2000/04/20

戻るホーム主張目次会議録目次


参院・法務委員会

「民事法律扶助法案」の質問。まず臼井法務大臣に、最近の少年法改正の動きと5000万円恐喝事件の関連につき質問。関係ないことを口実にして選挙目当てで少年法をいじる動きに釘を差しておきました。

法律扶助法案のことを説明します。憲法32条の「裁判を受ける権利」も、「弁護士報酬が払えないから泣き寝入り」では絵に描いた餅。権利の実質的保障のため、国の補助金により、法律扶助協会が弁護士報酬等を貸し付ける「民事法律扶助事業」を行う制度を創設します。

これまで弁護士会が自主的に行っていたものを、法律上の制度にし、補助金も飛躍的に増やします。オーバーステイの外国人はだめだとか(おかしな話です。)、被疑者弁護や少年付添人のこととか、疑問点はありますが、まずは制度をスタートさせることが大切。

今日は議了、採決、全会一致で可決。次いで付帯決議も全会一致。明日の本会議で可決成立の予定です。やっと憲法32条が実質化します。


○委員長(風間昶君) 民事法律扶助法案を議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。

○江田五月君 きょうは二番目に質疑に立つのかと思っておりましたら、本日のトップバッターということで、突然でいささか戸惑っております。だからというわけじゃありませんが、初めに質問通告をしていないことで、いささか不意打ち風になって恐縮なんですが、法務大臣に少年法改正問題についてちょっと伺っておきたいと思います。

 最近の新聞報道等によると、名古屋の中学生のいわゆる五千万円恐喝事件、これを契機に自民党幹部の方がにわかに少年法改正案を今国会中に成立させなければならないと言い出された。与党の中で従来慎重な意見であった公明党の皆さんの中にも、何点かの修正を前提にして今国会の成立に同意をしたという報道もあるし、どうもそうでもないような報道もあって、ちょっとよくわからないところがありますが、法務大臣、この間の経緯というのは御存じですか。

○国務大臣(臼井日出男君) この少年法の一部改正は前々国会から既に御提案をし、できるだけ早い御審議をお願いしているものでございますが、私どもとしては一日も早い成立というものをお願いいたしているわけでございますが、現在新聞に報ぜられているようないろいろな動きについては、詳細については承知いたしておりません。

 しかしながら、できるだけ早い機会に成立をするように御協力をお願いいたしたいと思います。

○江田五月君 お出しになった方としてはそういうことでしょうが、しかし国会でなかなか議論がスタートをしてこなかったというのはそれなりの事情があることであって、立法府としてのいろんな考慮もあったことだろうと。

 ただ問題は、いわゆる五千万円恐喝事件を契機にいろんな動きが起きてきたということが報道されているわけです。これは、そういう五千万円恐喝事件を契機に最近この数日のいろんな動きが起きてきているということについては、法務大臣としてはそういうことは承知をしておらないということでよろしいんですか。

○国務大臣(臼井日出男君) ただいま御指摘がございました五千万円問題に限らず、青少年問題というのは非常に大きくクローズアップされる事件が引き続いておりまして心を痛めているところでございまして、そうしたものについてもいろいろな会派間のお考えもあるのではないか、こういうふうに拝察をいたしております。

○江田五月君 その五千万円恐喝事件と今回の少年法改正案の内容と、何かそれがつなげて議論されるような報道ぶりがあるんですが、どうも私はこれは全く何の関係もないと。

 今回提出されている少年法改正の例えば検察官の関与であるとか、五千万円恐喝事件がもし検察官が少年審判に関与すればこういうふうにうまく処理できるのであるとか、あるいは検察官関与の少年審判制度になっておれば五千万円恐喝事件がこういうふうに未然に防げたんだとか、そういうようなことは全くないんじゃないかという気がするんですが、法務大臣、その点はいかがですか。

○国務大臣(臼井日出男君) いろいろ委員お話があったわけでございますが、ただいま御指摘をいただきました五千万円事件というのはまさに今捜査中でございまして、このことについてお話を申し上げることは避けたいと思うわけでございますが、いずれにいたしましても、教育問題と含めて少年の更生問題、このことは今まさに大変大きな社会的な問題になっているということは事実というふうに認識をいたしております。

○江田五月君 私は、名古屋の五千万円の事件というのは、まだ今報道されているところまでしか私どもも知らないわけで、それについての証拠を見ているわけでもないわけです。

