2000/11/07

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参院・法務委員会

私は、11時から75分間質問しました。初めの20分ほどは、先日の小川敏夫議員の森首相犯歴問題質問についての補充質問。私は、昭和51年8月8日から平成9年5月13日まで、無事故無違反であることの証明書(SDカード)を持っています。前回免許更新したときに申請して貰ったもので、自動車安全運転センターの発行です。これは犯歴証明書ですよね。差し支えない場合は、現に発行しているのです。これを示しながら、森首相は、天地神明に誓って犯歴はないと言っており、その言葉に嘘はないのだろうから、森首相が自ら申請するなら犯歴のないことの証明書を出したらどうなのかを正しましたが、埒があきません。森首相の言葉に嘘があるからなのでしょうか。

本論に入って1時間弱、民事再生法改正案外国倒産承認援助法案法案について法律論のやりとりをしました。

質疑終局後、討論なく採決。全会一致でした。次いで私から、昨日取りまとめていた付帯決議を提案。これも全会一致で採択されました。


○江田五月君 おはようございます。
 まず最初に、先週、十一月二日の本委員会での我が党小川敏夫委員の質疑の補充質問から入らせていただきます。

 特に犯歴照会の関係でございまして、なかなか答弁に神経を使われると思いますけれども、よろしくひとつお願いいたします。

 実はこの犯歴問題、犯歴不開示の例外はあるのかと、どんな場合かという議論、これは本年九月二十九日の参議院予算委員会での私の質問が皮切りかと思っておりますが、森総理の犯歴問題について警察庁五十嵐刑事局長が、犯罪経歴に関する情報は、犯罪捜査等の警察任務遂行のために警察が収集、保有しているもので、このような目的以外での開示は原則として行わないものであると、こういう答弁をされた。そこで私は、原則としてということならば、例外はあるんですかと、こう尋ねました。これに対して、例外的にこれを開示しようとする場合には、開示をすることによって得られる利益と開示しないことで守られる利益とを個々の事案ごとに比較考量した上でその決定がなされるべきものだと、こういう答弁をされました。

 これはこれで、確認ですが、よろしいですよね。

○政府参考人(五十嵐忠行君) そのとおりでございます。

○江田五月君 これを受けて、小川委員が、例外的に開示をする場合はどのような場合かと、こういう質問があった。警察庁は、海外への渡航や海外での事業のために外国政府から犯罪経歴証明を求められる場合があります、このような場合には、その求めに応じなければ本人に著しい不利益が生ずることが明らかで、ほかに方法がないことが明らかでもあることから、犯罪経歴を開示することによって得られる利益と開示しないことで守られる利益、これを比較考量した上で例外的な措置として犯罪経歴証明書を本人に交付することがあると、こう答弁をされました。

 この犯罪経歴証明書を本人に交付する、これは私も余り聞いたことがないんですが、しょっちゅうあるんですか。

○政府参考人(五十嵐忠行君) 具体的な数字は承知しておりませんが、かなりあるのではないかというふうに思います。

○江田五月君 なるほど。
 さらに、小川委員の質問で、森総理大臣本人からの要請があればその時点で考えたい、検討したいと、こう答弁をされました。また、開示しないことで守られる利益とは、個人のプライバシーと公務員法上の守秘義務と犯罪捜査や警察活動への支障がないことの三つ、開示しないことによって守られるのはプライバシー、それから守秘義務、それと捜査の密行性ですか、これの三つだと、こういう答弁でございます。

 そこで、確認ですけれども、森総理大臣御本人がみずからの犯罪経歴を開示してくれと、こう要請された場合は、開示することによって得られる利益としないことで守られる利益を比較考量した上で前者が後者を上回る場合は、森総理大臣本人に対して犯罪経歴証明書を交付する、これでよろしいんですね。

○政府参考人(五十嵐忠行君) 今の件ですけれども、守秘義務の関係と、それから捜査上の支障の関係、それからプライバシーの問題、こういうところがいろいろ総合的に検討しなきゃいかぬポイントですということは申し上げました。プライバシーの関係についてはどうかという御質問だったものですからプライバシーだけについて答えたわけでありまして、じゃ、プライバシーの問題がクリアすればそれで全部オーケーかということでは答弁しておりません。

 要するに、守秘義務の関係とか、あるいは捜査上の支障とか、あるいはプライバシーの問題、これはあくまでも総合的に検討した上で判断すべき問題だというふうに私は答弁したつもりでございます。

○江田五月君 今のは開示をしないことによって守られる利益三つ、その三つのうちの一つについて答弁をしたと。じゃ、そこだけ確認しましょう。開示をしないことによって守られるべき利益の三つのうちの一つであるプライバシーということに関して言えば、森総理大臣がみずから開示を求められれば、その点については、プライバシーの利益を守るという要請は考えなくてよくなる、こういう判断でよろしいですね。

○政府参考人(五十嵐忠行君) それはあくまでもプライバシーだけという関係で、切り離して考えることは難しいと思うんです。要するに、プライバシーの関係、開示されることによって公になる、犯歴が。それはプライバシーの関係もありますし、ほかの関係も絡んでくるものですから、プライバシーだけ切り離して答弁するというのは、どうかと聞かれても非常に答えにくいというのが本音でございます。

○江田五月君 三つがある、だからあとの二つの捜査の密行性を守っていかなきゃならぬ、公務員の守秘義務を守らなきゃならぬ、その点は私は今聞いていないんです。それは別のまた判断をしなきゃいけないんですが、三つのうちの一つ、プライバシーを守らなきゃならぬということについて言えば、当該御本人が開示をしてくれと言うんですから、それは、プライバシーを守るという要請については配慮をする必要がなくなるというのは当たり前じゃありませんか。

○政府参考人(五十嵐忠行君) この間の答弁では、あくまでもそういう仮定の問題でありますけれども、そういうプライバシーのことだけについて言えば、本人の承諾を得ればその辺はそうなるのではないかなという趣旨の答弁はしていると思います。

○江田五月君 この間の答弁はそうしたが、きょうは違うということはもちろんありませんよね。

○政府参考人(五十嵐忠行君) この間の答弁は、仮定の問題でもありますが、仮定で答えると、本人が承諾しているということになればそういうことになろうかと思いますと。これはあくまでもプライバシーを切り離して、三つの中であくまでも切り離して、これだけでどうだという御質問だったものですから、そういう答え方をいたしました。

