2005年5月12日

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162 参院・法務委員会

11時30分から1時間、刑事施設受刑者処遇法案につき質問。衆議院で修正されているので、まず修正案提出者として山内おさむさんと津川祥吾さんに答弁していただきました。97年ぶりの歴史的大改正で、行刑理念の大転換なので、その意義をしっかりと南野法相や行刑担当者に認識してもらうよう、美祢刑務所建設に当たって掲げられた「良質な人材の再生―再犯率0を目指して」を引用して、困難な現場だからこそ高い理想を掲げることの大切さを強調しました。


○江田五月君 刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律案質疑も、衆参通じ、最終場面になってきているかと思います。もちろん、まだ今日で終わりというんじゃないんだけど、衆参を全部通じて最終場面になってきて、これまでいろんな形の質疑もありましたのでなるべく重複しないようにと思っておりますが、いろんな仕事が次から次で準備の方が十分できているかどうか分かりません。幾つかの点を質問させていただきます。

 この法律案については、これは私どもも非常にこれは重要な、そしてある意味で画期的な、時代を画する、そういう法律案だというように把握をしておりまして、参議院段階では、私たち民主党のネクストキャビネットというのをつくっておりますが、南野大臣のカウンターパート、ネクスト法務大臣が簗瀬進さんでございまして、本会議での質疑に立っていただきました。

 その中で簗瀬さんは、このたびの法案は明治四十一年施行の監獄法の大改正であり、実に数えて九十七年ぶりの歴史的な大改革だと、しかし率直に言わせていただくと、骨太の理念や哲学がどうも伝わってまいりません、さらには、この国の二十一世紀の刑事司法の姿をどのように構想すべきかといったグランドデザインが見えてこないのですと、こういう厳しい視点を維持をしながら質疑をいたしました。ただ、厳しい視点といってもこんな言い方もしていまして、小泉改革の一般的な特徴をずばり申し上げれば、有名無実、すなわち改革という虚名のみが躍り無内容ということだと思いますが、ちょっと飛んで、私は今回の刑事司法改革をごまかしの改革にしては絶対ほしくないのであります、こう言って期待を掛けながら、しかし野党としての批判的な見地を維持しながら質問しているんです。そういう気持ちを是非御理解をいただきたいと思っております。

 実は昨日、長く行刑の関係に携わって非常に鋭い視点から問題提起をされている弁護士さんとお会いをしまして、そうするとこういうことを言われるんですね。今回のこの行刑改革というのは確かにこれは本物の感じがすると。保護局、矯正局、この役所の皆さんの気持ちもどうもかなり変わってきているような気がする。思えば、長く行刑の改革は必要だと、監獄法改正しなきゃいけないというのはこれはみんなのテーマではあった。しかし、いろんな事情で、私どももすぐ素直にそれはそうです、いいですねと言うわけにいかないいろんな事情もありましたが、今回ここへ来て名古屋刑務所の事件ということがありました。あの事件についてもいろんな見方ありますが、ああいう事件があって、そしてこれまでの刑務所の中のやり方、これは医療の問題にも焦点が当たった、あるいは戒護や規律の問題にも焦点が当たった、国民的にも大変大きな関心も呼んだ、そしていよいよ財政当局もこれは何とかしなきゃいけないという理解も得るようになってきた。こうやっていろんな状況がぐっとここへ煮詰まってきて、そして今回の法案ということになった。そのことを、仏作って魂入れないんじゃなくて、本当に魂を入れなきゃいけない。今、魂を入れるためのいろんな基盤というのも整ってきているので、それを是非生かしていかなきゃならぬ。

 こういうときに、南野法務大臣がこういう行刑行政というものの最高責任者として立っておられるというのは、私はこれはもう本当にある意味では南野さんうらやましくてしようがないという感じがするんですが、大変光栄に思っていただきたい。思っていただきたいけれども、それはそれだけの責任を果たさなきゃいけないという重要なことであって、決して、いや毎日うれしいという話じゃないんで、むしろ逆に、その責任感に身も心も震わせていただかなきゃならぬという思いでおるわけであります。

