2008年1月16日

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江田五月・参院議長に聞く 「緊張をエネルギーに」


「野党多数の参院」にも役割を発揮させたい

―― 野党出身で初の議長になりました。

初めての経験が次々に出てきて、緊張しましたね。議長は中立であるために努力するものだけど、野党出身者の「中立」とはどういうことか、暗中模索の面がありました。

―― 野党出身と与党出身では「中立」の意味が違うのですか。

与党出身の議長は、中立の立場に立つさまざまな努力をしてきました。例えば、河野謙三議長(71〜77年)は、国会運営について「七三の構え」と言いました。「野党7、自民党3の比重で国会を運営する」ということです。

 ただ私の場合は少し違う。参院は野党が多数派だから、少数派である与党の立場を大事にしないといけませんが、国会全体では与党が衆院で3分の2を超えている。権力を握る与党にあまり手を貸し過ぎると、政治全体のバランスを取ったことにはならない。「野党多数の参院」の役割をしっかりと発揮させるということも考えないといけないんです。

―― 「議長の存在」が一躍注目されたのは、防衛省の接待疑惑にからみ、民主党など野党が額賀福志郎財務相の証人喚問を多数決で議決した時でした。

与野党の激突が議長に持ち込まれました。突然与党側が「議長さん何とかしてくれ」と言ってくる。今までと風景が全く違うわけですね。議決自体に瑕疵(かし)はないから、喚問された人たちには議決に基づき召喚状を送りました。

 でも、喚問の実施は別問題。「喚問は全員参加で行うよう努力を」と申し上げ、話し合いもしていただいた。一貫して私自身の判断でことに当たりました。批判はあるかもしれませんが、大方はああいう結果(喚問見送り)で良かったとみていただいているのではないでしょうか。

―― 「身内」の民主党から恨み節などありませんでしたか。

そういう話はありません。「よくやってくれた」という話もないけどね(笑い)。

―― ところで、議長は年頭所感で「ねじれの持つエネルギーの上手な活用」を訴えていましたが。

2院制である以上、衆参で多数派が異なることは不思議ではない。だから「ねじれ」がある時にどう国会を運営していくかのノウハウが、今までなかったことの方が、むしろおかしい。「ねじれ」を生かせるように、これから私たちは知恵を絞らなければならないということです。

―― 実際に今国会で「ねじれのエネルギー」を感じる場面はありましたか。

例えば、新テロ対策特別措置法案の審議で、防衛省が情報公開にある程度応じざるを得なくなりました。前事務次官の守屋武昌被告の汚職事件や装備品の過大見積もりなど、防衛省の体質や構造にまつわる問題も明らかになりました。参院が「てこずる存在」になったために起きたプラスの面だと思います。

よどみをなくすには、政権交代の常態化が必要

―― 新テロ法の成立の遅れや、野党の反対で同意人事の一部が認められなかったことで「政治の停滞を招いた」と批判する声もあります。

全然そうは思いません。逆に私たちは今「政治の動かし方」を身につけようとしているのだと思います。まだ、ねじれのエネルギーをどう引き出していくかを模索する途中経過なんですね。

 「ねじれ」はだんだんほどけていくもの。どこかをはさみでぶち切ればほどけるけど、それではエネルギーは生まれません。皆さんはすぐ正解を探そうとするけど、正解とは何だかんだいろいろやってみて、初めてたどり着くもの。「いろいろやってみること」自体が正解なのかもしれませんよ。

―― 同意人事では、これまで無条件に認められてきた政権側の人事に対し、他の選択肢を考えさせる契機となった、との評価の一方「政権党が反対党におもねる人事案を出すことになり、手足を縛り過ぎる」との批判も出ています。

そういうこと(不同意)が起きたことで、国会の意思をどうやって作るか、打開策を考えなければならなくなる。「少数派におもねる」ことになるかどうかは、やってみなくては分かりません。

 同意人事については今回、衆参両院が人事案を同時に受け取る仕組みを作りました。いいか悪いかは別として、事態打開に向け衆参が共同して対処するための「小さな一歩」かもしれません。もっとも、今回の同意人事では、やや少数意見の「大尊重」になっています。まだいろんなルールを考える必要があるかもしれませんね。

―― 全体として「ねじれ」は国会に良い刺激をもたらしていると……。

でも、それだけで日本の政治が良くなるかというと、まだ足りません。本当に政治のよどみをなくすには、やっぱり政権交代が必要なんです。

―― えっ。「中立の議長」がそんなこと言っていいんですか。

いやいや。「政権交代が常態化した政治に変える」という意味です。自民党から民主党へ、民主党から自民党へと政権交代が常態化すれば、「ねじれ国会」は常に起きる可能性があります。

 本来、政治にはもっと大きな「揺れ」が必要。「ねじれ」くらいで一喜一憂してはいけませんよ。

【聞き手・尾中香尚里】
毎日新聞 2008年1月16日朝刊掲載】


えだ・さつき 41年岡山県生まれ。東京大法卒。判事補となるが、77年に父の江田三郎・元社会党書記長の急逝に伴い参院選に立候補し初当選。85年、社会民主連合(社民連)代表。93年に細川連立内閣で科学技術庁長官を務める。その後、日本新党、新進党を経て、98年の民主党結党に参加。党副代表や参院議員会長を歴任し、07年8月から現職。66歳。


2008年1月16日

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