 しかし、報道されている限りで考えれば、学校や警察あるいは地域社会がこの種の問題についての対応能力を失っている、あるいは対応能力が非常に乏しくなっているということであって、まさにこの少年問題に対処する社会全体の体制、少年保護を取り扱う、少年保護というと何かかなり、その世界の言葉で保護というと加害少年を保護するという、そういう意味じゃなくて、道に迷った少年をどういうふうに立ち直らせていくか、そういう体制が社会的に非常に弱くなっているんじゃないかということを示すものだと。

 だから、この事件を契機に、むしろ少年法の理念と体系に基づいて、例えば家庭裁判所調査官を中心にした少年警察や学校や保護司や保護観察所あるいは児童福祉士、児童委員、自治体、各種団体、地域社会、その中には例えば補導委託先とかそういうものも入って、そういう少年問題対応能力を飛躍的に高める、そういうきっかけにすべきだと。

 そうした少年問題に対する対応能力を飛躍的に高め、充実強化する、それが急務だというふうに思うんですが、法務大臣、いかがお考えでしょうか。

○国務大臣(臼井日出男君) 今、委員御指摘をいただいたお考えと私は全く同感でございまして、こうした問題についてはやはり学校あるいは家庭、地域社会における青少年問題に対する対応のあり方、こういったものを基本的にさらに検討し、反省をしながら対応を強めていくということが大切のように思います。

○江田五月君 ちなみに、私たち民主党は、日本の司法が長い間、少年審判というとどちらかというと軽視してきたと。

 戦後の司法制度の改革で家庭裁判所というものをスタートさせました。その家庭裁判所は、一般の裁判所は不告不理と、家庭裁判所も不告不理ではありますが、一般の裁判所はどちらかというと後ろに下がって、裁判所に来たものを処理する、そういう姿勢だったわけですが、家庭裁判所はどちらかといいますと社会的な裁判所として、家庭裁判所がかなめになって社会にいろんなネットワークを張って、そして少年、道に迷った者をもとへ、健全に育成していこうと。道に迷うこと自体がある意味で社会が抱えている問題に対して警鐘を鳴らしているというような面もあるわけですから、そういう観点から家庭裁判所が戦後生まれてきたと思うんです。

 私は、恐らく全国会議員の中でただ一人実際に少年審判に裁判官としてタッチをした経験を持っている人間なので、この問題は私が物を言わなきゃならぬという、そんな気持ちも持って関心を持っていきたいと思っております。

 そういう日本の司法が少年審判を軽視してきた、そのために少年審判体制というもの、家庭裁判所、特に少年の部門が弱体化してしまった。その少年法の理念と体制というものを充実強化させなきゃいけないのに、逆に政府の少年法改正案というのはむしろこういうものをさらに弱体化させる、そういう感じを持っておりまして反対をしているわけです。いずれにしても、反対賛成は別として、こういう今少年が置かれている状況、いろいろ報道される事態、こういうものに対して、少年をしっかり社会で支えていく、そのために何をしなきゃならぬか、これはやっぱり政治が問われているんだと思います。

 ひとつぜひ法務大臣にそのあたりのところをしっかり踏まえて、妙に選挙が近いからとかいうようなことじゃなくて、あんな事件が起きたから今こうやれば大向こうから拍手喝采とかいうことじゃなくて、少年の抱える問題と真っ正面から向き合いながら今大人ができることを考えていく、そういう姿勢をとっていただきたいと思います。

 きょうはその議論はそのくらいにして、本論の民事法律扶助について質問をいたします。
 まず、法務大臣、この法律扶助制度というのは、今回は民事法律扶助法案ということで、ここで想定されている指定法人というのはどの法人になるのかというのは、まだ法案も成立していないわけですからどの団体と決まっているというわけではないということでありますが、しかし、昭和二十七年以来、国庫補助もありましたが、日本弁護士連合会と各地の弁護士会の皆さんが大変な努力をして法律扶助協会というものでやってこられた、その事業そのものだと言っていいと思うんです。そこはよろしいですね。

 今、ここでつくろうとしている民事法律扶助事業を行う指定団体というのは、確かにまだ指定がないんですから、法律もできていないんだからどの団体だということは言えないが、しかしこれまでの経過で見ると、弁護士の皆さんがやってこられた法律扶助協会、これが想定されている、これはよろしいですね。

