2002/11/19 |
155 参院・法務委員会
10時から40分間、法務委員会で質問。裁判官報酬法等の改正案で、報酬を減額するものです。ところが憲法は、79条6項と80条2項で、「裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することが出来ない。」と規定しており、文言上は明らかに抵触します。そこでかなり細かく、憲法との関係を質しました。
憲法の規定は、裁判官の独立を経済的な側面から保障するものです。今回の減額措置は、(1)給与の水準につき官民の格差があり、(2)人事院の客観的な調査により格差が認められ、(3)人事院が公務員につき減額を勧告しており、(4)裁判官につき他の公務員と同じ水準で減額するものであり、しかも(5)最高裁の裁判官会議による立法作業依頼に基づいた措置であるから、裁判官の独立に影響を与える措置とはいえず、かつ(6)減額後の報酬額も相当額を割り込んではいないので、憲法に違反するとはいえないと判断しました。
続いて、最高裁の司法改革の取り組みと名古屋刑務所の事件につき質問しました。名古屋事件についての法務省の対応は、所管内で明白な人権侵害が起きているのに、緊迫感が感じられず、やはりこの役所が人権委員会を所轄するのは賛成できないと痛感しました。
平成十四年十一月十九日(火曜日)
○江田五月君 おはようございます。
裁判官の報酬それから検察官の俸給を決めた法律のそれぞれの改正案について質疑をいたします。
給与全般について、あるいは今の経済状況の下での給与の在り方、官民の給与の水準の問題、その是正の方法、公務員の給与の制度などなど、いろんな問題点がございますが、それらは一切、今日は、一般職の公務員の給与あるいは特別職の給与の法案の審議が既にもう終わっていますので、そちらに譲ることにいたしまして、ここでは専ら裁判官と検察官、とりわけ検察官の方は裁判官の給与とリンクをさせておりますが、検察官の給与について憲法上の規定が別にあるわけじゃないので、裁判官の給与については憲法上の規定があるので、その関係のことを聞いてまいりたいと思います。
確認しておきたいんですが、裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案、これは裁判官の報酬を減額するものであると、これは間違いないですよね。大臣、いかがですか。
○国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるとおりでございます。
○江田五月君 法律の中には減額という言葉はないけれども、別表が変わって金額が下がるわけですから、これはもう減額。これは言葉の定義ですから。
それからもう一つ、憲法に最高裁の裁判官と下級裁判所の裁判官に分けてですが、条文があって、これは「減額することができない。」という規定になっていて、この憲法で言う減額ということと今回の法律で言う減額、法律では言っていないんですが、法律が実際行う減額、これは同じことであると、これも間違いないと思うんですけれども、いかがですか。
○国務大臣(森山眞弓君) 憲法の解釈ということを法務省がするという立場ではないのでございますけれども、結果として報酬が減るということが現実であるというのはそういうことでございます。
○江田五月君 減額という日本語は、これはもう日本語でございまして、余り法律家がそこでああだこうだと、ここで言う減額はどうでございましてとか、いわゆる最近の言い方で言うとああたらこうたらということをいろいろ言うのは何かやっぱりおかしいので、この憲法で書いてある減額という日本語が意味するところのものの中に今回の裁判官の報酬が現実に減ることになることは入っておると、これは間違いないんじゃないかと思いますけれども、いかがですか。引っ掛けで質問しているのではないので。
○国務大臣(森山眞弓君) 減額という日本語の意味ということでお聞きになったと思いますが、額が減るということでは同じことでございます。
○江田五月君 そうなんですよね。そこは、だから私、なぜそれをこだわるかというと、別にこだわるわけじゃないんですが、今回の裁判官の報酬法の改正は憲法問題を含んでいるんだと。そのことは、いや、憲法問題なんて関係ないんですという意識ではやっぱりまずいということで、憲法に書いてある「減額することができない。」と、あるいはそれを受けて裁判官報酬法ですか、減額されることはないというようないろんな規定がある。それがあるにもかかわらず、今回これこれこういうことがあるから減額するのであって、それは憲法上許されるとか許されないとか、そういう議論はやっぱり議論としてあって、そこは正面から議論をしなきゃいけないという趣旨で言っているんですが、その気持ちは、私の気持ちはお分かりでしょうね。
