2002/07/17 |
154 参院・憲法調査会 参考人質疑
12時半から2時間強、憲法調査会。参考人として、日弁連の人権擁護委員会元委員長の岡部保男さんと現委員長の村越進さんから、日弁連の人権問題への取り組みの歴史や現在の提言活動などを伺い、委員の質問に答えていただきました。私も20分間、論憲、法律扶助、人権擁護法案などにつき質問しました。
○会長(上杉光弘君) ただいまから憲法調査会を開会いたします。
日本国憲法に関する調査を議題といたします。
本日は、「基本的人権」について、弁護士・日本弁護士連合会人権擁護委員会元委員長岡部保男参考人及び弁護士・日本弁護士連合会人権擁護委員会委員長村越進参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。
この際、一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多忙のところ本調査会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。調査会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。
忌憚のない御意見を承り、今後の調査に生かしてまいりたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。
議事の進め方でございますが、岡部参考人、村越参考人の順にお一人二十分程度御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
なお、参考人、委員ともに御発言は着席のままで結構でございます。
それでは、まず岡部参考人お願いいたします。
○参考人(岡部保男君) 御紹介いただきました岡部でございます。
本日は、日弁連の人権擁護活動について意見を述べる機会を設けていただき、ありがとうございます。
日本国憲法の下で、日本弁護士連合会、各単位弁護士会、ブロック弁護士会連合会、そして個々の弁護士がそれぞれ人権擁護活動に取り組んでまいりました。その活動は極めて広範な領域にわたって、多種多様な人権問題について、五十年を超える活動をしておりますので、その全体について取りまとめることは、整理要約することは私の到底できるところではありませんが、本日は、私の理解している範囲でその内容を御説明いたしたいと思います。
人権擁護活動は、大きく分けて三つの課題分野があります。その一は、個々の人権侵害事案について調査し、人権侵害行為に関係する個人、団体、企業、省庁等に対して警告、勧告、要望等を行う人権救済活動です。その二は、各省庁、地方自治体、その他の団体、企業等に対し、その組織、制度の運用や政策等について、基本的人権擁護の観点から調査研究し、提言する活動です。その三は、国会、地方自治体等の立法について、基本的人権擁護の観点から検討し、提言する活動です。人権機関としては、更に人権教育と研修プログラムの策定も任務になりますが、日弁連としては、この分野については若干の実績がございますけれども、まだまだ不十分で課題となっております。
弁護士及び弁護士会の人権擁護活動の歴史を概観しますと、大日本帝国憲法時代においても、個々の弁護士あるいは弁護士の集団は様々な人権擁護活動を行っております。しかし、弁護士会としての人権擁護活動の取組は、弁護士会そのものが形成段階にあったためにほとんどありませんでした。
日本国憲法の下で弁護士法が制定され、弁護士法第一条に「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と明記されましたことにより、基本的人権の擁護はすべての弁護士と弁護士会の使命として明確に位置付けられることになりました。個々の弁護士だけではなく、日弁連を始め各単位会及びブロック弁護士会連合会として、そのためのスタッフ、予算を計上して人権擁護活動に取り組んできました。その結果、個々の弁護士では到底取り組むことのできない広い領域にわたって大きな活動をすることができるようになりました。この点において大日本帝国憲法時代との大きな相違があります。
日弁連の人権擁護活動をその時代の特徴的な課題を軸に整理しますと、昭和二十五年から昭和三十年代半ばまで約十年間、第一期、創始期の時期であります。そして、昭和三十年代半ばから昭和四十年代半ばまでの十年間、この時期は沖縄問題あるいは再審の取組などを始めとする第二期と言うことができるかと思います。そして、昭和四十年代半ばから昭和五十年代半ばまで、第三期というべき時期でありますけれども、再審問題が積極的に進んでいく、あるいは公害問題が新たな課題となり、薬害問題などにも取り組むと、こういったような時期であります。昭和五十年代後半から平成元年ころまで、死刑再審四事件について開始決定、無罪が出る、あるいは消費者問題等の活動が始まる。そして平成二年以降今日まで、その活動の分野は、国際人権、高齢者、障害者、犯罪被害者等、社会に起きてくる新たな要請にこたえて更に広がってきたというふうに分けることができるかと思います。
私は、この時期の区分に従って、概略、どういう時期にどういうふうな活動を、そしてどのような委員会ができたかということを、時間の関係もございますので、このレジュメに書いてある中を少しはしょりながら御説明申し上げたいと思います。そして二番目には、現在の弁護士会の人権擁護活動がどのような仕組みで行われているかというふうなことを申し上げたいと思います。そして最後に、平成七年以降昨年までの人権救済活動の中でどういうふうな事例を日弁連として取り上げてきたかというふうなことを御紹介して、我が国の人権状況の一端を御紹介したいというふうに考えております。
人権擁護活動の内容の時期的な概観でありますけれども、第一期は、先ほど申し上げましたが、昭和二十五年から昭和三十年代半ばまでであります。
