2005年3月17日

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162 参院・法務委員会

「下級裁判所の設立・管轄区域法改正案」の質疑で、10時半前から40分間、質問しました。法案に直結した質問のほか、管轄法理、司法ネット、中国残留孤児訴訟の件、ボビー・フィッシャーさんの件なども質問。


○江田五月君 下級裁判所の管轄というのは大変技術的なことでございまして、だれが考えても質問することはほぼ同じなのかなと、吉田委員の質問で私の質問も大体尽きてしまったような感じはするんですが、それでも幾つか探して質問してみたいと、なるべく重複しないようにと考えております。

 今朝、実は私ども民主党の法務部門会議がありまして、お隣に座っております簗瀬進さんから、南野法務大臣、法務関係については大変失礼ですけれども素人でいらっしゃると、したがって、どうも我々、ちょっと南野さんの人柄にほれ込んで優しくし過ぎたんじゃないか、これからもうちょっと厳しくいかなきゃというそういう発言もあって、そのとおりだと私も思ったんですが、しかし法律専門家になり過ぎてもまたいけないんで、やはり南野大臣の持っておられる豊かな識見、コモンセンス、これを法務行政の中で生かしていただくということも大切なことなんで、その点は私どもは期待しているわけでございます。

 そこで、ちょっと質問通告をしていないんですが、冒頭、正にコモンセンスということを聞いてみたいんですけれども、これは通告をわざとしなかったんで、ごめんなさい。というのは、法務省のお役人の皆さんに模範解答を書いてもらったら困ると思って通告してないんですが、この法律の題名なんですよね、下級裁判所の設置及び管轄区域に関する法律云々という。

 下級裁判所というんです。最高裁だけが上級で、高等裁判所も、地方裁判所も、家庭裁判所も、簡易裁判所も全部下級だという。法律の世界の中にいると別に何とも思わないんですよ、全く何とも思わないんです。しかし、国民から見たら、下級というのはこれはどうなんだろうと思うと思うんですが、法務大臣、いかがですか。

○国務大臣(南野知惠子君) 表現方法というのは、もうこれ歴史的に使われてきている文言であろうかなと、そのように思いますが、下級という名称を使われているということは、本当に国民に身近なところにあるというような感覚をとらえて、簡易裁判所などですね、上の方の裁判所でないというようなところも考えられているのではないかなと思いますが、これはすべて憲法上の規定に従っているということでございますので、そのように思っております。

○江田五月君 いや、そうだとするとますます問題で、つまり、国民に身近だ、それを表現する言葉が下級だということになると、国民は正に下々となるじゃありませんか。これはやっぱりちょっと法務大臣になられてもうかなり時間たったので法務省の感覚になってしまっているのかもしれませんが、私は前から言っているんですよね。地方裁判所の裁判官がやっぱり最高裁判所の方ばっかり向いて、で、判断をしていくという、いわゆるヒラメ裁判官という悪口もあながち当たっていないとも言えないようなところもあるんです、現実に。

 ですから、これは確かに、いや、私自身も法曹の世界に長くいるものですから、下級裁判所と言われて別におかしいという、どういうのか、法曹の常識からいうと、おかしいとか何とかということじゃなくて、もうそう言うんだということなんですが、やっぱりそこはそうじゃなくて、国民から見たら違和感感ずるよという感覚は維持したいと、維持していただきたいと思うんですが、どうですか。

○国務大臣(南野知惠子君) おっしゃるとおり、私のコモンセンスを確かめられているということでございますが、私にいたしましては、今使われております憲法上の課題について一生懸命勉強している段階でございますので、それはそのように読むんだな、これはこのように展開していくんだな、それが法律で決まっており憲法で決まっているんだなというところを今解釈しているところでございます。

○江田五月君 いや、私も余り威張ったことを言えないので、細川内閣のときに科学技術庁長官をやって、何か先輩もおられますけれども、科技庁長官の。余計なことをごめんなさい。それは、ITERなんというと一体何だろうかと、国際熱核融合実験炉とか、SPring8というのは大型放射光なんといって、それも全然知らなかったですよ、本当に。

 ですから、それは一生懸命勉強というのはよく分かりますが、だけれども、やっぱり裁判所、第一線で本当に一生懸命努力している地裁あるいは簡裁、家裁、こういう皆さんは下級だという、これはちょっと頭の片隅に留めておいていただけませんか。

