2002/12/11 |
155 参院・本会議 心神喪失者医療観察法案について
平成十四年十二月十一日(水曜日)
○江田五月君 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案に対し、質問いたします。
初めに、私は、今日の本会議での趣旨説明と代表質問という日程の慌ただしさにつき、一言申し上げておきます。
この重要法案が臨時国会の会期末近くになって衆議院で採決されることになったのにはそれなりの事情があると思います。しかし、既に今日は会期末まであと二日です。こうして本会議質疑をしても、本院の付託委員会で審議をする時間のゆとりはもはやありません。なぜこんな無理な日程を組むのか。予算要求に衆議院通過が必要だとか、単なる法案審議の事情とは違う不明朗さを感じます。このような取扱いをする政府・与党のやり方にまず強い懸念を表明しておきます。
さて、本法案提出の大きなきっかけとなったのは、昨年六月の大阪・池田小学校の児童殺傷事件だと言われています。社会に大きな衝撃を与えた残酷な事件でした。二度とあのようなことを起こしてはいけないとだれもが考えました。そしてその直後に、小泉首相は、容疑者を精神障害者と決め付けて、刑法の見直しを検討するよう自民党の山崎幹事長に指示したそうです。その指示に従って、自民党や与党の中で検討が進み、その検討を受けて、政府部内で最高裁とも協議をして、本法案の原案が国会に提出されたのですね。
そこで質問。小泉首相は、法務大臣、厚生労働大臣に対し、具体的にどのような指示を出したのか、あるいは出さなかったのか。出したとすれば、その指示は本法案のどこに生かされたのか、両大臣に併せて伺います。
首相の指示がいかにいい加減で軽率な発言であったか、これは後に証明されました。まず、刑法の見直しという首相の指示はだれからも一顧だにされていません。刑法体系が問題になっているのではないことが明らかだからです。この点は間違いありませんね、法務大臣。
軽率な発言の影響はもっと深刻です。この容疑者は、捜査中の精神鑑定の結果、犯行時には心神喪失でも心神耗弱でもなく責任能力ありとの結論が得られ、通常の公判請求がなされ、現在公判中です。また、心神喪失者の再犯のケースでもありません。すなわち、本法案の予定する仕組みができても、池田小学校事件の容疑者は、そもそもそこで扱われる対象にはなりません。また、仮になったとしても、既に重大な犯罪や事件を起こした後ですから、事件の防止には役立ちません。それなのに、小泉首相の軽率な発言により、精神障害者は危険だから新たな仕組みで危険を防止するのだという、精神障害者に対する社会の偏見が助長されたのです。反論がありますか、法務大臣と厚生労働大臣。
この容疑者は、精神障害者を装って、検察官をだまし、罪を免れたと言われているのです。そうすると、先ほど私たち民主党案の提出者から詳しく分かりやすく説明があったとおり、民主党案にある起訴前の精神鑑定の適正化こそが適切な対応策となります。民主党案は、それに加え、公判中の鑑定や措置入院制度の適正化を目指しています。
そこで質問します。本法案のどこが池田小学校事件の容疑者に適用できるのか、法務大臣そして厚生労働大臣にそれぞれ伺います。
本法案の目的ですが、第一条に長々と規定があり、特に継続的かつ適切な医療の確保と社会復帰の促進が強調されています。言葉で言うのは簡単ですが、我が国の精神医療の実態を考えると、その実現は容易なことではないと思います。我が国には現在、精神病院の長期入院者は三十三万人、欧米諸国の数倍だと指摘されています。そのうち、七万二千人は社会的入院だということです。さらに、医師や看護婦の不足。これが我が国の精神医療の実態です。一体どうしてこういう惨めなことになってしまったのか。厚生労働大臣に伺います。
さらに、厚生労働大臣。この法案の目的達成のためには、我が国の精神医療の抜本的な改善や社会復帰体制の飛躍的な充実が必要だと思います。大臣は、七万二千人の社会的入院を十年間でゼロにするお考えだと聞きました。大臣の決意と具体的方策をお聞かせください。
その適切な医療と社会復帰体制ですが、今申し上げたような実態を考えると、適切な取組を必要としているのは本法案の対象者だけではないですね。対象行為を行っていない精神障害者も医療や社会のバックアップが必要です。そうでないと差別になってしまいます。
そこで、厚生労働大臣に確認ですが、本法案の対象者だけでなく、必要な人すべてに適切な医療と社会復帰体制を確保する決意ということでよろしいですか。
次に、精神障害者の再犯率についてですが、大阪・池田小学校の児童殺傷事件などの報道により、精神障害者は重大な犯罪を犯しやすいと思われています。しかし、殺人については、一般人の再犯率は二八%であるのに対し、精神障害者の場合は六・八%と極めて低く、放火についても、一般人の再犯率は三四・六%であるのに対し、精神障害者の場合は九・四%と低いのです。精神障害者だから再び重大な犯罪を行うという見方は根拠がありません。
