2002/10/30 |
155 参院・憲法調査会
12時50分から2時間弱、参議院憲法調査会。この夏、イタリア、ベルギー、フランスに調査団を派遣したので、その報告を聞き意見交換。私も、欧州における国家統合の動きにつき質問と問題提起をしました。
平成十四年十月三十日(水曜日)
○会長(野沢太三君) ただいまから憲法調査会を開会いたします。
日本国憲法に関する調査を議題といたします。
先般、憲法事情に関する実情調査のため、本院よりイタリア共和国、ベルギー王国及びフランス共和国に議員団が派遣されました。
この際、本調査会において、海外派遣議員から報告を聴取することといたします。
なお、御発言は着席のままでお願いいたします。
まず、派遣議員団の団長を務められました谷川秀善君から総括的な報告を聴取いたします。谷川秀善君。
○谷川秀善君 自由民主党の谷川秀善であります。
本年九月三日から十四日にかけて行ってまいりました特定事項調査第一班、憲法調査についてその概要を御報告いたします。
調査目的は、イタリア共和国、ベルギー王国及びフランス共和国の憲法事情につきその実情調査をし、あわせて、これらの国の政治経済事情等を視察すること並びに欧州の基本的人権の実情について、欧州連合、欧州評議会及び欧州人権裁判所の動向等について調査及び視察することでありました。
憲法事情に関する具体的な調査項目といたしましては、イタリア共和国では、近年の政治状況と憲法の関係、二院制、基本的人権に関する諸問題の動向と対応、最近の憲法改正の経緯、憲法訴訟の現状と課題について、ベルギー王国では、二院制と上院改革論議、基本的人権に関する諸問題の動向と対応、最近の憲法改正の経緯、憲法訴訟の現状と課題、NGOの活動状況について、フランス共和国では、強い大統領と行政権に対する立法権の対応、二院制、国と地方の関係、基本的人権に関する諸問題の動向と対応、憲法改正の動向と評価、憲法訴訟の現状と課題について、欧州連合では、加盟国の拡大と統合の在り方、加盟各国との関係、欧州憲法制定に関する議論の動向、欧州基本権憲章について、欧州評議会では、条約作成に関する活動状況と今後の見通し、欧州人権条約と欧州基本権憲章との関係、中東欧諸国の憲法起草等への支援状況について、欧州人権裁判所では、その活動状況、各国裁判所との関係について、それぞれ調査をいたしました。
以下、調査内容につきまして、その概要を調査日程に従って御報告をいたします。
まず、九月四日、イタリア共和国上院のアマート議員を訪ねました。同氏は、議員の一割強が学者というイタリアにあってローマ大学教授等を歴任する一方、九二年六月から翌年四月までと二〇〇〇年四月から翌年五月までの二回にわたり首相の座にあり、有数の知的政治家と評されている方であります。この十年来の急激な変革を経て安定政権の期待が出てきたかに見える現在のイタリア政治につきまして、与野党二極体制がようやく固まってきたが、現在の構造が五年間続くことを希望するとし、自分の首相としての経験からも、政府をより強固にすることが必要で、組織の一番上には権限を持った人を置くことが大事だとしながらも、一方では、イタリア人は特定人への権力集中を好まないとの発言がありました。同氏は、現在、デハーネ前ベルギー首相とともにEUの今後の在り方を検討する欧州の将来に関するコンベンションの副議長を務めておられるようでありますが、EUの将来課題として、困難であるが一番重要なのは外交・防衛に関する統合であるとの意見でした。イタリアでは、現在の対等な二院制から、地方自治の拡大という憲法改正に伴い上院を州代表院としようという動きが出ていますが、これにつきましては、今後、地方代表院となればそれにふさわしい権限の配分の見直しが必要だと言っておられました。
続いて、上院憲法問題委員会の事務局長より説明を受けました。この憲法問題委員会では、憲法のほか、治安、社会保障、地方自治等幅広い事項を所管しているようで、加えて、他の委員会から憲法についての判断を求められることも多く、週に十五から二十件にも上るとのことで、手狭な委員会室には提出法案が積み上げられておったのが印象的でありました。上院を州代表院にしようという動きにつきましては、上院の政府に対する信任権の廃止、立法権の見直しなど、併せて議論の対象となっているとの紹介がありました。
翌五日は、憲法裁判所を訪ね、ルペルト長官と会談をいたしました。イタリアの憲法裁判所の権限は、国と州の法律及び法律の効力を有する行為の合憲性の判断、国の諸機関の権限の調整、大統領弾劾、法律廃止の国民投票の可否の判断等、多岐にわたっております。違憲判断は法律公布後の事後審査であり、事前審査は行わないことになっておりますが、事前審査をした方が効率的でないかとの質問に対し、それは国会の役目であるとの回答があり、改めて国会の立法機関としての責任を痛感をいたしました。
年間八百から千件の提訴があり、四百から五百件の判決を下しており、これを十五人の判事が全員合議制で処理しているとのことで、負担が大き過ぎないかとの質問に対し、多くの懸案はあるが、高いプレステージを持つ我々が頑張って処理しており、何ら懸念はない、また我々は唯一の違憲判断機関としてすべての機関を超えて立つとの強い意気込みでありました。なお、判事は五人が大統領、五人が国会、五人が司法機関による任命であるが、政治との関係につきましては、政治は玄関から入ってくるのではなく、窓からそっと入ってくる程度との評でありました。
五日午後、ブラッセルに移動し、翌六日午前、ベルギー王国議会上院を訪ねました。ベルギーは共同体(オランダ語共同体、フランス語共同体、ドイツ語共同体)と地域(フランドル地域、ワロン地域、ブラッセル首都地域)の二つが連邦を構成するという特異な形態を取っており、前者は文化・教育、個人に関する事項、言語に関する事項を、後者は経済に関する事項を担当しております。それぞれに議会が存在し、各々の議会は法律の効力を有するデクレ等を制定できます。下院は比例代表選出百五十名だけですが、上院は、比例代表選出四十名、共同体議会選出二十一名、これらの議員により選出される十名の合計七十一名で、各共同体のバランスに配慮した選出方法となっております。なお、上院には、さらに王族議員三名が加わります。上下両院は、九三年の憲法改正まではほとんど同じ権限を有していましたが、共同体、地域という概念が明確になるとともに、上院はその意見を表明する場、地方代表との考えが強まり、権限が制約され、下院が排他的権限として国の予算・決算、帰化の許可、政府に対する信任権を持つほか、法案は基本的に下院が審議することになっており、上院議員の十五名以上が要求をしたときは上院でも審議が行えるという形になっております。
ドゥ・デケール上院議長は、下院、上院議員を歴任、ブラッセル首都地域議会議長を経て現職にあり、九九年に我が参議院議長の招待で訪日をされておられます。ヴェルホフスタット首相が上下両院の統合に意欲的で、昨年八月に上院を下院に吸収合併する提案をしたが失敗したとのことで、さらに今年四月、与党間協議で上院の抜本的改革を行うことで合意されている状況にありますが、一院制は、選挙の際の一時的な考えや利益に左右される傾向があり、また現在ではポピュリズムに陥る傾向があると二院制の必要性を言明されました。また、現在、国際条約は上院が先議することになっており、このことは広く支持されている。また、上院は審議対象を限定されたが、NPO、安楽死、生命倫理、嫡出・非嫡出問題など重点的な審議を行っており、より慎重な熟慮の院としての性格を維持したいとの意向を示されました。EUの発展とベルギー憲法、議会との関係につきましては、ベルギーの法律の半分はEUで決められたものであり、EUでの決定プロセスが民主的な手続か、いささか疑問の余地がある。それぞれの国の議会ともっと密接な関係を持つべきとの意見でありました。
続いて、午後、仲裁院を訪ねました。仲裁院は、ベルギーが連邦化したことから、連邦、共同体、地域の権限争議の裁定のために設けられましたが、その後、法律等の合憲性の審査も付け加えられ、実質的には憲法裁判所となっています。法律等の官報掲載後六か月以内であれば利害関係のある個人にも提訴権があり、その後は通常裁判所が仲裁院に合憲性判断を求めることができます。現在、合憲性の判断には条文上の限定がありますが、法の下の平等を広く解釈し、人権問題はほとんどが対象となるよう運用しており、更に明文での改正が検討されているとのことです。判事は六名が政治家出身、六名が法律家出身の十二名で、オランダ語系、フランス語系半々のバランスが守られております。ここでも、我々は立法者の上に立つ立法者、スーパー立法者との強い自負が示され、各国の憲法裁判所の強い権威を感じました。
夕刻、国境なき弁護士団国際連合ワレイン会長に会いました。国境なき弁護士団は、国境なき医師団に倣って発展途上国の法治国家への整備を支援するために結成されたNGOであり、現在十か国に会員を持ち、ルワンダ、ブルンディ等で活動を行っております。できるだけ政府と表立った対立はせず、解決策をともに求めていくという方針であり、ベルギー政府を始め、スイス、スウェーデン政府からも補助金を受けているようですが、このことによって独立性が失われることがないよう自ら監視しているとのことでした。現在、国際刑事裁判所の設置を注意深く見守っており、日本のアジア方面での支援を期待するとのことでありました。
九月九日、欧州連合本部を訪れました。創立当初の六か国から現在加盟十五か国という巨大組織に成長し、今年一月からは念願の統一通貨ユーロが誕生いたしました。関係機関が集まるブラッセルのシューマン地区には大型の高層建築が立ち並び、伝統的な市街地とは全く別世界の趣がありました。十三の加盟候補国のうち、十か国が二〇〇四年に加盟の見通しとなっていますが、他方で域内の経済格差の拡大、財政負担増が明らかになっているほか、EUと各国の権限分配において各国の主権が侵害されているという意識も高まってきているようです。なお、今後の統合の方向性として、統合推進重視の欧州連邦を目指す向きと緩やかな連合体である国家連合を目指す向きが共存しており、そのどちらを目指すかについては、今回会った人々の間でも意見が異なるようでありました。