 そういうことを考えながら質問を今日いたしますが、時間の関係もありまして、冒頭、今日は修正案提出者、衆議院の方から来ていただいておりますので、そちらにまず質問をいたします。

 今、ずっといろんな動きが凝集してここへ来たと。その動きを取りまとめながら法案という形で出してくるのは、これは政府であります。それを議院内閣制という下でバックアップしているのは与党であります。しかし、政府と与党だけで今回の法案作ろうとしているんじゃないんですね。参議院の方に来たのは、正にこれは野党といっても全野党というわけにはいかなかったんだと思いますが、民主党も一緒になって修正案を提出して、与党、自公と民主党の共同提案で修正をして、これを議決をして参議院の方に持ってこられておると。その意味では、ますます国会の中でもある種の大きな結集というのが行刑改革ということについてできてきているということだと思います。

 そこで、修正案提出者に伺います。

 こういうプロセスの中で恐らく修正協議というのも大変だっただろうと思うんですね。その修正協議の経過、いかに大変であったか、どんなことを議論したのか、こんなことを、これ全部述べていたらもうそれだけで時間終わりますが、簡単に御紹介いただき、思いのたけをひとつ述べていただきたいと思います。

○衆議院議員(山内おさむ君) 修正案の提出者を代表して答弁をさせていただきます。

 先ほども江田議員がおっしゃいましたように、九十七年ぶりの改正ということでこの法案の審議ということになっているんですが、私たちは、約百年ぶりに作り上げるんだから全く新しい法律を作りたいなという思いが最初にございました。

 そのときに、まず、じゃ私たちでどういうことを勉強していこうかと思いましたが、そのときに、性犯罪者の事件というのが結構世間の耳目を集めたものですから、まず性犯罪者についての矯正プログラムを作り上げている刑務所はどこなんだろうかといいましたら、約八十近くある刑務施設の中でたった十三しかないということで、まずそのことに驚いたんですけれども、とにかく民主党の議員で手分けをして十三か所の施設には必ず行こうということで三、四名ずつのチームで十三か所を見させていただきました。指導に当たっておられます刑務官と一緒になって、あるべき矯正プログラムというものも議論をさせていただいたつもりでございます。

 そういうようなことをしながら修正協議に臨んだんですが、修正協議に応じたくないという方々がおられまして困りました。その方々はまず何を言われるかというと、治安を重視する、治安を重視するということは治安を乱した人に対しては厳罰をもって臨む、厳罰をもって臨むためには刑務所でホテル暮らしのようないい暮らしをさせるべきではない、そういう方がおられまして、まずその方々を説得するのが大変でしたね。

 それからもう一つは、行刑改革会議の提言。これはほとんど網羅されているのが政府の政府案なので、これ以上にどこを修正あるいは追加したらいいのかと。そういう十分な法案として出ているので修正の必要がないと言う人たちに修正の必要を迫る、これも大変苦労がございましたが、参議院でも参考人をたくさん呼ばれたと聞いておりますけれども、衆議院におきましても法務委員会でジャーナリストの江川紹子さんなど、この方は特にオウムで犯罪被害者の立場に立って積極的に発言をされた方でして、犯罪被害者について保護していこうと、権利を擁護していこうというと、やっぱりどうしても事件を起こした人たちに対しては厳しい見方になると、そういうような人だと思って私たちも法務委員会にお呼びしたんですが、あの方が最初におっしゃったことで非常に印象があるのは、いつかは受刑者は社会に戻ってくるんですという発言だったんですね。

 これ、やっぱりはっとしまして、やっぱりそういう人たちがまた施設から社会に帰ってきて一般人と同じ生活をするわけですから、その人たちが施設に入って悪くなったり改善されないで出てくる人を私たちは待つのか、施設に入って多少なりとも良くなる、あるいは改善更生した姿になって社会に戻ってこられる、そういう人たちを私たちは待つのか、どちらを待つのかという問題意識を持って修正案の議論をさせていただいたつもりでございます。