○国務大臣(森山眞弓君) よく分かります。
○江田五月君 分かっていただいてありがとうございます。
もちろん、政府としてこういう法案をお出しになったわけですから、これはこの法案、改正案が憲法に違反するものではないという判断でお出しになっているんだと思いますが、しかし明文からいうとこれは憲法に抵触するとやっぱり読まないというわけにはいかないので、そうすると、言葉の上ではそうだけれども、あれやこれやいろんな事情があって、いやいや、こういうことだから今回は憲法違反という評価にならないんだと。評価の問題としていろんなことがあるんだろうと思いますが、どういう事情で憲法違反にならないというふうに政府の方はおまとめになっておられるのか、法務大臣、お答えください。
○国務大臣(森山眞弓君) 先ほども申し上げましたように、法務省は憲法の解釈をする権限があるわけではないのでございますが、法務省なりの考え方を申し上げますと、この憲法で言っております規定は、裁判官の職権行使の独立性ということを大変重要に考えまして、その独立性を侵さないようにと。つまり、経済的な側面から担保するというために相当額の報酬を保障することによって裁判官が安んじて職務に専念することができるようにするとともに、裁判官の報酬の減額については個々の裁判官又は司法全体に何らかの圧力を掛ける意図でされるおそれがないとは言えませんので、このようなおそれのある報酬の減額を禁止した趣旨であるというふうに解しております。
今回の裁判官の報酬の引下げは、民間企業の給与水準の低下の状況等に関する客観的な調査結果に基づきまして、人事院勧告を受けて行われる国家公務員全体の給与引下げに伴いまして、法律によって一律に全裁判官の報酬についてこれと同程度の引下げを行うという趣旨でございまして、裁判官の職権行使の独立性とか三権の均衡を害して司法府の活動に影響を及ぼすというような意図もなく、またそのような現実もないというふうに思います。
したがいまして、今回の措置は、憲法第七十九条第六項及び八十条第二項の減額禁止規定の趣旨に反するものではなく、裁判官の報酬のこのたびの減額は憲法の禁止する報酬の減額には該当しないというふうに解釈したものでございます。
○江田五月君 この憲法の「減額することができない。」と書いてある意味あるいはその目的、これは減額をすることによって個々の裁判官の職権、独立した職権の行使に影響を与えたり、あるいは裁判官全体へ圧力を掛けたりということがないようにと、それはそうだと思うんですね。
しかし、そのことはこういう規定を作るに至った動機といいますか事情であって、でき上がった規定自体は個々の裁判への干渉をしてはならないこと、あるいは裁判官全体への圧力を掛けてはならないことを経済的に担保するためになどということはどこにも書いていないんで、それらは全部言わばこういう規定ができてくる動機であって、そして書いてあるのは単に「減額することができない。」という文言しか書いていないわけですから、動機はどうであれ、減額できないと書いてあるんだから、減額したらそれは憲法に違反するんじゃないかと。減額できないと書いてあるのに減額するんですから、単純に考えればこれは憲法違反だと。いやいや、そこは複雑に考えなきゃいけないんだと。どうして複雑に考えなきゃいけないんですかね。
○国務大臣(森山眞弓君) 憲法の違反になるのではないかという疑問がもちろんございまして、その点については法務省も特別の発言をしたわけではございませんが、最高裁におきましてそのようなことが違反にならないかどうかということを真剣に御検討いただきまして、このような事情の場合はよろしいのではないか、違反ではないのではないかというふうな結論を出していただきましたので、それを受けてこのような法案の提案ということになったわけでございます。
○江田五月君 最高裁においてそういう結論を出したと、最高裁というのはどこのことを言うんですか。つまり、最高裁というのは二つありまして、一つは裁判官会議、これは司法行政を行う機関、もう一つは小法廷が三つある、そして大法廷があるという裁判を行う機関、どちらですか。
○国務大臣(森山眞弓君) 裁判官会議で協議をされて、そして結論を出されたと聞いております。
○江田五月君 裁判官会議というのは憲法判断をする場所ですかね。