EUをより民主的で透明性を持ち効率的なものとするために、昨年二月のニース条約の調印、続く十二月のラーケン宣言により、欧州の将来に関するコンベンションが設置されました。コンベンションは、民主性・透明性・効率性の達成、民主主義の赤字の解決、法的文書の簡易化等を課題に、再来年に予定されているEU基本条約を改正する政府間会合に議論のたたき台を提供するとされています。
ゼプター欧州委員会コンベンション担当特別顧問は、コンベンションにおける議論の柱として、権限の分配、諸手続や条約の簡素化、欧州基本権憲章の扱いを挙げるとともに、今後のEUの成り行きについては楽観的であると言っておりました。EUは閣僚理事会と欧州議会と欧州委員会の三者が相互に支え合う組織で、モンテスキュー流の三権分立に従うものではない、EUは他に比べるものがない新しい実験であり野心的なもの、今やフロンティアはカリフォルニアにあるのではなくブラッセルにあるなどとの言葉に、EU統合に懸ける意気込みを感じました。
コンベンションの検討状況について、ジャネッラ・コンベンション事務次長は、年内に作業部会の報告をまとめ、来年秋には何らかの結論を出したいとのことでありました。
ブラッセル及び次のストラスブールでは、欧州議会議場を視察をいたしました。国を横断した会派が結成され、原則、会派でまとまって行動しているとのことで、議席も会派単位でまとまっておりました。
九月十日、ブラッセルからフランス共和国ストラスブールに移動をいたしました。
同日及び翌十一日の午前、欧州評議会(CE)及び欧州人権裁判所を訪れました。欧州評議会は、一九四九年に人権、民主主義、法の支配という価値観を共有する西欧十か国により設立され、現在、EU十五か国を含む四十四か国が加盟し、軍事、防衛以外の幅広い分野において多くの条約を作成し、スタンダード・セッターとしての役割を果たしており、特に欧州人権条約とそれに基づいて設立された欧州人権裁判所の活動は高く評価されております。八九年以降、欧州情勢の激変による加盟国急増後、法による民主主義のための欧州委員会、通称ヴェニス委員会が設けられ、中東欧地域での憲法制定、改正についてのサポートを行っております。
シュヴィマー事務総長はオーストリアの国会議員出身で、EUの欧州基本権憲章は拘束力がなく、欧州人権条約をより実効あらしめるためには、影響力を増しているEUが同条約に加盟することが必要と言っていました。また、テロ対策と人権保障との間の調整が今後の課題とし、最後に、CEが進めている死刑廃止についても支援への言及がありました。
また、ヴェニス委員会ブキッキオ事務局長からは、同委員会に対する一層の協力要請が表明されました。十一日午後、パリに移動をいたしました。
十二日午前、上院にジェラール法務副委員長を訪ねました。同氏は、伝統的な議会中心主義を打破し、強力な執行権を持つ大統領制を取っている第五共和制憲法に対し、これは第四共和制への不満とドゴールの個性から生まれたものだが、結論としてフランスの必要にこたえているとし、地方自治制度に問題がなくはなく、第六共和制憲法制定の動きもないではないが、共産党を含め大方は現憲法体制内での改革を求める方向であると評価をいたしておりました。また、保革共存のときは首相の方が強く、議会の権力も皆さん方の想像よりは強いと説明していましたが、議会の行政に対する権能はもっと活発に行使されるべきであるとの反省の弁もありました。現在、議員立法は一割程度だが、議会の法案修正権も見逃せないとのことであり、特に、下院はよく準備されていない法案修正を採択する傾向にあるが、上院は賢者の院と言われているとのことでありました。フランス憲法には基本的人権に関する固有の規定がほとんどないことにつきましては、人権宣言と第四共和制憲法前文の尊重をうたった現行の前文で十分であるとのことでありました。なお、新しい人権への対応は個別法規や国際条約で可能との考えで、現在、新しい問題はインターネットと表現の自由との関係であり、欧州全体で抜け穴のない対応が必要であると言っておりました。今後、憲法上の課題といたしましては、地方分権、州の法制度、大統領の刑事責任、憲法院への国民提訴の是非、司法改革を挙げていました。
同日午後、フランス憲法及びEUに関して、二人の憲法学専攻の大学教授の意見を聴取いたしました。二院制につきまして、アヴリル・パリ第二大学教授は、十九世紀から一つの主権に二つの議会はおかしいとの批判があったところであり、更に近代化を進めるべきとし、ジッケル・パリ第一大学教授も、二院は相互に補完する関係でないと意味がないとの意見でありました。EUの拡大に関し、ジッケル教授は、かなりの権限がEUに移譲されたが、なお議会と政府との関係は各国で異なるので、独自性は維持されるだろう。EUは創造性の試験であり、欧州の中に異なったシステムが存在することを理解することが必要として、アヴリル教授は、将来の形としてスイスの連邦制のようなものになるのではないかとの見解でありました。また、ジッケル教授は、欧州人権裁判所について、各国とも何を言われるかと心配をしており、重要な役割を果たしていると評価していました。人権カタログの問題につきましては、個人的には、はっきりと本文に明記すべきで、欧州憲法もそういう方向だとの見解でありました。
翌十三日午前、憲法院を訪ねました。第五共和制下、強い反対もありましたが、議会の行政への干渉を防ぐため、法律の合憲性判断をする機関として設けられ、次第に人権保障の役割も果たすようになり、他国の憲法裁判所に類似した存在になっております。構成員は九名で任期は九年、大統領、上院議長、下院議長がそれぞれ三名ずつを任命します。学者、政治家、法律家が各三分の一かつ女性が三分の一、別枠で元大統領がいますが、審議には加わらないとのことであります。ちなみに、会談したアメレール委員は下院事務局長出身であります。審査の方法は、イタリアとは逆に法施行前の事前審査のみで、かつて事後審査を認める憲法改正案が出されましたが、国会で否決されました。市民の個人提訴権は認められていませんが、これを認めよとの強い意見があり、なお憲法院は立法に対するコントロール機関であり、行政に関するコントロールはコンセイユ・デタの仕事であるとの説明がありました。
午後、コンセイユ・デタ(国務院)を訪ねました。一七九九年に諮問的な行政機関として発足、その後独立の行政裁判権も行使するようになり、現在では行政裁判における破棄審として活動をいたしております。司法機関と行政機関という二元的な役割を果たしています、日本にはない組織で、フランスでは大きな権限を持っております。法案の閣議前の審査を行っていますが、これは法的整合性の審査で政治的判断は加えないとのことであります。行政裁判においては、人権保障の役割も果たしております。年間に法案百から百五十件、政令千件を処理し、行政訴訟は年間十万件前後、うち一割程度はコンセイユ・デタまで上がってくるとのことで、かなりの業務量だなと感じました。
以上が報告でございますが、今回の訪問に当たりまして、多忙の中、快く会談に応じていただいた方々、また仲介の労をお取りいただいた在外公館等の関係者の皆様に改めて感謝を申し上げます。
報告書を議院運営委員会会議録に掲載するほか、詳細につきましては、別途冊子を作成し、配付いたしたいと思っておりますので、ごらんいただければ幸いでございます。
以上、御報告をいたします。
○会長(野沢太三君) 引き続き、他の派遣議員の方々からも御発言をいただきたいと存じます。市川一朗君。
○市川一朗君 ただいま谷川団長の方から全般的な報告がありましたので、私は、二院制の問題とEUの問題の二点に絞りまして、調査の概要と所感を申し述べることといたします。
訪問したイタリア、ベルギー、フランスの三か国はいずれも二院制を採用しているところでありまして、二院制の在り方について格別の関心を持っております私自身にとりましても非常に貴重な機会でございました。
上下両院の関係は、三か国それぞれに異なっております。簡単に言いますと、イタリアは言わば対等な二院制と言えます。ベルギーは、長らく対等の二院制でありましたが、一九九三年の改正で下院に重点を置いた二院制になりました。フランスは、圧倒的に大統領の権限が強いところに特色がありますが、下院は、予算法律及び社会保障財政法律の先議を行うこと、それから法律案について両院が不一致の場合には政府の要求に基づいて下院が最終決定を行うこと、それから下院のみ政府不信任決議権があることの三点で優越しております。対等な二院制を取るイタリアにおきましても、地方自治の強化を目的とする昨年の憲法改正を契機に、ベルルスコーニ内閣の下、上院を地方代表院の性格を持つ院に衣替えしようという案が検討をされている状況にあります。
お話を伺った方々は全員、民主主義国家における二院制の意義、必要性については、例えばベルギーのドゥ・デケール上院議長は熟慮の院、フランスのジェラール上院議員は賢者の院と、団長の報告にもありましたが、そういう表現を使っておられました。また、国民からも下院より格式の高いものと認識されているとのことで意を強くしたところでありますが、具体的な二院制の在り方となりますと、各国の政治状況も絡み、集約されたイメージを描くのはなかなか難しいかなと思いました。
ただ、ベルギーにおける連邦制の追求、イタリアにおける地方自治の進展が上院を地方代表院的な性格を持つ院に変えていこうという動きにつながっていることに、我が国においても、地方分権の強化、道州制の議論などを考え合わせますと、同様な傾向が今後は出てくるのではないかと思われます。