このころは、弁護士会もようやく人権問題ということを、戦前の人権擁護活動を引き継いで、より積極的にというふうなことで動き出したところでありますけれども、まだ会全体としてというふうな状況ではなくて、そこに挙げてある捜査機関の人権侵害に対して人権総会等で決議をするというふうなことが多うございました。
それから、二番目の(2)で挙げてありますように、これは多くの先生方も御承知と思いますが、近江絹糸事件その他の人権侵害事件について日弁連として取り組んで調査をするというふうな時期でございます。
第二期、昭和三十年代半ばから昭和四十年代半ばでありますけれども、この時期になりまして、昭和二十七年の平和条約により、暫定的にアメリカの統治下に沖縄は置かれました。これに関連しまして、昭和二十八年の土地収用令による軍用地接収をめぐる問題が起き、沖縄の人たちは反対運動を激しく行っておりました。この運動に伴う様々な問題あるいはあつれきについて、人権擁護委員会は沖縄人権問題調査委員会を設置して取り組んでまいりました。これはかなり遅い時期までこの活動は続けてきました。
もう一つは、この時期の特徴は、再審問題に対する取組であります。無辜の者を有罪にする誤判は法治国家おいて最大の人権侵害でありますけれども、あってはならないことでありますけれども、少なくない冤罪被害者がおります。
この時期に日弁連が取り上げたのは、四ページ冒頭に書いてありますように、徳島ラジオ商殺しの事件、それから吉田石松、吉田翁と言われましたけれども、吉田石松の再審事件、そして免田栄さんの再審事件であります。
これは非常に著名でありますから先生方御承知だろうと思いますけれども、吉田翁の場合は特にこの冤罪の被害は深刻でありまして、五回の再審請求を行ってようやく再審が認められたと。そのとき八十四歳になっておりまして、無罪判決が出て九か月後に亡くなったというふうな状況で、この五回目の再審請求に日弁連は取り組んだわけであります。
免田栄さんにつきましては、昭和二十三年に事件が発生し、間もなく彼は逮捕、被告人となるわけでありますけれども、無罪の判決が出たのは昭和五十八年であります。三十五年間牢獄にとらわれ、あるいは再審のために死刑の恐怖の中で過ごさなければならなかったというふうな状況がありました。
これは後に、最後の方で人権救済事件として御説明してあるところでございますけれども、この時期、免田さんは死刑囚でありましたから、国民年金制度が採用された時期でありますけれども、当然、年金を申請する、あるいは年金をお支払できないからという、手続をするといったようなことは期待できない。現在、免田さんは年金を受けることができないということで、日弁連に対して、何とかならないかということで人権救済の申立てをしており、日弁連は、これに対して勧告をしましたけれども、依然として解決されていない。これは正に、国の誤判による犠牲者が年金においても更にまだ犠牲が続いているという悲惨な例でございます。
そのほか、この時期には、捜査機関に対する幾つかの要望等が挙げられております。
そして、先ほどの沖縄問題と関連しまして、平和・基地・沖縄問題についても、この時期に積極的に日弁連は取り組んできました。
第三期、昭和四十年代半ばから昭和五十年代半ばまでですけれども、この時期には、日弁連の活動が次第に広がってきて、様々な取組に対して人権委員会の体制を整備し、部会を作って、ここに掲げてありますような六つの部会を作って、それぞれ取り組むようになってまいりました。
その中で、とりわけここで強調したいのは先ほどの再審の関係でありますけれども、昭和四十七年に、日弁連として個別の再審事件のチームがありましたけれども、それを全体としてまとめて取り上げて取り組むという体制をスタートしまして、翌年、昭和四十七年のことでありますけれども、その後、当時の西ドイツのチューリンゲン大学の元教授だったペータース博士を日本にお招きして、西ドイツの誤判事例一千百件について政府の命によって調査された実績について、誤判がなぜ起こるか、どうして防ぐか、再審はどうあるべきかというふうなことを日本の四か所で講演していただきました。この講演は最高裁判所にもかなり大きな影響があったようでありまして、それから間もなく、白鳥事件の最高裁決定が昭和五十年に出ることになりました。そのことによって、日本のこれまでどうにも動かなかった再審事件が、昭和五十年の白鳥決定によって五十一年以降大きく前進することになりました。
その他、この時期から、公害・環境問題に取り組む、あるいは医療と人権の問題に取り組むというふうなことが行われるようになりました。
第四期が昭和五十年代半ばから平成元年ごろまで。この時期には、先ほど申し上げた再審事件について一連の勝利が続きまして、全体として十二件にわたって再審開始決定、無罪を得ることができました。その成果を踏まえて刑事弁護センターを創設し、そして誤判原因を究明する中で、捜査段階、被疑者段階の弁護が非常に重要であるということで、弁護士会として当番弁護士センターを設置して被疑者弁護を取り組んでまいりました。今、政府に国費による被疑者段階の弁護をお願いしているのも、ここからがスタートであります。
その他、子供の権利問題、それから両性の平等問題等についてもこの時期に取り組むことになりました。さらに外国人の人権問題、それから消費者の権利問題といったものもこの時期から取り組んでまいりました。
第五期として、平成二年以降現在まで、自由の問題、それからマスメディアの問題、社会保障問題、それから高齢者・障害者の問題、それから犯罪被害者の問題、民事介入暴力の問題、国際人権問題とあるいは戦後処理・補償問題という問題についてもこの時期から取り組んできました。