○国務大臣(南野知惠子君) この裁判所法の中の七十六条などにも規定、憲法の七十六条に、これは最高裁判所の下に定められているものであり、最高と下級というような形であろうと思いますけれども、国民との関係での上下という問題ではないというふうにも解釈されるというふうに思います。

 だけれども、先生がおっしゃるとおり、そのことについては、狭い頭の容量ではございますが、その中にインプットしておきたいというふうに思っております。

○江田五月君 是非ひとつそういう、そういう感覚は大切だと思うんですよね。お願いいたします。

 さて、この法案自体ですが、いろんなことをたくさん規定をしておりますが、今回やはり一番議論になるのは新潟市の編入合併、それに伴って正に下級裁判所、簡易裁判所の管轄をどうするかということでございます。

 これもちょっと通告していないんですが、この合併はいつ決まったんですか。

○政府参考人(倉吉敬君) 昨年の十一月の末ということでございます。

○江田五月君 昨年の十一月末に三月二十一日という日付も決まったんでしょう。そうですよね。それで、今日は三月の十七日ですから、もうちょっと早く、さっきもおっしゃっていましたが、法務省はいつもばたばた、ぎりぎりになってという、もう少し早く分かっていることですから手当てをするようにしていただきたいと、これも要望しておきます。

 さて、この改正で住民から見て何が変わるかというと、新津簡裁の管内に、いやいや、新津市に住んでいらっしゃる皆さんは新潟市になっても新津簡裁に行くわけですから、これは変わらない。白根市に住んでいらっしゃる皆さんは、新潟市になったらこれは新潟簡裁の方に行くわけですから、しかしその部分は法律改正は要らない。法律改正がなくて、白根市の皆さんは行く簡易裁判所が変わる。法律で変わらないというように規定することによって新津市に住んでいらっしゃった皆さんは変わらないようになると。何かこう法律と住民との感覚とがギャップがありますね。それはしようがないといえばしようがないんですが、この改正によって実現しようという事実は、別表第五表ですか、これを変えるだけで実現できる話なんですよね。そうじゃないですか。

○政府参考人(倉吉敬君) まず最初に、先ほど昨年の十一月末と言いましたが、誠に申し訳ありません、十月末の間違いでございました。なおおしかりをちょうだいすることになろうかと思いますが。

 それで、ただいまの御指摘ですが、今度の、今回の一般法の整備をしなくても、個別の別表の改正をしていくことによってそれは御指摘のとおり対応はできるということになります。

○江田五月君 しかし、第三条を変えられると。それはなぜですか。

○政府参考人(倉吉敬君) 実は、地元に簡易裁判所がある、その管轄区域が編入合併されると、そうすると遠くの簡易裁判所に行かなければならないというのは、これは一般的に不合理であろうというふうに考えまして、そこで、その不都合を是正するための一般的な規定を置く根拠があると十分に考えたわけでございます。

 ただ、先ほど来の御指摘のとおりでありまして、それだけ合理性があるのなら何でもっと早くやらないんだと、こういうことになろうかと思います。

 この点につきましては、実は、この管轄法を立法した当時、裁判所の所在地である行政区画が他の裁判所の管轄区域の行政区画に編入合併されるというような事態を想定しておりませんでした。しかも、現にその後もそのような例はほとんど生じなかったわけでございます。ところが、今回、先ほど御指摘いただいたとおり、さきの国会で楠町が宇部市に編入される、それから今度は新津市が新潟市に編入されるという事例が立て続けに連続して起こりましたので、この際、それだけを、そういう立法をするだけの必要性もあるという、立法事実もあるという判断をいたしまして今回の改正案に盛り込ませていただいた次第でございます。

○江田五月君 白根市の皆さんが新潟簡裁の方を選ばれたという判断をしておられると。どういう調査でそういうこの判断に至ったのかということを聞こうと思ったんですが、さっき吉田委員の質問がありましたので、それ以上詳しく、例えば議会についての意見、白根市議会の意見は聞いたのかとか、いろいろ聞いていけばいいんですが、まあ聞いてもだからどうだという話でもないので、これは聞きません。

 しかしですね、しかし、恐らく社会経済上、地域社会の状況というのがいろいろ変わったことによって白根市の皆さんは、まあ新潟になるなら新潟簡裁の方が、それはバスの便などなどでそっちの方がいいという判断をされたんでしょう。そうすると、新津市の皆さんも、まあ新津に簡裁はあるけれども、だけれども、地域社会の実情からすると、新潟との一体性がこれからどんどん強まっていって、新潟簡裁に行くことで何も不便はないよというようなことが今後起きることはあり得ると思うんですよね。そうしたことについて、これから先の展望というのはどういうふうにお持ちでしょうか。