しかしながら、私個人といたしましては、上院の本来の意義は下院の暴走の歯止めにあると考えておりまして、今回訪問した三か国以外のイギリスやアメリカなど、そういった例も参考にしながら、存在感のある上院として、参議院の真の在り方を研究してまいりたいと思って帰りました。
さて、それからEUでございますが、今年から御案内のとおり通貨統合を実施いたしました。かつてヨーロッパに旅行をするたびに通貨の両替に苦労したことを思いますと、大変便利になりまして、改めて統合の成果を実感してまいったところでございます。
EU法は、域内の自然人と法人に直接適用されることとなっておりまして、また加盟国国内法に対し優位性を持つことになっております。EU法に基づく立法は各国内での割合を高めておりまして、ベルギーでは既に半分を占めるとの話でございました。これにつきましてはもちろん、国家の主権が侵されているという反発も少なくありません。しかし、現実は統一化を一層推し進める方向で動いていることも間違いない事実でございます。
制度の統一が進むと、各国の憲法の見直しも必要になってきます。フランスでは、マーストリヒト条約及びアムステルダム条約の批准に伴い、憲法の規定を改正しております。
憲法につきましては、我が国と同時期に現憲法を制定したイタリアは十二回の改正、ベルギーは戦後四十九回、フランスも第五共和制下で十五回の改正を行っておりまして、このように小まめに改正が行われているのも、国家の基本を定める憲法であるからこそ、国の現在の姿や方向と憲法の内容は常に一致しているべきであるという考えが基本にあり、言い換えれば、法による支配こそ民主主義の原点という思想がしっかりと根付いている結果であるとの思いを強くした次第でございます。
以上で私の報告を終わります。
○会長(野沢太三君) 高橋千秋君。
○高橋千秋君 私の方からも報告をさせていただきます。民主党・新緑風会の高橋千秋でございます。
それでは、細かい報告については先ほど谷川団長、市川委員それぞれの方から報告があったとおりでございますけれども、私も今回初めて欧州の方の各議会訪問等をさせていただいた中での感想を述べて、私の報告とさせていただきたいと思います。
それぞれの国でのお話で私が特に印象的に思ったのは、イタリアなんかでもそうですが、日本と同じように地方分権を更に進めようという動きは強いように思いました。その一方で、先ほどからずっと話が出ておりますEUの更なる拡大という動きと、その地方分権の推進という動きがそれぞれ相反する部分もあります。連合制、連邦制という、この報告もこの中にございましたけれども、それぞれの国の文化や言葉も当然違いますし、それぞれの思いがやはり随分違う中で、今、EU統合というのが一気に進もうとしているというふうに思いました。
そういう中で、それぞれの国に憲法裁判所のようなものが、呼び方は違いますが、ございます。その憲法裁判所の権威というか、力が非常に強いものだというふうに私は感じました。特に、イタリアの中では、自分たちのステータスというものを非常に強く意識した中で、自分たちがその議会の上に位置するような意味合いを持つ、そういう意見を述べる方も数人お見えになりました。日本と少し違う感覚でありますけれども、欧州の歴史の中でそういうものを特に強く意識しているように思いました。
それと、憲法改正の動きでありますけれども、各国とも何度か憲法を改正しております。日本での憲法論議等を推測するとどういうふうなのかというふうに興味深く私たちも思いましたけれども、実質的には細かい変更の部分が多くて、私たちが思ったような憲法改正とは少し意味合いが違うんではないかというふうに思いました。
それから、先ほど報告ございましたが、二院制の話でございますけれども、各国とも上院、日本でいえば参議院の存在意義というものをそれぞれの国でやはり悩んでいるようでありまして、二院制の意味合いというものについて各国とも論議をこれからしようという動きが結構あるように思いました。しかし、究極的に言われたのは、上院の意味、先ほどいろいろお話ございましたけれども、熟慮という部分で、それは必ず必要なんだという意見がどの方からも出たのが印象的でございました。日本では議席定数の削減の動きが国会や地方議会の中でも進んでおりますけれども、欧州の中では逆にそういう部分は民主主義の反映として、議席を減らそうということではなくて、きっちりと意見が出せるような人数の確保というものもされているということが印象的に思いました。
それから、ストラスブルグの中で欧州の人権裁判所を伺いましたけれども、各国でのそれぞれの裁判所とは別に欧州の人権裁判所の存在というものが欧州の中で非常に大きくなってきているというのを感じました。ここの人権裁判所については、個人でも自由に提訴できるというシステムが取られております。
その中で、この人権裁判所に対する訴えというのがかなりの件数に上っております。しかしながら、実質的には人数の制限、職員の制限がありまして、すべてを処理するというところまで行っておりませんが、この欧州人権裁判所の各国での存在意義というのが非常に重くなってきているという事実がございます。これについては注目をしていきたいなというふうに思いました。
それから、ベルギーのところで、NGO、国境なき弁護士ですが、こちらについてはそれぞれかなり活発な動きをしておりますけれども、このNGO自体の動きは当然なんですが、それぞれの政府がこのNGOに対する理解をすごく持っていて援助をしているという事実がございます。日本の方にもそれの支援をしてほしいという御要請もございましたけれども、アジアと欧州との連携というのはなかなか難しいところございますが、これについても、今後、我々も参考にすべきことではないかというふうに思います。
時間がございませんので、全体の報告として、EUがかなり活発に動きつつあります。しかしながら、EUの本部の思いとそれからそれぞれ各国の政府の思いというのがやや開きがあるように思いました。これが今、壮大な実験だというふうに各国では言っておりましたけれども、この実験が完成するのかどうかというのはこれからの課題ではないかなというふうに私は思いました。
以上、報告終わります。
○会長(野沢太三君) 魚住裕一郎君。
○魚住裕一郎君 私、公明党の魚住裕一郎でございます。
谷川団長を始め、参加をさせていただいた者でございますが、団長からもかなり詳細に御報告がございました。印象に残った点を中心に何点か発言をさせていただきます。
まず、かなり会談の日程を詰めて入れていただきまして、充実した調査活動ができたというふうに考えております。最後の方はグロッキーぎみではございましたけれども、充実したものでございました。
今、高橋委員からもございましたが、全体を通して申し上げると、EUの拡大の議論の中で、やはり希望と悩みというものを何か肌身で感じてきたなというのが実感でございました。また、EU議会というものがございますけれども、そこでも話を、会談をさせていただきましたけれども、各国の中においてEU議会というものが非常に遠い存在というふうな発言もあり、私どもと、思っていたこととちょっと違ったなというふうな印象もございました。
そのEUでございますが、将来のコンベンションというのがありましたが、そこで欧州基本権憲章というものが制定されておりますが、それはなぜか、各国の人権カタログがありながら、このEUとして人権カタログ云々ということにつきまして、このドラフターの事務次長の同席者に答弁がございましたが、それで三点ほどEUの人権基本権憲章を作る理由を述べられておりましたが、一つが、強力なEUの機関に対して基本権を守らなければならない、そういう必要性を強く感じた。二点目が、このEUというものが経済面を超えた共通の価値観を持つ。これを市民レベルに説明し、納得させていく。三つ目として、市民に、自分たちがEUに対してどのような権利を持っているか、EUとは何かを理解してもらうためにこの一つの文書にまとめた。こういう理由が述べられておったわけでありますが、これは憲法制定過程においてもこの人権というものの在り方、非常に参考になったなというふうに私自身としては感じているところであります。
憲法改正を行った国もあるわけでございますが、イタリアで先般、地方自治を強化する改正があったわけでありますが、その在り方、ずっと話を聞いていますと、実施法をこれから制定するという話がありまして、要するに実施法も一緒になきゃいけないんではないかというふうな思いがあったものですから、その点について非常に新鮮な響きで受け止めました。その上で、憲法裁判所もこれからどんどん権限争議、自治体同士、あるいは中央と地方との権限争議も予想されるというような発言もありまして、憲法を、まあ改憲とか護憲とか論憲とかいろいろございますけれども、議論していく上で非常に参考になったなというふうに考えております。
それから、憲法裁判所あるいはそれに類似する機関に訪問をさせていただいたわけでありますが、先ほどもスーパー立法者というような表現もあったと思いますが、いわゆるモンテスキュー的な発想を放棄して、より憲法の持つ価値観を実質化させる、そういう取組として私は受け止めた次第であります。これは人権であり、また統治機構のいろんな争議を仲裁すると、そういうような役割を果たしているんだなというふうに感じた次第でございます。
それから、先ほども取り上げられておりましたけれども、各国、途上国含めて法整備支援、憲法を含めた法整備支援もかなり取り組んでいるという姿が見られました。欧州評議会のいわゆるヴェニス委員会、ここには韓国も参加しているというお話でございまして、これは朝鮮半島の統一もにらんだような、東西ドイツの経験を踏まえたそういう経験を学び取っていこうと、そういうことで参加しているという話でございましたが、この法の支配を全世界にというこのCEの理念にのっとった活動でございますが、これも参考になったなと。