本法案の原案は、いわゆる再犯のおそれの除去を目的としていたのですが、修正により社会復帰の促進と改められました。しかし、表現は変えても、再犯のおそれの除去がなければ社会復帰は促進されないとも言えるでしょう。同じことなのです。ところが、精神障害者は再犯のおそれはむしろ低いというのが事実なのです。
こう考えると、本法案が、対象行為を行った精神障害者だけに対して特別な処遇を行い、治療を強制的に受けさせることについては、その正当な根拠や必要性が希薄だと言わざるを得ません。違いますか、法務大臣と厚生労働大臣。
次に、精神鑑定について伺います。
検察官が被疑者を起訴するかどうか、また、裁判官が被告人を無罪又は刑の減免をするかどうか、これを判断する上で極めて重要なのが精神鑑定です。それなのに、起訴前のいわゆる精神鑑定の結果が、医師や地域によりばらつきがあったり、精神鑑定を担当する医師が不足するなど、精神鑑定の現状については数々の問題点が指摘されています。精神鑑定を適正化し、その信頼度を増すことこそが緊急の課題となっているのです。しかし、政府案は、その点について何ら触れず、精神鑑定の抱える課題には一切手を付けていません。
私たち民主党は、さきに述べたように、精神鑑定の充実と適正化を図るための法案を提出しました。
そこでまず、政府は精神鑑定の現状やその適正化の必要性についてどう認識しているのか、法務大臣に伺います。さらに、この点について民主党案をどのように評価されるか、法務大臣と厚生労働大臣に伺います。
衆議院での修正により、精神保健観察を行う者について、その名称が精神保健観察官から社会復帰調整官に変わりましたが、これにより何が変わるのでしょうか。社会復帰という言葉を前面に押し出すことが実質的にどういう違いをもたらすのでしょうか。修正案提出者に代わって厚生労働大臣に伺います。
保護観察所は、刑の執行猶予者や仮釈放された者の保護観察を主たる任務とし、犯罪の予防を目的として活動する刑事政策機関です。そのような機関に、精神障害者の処遇に関する実施計画を定めたり、指定通院医療機関への通院を確保するために積極的施策を行う役割を負わせるのは本当に適切なのでしょうか。精神障害者の社会復帰に向けた活動が刑事政策的色彩を帯びる結果になるおそれはないのでしょうか。法務大臣と厚生労働大臣に伺います。
本法案は、衆議院での修正により、「同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」、これが処遇要件となりました。それでは、「同様の行為を行うことなく」というのは、修正前の再犯のおそれという要件とはどういう点が違うのでしょうか。また、「この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」というのは、具体的にはどういう場合を言うのでしょうか。極めて抽象的であいまいです。本法案は、対象行為を行った精神障害者を特別の手続で特別に処遇し、しかも強制的措置を伴うのですから、対象行為や対象者の厳格な認定だけでなく、処遇要件についても具体的で明確な認定が必要です。この処遇要件について、明確な説明を修正案提出者に代わって厚生労働大臣に求めます。
衆議院の審議の中で、平成十二年に対象行為を行った心神喪失者、心神耗弱者は四百十七名、そのうち措置入院になった者は二百七十名ということが明らかになりました。さらに修正によって、新制度による入院患者の数は、修正がなければ入院決定を受けるであろう患者数より少なくなる、そういう政府答弁がありました。この根拠について、明確な説明を厚生労働大臣と法務大臣に求めます。
医療施設の脆弱さ、医療スタッフの不足、処遇困難者の対応、不十分な地域精神医療など、精神医療は数多くの課題を抱えています。今必要なことは、いわゆる触法精神障害者だけを切り離して処遇することではなく、精神医療全体の水準の向上です。
確かに、衆議院での修正により、精神医療の水準の向上などについて努力規定が附則に盛り込まれましたが、努力目標にすぎず、精神医療が現実に充実される保証は何もありません。なぜ、触法精神障害者の処遇だけを特別扱いする制度を急いで新設し、精神障害者全体に対する差別と偏見の排除や悲惨な精神医療の改善を後回しにするのですか。この点について、厚生労働大臣と法務大臣の明確な説明を求め、修正案提出者の御意見を厚生労働大臣から伺います。
問題は、精神保健福祉法で地域精神医療の充実を唱えながら、それを具体化する政策が先送りされてきたことにあります。本法案もまた、精神障害者をめぐる問題を置き去りにするだけでなく、極めて差別、偏見を助長するものとなっており、人格障害のことなどもあり、成立は見送られるべきです。