○国務大臣(森山眞弓君) 直接は裁判をするわけではないと思いますが、諸般の事情を考慮されて裁判官の報酬を含む裁判、司法行政全体について考えられるお立場から結論を出されたと思います。
○江田五月君 憲法は、八十一条、最高裁判所は一切の法律などなどが憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所であるという規定がある。ここで言う最高裁判所というのは最高裁判所の裁判官会議ではないと思うんですね。これはそうではなくて、やはり事件として上がってくる最高裁に係属した事件を処理をする小法廷であり大法廷であるんで、したがって八十一条の規定に基づいて最高裁がこういう措置を取っても憲法違反ではないという判断したから憲法違反ではないということは言えないと、そうじゃないと。それでも最高裁が文句を言わないと言っているんだからというのは一つの事情にはなりますけれども、最高裁が言っているから憲法違反ではないという判断が公権的に下されておると、こういう理屈はないと思うんですが、いかがですか。
○国務大臣(森山眞弓君) 厳密な理屈を申せば、そうなると思います。
○江田五月君 理屈を言っているというよりも、日本の国の制度の根幹ですから、これは小さなことを言っているんではないんで、その辺はやはり法務大臣、もちろん当然認識していただいていると思いますが、仕分をきっちりしておいていただかなければならぬと思います。
それから、これは最高裁の裁判官会議で、これはちょっと聞きましょうか、最高裁の裁判官会議はどういう議論をしてどういう結果になったかを、これを御報告ください。
○最高裁判所長官代理者(山崎敏充君) ただいまお話しの点でございますが、最高裁判所の裁判官会議におきまして議論がなされております。
その会議では、憲法上、裁判官の報酬について特に保障規定が設けられております趣旨及びその重みを十分に踏まえて慎重に検討がされまして、人事院勧告の完全実施に伴い国家公務員の給与全体が引き下げられるような場合に裁判官の報酬を同様に引き下げても司法の独立を侵すものではないということで、憲法に違反しない旨、確認されたところでございます。
○江田五月君 確認をしたと。確認をした上で何かその後、措置を取られたんじゃありませんか。
○最高裁判所長官代理者(山崎敏充君) そういう判断に立ちまして、裁判所の方から立法の立案を所管する法務省に対しまして今回の裁判官報酬法の改正について法案の作成を依頼することを行ったわけでございます。
○江田五月君 したがって、この立法は行政の方の発意でなされたというよりも、最高裁の裁判官会議で検討し、そして裁判官の報酬について国家公務員同様の引下げを行う旨の立法関係作業を依頼をすることを決めて、そして依頼をした、その依頼に基づいて立法作業が行われたと、こう理解していいんですかね。まず、最高裁の方、どうですか。
○最高裁判所長官代理者(山崎敏充君) 仰せのとおりだと存じます。
○江田五月君 法務大臣はいかがですか。
○国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるとおりでございます。
○江田五月君 そういう立法依頼、立法関係作業の依頼がなくて、いや、これは行政としてこの際、裁判官の報酬も下げる必要があるというので、先ほどおっしゃったいろんな事情が全部クリアされているからというんで、行政のイニシアチブでこの給与を下げる立法作業をするということは、これはあり得る話ですか、あり得ないですか。いかがですか、法務大臣。
○政府参考人(寺田逸郎君) あくまで一般論で申し上げるわけでございますが、ただいま最高裁からお話がございましたように、この問題は司法権に非常に密接に関連するところから、従前、最高裁の御依頼で、定員でございますとかあるいはこのような給与関係の法令につきましては事実上の依頼のようなものがあるわけでございます。しかし、理屈の上では、最高裁の方の依頼がなくても行政庁といたしまして法案の提出権があるわけでございますので、この点について法案提出ができないわけではございません。実際に、立法依頼と申しますのも、最高裁に法案の発議権が国会に対してございませんので、そういう形を取っているわけにすぎないわけでございます。
私どもとしては、したがいまして理屈の上では行政庁として単独で裁判所関係の法律のお手当てをすることもあるというふうには考えておりますが、ただし冒頭に申し上げましたように司法権の独立というような問題もございますので、今後も従来の慣行というものはそれなりに尊重してまいりたいと、このように考えております。
