2001/11/27-1 |
153 参院・法務委員会
9時半から15時半まで、法務委員会。22日に続き、刑法と刑訴法の改正案の質疑で、午前中は参考人質疑。東名高速で酩酊トラックに追突され、お子さん2人を亡くされた井上郁美さん、川本哲郎教授、笠井治弁護士から意見聴取の後、私も15分間、3人に質疑をしました。
○江田五月君 きょうは参考人の皆さん、本当にありがとうございます。とりわけ井上参考人、本当につらい思いをまた思い出させるという場だったかと思いますが、よく来ていただきました。また、きょうは傍聴人の皆さん方もお集まりで、こういう機会に皆交通事故の問題を考えていただいて、本当にありがたいと思っております。
私は民主党ですが、民主党としても被害者の皆さん方やいろんな皆さんの声を聞いて、ことしの四月でしたか法案を提出して、しかしそれは衆議院の方で多数の理解を得られず否決になって、そして今回の内閣提出の法案になったというので、ここまでこぎつけていただいたという大変お褒めの言葉をいただいたんですが、私どもはもっと早くできたんじゃないかという、そういう反省も実はしているわけです。
それで、井上さんに伺いたいんですが、今回の法律で、これでもなお本当に被害者の皆さんの思いをしっかり私たち受けとめているのかどうかというのを常に自問自答しているんですが、先ほどのお話でも、何人殺しても五年以下という業務上過失致死、これは軽過ぎるという、つまり業務上過失致死傷罪の法定刑をもっと引き上げなさいよという、そういう御主張が一つあるんだろうと思うんですね。もう一つは、これはどうも事故なんという話じゃないよと、こんなひどい運転していて、もうその運転自体がとんでもない、社会に許されない。まして、それで死傷の結果が生じたんだから、これは過失の交通事故なんというものじゃないものをつくりなさいよという声。
その二つは、よくよく考えて見ると別のことなんですが、今回はその後者の方で対応したんですが、交通事故の法定刑をもっと引き上げてくださいというその思いにもこたえられているでしょうか。
○参考人(井上郁美君) そうですね、私たちが署名活動を行ってまいりましたのは、必ずしも悪質な交通事故の被害者や遺族に限らず、いわゆる単純な過失によって家族を亡くされた方、遺族の方々も快く協力してくださった方がたくさんいらっしゃいます。
皆さんに共通しているのは、今の交通事犯の量刑はとにかく軽過ぎるということで、悪質な交通事犯でもせいぜい懲役一年六カ月、二年いけばいい方と、一人亡くなった場合ですね、そのような状況でありまして、実は私たちのように懲役四年、十分重いじゃないかというような声でさえ聞かれました。
一方で、単純な過失によって一回目の事故、死傷事故を起こした方に対しては、大概執行猶予がついてしまう。下手すれば略式起訴、罰金二十万円で、人の命の重みが本当に現行法で反映されているのかという声も多々聞かれました。確かに、今回の法改正は危険運転致死傷罪という極めて限定された悪質な交通事犯に対するものを取り上げて、そちらを暴行罪に準じた形で取り上げてくださったと。
ただ、その一方で、交通事故に対しての認識というのは確実にこの一年間で変わってきたと思うんですね。皆さん、交通事故に関係のない一般の人たちでも、ああ今の現行法はそんなに軽いのか、その現行法の最高五年というのでさえめったやたらに出る刑ではなくて、ほとんどの人が一日も交通刑務所に行くことはないのかということを、そういう現実を初めて知ってくださった。そういう意味では、交通事故に対して今、物すごく機運が高まっている時期だと思うんです。
ですから、私たちは今回の法改正はまず第一歩だと思っています。これから悪質でないものに対しても、やはり量刑の問題については引き続き法務省や警察庁、それから国会の先生方とともに改正していただけないかというふうにこれからも継続的に協力をお願いしたいというふうに思っています。
○江田五月君 川本参考人、笠井参考人にも同じ質問に答えていただきたいと思います。