○江田五月君 いやいや、私は、だからこの間はそう答えたのはわかったけれども、きょうは違うということはないんでしょうねと、今。最後の質問はそういう質問なので、どうですか。

○政府参考人(五十嵐忠行君) くどいようですが、ほかのところの絡みがあるということを前提といたしまして、この間の、ほかのところの絡みがある、プライバシーのところはぶちっと切ってやればそういうことになると。それは同じでございます。

○江田五月君 もうくどく言うのはやめましょう。
 そこで、あとの二つですよね、公務員法上の守秘義務を守ることと、それから犯罪捜査の密行性を守ること。何十年も前のことがなぜそんなに関係するのか。公務員法上の守秘義務の関係についてもこれはまだいろいろ議論するところがありますが、この間、小川委員が議論していますのでくどい質問はやめます。

 次に、今のは開示をしないことによって守られる利益の三点、開示をすることによっても実現できる利益、これの比較考量というわけですから、今度は開示をすることによって得られる利益というのを考えていかなきゃならぬと思うんですが、その前に、犯罪経歴証明書の交付、一般的に外国政府からの求めに応ずる場合は犯罪経歴がないことの証明書を本人に交付するという、まあそうだと。あることを証明して本人に交付しても余りプラスになることはまあないでしょうから、ないことを証明して本人に交付するんだろうと思いますが、犯罪経歴がない場合は本人に対して開示しないことで守られる利益というのはどんなものがあるんですか。

○政府参考人(五十嵐忠行君) 渡航証明の関係で発給するいわゆる証明書の関係ですけれども、これについて犯歴がない場合もありますし、犯歴がある場合もございます。もちろん本人はわかりません。

○江田五月君 いやいや、ある場合でも、それはこういう犯歴だからもう古いとかあるいは大したことないとか、ブッシュ大統領候補は酔っぱらい運転だったですかね、若いころに、そんなことはわかった方がむしろすっきりしていいというようなこともあるでしょう。

 今言っているのは、犯罪経歴がない場合に本人に対して開示しないことで守られる利益というのはどんなものがあるんですかとお聞きをしているんです。

○政府参考人(五十嵐忠行君) 犯罪経歴は、犯罪捜査等の警察任務遂行のために警察が収集、保有しているものでありまして、その使用は犯罪捜査等のために必要な場合に限定され、この目的以外での犯罪経歴を開示することについては特に慎重な判断を要するものであり、極めて限定的に取り扱ってきておるところでございます。

 ただし、海外渡航などに際し外国政府から犯罪経歴証明を求められた場合には、その求めに応じなければ本人に著しい不利益が生じることが明らかで、ほかに方法がないことが明らかであり、かつその内容が公にされることはないことなどから、例外的な措置としてこれを本人に交付しているものでございます。

 犯罪経歴に関する情報の開示によるメリットについてお尋ねでありますが、今回の裁判所からの調査嘱託については、外国政府に提出する犯罪経歴証明書におけるような例外的に開示に応ずべき事情が認められなかったことから、調査には応じかねるというふうに判断したものでございます。

○江田五月君 すぐまたそこへお戻りになってしまう。そういうお答えを前提にしてずっと論理を詰めてきているので、ぜひ御理解をいただきたいと思うんですが、犯罪経歴がない場合、ある場合とない場合と二種類しかないんですから、ない場合に本人に対して開示をしないことで守られる利益というのはどんなものがあるんですかと聞いているんです。

○政府参考人(五十嵐忠行君) 開示の目的によるのではないかというふうに思います。

○江田五月君 開示の目的。

○政府参考人(五十嵐忠行君) どういうことで開示してほしいかということによるのではないかというふうに思われますが。

○江田五月君 開示の目的ね。
 森総理大臣に犯罪経歴がない場合に、これは御本人はもちろん良心にかけてないと強くおっしゃっているわけで、ないんでしょう、犯罪経歴がないと。その森総理の場合に、犯罪経歴がないことを開示する、そうしますと、内閣総理大臣として疑惑をまず晴らすことができる、名誉も守られる、民事訴訟も有利になる。いいことばかりで、悪いことは何もない。

 犯罪経歴がないことを開示することでプライバシーを侵害するんだということがありますかね。犯罪経歴がないことで森総理のプライバシーが侵害される、そんなことはありますか。

○政府参考人(五十嵐忠行君) 警察としては、犯罪経歴は個人のプライバシーに深くかかわるものであることなどから、どのような立場の方であれ、その開示については特に慎重な判断を要するものというふうに考えているところでございます。

○江田五月君 質問の答えになるんですかね、それで。

 犯罪経歴がないことを開示すると森総理のプライバシーが侵害されますか。余り難しいことを聞いていないので。

○委員長(日笠勝之君) どなたに。

○江田五月君 刑事局長。

○政府参考人(五十嵐忠行君) 繰り返しになりますけれども、警察としては、犯罪経歴は個人のプライバシーに深くかかわるものなどであることから、どのような立場の方であれ、その開示については特に慎重な判断を要するものというふうに考えているところでございます。

○江田五月君 もう質問をとめてもいいくらいですけれども。
 犯罪経歴がないということを開示して、それを森総理が求められれば、もちろんのこと個人のプライバシーを侵害するというようなことはないですよ、それは。犯罪経歴がないことを開示することで守秘義務違反になるというようなことがあるのか、あるいはそんな大昔の犯罪経歴がないということを開示することで警察活動や捜査活動に支障があるのか。ないと思いますね。

 一つ、これは別に自慢するほどのことでもないんですけれども、皆さんに資料をお配りしてください。

   〔資料配付〕

○江田五月君 これは、この間小川さんからちょっと皆さんに示していただいたんですが、あのときは質問の通告も何もしていなかったんですが、私の「無事故無違反の証」というので、さっき理事会で言ったら、それはおまえ、運転していないからだろうと言われたんですが、そんなことはない、時々運転はしているんですが。

 私の、昭和五十一年八月八日から、今現在持っている運転免許証の発行の日、平成九年五月十三日まで無事故無違反であることを証明しますというので、これ、おもしろいんですよね。五十一年八月八日からというので、では五十一年八月七日以前はどうなのかというのがすぐ問題になると思いますが、実は八月七日に私はスピード違反をやったので、そんなこともばれてしまうんですけれども。

 これは、あのときは突然だったのでお答えがなかったのは当然なんですが、これも犯歴証明の一つですかね。

○政府参考人(属憲夫君) 自動車安全運転センターは、自動車安全運転センター法の規定に基づきまして、運転免許を受けた者からの求めに応じて運転経歴証明書を交付する業務を行っております。