○国務大臣(臼井日出男君) 今、委員御指摘のとおり、まだ法案も通っておりませんし、どのような団体に指定をするということはもちろん決まっておらないわけでございますが、先ほど来委員御指摘いただきましたように、我が国の民事法律扶助事業というものはこれまで財団法人法律扶助協会によって行われてきたものでございまして、同協会は、委員御指摘のとおり、日本弁護士連合会が主体となりまして昭和二十七年に設立されたものでございまして、以来、今日に至るまで、弁護士会や弁護士の方々が、法律扶助事件の相談、受任を通じて国民の皆様方に対する法的サービスを提供するとともに、人的、物的資源の提供、資金援助を行うなどをいたしまして、法律扶助事業の運営に積極的に関与していただきまして、その発展に多大な御貢献をしてきていただいたものと認識をいたしております。

 私といたしましても、弁護士会や弁護士の方々がこのような我が国の民事法律扶助事業に多大の御貢献をされてまいりましたことに対しまして心から深い敬意を表するとともに、今後とも我が国の司法制度の基盤をなす本事業に対しまして引き続き御尽力いただきますように、心から念願をいたしておる次第でございます。

○江田五月君 衆議院の方の質疑を拝見しますと、公明党の冬柴さんがこれまでの弁護士会の努力に言及をされておられます。そして、かつて高辻法務大臣が、弁護士及び弁護士会に対して大変深い感謝の意を表したい、こう言われたというのを質問の中で引用されておられる。

 臼井法務大臣は、今敬意を表するということをおっしゃいました。同じ意味かと思いますが、弁護士と弁護士会の皆さんの努力に対してどう思われますか。

○国務大臣(臼井日出男君) ただいま私はいろいろ申し上げたわけでございますが、この民事法律扶助事業というものが昭和二十七年に……

○江田五月君 感謝の言葉。

○国務大臣(臼井日出男君) 同協会がつくられまして以来、弁護士連合会並びに弁護士会の皆様方に長い間御尽力をいただいておるわけでございまして、それに対して心から敬意と感謝を申し上げている次第でございます。

○江田五月君 ありがとうございます。
 法務大臣はこれまでの審議の中で、本法案は、民事法律扶助事業が憲法第三十二条の裁判を受ける権利を実質的に保障する意義を持ち、憲法第三十二条に由来するものであるとの精神にのっとって構築されたものだと、こう述べておられますね。

 これは確認ですが、もうお話が出ていますが、本法案は憲法三十二条を根拠とする、憲法三十二条を実現させるものであると、これはこれでよろしいですね。

○国務大臣(臼井日出男君) ただいま委員御指摘をいただきましたとおり、この民事法律扶助制度というものは、民事紛争の当事者の裁判を受ける権利の実現を国が後押しをしようとする制度でございまして、資力に乏しい方々の弁護士費用等を立てかえてさしあげるものでございまして、憲法第三十二条の裁判を受ける権利を実質的に保障する意義を持ちまして、また憲法第三十二条に由来をするものであるというふうに考えておる次第でございます。

○江田五月君 日本国憲法制定以来五十三年かかっています。

 今、憲法の議論がいろいろ出てきております。私ども民主党も、憲法について、もう絶対指一本触れないという前提でもなく、しかしもちろん、これはもう変えるんだという前提でもなく、大いに議論をしようということで議論をしていきたいと思っておりますが、しかし考えてみて、三十二条がやっと五十三年たってここまで来ているということですね。

 法務大臣として、国の法務行政を預かる最高責任者として、この五十三年かかってしまったということをどうお感じになっておられますか。

○国務大臣(臼井日出男君) 先ほど来申し上げておりますとおり、この民事法律扶助制度というものが、財団法人法律扶助協会等の非常な御努力によって今日まで至っているということは申すまでもございません。

 御関係者の皆様方によりまして、この制度が国民の裁判を受ける権利を実質的に保障するとの認識を持って頑張ってきたものでございまして、私ども国におきましても、補助金をお出しする等のことによりましてこれを支えてきたというふうに認識をいたしております。

