2002/12/04 |
155 参院・憲法調査会
委員間の自由討議で、私は民主党を代表して、7月の民主党憲法調査会報告のうち人権関係の部分を、10分間に要約して報告しました。
平成十四年十二月四日(水曜日)
○江田五月君 ただいま舛添委員から大変示唆に富む問題提起がございました。共感する部分がございます。
私は、民主党憲法調査会事務局長を務めておりますので、本日は、今年の七月二十九日にまとめました民主党憲法調査会報告の中の基本的人権にかかわる部分の概略を申し上げます。
この調査会は、九月に任期が終わりました鳩山代表、二年の任期の間じゅうの調査について最終報告をするというものでございます。一応の我が党の議論のまとめになっております。
民主党調査会は、ちょうど三年前の九九年十二月十四日、当時就任したばかりの鳩山由紀夫代表の問題提起を受けて発足しました。ちょうど衆参両院に憲法調査会が設置されたときとタイミングが一致しておりまして、この三年間、論憲という立場を論議の土台として取り組んでまいりました。旧態依然たる護憲・改憲論争の枠を踏み越えて二十一世紀の新しい日本にふさわしい憲法の在り方を大いに議論するときを迎えているとの共通認識の上に確認されたものでございます。
七月二十九日の報告は、民主党の議論のたたき台、あるいは国民的な議論のたたき台を提起するもので、この報告を基に新しい時代の憲法論議をリードするにふさわしい自由濶達な論戦、論議を展開することとしております。
五つの作業部会から成っておりまして、第一が総論、以下、統治、人権、分権、国際・安保。私は、第三作業部会の人権の座長も務めました。
明治憲法の人権条項は、法律の留保も多く、極めて不完全なものでした。戦後の日本国憲法は、自由権、社会権、参政権など当時の国際水準の人権規定を取り入れ、我が国の人権保障を一新しました。それから半世紀が経過し、我が国は今、経済活動のみならず、人権保障の面でも明治憲法下とは比較にならない進歩を遂げました。この成果は現憲法の規定だけで得られたものではありません。規定を使いこなし、社会のすべての場面における人権確立に向けた市民の不断の努力、憲法にも書いてありますが、その不断の努力が結実したものだと思います。
それでもなお、社会の実相を直視すれば、性差別、部落差別などが残ったり、適正手続の保障が不十分であったり、国連の人権委員会でもいろいろ指摘しているような、なお改革が強く求められる場面も多く、日本国憲法の人権保障の完全実現が強く求められております。
さらにまた、この半世紀の間、国の内外を問わず、これまでの時代に例を見ない急激な変化がございました。これに伴って、憲法制定当初認識されなかった人権状況が生じてまいりました。人権が国家により与えられるものから自立した市民が自らの努力により確立するものへと変わると同時に、国家が権力を行使する際の適正手続の要請、これも厳しく求められるようになってまいりました。
このような認識の下に、民主党憲法調査会人権部会は以下の三つの課題の議論から出発しました。
第一は、新しい人権。具体的には、環境権とか個人情報の権利、名誉権、人格権、知る権利、知的所有権、子供の権利、あるいは安全への権利、発展への権利、自己実現への権利、自己決定権、人間の安全保障などです。
第二は、外国人の人権について。外国人の権利保障は、地球市民が国際社会と国と地方自治体とコミュニティーとに対して有する連帯の権利に深くかかわるもので、日本国憲法第三章の国民の権利義務には外国人の人権は明文化されておらず、外国人の人権保障について憲法解釈はあいまいなままであって、その明確な規定が必要だと思っております。
第三は、人権保障機関についての議論。九三年、国連総会で採択された国家機関の地位に関する原則、いわゆるパリ原則、ここでは国内人権機関の指針を示しておりまして、以上の三つの議論からスタートして二十九日の報告に至ったわけです。
人権部会の報告の概略を次に申し上げます。
タイトルは「すべての人々の人権を保障するために」となっております。前書きのところで、「私たちは、日本を人権保障を促進する能動的な国として自らを位置づけ、率先して基本的人権の確立に取り組むことを強く希求する。特に、先進国と途上国との間に存在する人権格差を是正するあらゆる努力に主導的な役割を果たし、世界に誇ることのできる国づくりをめざす。」としております。また、二十一世紀型の新しい権利あるいは第三世代の人権、これをどう規定していくべきかなどの課題にこたえるために、憲法上、実定法上の諸規定を見直していく必要がある。同時に、十分な条件を備えた人権保障機構の在り方についても検討していくべきであるとしております。