精神医療の充実がなぜできなかったのか、その原因を明らかにし、その上で、予算措置も含めた精神医療改革の具体的な処方せんを作りましょう。その実現こそが、不幸にして起きる事件の防止につながるのです。精神障害者のことを考えるなら、これ以上障害者を遠ざけるのでなく、まず、精神医療を身近なものと考えましょう。そして、その発展と充実に取り組みましょう。ノーマライゼーションです。最後にそのことを強調して、私の質問を終わります。(拍手)
○国務大臣(森山眞弓君) 江田議員にお答え申し上げます。
まず、いわゆる大阪・池田小学校児童等無差別殺傷事件の直後の小泉総理の発言内容と本法案との関係についてお尋ねがございました。
心神喪失等の状態で重大な他害行為が行われる事案につきましては、被害者に深刻な被害が生ずるだけではなく、精神障害を有する人がその病状のために加害者となる点でも極めて不幸な事態でございます。
そこで、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らし、また、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するこのような不幸な事態を繰り返さないようにするための対策が必要であり、御指摘の総理の御発言もそのような趣旨であったものと理解しております。
このような総理の御発言や、この事件をきっかけとする国民各層からの御意見、与党プロジェクトチームによる調査検討結果等をも踏まえまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する適切な処遇を確保するため、本法案を提出させていただいたものでございます。
刑法の見直しという小泉総理の指示が誤りではないかとのお尋ねがございました。
御指摘の総理の御発言は、具体的に刑法の見直しを指示されたものではなく、一般論として、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するこのような不幸な事態を繰り返さないようにするための対策が必要であるとの御趣旨であったものと理解しております。
次に、小泉総理の発言が精神障害者に対する差別等を助長したのではないかとのお尋ねがございました。
御指摘の御発言は、池田小学校の事件が精神障害に起因して行われたものと断定して述べられたのではなく、一般論として、精神障害に起因する事件に関する対策が必要であるとの御趣旨であったものと理解しております。
本法律案は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきまして、国の責任において必要な医療を統一的に確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることにより、その社会復帰を図ることが肝要であるとの考えに基づきまして、適切な処遇を決定するための審判手続等を定めるとともに、その医療を確保するための機関、制度等を整備するものでございます。このように、対象者の早期の社会復帰を図るための適切な体制を整備することは、長期的にはむしろ差別や偏見の解消につながっていくものと考えております。
さらに、本法案が大阪・池田小学校児童等無差別殺傷事件の容疑者にどのように適用されるのかとのお尋ねがございました。
御指摘の事件は、責任能力が認められるものとして起訴されたと承知しておりますが、同事件につきましては、現在、公判係属中であり、この点も含め、最終的には裁判所によって判断されるべき事柄でございますので、お尋ねの点について法務大臣として答弁することは適当ではないと考えております。
また、本法案が心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のみを対象としていることについてお尋ねがございました。
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、精神障害を有していることに加えて重大な他害行為を犯したという、言わば二重のハンディキャップを背負っている者でございます。そして、このような者が有する精神障害は一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いと考えられ、また、仮にそのような精神障害が改善されないまま再びそのために同様の行為が行われることとなれば、本人の社会復帰の重大な障害となることからも、やはりこのような医療を確保することが必要不可欠であると考えます。
そこで、このような者については国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行い、また、退院後の継続的な医療を確保するための仕組みを整備すること等によりまして、その円滑な社会復帰を促進することが特に必要であると考えられますことから、このような者を本法案における対象者とすることとしたものでございます。
次に、精神鑑定の現状とその適正化の必要性についてお尋ねがございました。