○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 全般的な裁判所の配置の見直しということに関しましては、先ほど来、一般的に諸要素を考慮しながら継続的に検討していくというように考えたところでございますが、そのような総合的な検討のほかに、今回の作業といたしましては、新津市、小須戸町、白根市について意見照会をしたわけですが、同時に、新潟簡易裁判所、それから新津簡易裁判所の各管轄区域内の他の市町村についても、そのような管轄区域の定めについてどのように考えるかということも照会をしておるわけでございます。

 それから、合併協議会に対しましても照会をいたしまして、その結果、新津市と小須戸町は従前と同じ管轄区域にとどまりたいという意向で、白根市は新潟簡易裁判所管轄区域内に移りたいということでございましたが、それぞれについての合理性ということも更に併せて検討をいたしまして、周りの地方公共団体についても、あるいは合併協議会についても異存がないということの確認をしておるわけでございますが、そのような総合的な検討を加えながら今後も検討をしていくということであるというように考えております。

○江田五月君 合併がいろいろあって、そこへ従来から住んでいる人は経過を知っているから、ああ、こうなっているけど私の行く簡裁はあそこだなというようなことは分かる。しかし、後から引っ越してくる人は、法律見ただけじゃ自分が駆け込むべき簡裁はどこだか分からないというようなことが起きるんじゃないかと思うんですが、住民に対して、あなたの住んでいるところはこの簡裁が受け持っているんですよということを十分知っていただくような、そういう努力は必要だと思うし、やっていらっしゃるんではないかと思うんですが、どういう努力をされているかを説明してください。

○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 御指摘のとおりに、市町村の廃置分合が生じました場合には、それに伴った法改正があるということになるまでは管轄法三条の規定によって管轄の解釈がされるということで運用されていくことになるものですから、管轄法の別表を見ましてもどこの裁判所に行けばよいかは直ちには分からないというような事態が生じるところでございます。

 私どももそれを認識しておりますが、そこで裁判所では、裁判所の利用者のために、裁判所のホームページに最新の市町村名を反映した管轄区域表を掲載いたしまして、これを見れば正しい管轄裁判所が分かるというような工夫をしてございます。それから、各裁判所の窓口や電話でも管轄区域に関する御質問にお答えしておるということで、そのような努力をしておるということでございます。

○江田五月君 そうですね。この間、何かでっかい看板の話ありましたね、そういえば。あれは何でしたかね。

○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 知財高等裁判所に関しまして、知財高等裁判所というのは一つの目的としてということで議論がされまして、看板効果というように言われましたので、その看板について御説明を申し上げたということがございます。

○江田五月君 ホームページは、出しているからみんな分かるだろうというほど、それほど分かるものでもないんですよ。あれはクリックしていってよく分かんなくなっちゃうようなこともありますし、やっぱりでっかい看板というのはひとつ考えたらどうですかね、その管轄について。

 さて、新津簡裁、今のですね、今の新津簡裁、これはもうこれからも新津簡裁残るわけだし、新津市も新津簡裁の管内に残るわけですが、新津簡裁管内には弁護士は何人おられますか。──それは調べてもらっているよ。

○政府参考人(倉吉敬君) 申し訳ございません。
 新津簡易裁判所は一人でございます、管内には。

○江田五月君 弁護士過疎という話なんですがね、ゼロワンというのは、地裁の本庁とか支部の管轄区域内に弁護士がゼロとか一人とかということですが、しかし、地裁の本庁やら、それから支部やらの配置が住民サービスに適合するようにできているかどうかということもありますよね。だから、各全国の市町村ごとに弁護士がどういうふうにいるかという、それでは細か過ぎるということもあるかもしれませんが、簡裁の管内にどういうふうに弁護士が配置されているかというのも一つの弁護士過疎に当たって考えるべき視点ではないかという気もいたします。

 そうすると、今後、例えば町村合併とかあるいは簡易裁判所の管轄の変更によって、今のような意味でゼロワンというのを検討するとすれば、ゼロワン地域というのはだんだん数が減ってくるんですよね。それは、合併していきますから、どうしたってゼロワンの市町村というのは数は減るのはもう当然減るわけで、そうすると、これで司法過疎は大分なくなったなと、大分司法過疎も改善されたなというように言われても困ると思うんですよね。

