2008年7月14日 |
共同通信社 週刊会員情報誌 「Kyodo Weekly」インタビュー
6月に閉幕した第169通常国会は、日銀総裁が戦後初めて一時空席となる人事不同意、税制改正法が56年ぶりの「みなし否決」を経て衆院再可決で成立、さらには現行憲法下で初の首相問責決議可決など、異例ずくめ。野党が多数を占める参院の江田五月議長に、2度目の「ねじれ国会」に関する評価と次期国会の課題を聞いた。
両院協議会の進化必要
〈揮発油税の暫定税率などを盛り込んだ税制改正法案について、福田康夫首相は参院質疑で「謙虚に修正すべきは修正したい」と発言していたが、与野党間の対立が激しく、結局、かなわなかった。道路整備費財源特例法の改正の衆院再可決時には、両院協議会の開催を求める動議が衆院で出されたが、否決。政府案がそのまま可決され、改正された〉
― 156日間に及ぶ国会を終えての感想は。
「緊張の連続だった。議会運営の“メニュー”がほぼすべて出そろったという感じで、いろんなことを存分に経験させてもらった。なかったのは、可否同数の裁定ぐらいではないか。政府提出法案の成立率は70%台で1988年12月に召集された『リクルート国会』以来の低さだが、議員立法は結構成立している。議員立法の審議時間が短いとの批判もあるようだが、それじゃあ成立しなくていいのかというとそうではないと思う」
― 両院協議会は衆院から10人、参院から10人の議員で構成されるため、合意を得ることは難しいのでは。
「衆参の『ねじれ』より、衆院での与党議席数の『3分の2』の方がむしろ例外と考えるべきだ。与党は、両院協議会で合意を得なくとも今は法律を作ることはできるが、3分の2を失えば作れなくなる。国民の声を背に、鳩首協議を重ねていかなければ、国会として落第だ」
― 参院では野党が与党抜きで審議や採決することもあった。
「攻守ところ変われば、との印象は持っている。道路整備費財源特例法の改正については、国土交通委員会で審議するのか、財政金融委員会でやるのかで与野党がもめたが、国民から見れば『内向きの議論』で、時間の無駄と映ったことは残念だ」
問責にボディーブロー効果も
〈参院は6月11日の本会議で、福田康夫首相問責決議を民主、共産、社民、国民新の野党4党などによる賛成多数で可決したが、衆院はその翌日の本会議で、福田内閣信任決議を自民、公明の与党などの賛成多数で可決した。与党側には、間髪をおかず信任決議を可決することで、首相の職務継続の正当性を強調する狙いがあった〉
― 参院での首相問責決議の意義は。
「憲法には『内閣は国会に対して連帯して責任を負う』『内閣総理大臣は国会の議決でこれを指名する』とある。国会は衆参両院で構成されているから、参院が首相の責任を問うことの法的根拠はある。しかし、法的効果については、憲法では衆院の内閣不信任可決か信任案否決の場合しか規定しておらず、そのときどきの政治状況、世論に影響される。だから、どういう効果を結び付けるかをめぐって与野党でせめぎ合いになる」
「政府は『柳に風』といったところだが、一層精進努力するとの内閣声明ぐらいはすべきではなかったか。素知らぬ顔では済まないから、政府、与党として衆院で国民の支持率20%台の内閣を信任決議するというのは、いかがなものか。今回は、衆院解散・総選挙や内閣総辞職に直結しなかったが、先々ボディーブローのように効いてくる可能性がある」
江田 五月氏(えだ・さつき)東大卒。科学技術庁長官、参院民主党・新緑風会議員会長。67歳。岡山選挙区、衆院当選4回、参院当選3回(無所属) 衆院も新しい民意の反映を
〈揮発油税などの暫定税率を盛り込んだ税制改正法案については衆参両院議長あっせんによって『年度内に一定の結論を得る』ことなどで合意したが、民主党など野党側が暫定税率に強く反対し、あっせんがほごにされた格好で終わっている〉
― あらためて議長あっせんに関する見解を。
「あっせん時のイメージとは違う結果だったが、道路特定財源をめぐる対立のあおりで、揮発油税などの暫定税率以外の租税特別措置まで巻き込まれることは、不必要な混乱を国民にもたらすと判断して、それらについては与野党が合意の上、法案を成立させた。これを一定の結論と言えないわけではない。議長権限というが、あると言えばあるが、ないと言えばない。議長ひとりが腕まくりしてもうまくいくわけではない」
― 一時、与党にあっせん不調を理由に、参院議長不信任案提出の動きもあったが。
「不信任案が出され、厳しく批判されることはうれしくはないが、私もかつては議長不信任案の賛成討論をやった経験もあり、そうなっていたら、それはそれで仕方がないと思う。ただ、今回は各党間の合意をあっせんしたわけで、合意通りにならなかったのは議長の責任だとする意見には、自分の責任を放棄するつもりはないが、異論もあるのではないか」
― 8月下旬召集予定の臨時国会で、野党は参院での審議に応じないこともあるでしょうか。
「問責決議をしたから審議拒否をしなければならない、とはどこにも書かれておらず、例えば審議すべき法案、条約などを柔軟に対応していいのではないか。審議拒否という対応より、参院議長としては、議会が開かれ、議論が前に進んでいくことを期待したい」
― 衆院議員の任期は来年9月だが。
「今は、政権交代に向けての関ケ原の戦いの前夜という特殊な状況だ。その現実を踏まえると、衆院議員の任期はもう1年少々しかないわけだから、早くどこか適切な時期を見つけ、衆院の方も新しい民意を反映させた方がいいとの声も強い。このままではどうしても総選挙をにらんだ攻防になってしまい、良い結果を生み出すということにならない」(聞き手 編集部 松浦 義章)
【共同通信社 週刊会員情報誌「Kyodo Weekly」 2008年7月14日号掲載】
2008年6月24日取材
2008年7月14日 |