 しかしながら、昨今の経済社会の実情をかんがみますと、例えば実際上いろんな地域間格差がございましたり、あるいは扶助の対象となる下から二割の所得層の方々の需要も十分に果たせない状況にあるということなどから、社会が今後法的なルールによって律せられる傾向が強まっていくこうした中で、その基本的枠組みを定める法律が緊急的に必要である。この認識に立ちまして、今国会に本法案を提出をさせていただいた次第でございます。

 この法案の重要性にかんがみまして、今後ともこの制度改革後におきましても、その成果というものを十分踏まえながら一層の整備及び発展に努めてまいりたい、このように考えております。

○江田五月君 私の問題意識と同じ問題意識をお持ちいただいているのかどうかちょっとよくわからないんですが、私が言っているのは、もちろん憲法はこの三十二条だけじゃありませんから、議論しなきゃならぬ論点は多々あると思います。

 例えば、憲法と現実とが大きく食い違っているじゃないか、だから現実に憲法を合わせるように変えなきゃならぬじゃないかという議論があるんですが、例えばこの三十二条なんというのは、五十三年前に憲法の条文ができて、やっと今それを実質的に保障するためにこの三十二条に由来する制度ができようとしている。現実が随分おくれて、今やっと現実が憲法に追いつきつつあるという、このことだけで憲法全部を論じろと言っているんじゃないんです。だけれども、少なくともこれについてはそういう目が必要なんじゃないか、このことを伺っているんですが、いかがですか。

○国務大臣(臼井日出男君) 今、委員御指摘をいただきましたが、今日に至るまで大変長い道のり、多くの皆様方の善意によって支えられてきているということを私も認識いたしております。

○江田五月君 憲法は、特に憲法が与えている基本的人権は国民の不断の努力によって守っていかなきゃいけないんだということで、この五十三年、あるいは昭和二十七年以来、弁護士を中心にして裁判を受ける権利を実質的に保障しようと、そのいろんな努力があってやっと三十二条がここまで現実のものになってきた。そういう国民の不断の努力をやはり我々政治に携わる者、特に政府はこれは大いに応援をしなきゃいかぬ、支援をしなきゃいかぬ、そういう気持ちをぜひ持っていただきたいと思うんですが、この点はいかがですか。

○国務大臣(臼井日出男君) 委員御指摘のとおりのように思います。

○江田五月君 そういうわけで、この法律案、遅きに失したとはいえ大切な第一歩として私ども民主党ももちろん賛成の法律です。

 しかし、不十分なところもいろいろあると思います。幾つかただしてまいりたいと思います。

 その一つが第二条の「適法に在留する者」という要件なんです。不適法に在留する外国人については、その理由のいかんにかかわらず、勝訴の見込みどころかもう勝訴絶対確実というような場合でも、どんなに貧乏で、どんなに弁護士さんにお支払いするお金が財布を逆さにしても出てこないというような場合でも、どんなにかわいそうな場合でも、これは民事法律扶助事業の適用範囲に入れない。

 先日も私ども参考人の皆さんからのお話を伺いました。その中で、日本は今労働力が、これは雇用の問題はなかなかややこしいですが、労働力確保というような観点からも外国人の皆さんも入ってきておられる。そして、入ってきたときには適法であった、しかし何らかの事情でこれがオーバーステイになってしまった。オーバーステイになる前に例えばそれは交通事故に遭うかもしれません、あるいは労災に遭うかもしれません。どういう不幸が襲ってくるかもわかりません。オーバーステイになった後だってそれは起きるかもしれません。交通事故も労災もオーバーステイの者だけは逃げて通ってくれると、そう世の中うまくはいかないんでして、そのときにたまたまオーバーステイになっていたというだけでもう法律扶助は与えないんだという、そうまでぎちぎちに厳格に言わなきゃならぬものなんですか。

○政府参考人(横山匡輝君) 御指摘のような事案の中には非常に気の毒な事態もあるかと思います。しかしながら、本事業はいわば社会福祉的側面を持っておりまして、限りある財源のもとで国民の理解を得て限りある国費を投入するものでありますので、このような観点から、本事業による援助は国民及び国民と同様の扱いをすべき者までを対象とするのが相当であると考えておりまして、不適法に我が国に在留する者までを対象とすることは相当でないと考えております。