 御指摘のSDカードは、この自動車安全運転センターが、運転免許を受けた者から運転経歴証明書の交付を求められたときに、その者が一定期間無事故無違反である場合に安全運転を慫慂する目的で運転経歴証明書に添えて渡しております。

○江田五月君 もうちょっと前にお教えいただいてよく調べてみればよかったんですが、安全運転センター法という法律があって、それでその法律に基づいてできたこれは特殊法人ですか。

○政府参考人(属憲夫君) 自動車安全運転センターは、自動車安全運転センター法に基づき認可された認可法人でございます。

○江田五月君 交通事故あるいは違反の犯歴というのを、これは国家公安委員会ですか、これを管理しているのは。

○政府参考人(属憲夫君) 交通事故や交通違反のそういった運転に絡むデータにつきましては、警察において管理をしております。

○江田五月君 では、この認可法人たる自動車安全運転センターが警察庁に当該申請に係る本人の事故歴、違反歴を照会して、それがないということを確認の上、こういう証明書を本人の求めに応じて発行する、それは安全運転の慫慂のために公益に合致することである、そういう理解でよろしいんですか。

○政府参考人(属憲夫君) そのとおりでございます。

○江田五月君 そういうようなことで、犯歴というのはそんなにもう絶対隠さなきゃいけないということでもないので、私は、森総理に犯罪経歴がない場合、御本人からの要請があれば、やはりこれはどう考えたって開示する利益の方が開示しない利益よりも大きい、こう考えられるので、本人に対して犯罪経歴証明書を交付すると。森総理は国会で良心にかけて犯罪経歴はないとおっしゃっているんです。

 私はこういうこともあると思うんですよ。本当にないんだと、ないんだけれども、実はそういう履歴を証する記録が間違って何かあるということだってあり得る。その場合は本人の求めで直さなきゃいけない。いずれにせよ、これは今のお話だと確認されないんですかね。森総理から要請があれば、以上のようなことを踏まえて、利益が大きいので本人に対して証明書を交付する、こうお答えになれませんか。

○政府参考人(五十嵐忠行君) 繰り返しで恐縮ですが、犯歴を開示するについては、捜査上の支障とかプライバシーの問題、守秘義務の問題、こういったものを総合的に判断して決定いたしたい、決定いたすべきものだというふうに考えております。

○江田五月君 森総理は、自分には犯歴がないと言っているんですから、総理大臣がおっしゃることですからうそはないと思うので、それならば、森総理の方からの求めがあれば、それは何十年も前の話だし捜査に支障はない。あるいは、守秘義務に反するといったって、だってこれは私のこういうのもちゃんと出しているわけですから、だからお出しになるのが当然だと思いますよ。森総理が交付を求めるべきだという、これは皆さんへの質問じゃありません、森総理に求めなきゃいけませんが、そういうことを申し上げて、ちょっとこの問題で時間をとり過ぎました、次の問題に移っていきたいと思います。

 さてそこで、本日の議題である民事再生法改正案と外国倒産処理手続の承認援助に関する法律案について質問いたします。

 まず、民事再生法等の一部改正案です。

 先ほども佐々木委員から御質問がありまして、御答弁もありましたが、すごいですよね、この破産事件の動向、新受件数あるいは既済件数。

 平成元年に一万三百十九人、それが平成十一年に十二万八千四百八十八件、十二倍です。自然人が九千四百三十三、そのうち自己破産が九千百九十、これが平成元年。平成十一年には、自然人が十二万三千九百十五、そのうち自己破産が十二万二千七百四十一件、大部分ですね。

 既済で見たらもう一つまた特徴があるんですが、既済件数が、平成元年の一万二千四百五十四が、平成十一年は十三万八千五百八十五。そのうち平成元年の自然人一万八百七十五中、同時廃止が七千四百三十一。ですから同時廃止がざっと四分の三。ところが、平成十一年は、自然人十三万三千二百十九のうち、同時廃止が十一万九千三百二十九。同時廃止の割合がかなり割合としては大きくなっていると思います。

 このような傾向、十年余の間に十二倍からにふえて、それも自然人がどんどんふえていって、それも同時廃止の割合などがどんどんふえてきている。この傾向というのは、これは細かな分析は結構ですから、政治家として法務大臣、どのようにごらんになりますか。

○国務大臣(保岡興治君) 先ほどの局長の答弁にもあったかと思いますけれども、バブル崩壊後の不況が非常に長く続いていることや、また新しい時代に対応する、こういう不況に対応して企業が倒産したりあるいはリストラしたりする、そういった構造改革が同時並行で進んでいるということがこういう破産、個人、自然人の破産も急増している背景ではないかと思いますし、また先ほど言われた同時廃止の手続がかなりの部分を占めているという御指摘、これはもう清算して回収できるそういった財産がその破産者にほとんど残っていないということを示している。要するに、もう本当に破綻し切っているという状況で破産の申請がなされているという状況を示しているものと思います。

○江田五月君 バブル崩壊後の庶民の暮らしの厳しさといいますか、これをよく示している。この数は、みんながみんな同時廃止の場合に低所得層とはもちろん言えませんけれども、まあやっぱりごく普通の庶民、個人で、しかも低所得層がいろんな事情から大変な債務を、負債を抱えてしまってもうどうにもならなくなって破産というところに追い込まれている、そういう切実な状況を明らかに示していると思います。

 政治の責任、与党、野党を問わずこれは重大だと。日本の経済構造、産業構造を変えていく、そういう構造改革の過程で起きているのなら、まだそれでも救われるけれども、さて、構造改革はうまく進んでいるのかどうか、これも重要な政治のテーマだと思います。

 そのことについてはきょうはそれ以上申し上げませんが、こういうような状況に照らして、債務を抱えて経済的に窮状にあるそういう個人債務者の経済生活の再生、破産というところに追い込まれてお手上げでもうどうにもならないということにならない、そうしなくても再生のためのいろんな手だてがあると。そういう人たちを迅速かつ合理的に救済、再生させていくために今回一連の再生手続の特則を設けたということだと思いますが、この前に、個人の話だけじゃなくて恐縮ですが、更生特例法をおつくりになった。それから、民事再生法もありますし、それから特定調停法もありますし、こういうようなことがいろいろ整備をされてまいりました。