それと、先ほども話に出ました国境なき弁護士団も、各ルワンダ等の弁護士としての活動のほかに、東チモール等、この法整備ということに寄与しているというふうな報告がございまして、ODAの大国である日本も今後更にこの点も考慮していくべきだろうというふうに感じた次第であります。
人権の点についてもう一点だけ申し述べたいと思いますが、欧州評議会に人権裁判所がございますが、フランスでもこの欧州人権裁判所から破棄の事例があるということで、かなりこの人権裁判所が欧州の中で重きを成しているというふうに実感をいたしました。そして、その裁判所の研修生として中国も参加しているというようなこともお聞きいたしまして、これからも人権というものが大きな政治あるいは各国を動かす因になるなというふうに実感してきた次第でございます。
以上でございます。
○会長(野沢太三君) 吉川春子君。
○吉川春子君 日本共産党、吉川春子です。私は、四点について御報告いたします。
まず、参議院議員として興味深かったのは、二院制に対する評価と改革についてです。
両院が対等な権限を持つイタリーでは、現在、上院改革の憲法改正の審議が行われており、フランス、ベルギーでは上院の権限は我が国同様、下院が一定優位の規定が設けられています。同時に、上院は、お話にもありましたように、熟慮の院とか賢者の府とされ、生命倫理や非嫡出子など重要テーマについてじっくりと審議を行っています。
ベルギーの上院議長が、世界は上院が増えている、二院制は人権保障のとりでだ、一院制はポピュリズムの危険がある、上院の持つ重要性に照らせばその経費は問題ではないと指摘されていました。日本でも、参議院があると法案が成立しにくいと一院制を主張したり、議員の数を減らしさえすればいいとの考えがありますが、これは危険だと思います。
私は、参議院が民主主義発展に果たしてきた役割を明らかにし、また一院制の問題点も調査し、参議院は不可欠であることをアピールする必要を痛感しました。
第二は、各国とも法律や行政処分の合憲性が裁判所で積極的に判断されている点についてです。
イタリーでは年間八百から千件の提訴があり、四、五百件の判決を下しています。違憲と判断された法律は、さかのぼって無効とされます。ベルギーでは人権問題を更に全面的に審査できるよう検討中、フランスでは憲法裁判所のほかに行政裁判所があり、年間十万件の行政訴訟の一割はコンセイユ・デタに、行政裁判所に上がってきており、人権保障の役割を果たしています。
フランス憲法院には懐かしいモンテスキューの像がありましたが、今や三権分立ではなく、憲法院が国会よりも強い権限があることに驚きました。我が国では、内閣と国会の法制局が合憲性について事前審査しますが、各級裁判所が合憲、違憲の判断をいろんな理由を使って避けています。人権保障のためにも、憲法判断を活発に行うべく、憲法の改正ではなく、運用の問題として考えるべき課題です。
第三は、憲法改正についてです。
印象的だったのは、フランスが人権カタログを持たず、一七八九年のフランス革命当時の人権宣言と第四共和制の憲法の尊重で十分であり、人権問題の対応は個別対応で可能、上院法務副委員長がおっしゃっていました。憲法を変える動きはほとんどないということです。
確かに、フランスで憲法改正はしていますが、それは行政機構とか手続条文で、日本でいえば法律事項です。また、フランス人権宣言は女性には向けられていませんので、女性の権利について一九四七年に改憲されました。また、憲法院の構成の三分の一は女性とされ、最近、選挙の候補者を男女平等にすることの改正が行われました。フランス人権宣言の思想を受け継ぐ日本国憲法は、五十年たったから古いなどと言えるでしょうか。また、共和制など基本理念についての改憲はできませんし、問題にもなっていないそうです。
ですから、戦争放棄等基本理念の改憲が問題になっている日本と簡単に比較はできません。新しい人権を取り入れるなどとして、諸外国の憲法改正の回数や容易さをそのまま日本に当てはめることはできないのです。
第四に、欧州連合、欧州評議会の活動は大変刺激的でした。
二〇〇二年一月から通貨統合が行われ、国は移動しても通貨は同じ、パスポートの提示も求めない。ヨーロッパは一つが一層進んだ感じです。欧州基本権憲章制定の方向を目指し、ソ連、東欧の激動を契機に、第二次世界大戦直後から営々と進んできた人権、民主主義、法の支配を共有する流れが一層進んでいます。欧州人権裁判所の活動は高く評価され、提訴も激増し、自らの成功に押しつぶされそうだと語っていました。
ヨーロッパを戦場にしない。独、仏、再び戦わずと。主権を制限する連邦制か国家連合かと壮大な実験が行われています。EUの最終目的は外交・防衛政策の一致という意見もありました。日本国憲法は既に五十数年前、平和のために交戦権を行使しないと主権の制限を宣言しています。
各国が平和の価値観を共有できる日が遠くないことを期待し、私の報告を終わります。
○会長(野沢太三君) 平野貞夫君。
○平野貞夫君 国会改革連絡会(自由党・無所属の会)の平野でございます。
私は、後半の四日間しか参加しておりません。党務のためとはいえ、谷川団長や派遣委員、それから事務局の随行の方たちに御迷惑をお掛けしました。短い期間でございましたが、大変私個人にとっては意義のある勉強をさせていただきました。この際お礼を申し上げておきます。
と申しますのは、私はフランスだけだったんですが、フランスを支えている統治システムの特徴というものが、今まで自分が理解していたものは間違っていたと、あるいは不十分であったという勉強をさせていただきました。それは、やはりフランスという国が、革命とかあるいは王制という近代の非常に厳しい歴史の教訓に学んだ、実に巧妙なシステムを持っておるということでございます。
私は、一般的に行政府、行政権の強いことが特徴なのがフランスの政治だと思っていましたところ、決してそうではないということが分かったわけでございます。それは、議会主権でもございませんし、国民投票を持っていますけれども国民投票ですべてを決めるというシステムでもないですし、大統領制を採用して非常に大統領の権限が強いように見えますが、決して決定的に強い権限も与えていません。それぞれの長所を採用しておると感じました。状況によっては不安定なのかも分かりませんが、それを支えているのが行政府の中にある国務院とそれから会計検査院だと。
要するに、私がフランスは行政権が強いと誤解していたのは、行政権じゃなくて行政を監視する行政裁判所、国務院とか会計検査院が強いということでございました。したがって、フランスのエリートの人たちは、国立行政学院を、ENAを卒業して一番優秀な人はこの国務院か会計検査院に就職すると。日本のように財務省とか外務省を決して希望しないというところにやっぱりフランスの政治の知恵があると思いました。
そして、フランス人は自由に市民生活を送っていると、楽しんでいると、こう世界じゅうからうらやましがられていますが、その裏には行政を監督するシステムがかっちりとあるということを勉強してまいりました。それと、注目すべきはやはり憲法院の機能だと思います。憲法院の存在については、議会の機能をチェックするという名目でできたのが、だんだんその後の状況で変わってきまして、現在は事実上、行政、司法を含めた公権力すべてを監視するというような機能が働いているというふうに私は理解しました。
憲法院の構成が実に面白い。それは、大統領から三名、上下両院議長から三名という説明が団長報告でありましたが、あれを院で推薦するんではないと、議長個人が推薦すると。これは非常にやっぱり面白いシステムでございまして、責任が明確になります。院で推薦すると政治的談合になりますので、そこら辺はやっぱりフランスは新しい方法を選んでいるなと思いました。
要するに、九人の賢人というのが憲法院というところで、情報化社会化した現在の遺物となった代表制民主主義、それから暴走する直接民主主義、こういったものを賢人という方たちが最終的にはアドバイスしていると。それでフランスという国が、政治機構が成り立っていると、こういう勉強をしてまいりました。
国会は国権の最高機関であるという憲法を持っているからといって、日本のように国会が威張っているようだけでは、私は今後問題があると思います。
デモクラシーの変化といいますか、新しい市場経済原理の変化に伴うそういう動きを見てまいりました。
以上でございます。
○会長(野沢太三君) 大脇雅子君。
○大脇雅子君 私は、EUとフランスの調査に参加させていただきました。
非常に興味深く刺激的で、各国の特色というものに憲法改正問題を重ね合わせるとき、その国の歴史的な経過とかあるいは現状というものに十分なまなざしを射なければならないというふうに思いました。
三点について、お話というか報告をさせていただきます。
まず、EUに憲法ができるか、EU憲法ができるかということについては、現在、御報告にもありましたように、欧州の将来に関するコンベンションの設置とかヴェニス委員会とか、様々な機関において議論されておりまして、結局は将来はできるであろうという見通しが大方としてあったのではないかというのが私の感触であります。
その場合、現在、欧州基本憲章がございますが、これには法的拘束力がないということで、欧州参加国における各国憲法の社会権というものもそれに統合し、あるいは人権条約というものを統合して、将来そういう流れになるのではないかと。経済的な統合が成功いたしましたが、更に社会的な統合に向けて健康や公衆衛生、教育、文化、スポーツ等の幅広い分野での交流が現在進んでいるように感じました。
私の第二の興味というのは、EU指令というものがございまして、欧州基本憲章も始め各国における権利のレベルというか法律のレベルが非常に高いということ。人権保障概念などを見てもそのように感じてきたものですから、果たしてどういうところでEUの立法ができるのだろうかということでございました。