 このぎちぎちではないかという点でございますけれども、一点そこについて説明させていただきますと、もっとも本法におきまして「適法に在留する者」とは、通常当局が我が国に在留することを認めている者のことを言いますが、当局に在留が認められなかった者でも、当局の在留資格に関する処分を争う取り消し訴訟において裁判所において適法に在留する者である旨判断された者は、当局が処分した時点において適法に在留する者に該当する者だったと考えられます。

 そこで、扶助の決定をする時点で当局から在留することが認められていなくとも、当該外国人が在留資格に関する当局の行政処分を争う訴訟を提起したならば、過去の裁判例等に照らして裁判所が当局の当該処分を否定し適法に在留資格がある旨を判示するものと認められるまでの高い可能性がある場合であれば、本法案においても適法に在留する者として扶助の対象となる場合がある、そのように考えております。

○江田五月君 今の後半の方はわかりました。それはここで確認をさせていただきたいと思います。

 前半のところですが、局長と議論するよりも大臣と議論したいんですが、社会福祉だから、限られた財源でやるんだから、その財源の帰属先である国民あるいは適法に居住している外国人に限るんだと、だからというそのイコールのところがどうも私は納得できない。

 私は実はもう随分以前ですがイギリスに留学をしていたことがあります。家族と一緒に行っていました。もちろん適法にイギリスにいました。しかし、税金を払っていませんでした、全然。しかし、税金を払っていない者でも、例えば私の娘が医者へ行く、ちゃんと医療保険はある。私の娘がポリオのワクチンを飲む、ただで飲ませてくれる。それどころか、親も飲まなきゃだめよと言って親まで飲まされました。

 社会福祉というのはそういうものじゃないのか。医療の場合にその居住が適法であるか違法であるか、それでも病気はそんなことにかかわりなく襲ってくるわけですから。ですから、メディカルエード、メディカルケアというものはみんなに与えようと。同じように、法律的紛争を抱える、あるいは法律的な助けがなければ社会生活において困難に出会う、そういうときに法律家の助けを得るということは、これは病気になるときに医者の助けを得るのと同じことなんです。

 それはその地域に居住するあるいは存在するすべての人に与えられるということになれば、その国の社会福祉の資質がそこまで高まるということでして、そういうふうにしておれば、世界じゅうが、ああ、あの国はこういう国なんだ、いい国なんだ、あの国の品格というのはこんなに高いんだというふうに見てもらえるわけで、そうなりますと、限られた財源をそういうところにも使っているということで、その財源を拠出しているみんなもそれだけ世界から尊敬されるというとちょっと言葉は余り好きじゃありませんが、それなりの価値判断をしてもらえるということになるわけですから、ここは、今のイコールで結ぶということはぜひ、きょうのところ、すぐに改めろとは言いませんが、先々そのあたりのことは見直していただきたいと思いますが、法務大臣いかがですか。

○国務大臣(臼井日出男君) ただいま委員お話しをいただきましたようなお考えの方もおられるということもよく承知をいたしております。また、現実に大変お気の毒な方々もおられるということも事例等でよく承知をいたしているところでございますが、先ほど来政府参考人からお答えを申し上げておりますとおり、国民の下から二割の層、それもやっと充足できるかどうか、こういう環境にございまして、現在、不法在留罪まで設けて適正な出入国管理をしようとしている、こういう環境の中で考えてまいりますと、そうした問題については今後慎重に検討すべき事柄ではないか、このように理解いたしております。

○江田五月君 今、入管行政のことを理由の一つにお挙げになる。そうすると、私なんかから見ると、そうですかと。法務省が入管行政も所管しているから、だから法律扶助制度についてはこうなんだと言われるんだったら、入管行政と法律扶助制度とをこれは別々の所管にしなきゃいけないと、こうなるかもしれませんが、きょうはそこまでにしておきましょう。

 もう一つ、これは貸与制で将来返してもらわなきゃならぬから、適法に居住していない人に貸したらどこへどうなるかわからぬからということもおっしゃいますが、貸与制でずっといくのか、もう貸与制しかこの法律扶助制度というものはないのか、給付ということは全く考えられないのかということもあるわけで、将来この制度が大きくもっと豊かになっていくということをひとつ頭のどこかに入れておいていただきたいと思うんです。

 時間もだんだん来ておりますので飛ばしますが、今の不適法居住ということについてですが、財団法人法律扶助協会は現在自主事業としていろんなこと、この民事法律扶助事業で想定されていること以外のことをいっぱいやっています。