 そこで、まず平成八年以降の我が国の倒産法制の改正の経緯、そして今後の見通し、特にただいま申し上げたこれまでできた三つの類型、これがどういう使われ方をしてきたかということについて御説明いただけますか。

○国務大臣(保岡興治君) 倒産法制の整備のこの数年来の経緯、これを私から説明して、その後どういうふうな使われ方をしているかということについては……

○江田五月君 簡単にお願いします。

○国務大臣(保岡興治君) 今お話しのように、平成八年の十月から倒産法制の整備を進めるということで検討を開始して、法制審議会の倒産法部会でも審議が始まったわけでございますけれども、とにかくバブル崩壊による不況が非常に厳しくなった時点で御指摘のように再建型倒産法制というものを前倒ししなきゃならぬということで、五年間かけてやる当初の予定を民事再生法については二年半前倒しをする、それで今回の提案を申し上げている三つの、二種類、一つの特例、この制度は一年半前倒しして進めてまいりました。

 残るところも、まだ破産手続の全面的な見直しや会社更生手続、特別清算手続、会社整理手続などの見直し、あるいは倒産手続における労働債権、担保付債権等の取り扱いを初めとする倒産実体法の見直しなどが残されているわけですが、これらの課題についてもできる限り早期の法案提出を目指して準備作業を進める所存で、御指摘の状況にできるだけ対応するつもりで頑張っているところでございます。

○江田五月君 特に私は、保岡大臣、大臣をここで持ち上げてもしようがないんですが、例の不動産権利調整、あれがうまくいかなくて、その後仕切り直しをして特定調停法ができた。これも私どもの共通の努力でできたものだということを申し上げておきたいと思いますが、そのようなことについて今の動向について、民事局長。

○政府参考人(細川清君) まず、特定調停法でございますが、本年二月十七日から施行されまして、一番最近の数字でございますが、五カ月間で約十万件の申し立てがございます。もっとも、これは債権者数の件数でございますので、債務者数に引き直しますと一年間で三万件、三万人ぐらいの債務者ということになる計算でございます。

 それから、民事再生法でございますが、これは四月一日から施行されたわけでございますが、八月末までに四百件ほどの申し立てがございまして、既に再生計画が認可されたものもございます。この件数は、民事再生法によって廃止された和議法と比べますと大体三倍ということになっているわけでございます。民事再生法では主として中小規模程度の企業を念頭に置いておりましたが、上場会社も三件ぐらい、そごうを初め申し立てられているという状況でございます。

 それから、更生特例法でございますが、これは法務省ではなくて今では金融庁所管の法律なんですが、要するに、会社更生法を金融機関とか証券会社、保険会社等に適用する場合の特例を定めたものでございまして、最近新聞をにぎわしておりますような大きな生命保険会社がここ数カ月の間に何件か申し立てられている、このような状況でございます。

○江田五月君 特定調停法の債務者ベースでいうと三万件というのは、一年とおっしゃいましたが、施行後五カ月ですか、だから引き直してみるとという話ですね。

 宮本次官、更生特例法の状況、細かなことはいいんですが、ざっくりと言ってみてどんなことか、急で恐縮ですがおわかりになりますか。

○政務次官(宮本一三君) 御質問の趣旨がちょっとよく……

○江田五月君 金融機関に対して会社更生法が適用できるように改正されて、そしてその後、金融機関が更生特例法の適用になるようなケースがどんなことになっているか、細かな数字まではいいですから。何か聞くところによると、そうまで必要なかろう、金融機関のことだから、だけど伝家の宝刀でつくっておこうと思ったらやっぱり適用する事例が出てきたというようなことをちょっと聞きますが、どうですか。

○政務次官(宮本一三君) 確かに、更生法の特例ということで、手続を会社更生法でやりますとすべての弁済が滞ってしまうというようなことでございますので、そういうことにならないようにということもございまして非常に大きな効果を持っておる次第でございます。

 また、預金者がそれぞれ手続に参加するということになりますと非常に大変な事態になりますので、これにかわりまして預金保険機構がかわってやるというような制度になっております。

 そういったおかげで、最近のいろんな事件が起こったときにも非常に有効に働いているということでございます。

○江田五月君 突然でごめんなさい。
 さて、こういうことをずっと見ますと、やっぱり倒産法制を早急に手直しをし整備をし、本当に今の国民のニーズあるいは社会経済上のニーズにこたえるものに改めていかなきゃならぬというのはかなり急を要する、しかも非常に重要な課題だということがわかってくるわけです。

 そこで、倒産法制というものの理念といいますか、倒産法制というのは何を達成するために手直しをしていかなきゃならぬのかと。通告というようなことじゃなかったので何も言っていないんですけれども、私はこんなふうに思うんです。

 大臣、ひとつ御感想を伺いたいんですが、民事上の特に金銭債務、債権債務があると。債権はこれはもちろん満足させられなきゃいけない。しかし、その債権の満足ができないと、しかしそれをできなきゃほっておくというわけにいかないから、そこで倒産処理をしなきゃいけないというので、倒産処理の場合に二つねらうべきものがあるのかなと。

 一つは、そこまでどうにもならなくなって債務まみれになってしまった、これはやっぱり本人にも責任があるから市場から退場してもらわなきゃいけない。特に責任ある大きな会社などで、いろんな救済を受けて市場にだらだら残っていっていつまでも市場が整理されないというのは、これは困る。個人の場合はなかなか大変ですが、退場をしてもらうということが一つあるだろう。もうばらばらにして、がらにして骨までスープでしゃぶってなくしてしまうという話ですよね。これはひとつきっちりやらないと、それこそモラルハザードその他の問題も出てくるし、やらなきゃいけない。

 しかし同時に、法人、企業の場合であっても、ばらしてがらにしてスープで飲んでしまうのがいいわけじゃないので、生きている企業であれば、その生きている企業のバブリー、オイリーな部分はスリムにして生かして経済活動をさせる方が社会経済的にプラスも大きい、そういうことができるならば。そこをよく見きわめる。

 個人の場合には、もちろんこれは退場をいただいたってやっぱり毎日の生活はあります。経済活動をしていかなきゃならないので退場もほどほどにして復活をさせていかなきゃならぬ、再生と。

 そういうけじめをきっちりつけて退場をさせる。これをちゃんとやることと、もう一方でちゃんと再生をさせていくことと、この二つの目標を同時に追求するというのが倒産法の整備の理念じゃないのかなというふうにきのう寝ながら考えたんですが、どう思われますか。