どうしても、私どもはモンテスキューの三権分立ということを頭に置いてEUの問題を分析しようと思っていたんですが、結局、モンテスキューの三権分立ではなくて、それぞれの新しい実験としてEUの統合は果たされているんだと。
したがって、EUの閣僚会議というものがございまして、これは政府の代表が入っております。そして、EU議会というのがありまして、これは各国から選出されますけれども、政治グループ別に活動をしています。それから、EU理事会という執行機関がございまして、これが非常に大きな権限を持っておりますけれども、この三者がそれぞれ相互チェックをいたしまして、立法などは三回の審議を行って、欧州議会によってEU理事会が提案された法案は修正されていくということを知りまして、これは新しい挑戦というか、試みであるということを実感いたしました。
そして、EUの統合それ自身が多元的な社会を作るという、そういうことでございまして、防衛は別、将来的にはそれも含むのかもしれませんが、人権とか民主主義とか法の支配というものを背景にした一つの大きな実験というものに非常に興味を持ちました。
その中で、移民問題というものについて私は興味を持ちました。
それで、移民問題については、合法移民と不法移民があるわけですけれども、不法移民の発生始め移民問題というのは貧困と闘うことだというような基本認識がございまして、各国において今様々なナショナリズムの傾向がありますけれども、EUそれ自身は、今この移民問題を中心にEU理事会は取り組んでいるという話でございました。
そして、最大の関心事というのは、進んでいるなと思ったのは、いわゆる不法移民というものを、貧しい人々ということで不法移民に対して人権が侵害されないようにということが非常に大きな関心事として取り組まれているということであります。
で、不法移民は出身国の貧困の人たちであって、基本的人権が保障されていないんだと。そして、不法移民の移動の中でオーガナイズされたそのシステムというものが腐敗しているということが問題だと。そして、受入れ国ではその不法移民が存在しないというような形での取扱いがなされているけれども、今その救済機関としては最低の生存権の枠組みというものはあるんだというお話でありました。
で、その最低の生存権というのは、移民のこの教育権、病気への緊急アクセス、そして適切な居住へのアクセス、そして人間の尊厳を損なわないシステムというものが最低限不法移民に今問題があるということの話を聞きましたことが非常に興味深くありました。
以上でございます。
○会長(野沢太三君) 以上で海外派遣議員の報告は終了いたしました。
これより、ただいまの海外派遣議員の報告を踏まえ、委員相互間の意見交換を行いたいと存じます。
まず、各会派を一巡してそれぞれ五分程度御意見をお述べいただきたいと存じます。
それでは、御意見のある方は順次発言願います。武見敬三君。
○武見敬三君 大変興味深く御報告を聞かせていただきました。勉強になりました。
フランスにおける賢者の院、そしてベルギーにおける熟慮の院といったいずれも権威と重みというものを感じさせるイメージで、こうした一院、二院の在り方というものが御報告をいただけたわけであります。そこには常にこの二つの院との間で適切な相互補完という機能が確保されることが求められ、その上での第二院の賢者及び熟慮というものが強く意識されていたように思います。
こうした形で考えたときに、我が国のこの参議院の在り方というものを申し上げるとすれば、いまだ引き続き衆議院のカーボンコピーと言われている現状は変わりがないわけであります。こうした憲法調査会を通じてこうした二院制の在り方を制度として議論するということは、中長期的に極めて必要なことでありますけれども、現状の制度の中で実際にどのような運営を通じてむしろ賢者の院、そして熟慮の院となり得るかということを現実的に考える必要があるように思います。
その中で特に、この報告の中では余り語られませんでしたけれども、むしろ制度や組織というものがどのような民主主義的な価値観によって運営されているのかという点についても、私自身は大変興味があります。私自身は、実際にこの参議院の中で外交防衛委員長等もやらせていただきましたけれども、実際、条約というのは衆議院で審議、採決をされますと、参議院ではこれはもう三十日以内に実際に審議、採決をしなければ自然成立ということになる。そこで、実際には与野党が様々に駆け引きをするわけでありますけれども、その自然成立間近ということになりますと、与野党ともに自然成立を避けなければ参議院の意義が損なわれるということで手打ちとなり、最終的にはそれが滞りなく審議、採決されると、こういうことの繰り返しでありました。私自身は誠にこのようなことでいいのかということをつくづく思いました。
すなわち、もし与野党ともに支持し得るそういう条約、協定等の批准案件であるとすれば、こういうものは早く審議、採決してしまうか、もしまたほかにもっと重要な課題を独自に選定するということであれば、そちらの方の審議に時間をむしろ集中をし、自然成立したって私なんかは一向に構わないというふうに思っておったわけでありますけれども、この点について、やはり参議院における現在の制度下における運用の仕方を通じて、むしろこの熟慮や賢者としての立場を再確立するための改めて考え方が求められるように思いました。
また、決議などをする際においても、これは少数意見を尊重することは当然でありますけれども、決議を提示するということについておおよそ全会一致を原則としている。おおよそその決議においてでも、何人が賛成をし、何人が反対したかということを国民が知ることが私は大事だと思うんです。
ところが、決議を出す前段階で事前に全会一致を原則とするというような形でやっておりますと、実際に出された決議そのものは常に全会一致で採択をされてしまうわけであります。これは本来国民の目から見たら分かりにくいことでありまして、様々に意見が相違するとしても、そういう決議の賛成票、反対票の多さを通じて国民がそれを理解するということも同時に必要なことではないかと思います。このような運営方法というものについても改めて現在の制度の中でしっかりと議論をして、独自性を確保する努力が必要だと思います。
その上で、制度としても、中長期的に日本の参議院が本当に賢者・熟慮の院となるためには、やはり私は定員の大幅な縮小が必要だと思います。
今国民は、二百四十七名いる参議院の議員の数、明らかに多過ぎだと思っていると思います。私は百名ぐらいにしてちょうどいいだろうと思っているわけでありまして、かなり大幅にこの議員の数を縮小しない限り、賢者の院あるいは熟慮の院としての権威を国民がこの参議院に認めることはほとんどないだろうというふうに思っております。相当ここは、我々自身が覚悟をしてこうした決意を固める必要が私はあるように思います。
また、行政府との関係においても、そのような権威を最終的にしっかりと確立をするということであれば、むしろ参議院から閣僚等を政府にこれを出すということはむしろ控えるべきであって、独自のそうした立場というものを三権分立の中でもしっかりと確保するということが私は大切であるように思います。
こうしたことを今日の御報告を聞き、様々に考えさせていただくことができましたことを改めて感謝を申し上げて、私の発言とさせていただきます。
ありがとうございました。
○会長(野沢太三君) 峰崎直樹君。
○峰崎直樹君 初めて憲法調査会に参加をさせていただきまして、実は今日もう早速、ああ、これはとらえ方が間違えていたなと、意見交換というふうになっていたんだったら、実は私は質問だと思っておりまして、各外国に行かれた方々に対する質疑をやるのかなと、こう思っておりまして、ちょっと少し勝手が違っちゃったなと思っておりますが、質問も含めてやらせていただきたいと思いますが。
私、率直にお聞きしていて、特にEUの指令と各国の主権との関係という点で、実は私も十月のたしか五日からだったでしょうか、一週間フランスに参議院とフランス上院とのいわゆる友好関係というものを、公式派遣で行ってまいりました。そのときにも、フランスの上院の方々とお話をしたときにも感じた問題なんでありますけれども、これは特にEUの場合、私、経済政策を中心にして議論をずっとこの十年間国会でやってまいりました。果たして通貨政策として、金融でヨーロッパの中央銀行があると。さらに、各国が財政政策の面で赤字の比率をストックで六〇%以内、GDPの六割以内、それからフローの毎年の予算で三%以内に赤字を抑えるようにと、こういう決まりがあったわけでありますけれども、果たしてそのように縛った上で景気政策として、それぞれの主権国家がまだ依然として存在している中で、果たして経済政策として成り立ち得るんだろうかということが非常に疑問に思っておりました。
フランスに行ったときもそうでありましたけれども、どうもやはりヨーロッパも、アメリカや我が日本と並んで景気が非常に落ち込んでいる。そうすると、景気が落ち込んで、当然のことながら税収が落ち込む、景気対策を打たなきゃいかぬ、そうすると赤字が三%に収まらないんじゃないのかというおそれが出てきていると思います。そうした場合に、果たしてこのEUの指令、EUの基準というものをそれぞれの国が本当に守り得るんだろうかなということが大変気掛かりでございました。
それと、さらに私は、財政の歳出の面と並んで、財政には歳入の問題、すなわち税制の問題があるわけですけれども、これが各国によって、付加価値税の比率は最低一五%とは決まっていますが、この付加価値税の税率もそれぞれ各国ごとに違います。あるいは、法人税を軽くするところもあれば、所得税を、累進性が非常にきついところもある、そういった各国の財政、とりわけ税制の改革は一体どうなるんだろうか。あるいは、社会保障の充実を非常に重視する政権とそうでない政権が出たときどうなるんだろうか。最終的には安全保障までこの問題について当然のことながらEUとして果たして統一し得るんだろうかという点について非常に興味深くまた聞かせていただいたわけでありますけれども。