全体に業務上過失致死傷の法定刑を引き上げるという対応の仕方と、危険運転で致死傷というのを特別にとらえて対処するというやり方と、一長一短あると思うんですが、業過の場合に運転行為の危険性それから結果の重大性、その両方で量刑が決まって、運転行為がいかに悪質であっても結果が軽ければ、それは従来ならばそれは量刑は軽くなりますよね。あるいは罰金で済まされるかもしれない。運転行為自体はそれほど悪質でなくても結果が極めて悪質となれば、これは量刑としては重くなる。今回はそういう構造ではない。この対処の仕方についての御意見というのはいかがでしょう、川本さん。
○参考人(川本哲郎君) 江田先生も御存じのとおり、業務上過失致死傷の規定というのはちょっと変わったものでございまして、私もそれを随分前に研究したことがあるんですけれども、ドイツから持ってきたものです。ドイツはそれを廃止しておりますので、今、日本の規定は珍しいものだろうと思いますし、さらにその後で重過失の規定も設けております。
さらに、業過は圧倒的に交通事故が多いわけですけれども、それ以外のものも業務上過失の中に入ってくるということですから、私個人としましては、業過を引き上げるというのも一つの方法だろうとは思いますけれども、今現在問題になっているのは先ほど先生も御指摘のとおり無謀運転、つまり未必の故意の認定はどうもこれはイギリスでも日本でも難しいようでして、いかに無謀な運転をしていてもこれはやっぱり行為の認定はなかなかできない。そうなれば、それに限りなく近いものについて別の犯罪類型を設けて対処するというのは一つの方法なのかなというふうに考えております。
○参考人(笠井治君) 私も、交通事故に関しまして、これを業務上過失というふうにとらえること自体の構成の問題があろうかと思いますけれども、それはともかくといたしまして、本罪のように、基本行為そのものの処罰はありませんけれども、故意行為としてとらえてそういう行為をやっちゃいかぬのだというところに主眼を置いた規定を設けることの方にやはり犯罪抑止という意味で、危険行為の抑止という意味で意義があるのではないかというふうに考えています。
○江田五月君 そうしますと、次の問題なんですが、故意行為と危険運転というものを一定の、これ単に危険運転は罰するとやったんじゃちょっとどこまで広がるかわからないんで、そこで具体的にアルコールの影響とかスピードの関係とか信号の関係とかいろいろとらえて類型化して、こんなむちゃな、しかもそれを殊さらやっているということは、それ自体がもう社会的には許されない行為ですよと。そして、その結果、死傷が起きた場合というので、その死傷の死は重大ですが、傷害の方は、その傷害の程度がどうであれ、傷害の結果が起きれば、そこに過失がなくても、傷害、死傷の結果が起きるということには過失を問わずに、故意行為だけをとらえて、結果が起きればそれで処罰するという規定にしたんですけれども。
そうすると、初めの、今の基本行為という故意の行為、危険運転、そのことだけをとらえて、そのこと自体でもう処罰をすると、そういうふうにしておけば、例えば井上さんのケースで、料金所ですかね、そこでもいろいろあったようですよね。その段階でもうこれは犯罪だというので、飲酒運転でも捕らえることはできたんですが、しかしそれにしても、ぷっと吹くとかいうのは何もなかったでしょうから。だけど、あのような状況のもとで、もうふらついてどうにもならないという。そうすると、もし危険運転をそのまま犯罪にしておけば、そこで捕らえることもできたんだと。
犯罪の結果が生じてから手を下すよりも、もう結果が生じることが極めて高い蓋然性で予測されるようなものは未然に防止するというのも重要なことなので、危険運転罪というものをつくってはどうかという気もするんですが、これはちょっと専門的な話にもなりますけれども、もし井上参考人、お考えがあればお聞かせください。
○参考人(井上郁美君) 確かに、料金所の問題は、私たちの加害者は料金所で職員に呼びとめられて、あなたは足元がふらついているんじゃないですかというふうに言われたのにもかかわらず、大丈夫です、風邪を引いただけです、薬を飲んだから大丈夫ですというふうに振り切って、そのまままたハンドルを握り締めて事故を起こしたという、そういうかなり故意に近いことをしているわけです。
私たちの目から見ると、問題はどこにあるかといいますと、結局、公団の職員は警察とは違って、どれほど限りなくクロに近いというふうに思っても自分たちにはその人を逮捕する権限もなければ引きとめておくこともできないという、そういうふうな言いわけで逃れられてしまっているところに問題があるんじゃないかなというふうに思います。現に、この加害者は一一〇番通報もされておりましたが、結局、警察は見つけることもできませんでした。