○江田五月君 政府はもちろん最善と思う、政府がですね、政府が最善と思う法案をこれは出してこられるわけです。しかし、立法府は国会ですから、国会は更にそれを、与野党、もちろん時には対決もしながら、しかしよりいいものに更にしていこうと努力をするのは当たり前の話で、この立法府というところで与党、野党が合意をして、更にいいものということで修正して法律として仕上げると。こういう歴史的な大改革の法案がそういう形で今、最終段階に来ておるというのは、私は立法府が正に機能しているという意味で非常に重要なことではないかと思っております。大変、本当に衆議院での修正案提出者の皆さんの御努力には敬意を表します。

 そこで、四項目あるんですが、その一つ一つについて聞く時間的なゆとりもありませんし、また大体もう読めば文言上明らかでございますが、一つ、「検討」のところがありますよね。五年以内に施行状況に検討を加え、必要があると認めるときは結果に基づいて所要の措置を講ずると。

 これは、もう書いてあることでいえばもうそのとおりで、それに何も足さない、何も引かないということではありますが、しかし、恐らく修正の話合いの中で、こんなことがあるよ、あんなことがあるよと、それを一体どうするか、修正をしてはどうですかというようなことが幾つか具体的にそのポイントとして挙がって、その議論の結果、文言としてはこういうことだけれども、こういうことについて五年後しっかりと見直してみようというようなポイントがあるのではないかと思うんですね。

 これは立法過程の中に隠れてしまうものでありますから、あえてここでこの文言に表れていなくても、五年後、見直しのときに十分点検してみる、そういうことが含まれているんだというポイントがあれば、具体的にどういう点を重視して見直すべきだと考えておられるか。例えば、単独室の問題、運動時間の問題、電話や外出の問題などを挙げてお答えをいただければ、これは五年後の見直しのときに大変参考になると、この会議録にしっかり残しておきたいという趣旨でお尋ねをいたします。お答えください。

○衆議院議員(山内おさむ君) 法文の中には書き込めなかったんですが、附帯決議を作成、衆議院の段階で附帯決議を作成するときに随分政府と議論した論点がございます。

 一つには、単独室を原則とすると。つまり、昼は集団で作業をしたり、みんなでもう立ち直っていこうなと議論をすると。しかし、夜は独り、部屋で自分の犯してきたこと、あるいは家族のこと、仕事のこと、そういうものを反省、内省をしながら独りで考えていこうと。そういう点について法文で書き込みたかったんですけれども、できなかった。

 それから、運動時間を一日一時間は最低保障してくださいと、そういうことも私たちの方で政府にお願いをしたんですけれども、法文には書き込めないということで残念ながら附帯決議に落とした点がございます。

 その論点については、いずれも今の刑務所が過剰であるということと、それからそういう施設を全国に造っていくにはとても財政的に持てないというようなことが理由だったんですが、やはりそういう論点が、反論があったとしてもつくり上げるべきだということで、私たちはまずこの点について強く主張したいと思っております。

○江田五月君 規律の緩和でいろんな優遇措置、そして今回、処遇がずっと、例えば私物の制限もだんだん緩和していくとか、自分の金でいろんなものを買ってもいいようにしていくとか、更に進んで、状況によって電話を掛けること、あるいは場合によっては外出、外泊、そういうことまで認めるようになっているわけですが、そういうことも恐らく実際にはちょっとずつしか進まない。いや、ナメクジよりもっと遅いぐらい。

 しかし、それはやっぱり五年後にちゃんと見直して、もっとどんどん進めることができたんではないかといったことも見直しの中に入ってくるのではないかと思いますが、いかがですか。

○衆議院議員(津川祥吾君) まず、見直し規定を入れたこと自体ですが、まず、そもそも、先ほど先生からも御指摘がございましたが、これまで何度も見直し、法律の改正、修正は試みられてきたにもかかわらず、ここまで大変遅れてしまったという思いがございます。ここを非常に、これ今後の改善を促していかなければならないという部分がございますので、今先生御指摘のとおり、五年後の見直しというものは正にその見直しを促すという部分がございます。

