1982/01/29 |
96 参議院・本会議 代表質問
田中元首相に有罪判決が下っても総理は彼との盟友関係を続けるか?
江田五月議員は、参議院新政クラブを代表して「代表質問」を行いました。各党代表質問のしんがりに登場した江田議員は、軍縮・平和、障害者福祉、財政・経済、政治倫理、政治の未来展望など、少ない持ち時間のなかに鋭い指摘と具体的な提案を折り混ぜて、迫力ある堂々の演説を行いました。江田議員らしい精悍な演説態度に対して、全国のテレビ視聴者や他党の議員さんなどから、喝采が寄せられました。
江田議員はまず、鈴木首相の軍縮への取り組みを一応評価しながらも、「軍縮を求める声は今や 世界の趨勢であり、軍事費を押さえて軍縮のためにとり得るあらゆる手段をとるべきだ」と述べ (1)外務省や在外公館の軍縮関係部局や人員を増強せよ (2)教育面での施策を講ぜよ。大学に平和と軍縮の講座を設けよ (3)被爆体験を世界に広めるため、総理訪米の際に、広島・長崎の記録映画と写真パネルを持参せよ――と提案しました。
障害者福祉の問題については、本年度政府予算案に「長島架橋」予備査費が計上されたこと評価しつつ、障害者の完全な社会参加の必要性訴えて、政府の真剣な取り組みを促しました。同時に、鈴木首相に対しハンセン氏病療養所を訪問するよう呼びかけました。
また、財政・経済問題では、鈴木内閣の経済・財政運営は、国民の生活実態へのあたたかい配慮に欠けていると批判。(1)五・二%成長と税収の見通しは強弁だ 、(2)財政再建は総理の“めんつ”になっているのでは、 (3)財政再建のためにも減税を実施せよ――と迫りました。
さらに 政治倫理と未来展望についても、強く鈴木首相の姿勢を追及し、「田中元首相に有罪判決が下っても由中元首相との盟友関係を続けるのかと斬り込んだ質問を浴びせるとともに、「無責任政治をつくりかえる」決意を表明して、初めての代表質問を終えました。
鈴木総理は、例によって「努力します」「貴重なご意見としてうけたまわります」というように、お座なりの答弁を行った後、いきさか興奮気味に「ごれからの日本を背負って立つ江田さんのような人は、いたずらに現状を批判するのでなく……」などと、田中元首相との関係についても答弁てきない腹立たしさからか、お説教をはじめ、しまいには原稿をたたきつける始末。
質問者も答弁者も、一定の型にはまった各党代表質問が続いたなかで、最後に、わずかながら政治のあり方に関するやりとり、あるいは政治の未来についての生きたぶつかり合いができたという点で、ユニークな代表質問であったと、各方面から好評を得ることができました。
江田議員の感想――「はじめての晴れ舞台で緊張しました。しかし、さすがですね。音響効果バツグンで話しやすいのに驚きました。それにしても、鈴木首相の答弁、ひどいですね。やはり、この人にはまかせられないと、再確認しました。」
○江田五月君 代表質問も衆参通じて最後の締めくくりになりました。私は、新政クラブの個性豊かな七名を代表して、総理及び関係大臣に質問いたします。
政党は、言うまでもなく、国民のためよりよい政治を行うために相争うべきものです。それなのに、ともすれば私たちはこれを忘れ、争いのための争いに終始する。私は総理の政治についても、評価すべきものは評価していきたいと思います。
評価すべきものの一つは、総理の軍縮についての積極姿勢です。大変な量の核兵器が世界の火薬庫に蓄えられており、しかも限定核戦争とかいって、実際にこれに火をつけることが検討されている。これはもう人類の危機です。わが国は被爆体験を有し、しかも世界の平和が国の存立の基礎なのですから、軍縮は国是でなければなりません。このような時期に総理御自身が国連の軍縮特別総会に出席される。大いに敬意を表します。
軍縮か軍拡かについて、いま世界じゅうで綱引きが行われています。総理の周辺でも、総理の軍縮への熱意を苦々しく思っている人もいると思います。総理のお考え自体の中にも、両方の傾向が混在しているようですね。しかし総理、アメリカもソ連もその他の先進諸国も、いずれも過大な軍事費の重圧に苦しんでいる。世界各国での軍縮の要求も高まっている。軍縮こそが世界の進むべき方向であり、軍拡は時代逆行ではありませんか。御所見を伺います。
