2012年5月30日

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参議院憲法審査会発言(原稿)


第1.
概要
 当審査会の問題意識は、昨年の東日本大震災という未曾有の現場体験に照らして、現在の日本国憲法が機能したか、逆に憲法の欠陥が明らかになったかを検証しようというもので、具体的事態に即した憲法論議こそが、論点を抉り出すことに資し、時宜にかなっているというものでした。一部の議論はやや抽象論に傾きすぎたと思いますが、総じて私は、多岐にわたる震災対策のうち私たちに反省を迫り今後の改善を必要とする場面は数多くあるものの、憲法の現場機能という点から見る限りは、憲法に問題があり改正の必要が浮き彫りになったことはなかったと思います。勿論このことは、一般論として憲法改正の必要がないという結論に結びつくものではありません。

第2. 憲法と人権
 被災現場の状況は悲惨で、憲法第 25 条の描く姿とは大きくかけ離れていました。しかしそれは、自然災害に起因するものであり、憲法の欠陥ではありません。原発事故については、原子力安全行政が第 25 条の要請にかなうものであったかとの問題は残るものの、この点の議論は深められていません。

 逆に、憲法が保障する自由権が、現場の行政対応の障害になったかどうかという点では、特に問題点の指摘はなかったと思います。風評被害は様々な場面で見られましたが、これに対して表現の自由を停止するなどの措置をとることは、必要でも有効でも妥当でもありません。 

第3. 憲法と統治機構
 国の統治機構については、中央政府と現場自治体との連絡調整や現場自治体の機能麻痺の補完方法とか、ボランティアの協力体制とか、様々な問題点を十分に検証し改善点を明らかにしたうえ、今後に生かさなければなりません。しかしこれらも、憲法の予定する統治機構にそもそも欠陥があるということではありません。

 逆に、災害対処はもともと基礎自治体が当たるべきで、これに都道府県や、さらに国が協力し補充することになっています。この点で、関係する県や国に大きな行政需要が寄せられ、大童になりました。また、その実行過程で意思疎通などに様々な齟齬が生じたのも事実です。しかしだからと言って、基礎自治体の権限を奪って県や国の直轄事務にしてしまうのは妥当でなく、制度の効率化とか日常的な訓練とかによって改善すべきことで、憲法との関わりで考えれば、地方自治の充実こそが課題なのだと思います。

第4. 憲法と国家緊急権
 最後に国家緊急権との関連では、議論は抽象的なレベルを出なかったと思います。国会は一般的には機能していたのであって、国会の運営上の問題は別として、国会とは別の立法回路を作る必要は何もなかったと思います。参議院の緊急集会も論じる余地はありません。

 地方自治との関係で、中央政府に権限集中する必要があったかどうかは、一つの論点ですが、私は憲法上の特段の措置が必要だということはなかったと思います。私自身は、自治体消防と国の権限につき参考人に質してみましたが、時間の制約もあり議論を深められませんでした。非被災自治体の消防による支援を求める際に、具体的には東京都の消防のことですが、若干の議論があったことは事実です。私としては、国と地方との円滑な協力関係の確保という課題はあっても、自治体消防という制度自体を国家緊急権という観点から改める必要が浮き彫りになったということはないと思います。むしろ参考人の考察が、こうした具体的な現場状況を踏まえたものでないことが明らかになったのではないかと考えます。

 災害対策法制や原子力災害法制上、内閣総理大臣の権限についての仕組みは現に存在しますが、現実には。現場の悪戦苦闘がありました。しかしこれは、憲法に国家緊急権の規定がないことが不都合を引き起こしたということはありません。私自身の環境大臣としての職務の場面でも、災害廃棄物の広域処理とか放射性廃棄物の原子力施設外への飛散とかにつき、法の欠缺があったことは事実で、ほかにも法律の不備への対処や解釈に当たっての決断はありました。しかしこれも、今後の改善点にはなりますが、憲法 問題ではないと思っています。

 総じて有益な議論が行われ、良かったと思います。


2012年5月30日

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