○江田五月君 司法権の独立、三権分立、その理屈から行政権には法案を提出する権限があるからそれは提出できるんだと。しかし、一般に司法の運営をどうするかということとちょっと違って、憲法上明文の規定で「減額することができない。」とあるわけですよね。これは司法の、個々の裁判官の独立と同時に司法権自体の独立を先ほどおっしゃったように経済的側面から担保するということで明確に書いてあるわけで、全く明確に書いてあるんですよね、「減額することができない。」。それを裁判所の意向も聞かず、裁判所の依頼もなく、いや、それは行政の方は法案提出権はあるんですからといって理屈の上からはできますというのは、ほかのことはさておいて、裁判官の給与の減額というのは、私は行政のイニシアチブでやるというのは憲法上も大変な疑義を生ずるんじゃないかと思いますが、これはもちろん憲法解釈を今、法務大臣にお願いをするという趣旨じゃなくて、憲法全体についてのある種の感覚をお伺いしたいと思いますが、法務大臣、そんな感じしませんか。
○国務大臣(森山眞弓君) 先ほど部長が御説明申し上げましたように、このたびは、最高裁の方からの御依頼を受けまして提案をさせていただいたわけでございます。
しかし、理屈だけ申せば、一般論として理屈だけ申せば、御依頼がなければできないというものではなくて、なくても立案をするということはできる、提案するということはできるという余地はあるようでございますが、現実には、あくまでも最高裁の方の御意思を確認した上でやるのが普通のやり方であり、実際にそのようなことをほとんど常にやっているというふうに私は思っております。
○江田五月君 これは、やっぱりちょっとはっきりさせないと。
「減額することができない。」という明文の規定がしっかりあるのに、それでも今回は減額するという措置を取ると。後にも先にもとは分かりませんが、少なくとも、これまでは戦前一回あったということですが、これは憲法体系違いますから、戦後の憲法の下で本邦初の本俸の減額だということのようですけれども、初めてやったわけですよね。
初めてやったときに、ちゃんと最高裁の裁判官会議での検討を踏まえて、最高裁判所からの立法関係作業の依頼があって、そして行ったというのは、これはある種の例としてやっぱり残る、こういう例でやったと。それ以外のことでやる方法はあるかどうか分かりませんけれども、それはそのときにはもっと激しい憲法違反論議が起きる。今回はこういうふうにやったということが一つの例になっていると。先例とはしないとかいうようなことを言うんですか、これ。
○国務大臣(森山眞弓君) そんなことを申すつもりは全くございません。
○江田五月君 したがって、今回はこういう手続を経ているということ、私どもはそのことを重く受け止めてこの法案の賛否を決めようと思っています。しっかりそこは認識をしておいていただきたい。
次に、いろんな要件なんですが、なぜこれが憲法違反でないのか、今いろいろ言われました。いろいろ言われましたところを私なりに整理すると、一つは、給与の関係についての官民の格差があると。裁判官を含め公務員全体と民間との格差があって、そしてそれについて客観的な調査が行われて、そして人事院というものが勧告を出して公務員の給与一般全体を下げるということになって、そして裁判官との関係においても、裁判官も公務員ですから、その公務員全体を下げるということと歩調を合わせて下げるということにして、そして裁判官会議のただいまのような検討を経て、依頼もあって、そして同じような程度で下げると。しかも、下げた残りの、残りのと言うと変ですが、裁判官の報酬は憲法で言うところの相当額を割り込むというようなことはないと。そのくらいな要件だと思いますが。
もう一遍言いますと、給与についての格差、そしてそれについての客観的な調査、人事院の勧告で一般の公務員、一般というのは特別職も含め、一般の公務員の給与を一律に下げる、それと同程度のものを裁判官についても下げる、そしてこれは最高裁判所の検討がある、そして相当額を下らないと。相当額を下らないという方は減額とまた別の憲法の規定に違反しないということだと思いますが、その六つぐらいの要件で憲法違反ではないという結論になったと、そう聞いていいんですかね。
○国務大臣(森山眞弓君) そのとおりでございます。
○江田五月君 この間、法務省の役人の方に来ていただいたら、余り要件をそう細かく言われても、などなどといろいろこれは総合的な判断でございましてというようなことを言っていましたが、やっぱりこういうときにはきっちり、どういう要件があるからこうなるんだという、そういう判断をしないと、次に判断するときに前はこうであったということと比べようがないですから、そこのところをはっきりと確認をさせていただきました。
