会公共のために何かしたいと思っている人は、一杯います。街作りでも教育でも、地域住民の役割は一杯あります。行政は一歩下がっていてください、私たちがやりますから、というのが公務員制度改革の理念でなければなりません。
そのためには、具体的な政策が必要です。例えば、NPO優遇税制を大胆に取り入れることです。小泉さん、あなたの改革で最も欠けているのは、「市民参加」だと思います。あなたのお話の中には、人間力は出てきますが、これは今、頼りになりません。私は、「地域力」がキーワードだと思っています。地域の中で、地域によって、つまり「コミュニティーソルーション」ですね。見解を伺います。
(2)子ども
子どものことも、まさにそのとおりです。日本は遂に人口減少社会となりました。その対策として多くの提案があります。それぞれ理由があるでしょうが、要は実行です。例えば人事院は公務員について、育児を行う職員が常勤職員のまま短時間勤務する制度や、在宅勤務を活用するための事業所外労働のみなし労働時間制の導入などを検討していると聞きます。これらは一刻もはやくやって頂きたい。そのほかにも、例えば地域に居住している高齢者に、子どもの送り迎えだけでなく、学校教育の中で一定の役割を担っていただくと、思わぬ効果を発揮しそうです。いかがですか。常設の「子ども家庭省」を新たに立ち上げ、各省でバラバラになっている子どもと家庭の施策を統合する時代が来ていると思いますが、小泉さん、どうお考えになりますか、伺います。
(3)司法制度改革
ここで、司法制度改革につき伺います。私は国会議員になる前、裁判官だったこともあり、この改革の重要性も必要性もよく理解しているつもりです。そして、1998年の民主党結党直後の参議院選挙で本院に議席を持って以来、折に触れ具体的提案もしてまいりました。政府からの提案を待つのでなく、国民主権のもとでの「市民が主役」の司法制度を目指して、改革の具体的内容の作成段階から関わり、いわば司法改革与党の立場に立とうとしてきました。
小泉首相は、2001年12月に設置された「司法制度改革推進本部」の本部長でした。そして、法科大学院、裁判員制度、司法支援センターなど、20を超える関連法律が制定されました。この春には初めて、ロースクールの卒業生が生まれ、新しい司法試験が実施されます。「日本司法支援センター」は10月に業務を始めます。そこで改めてこの段階で、小泉首相に司法制度改革を完成させる意気込みを伺っておきます。司法支援センターを絵に描いた餅としないためには、かなりの予算措置が必要ですが、大丈夫ですか、伺います。
「裁判員制度」は、日本の刑事裁判のあり方を大きく変えるもので、国民も法曹3者もともに、裁判についての考え方を変えなければなりません。法律家の中だけでしか通じない言葉のやり取りでは、裁判は成り立ちません。国民も、裁判なんかになるべく関わりたくないという意識では、この制度は根付きません。その制度が、3年後には実際に始まるのです。
ドラマ仕立ての広報用ビデオを作ったり、各地でフォーラムや模擬裁判を開催したりしていますが、まだ国民には具体的イメージがつかめておらず、この制度に関する国民の理解は十分とは言えません。現に昨年2月に政府が実施した「裁判員制度に関する世論調査」の結果によると、裁判員として「参加したくない」と回答した人が70パーセントに達しており、依然として国民の間に不安感や抵抗感が根強いのです。そこで広報・啓発ですが、小泉首相、あなたも国会議員を辞めれば、裁判員になりうるのですから、ここはあなたの出番です。国民に裁判員制度が直感的に理解できるように、お得意のショートフレーズとパーフォーマンスで説明してみてくれませんか。皮肉ではありません。この問題は、ややこしい理屈が国民に分かるかどうかではなく、政治家の熱意が国民に伝わるかどうかだと思うのです。私も努力します。
(4)科学技術
科学技術立国はわが国の国是ですが、最近どうもパッとしません。種子島のロケット打ち上げは今頃どうなっているでしょう。有人ロケットでは中国ですね。ハイテク産業でもしばしばアジアの他の国の後塵を拝しています。そこで来年度は、第三期基本計画の初年度ということで、科学技術関係予算は3兆数千億円と前年並みを確保しています。問題はその使い道で、配分に戦略性が必要です。特に、明日の科学技術を担う人材の育成が重要です。例えば、科学技術を専攻する大学院生に対する奨学金制度を大幅に充実してはどうですか。子どもたちの理科離れも心配です。初等教育において、科学技術の教え方の上手な教員を拡充するなど、理数系教育環境を改善すべきだと思いますが、いかがですか。
第6.具体的課題―― 外交
外交について、若干伺います。外交の課題が国益であり、きわめて現実的、実利的判断が必要な分野であることは、言うまでもありません。しかし日本のように、資源がなく一国だけでは生きていけない国にとっては、世界の平和と安定が何より大切です。また、世界中が日本を、国際社会にとって、なくてはならない国と頼りにしてくれることも重要です。そのため、例えば日本が世界の国際金融の中心の一つになるのも効果的な目標でしょう。同時に、日本が世界の平和や正義のために熱心に活動することも、世界の信頼を得る道です。
小泉外交はアメリカ中心で、日中・日韓も北朝鮮も意欲が薄れてきたようです。私たちは、アジア外交にもっと力を注ぎ、米軍再編への対応もその観点から検討すべきだと思います。これらの点は、後日に譲ります。