そこら辺は警察のパトカー、ハイウエーパトカーの体制の脆弱なところも露見しているのではないかなと思いますが、やはり一般のドライバーが高速道路で、仮に私たちの事故のように事前に蛇行運転しているトラックを見かけたときにだれに通報するかというと、結局、料金所の職員ではないかなと思います。その職員が何も権限を持っていないというところがちょっと問題があるのではないかなというふうに感じています。
○江田五月君 川本参考人、笠井参考人にも伺いたいんですが、ちょっと時間の関係で、もう一つ井上参考人に。
衆議院の方で被害者の皆さんから免除の規定について強い懸念が表明されましたが、これはもちろん運用が、変に運用されたらそれは大変で、軽いものはより軽く、重いものはより重くという、そういうめり張りのきいた運用ならば免除の規定はそれはそれでだんだん理解は広がっていると、こういうふうに伺っていいんですか。
○参考人(井上郁美君) 江田先生のおっしゃるとおりで、多少やはり誤解を招いてしまっているところがあると思うんですが、めり張りといいますものの悪質であるものを一方で規定して、それ以外のものがすべて軽微なというふうに誤解されてしまっているところが大きいのではないかなと。その誤解は今徐々に解けつつありますし、またこれが運用されていきましたら、実際問題、二百十一条の第二項が適用されるのは、死亡事故はもともと、そもそも該当しないというところで、じゃ、遺族が余り感情的になることも必要ないのではないかというふうになっていくと思っております。
○江田五月君 これはきょうの午後もまだ質疑があるし、十分確かめておきたいと思いますが、例えば示談ができても、示談ができてもなお被害者の皆さんがこれは処罰をしてほしいと、自分は示談のために言ってるんじゃないと。今もお話しのような、例えば交通事故の前科、前歴などを見たら、示談としてはいいけれども、処罰は、これはしてほしいというような場合には免除にならないというあたりのことは確認をしておきたいと思っております。
川本参考人、笠井参考人、先ほどの危険運転罪自体、つまり基本行為を可罰的行為にするという知恵は私はあるんではないかと思いますが、いかがですか、お二人。
○参考人(川本哲郎君) 十分考えられるとは思うんですが、ただ危険運転自体となりますと数が多いということと、取り締まりが非常に困難だろうということと、さらにそれに対する刑罰もそれほど重くはならないということが考えられます。
そうしますと、先ほど申し上げたように、危険運転罪を設けて、それに対する重い処罰を科すことによって危険運転自体が減少する、一般予防効果ですね、そちらをねらうというのも一つの手だろうというふうに考えております。
さらには、重罰化というものは、いきなり引き上げるというわけにもまいりませんので、まずこういう形で設けてその様子を見て、さらに厳罰化が必要であればそちらの方向に行くでしょうし、そうでなければ後退するということもまずファーストステップとしてとらえたらいいのかなと私は思っております。
○参考人(笠井治君) 私も全く同感であります。
危険運転行為に関しましては、本罪で問題になっているほどの危険ということではなくて、道交法にさまざまなカタログがございます。それを重刑化、重罰化するということを御質問者はおっしゃっているのかとも──そうではございませんか。
○江田五月君 違います。
○参考人(笠井治君) 危険運転行為について、その行為自体をとらえて重くするということになりますと、やはり問題としては捜査上の問題でそれをとらえることができるのかどうなのかという、そこら辺の外延の難しさがあるのではないかというふうに考えられます。
○江田五月君 結果的加重犯の構成ですから、だから、例えば共犯の問題などどういうふうに整理をするかとか、いろいろ刑法上、なかなか服は着ても何か身にぴったりつかないというような感じがどうもするので、そんなことを言ってみたわけです。
終わります。
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