わが国が自由陣営の一員というのは当然ですが、それでも欧米に追随せず、独自に国際社会の中で軍縮の姿勢を明確にしても、決して世界の孤児にはならない。国内でも、軍事費に回すよけいな金があるなら、その金で軍縮への外交努力を強めるため、外務省や在外公館の軍縮関係の部局や人員をこそ増強すべきです、軍備でなく。被爆体験の風化を防ぎ、広島、長崎の悲惨に目をつぶるのでなく、これをいつまでも国民が覚えておくよう教育面での配慮もすべきです。大学に平和と軍縮の講座を設けるのも手です。そのほか「平和の日」とかいろいろあります。軍縮と平和のため、できることはすべてすべきであります。どういう具体的行動をおとりになるか、具体的にお答えください。
一つ超具体的な提案をしましょう。わが国の被爆体験を世界に広めるため、六月、国連軍縮総会に行かれるときに、広島、長崎の記録映画と写真のパネルを御持参になってはいかがでしょうか。
さて、来年度の予算案の中に、わずか二百十万円余りですが、きらりと光る部分があります。ほかが悪いから目立つ。それは、瀬戸内海に浮かぶ小島、長島と本土との間に橋をかけるための予備調査費です。長島と本土とはわずか三十メートル、大声を出せば声の届く距離です。この島に国立のハンセン氏病療養所が二つあり、患者千七百人と職員とで二千三百人の人がいます。長い間、国はこのハンセン氏病患者をひたすら社会から切り離すことに努力をしてまいりました。ある日突然、愛する家族から引き離されて力ずくで療養所に隔離され、以来、一生を離島で送る。この人たちの苦悩はどんな名文家でも言葉で表現できないでしょう。
ところが、ハンセン氏病はもともと感染力は弱く、しかもいまでは患者のほとんどが完治しているのに、なお後遺症と社会の冷たい目のため社会復帰はきわめて困難です。昨年は国際障害者年でした。障害者の「完全参加と平等」をテーマにしたこの年に少しおくれましたが、この島に橋がかかる。関係者は「人間回復の橋」と呼び、これからの障害者福祉のシンボルだと喜んでいます。しかし、橋がかかる地元の人々の心の中に、まだとまどいとわだかまりがあるのも事実です。
そこで総理、この機会に障害者福祉についての根本姿勢を伺いたい。
世の中、五体満足な者だけで成り立つものではありません。目の見えない者、耳の聞こえない者、障害者もまた社会の大切な構成員ですし、これらの人たちの完全な社会参加を社会の大目標にしなければなりません。ノーマライゼーションと言われるこの考え方についての総理の姿勢いかんということです。「人間回復の橋」を蜃気楼にしてはいけません。自分のお隣に障害者が来たとき、だれもとまどいを感じないような社会、わだかまりなく障害者にだれもが手を差し伸べる社会、そんな社会をつくらなければなりません。御所見を伺います。
ここでもう一つ超具体的な提案をします。一度、長島のハンセン氏病療養所をお訪ねになりませんか。
ところで、経済運営と財政のことについては、すでに多くの質問と答弁がありました。しかし、国民は納得していません。大変な不況です。倒産件数などについて数字を挙げるまでもないでしょう。税金の重さ、不公平、けさの新聞を引用するまでもないと思います。いい話といえば、暮れの酉の市のくまでの売れ行きがよかったぐらいなこと。なのに、鈴木内閣の閣僚は皆、雲上人じゃありませんか。雲の上。だれ一人としてこの国民の困難を肌で理解する人はいない。違いますか、河本長官。どうですか、渡辺大臣。減税の要求はそんなに無理難題ですか。五年も続けて自然増税ですか。五・二%大丈夫ですか。税収は大穴があくのではありませんか。判で押した答えでなく、現実に対し素直になってはいかがですか。
財政再建の方針が硬直して総理のメンツになるとき、泣くのは国民なんです。メンツと強弁の政治はいけません。真の財政再建のためにも、一兆円減税により政治の信頼を回復することが必要ではありませんか。どうですか、総理。
国民の政治不信といえば、利権と政治の結びつき。鈴木さん、あなたの政治、人事は、いまのあなたの地位を確かにするために、灰色も黒色も構わず色目を使って、政治倫理に襟を正すことを忘れ、国民に政治に対する深い深い不信感をこれでもかこれでもかと植えつけているのです。日本は、国際環境にちょっと異変があっただけでも、経済も社会も乱れてしまうおそれがある。その意味では弱い国です。政治が国民の信頼を得ていないと、いざというときに国民に自制や助け合いを説くことはできないのです。そうでしょう。何とかの「大切」とか徳目を挙げてみても、言っている本人が政治を利用して金もうけ。これでは国民は耳を傾けようがない。政治不信はわが国の将来にとって致命的になります。どうするおつもりですか。何もかも全部裁判所に任せるつもりですか。