○国務大臣(保岡興治君) 非常に包括的なお話で、正しく答えられるかどうかわかりませんけれども、おっしゃるように市場原理を重視する、そういう世界がこれからどんどん進んでいくわけですね。そうすると、やはり市場原理の中で本当に公正、適正な経済活動が確保される。したがって、その中で滅びる者、合理的でない者は淘汰されるというような側面を市場原理を生かす形で大切にするという、おっしゃるような側面もあると思いますし、また一方で、生かすことができるならば、そのことが債権者の回収を完全に殺してしまうよりかは回収額も多くなる。債権者の利益にもなる。それから、債務者という一つの経済資源を生かすことにもなる。あるいは、そのことによって周辺に与える経済的影響を少なくすることができる。社会的なコストを軽減できるというんでしょうか、そういうこともある。

 それから、任意の清算は、やはり任意でみんなで話し合ってやっていくということは、それはある意味では市場原理の中の一つの形態かもしれないということを考えれば、それはそれで民間における話し合いというものは大切にするということも一つの理念ではないかと思います。

○江田五月君 例えば、退場という側面について言えば、今の会社更生法も、特にアメリカの例などを参考にしてみると、単に客観的状況、我に利あらずで会社がつぶれたという場合ならまだいいんですが、いろいろ経営上の責任を追及されるような場面があって、それでも平気で残っているというようなケースがあって、やっぱりこれはもっと厳しく退場を迫る。しかし、企業としては非常にいいものもあって、この企業はこういうところをスリム化すれば社会経済上随分役に立つものがあるというようなものを生かしていくとか、そういうめり張りのきいた運用、あるいは特に法律の整備の場合でもめり張りのきいた整備にしていく必要があるんだろうと思っております。これは意見ですが。

 さてそこで、この民事再生法一部改正案にもう少し具体的に入ってまいります。

 この改正案は、趣旨から見ると、当然これは低所得者あるいは再生途上で遂行が極めて困難になった、そういう先ほどから申し上げているような今の経済状況の厳しさの中で本当に底辺であえいでいる庶民中の庶民、こういう人たちにきっちりと経済再生、生活再建、こういう道をつくっていくという、そういうために用意されたものだと思いますが、その点はいかがですか。

○政府参考人(細川清君) この一部改正法案で御提案申し上げている小規模個人再生と給与所得者再生でございますが、これは要件にもございますように、無担保の債権額が三千万円以下ということでございますので、したがってサラリーマンとか個人で事業をしている商店の方とか農業の方とか、そういう方で負債の額が比較的少ないという人に簡易迅速な手続を用意しようというものでございます。

○江田五月君 住宅ローンの再生の特則も、別に大住宅があってもう左うちわで生きている、バブリーな生活をしている人たちよりも、むしろ普通の庶民が住宅ローンでやっと我が家を手に入れようとしたら何かの加減でなかなか払えなくなったという、低所得者層というとちょっと、もうちょっといい言葉がないかなと思いますが、普通の一般の市民を念頭に置いていると、これはそれでよろしいですよね。

○政府参考人(細川清君) 御指摘のとおり、収入が高額になる方は、私ども公務員のように住宅ローンを借りなくても家を建てられるわけですから、したがいまして住宅ローンの特則も、要するに住宅を長期間分割して返済する方法でなければ家を建てられないという人のもともと住宅ローンであるわけですから、そういう人を対象にしているんだということでございます。

○江田五月君 さてそこで、実際には、しかしこの法案の規定はそういう一般市民、低所得者層に対して厳し過ぎるのではないかと指摘する向きもあると聞いておりまして、そこを具体的に聞いていきます。

 まず、二百三十一条二項三号の計画弁済総額の百万円かあるいは五分の一か、いずれか多い額という規定、これはちょっと高過ぎるんじゃないかという意見があります。そうですね、一カ月二万円で三年というと七十二万円を目安にせめて七十万円とか、あるいは五分の一をもうちょっとまけて十分の一と、そういうような指摘もあるんですが、百万円、五分の一というのはどういうことでお決めになった数字ですか。

○政府参考人(細川清君) これは再生、再建型の手続でございますから、最低限破産の場合の配当額を下回らない弁済がなければそもそもする意味がないということになります。

 ただ、先ほど江田先生が御指摘になりましたように、同時廃止がほとんどだということになりますと、これは要するに破産をした場合には配当するものはないということになりますから、それだけが基準ですとこれは破産する場合と債権者にとっては全く同じだということになってしまいます。したがいまして、将来の継続的収入から弁済して破産宣告を免れるという、そういう目的のためには合致しない要件だということになります。ですから、さらに最低限の弁済額要件がなければならないということになるわけです。

 それで、考えなければならないのは、債務者は小規模個人再生や給与所得者再生を利用することによって破産宣告を受けないで、いわば破産者の烙印を押されることなく債権のカットを受けるわけでございます。ですから、これが余りわずかばかりの分割弁済でそういう破産宣告を免れるということになれば、やはりモラルハザードという問題が生じてくるということになります。

 また、小規模個人再生でも給与所得者等再生でも簡易な手続でございますが、破産の同時廃止をして免責を受けたという場合に比べますと、これらの裁判所とか債権者の双方にとってはるかに労力を要する手続でございますので、債務者がこの手続を利用して再生を図ろうとする以上は、やっぱり裁判所という国家機関の労力を投入し、債権者にも債権管理の手間をかけさせるという、そういうことに足りるだけの社会的な価値がなければならないということがその思想でございます。

 こういうことから、先ほど御指摘のような五分の一または百万円のいずれか多い額としているわけですが、他方、それが余り高くなってもいけませんので三百万円を上限としているわけです。ですから、負債総額が三千万円の場合には一割の弁済でいいということになっているわけです。

 それで、この五分の一、百万円の具体的な根拠でございますが、これは債権者にとっても、破産の免責を受ける場合は破産の場合よりも利益がなければならないということでございます。破産の宣告がありますと、債権者はその破産宣告を受けた、免除された債権の全額について税務上の損金処理をすることができるわけですから、十分の一程度の額では、これは損金処理の利益とそれから債権管理のコストがないということに比べてみますと、破産のときよりも債権者が有利にならぬという、そういう問題もございます。

 それから、これは百万円なり五分の一というものを三年、長い場合には五年間に分割していくわけですから、いろんな債権、何人か複数ある債権者に分けてみますと、それがもっと小さい額になるわけです。ですから、余りにも小さい額ですとコストが引き合わない、こういうようなことからこういう金額が出てくるわけでございます。