 さらに若干御答弁させていただきますが、そもそも、今回も委員会を設置をして、そこから意見を述べていただくという部分がございます。その意見について公表していただくというものが原案にございましたが、さらに、それに対して施設の長が講じた内容も公表するというふうに修正をさせていただいたわけでございますが、これなども、正にどういった対応を取ったのかということも公表し、国民の皆様方にも監視をしていただき、そしてその効果についても当然のことながら国民全体の議論を促していく中でこの改善を促していきたい、早い段階での改善を促していきたいと。

 こういった思いを持って修正をさせていただいたということを加えさせていただきたいと思います。

○江田五月君 修正案提出者の皆さん、ありがとうございました。どうぞ衆議院の方でお仕事をしっかりやってください。

 さて、それでは今度は政府の方に伺いますが、今も修正案提出者からありました、刑を受けた者、この受刑というのがホテル住まいみたいなことではいかぬと、しかし、いずれは社会に戻ってくる。そのときにほんのちょっとでも、いや大いにできればもちろんいいんですが、ほんのちょっとでもより自分自身でしっかりと社会に適応しながら生きていく、そういう力を増した形で戻ってきてほしいという、そういう思いというのはこれはやはり当然あると思うんですよね。悪いことをしたんだから思い切り苦しめ、懲らしめてやろうというだけではやっぱり駄目で、私は、そういう意味で考えると、法務省の方から出してきた、いただいたペーパーで感激をした言葉を書いてあるものに出会いました。

 これは、今回の法案ではなくて、構造改革特区の改正で、美祢刑務所をPFI事業で造ろうというそのペーパーの中に、何を目的としているか、良質な人材の再生、再犯率ゼロを目指してと、こう書いてあるんですね。正にそのとおりなんですが、しかし、現実にはそれは、刑務所で良質な人材の再生なんてまあよく言うわと、再犯率ゼロなんて、そんなことを目指していってとてもできるわけないという、そういう、現実を見るとそういう非常にこの打ちひしがれた気持ちになるような現実があると。しかし、そうじゃないんだと。そういう悲惨な現実があっても、その中で仕事をする者が悲惨な現実だからというんでそれにもう押しつぶされておったんじゃ、それはいい行政なんてできるわけない。やっぱりそういう状況であるからこそ、そこに何か理想の光が当たる、こういうものを目指そうというものがないと奮い立たないですよね、そこでやっているその刑務官の皆さんも受刑者の皆さんも。

 そこで、良質な人材の再生、再犯率ゼロを目指してというのは正にこれを掲げるんだと。それはいつそれができるか、まあ数値目標を言えなどと言われるとなかなか難しい。だけれども、やっぱりそういう目標を掲げるんだという、これは非常に大切だなと思いながら、まさかこの構造改革特区の法案の担当者だけが勝手に書いたものではなかろうと。これは今法務省全体、あるいは矯正保護行政全体に携わっている皆さんの思いをここへ書かれているんだと思うんですが、いかがですか、大臣。

○国務大臣(南野知惠子君) ここに掲げております良質な人材の再生、この問題点につきましては、刑務所に入られる方は良質だと思っていない方が多いですよね。でも、我々が目的としている刑務所というのは、そこで矯正処遇をしたり、その人が次の、いわゆる社会に帰っていくときには良質な人として帰っていっていただきたいという心が私は矯正処遇の中にあると思います。

 そのことを例えて申すならば、赤ちゃんが生まれる。胎児の立場になれば、母親はすべての環境なんです。その母親のすべての環境をどのように整えるかということは行刑の場をどう整えるかと。その中ではぐくまれる、それは何か月、何年か人々によって違うと思いますけれども、その人たちがその場所で、いわゆる母の胎内の中でしっかりと育成されて生まれてくるとき、それは新しい心でリボーンしていただきたいと、それが私の心であります。

 これがいつかなうかどうか分かりません。でも目的を持つことは、これは必要なことであり、みんなでその方向に向かっていけば、ここには与党も野党もないと思います。人間としてどうするかというのが一番大切なことであろうかと思っておりますので、行刑に携わる者、母の環境をつくる気持ちですばらしい子供の誕生を目指して我々はやっていくということでございますので、この気持ちはそれになっていると私は思っております。