このような形で、人権委員会の部会あるいは人権委員会から分かれた公害対策・環境委員会とか消費者問題委員会とかというようなところで取り組むような形で進んでまいりましたけれども、そのほかに、立法問題、法制問題については、十一ページの六で書いてあるような様々な委員会が人権関連の問題として取り組み、それぞれの委員会において様々な調査研究をし、時々には意見書を国会等に提出するというふうな作業を続けてまいりました。
非常に短い時間で申し上げましたけれども、概略こういったようなことがこれまでの日弁連の約五十年を超える人権擁護活動の大まかな流れであります。
次に、現在の弁護士会の人権擁護活動はどう行われているかということでありますけれども、十二ページの冒頭にありますけれども、日弁連の人権擁護委員は、弁護士百二十名と事務局十四名で構成され、年間約、予算上は四千五百万ぐらいですけれども、毎年五百万前後の赤字が出て、トータル五千万ぐらいの活動をしております。これは事務局職員の人件費は含まないものであります。
取扱件数は、平均すると、平成十二年の例を挙げてありますけれども、日弁連に申し立ててくる件数は百件から百二、三十件が例年の例でありまして、そのうち、何を申し立てているのかよく分からないというものを不受理としまして、それ以外のものを受理するのが大体七十件ぐらいのところであります。それについて不採用というのは、これは予備審査をしたけれども取り上げない、それから調査開始するというものが十件から十数件であります。その調査をした結果、勧告書その他の形で意見をまとめて、しかるべき関係官署あるいは相手方個人に対して勧告、警告等の意見を発表するというふうなやり方をしております。
もう一つは、毎年、人権擁護大会を秋に開いておりまして、今年で四十五回を数えることになりました。ここでは、様々な重要問題について、一年若しくは数年掛けて調査した結果をまとめてシンポジウムを行い、それに基づく提言等を決議、宣言の形でまとめるというふうな作業をしてきました。
十三ページの第三のところで、平成七年以降の人権救済活動の事例として十六ページまで挙げてありますけれども、大体毎年十件前後の勧告、警告等を調査の結果まとめて、それを人権委員会の全体委員会で十分時間を掛けて討議し、さらに正副会長会に上げて審査し、その上で理事会にかけてその警告、勧告を日弁連として行うかどうかを決定するという段取りを取って行っております。ここには、今日時間があればそのほかの点も御説明しようと思いましたけれども、到底時間がございませんので、こういった項目の警告、勧告をこれまでしてきたというふうに申し上げるにとどめたいと思います。
このほかに、昨年度は、布川事件の第二次再審請求及び日野町事件の再審請求に取り組んでいくことを決定しまして、いずれも現在、前者は水戸地裁の土浦支部、それから後者は大津地裁で再審請求の審理に入っております。
私どもは、人権救済活動を中心に取り組んでおりますけれども、ごく最近の例では、このレポートには書いてありませんけれども、例えば現在刑務所の中でどういうことが行われているかという一端を御紹介して、私のまとめにしたいと思うわけでありますけれども。
歯が痛いということで刑務所の受刑囚等が当局に申し出ますと、三か月たたないと受診できないという状態が、東京の拘置所もそうですし仙台でも、大体全国各地で行われているわけです。皆さんも歯の痛い経験十分あると思いますけれども、三か月待たなきゃならないということは、我が国の生活水準といいますか経済水準からいうと、驚くべきひどい例だと思うわけです。しかしこれは、刑務所当局は十分御承知なんですけれども、予算その他、あるいは歯科医を確保できないということでそのまま続いているわけであります。
このような状態が法務省の下で行われていると。そして、その法務省の外局に、今、国会に掛かっている人権擁護法案は提起されている、外局となると。法務省の職員がその人権委員会に出向し、また法務省に戻るというふうなことが想定されているわけです。私ども日弁連が人権委員会を作るべきだというふうに考えておりますけれども、このような形でそういう人権委員会が作られるとすると、ジュネーブの国連人権委員会が求めていた政府から独立した人権機関とはほど遠いものになるだろうというふうに思われるわけであります。そのことは、先日の人権機関の方が来られたときもそういう趣旨のことを申されたというふうに新聞で報道されているとおりであります。
私どもとしては、我が国に本当に人権問題についてきちっと対応できる政府から独立した機関を是非設置していただきたいということを私の最後の発言として、本日の意見とさせていただきたいと思います。
御清聴ありがとうございました。
○会長(上杉光弘君) ありがとうございました。
次に、村越参考人にお願いいたします。
○参考人(村越進君) 日弁連の人権擁護委員会委員長をしております村越と申します。
本日は、参議院憲法調査会での発言の機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。
私からは、日弁連の立法提言活動、国際人権基準から見た我が国の人権課題、なぜ憲法の人権規定が十分に生かされていないのか、そして基本的人権保障のための展望と課題、以上の四点について簡単にお話をさせていただきます。
第一に、日弁連の立法提言活動についてでありますが、日弁連は、弁護士法の一条に基づき、人権の擁護と社会正義の実現及びそのための法律制度の改善を使命としています。したがいまして、日弁連は積極的に新しい法律の制定を提言し、場合によっては新しい法律案に反対をし、法律の改廃についての意見を表明してまいりました。
現在、日弁連はそうした立場から、障害のある人に対する差別禁止法やホームレス自立支援法及び湿地保全再生法の制定を提言し、国会で審議されております心神喪失者医療観察法案に反対し、個人情報保護法案に反対し本年八月からの住基ネットの稼働延期を求め、また有事法制関連三法案に反対をしております。さらに、改正少年法や児童虐待防止法、DV防止法の施行・運用状況をウオッチし、法律の見直し期限に向けて提言をまとめるべく検討作業を行っております。