○江田五月君 ぽんぽんとそのようなことについて聞いていきますので、これは証拠でもって証明するというわけにはなかなかいかない難しいことで、どこかで切らなきゃならぬという話ですから大変だと思いますが、考え方をひとつ簡潔にお答えください。だけれども、毎月毎月二万円というのは結構きつい人たちもいるので、そのことは一応頭に置いておいていただきたいと思います。

 二百二十六条、債権者一覧表に異議を述べることがある旨を記載していないものは異議を述べることができないと。しかし、この点で、特に利息制限法の上限を超えて既払いの利息は、これは多分元本充当というのは今も変わっていないと思いますが、そういうことを知らずに、利息として払ったからこれはしようがないというようなことで異議を述べることがある旨記載しないというのは、そういう債務者がいる場合などには不適切になってしまうという指摘がありますが、これはいかがですか。

○政府参考人(細川清君) 確かに貸金業者等から借りた場合に利息制限法に超過している利息を取られている場合が往々にしてあるんですが、そういう場合に、自分で計算できない場合には申立人である債務者は異議をとどめるということさえ書いていただければいいわけです。

 それから、異議をとどめるということを書かないでそのまま手続が進んだ場合でも、この個人再生手続では債権調査の意味が手続的に確定するだけです。つまり、三千万円を超えていないか、五分の一が何かという金額を確定するために使っているだけで、実体的に確定しているわけではありません。ですから、訴訟を起こして真実の額は幾らだというふうに確認すればいいので、そうしますれば、その確定した額がその再生計画で定められた一般基準に従って分割されて変更されていく、こういうことになります。

○江田五月君 手続を進めるための確定である、しかし実体的に確定するわけではない、したがって今の利息制限法の場合以外でも債務不存在確認の確定判決を得れば、それはそれでもうよろしいということですね。

 次に、最高裁民事局長、規則を準備されていると思いますが、特に一般市民層、低所得者層、そういう人たちへのいろんな配慮のある規則をつくっていかなきゃならぬと思いますが、どういう特段の配慮がございますか。

○最高裁判所長官代理者(千葉勝美君) 今回の個人債務者再生手続の申し立ては一般の個人による小規模な申し立てが中心になると予想されるところでございます。

 必要な費用といたしましては、申し立て手数料一万円のほか予納金を納付していただく必要があるわけでございますが、その中身は、先ほども御説明申し上げましたけれども、官報公告費用、送達通知の費用の概算額、それから個人再生委員の報酬見込み額、こういうものがございます。

 そこで、送達通知に充てる郵券につきましては、これは必要な郵券を納めるということでございますけれども、手続が小規模で債権者の数がそれほど多くはないわけですので、少額にとどまるのではないかと思っております。それから、個人再生委員の報酬につきましても、これは権限が限られている、規模が非常に小さいということでございますので、民事再生手続に比べて相当低額なものになっていく。全体的に費用はそれほど普通の再生手続と比べてかからないというふうに考えております。

 それが前提でございますけれども、このほか裁判所といたしましては、個人の小規模な申し立てに備えまして、これは規則というようなことではなくて運用の話でございますけれども、手続の内容を簡潔に説明したリーフレット、これを裁判所の受付窓口に備えるなど窓口での手続教授の対応をする、あるいは指示に従って空欄を記入していけば完成するような定型の申し立て書を用意する、こういうようなことも考えてございます。それから、例えば定期収入についての添付書類につきましても入手しやすい給与明細書の写しの提出を認める、そういうようなことで、少しでも利用しやすい運用を検討しているところでございます。

 規則の中身を申し上げますと、手続の円滑運用を図るということでこれから検討してまいりますけれども、運用の面では今のような形で検討していきたいと考えております。

○江田五月君 これはやはり最大限そういう運用を、規則においてもあるいは窓口の指導においても考えていただきたいと思います。

 それから、二百三十九条五項二号の過去に免責を受けた者に対する給与所得者等再生の申し立て制限、これは必要ないんじゃないかという指摘もあるんですが、これはモラルハザードとかそういう話ですかね。答えていただけますか。

○政府参考人(細川清君) 給与所得者等再生は債権者の同意なくして再生計画が認可されるものであります。したがいまして、同意なくして、要するに最低弁済額として決めたもの以上は免除される、そういうことになるわけでございます。ですから、過去に破産免責を受けた人、つまり破産免責でも債権者の同意は要らないわけですから、そういうものを短期間のうちに続けてやるということは、これは何といってもモラルハザードの問題が生じてくるということでございます。

 そこで過去に破産免責等を受けた者については申し立て期間の制限を認めているわけですが、ただ、これで給与所得者再生が使えない人は、今度は小規模個人再生の方にはその制限がありませんからそちらで利用していただいて、少なくとも半数以上の債権者の反対がないという状態になればこの再生計画を認可してもらうことができるわけでございます。

○江田五月君 ハードシップ免責四分の三以上の弁済は三分の二ぐらいでいいんじゃないかという意見もあるんですが、どうですか。

○政府参考人(細川清君) その点についても法制審議会の審議でもいろいろ御意見があって、割と重要な論点であったんですけれども、要するに自分の責任でない事柄で遂行できなかった、少なくとも、完遂はしていないんですけれども相当部分は遂行した、こういう場合に遂行したと同じような効果を与えようというものですから、それはおのずから完全に履行した場合に近いものでなければいけない、そういうことで四分の三ということにしてあるわけでございます。

○江田五月君 効果が完全履行したと同じことなんだから弁済の方もなるべく多い方がいいよ、やってくださいということですね。

 小規模個人再生で債権者の同意を要件とすべきでないという指摘もあります。これは、人の場合は半数以上か、金額でいうと半分を超えるか、ちょうど微妙な違いを置いていますね。これは何か理由があるんですか。それと、そんなものは要件とすべきでない、特に高利の貸金業者等が統一基準をつくって不同意として小規模個人再生手続が非常に制約を受けるおそれがあるよというような指摘もあるんですが、これはやっぱりどうしても必要ですか。

○政府参考人(細川清君) 給与所得者等再生では可処分所得の二年分ということで、同意はなくてもいいことになっています。これは、この要件からきまして、その人の過去の収入から将来の収入を確実に把握できる、したがって債務者が将来にわたって払い得る限界というのはおのずから客観的にわかる、こういう前提です。ですから、無理なことは要求できないので、最大限していただければ同意がなくてもいいだろうという思想でございます。