 それで、財団法人法律扶助協会が指定団体になった場合に、その指定団体たる協会が民事法律扶助事業以外の自主事業として、例えば被疑者段階の弁護人に対する費用であるとかあるいは少年の付添人に対する費用であるとかそういうものとあわせて、居住が不適法になっている外国人に対する扶助というものをやることは構わないですよね、大臣。

○国務大臣(臼井日出男君) そうした問題というのは事業主体の方が決まりました際には自主的にお考えをいただくことになろうかと思っておりますが、それらの自主事業を実施するということは私どもにとりましても望ましいことだと考えております。

○江田五月君 指定法人だからもうさっきのぎりぎりに縛ってしまうじゃなくて、やっぱり指定法人がいろんなことを自主的にやることは、今、好ましいと言われたんですかね、(「望ましい」と呼ぶ者あり)望ましいか、望ましいことだという、そういう姿勢でぜひ扱っていただきたいと思います。

 もっとも、そのためには経理区分がしっかりしていなきゃいけないということはあるでしょうが、これはもう言うまでもないと思います。今、経理区分は大丈夫ですよね、これは局長かな。

○政府参考人(横山匡輝君) 現行の民事法律扶助事業におきましても民事法律扶助事業と自主事業は経理区分されておりますし、また指定法人のもとにおきましても同様、経理区分というのが維持されることになっております。

○江田五月君 この法案の第三条の二項に地方公共団体の規定がございます。これとは別に、地方公共団体が財団法人法律扶助協会の自主事業に補助金を出したりあるいは必要な協力をする、こういうことも実際に今やっておられます。

 そこで、この法律が成立して民事法律扶助事業を行う団体として財団法人法律扶助協会が指定をされた後も、地方公共団体が自主事業に補助金を出す、そしてその自主事業は不適法在留外国人への扶助も行う、これは自由にできると、こう考えてよろしいですね。

○政府参考人(横山匡輝君) 本法案のもとにおいて、指定法人に対し自主事業の分として給付をすることができるかと。これはまさに地方自治体の一般的寄附にかかわる規定に基づきまして、公益事業に該当するということであれば可能であると考えております。

○江田五月君 何かもたもたしているのでもうちょっと突っ込みたい感じはしますが、まあいいでしょう。

 法律扶助事業をさらに拡充していくこと、これについて幾つか質問いたします。
 まず予算規模。大幅にふえたとはいえ、この制度の先進国であるイギリスと比べると国民一人当たりの国庫負担額で百倍ぐらいの差がある。私は、むだなダムの建設や干拓に使うよりも、そのことは余計なことかもしれませんが、司法制度の充実のため百億を二百億ぐらい使う。このことは有権者の皆さんに支持されると思いますが、将来はイギリス並みの予算規模にするべきだと思いますが、法務大臣、ひとつ大志を持ってお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(臼井日出男君) 先ほど来、二十七年に協会ができましてスタートして以来の経緯というものはお話を申し上げたわけでございますが、大変多くの方々の御好意の中でもって今日まで育ってきた、国もそれなりに努力を続けてきているわけでございまして、今後ともこれらの拡充についてはさらに私どもは努力をしていくことが大切だ、このように思います。

○江田五月君 法務大臣が大きな志を持ちながら、しかしなかなか物が言えないつらいところを察してくれと、こういうことだろうと思いますので、ひとつこれは大いにこれからも制度の拡充のために努力をしていただきたいと思います。

 さて、衆議院の附帯決議もありますが、今は民事法律扶助ということでございますけれども、刑事の被疑者弁護とかあるいは少年事件の付添人とかあるいはADRとか、いろいろこれから先この制度がそういう方面にも、これは法律扶助の内包というよりもむしろ外延の話でありますが、ずっと広がっていくべきものだと思いますが、いかがお考えですか。

○政府参考人(横山匡輝君) 本法案は、緊急に充実を図る必要のある民事法律扶助事業についてその基本的枠組みを定めるものでありますことから一定の所要のものを規定しておりますけれども、ただいま委員御指摘のように、ADR全般、行政手続あるいは刑事被疑者事件あるいは少年保護事件等についての公的な支援のあり方につきましてはさらに検討をすべきであるとの御意見があることは、私どもも承知しております。