また、両性の平等を実現するため、男女雇用機会均等法をより実効的なものとするように見直すことや、選択的夫婦別姓を認める民法改正を急ぐべきことを提言しております。
まず、障害のある人に対する差別禁止法でありますが、御承知と思いますが、一九九〇年にアメリカ合衆国で制定されたいわゆるADA、アメリカンズ・ウイズ・ディスアビリティー・アクト、障害のあるアメリカ人法は、労働や公共交通機関の利用などにおける差別を禁止し、障害のある人が社会の中で自立して生活することを保障しようとする画期的な立法でした。ADAの制定後、障害のある人に対する差別を禁止する法制度を持つ国が増え、現在では四十三か国を超えています。
一方、障害者基本法などの我が国の法制度は、国や地方公共団体の施策の内容を中心として定められており、障害のある人は施策の対象であって、具体的な権利の主体とは位置付けられていません。このため、障害のある人が労働や公共交通機関の利用など生活上の様々な場面で存在する差別やバリアを自ら除去しようとしても、根拠となる具体的な法規定がない、裁判などでも種々の困難に直面してきました。
昨年八月に発表されました国連の社会権規約委員会の最終見解は、障害のある人々に対する差別的法規の廃止と障害のある人々に対するあらゆる種類の差別を禁止する法律の制定を日本に勧告いたしました。
日弁連は毎年秋に人権擁護大会を開催し、一年間の人権擁護活動を総括するとともに、幾つかのシンポジウムを開催し、その年の重要課題について大会宣言、大会決議を採択しています。昨年は、十一月に奈良市で第四十四回人権擁護大会を開催し、千五百名を超える会員弁護士と千数百名の市民が参加しました。日弁連は、この四十四回人権擁護大会において、障害のある人に対する差別を禁止する法律の制定を目指して、バリアのない社会のためにをテーマとしたシンポジウムを行い、差別禁止法の試案を発表しました。このシンポジウムには、堀先生にもパネリストとして御参加をいただきました。
日弁連は、このシンポを踏まえ、日本においても速やかに障害のある人に対する差別禁止法を制定すべきであるとの宣言を採択し、この宣言を受けて人権擁護委員会の中に障害のある人に対する差別禁止法に関する調査研究委員会を発足させ、障害者団体、各政党との意見交換、差別禁止法に関する出版など、引き続き法律制定に向けた活動を続けております。
また、日弁連は本年三月、東京、大阪、名古屋におけるホームレスの実態を調査し、ホームレス問題に関する意見書を発表し、ホームレス自立支援法の制定を提言いたしました。
本年十月には、日弁連は福島県郡山市において第四十五回人権擁護大会を開催します。同大会では、ラムサール条約に基づき、湿地の保全・再生法の制定を提言する予定であります。同法は、湿地の減少及び質的劣化の防止と再生・復元を目的とするものであります。
ところで、ハンセン病問題と心神喪失者医療観察法案についてですが、私たちはらい予防法というとんでもない悪法を四十三年間にわたり存続させてしまいました。このことについては弁護士、弁護士会としても痛みを持って受け止め、痛切に反省し、日弁連としても公式に謝罪をしています。
ただ、大変遅れはしましたが、九州弁護士会連合会が、入所されていた元患者の方から、法律家はこのような重大な人権侵害を放置するのかというお手紙をいただき、これをきっかけにして直ちに問題に取り組み、そのことが弁護団の結成と国賠訴訟につながったということは事実として申し上げておきたいと思います。
ハンセン病患者の終生絶対隔離というものは、患者が社会の一員として人生を全うする権利を完全に奪うものでありました。生まれてから死ぬまで、人はだれでも家族とともに地域で暮らし、学校に行ったり、仕事をしたり、結婚をしたり、友人、隣人と交流する、そんな人生を送りたいものであります。
しかし、我が国では、現在三十数万人の人が精神病院に入院し、社会から隔離された生活を送っています。今また、触法精神障害者に関して心神喪失者医療観察法案が国会で審議されています。しかし、同法案は、再犯のおそれという判定も予測も極めて困難な要件をもって、患者に対する治療行為としてではなく、医学的な根拠もなしに精神障害者を期限の定めもなく特別な施設に隔離収容することを認めるものであり、精神障害者に対する差別と偏見を助長し、人権の世紀たるべき二十一世紀の初めに、またもらい予防法の誤りを繰り返すものであると言わざるを得ません。
次に、個人情報保護法案と住基ネットについてですが、行政機関の保有する個人情報保護法案には、収集制限に関する明確な規定がないこと、行政機関等による目的外利用を広く認めていること、安全確保義務違反に対する罰則がないことなど、個人情報保護の観点から重大な問題があり、抜本的な見直しが必要であります。
一九九九年八月に住民基本台帳法の改正により、住民基本台帳ネットワークシステム、いわゆる住基ネットの導入が決まった際、プライバシー侵害の危険性が高いことから、同改正法施行に先立ち、個人情報保護法制を整備するものとされました。したがいまして、今国会で仮に個人情報保護法案が成立しないということになりますれば、住基ネットの稼働は当然に延期すべきものであるというふうに日弁連は考えております。
最後に、有事法制関連法案についてですが、日弁連は現在国会で審議されている有事法制法案に反対し、廃案とすることを求めております。もとより、日弁連は約一万九千名の会員を擁する強制加入団体であります。会員の中には様々な立場、意見の方がいます。有事法制についても、その必要性などについては様々な意見があります。しかし、今回日弁連は、そうした相違を超えて、現在審議されている法案について、法律家団体として憲法と人権の観点から検討し、反対せざるを得ないとの結論に達したものであります。
第二に、国際人権基準から見た我が国の人権課題について申し上げます。