そこでまず、軍縮です。昨年も伺いましたが、小泉内閣の軍縮への熱意はどの程度のものなのでしょうか。昨年12月に国連総会の本会議で、わが国の核軍縮決議案「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」が、賛成168、反対2、棄権7で採択されました。政府は、過去最多の支持だと自画自賛です。しかし、核保有国の中国が棄権、ロシアが欠席。北朝鮮も棄権です。6カ国協議の国の中で賛成したのは韓国だけです。この状況をどうお考えでしょうか、伺います。気になるのは、アメリカの反対です。あと反対はインドだけです。これだけ蜜月といわれる小泉さんとブッシュさんの関係ですが、この問題を直接にお話になったことはあるのでしょうか、伺います。
世界65カ国が加盟する軍縮会議につき、伺います。多国間で軍縮を交渉する世界唯一の常設機関で、核不拡散条約や包括的核実験禁止条約(CTBT)など成果をあげてきましたが、最近は精彩を欠いています。その一つの理由に全会一致制があり、例えば最近ではイランの核開発問題が再燃しているのに、重要なテーマであればあるほど何の決定もできずにいます。唯一の被爆国であるわが国が、国連改革を言うなら、この軍縮会議改革で強いリーダーシップを発揮すべきではありませんか。幸い小泉内閣には、軍縮大使を務められた猪口邦子さんがいます。軍縮外交で世界をリードする決意ありやなしや、小泉首相に伺います。
国際社会での法の支配の実現を日本が望むなら、国際刑事裁判所条約の批准は待ったなしのはずです。日本がもたもたしているうちに、裁判所はスタートしてしまいました。韓国は、裁判官を送っています。日本よりはるかに早く国内人権救済機関も設置し、世界の理解と共感を得たからです。昨年も質問しましたが、この1年間何を悩んで躊躇していたのですか、伺います。
もちろん外交は、ロマンだけでは語れないリアルなものです。そこで伺います。日本外交の実施体制に気の緩みやぬかりはありませんか。上海の日本総領事館で起きた領事自殺事件については、聞きたいことが一杯ありますが、ここでは簡単に、小泉さん、あなたはこの事件につき、いつ、誰から、どういう内容の報告を受けましたか。それとも受けていないのですか。もし機密漏洩があったらどうしますか、伺います。
第7.皇室典範、小泉政治の罪
さて、憲法改正について、政治の場での議論が活発です。この議論は、国民の声をよく聴かなければなりません。皇室典範の議論も始まりました。天皇の地位は、国民の総意に基づくのですから、国会は国民の総意がどこにあるかにつき、耳を澄まして聞かなければなりません。私は、政府の有識者会議はなかなかの有識者を集められたと思っています。その答申に十分耳を傾けながら、国会全体の合意形成のために精一杯の努力し、国民主権に合致する結論を得たいと思っています。小泉首相のお考えをお聞かせください。
私は、私たちの国につき最も改革しなければならないのは、いたるところに見られる「もたれ合い」と無責任だと思います。私は学生時代に、丸山真男先生のゼミで勉強したことがあります。先生は戦後、戦前の日本政治の構造を分析されて「超国家主義の論理と心理」という論文を書かれました。その中で、「我が国の場合はこれだけの大戦争を起こしながら、我こそ戦争を起こしたという意識がこれまでの所、どこにも見あたらないのである。何となく何物かに押されつつ、ずるずると国を挙げて戦争の渦中に突入したというこの驚くべき事態は何を意味するのか。」と書き、いかに国の中枢が無責任体制になっていたかを明らかにされたのです。
しかし今、刑死した戦犯の皆さんはある種の責任を全うされたと言えるとしても、このような戦争についての政治家の責任を抉り出すことなく、安易に戦争の反省と不戦の誓いを口にしながら、国民を戦争へと駆り立てた宗教施設である靖国神社への参拝が行われています。駆り立てられて亡くなった人々の遺族の皆さんが、心の安らぎを求めて、往時をしのんでお参りするのは、やるせないほどよく判ります。もちろん戦没者の追悼は、大切なことです。しかし私には、靖国神社は国家の戦争責任を分有している施設であって、国家指導者の最高位にあるものが戦没者の追悼のためにお参りするのに相応しい施設とは、到底思えません。
小泉首相、あなたはいい加減な態度は取れないのです。先の戦争における侵略行為と植民地支配につき、私たちは深刻に反省し心からのお詫びを述べているのです。これは、口先だけのものであってはなりません。政治家の戦争責任ということを最も真剣に考えなければならない内閣総理大臣が、そうした透徹した思考のないまま、そして適切な追悼施設の建設を漫然と先送りしながら、靖国参拝を続けられるのも、倫理観の喪失に一役買っていると思います。しかもこの思慮に欠いた参拝により、中国や韓国との関係は今や最悪です。反論がありますか、伺います。
私は、私たち日本国民が「もたれ合い」から脱して、誰もが自己責任をきちんと負えるようにしたいと思っています。小泉さん、あなたもそうですよね。そのことは私も疑っていません。しかしあなたの5年間の政治で、もたれ合いは治っていません。その上、自己責任は中途半端で、もっと大切な「支えあい」は、政策の間違いと倫理観喪失で風前の灯です。今やこの国は、たがが外れかけています。
小泉内閣も、後継争いがかなり過熱して、たがが外れそうです。9月の任期切れまで持つのですか。早期に辞任する手もありますが、そのお考えはないかどうか、最後に伺い再質問を留保して、私の質問を終わります。
2006年1月24日 | >>会議録 |