以下、報告は六つのテーマについて書かれております。
第一は、国際人権保障下の憲法と条約の問題。国境の壁が低くなって地球的規模で市民の権利を守る視点が要請される今日、日本は、国際的人権基準が世界に行き渡り、実現されるために国際社会で積極的な役割を果たさなければなりません。それと同時に、国内においても国際人権を尊重し実践するシステムを整備しなければなりません。
国連の社会権規約に関する委員会の日本への総括所見では、日本の政府と行政でこの規約が十分に考慮されず、裁判でも援用されていない点が指摘されております。また、自由権規約に関する委員会からは、合理的差別、公共の福祉、世論の支持ということを理由に自由権規約遵守を逃れるべきではないと、こう表明されました。とりわけ独立性の高い国内人権機関の設置、在日韓国・朝鮮人、婚外子、アイヌ民族、被差別部落出身者、外国人などに対して国内に存在する差別を撤廃する積極的措置を取るよう勧告を受けています。さらに、女子差別撤廃委員会や子どもの権利に関する委員会から、権利保障のための仕組みを確立すべきであるとの勧告も受けました。
日本は、何よりもまず、これらの指摘、勧告に対し、国際的基準を満たすよう誠実に対処しなければなりません。また、国連で批准されてから五十年以上たった人権諸条約を国内法で整備し、日本でいまだ批准されていない国際人権条約の批准を急ぐ必要があります。
第二は、新しい人権の確立です。先ほども申し上げた憲法に直接明示されていない権利に関しては、人権保障がより明確になることを考慮し、何らかの形でこれらの新しい人権のカタログを憲法的規定の中に取り入れることを検討すべきだと思います。
それらの中から特に検討して提言するものとして、以下の三点を挙げております。
一はプライバシーの権利の確保と表現の自由に関する検討で、プライバシーの権利を自己に関する情報をコントロールする権利ととらえ、これを憲法上の権利として明示することを検討すべきだとしております。また、マスメディアによるプライバシー、名誉権などの人権侵害に対して、マスメディアによる自主的な取組としてプレスオンブズパーソンの設置などを提起をしております。
二は自己決定権。二十一世紀にはますます大きなテーマになることが予測される自己決定権の実効性ある保障のためにも、これを憲法上の権利のカタログの中に可能な限り明示し、その保障を確実なものとする必要があります。
三は環境権。一九七二年の人間環境宣言の直後から憲法の中に環境権を定める国が続いていることを参考に、人権としての環境権を基本にし、環境保全義務の規定を含むことが望ましいとしております。
第三は、新たに再検討すべき人権で、その一は新たな質の法の下の平等。憲法十四条に列記された差別事由のみならず、ジェンダー、障害、疾病、年齢、同性愛など、法の下の平等の概念がその成立時に比べて豊富になったことを踏まえ、平等な機会の保障のための積極的な措置を国に義務付けるなどの憲法上の規定を検討すべきであると思います。
その二は外国人の人権。先ほど舛添委員から提起があったところですが、世界人権宣言、難民条約、国際人権規約などを有力な基準として採用し、国際人権保障に対応するものが求められております。
第四は、現代社会における自己実現の正当な権利としての労働権です。雇用における平等や人格の尊重の意義、さらに過労死などの現代的な課題を考えれば、勤労の場で勤労者が適正で均衡ある処遇を受ける権利を憲法に具体的に規定するなど、新しい労働権の在り方の検討が必要であると思います。
第五は、難民の権利。深刻な状況にある世界の難民問題について日本が国際社会に責任を持ってこたえるには、まず早急な改善を必要とする現行の難民認定制度と支援プログラムを国際的基準に見合ったものにしなければなりません。何よりもまず憲法上に庇護権を明示するとともに、それに対する国の責務を明記する必要があります。
第六は、デュープロセスと人権保障機関です。人権侵害や差別の被害を受けてきた者にとって、現行の司法制度を始め人権擁護制度では種々の限界が明らかになっており、人権保障制度の見直し、適切な救済手段の整備が急務です。
また、違憲審査制の充実と併せて、事件内容の複雑化、困難化に対応し、司法的救済の以前の段階での私権保障としての人権救済手段を充実することも急務です。そのために、パリ原則に基づく国内人権機関の設置やオンブズパーソン制度を提案をし、制度上の独立性を確立し、より実効的な救済機関とするために人権救済機関を憲法に明記する、これも検討すべきであると考えております。
以上が民主党憲法調査会の人権に関する部分の報告の概略でございます。
若干時間をオーバーしてしまいました。私の発言を終わります。
2002/12/04 |