我が国は、一九七九年に国際人権規約、これは自由権規約、社会権規約があるわけですが、同規約を批准しています。国際的な人権基準である同規約の実施義務を負うものであります。また、国際人権規約委員会から勧告された事項について、改善に向けて努力をすべき立場にあります。
一九九八年十一月、自由権規約委員会は自由権規約の実施状況に関する日本政府報告書の審査を踏まえ、最終見解を発表しました。見解では、二十九項目にわたる詳細な懸念事項と勧告が表明されています。一、二紹介いたしますと、我が国の人権擁護委員は法務省の管轄下にあるとし、警察や入管施設における人権侵害を救済するための独立した機関の設置を勧告しています。また、すべての子供は平等な保護を受ける権利があるとして、婚外子差別をなくすため、相続分を嫡出子の二分の一と定める民法九百条四号を含む法制度を改正するよう勧告しています。更に、国内法が自由権規約と適合するよう国内法を再検討ないし改正すること、個人通報制度を定めた第一選択議定書を批准することを勧告しています。
昨年、二〇〇一年八月には、社会権規約委員会が社会権規約の実施状況に関する日本政府報告書の審査を踏まえ、最終見解を発表しました。見解は、二十三項目の懸念を表明し三十一項目の勧告を行っていますが、注目すべき第一は、社会権規約、特にその中核部分に関する政府の義務は法的義務であり、直接適用可能性を有することを指摘し、この点に関する日本政府の見解を見直し、立法、行政及び司法の過程において同規約の規定が必ず考慮されるシステムの導入を勧奨していることです。
第二は、同規約二条二項に定める差別の禁止は例外のない絶対的な原則であると指摘し、差別禁止法の強化を求めていることです。殊に、障害のある人に関する差別条項を廃止し、あらゆる差別を禁止する法律を制定することを勧告しています。
第三は、パリ原則及び同委員会の一般的見解に従い、社会権をも対象とした国内人権機関の創設を求めていることです。
日弁連は、国連NGOとして、以上の審査に際しカウンターレポートを提出し、またジュネーブに代表団を派遣して審査を傍聴するとともに、ロビー活動を行いました。日弁連は、一九八八年に神戸で開催された第三十一回人権擁護大会以来、国際人権法、国際人権基準が我が国で実効的に実施されることを求めており、そのために必要な国内法の制定や改正及び選択議定書の批准を求めております。
第三に、なぜ憲法の人権規定が十分に生かされていないのかということでございます。
国際人権法の国内適用と遵守がいまだ不十分であると言わざるを得ませんが、一方で憲法の人権規定も、残念ながら、いまだ必ずしも社会の隅々まで浸透し、市民の生活の中で十分に生かされてはいないということも指摘せざるを得ません。私なりにその理由を幾つか考えてみましたが、時間がありませんので全部は申し上げられません。ピックアップしてお話をさせていただきます。
まず、最高裁を始めとする裁判所が憲法判断、違憲立法審査権の行使に極めて消極的であったということです。
裁判所は、基本的に立法府や行政府の裁量権を広く認めてきましたが、私はこれは少なくとも基本的人権に関しては誤りであると思います。社会の多数派、国会の多数派は自らの立場や権利を議会制民主主義の手続の中で実現することができます。しかし、人権が問題となるのはそうしたことができない社会的弱者、マイノリティーに関してです。国会が多数で決めたことについて司法がその当否を判断できないのであれば、少数者の人権が守られない事態も生じかねません。司法には、一人に対する人権侵害であっても救済する、そのためには法律を違憲と判断することも辞さない、そうした姿勢こそが必要であります。
次に、個別人権法の不存在ないし不備です。
国際人権法や憲法の規定はある意味で抽象的なものです。それを具体化し明確なものとするための法律の整備が不可欠です。一例を挙げれば、憲法十四条は法の下の平等を定め差別を禁止しているわけですが、これだけでは、どういうことが平等に反し何が差別として許されない行為であるのか、差別を受けた人がどういう権利を有しどういう救済手段があるのかがはっきりしません。このことが人権の実現や人権侵害に対する救済を困難にしてきました。各分野の差別禁止法が必要とされるわけです。
次に、人権が保障されているというためには、人権を侵害されたときに確実な救済が得られる必要があります。そうでなければ人権は画餅に帰してしまいます。人権救済の実効的なシステムが不可欠なわけです。しかるに、今日まで我が国では、大変な時間と労力そして少なからぬ費用を要し、しかも必ずしも救済の実を上げ得なかった裁判、司法救済という手段しか基本的にありませんでした。法務省の人権擁護委員制度は十分に機能せず、私ども日弁連の人権救済活動にもボランティア活動としての限界と権限や効力の壁がありました。
では、今後、基本的人権の実効的な保障のためにどういうことを考えていったらいいのか、これを最後に申し上げたいと思います。この点も、すべて申し上げる時間がありませんので、かいつまんで述べます。
一つは、司法の改革です。現在、司法改革ということが言われ、日弁連も総力を挙げて取り組んでおりますが、人権救済が実効的に行われるような裁判制度と裁判官の養成、そして裁判所による積極的な憲法判断が求められます。
次に、国際人権規約などの国際人権法の日本国内における適用と遵守、そして必要な国内法の整備です。毎回のように国連の関係機関から我が国の人権状況の問題点を指摘されることは、決して褒められたことではないと思います。人権についてのグローバルスタンダードをクリアし、世界に誇れる人権大国を目指すべきだと考えます。この関係で特に強調したいのは、国連に対する個人通報制度を定めた国際人権(自由権)規約の第一選択議定書を速やかに批准すべきであるということであります。