最高裁判所の裁判官会議でどういう議論があったか。これはもう少し説明をしていただきたいんですが、どういう議論が出たか。みんな何も議論なしに、ああ、これはいいですね、憲法違反じゃありませんねと言ったのか、もう少しいろんな議論があったのか、いかがですか。
○最高裁判所長官代理者(山崎敏充君) 先ほど申し上げましたとおり、裁判官会議では慎重に検討がなされたものでございますけれども、この会議につきましては、最高裁判所裁判官会議規程というものがございまして、非公開ということになっておりますので、ただいまのお話の議論の詳細ということになりますと、これはここで申し述べることは差し控えさせていただきたいと存じます。
○江田五月君 最高裁判所の規程はいいんですけれども、最近、最高裁も随分一生懸命、面目一新、国民のための司法、国民主権の下での司法ということでやっていらっしゃるじゃないですか。それを以前の規程があるからということで情報公開できないんですかね。
私は、最高裁の判決は個々の裁判官の意見を明らかにするわけですよ。それは、最高裁判所の裁判官は国民審査があるから、ほかの下級裁判所と違って個々の裁判官の意見というものを国民に知っていただこう、その上で判断していただこうということなんで、裁判の方についての意見だけでなくて、やっぱり司法行政についての意見も国民審査の際にはそれは当然参考になるし、参考にすべきだし、積極的に参考にしてほしいという態度をお取りになるべきだと思いますよ。
ですから、是非これは最高裁判所の裁判官会議の議論も、もちろん人事のことなど細かな、細かなといいますか、人事行政に差し障りがあるようなことまで言えとは言いませんが、一般的に司法行政をどう行うかというようなことについては、やっぱり裁判官の一人一人の見識を国民の皆さんに見ていただくことによって国民審査も実のあるものになっていくと思うんで、この報酬を下げるのが憲法違反に当たるかどうかについての議論をどの人がどういう議論をしたかと。ある人は、いやいや、それは政府が言うんだからいいでしょうなどという議論を仮にしたとしましたら、そんな人はもうバツですよね。というようなことはやっぱり明らかにすべきだと思います。
最高裁が最近、今ちょっと申し上げました、いろいろ私は意欲的に裁判というものの、あるいは司法行政というものの在り方を改革をしていこうとしておられると思いますが、今日はちょっと時間がもう迫っていますのでまたこれは改めて伺いたいと思いますが、簡単に項目ぐらいぱらぱらぱらっと挙げてみてください、どんなことで最高裁が今、自己改革をしようとしておるか。どうぞ。
○最高裁判所長官代理者(山崎敏充君) 裁判所の司法改革の取組ということのお尋ねであろうかと思います。
裁判官制度の改革を中心に今鋭意努力をしております。御存じのとおり、司法制度改革審議会の意見書で様々な提言がなされておりまして、裁判官制度の改革につきましては、例えば判事補が多様な経験を積むための方策ですとか、あるいは優秀な弁護士などの任官の促進ですとか、裁判官の指名についての最高裁の諮問を受けて意見を述べる機関の設置ですとか、あるいは裁判官の人事評価についての仕組みの整備ですとか、そういったことが提言されておるわけでございまして、裁判所といたしましても、高い資質の裁判官を安定的に確保すると、国民の信頼をより一層確保していくために非常にこういう点が重要であるという認識に立ちまして様々な取組をしております。
判事補が多様な経験を積むための方策ということでは、今までも判事補に民間企業での研修ですとか様々な機会を付与してきたところでございますが、先ほどの、申し上げました審議会意見の趣旨も踏まえまして、新たに弁護士の職務を経験する制度の整備に向けて今鋭意検討しておるところでございます。
弁護士任官の推進につきましても、委員よく御存じだと思いますが、最高裁と日弁連との間で弁護士任官等に関する協議会を設置いたしまして弁護士任官を推進するための方策について協議を行っておりまして、昨年十二月に一定の具体的方策についての協議を取りまとめたということもございます。
それから、下級裁判所の指名過程に関与する諮問機関の設置に関しましては、現在、最高裁判所で一般規則制定諮問委員会を開催しておりまして、今まで三回開催されて議論がされておりますけれども、そういった議論をまた司法制度改革推進本部の法曹養成検討会に報告するなどいたしまして議論していただいたりしているところでございます。