検察当局におきましては、精神障害の疑いのある被疑者による事件の捜査、処理に当たり、精神鑑定を行う必要があると認められる場合には、事案の内容や被疑者の状況等に応じて、簡易鑑定によるか鑑定留置の上で本鑑定を行うかなど、精神鑑定の手段、方法を選択していると承知しております。
精神鑑定につきましては、特に簡易鑑定に対し、適正に実施されているかなど、様々な御意見や御批判があることは十分に承知しており、法務当局といたしましても、一層その適正な運用を図り、不十分な鑑定に基づいて安易な処理が行われているとの御批判を決して招くことのないようにする必要があると考えております。
このような観点から、専門家の意見等をも踏まえつつ、捜査段階において精神鑑定が行われた事例を集積し精神科医等も加えた研究会等におきましてこれを活用すること、検察官等に対しいわゆる司法精神医学に関する研修を充実させること、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるような運用を検討すること等の方策を講ずることを検討したいと考えております。
精神鑑定の充実と適正化に関し、民主党案をどのように評価するかとのお尋ねがございました。
民主党案につきましても様々な御意見があるかと思いますが、私といたしましては、御提案された精神鑑定の質の向上による適正な鑑定の確保につきまして、種々の御意見や御批判を真摯に受け止め、先ほど申し上げたような方策を講ずることを検討したいと考えております。
新たな処遇制度に保護観察所が携わることについてお尋ねがございました。
本制度におきまして、保護観察所は、通院患者に対する継続的な医療を確保するため、医療機関はもとより、地域社会で精神障害者に対する援助業務を担っている保健所等の関係機関とも連携しつつ、精神保健観察等の事務を行うこととしております。これらの事務は、本人の社会復帰を促進することを目的とするものでありまして、犯罪者の改善更生を促すことを目的とする保護観察とは本質的に異なるものでございます。このため、保護観察所には精神障害者の保健、福祉等に関する専門的知識を有する職員を新たに相当数配置いたしまして適切な処遇を行うこととしているところでございまして、御指摘のような懸念は当たらないものと考えております。
また、本制度による処遇については、国の機関が中心となって行うことが適当と考えられますこと、保護観察所は全国五十か所に設置されておりまして、そのネットワークによって統一的かつ円滑な処遇の実施が可能であることなどを総合的に考えますと、本制度による処遇を担う機関としては保護観察所がふさわしいものと考えております。
修正案に基づく入院患者の数についてお尋ねがございました。
入院等の決定は、処遇事件を取り扱う裁判所の合議体が個々の事件に応じて判断するものでございますから、現段階において、入院等の決定がなされる者の数について確定的なことを申し述べることは困難でございます。
もっとも、修正案は、政府案に対する様々な批判を踏まえまして、本制度における入院等の要件を明確化し、本制度の目的に即した限定的なものといたしましたものと承知しておりまして、入院決定を受ける者の数につきましても、その趣旨に沿ったものになるものと考えられます。
新たな処遇制度の整備と精神障害者全体に対する施策の関係についてお尋ねがございました。
先ほどもお答え申し上げましたとおり、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者については、国の責任において統一的に手厚い専門的な医療を行うこと等によりまして、その円滑な社会復帰を促進することが特に必要であると考えられ、そのための適切な施策を早急に講ずる必要がありますことから、本法案により新たな処遇制度を整備することとしたものでございます。
一方で、御指摘のとおり、精神障害者全般に対する施策を推進していくことも大変重要なことと考えております。この点については、衆議院における修正によりまして、一般の精神医療等についてもその水準の向上等を図るべき政府の責務が明記されまして、また、厚生労働省からもこれらに努めていくとの御決意を伺っているところでございまして、本法案の成立により、今後これらが推進されていくものと考えております。(拍手)
○国務大臣(坂口力君) 江田議員から十三問ちょうだいをいたしました。順次御報告を申し上げたいと存じます。
まず、総理の指示と本法案の関係についてのお尋ねがございました。
厚生労働省と法務省におきましては、平成十一年の精神保健福祉法改正の際の「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇の在り方については、幅広い観点から検討を早急に進める」べきとの附帯決議を受けまして、平成十三年一月に合同検討会を設けまして、具体的な検討を行ってきたところでございます。
その後、池田小学校児童等殺傷事件を契機として、精神医療界を含む国民各層から、このような施策の必要性についての意見が高まったことも事実であり、総理からも、重大な犯罪を犯した精神障害者が精神障害に起因する犯罪を繰り返さないようにするための対策を検討する必要がある旨の御認識が示されたものと理解をいたしております。