この点、今回派遣された、我が党から出られた高橋千秋議員がどんなふうに考えておられるか、あるいはどういう感想を持たれたのかで結構でございますので。私自身は、どうもそういった点で、将来EUが連邦制になっていくというのはなかなか難しいんではないかな、それも五年、十年のタームでは恐らく難しいだろうと思いますが、将来的に果たしてどんなふうに展開していくのかなということについて、率直にお聞かせ願えればなと思っております。
以上でございます。
○会長(野沢太三君) 高橋千秋君、よろしいですか。簡潔にお願いします。
○高橋千秋君 先ほどお話があったのは率直な疑問だと思いますし、私も行ったときにそのように思いました。
谷川団長の方から、最初に、各参考人の方に質問するときに一番最初に質問されたのが、連合国家を目指すのか連邦国家を目指すのか、どっちですかということからまず入りまして、この報告書にも書いてございますけれども、率直に言って各国ばらばらでございますし、それぞれの人によって感触が違うというのが現実ではないかなというふうに思いました。ただ、EU本体としては連邦制にしていきたいという意向は強く感じました。ただ、それぞれの国では緩やかな連合的な国家というので収まる方向に行くんではないかという、そういう感触がありました。
それと、税制等についても同じようにそれぞれの事情がありますので、単純にはいかない。これも、壮大な実験というお話がございましたけれども、まだまだ実験の途中という感じでございまして、結論はまだまだ出ないだろうというふうに思います。
細かい報告書の中の最初のイタリアの部分で税制の問題も触れられておりますので、是非御参考にしていただければなというふうに思います。
以上です。
○会長(野沢太三君) 後ほどまた自由な時間がございますので、引き続きの御討議がありましたら、ひとつ後ほど機会を作りたいと思います。
続きまして、山下栄一君。
○山下栄一君 じゃ、私の方からは、今参議院の憲法調査会では人権の保障の各論に入ろうとしているわけですけれども、私はその観点から、ちょっと今回の調査団の御報告を踏まえて感想を述べたいというふうに思います。
特に、EUを始め欧州の人権に対する感覚というのはやはりしっかり学んでいく必要があるなということをしみじみ感じました。人間の権利の保障という、特に制度的保障という観点からは、立法、行政と司法機関ですね、司法機関の位置付け、そして国民から見た司法機関への信頼というか、それがやはり学ぶべきことだなというふうに思いました。欧州評議会、またEUでは、法の支配という、この価値というのが大変な重みがある。そういうことから、議会に対する信頼、ないことはないと思うんですけれども、裁判所、司法に対する信頼、そして権威というのが非常に定着しているなというふうに思った次第です。
今回行かれたイタリア、そしてフランス、ベルギーですか、憲法裁判所の位置付けも、やはり議会の公権力を監視するというか、そういう役割が国民一人一人に自覚されている。そしてまた、欧州人権裁判所に代表されるように、国権から人間の権利を守るという、そういう観点から欧州人権裁判所の伝統、重みというのも、欧州人権保障条約ですか、欧州人権条約に基づいてこういう裁判所があるわけですけれども、これも実際動いていったのは四年前だそうですけれども、個人の申立て権、そして加盟国を拘束するという、こういう行き方、在り方も、やっぱり人間の権利への保障、そして司法機関への期待、信頼感、権威、こういうところから来ているのではないかということを思いました。
今、日本でも司法制度改革、いよいよこの臨時国会でも法案審議が始まろうとしているわけです、始まっているんですかね。もう一度私たちは、この司法の権威という、司法権の独立も含めた司法の権威、また人権から見た裁判を受ける権利、こういう観点からの位置付けといいますか、EUから学ぶ必要があるなというふうに思いました。
もう一点は、人権保障の国際協力ですけれども、これは、国レベルそしてNGOレベル、それぞれ私はこの人権保障という観点からの国際協力、日本でもいろんな方が取り組んでおられると思いますけれども、もう一度この役割を確認する必要があるなというふうに思いました。
国境なき弁護士団国際連合ですか、十か国参加されているそうですけれども、日本も支部作ったらどうですかという話があったようですけれども、国、そして国連、その他の国際組織と連携を図りながら人間の権利を守る。と同時に、途上国、弁護士団の場合は、アフリカの国への地理的、歴史的な観点から支援という、法治国家整備への支援ということがやられているようですけれども、こういう国境なき弁護士団から学ぶこともたくさんあるというふうに思います。と同時に、この人権保障というのはNGOの役割が非常に大事だというふうに思いますし、そういう意味で、日本における様々な、日本の国内、そして国を超えた日本のNGOの取組を評価する、そういうこともしっかりこれからしていく必要があるのではないかというふうに感じました。
以上です。
○会長(野沢太三君) よろしいですね。
吉岡吉典君。
○吉岡吉典君 日本の憲法状況を念頭に置きながら各報告お伺いしました。非常に刺激的な大変面白い報告であったことを感謝いたします。
私は、自分の意見より、もっとたくさん知りたいことがあるので、ちょっと時間の範囲内で質問させていただきたいと思います。
一つは、違憲裁判の問題、憲法裁判の問題、これ日本では、今、吉川議員の報告でもありましたけれども、統治行為論とかそのほかいろいろな理由でほとんど憲法判断が下されたことがないと。特に、重要な問題についてはないと思います。そういう点、ヨーロッパではいろいろな例があると。それで、イタリアの場合の例では、違憲と判断されたらさかのぼって無効になるというお話でした。
それで、一体、違憲判決というのがあるのかないのか、どの程度あるのかということと、もう一つは日本との違い。憲法裁判所があるからそれが出せるのか。やはり、そうでなく、日本の司法の特徴ないし後れというところにあるのか。そういう点、どういうように吉川さん、お感じになったのかということが一つです。
それからもう一つ、団長にお伺いしたいんですけれども、国民の憲法に関する関心というのは日本が強いか、今度訪問された国が強いか、どういうふうにお感じになったか。僕、これいつも考えていることですので、もしお答えいただけたらと思います。最初は吉川議員。
○吉川春子君 私も同様の質問をしまして、ベルギーでは、アルツ仲裁院院長が、四件に一件は違憲と判断されていると答えました。そして、例えばサッカーのフーリガンを逮捕する法律、具体的には、直ちに逮捕し直ちに裁判するという内容の法律は、弁護権侵害、十分に弁護する権利を認められないとして取り消されたということです。
もう一つは、イタリアで九三年に選挙制度の比例制の拘束式名簿を作るときに、男女、男女という形で交互リストを作らなければならないことが規定されました。しかし、憲法裁判所の方からこれは違憲判決が出ました。それは、自由な政治団体を形成する権利を奪うものという理由でして、この規定は、この法律は失効しています。
まだありますが、時間の関係で以上です。
○会長(野沢太三君) よろしいですか。また後ほど。
○谷川秀善君 具体的に、何といいますか、国民の皆さん方と会っているわけじゃございませんが、大体全般的な感じとしましては、やっぱり憲法、何度か改正しておりますから、それぞれの国において。そういう意味では、憲法に対する感覚というのは非常に国民は近いんじゃないかと私は思っているんです。日本の場合は、何かいろんな議論がございますが、まだ現行憲法一遍も改正しておりませんから、いろんな議論はあるけれども、なかなか肌で感じられていないのではないかと。
その差が、いいか悪いかは別にしてあるのではないかなということと、憲法裁判所みたいなところがありまして、積極的に提訴しますね。日本の場合は事件を、あることを通じてやると。そうじゃなくて、向こうの場合はそのものずばりを憲法裁判所に訴えるということで、やっぱり割に近いんじゃないかなという感じは私は受け取っておりますが。
○吉川春子君 会長、済みません。答弁漏れしました。
○会長(野沢太三君) 吉川君、後ほど時間がございますので、また機会を作りますから。
○吉川春子君 ああそうですか。はい、分かりました。
○会長(野沢太三君) 平野貞夫君。
○平野貞夫君 私、二度目の発言をお許しいただいて恐縮でございます。
吉岡先生の話に関連するんですが、率直に言いまして、ヨーロッパでは二十一世紀は憲法の時代、憲法の世紀というふうに、僕はそういう機運になっていると思っております。
二つ理由がありまして、一つは、EU憲法を作るか作らないのか。これは、この議論というのはやっぱり憲法の定義、概念を根本的に変えるものでして、非常に興味のあるテーマでございます。
それからもう一つは、ソ連圏が解体しました。それで、いろんな国が出てきまして、この国がどう近代的になるか、近代憲法を持つかということで、欧州評議会のヴェニス委員会で皆相談しているようなんですが。
こういう意味で、ヨーロッパというのは憲法が非常に議論が盛んになっておるという。その憲法の盛んになり方が、十九世紀的な憲法をこれから持つべきだという国と、それからもうそういったものを超えてEU憲法のような、ちょっと今までの教科書にないような憲法の在り方みたいなものをどう模索するかということで、その文化圏文化圏、国々、民族民族の一種の文化というものを背景にして憲法をもう一回どうとらえ直すかという。例えば、僕ら、教科書でイギリスは成文憲法でない不文憲法と言われていますが、例えばスコットランドの独立、自治権確立は、英国の下院事務総長なんかに言わせたら、これ憲法改正ですよ、いわゆる成文憲法作ったんですよと、その部分で。そういうプロセスにあると思います。