 こういう合併や管轄の変更によって司法過疎対策というのをおろそかにするようなことがあってはいけないと思いますが、いかがですか。大臣、お答えできますか。

○国務大臣(南野知惠子君) 先生おっしゃいますように、今のような合併が起こり、そしてゼロワンの地域が本当に減少していくということがございましても、やはり我々としては、もっと国民がアクセスしやすいような形で、そういったところを配慮していかなきゃならないと思っています。

○江田五月君 これ法務大臣ね、管轄というのは確かに技術的な、大変技術的なややこしいことなんですが、でも本当はそんなにややこしくないんです。これは、要するに、国民がどこの、土地管轄とか事物管轄とかいろいろあるんで、今言っているのは土地管轄、つまり国民がどこの裁判所へ行ったら自分のこの事件については裁判所サービスというものが受けられるかというそういう話で、ところが管轄については、僕ら司法試験の勉強をするときにはもう大原則みたいなものがあって、それはもう管轄というのは被告住所地だと。まあ、それに対して、例外として、例えば不法行為が起こった土地とか、あるいは不動産の訴訟であれば不動産のあるところとか、こういうのは例外なんですよと、もう管轄は被告の住所地だと、こうなっていました。

 だけど、そう固い頭が必要ないものでして、どうやったら一番住民のサービス提供に便利がいいか、国民が要するに裁判所へ駆け込むのに、どういう区分けをしておくと一番便利がいいか。それともう一つは、そうはいっても、全国至る所に裁判所、地下鉄の駅降りればすぐ裁判所というわけにもいきませんから、それは司法サービスのリソース、資源、これが一番有効に使われるかという、その二つの兼ね合いで決めていけばいい話だと思うんですね。

 で、これはまたお願いなんですけれども、例えば情報公開法の改正のときに、情報公開法というのは行政庁が行う情報公開についての処分を裁判所で争うということですから、被告は行政庁になるんで、行政庁というのは法務大臣とかですね、法務省じゃありませんよ、法務大臣というのが行政庁なんですがね。そうすると、法務大臣はどこにいるかというと、東京にいるわけですよ。法務大臣南野知惠子という個人じゃなくて、法務大臣というものがいる場所というのは東京なんです。それでもう、だから、行政事件訴訟、行政を相手に訴訟を起こすときにはとにかく東京へみんないらっしゃいということになっていたんです。

 それを変えて、それを変えて、原告、つまり行政処分を争うその人が住んでいるところの裁判所に行けばよろしいと。ところが、住んでいるところの裁判所といったら、全部の地方裁判所、全部の地方裁判所に全部行政事件を扱える裁判官を配置するというのもこれもなかなか大変だと。そこで、原告が住んでいる土地を管轄する高等裁判所がある場所の地方裁判所へという。

 だから、理屈は余りないんですよ。余り理屈なくて、とにかくどうやるのが一番妥当かということなので、管轄についてはそのほかにも一杯あるんです、問題が。

 ついこの間も行政事件訴訟法の改正で管轄変えました。しかし、私は、今頭にすぐ来るのは沖縄の件なんですよ。沖縄は福岡までというのは大変ですよ。また、沖縄はいろんな特殊性もあります。歴史的な特殊性もあります。沖縄のその裁判管轄というものを是非もっと緩やかにしてほしいというのを我々ずっと言っているんですが、これも頭の中へちょっと置いておいてくださいというお願いですが、いかがですか。

○国務大臣(南野知惠子君) 先生のお言葉、大切にしておきたいと思っておりますけれども、国民が裁判を利用しようとする場合にはどこの裁判所に訴えを起こすことができるのかと、そのような重要な問題であるということは認識いたしておりますので、沖縄の方々の課題についてもしっかりと検討していきたいというふうに思っております。

