2000/05/09

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参院・法務委員会

10時から法務委員会。「犯罪被害者基本法案」等の審議です。私は提出者として、公明党の魚住委員、参議院クラブの平野委員の質問に対し答弁しました。平野委員の質問は、小渕内閣総辞職の合憲性に疑義ありというもので、菅直人政調会長の「司法判断を求めたい」との発言の趣旨を汲んだ解説をしました。


○平野貞夫君 
 さて、最近、少年を中心に凶悪犯罪が頻発しております。その多くは現在の社会に対する反発、不満というものがあるようでございます。犯罪被害者対策も重要な問題だと思いますが、何よりも犯罪を発生させない政治的、社会的努力が必要だと思います。そのための根本は、やはり政治の姿勢、あり方、これに対する国民の信頼確保だと思います。

 そういう観点から問題を提起してみたいと思うんですが、小渕首相の急病による総辞職、それから森内閣の成立に至るプロセスについて、多くの国民は不透明さと憲法上の疑念を持っております。こういうもやもやとしたものが私は非常に凶悪犯罪発生の遠因になるというふうな見方をしておるわけでございます。

 実は、私、四月二十五日の予算委員会でこの問題を取り上げましたところ、内閣法制局長官は、今回の一連の問題について憲法が予定するところではない事態だったという答弁を私にしております。要するに、憲法に規定にないことに対して対応したという法制局長官の答弁だと思いますが、これは非常に重大な答弁、発言だと思いますが、まず、江田議員にお聞きしますが、五月七日に民主党の菅政調会長は記者会見で前内閣の総辞職についてこのようにおっしゃったということが報道されております。医師団の発表もなく診断書もない段階で総辞職したのは憲法七十条、総理が欠けたときの総辞職の規定でございますが、の想定したことなのか、国民の訴えとして司法の場において見解を求めたい、こういうふうに述べられております。総辞職手続の適法性を問う提訴を検討しているものだと思います。

 私はこの問題について再三国会で取り上げておりますが、どうも国会の議論がいま一つ盛り上がらない。非常に憲法運用の根本問題だと思っておるんてすが、残念に思っておるところですが、この菅民主党政調会長の指摘はまことに大事なことでして、敬意を表するものでございます。

 そこで、犯罪被害者基本法案の提案者である江田先生であり、また裁判官の経験もございましたのでお聞きしますが、このいわゆる総辞職無効確認訴訟ということになりますか、これについてのひとつ御所見をいただきたいと思います。

○江田五月君 犯罪被害者のことを考えるには、まず犯罪をなくすことを考える、人に襟を正せと言うにはまずみずから襟を正さなきやならぬ、そのためにはというので今の御質問、大変重い御質問でございまして答弁に苦慮するわけでございますが、私どもの菅政調会長の取り組みについて評価いただいて大変ありがとうございます。

 憲法七十条の内閣総辞職の要件である「内閣総理大臣が欠けたとき」、これが一体何を指すかということ、それからどういう資料とか手続でこれを認定するか、これは憲法問題だと思います。

 今回の総辞職は、これは小渕恵三さんが重篤な病で病床にあるということ、しかしこれが憲法に言う「欠けたとき」と当たるかどうか。これはこれまで判断された例がないんですね。したがって、先ほどの法制局長官のような答えが出てくるのかと思いますが、今回初めてのケースだと聞いておる。

 また、どういう資料と手続で病状を認定するかについて、これは今回は青木官房長官の言葉があるだけです。その言葉は青木官房長官の認識を示しています。青木官房長官の認識の根拠は、青木官房長官の言葉によれば、四月二日七時ごろ小渕さんと会って話をした、これも言葉があるだけですが、それから医師から説明を聞いた、これだけであります。 これだけの根拠で憲法上最重要な事柄である内閣総辞職につながる総理大臣の病状を認定できるか、またその認定が妥当かどうかを国民が判断できるか。国民のことは知ったこっちゃないというのは、これはちよっと憲法上ますます問題になるわけですから、こういうことも、これも憲法問題でございます。

 さて、ところで、現行憲法では憲法解釈を最終的に決定するのは最高裁判所。しかし解釈上、最高裁判所は下級裁判所の判断について上級審としてその判断の妥当性を判断する、示すということになっていますから、下級裁判所も含めた司法機関が憲法解釈の最終判断者ということになる。そこで、一刻も停滞を許さない国政の運営を憲法に適合した方法で行っていくには、今回のこの事件、このケース、これは憲法問題ですから、裁判所にこの内閣総辞職についての憲法適合性の判断を下してもらわなきゃならぬということになります。

 私としては、少なくとも今回の病状認定の資料と手続は、これは甚だしくずさんであって証拠法上どうかなどということを考えるまでもなく許されないものであり、今回の総辞職は憲法適合性に重大な疑義があると思います。憲法の番人たる裁判官の皆さんも、もし本当に憲法の番人としての見識と責任感をお持ちなら、これは当然そう考えると思うんです。

 しかし、我が国では現実にはどうなっているかというと、訴訟手続上のさまざまな制約のために、裁判所にこの種の判断を求めることが著しく困難になっています。諸外国の例を見ますと、抽象的違憲審査権というような形てドイツの憲法裁判所の例などもあるし、また我が国国内でも、例えば公職選挙法のように特別の訴訟形態を用意している場合もあるわけです。ですから、この困難をこのまま放置していていいか、手当ての必要性を痛感いたしますが、しかも、現実にはもっと悪い。