それから、あと一点、フランスの憲法学者のアヴリル教授に、私、個人的に聞いた話なんですが、日本国は五十年以上、新しい憲法を作って国民投票などをする憲法改正規定を整備していないんだけれども、政治家のことは申し上げませんが、フランスだったら憲法学者はどういう反応をしますかという、しますと、日本の憲法学者はそういうことを文句言いませんか、問題にしませんか、フランスだったらとても憲法学者がそういうものを許しません、日本の国というのは憲法については不思議な国ですねといって、個人的に言っていただきましたことを御紹介しておきます。
○会長(野沢太三君) ありがとうございます。
それでは、大脇雅子君。
○大脇雅子君 私は、二度目の発言をさせていただきます。
憲法裁判所についてでございますが、法律に対する違憲立法審査というのは、むしろ我が国では内閣法制局が閣法に対するほとんどのチェックをしております。議員立法については衆参の法制局が行っているわけです。そして、いわゆる裁判所というのは、憲法条項に関しては個別のケースによって、そして事後的に審査をするというシステムになっておりまして、統治行為論などありまして、極めて政治的な、統治的な問題は裁判所は判断を避けるということであります。
ハンセン病とか、あるいは従軍慰安婦の山口地方裁判所の判決のように、いわゆるやる場合は立法不作為の、義務があったのにやらなかったという国会へのそういうメッセージを出すという形になっているわけです。
私は、やっぱり様々なところの憲法事情を見まして、日本における憲法裁判所の在り方というものを、これは別に私は憲法を改正する必要というよりも、むしろ今の地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所で、最高裁判所の場合は上告理由に憲法違反ということを明快に挙げていて、飛び越しの上告もできるわけですから、やっぱりこれを司法制度改革の中で十分議論する必要があるのではないかという考えを強くいたしました。
我が国の内閣法制局は第二憲法裁判所と言われるように、法案審査でも絶対的な権限を持っているということも、これは行政内部の組織である以上おかしいのではないかなという気がいたします。
それから、私はイタリアに参加しなかったのでちょっと質問を、委員でありながら質問をさせていただくのは恐縮でございますけれども、イタリアというのは、日本と同じように日独伊同盟で、第二次世界大戦ではファシズムというのが非常に大きくその国を支配いたしまして、ムッソリーニが出てきたわけです。そして、それが、今度のベルルスコーニ首相が出てきて、大統領制を強化するということと地方分権を進めるというふうに、相反するような議論がなされているということになりますと、日本の憲法というのは九条で戦争放棄という形で第二次世界大戦の反省が条文化されているんですけれども、イタリアの憲法というのはそういう点では、あるのかないのかなという点が非常に疑問でありまして、市川先生は、ベルルスコーニ首相の大統領制強化と地方分権の整合性というのは難しくないかという御質問をしておられますが、それから吉川議員は、その点、何か調査のときに感じられたか、お二人にお尋ねをいたしたいと思います。
○会長(野沢太三君) まず、市川先生。
○市川一朗君 私、御指摘のように、先生と同じ問題意識を持って、要するに、大統領制でもう少し権限をきちっと強化していく必要性とか政治の安定性とかということを盛んに強調されると同時に地方分権の強化の話もされましたので、基本的にはそこに矛盾はないだろうかという形で、アマート議員にちょっとお聞きしましたら、アマートさんは即座にアメリカの例を出しまして、アメリカのような考え方があるじゃないかと。大体、アメリカのように志向しているというわけではないけれども、アメリカは、非常に地方分権、連邦制がきちっとしておった中で大統領を中心とする国家としての統一性といいますか、そういうリーダーシップは取られているということで、あなたの指摘は一つの指摘であるけれども、ちゃんと整理されている国があるではないかと、そんな回答がございました。
それで一応その点は御理解いただきたいと思います。
○会長(野沢太三君) あと、どなたに質問ですか。はい、吉川先生。
○吉川春子君 その点について明確に質問したわけではないのですが、イタリアの憲法の基本理念はファシズムに反対するということが貫かれておりまして、憲法改正のいろいろな議論がなされてきましたけれども、基本理念に触れる部分については話としては伺いませんでしたので、日本国憲法の戦争放棄をどうするかこうするかというような議論はイタリアにはなくて、ファシズム反対ということは、基本理念は貫かれているという印象を持ちました。
以上です。
○大脇雅子君 魚住先生は制度的にどんなふうにそのイタリアの憲法を見られましたでしょうか。
○魚住裕一郎君 話の中で、一人の人に権限を強化するのはイタリア人は好きじゃないよという言葉がありまして、それは今、先生御指摘があったような戦前のファシズムに対する反省に立っての感覚だと思いますが、その上での大統領の権限強化というふうに理解をしております。
○会長(野沢太三君) じゃ、よろしいですね。
各会派を一巡して御発言をいただきましたが、なお時間がございますので、御意見のある方は挙手をお願いして発言してください。
○江田五月君 私は、ヨーロッパの各国それぞれ、今回、イタリア、ベルギー、フランス、行ってこられたわけで、それぞれの国の憲法、それぞれに非常に興味がございますが、同時に、先ほどちょっと平野先生がお話しになったようですが、ヨーロッパ全体として、主権というものが今非常に動いていって、そして新たな形の主権というか、もう主権はある種超えた、何か国際機関としての一つの権限の集中、あるいは一定の項目については権限の分化、分権といったものが起きているようなことを感ずるんですね。
とりわけ、第二次大戦後にいわゆるヨーロッパ石炭鉄鋼共同体からスタートをしてできていったものと、もう一つ、安全保障についての、あれはCSCE、今はもうCSCOになっているんですかね、そうした動きと、そういうヨーロッパ全体を覆うたある種の主権の流動化と統合と分化、そうしたものと今の憲法の各国での議論と、この兼ね合いというのが一体どうなっていっているのかというのが非常に興味があるんですが、もしそういうことで、どなたか、もう余り細かなことはいいんですが、歴史を大づかみにして直感的にどんなことをお感じになったかをお知らせいただければと思います。
○市川一朗君 そんな立派な回答はできませんが、団長の報告にもありましたけれども、ベルギーの上院議長のときに、ちょっと議論があったんですけれども、要するに各国は、法律を決める場合には、先ほど来、二院制の問題の必要性とかいって、熟慮の院とか賢者の院とか、非常に慎重に法律を決めているわけですね。
ベルギーでは、EUが決めたことによってベルギーの国内法が半分ぐらいもう改正されているんだと、上院議長の話ですね。そうなると、EUが決めるそういう規範の決定プロセスは、各国の法律を決めるプロセスに比べると極めて問題を一杯含んでいるんじゃないかと、果たしてあれは民主的な手続と言えるかどうか疑問であるというような話がありました。
私の感じとしては、やはりEUは今十五か国、今コンベンション委員会で二十八か国で議論しております。そのうち三か国、トルコも含めて、一応外れて、報道によると、あの後ですが、十か国入って二十五か国になっていくわけですが、そういう過程で、今のEUの決定プロセスで各国の国内法を規制していくようなやり方にはいずれ限界が来るんじゃないかなと。やはり、どこかでその辺はきちっとした民主的プロセスといいますか、それを各国の憲法で、我が国でも持っておるわけですが、持っている、例えば立法手続といったように近いようなものをきちっと取っていかないとEUの限界が来るんじゃないかなということを感じてまいりました。
○会長(野沢太三君) ほかに御意見。
○魚住裕一郎君 今、江田先生の質問に関連してですが、EUのゼプター特別顧問、コンベンション担当でございますが、このときにEUにおける民主的正当性について質問をさせていただきました。答えも、今悩んでいるというのが結論でございますが、EUの制度自体が複雑である、あるいは民主的正当性について見えにくくしているというような自戒を込めたコメントございましたけれども、その上に立って今どういうメカニズムを作れば正当性をきちっと納得できる形でできるかということを、今、日常的に議論をしているというような御報告がございました。
○会長(野沢太三君) ありがとうございました。
○平野貞夫君 実は、江田先生の話について、非常に卑近な話なんですが、昼飯を食べながらフランスの日本大使館でワイン飲みながら、パリ大学の先生なんかと議論したものですので。
私、EUというのは何年もちますかということを聞きましたら、大学の先生が怒りまして、失礼なって言うんですよ。しかし、みんなの国が国益を中心にリアリズムで作ったものでしょうと言ったら、最初はそうだけれどもと、こう言うわけです。それで、イギリスと北欧は、大体三国は国家主権制限するなって言うし、それから、ドイツとフランスとベネルクスの方が統一憲法を作ろうという論なものですから、しかし、EUはフランスとドイツが仲良くしておけばそれは続くでしょうけれども、あなたたち永遠に仲良くできますかと言いましたら、本当に怒りまして、できないと言うんですよ。そうしたらやっぱりEUにも矛盾がある、問題が起こるんじゃないですかと言いましたら黙ってしまったんですけれども。
ただ、私、日本に帰って、そういう失礼なことを言ったことを反省していまして、リアリズム、国益追求の中から新しいやっぱり人類の波ができているというふうに、こう思っております。