○江田五月君 だんだん語尾が、声が小さくなっている。もっと大きな声で言ってください。

 司法ネットのことは今、先ほども吉田委員からお話がございましたが、最高裁が大きな看板立てて簡裁の場所を国民に知っていただくとかいろいろな努力は必要ですが、それでも今の総合司法支援センター、こういう、総合法律支援センターか、日本司法支援何とか法か、まあ要するに司法ネット、これはこれから本当に大切になってくると思うんですね。国民が裁判サービス、司法サービスというものを、司法サービスだけじゃありません、法律に基づいて紛争を解決する、ADRというようなこともあるでしょう。そういうものを十分活用できるように、とにかくどこかへ駆け込んだら、そこでどこへ行けばいいかすぐ分かるという、そういうものをつくろうというので司法ネットというのを今つくろうとしているわけですね。法律を去年つくりました。いよいよ来年の四月から設置を始めて、来年の秋にはこれが稼働する。したがって、来年度予算の中にはまだ準備段階ですが、再来年度の予算には相当のものを付けなきゃいけないと。

 私ども立法府でも、これはひとつ大いに頑張らなきゃということで、司法改革推進議員連盟というものをつくって、おとといも総会を行いました。また、今日は夕方から日弁連の主催で司法ネットのシンポジウムもあるというんで、私も来なさいと言われておるんですが。

 この司法ネットを本当に国民に役に立つようなものにするには相当の金が掛かる。どのくらいな予算が今頭の中に浮かんでいますか。そして、そういう予算を取るどれほどの決意を一体法務大臣はお持ちですか。すぐ数字の具体的な、細かな数字までは無理だと思いますが、ざっとイメージを、今法務大臣の頭の中にあるイメージをお話しください。

○国務大臣(南野知惠子君) ありがとうございます。
 今先生がおっしゃりましたいろいろな議連ができたりいたしております。そういう方々のお助けもおかりしながら、十八年の秋に向けてはしっかりと今度は運用、ランニングコストというものも考えていかなきゃならない、それはもう十分に覚悟いたしているところでございますが。

 ちょっと御報告させていただきますならば、日本司法支援センターが中核となって実現する総合法律支援制度というものは、法によります紛争解決に必要なこれは情報とサービスを国民に提供するものである、国民に身近で頼りがいのある司法を実現する上で極めて重要な制度であると認識しております。

 法務省といたしましては、平成十八年度に改正されます支援センターの業務を効果的かつ効率的に処理するために必要な予算の確保に努めてまいりたいということでございますので、その運用上等の問題とも併せて考えてみたいと思っておりますが、平成十七年度の政府予算におきましては、総合法律支援、これ、司法ネットの準備経費といたしまして五億三千万。その主な内訳といたしましては、支援センターの準備経費又は広報活動経費、これは司法過疎地域調査経費、それから情報提供システム開発経費等々がございます。また、民事法律扶助関係の予算といたしましては四十五億円、四十五億五百万円。さらにまた、これは裁判所の予算でございますが、国選刑事弁護関係の予算として八十五億八千万円ということを今御審議いただいている最中でございますので、それがまずは通過させていただきたい。

 その予算をいただきまして、それからランニングコストを考えますならば、これはもう江田先生のお力なくして取れないと思いますので、どうぞ皆様方のお力を、総力合わせていただきましてやっていただきたいと思っております。

○江田五月君 いや、私がというよりも、それはもう与野党本当に力を合わせて、与野党だけじゃありません、関係機関もみんな力を合わせて努力をしなきゃいけないんですが。私はやっぱりイメージとしては、今大臣おっしゃったその法律扶助、それから国選、それと今の準備経費、これ合わせて大体百三十五億、百四十億足らずですよね。二倍じゃ足りないと思うんですね。二・五倍ぐらいのものをこれ確保しなきゃいけないというイメージを持っております。お答えは要りません。

 さて、時間がもう少しありますので、入管行政について若干伺っておきます。

 先日、おとといでしたか、南野法務大臣が大変慈悲深い決定をされました。例の福岡高裁の判決、中国残留孤児とその家族が日本に帰ってきたけれども、その家族の何人かについて、これは駄目よといって送り返そうとしたら、地裁はそれでよろしいって言うんですが、高裁はそうじゃないと、日本に残してあげなさいよということで、法務大臣のその送り返すのは合理性を欠いていると、こういう判決が出て、まあ大臣もお悩みもあったと思いますが、しかしその判決は上告をしないと、今後特別在留許可を出す運びと聞いておりますが、どういう心境ですか、簡単ですが、簡単に。

○国務大臣(南野知惠子君) 簡単な心境と申しましては、やはり家族というものが一体となって本当に支え合っているということが一番ポイントであろうかと思いますが、この事案はそういうような人間関係、きずなを強められた家族の連帯であるというところが私、一番心に響いたということでございます。