このような中で、与党における検討結果が取りまとめられましたこと等を踏まえまして、本法案を提出する運びとなったところでございます。
精神障害者に対する社会的偏見の助長についてのお尋ねがございました。
池田小学校事件につきましては、検察において精神障害に起因するものではないとして容疑者を起訴したものと承知をしており、また、精神障害者のうち、重大な犯罪を犯す者はごく一部であると認識をいたしております。
しかし、精神障害を持つ患者がその症状ゆえに犯罪の加害者となることは、障害者にとっても、加害者にとっても極めて不幸な事態であります。総理もこのような事態を共有されており、政府としては、精神障害により重大な他害行為をした者に対して適切な処遇を確保することが必要と考え、さきの通常国会に本法案を提出したところでございます。
あわせて、偏見の解消を含め、我が国の精神保健福祉対策の一層の充実を図ることが必要不可欠であり、総理も同様な認識にあるものと考えております。
池田小学校事件の容疑者に対する本法案の適用についてのお尋ねがございました。
先ほど法務大臣からも御答弁のあったところでございますが、御指摘の事件は、責任能力に問題のある者による犯行ではないと認識をいたしております。責任能力があればこれは対象外になると思います。同事件につきましては、現在、公判係属中でありまして、この点も含め、最終的な判断は裁判所によって判断されるものと考えております。
我が国の精神医療の状況についてのお尋ねがございました。
我が国の精神医療につきましては、精神病床数が多く、長期入院が多い。入院中心であり、相談支援や地域での受皿の不足など、地域の精神保健・医療・福祉体制が不十分であります。病床機能が未分化で精神医療の質が低く、重症な患者に手厚い人員で医療を行うなど、患者の病態に応じた医療が実施されていないなどの問題が指摘をされているところでございます。
このような状況に至った背景といたしましては、歴史的に、自宅や地域において多数の精神障害者が医療を受けられずに放置されていたため、入院医療の充実が求められ、病床の整備を進められた時期があったこと、薬物療法の進歩等により、精神障害者の社会復帰が可能となった後にも、社会復帰施設や在宅生活を支援するサービスの整備が十分に進まなかったこと、国民の間でもいまだ精神疾患に対する十分な御理解をいただけていないこと等があるものと考えております。
いわゆる社会的入院患者についてのお尋ねがございました。
七万二千人の社会的入院者を十年間で解消し、地域生活への移行を支援するため、グループホーム等住まいの確保や、生活訓練施設、福祉ホーム等の中間的な機能を有する社会復帰施設の整備等を進めますとともに、在宅福祉サービスを支えるマンパワーの充実にも計画的に進めていかなければならないと考えております。
また、急性期の治療を重点的に行い、早期の退院を促すことにより、社会復帰しやすい状況を作る必要があると考えており、このため、精神病床の機能分化を進め、特に、集中的な治療を行うための急性期病床を整備することが必要であると考えております。
さらに、精神障害者への偏見を取り除き、正しい理解を深めることも重要であり、こうした差別、偏見の除去に向けて、国としても率先して取り組んでまいりたいと考えております。
このような各般の取組を総合的かつ具体的に推進するために、関係局の参加の下、厚生労働大臣を本部長とする精神保健福祉対策本部を設置をいたしまして、省を挙げ、直ちに推進方策を検討してまいりたいと考えているところでございます。
適切な医療と社会復帰体制の確保についてお尋ねがございました。
精神障害者に対する適切な医療と社会復帰体制の確保を進めることは、本制度の対象者だけでなく、精神障害者全体に対する施策として重要な課題であると認識しており、先ほど申し上げましたような施策を計画的かつ着実に推進するために省を挙げて取り組んでいく決意でございます。
本法案が対象としている精神障害者についてお尋ねがございました。
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、精神障害を有していることに加えて、重大な他害行為を行ったという点で、言わば二重のハンディキャップを背負っている者であります。そして、このような人たちが有します精神障害は、一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いと考えられ、また、仮にそのような精神障害が改善されないまま再びそのために同様の行為が行われることになれば、本人の社会復帰の重大な障害となることからも、やはりこのような医療を確保することが不可欠であると考えております。