次に、最初に述べました障害のある人に対する差別禁止法のような人権にかかわる各種立法の制定です。各省庁はこうした点で大変腰が重いということを実感しております。私は、この点で特に国会議員の先生方に積極的に議員立法の御提案をお願いしたいと考えるものでございます。
最後に、人権救済機関です。岡部参考人も簡単に触れられましたので詳しくは述べませんが、日弁連は、政府から独立した人権救済機関、これが必要であるということで取り組んでまいりました。しかし、残念ながら、現在国会に提出されている人権擁護法案が想定している人権委員会は、国連や日弁連が求めているものとは全く異なります。
最も指摘しなければいけないのは、政府からの独立性が欠けているという点でございます。この点については、国連のメアリー・ロビンソン人権高等弁務官や、先日来日されたバーデキン同弁務官特別顧問も重大な懸念を表明されております。また、独立性とともに、その委員会の規模等で実効性があるのかということについても大変疑問を持っております。さらに、そういう独立性がない機関がメディアに対する調査権限を有するということは、国民の知る権利や報道の自由を侵害するおそれも大きいというふうに考えております。
ということで、国内人権救済機関を作るべきだと言ってまいりました日弁連としては、本当に残念ではありますが、現在の法案については出し直すべきであるというふうに考えるものです。
日弁連は、一九九九年十一月、人権のための行動宣言を公表しました、行動宣言では、具体的課題と課題実現のための制度改革を明らかにしています。具体的課題においては、二〇一〇年までを一応のめどとして日弁連が重点的に取り組むべき二十三の人権課題を示しています。そして、具体的課題実現のための制度改革では、人権保障のとりでとなるように司法制度を改革すること、それから政府から独立した国内人権救済機関を作ることを求めております。あるべき人権機関ができた場合には、日弁連も当然そうした機関と連携協力し、補完をし合いながら人権活動に取り組んでいくつもりであります。
また、私たち弁護士、弁護士会は、重大な人権侵害事件について、より積極的に訴訟を提起し、司法救済を求め、判例を蓄積して人権基準を明確にする、そうした取組を強化する必要もあると考えています。なお、そうした訴訟を提起する上で、現在言われております弁護士費用の敗訴者負担という制度は極めて大きな障害になるということを是非御理解をいただきたいと思います。
日弁連は、人権擁護活動を担い、あるいは支援することのできるように組織体制を一層強化充実させ、社会と市民の期待にこたえていきたいと考えています。今後とも御理解と御指導のほど、よろしくお願い申し上げます。
ありがとうございました。
○江田五月君 民主党・新緑風会の江田五月です。
今日は、お二人の先生、本当にお忙しい中、ありがとうございます。しかも、詳細な発言の要旨をおまとめくださいまして、本当にありがとうございます。
岡部参考人はどちらかというとこれまでの日弁連の人権に関する取組について、村越参考人は様々な弁護士会の提言についてお話をくださいました。
実は、私も弁護士でございまして、同業でもあるわけで、今日の御発言、それぞれそうだ、我が意を得たり、もっと頑張れと、こう言いたいところですが、それじゃどうも話にならぬので、若干緊張感を持って、問題点をそれでも探り出しながら議論をしてみたいと思うんですが。
私も国会の場で、かれこれもう二十三年になってしまったんですが、いろんな仕事をしていまして、その中で人権問題にもいろいろかかわってまいりました。そして、そんな中で、弁護士さん方の御努力にただただ敬意を表するということも何回か出会ってきた。
最近でいえば、人権といえば、六月の二十日が国際人権の日というんでしたかね、ちょうどその日でしたか、例のアフガン難民で釈放されていた者が再収容されると。入ったり出たり、また入ったり、いやいや、捕まえたり放したり、また捕まえたりと、もうたまらぬという状態に実はアフガン難民の若い者たちなっていた。それを弁護士さん方が本当に頑張って頑張ってむちゃくちゃ頑張って、何時間か後に、その日のうちに仮釈放ということになったと。弁護士先生方の御努力のたまものだと心から敬意を表するんですが。
それでも、今日のお話の中で、今現在国会で現に審理中の法案について幾つかかなり厳しい御批判の言葉があったかと思います。国会の中ではこれは賛否両方あるわけで、今議論している最中ですが、弁護士先生方が会としてこういう議論をするといかがなものかと、こういう意見があるいはあるかもしらぬなと思いながら聞いていたんですが、どうでしょう、その辺は弁護士会の中では議論は整理をされているんでしょうか。これは、村越参考人。
○参考人(村越進君) 先ほども少し触れましたが、日弁連は一万九千名の会員を擁する強制加入団体でございます。ですから、政治的と取られるような発言については基本的には慎重にやっていこうというコンセンサスがございます。
現実に国会で議論されているものについて発言をするということは即政治的なのかということですが、我々はそういうことではなくて、もちろんながら党派的、政治的立場には立っておりませんので、あくまで憲法、人権という視点で出されているものについて分析し検討を加えるという、これを力点としてやっております。
ということで、日弁連の見解をまとめるためにはもう何段階もの議論が要るわけで、正副会長会議、理事会等を経て日弁連意見になるわけですが、そういう手続、手順を十分に踏んだ上で、日弁連の圧倒的多数、総意といってもいい、そういうものとして外に向かっては物を申し上げておるつもりでございます。
○江田五月君 岡部参考人もそれはよろしいですよね。
○参考人(岡部保男君) はい。
○江田五月君 ありがとうございます。