具体的に聞きましよう。田中元首相に第一審で有罪判決が出たとき、それでもなお盟友関係を続けられますか。
総理、あなたはいずればそのいすをお去りになります。ところが、あなたと一緒に政治不信も去るといううまいぐあいにはいかない。後に政治不信とか軍事緊張やそのほかのツケが残る。資源のことや環境のこともあります。農業の衰退も教育の荒廃も年金の破産も。行革はどうですか。あなたは未来のことをいろいろ言われますが、国民はあなたとともに未来に向かって歩むことに不安を感じているのです。あなたに任せていると、二十一世紀には仮にうまく生き残ったとしても、荒廃した自然の中で社会のあちらこちらにほころびばかり目立ち、私たちは相変わらず金と物を求めてあくせく働くという未来しか目に浮かばないのです。あなたは一体、どんな未来展望をお持ちなんでしょうか。
総理、責任は重大です。どうぞ未来に取り返しのつかないツケだけは残さないよう最後にお願いし、こんな無責任政治をとにかく大きくつくり変える決意を表明して、私の質問を終わります。ありがとうございました。
○国務大臣(鈴木善幸君) 江田議員にお答えいたします。
近年、国際情勢には厳しいものがありますが、さればとて東西両陣営が競って軍備増強を続けるという状況は決して好ましいものではありません。われわれは、力の均衡が平和と安定を支えているという現実を認めつつも、バランスを保ちつつ、その水準をできるだけ低くするようあらゆる努力を行う責務があると考えております。
この意味で、来る第二回国連軍縮特別総会は各国がこのような努力を一層強化するためのよい機会であり、私もぜひこれに出席して、平和国家としてのわが国の立場から、核軍縮を中心とした軍縮の促進を強く訴えたいと考えております。
軍縮関係の人員を増強せよとの御提言でございました。外交実施体制の拡充強化につきましては、私もつとに意を用いてきているところでありますが、御提言の点につきましても貴重な御意見として承っておきます。
なお、政府としては、軍縮、軍備管理への努力を展開してまいるに当たって、やはりこの面での国民の正しい認識と支持が得られることが不可欠であると考えております。かかる考え方に基づき、政府は常々軍縮の広報活動に意を用いているところであり、広報資料の作成、テレビ、ラジオを通じる軍縮問題の解説など幅広い広報努力を行ってきている次第であります。
なお、広島、長崎の記録映画等を国連軍縮特別総会に持参すべしとの御提言につきましては、私も、被爆の実情に関する的確な認識を適切な形で世界各国において深めていくことはきわめて有意義であると考えておりますので、貴重な御意見として承っておきたいと思います。
瀬戸内海の長島にかける橋の話から障害者福祉に触れられる御質問がございました。
障害者福祉については、今後とも国際障害者年のテーマである「完全参加と平等」の実現を図り、障害のある人もない人も、すべての人にとって住みよい社会の建設を目指して努力してまいりたいと存じます。私もかつて厚生大臣在任中、ハンセン氏病療養所を視察したことがございます。それは昭和四十年、当時の佐藤榮作首相が戦後初めて沖繩を訪問され、沖繩の祖国復帰が実現しなければ日本の戦後は終わらないと申されたことは、国民の記憶に鮮明に残っておりますが、そのとき私も佐藤首相に同行し、沖繩の医療福祉の諸施設を視察いたしました際、ハンセン氏病療養所を訪れ、患者の皆さんの医療と生活の実態について見聞いたしたことがあります。私は、そのような体験を通じまして、こうした障害を持った方々の対策について、より一層これを推進してまいりたいと考えております。
経済運営と減税についての御質問がございました。
この点はすでにたびたび申し上げているところでありますので、経済企画庁長官及び大蔵大臣の答弁に譲りたいと存じますが、一点だけ申し上げておきたいのは、私が自分のメンツのために財政再建に努力しているなどということは決してないということであります。財政の再建は多くの困難と忍耐を伴うものでありますが、今日の不健全な財政状態を放置し、いわゆる赤字公債の償還のために新たに赤字公債を発行しなければならないという事態に立ち至りますと、国家経済はもとより、国民生活にとってもまことにゆゆしいことでありますので、鈴木内閣の最重要課題としてこれに取り組んでいるのであります。きわめて重要な国民的課題でありますので、私のメンツなどという次元の問題ではございません。