○会長(野沢太三君) ほかに御意見。
○高橋千秋君 関連した話ですが、先ほどいろいろ各行かれた方からお話ありましたけれども、私が思ったのは、ベルギーとそれからイタリアなんかでは少し感覚の違いもあるのかなというふうに思いました。特にEUの本部はベルギーにあるということもありまして、先ほど市川委員の方からもお話ありましたが、ベルギーの方は半分ぐらいがEUの決まったことを遵守するみたいなことがありましたけれども、イタリアなんかへ行くと、やはりEUがちょっと遠いような感覚を受けます。
先ほどお話ありましたように、EUがいつまでもつかという話ありますけれども、EUの本部へ行くと、職員が三万人ぐらいいて、すごくハードに、今からやろうということで一生懸命やっているわけなんですが、その意気込みとそれぞれの国の事情、それからそれぞれの国の国民との感覚がやはり離れているなという感じはいたしました。
ただ、これを私は成功に持っていくために、そして、さっき言われたように、いつまでもつかという、永遠にもたせるためには、この国民との乖離の部分をどれだけ縮められるのか、そこに懸かってくるんではないかなというふうに思います。
以上です。
○会長(野沢太三君) ほかに御意見ございますか。
○吉川春子君 まず最初、主権についてなんですけれども、例えば日本ですと、批准した条約の個人通報制度を更に批准するときに、これは主権の制限になるから批准しないんだという、こういう拒否的な回答が政府筋から来るんですが、私、今回、EUとかCEとか見て、やっぱりお互いに主権を、何というんですか、割譲でもないけれども、制約しながらでないと、こういう壮大な実験というのは成功しないし、やっぱり主権を少しでも削られるのは嫌だという日本的発想と、日本の政府的発想とはかなり違って、やっぱりどこまで、どういうところで主権をお互いに制約しながら協調していけるかという、そういう思想が前面に出てきていると思いまして、私はEUの実験というのはかなりいいところまで、どこまで続くというより、かなりいいところまでいくのではないかと、期待も込めてですけれども、思っています。
それから、先ほど、ちょっと吉岡議員に答弁漏れしてしまって失礼したんですけれども、日本の裁判所は、各級裁判所が違憲立法審査権を持っているんですけれども、それがほとんど活用されておりません。そして、たまたま真正面から憲法問題を問うと、それは統治行為論だとか何だかんだということで判断を避けるということで、本当にこれは憲法の制度が生かされていないと、さっき大脇議員からも発言がありましたけれども、やっぱり私は、日本の裁判所のシステムの中で個別事例に即して憲法判断をするというのは大変優れた制度であり、これはやっぱり国会議員としてダイレクトに司法に物を言うということは、日本はまだモンテスキューですから言えませんけれども、ちょっとその点は私としてはかなり問題意識を持っています。
といいますのは、憲法裁判所を高く評価されましたし、私もそういう面あるんですけれども、しかし、これは政府とか裁判所とか地方自治体の長とか国会議員十五人以上じゃないと提訴できないという、こういう憲法裁判所もあるんですね。欧州裁判所がなぜ成功しているかというと、個人がそういうものについて提訴できるという点があるので、やっぱり私は、個人が提訴できて、具体的な問題に即してできる日本の裁判制度の中で是非違憲立法審査権が活用できるようにということを強く期待しています。
以上です。
○大脇雅子君 イギリスから欧州議会に出ているグリン・フォード議員の言葉ですけれども、単一市場、そして単一の社会福祉、そして環境という問題に対する共同決定システムを我々は作っているんだというふうに言われました。
一方、コルベット議員は、一つ一つの事象を見ると盲人が象をなでるに等しいんだけれども、例えば経済政策のユーロの統合なんかは連邦システムとして機能しつつあるんだし、対外政策というのは国家の調整システムなんだというような発言をされまして、欧州議会の役割というのは、国ごとにとらわれていない政治グループですから、議席も左翼から右翼というか、それに向けてざあっと、国ごとではない議員の配置になっているということで、グループの交渉によって決定がなされていくということを言っておられたので、やっぱり欧州統合というのはそういう形で進んでいくのかなと。そして、憲法という形で一つのそういう大きな固まりが出ているんではないかと。
しかし、現実の政治はやっぱり地方に根があるわけですから、例えばEUの閣僚会議やEU議会とかEUの理事会のほかに地方自治体会議というものが考えられたりし始めているということで、やっぱりそこで地方分権ということもある意味では進んでいて、そこを相対立するものとして考えるというのは少しまた発想を転換しなきゃいけないのではないかなと考えながら帰ってきました。
○会長(野沢太三君) 他に御発言ございますでしょうか。
○愛知治郎君 ちょっと今のEUのお話とも関連が、ちょっと外れちゃうかもしれないんですけれども、派遣団の方々に、先生方にお伺いをしたいんですが、直接的には議題には上がっていない話なんですけれども、潜在的、間接的に必ずある話で、常々私自身もずっと疑問に思っておりまして、この際勉強させていただきたいと思ったことなんですが、政党について、憲法上のかかわり、位置付けというのがあるんですが、日本はまだはっきりはしていない。選挙制度のこともありますし、二院制のことにも大きくかかわってくるんですが、各国、この際ですからイタリア、ベルギー、フランスにおける政党の位置付け、今の現状のかかわり、憲法上の位置付けなり現実の政治決定プロセスにおけるかかわりなどが何か参考になることがありましたらお伺いしたいのですが。どなたでも結構です。
○会長(野沢太三君) どなたがよろしいでしょうか、これは。それでは、高橋千秋君。
○高橋千秋君 直接のお答えになるかどうか分かりませんが、EU議会の方へ行ったときに、各国から来るわけですね、EU議会は。各国で選挙で選ばれてきた方がその中に入るわけなんですけれども、席順が党派別に分かれているんです、かなりの人数なんですが。それで、国を超えて党の中でいろいろな政策論議がされていくというパターンをとられています。
だから、憲法上どういう定義をされているのかというのは、僕はそこまでは聞いていないんですが、EU議会という一つの、それぞれの国の議会とはまた別の議会の中で党というものがすごく大きな存在になっているのを感じました。
特に、イギリスの議員の方とお会いしたんですが、その方は、それぞれの地区で比例選挙で上がってくる、すべてが比例選挙で上がってくるという選び方をされていますので、党というものの意味が物すごく大きいということを言っておられました。
ただ、御質問のように、憲法的にどういうかかわりになっているのかというところまでは聞いておりませんので、それについてはお答えできませんが、御報告します。
○会長(野沢太三君) 愛知君、よろしいですか。
○江田五月君 もう締めくくりのみたいな、さっき問題提起をして、皆さんからいろいろ御意見いただいてありがとうございました。
私は、やはりヨーロッパをざっくりと見ると、これまで、この五十年前まではもう本当に戦争に次ぐ戦争で大変血なまぐさい時代がずっと続いて、それがこの五十年間、本当にみんながそれぞれ違いを保ちながら一体になっていく歴史があるだろうと思うんですね。
その中に、さっきCSCOと言いましたが、逆で、OSCE、全欧安保協力会議とか、あるいは今のEUとか、いろんな努力が積み重なってEUで三万人もの職員がいるとなると、これはもうそう簡単に元へは戻れないんで、通貨の統合とか、あるいはドイツとフランスの統合軍を作るとか、部隊を、あるいはまた共通の逮捕状を出すとか、これまだ行ったり来たりしているようですけれども、そういう状況というのはやっぱりこれから先、世界の進むべき方向として、それで統合していくと、必ず今度は、いやそこは違うから自分たちはそこは自分たちでやるという分権というのも生まれてくるでしょうから、そうした世界の流れというものがあるだろうと思っておりまして、皆さんのお話、興味深く伺いました。
ありがとうございました。
○谷川秀善君 私も行く前はEUとCEが余り分からなかったの、区別が。これ同じやと思うとった、ある意味でね。ところが、行ってみたら全然違うわけね。そういう意味で、やっぱりEUも含めてCEがどうなるのかということだろうと、私は欧州評議会がどうなっていくのかということがやっぱり大きなこれからの課題ではないかなと。
だから、どなたかが、EUもCEに入ってもらったらええということを言うた方がおられましたね、CEの人で。だから、やっぱりこれがどうなっていくのかということと、私も、今、高橋先生おっしゃったように、比例で出てくるというんですね、EUの議員さんが。政党どうなったのか、ここまで我々が突っ込んで聞いてこなかったですけれども、どういうグループがどれぐらいあるのかというのは、これはちょっと我々もう一遍勉強せないかぬなと思いますけれども。比例で出てくるというんですよ、各国から。それで議会の構成見てみますと、全部、いわゆる政党ですね、政党単位で座っていると、こういう、国籍じゃなくて。
そういう意味で、これは非常に壮大な実験をしているように思われますが、ちょっと我々としちゃ今のところちょっと理解に苦しむ面もあると、現実問題としては日本の国の在り方と違いますからね。そういう意味では、今おっしゃったように、ちょっと勉強しなきゃいかぬなというふうに思っておりますが。
○会長(野沢太三君) 課題も残っているようでございますが、引き続き調査研究の対象として進めてまいりたいと思います。
他に御発言もないようですから、本日の意見交換はこの程度といたします。
本日はこれにて散会いたします。
2002/10/30 |