裁判官の人事評価の見直しにつきましても、最高裁判所の事務総局に設置されました人事評価の在り方に関する研究会の報告書が出ておりますので、そういう報告を受けた上で更に検討を加えて制度を作っていきたいということを考えているところでございます。
大変大まかな御説明になりましたが、そういったことに今鋭意取り組んでいるところでございます。
○江田五月君 あるいはそのほかに、明日の裁判所を考える懇談会、いろんなことを広く有識者に議論していただこうとか、あるいは情報公開も、これもいろんなことを始められましたよね。これは、私は、私自身の受け止め方は、ちょっと最高裁にあるいは有り難迷惑かもしれませんが、最高裁が相当この根本のところを変え始めていると。
裁判官も、それは研修所を終わってすぐ裁判官になるんですから、そのときにみんながすばらしい人材がそろう、いや、そろうんですなどとやっぱり言わない方がいいんで、一番若けりゃ二十四ですかね、そのくらいで大学出て、出る前に司法試験通っていて、二年、一年半か今は、研修やって、それで将来までずっと六十五まですばらしく裁判をやっていける人材がそこででき上がるなんということはないんですね。それは当たり前なんですから。そうすると、いや、採ってみたけれどもやっぱりこれはどうもというような人が入ってくることもそれはあり得る。
私は、つい先日、ある最高裁の関係の人と話をしていたら、いや、そうなんで、以前はそれは、江田さんも知っているとおり、裁判所の中で何とかそういう人は、分からないようにと言うとまずいけれども、どこかに置いて害にならぬようにやってきたけれども、もうそういう時代じゃないから、ちゃんと人事評価についてもあるいは指名についても風通しをよくするという、そういう大きな発想の転換に乗り出しているんだということを聞いたんですが、それはそういう、そのくらいな覚悟でこれからやろうとしていらっしゃると、そう理解していいんですね。私の方がちょっと最高裁、持ち上げ過ぎですか。
○最高裁判所長官代理者(山崎敏充君) ただいまお話のございました裁判官の任命ですとか、あるいは裁判官の人事評価の関係につきまして、審議会の意見書にもございますけれども、そのプロセスを透明化し、あるいは国民の意見を反映させるというような、そういう観点からの制度の改革というのが提言されておりますし、私もそういう点は非常に重要な問題であろうと受け止めておりまして、そういう方向に向かうように今鋭意検討しているという点を先ほど申し上げたつもりでございます。
○江田五月君 人は褒めた方がよく仕事をするんで大いに褒めるんですけれども、しかしどうも今のような答弁を聞いていると、やっぱり私が褒め過ぎかなという気もするんですが、本当にこれはまじめに考えていただきたい。
まじめに考えるといえば、これはもう一遍、法務省にまじめに考えなきゃならぬことを言いたいと思うんですが、名古屋の件ですね。大変なことだと思いますよ。
法務大臣、十一月十二日の会見で、この名古屋の、これは一人の受刑者に対する特別公務員暴行陵虐致傷被疑事件、これが今捜査をされているわけですが、法務大臣はそのことについて、こうしたことが、同様のことがほかであったということは聞いていないと。こういうことで、この一件だけの全く特殊例外的な事例だというようなお答えをされておるようですが、そういう認識なんですか。これはもう全く特殊な事例だという認識なんですか。
○国務大臣(森山眞弓君) 十一月十二日の記者会見の際にお話ししたことについて御質問でございますけれども、私が申しましたのは次のようなことでございます。
つまり、今回の名古屋刑務所の事案を機会に、矯正局におきまして取り急ぎ保護房収容後の死亡事案及び病院移送事案の全国調査を実施いたしました結果、平成十一年以降、死亡事案については五件で、本年五月の名古屋刑務所の事案、捜査中のものを除きますと特段の問題はなく、また平成十三年以降、病院移送事案については三件で、うち一件を、本件逮捕事件ですが、この一件を除きますと特段の問題はなかった旨、報告を受けておりましたので、これらの報告を踏まえましてお答えしたものでございます。
矯正局としても、本件事案の発生後、私からの徹底調査の指示に基づきまして、官房審議官をキャップとする特別調査チームを編成いたしまして本件事案の原因等の調査を実施いたしますとともに、全国的にも革手錠の使用状況等を調査分析いたしまして、同種事案がほかにもないか等につきまして引き続き調査を行っていると承知しております。