最後に私は江田さんに申し上げたい。あなたは、私とともに未来に向かって歩むことには不安を感じていると述べられました。
私たちの世代がいまのあなたと同年代のころ、サンフランシスコ平和条約が発効し、わが国は戦後の荒廃と混乱から自分の足で立ち上がりました。自来三十年、私たちは手をとり合いながら高度成長の坂道を駆け上ってまいりました。今日わが国は、世界のGNPの一割を占める経済大国になり、世界の中にあって揺るぎない地位を占めつつあります。
いま私は、はからずも政権を預かる身となって、借金だらけの日本、貿易摩擦などで国際社会で弧立化するような日本を次の世代に引き継ぐようなことだけはしたくないと考えております。私が内閣の最重要課題として行財政改革と国際経済摩擦の解消を挙げているのは、このような考えに基づくものであります。私は、私に残された情熱のすべてを燃焼し、この仕事に当たり、二十一世紀に向けてのわが国の発展の基盤を強固にする一助になりたいと思っております。願わくは、江田さんのように明日を担う世代の方々は、いたずらに現状を批判するだけでなく、未来をしっかりと見詰め、祖国日本をより豊かでより生きがいのある国につくり上げていただきたいと存じます。
以上お願いをいたしまして、残余の質問に対する答弁は所管大臣に譲ります。
○国務大臣(河本敏夫君) 五・二%成長は可能か、こういう御質問でございますが、現在わが国の経済は緩やかな回復過程にあると考えております。これまで景気の足を引っ張っておりました在庫調整も、ほぼ終了したものと判断をいたしております。また、世界経済もことしの後半からは回復に向かうであろうと期待をされております。先月二十三日、OECDでは先進工業国の経済見通しについて発表いたしましたが、現在は最悪の状態にあるけれども、ことしの後半にはOECD二十四カ国平均の経済は三%強の成長に回復するであろうという見通しを発表いたしております。私どもは、必ずしもこの見通しの数字をそのまま信用するものではありませんけれども、世界経済の方向は大体その方向に進んでおると判断して間違いないものだと考えております。
そういう中にありまして、わが国は物価、それから失業、労使関係、貯蓄率、金利水準、国際競争力あるいは防衛費の負担、こういう面で欧米諸国よりもはるかに有利な条件にございました。その有利性を十分発揮できるような経済運営を進めたいと考えております。もとより現在は経済の激動期でございますから、経済の変動に当たって機敏かつ適切に経済運営をしなければなりませんが、日本の持っておりますこれらの基礎的な力を総合的に発揮することによりまして、本年度の経済成長見通し五・二%は達成できるものと確信をいたしております。
○国務大臣(渡辺美智雄君) 減税をやれというお話でございます。もうかねがね何人からも言われておるわけです。私としてもできることならという願望は持っております。しかしながら、それには財源が必要でございます。
御承知のとおり、いまもお話があったように、世界じゅう高い石油が原因で二けたの物価高、あるいは八%、九%、多いところでは一一%の失業率で悩んでおるわけです。日本は御承知のとおり失業が二・一から三ぐらいのところを行ったり来たりで、倒産が毎月史上最高最高と言われましても、失業者の数はふえない、なぜか。これは当然にどこかの繁栄産業が吸収しているからだと私は考えます。その陰には、いままで財政が犠牲になっていろいろと投資をしたり、あるいは社会保障等を支えてまいりました。しかしながら、もうすでに九十三兆円という公債の残高を持つに至り、このまま放置すれば財政インフレという方向に行きかねない。
これは、イギリスやアメリカのようなインフレを背負い込んでは大変ですから、われわれとしては、どうしてもこの際はそういう道を歩まないために財政の再建を優先しなければならぬ。メンツでやっておるわけではございません。したがって、この減税問題については、諸般の情勢から本年度はとうてい無理だということを申し上げておる次第でございます。
1982/01/29 |