 これに対して、小規模個人再生の場合には、将来の収入が確実に把握できるという要件がございませんので、債権者の同意を全く不要だということにしますと債権者に対して非常に不利益が及ぶ可能性があるということでございまして、そこでそのかわりに、積極的な同意のかわりに消極的な反対が半数を超えなければいいということになっております。

 それから、債権者の頭数と債権額については微妙な差がありまして、債権者数の方には半数に満たない、それから債権額では二分の一以上を超えないということで若干差があるんですが、それは少なくとも積極的な通常の場合の要件をひっくり返して債権者の棄権の人を賛成の人の方に加えていいという、それ以上の利益はやっぱり与えるべきではない、そういう考え方で規定したものでございます。

○江田五月君 はい、わかりました。
 三千万円の制限、これじゃそんなもの皆超えちゃうよという指摘があるんですが、そうでもないという意見もあります。

 そこで、これはもちろん別除権などを全部除いた債権が三千万ということなんですが、今の破産申し立てのケースなどの実例から見て、三千万円という制限だと大部分がそれ以上になっちゃうよというんじゃこれは使いようがないので、そこでどのくらいまでがこれでカバーできるのかをお答えください。

○政府参考人(細川清君) 三千万円について考慮した事情でございますが、アメリカの連邦倒産法の十三章の手続では、似たような手続なんですが、これは無担保の債務総額が二十五万ドル以下ということになっていまして、二千八百万円ぐらいでございます。

 それから、個人の債務者の破産事件で、一件当たりの破産債権の総額が五百万円から一千万円までの範囲であるものがほとんどでございます。商工ローンとかで借りた場合にはもうちょっと、二千万円等に上る場合がありますので、安全を見て三千万円というふうにいたしたわけでございます。したがいまして、個人の破産事件の少なくとも九割の人はこの対象になるだろうというふうに考えております。

○江田五月君 これは改めて確認ですけれども、この法案による個人再生手続とこれまでの自己破産の手続、これはあくまでも本人がどちらでも選択できると。これはそれでよろしいですね。

○政府参考人(細川清君) 御指摘のとおりでございます。

○江田五月君 もう一つ、債務者が個人事業主である場合に、その個人事業主の従業員の賃金債権の確保、これは支障がないようにしなきゃならぬと思うのですが、これは一般先取特権で一般優先債権ですから、その部分はもちろんまず真っ先に弁済されるという理解でよろしいんですか。

○政府参考人(細川清君) 労働者の賃金債権等につきましては、民法と商法に一般先取特権の規定がございます。したがいまして、民事再生手続上は、小規模個人再生でありましても給与所得者再生でありましても要するに一般優先債権でございますから、御指摘のとおり随時その権限を行使することができるということになります。

○江田五月君 この委員会室へ入ってきたら北海道の農民の皆さんから切実な問い合わせがあるので聞いてくれというのがあって、個人の農業経営者、これはもちろんこの法案の対象になりますよね、確認ですが。

 それから、給与所得者再生と住宅ローンの特則、これは農業者についてはどういうことになるのか。農業者であっても、例えば農業生産法人の従業員であるとか、給与所得であれば当然、あるいは住宅ローンも別に農業者とほかの人と変わることはないということだと思いますが、その二つ。それでよろしいといえばよろしいと。

○政府参考人(細川清君) まず、住宅資金特別条項に関する特則でございますが、これは通常の民事再生手続でも小規模個人再生でも給与所得者再生でも、すべての手続において使えるものでございます。

 それから、農業者についてですが、通常の手続を使えることは当然でございます。それから、小規模個人再生においても当然この要件に合致すれば使えます。それから、給与所得者等再生は、自分が給与等をもらっている人のことですから、御指摘のとおり農業生産法人に勤務しているような方は使えますけれども、自分みずから事業主になっている人は給与所得者等再生は使えないということになります。

○江田五月君 その他、農業関係でさまざまな要求、切実な声がございますが、これはまた別の機会にお伝えをしたいと思います。

 次に、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律案ですが、最高裁にまず伺います。

 規則をおつくりになると思いますが、外国倒産処理手続の申し立てに際して、これは外国管財人が申し立てる、あるいは債務者ですか、その外国の法制度の内容とか判例、運用実態などについて日本語による十分な資料を用意させるように規則を書かなきゃならないと思いますが、これはいかがですか。

○最高裁判所長官代理者(千葉勝美君) 裁判所法七十四条は「裁判所では、日本語を用いる。」と規定されてございます。外国倒産処理手続の承認援助手続において、この点も同様でございます。したがいまして、御質問がありました申請する際の提出の資料につきましては、これは訳文添付が当然必要とされる。これは民訴規則百三十八条にも訳文添付の規定がございますけれども、これを準用するということで規則を今考えておるところでございます。

 それから、それ以外の外国法制に関する資料、これにつきましても、いろんな形で日本語の文献などが手に入るような形の対応を考えていきたいと考えております。

○江田五月君 そこで、そういうだれでも手に入る国のことならいいんですけれども、手に入らないような、余り知られていないような国で始まった倒産手続が日本で承認援助を求めてくるような場合に、例えば保全管理命令などが出されて、利害関係人としていろんな人に通知がされて、そういう皆さんが自分たちの権利の保護のために記録の閲覧を求めてくる、こういうときには、当然その外国の法制度について日本語で申請時に添付された資料は開示されると。これはよろしいですね。

○最高裁判所長官代理者(千葉勝美君) 外国倒産処理手続の承認援助手続についての閲覧、謄写でございますけれども、これは法案の十三条一項におきまして、「利害関係人は、裁判所書記官に対し、この法律又は第十五条において準用する民事訴訟法の規定に基づき、裁判所に提出され、又は裁判所が作成した文書その他の物件の閲覧を請求することができる。」と、こう規定されております。二項では、利害関係人が文書等の謄写等をすることができるという旨を定めてございます。

 裁判所といたしましては、これらの規定の趣旨に従って、適切な閲覧、謄写の運用を心がけていきたいと考えております。

○江田五月君 労働組合の皆さんなんかから、世界じゅうにはいろんな法制度があるだろうと。例えばどこかの国で自分の国の国民に優先権を与えて外国には全部劣後だというような倒産法制が仮にあったとして、そこの人に日本の債権者が債権譲渡して、それでそこの国で執行が始まって、それを日本に承認援助を求めてこられる、そんなことをされたらたまったものじゃないというような指摘があります。