○江田五月君 十二日の時点でその報告が上がっておる、それによると、数は一件だけではなくてほかにもあるが、まあ特別重要なことはないのでこの事件だけだというようなことであったからそう述べたが、その後もっと詳しくきちんと調べるということで今調べておるというんですね。
私は、法務大臣、申し訳ないけれども、この事件はもっと深刻に考えなきゃならぬと。革手錠の使用はほかにも一杯あったし、暴行後もあるし、それからこういう傷害とか死亡とかという事案、事件もほかにも一杯あるわけですよね。それは言われているわけですよ。それを新聞記者に聞かれて、いやいや、これしか聞いていないと。矯正局の調査の結果、同じような事件は他の矯正施設ではなかったということかという質問に対しては、そういうふうに聞いていますと。聞いていますだけではなくて、自分でもっときっちり調べるというそういう態度を持たないと、これは大変なことになるんではないか。
特別公務員の暴行陵虐致死ではないけれども、刑務官が母子殺害容疑で大阪で逮捕されたとか、それから、これも問題だと思いますよ、法務大臣にどういう報告が上がるかということなんですが、集団暴行の内部報告書は幹部が書換え指示、名古屋刑務所、というようなこともあって、法務大臣、あなた、御自身の手足になって働く皆さんに、ちょっときつい言葉で言うと、おちょくられているんじゃないですか。ちょっと、そう言うと怒ります、法務大臣、どうです。
○国務大臣(森山眞弓君) どのようにお取りになっているか分かりませんが、私は真剣に取り組んでおり、誠にこの起こった事件については申し訳ないことだと思っておりまして、さらにその後、チームを作りまして、その人々に徹底的に調査をするようにということを指示いたしまして、現にその調査が今も続いているというふうに思っております。
○江田五月君 我々のところに来て言うときには、御自身の、御自分の部下ですから、それはおかばいになるのは分かります。分かりますけれども、やっぱり内部ではもっと厳しく、これは、そんな書換えなんというようなことがあると大変ですよ。そんなことが書き換えられて、そして法務大臣のところに真実の報告が上がらないようなことで国会で答弁されて、それで国民主権ですなんということは言えないわけですから、そこはしっかりやっていただきたい。法務大臣、ちょっとこれはもういつもの慈母観音でなくて、厳しくやっぱり閻魔大王でやってもらわなきゃいかぬ。
人権擁護局はこの事案については何か関心を持っておられますか。
○政府参考人(吉戒修一君) お答え申し上げます。
この事件につきましては、受刑者の関係者の方から名古屋法務局の人権擁護部に対しまして人権の相談がございました。そこで、これは人権侵犯事件として現在、調査をいたしております。
この事件、事柄の重大性にもかんがみまして、私ども人権擁護局からも職員を名古屋に派遣いたしまして、名古屋法務局人権擁護部と共同して現在、調査を続行しております。
○江田五月君 これも、人権擁護局は自分のところ、自分の法務省管内で起きたことについてもっと何かきりっとした措置をしなけりゃ、それは、これから人権委員会を作ると人権擁護局の職員をそっちへ移すとかいうんでしょう。地方の方では、地方法務局の人権擁護課に事務委託とかいうんでしょう。そんなような状況で、その一番上にある人権擁護局が、いや、何かちょっとしなけりゃ格好悪いなというような程度でやっていたのではこれはどうにもならぬと思いますよ。
監獄法の情願制度なんですが、これで法務大臣に訴えたら、刑務官から、同じ法務省の人間だから調査なんかするわけないだろうというようなことを言われたとかいうようなこともあって、いや、そんなことは言っておらぬと多分答えるんでしょうけれども、一般には、同じ法務省の中だから矯正局で起きたことを人権擁護局へ言ったって、それはそんなことできるものかというふうに見られているのは事実。
情願制度というのは、これは刑務所から情願が上がってきたらどこが処理するんですか。矯正局ですよね。そこだけちょっと。
○政府参考人(中井憲治君) そのとおりでございます。
○江田五月君 やっぱりこれは、もう法務省というのは中がいわゆるずぶずぶで人権擁護のことは到底できないと、そういうことをこの事件では表している。この事件をどう処理するか、どういうふうにこの事件についてうみを出すか、それがどこまでできるかによって法務省のかなえの軽重が完全に問われているということだと思います。そのことだけ指摘して、質問を終わります。
2002/11/19 |