決して軽々しい発言ではないんだと。むしろ、基本的人権に日ごろ業務の中でかかわっている皆さんが慎重な上にも慎重に議論を重ねた結果発言をしておるということで、私も、弁護士法一条の第一項は、基本的人権の擁護と社会正義の実現、第二項の方に、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならないという、そういう弁護士の使命が法定されているわけで、そういう法律制度の改善、ここの部分で日ごろの業務に基づいた発言をされているということだろうと理解をし、重視をしていきたいと思っております。
もう一つ、実はこれは大した心配じゃなかったんですけれども、憲法調査会に来てくださいと言うと、いやいや、衆参、国会の憲法調査会は、あれは改憲への布石ではないのか、あんなところへ行っていいのかなどという議論が出てきて、お断りになられたら困るなと思っていたんですが、今日はおいでくださって、しかもこれは、村越参考人のペーパーには、さっきはちょっと時間がないということで飛ばされたんですが、「第四、基本的人権の実効的な保障のために―今後の展望と課題」、その中で、第一は、議論をタブー視せず、政治的立場を離れて活発に議論を行うことだと。そして第二が司法改革、いやいや、ごめんなさい、ちょっと間違えました、その前ですね。「第三、何故、憲法の人権規定が充分に生かされていないのか」ということで、「第一は、憲法について論ずることが、直ちに護憲・改憲に色分けされ、政治的見解・立場の表明と同一視されるような社会状況が存在しました。そのために、人権規定を含めて憲法についての議論が一種のタブー視され、人権規定を充実・活用する方向での建設的議論もまた深まることがなかったと言えるのではないでしょうか。この点で、憲法調査会が広く深く憲法についての調査と議論を展開されていることに、心から敬意を表するものであります。」と。
敬意を表していただく部分が時間の関係上お話しいただけなかったので、私が代わりに読ませていただきましたが、私どもも、これは国会法の百二条の六、第十一章の二に「憲法調査会」というものを加えまして、ここで「広範かつ総合的に調査を行う」と、これをこの憲法調査会の任務ということにしておりまして、ここにはもちろん護憲を主張する人もいます、改憲を主張する人もいます。しかし、そういうあらかじめ立場を決めて調査をするのではなくて、大いに憲法を論じていこうと。ちなみに、民主党は論憲という立場で、全くそれと同じなんですが、こういう憲法調査会でやっておると。
これは、そういう憲法調査会の立場というものを十分御理解いただいて敬意を表していただいていると、こう理解してよろしいんでしょうか、村越参考人。
○参考人(村越進君) はい、おっしゃるとおりでございます。
○江田五月君 岡部参考人、同じですね。
○参考人(岡部保男君) はい、同じでございます。
○江田五月君 そこで、今日いろいろ御発言いただいたことは、先ほども申しましたとおり、我が意を得たり、そうだ、より一層頑張れと、こういうことなんですが、緊張感を持って議論するためにあえて申し上げますが、今日触れておられない、いや、触れておられるといえばおられるんですが、余り深めておられない基本的人権の一つとして憲法三十二条、裁判を受ける権利、これはやはり基本的人権だと思うんですね。
弁護士先生方は、それぞれの政策提言あるいは立法の批判、これももちろん重要な御発言だと思いますが、日ごろの弁護士業務の中で、国民の裁判を受ける権利をそれがどういう立場であれ全うさせると、こういう仕事に就いておられると思うんですよ。そういう仕事をやっておられて、今の制度の中で裁判を受ける権利が、自分たち、その権利を全うさせようと思ってやっているんだけれどもなかなかうまくいかないんだという、勝訴、敗訴は別ですよ、それは別で、国民の裁判を受ける権利を全うさせようとしてもうまくいかないところがあるということがいろいろ経験上おありになるんじゃないかと思うんですね。先ほどの木村委員のアクセスについてのいろんな障害、これも一つあると思いますが、そのほかにもいろいろあると。
どうでしょう、ちょっと抽象的な質問ですが、そういうことで、どういうことをお感じになるかと伺うと、どういう答えになるでしょうか。これはどちら、お二人ですね。
○会長(上杉光弘君) それでは、岡部参考人からお願いします。
○参考人(岡部保男君) 依頼者あるいは被告人に弁護を依頼されて、多くの場合、法廷に同道するというのが私のやり方でありますけれども、そのときに、裁判所はやっぱり非常に遠い距離にあるという感じを持っております。
その人たちが具体的にどういう場面で出てくるかといいますと、最近、ここ数年の傾向ですけれども、訴訟を早く進めようというふうなことから、証人尋問の時間を非常に制限して、陳述書を出して、それをちょっと補足するというふうな形で尋問するという形態になってきておりまして、長年いろんな問題で悩んでいる当事者本人にとってみると、自分の言いたいことが十分述べることができない。私どもからしても、二十分、三十分という尋問時間というのは結構あるわけです。
ごく最近でも医療過誤の事件でやっておりまして、医師とか看護婦さんを尋問するのに相当裁判所と交渉してようやく四十分とか一時間ということなわけです。その理由として、陳述書が出ているからそれを土台にすればというふうな感じになるわけですけれども、患者は原告の立場から見ると、陳述書をどう破るかということなものですから、そういう点で、今の裁判制度の中でもう一つ、何というんですか、目的が達成できないという感じを痛感しております。
○参考人(村越進君) 裁判を受ける権利という点でいいますと、私が実感しているのは二つでございまして、一つは、必ずしも請求金額等が大きくない、どっちかというと少額という事件でございます。