 そういうことにはなっていない、それは当然そんなことはならないように手当てをしていると。特に、労働債権者等国内の債権者が少なくとも不利になるようなことになっていないと思いますが、どういう点でそういう配慮がなされているのか、それをお答えください。

○政府参考人(細川清君) 御設例の、要するに承認を求めている外国倒産処理手続が依拠している法制が自国民を有利にして外国民を差別しているというのは不合理きわまるものでございます。したがいまして、これは承認の棄却事由である日本における公の秩序または善良の風俗に反するということになりますので、それは承認の申し立ては棄却ということになろうかと思います。

○江田五月君 棄却ですよね。
 ただ、こっちではちょっと有利だけれどもこっちではちょっと不利だとか、そういうでこぼこがある程度あるような場合もある。そのでこぼこでちょっとでも日本の法制度と比べて、例えば労働債権者に不利なような制度になっているとかになったらもう初めから承認棄却となるのか、それともまあ全体を見て、これはとにかく承認をしておくが、後に個々の処分について、この処分はだめですよとかこの処分はここでストップですよとかこの処分はこういう解除をしますよとか、そういうような手だても講じておられるんだと思いますが、その点の説明をしてください。

○政府参考人(細川清君) 先ほど申しましたように、公序良俗に反しとまでは言えなくて承認する場合であっても、今度は承認援助処分をするときに、例えば労働債権が未払いのものがある、それを払ってもらわなければ労働者の生活が成り立たないというような場合を考えてみますと、こういう場合には弁済禁止命令とかあるいは個別の権利の執行の禁止の命令において労働債権のものは除外するということになろうかと思いますし、またその承認管財人等があるいは債務者等がその当該企業の資産を外国に持ち出そうという場合には裁判所の許可が必要となりますので、裁判所の許可を得るためには、外国に持っていかれちゃうと労働者の配当の順位が低いから日本の労働者が困るという場合には許可しないということにいたしまして、そういう場合には、日本の労働者は個別的な権利執行するとか、あるいは国内の倒産手続を申し立てるとか、そういうことができるわけでございます。

○江田五月君 総じて、今回のこの外国倒産処理手続の承認援助手続においては、労働債権者の雇用契約上の地位とかあるいは実体法上の優先的地位とか、こういうものに配慮がされておるので、国内倒産処理手続と比べてこの承認援助手続は労働債権者に不利となるものではないんだと、こう自信を持って言えますか。

○政府参考人(細川清君) 例えば、承認援助手続をしたときは労働組合に通知することを裁判所に義務づけております。要するに、承認はされたけれども、それが労働者に不利だと思えばそこで国内手続を申し立てればいいわけで、国内手続は外国の手続よりも原則として優先するわけです。例外として外国承認手続が優先するのは、日本の債権者に不当な不利益がないとか、そういうことが要件になっています。ですから、結果的に日本の労働者の債権等が不当な扱いを受けるということはないものと確信しております。

○江田五月君 その確信をひとつ皆さんによく知らせるようにしていただきたい、困ったことがあったらこういうこともできるんですよということはちゃんとわかりやすく説明をしていただきたいと思います。

 さて、国際化が急激に進展する時代、この法案が成立すれば、海外における企業倒産についての情報の収集とかあるいは情報提供の必要性が高まると思うんですね。

 保岡大臣、所管事項ではないかと思いますが、政治家としてお答えいただきたいんですが、国内であれば帝国データバンクとかいろいろありまして、民間の信用機関、これから情報提供サービスがあるが、海外の情報がどういうふうになるのか。突然、超大型倒産が海外で起こって、日本のある種の企業、産業がもう大変な困難に直面するというようなことだってあるわけで、そういうような海外の情報、企業倒産についての情報収集・提供体制の整備、政府の仕事か民間の仕事か、そのあたりは微妙なところがあると思いますが、全体としてもっと我々はそういうことにも注意を向けていろんな活動をしていく、あるいは活動をエンカレッジしていく、そういうことが必要だと思いますが、例えば閣議でそういう問題提起をされるかとか、大臣のお答えを伺いたいと思います。

○国務大臣(保岡興治君) これから国際的な広がりで活動、営業する企業というのはもうどんどんふえていくと思いますし、IT、コンピューターネットワーク、こういった技術の進展によってそれはもう拍車がかかるものだと思います。したがって、企業活動の戦略、戦術をつくるためには当然情報があって初めて正しくできるということですから、そういった国際的な企業活動の前提となる情報を我が国の企業が持つということは極めて重要な問題だと思います。

 ただ、それは非常にある意味で情報の正確さとか内容については責任が伴います。したがって、これを公的な機関で対応するというのはなかなか難しいんじゃないか。一般的な情報であれば、公的なところで諸外国の経済情勢やあるいはそのルールの仕組み等についての情報の提供はあってしかるべきかと思いますが、個別の企業の情報などはやはり民間のすぐれたノウハウを、しかも幾つかのそういった調査機関が競争して、そしてその格付を求めて努力していって、そういう中で我が国もそういう情報提供を受けられるような環境に参画するあるいは連携するということが求められるんじゃないか、そういうふうに思います。

○江田五月君 この新たに創設する外国倒産処理手続の承認援助手続、これが適正迅速に運用されるように、諸外国の倒産処理制度及び実情について、これは一般論ですが、調査研究、周知、こういうものは政府としてもやっていかなきゃならぬと思いますが、これは法務省の仕事か、あるいはもっと違うところの仕事か、いろいろあると思います。

 そこで、宮本政務次官にお越しいただいておりますが、この点、宮本さんにも、海外での企業倒産などについての情報収集・提供体制の整備の必要性をどう考えるかを伺います。

○政務次官(宮本一三君) 御指摘のように、これから海外での情報、そうしたものの収集は非常に大きなウエートを持ってまいるわけでございます。金融庁といたしましても、そうした角度で鋭意努力をいたしておりますが、さらにこれからも一段と努力をし、そうしたあらゆる事態に対応できるような整備を心がけてまいりたい、このように考えております。

○江田五月君 きょうは、さらに住専処理から始まった一連の金融再生の過程、あるいはその過程で本来退場すべきものが債権放棄等々で延命をされているんじゃないかとか、そうしたことも伺いたかったんですが、ちょうど時間になりましたので、これで質問を終わります。
 ありがとうございました。


2000/11/07

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