○江田五月君 これもう一つ、国際人権規約とかあるいは子どもの人権条約とか、そういうものを、精神を酌んでという、これは非常に重要なことでありますが、しかしそうはいっても、原告のあの人この人ちょっと気になるなというようなこともなくはない。連れ子、実子と、ちょっとうそついてたんじゃないのというようなことがあるとか、家族といっても子供のころにどこかよその家に出されているとか、まあいろんなことがあった。あったけども、あったけども、まあしかし、まあ家族ですよという。

 それには、それにはもう一つ、やっぱり中国残留孤児だと。中国残留孤児がどういうことで生じたのか。それはやっぱり日本の国に大きな責任があるんじゃないか。その皆さんが大変な苦労をして、そしてそれでもやはり故国のことを忘れられずに、それは日本語も今は不便でしょう、日本の習慣も身に付いてないでしょう、それでもやっぱり祖国にといって帰ってくる。そういう境遇に彼ら、彼女らを置いたことについては国に大きな責任があるんだから、そして同時に、それは中国の皆さん、いろんな関係で、この人が日本に帰るんだったら何とかくっ付いて日本に行きたいというような人もあるいはいるかもしれないけど、それでも家族というものが一応あるとすれば、そこは大変お世話になった中国の皆さんへのある種の御恩返しのような気持ちもあってそういう慈悲にあふれた判断をされたんだと思うんですが、いかがですか。

○国務大臣(南野知惠子君) 今先生のお考えも、これも適切なことかなと思いますが、私自身満州から引き揚げてきております。今の中国残留の方々が一番多いのは黒竜江省でございます。そういう田舎に開拓団で行っておられた方は、やはり情報が行き届いていなかったのかなということが私、子供心に一番感じていたことでございます。そういう方々のことを、議員になりましてから一番最初に、これは議員立法改正したのも、サハリンまで入れながら、中国と、中国とサハリンの問題点を改正したのも、私が議員になって最初の法律の改正に手を出した分野でございます。

 そういうようなことから、やはり一番苦労しておられた方々ということもございますが、これまた中国だけよとなると、私の立場としてはこれはけしからぬことになるだろうと思います。あまねく対象者に対しては、やはり人道問題、そういったこと、また個別の案件に会いまして検討していくのが今の私の役割かなと思っております。

○江田五月君 この国会冒頭の本会議の代表質問でも私も申し上げました。私も、まあ満州じゃなかったんですが、華北から戦後引き揚げてきた。ちょっと間違うと同じような境遇だったもんですから特に思うんですが。情報の問題じゃないんですよ。情報があったって、とにかく軍が出ていって、そしてここは満州国ですと、さあいらっしゃいといって、開拓団をどんどん送り込んで、そして戦争に負けたと。北からはソ連の兵隊が入ってくる。日本の兵隊真っ先に逃げちゃったんですよね。そして、そこに言わば人身御供として置かれた格好になったのが実は残留孤児で、残留孤児じゃない、家族ですよね、皆。その皆さんが本当にもう必死の思いで故国へ帰ってくる。その途中で、いろんな不幸な、あるいは幸運だったかもしれませんよね、育ててくれる人のところへたどり着いた。こういう残留孤児だと。

 判決でも、ここへ判決理由の骨子があるけれども、本件の遠因には、遠因ですがね、日本国自身の過去の施策があり、また、それについての救済措置の遅れが結果的に控訴人らの日本国への入国を困難にしていることなどの諸事情、これが本件に特有の事情として考慮されなければならないと。もちろん、特別在留許可ですから個別の事案の判断ですが、しかし、そういう個別の事案の集積によっていろんな基準というものも出てくるし、そういう基準はやっぱりあった方がいいんで、是非、中国残留孤児というのは一つの要素だということを頭に置いていただきたいと思います。

 もう一つ。ボビー・フィッシャーという、これは先日、外交防衛委員会で私どもの榛葉委員が質問しておりまして、法務大臣、残念ながらそこはお出になっておらないのですが、しかし、事案としては御存じだと思います。