 これらの事項につきましては、それぞれの事項に係る関係諸制度のあり方、我が国の司法制度のあり方、国の財政事情等に深くかかわる問題でありまして、今後、司法制度改革審議会等におかれましても高い見地から幅広に御議論をいただくべき事柄と考えております。法務省といたしましても、そのような審議結果を踏まえ、今後とも法律扶助制度の充実に努めてまいりたいと考えております。

○江田五月君 幅広に御議論をいただくべきことであるというところに込められた意味というものを正確に理解しておきたいと思います。

 特にADRですが、この民事訴訟の制度というのはなかなかいろんな制約があって使いにくい。それをいろいろ工夫して、今、民事訴訟が使いやすいようにという努力をしているわけですが、それでもやっぱり裁判所の手続となるとどうしてもいろんな限界があるかと思うんですね。

 今、一つ考えられる方法として、裁判所の厳格な手続による判決というものはある意味で指針を示すもので、裁判所がそういう指針を示したならば、同じような事件は裁判手続でなくてADR、オルタナティブ・ディスピュート・リゾリューションですか、裁判外の紛争解決手続の中でやればぐっと解決が早くなるじゃないかという提案も行われているわけですよね。

 ですから、そういうことが起きれば、この判決がある、その判決を参考にしながら、例えば弁護士会の仲裁センターなどでどんどん紛争を迅速に簡便に解決していくということができてくる。そんな意味でADRというのはこれから重視されてくるんだろうと思いますが、そういうときにADRは弁護士の手助けを法律扶助という制度によって行えないというんじゃ、これはやっぱりせっかくの司法、リーガルサービスというものの豊かさというものを失ってしまいますよね。ぜひそこは考えてほしい。

 所得階層二割層、これも今二割層で一万八千件というので、将来四万件ぐらいはニーズがあるんじゃないかというようなお話ですから、二割層ではいけない、四割層ぐらいまでは広げなきゃとか、あるいは例えば犯罪被害者なんかは、これは私たち、先日、四月六日に衆議院に犯罪被害者基本法を提出して、これは衆議院の本会議で趣旨説明が行われて、政府の方でお出しになっている二法とあわせて審議が進んでいると思いますが、犯罪被害者の皆さんの置かれている立場というものはこれではいけない、国連の宣言もあるわけですし、飛躍的な権利保護の拡充をしなきゃならぬと思います。犯罪被害者ぐらいは所得制限なしに法律扶助を行うというぐらいにすべきだと思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(横山匡輝君) 犯罪被害者やその遺族の方々につきましては、現在その保護を図るために種々の検討がされているところと十分承知しております。

 しかし、もともと民事法律扶助事業は資力に乏しい方々に弁護士費用の立てかえ等の援助を行う事業でありまして、現行の扶助事業のもとにおきましても、こういう下から二割の所得層の方々でさえもなかなかその需要にこたえ切れていない現状にあります。したがって、まずはこのような方々の需要にこたえるべきことが何よりも重要であると考えております。

 委員御指摘のように特別な類型の事件に限って資力要件を緩和する等の特段の便宜を図りますことは、他の類型の事件との公平等の観点から慎重な検討が必要であると考えております。

 もとより、犯罪被害者やその遺族で資力に乏しい方々につきましては民事法律扶助事業を大いに活用していただきたいと考えておりますので、今後、これらの方々にこの事業を十分知っていただけるような方策を講じてまいりたい、そのように考えております。

○江田五月君 時間が来ておりますので、警察庁に来ていただいて伺いたかったんですが、済みません、ひとつお許しください。

 この民事法律扶助を含め今の日本の司法制度、これはいろんな面で改革をしていかなきゃいけない、あらゆる面で司法サービスが飛躍的に充実強化される必要がある、それが二十一世紀のこの国の形をどう構想するかという問題だと思っております。犯罪被害者給付金の制度もあるし、それから法務省の民事法律扶助あるいは裁判所の国選弁護制度、民訴法の八十二条に訴訟上の救助というものがありまして、これは勝訴の見込みがなきにしもあらずなら救助すると、しかも、救助して、とれたら後で返してもらうというような制度になっているわけで、そういうものも活用するとか、あるいはまた地方公共団体、NGO、NPOなどを含めた我が国のリーガルエードの体制をしっかりとつくっていく、その第一歩にぜひしていただきたいということを要請して、私の質問を終わります。


2000//04/20

戻るホーム主張目次会議録目次