これは率直に言って、弁護士としても報酬規程でいただいても全くペイしないというか奉仕活動になってしまう、なかなか取り組みにくい事件というのがございます。これをどのようにちゃんと裁判所に出していけるのかということは我々も考えなければいけないわけで、今、公設事務所の取組等が始まっておりますが、そういうところで一人の弁護士でそういうのを抱えると、もう経営が成り立たなくなっちゃうというのがあるんですが、やはりそういう弁護士会のバックアップの中で、どんな事件でも、経済的にペイしなくても、ちゃんと裁判所に出していけるというシステムが必要ではないかというふうに考えております。
もう一つは行政訴訟でございまして、行政に対する不満、行政処分等が違法だ、不当だという訴訟、これは大変もう困難でございまして、間口が極めて狭い、要件が厳しくて、ほとんど勝ち目がないという感じになっております。これをやっぱり司法改革の中で改めていかないといけないんではないか。そうでないと、これはほとんどやっても無駄だよと言わざるを得ないような状態にあるという気がしております。
以上です。
○江田五月君 岡部参考人からは、十分聞いてもらえない、裁判所にもっと十分聞いていただきたいのにという裁判所のある意味のゆとりといいますか、そうしたこと。村越参考人、少額事件が弁護士によって十分弁護されない困難さ、それから行政事件、いずれも司法制度改革の中の重要な課題だろうと思います。
そうして、しかし、今の岡部参考人にしても村越参考人にしても、自分たちのところまでたどり着いた依頼者に十分なサービスが提供できないといういらいらですが、今度国民の方から見たら、弁護士のところまでたどり着けない紛争を抱えた人たちも非常にたくさんいる。二割司法というようなことが言われたりするわけですね。
それは、やはりどこに弁護士がいるか分からない、あるいは幾ら取られるか分からない、長く掛かってしまって、どっちみち弁護士の中だけで何か適当に処理されるんじゃないかというような不安とかいろんなことがあって、弁護士さん方にもそこはやはりいろいろ考えていただかなきゃならぬ点があるかと思いますし、数の点、弁護士の絶対的な数、裁判官も含めてですが、法曹の数の問題もある。
あわせて、私は憲法三十二条を実質的に保障しようとすると、やっぱり法律扶助がもっともっともっと抜本的に改善されなきゃならぬという気がするんですが、この点はいかがでしょうか。
どちらか、村越さんでしょうか。
○参考人(村越進君) 先ほど、少額訴訟等のところで言うのを忘れてしまったわけですが、先生がおっしゃるとおり、結局はそういう事件について訴訟費用等を立て替えて、費用がない方がちゃんと裁判を受ける憲法上の権利を行使していけるためには、法律扶助の抜本的な充実と、これはもう欠かすことができないものだというふうに考えております。
○江田五月君 先ほど村越参考人、人権擁護法案あるいはその人権擁護法案によって想定されている新たに作られる人権委員会のことについてお話しになりましたが、その中で、国家行政組織法の三条に基づくものでなければならないというお話をされました。ところが、今提案されているのは三条に基づくものなんですね。しかし、恐らく皆さんもあれでは十分でないと思われている。私どもも十分でないと思っておるんですが、三条に基づくものであっても駄目だというのは一体どの辺にあるとお考えですか。
○会長(上杉光弘君) どちらへお聞きしますか。
○江田五月君 村越参考人がさっきお話しになりましたが、どちらかで。
○参考人(岡部保男君) 一つは、法務省の外局という形に今のところ構想されているわけですけれども、法務省自体が入管や拘置所を扱っている、そういう言わば人権侵害が、今日のレポートにも幾つか出していますけれども、起きているところですね。そうすると、そこがなるということはどうかという点が一つです。
それからもう一つは、実際、我々、法務省と何度か意見交換というか御説明を承ってきましたけれども、結局法務省の人が出向で出てまた戻るということになっているわけですね。それでは独立性は保てないだろうということです。
それから三番目には、人権委員を、非常に少数の人権委員を想定されておりまして、結局はそこの人権委員会の法務省の職員であった人を中心に調査をされるということになると、今、法務省にある人権擁護局と実質そう変わらないことになるのではないかというふうなことを含めて、これでは具合悪いというふうに考えているわけです。
○江田五月君 右の手で刑務所や入管行政をやりながら、左の手で人権擁護といっても、なかなか国際社会はそれでいいですねと、パリ原則にも合致していますねとは見てくれないと。それならやはり別の行政機関、例えば内閣府にと。
しかも、私も国連人権高等弁務官特別顧問でしたか、ブライアン・バーデキン氏とつい先日お会いしましたが、スタッフの問題、それから財政、ファンディングの問題、それからあとはオートノミーというか自立性の問題、そうしたことで内容がしっかりしたものでなきゃならぬと。日本の提案されているものがどうであるかということは慎重に言及を避けておられましたが、言外にこれでは駄目だということが明らかなお話を伺いまして、そのとおりだと思いますね。
人権擁護、人権委員会、しかし作らなきゃならぬ、あるいはまたその他に例えばいろんな形のADRであるとか、オンブズマンであるとか、市民の人権をしっかり守っていく制度をこれからいろいろ作っていかなきゃならぬと思いますが、そうした中で弁護士の皆さんが大いに活躍する用意ありと、今日はそういうお話も伺ったように思うんですが、その点の決意を最後に伺って終わります。村越参考人。
○参考人(村越進君) 日弁連は、人権擁護委員会を中心に人権擁護活動をやってきておりますが、それだけでいいというふうには思っておりません。
新たにできる人権機関等とも協力して、もっと多角的にいろんなところで多くの弁護士が人権のために活躍するということで、国民、市民に対する救済機能を総体として上げていきたいというふうに考えております。そのために全力を尽くすつもりでおりますので、よろしくお願いいたします。
○江田五月君 ありがとうございました。
2002/07/17 |