 ボビー・フィッシャーというのはアメリカ人、一九七二年でしたか、世界のチェスのチャンピオンになったと。これは大変にアメリカからすると拍手、大体今まではチェスというのはどうしても東欧に取られていたのが、アメリカ人がついにチャンピオンになったぞということで、大拍手の英雄なんですね。この人が、しかし、ユーゴスラビアへ行ってチェスの試合やって勝っちゃったと、賞金もらったと。それは、アメリカがユーゴスラビアについて経済制裁していたので、アメリカの国内法に反するということで逮捕状が出た。彼は、国外に出た以来アメリカに戻っていなかったなどなどという経過があって、しかし日本に来て、パスポート、アメリカ発給のパスポートがあってちゃんと上陸をしたんですが、その上陸の前にアメリカのパスポートが無効宣言されていたということで、今度、出国のときに入管に行ったらそのまま身柄を拘束されてしまったという事案でございます。

 この事案が、実はヨーロッパではこれ大変な注目を浴びているんです。榛葉議員の質問が、私もちょちょちょっと見たんですが、もう直ちに報道されて、AFPあるいはBBC、あるいはだあっとこう出ていて、そして一番の新しい報道だと、法務省はアメリカへ送り返すほか道はないと言いながら、アイスランドが手を差し伸べればそっちへ出ていく可能性はあるというようなことを言ったと。イフ・アイスランド・メークス・ヒム・シティズンというようなことも書いてあって、今アイスランドの出方注目されているところですが、私はこの入管法五十三条、本国又は市民権のある国に送り返すものとするという、ものとするという規定をどう思っているのか。

 これは、日本国にとってはとにかく国外に出てもらうことが関心事であって、どこに送り出すかというのは日本国として利害を持っている事柄じゃないじゃないですか。そうじゃなくて、これは送り返される人の利害の話じゃないですか。送り返される人が自分はあそこへ行きたいと言うのに、おまえはやっぱり本国でなきゃ駄目だなどとなぜ一体言うんですか。法律に書いてあることをしゃくし定規に運用するのもほどがあると思いますよ。

 私は、これは何か日本がアメリカに余りにも気兼ねをし過ぎていると。アメリカからの指示によって、あるいは要請によってそうしているんではないと言うけれども、要請がなくたって向こうの思惑ばっかりを気にするというのは要請よりもっと悪いじゃないですか。そう思われませんか、どうですか。法務大臣、何か。

○政府参考人(三浦正晴君) お答え申し上げます。
 ただいま委員御指摘の件につきましては、現在裁判中でもありますので、詳細な点は申し訳ございませんが控えさせていただきたいと思いますけれども、御指摘のございました入管法の五十三条は退去強制を受ける者についての送還先の規定でございまして、「退去強制を受ける者は、その者の国籍又は市民権の属する国に送還されるものとする。」と、こういう規定ぶりになっています。

 これは正に、記載ぶりからしますと、国籍のある国若しくは市民権の属する国に送還すべしと、こういうふうに読めるわけでございますが、これがどうしてこういう規定になったかということについて今詳細には私も承知していないわけでありますが、やはりある特定の方については、国籍のある国若しくは市民権のある国はその方を受け入れる責務があるわけでございまして、送還の場合にはやはりそういう受入れの責務のある国に送還するのが大原則という考え方からできているのだろうというふうに思っております。
 また、二項では、その……

○江田五月君 いい。

○政府参考人(三浦正晴君) よろしゅうございますか。

○江田五月君 もういい、もう時間来ましたので。

 この規定は、それは法務省の逐条解説によっても、これは送り返される者の利益のために規定しているんだとちゃんと書いてあるじゃないですか。

 法務大臣、私、この関係の人に会って、アイスランドから来られた人にも会いました。彼らは、これでもし本当にアメリカへこのまま送り返すというようなことになったら、私たちは日本を、日本が国連の常任理事国入りすることについては大いにひとつ異議を唱えるよというようなことまで言われているんですよ、別に脅しに屈することはないけれども。だけれども、やっぱりヨーロッパから見たら、日本は人権感覚あるのかと、こんな国が国連の安全保障理事国になることについてはやっぱり疑問だなというようなことを言われかねないですよ。法務大臣、法務大臣も日本は国連の常任理事国入りを目指すべきだとお考えなんだろうと思いますよ。私たちもそれはそうだと思っているんですよ。是非ひとつ、そういうことになるためには、やっぱり国際水準に従う行政しようじゃないですか。

 最後に一言お答え、覚悟だけで結構ですから、お答えください。

○国務大臣(南野知惠子君) 私もいろいろと悩んでおりますが、なるべく早い解決を見付けていきたいというふうに思っております。

○江田五月君 終わります。


2005年3月17日

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