そこで、このような人たちにつきましては、一般の精神障害者に対する治療にとどまることなく、自らの行った他害行為について認識させ、行動の自制を促するための手厚い専門的な医療を必要と思っております。これは、国の責任において統一的に行い、また、退院後の継続的な医療を確保するための仕組みを整備することにより、その円滑な社会復帰を促進することが特に必要であると考えておりますことから、このような人たちに対します本法案における対象者としたところでございます。
精神鑑定の充実と適正に関しまして、民主党案をどのように評価するかとのお尋ねがございました。
民主党案につきましては、ただいまここでも概要が述べられたところでございますが、様々な御意見があるというふうには思いますが、御提案されました精神鑑定の質の向上による適正な鑑定の確保につきましては、重要な御指摘であり、法務省においても適切な方策の検討が行われるものと期待をいたしております。
社会復帰調整官への名称変更についてのお尋ねがありました。
社会復帰調整官は、本制度の下での地域社会において行われる処遇の、言わばコーディネーターとして、対象者の円滑な社会復帰の促進を図るため、精神保健観察のみならず、生活環境の整備、処遇の実施計画の策定、指定通院医療機関や保健所等の関係機関との協力体制の整備、関係機関相互間の緊密な連携の確保等の事務を行うものであります。そこで、これらの事務の内容に照らし、よりふさわしい名称として、社会復帰調整官に変更されたものと承知をいたしております。
精神障害者の社会復帰対策における保護観察所の役割についてお尋ねがございました。
本制度において、保護観察所は、通院患者に対する継続的な医療を確保するため、医療機関はもとより、地域社会で精神障害者に対する援助業務を担っている保健所等の関係機関とも連携しつつ、精神保健観察等の事務を行うこととしております。これらの事務は、本人の社会復帰を促進することを目的とするものであり、犯罪者の改善更生を促すことを目的とする保護観察とは本質的に異なるものであります。
このため、保護観察所には精神障害者の保健、福祉等に関する専門的知識を有する職員を新たに担当者として多数に配置をし、適切な処遇を行うこととしていると承知をしており、この御指摘のような懸念は当たらないと考えておる次第でございます。
処遇要件の修正についてのお尋ねがございました。
衆議院における処遇の要件の修正は、政府案の要件に対する様々な御批判を踏まえ、入院等の要件を明確化し、本制度の目的に即した限定的なものとしたものであると承知をいたしております。
具体的には、本人の精神障害を改善するための医療の必要性が中心的な要件であることを明確にするとともに、さらに、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮することが必要な者だけが対象となることを明確にしたものであり、例えば、単に漠然とした危険性のようなものが感じられたとしても、社会復帰の妨げになるような同様の症状が再発する具体的な可能性もないような場合には、この要件には当たらないものと承知をいたしております。
修正案に基づく入院患者の数についてのお尋ねがございました。
この点につきましても法務大臣から御答弁がございましたが、入院等の決定は、処遇事件を取り扱う裁判所の合議体が個々の事件に応じて判断するものでありますから、現段階におきまして、入院等の決定がなされる者の数について確定的なことを述べることは困難でございます。
もっとも、修正案は、政府案に対する様々な批判を踏まえ、本制度における入院等の要件を明確化し、本制度の目的に即した限定的なものとしたものと承知をしており、入院決定を受ける者の数につきましても、その趣旨に従ったものであると考えられます。
本制度の整備と精神障害者全体に対する施策の関係についてのお尋ねがございました。
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者については、国の責任において統一的に手厚い専門的な医療を行うこと等により、その円滑な社会復帰を促進することが特に必要であると考えられ、そのための適切な施策を早急に講ずる必要があることから、本法案により新たな処遇制度を整備することとしたものであります。
他方、精神障害者全体に対する施策について、より一層の充実を図っていくこともゆるがせにできない課題でありまして、この両者はどちらか一方を先に進めるべきといった性格のものではありません。
いずれにいたしましても、厚生労働省といたしましては、精神障害者に対する差別、偏見の解消や精神医療水準の向上を含め、精神障害者全体に対する保健福祉対策の推進について、省を挙げて取り組むことといたしております。
なお、衆議院における修正により、一般の精神医療等についてもその水準の向上等を図るべきという政府の責務が明記されたところであり、厚生労働省といたしましても、これに基づき、その責務を適切に果たしていく必要があると考えているところでございます。
以上、御答弁を申し上げました。(拍手)
2002/12/11 |