 この困難のゆえか、あるいはこの困難を口実にしてか、行政が頼るペき憲法解釈を内閣法制局が行っている。しかもその法制局の解釈というのは最近極めて政治的配慮に富んだ、偏った、言い方によっては、見方によっては脱法行為の手助けをするようなものになっていると思われます。そこで、何としてもこういう隘路を乗り越えて、今回の総辞職について裁判所の憲法判断をいただきたい。法律実務家が在朝在野越えてこの困難を克服する法律的な知恵を出さなきゃならぬことだと思っておりまして、菅政調会長はそういう意味で何とか頑張ってみたいと言っておるわけでございまして、ぜひとも御指導をいただきたいと思います。

○平野貞夫君 まことに憲法及び民主政治に対する明確な御意見でございまして、大変評価するものでございますが、率直に申し上げまして、私も連休中、何かいい方法がないかということを考えていたんですが、さすがはやはりこういうことに菅政調会長が気がつかれたということは大変なことだと思いますので、これは憲政擁護運動なんですよ、民主政治を守るやり方なんですよ、ぜひひとつ、私の方でもいろいろ協力しますので、前向きに御検討いただきたいと思います。

 実は、この問題について私は、先ほど申し上げましたように、予算委員会で取り上げましたところ、大変な誤解を受けまして、私が申し上げた趣旨は、総理が急病となり、医師団の公式発表をせず、あるいは診断書も出さず、病名まで公式に決まっていないわけですからね。こういう状態で職務遂行不能としてやぷの中で憲法七十条の拡大解釈をやった。そして内閣総辞職をさせた。このやり方は一種のクーデターてすよと。これを前例とすれば、こういうことが前例となれば、健全な総理を病院に拉致して意識不明として医師団に公式に発表させなければどんなことでもできますよという、仮定の発言を、指摘をしたところ、予算委員会では、その場ではもめなかったんですが、その後理事懇で、私の発言を削除するということを予算委員長が宣告されて、ただその後ちょっと慎重になられてまだ削除の手続がとられていないようですが、こういう発言を削除するようではこれは議会政治の自殺ですよ。危機だと、僕はこう思っているわけです。

 そういう意味で、そのときの予算委員会にいらっしゃった法務大臣、そのときの雰囲気もご存じだと思いますが、今、江田議員の御意見も含めて、法務大臣、こういう訴訟が起これば法務大臣が相手方になるわけでございますが、どういう御所見をお持ちかお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(臼井日出男君) 御指摘のような報道がなされているということは承知をいたしております。今後どのような訴訟が提起されるかなどにつきまして具体的な問題については掌握をいたしておりませんし、いずれにいたしましても、意見を申し上げる立場にはないと思いますので、お答えを差し控えさせていただきたいと思います。

○平野貞夫君 わかりました。これ以上は法務大臣に申し上げませんが、ちょっと技術的なことで刑事局長にお尋ねしたいんですが、刑法百三十四条に医師等の秘密漏示禁止規定があると思いますが、現在、医師団が病状を、いわゆる公人、総理大臣であったときの、公人であったときの病状を発表していないわけですが、これはなぜ発表しないか。どこかの力が発表させないのか、あるいは家族が反対して発表させないでいるのか、これは事実わかりませんが、どうでございましょう、こういう憲法に規定のない行為をやる際に、医師研の、医師団、これは病院側も因っておると思うんですよ、さまざまなうわさが出て。医師団の判断で公人であったときの小渕総理の病状を発表することは、この刑法百三十四条の除外要件の「正当な理由」に入るかどうか、どのような御見解でしょうか。

○政府参考人(古田佑紀君) 特定のある事象についていろんなことを想定してのお話ということでございますので私どもとしては答弁をするのは適当でないと考えておりますが、一般論として申し上げれば、秘密漏せつ罪が成立するためには、医師が正当な理由がないのにその業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らすと、こういう要件に該当することが必要だということになります。

○平野貞夫君 別に特別に私条件いろいろつけているわけじやございませんが。そうすると、一般論という形でお話しになったんですが、医師団の判断で、総合的に判断して医師団が病状を家族の了解がとれないという前提で発表したらこの刑法の百三十四条に抵触、いわゆる違反すると、こういうことですか。

〇政府参考人(古田佑紀君) 繰り返しの御答弁になってまことに恐縮ではございますけれども、ある特定の事実関係についてここでそれが秘密漏せつ罪に該当するかしないかということについて申し上げるのは、これは御容赦いただきたいと考えております。

〇平野貞夫君 そうすると、これはあれですか、その判断するのはやっばり裁判所ですか、最終的に。

○政府参考人(古田佑紀君) 犯罪が現実に何らかの形で成立するかどうかということは、実際の証拠とかそういうようなものとの関係で法律上どうなるかということを判断するという必要があるわけでございますが、いずれにいたしましても、ある特定の状況を想定してのお尋ねということについては、法務当局としては答弁を御容赦いただきたいと考えているということでございます。

○平野貞夫君 わかりました。これ以上申し上げませんが、ただ、近代国家というのは、やはり客観的な事実、客観的な論理、これは一々憲法に、あるいは法律に規定することじゃありませんが、そういう条理のもとで機能するわけでして、診断書もない、医師団の公式発表もないという状況で憲法に規定のない行為が行われたということは、これは本当に外国人はみんな失笑していますよ、やはり日本はおかしな国じゃないかということ。まことに残念でなりません。私は、医師団が判断すれば免責される要件ではないかと、こういう個人的な意見を持っておるということを申し上げて終わります。


2000//05/09

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