○江田五月君 この言葉も、しかしよくよく読めばいろんな批判もあるかとも思うんですよ。人間というのを良質と悪質と分けるのでいいのかとか、そういう批判も出てくるんですが、それはちょっとのみ込んでおいて、ここへ理想を掲げているということを重視をしていきたい。正に南野法務大臣、刑務所というのは母胎、つきへんに台の胎、そういう思い、それも一つの見識だろうと思いますが、現実はしかし苦しいですよ。それはもう刑務官の今の状況など、私どもも参考人にも来ていただいて、山本譲司さんが刑務所の中の実態について赤裸々な話もされました。現実は苦しい。しかし、その苦しい現実の中に何か一筋の光がなきゃいけないということだろうと思うんですね。

 そこで、先ほどもちょっと申し上げましたが、今こうして抜本改革というものになってきた。これは、私は行刑に携わる多くの皆さんの思いがそれなりにやっぱりここへ凝集してきたんだろうと。それにはやっぱり行刑に携わる皆さんの大変なチーム全体を動かしていく努力というのがあっただろうと思いますし、これからもなきゃならぬと思うんですが、これは、したがって大臣よりも横田局長に、そういうチーム全体を動かす局長としてどういう苦労があって、今日、刑務官全体がどういう状況になってきているか、その辺りのこの苦労話といいますか、今どういう決意でおられるかというのを伺っておきます。

○政府参考人(横田尤孝君) まずもって、江田先生が最終段階とおっしゃってくださいましたけれども、本当にそれが最終段階でありますことを祈っておりますし、ここまで来れましたことに対して心から感謝申し上げます。

 先ほども答弁の中で繰り返しましたけれども、この監獄法の改正といいますのは、いわゆる名古屋刑務所事案が一つのきっかけではございましたけれども、もっと以前から、これは矯正というよりも、法務省あるいはもう国としての大きな課題でございました。それがようやくこれは実現をするということに近づいてきたということに対して、私どもはこれが入口だと、いよいよこれから本当の行刑改革なんだという心構えでおります。

 私が矯正を預かることになりまして一番感じましたことは、やはりこの矯正を支えている方々の熱意と誇りといいますか、本当に大変な仕事を一生懸命やっているということをこの年になって目の当たりにして見まして、これは本当に大きな感動であり感銘でありまして、やっぱりこれはこの人たちの苦労が報いられるような、そして受刑者が本当に真の改善更生、社会復帰ができるようなそういう仕組みを作らなきゃいけないというふうに私は思いました。

 これは法律を作った上で、先ほどもありましたけれども、仏作って魂入れずではいけませんわけで、正にこれから法律ができましたら、それの運用に当たって私ども矯正職員一丸となって、そして国民の皆様の声を聞きながらこれを実行してまいりたいと。これからが本当の始まりなんだという決意でございます。

 以上です。

○江田五月君 これからが始まり、行刑職員は本当に一丸となってこの良質な人材を再生していく、再犯率ゼロを目指す、そういう思いを共有して頑張っていただかなきゃいかぬと、そのためにこの修正のところで、刑務官の質の向上、被収容者の人権に関する理解を深めさせる、また被収容者の処遇を適正かつ効率的に行うために必要な知識及び技能を習得させる、向上のために必要な研修、訓練を行うと、こういうものを立法府として皆さんに求めているわけですから、是非これはもうこたえていただきたいと思います。

 さて、もうちょっと、どういいますか、基本的なことを伺っておきたいと思うんですが、良質な人材の再生のために行刑施設の条件を改革していく、良くしていくと、要するに。いや、行刑施設なんだから、これはもう犯罪を犯したらとんでもない目に遭うぞという状態をつくっておくことがいいんだと、ノミでもシラミでも南京虫でもどんどんわかした方がいいんだという、それは違いますよね。やっぱりそうじゃなくて、行刑施設のこの居住環境にしても、あるいは労働環境にしても、もちろんホテルに住んで毎日夜は酒盛りでという、それがいいわけじゃ当然ありません、当然ありません。しかし、その行刑施設で受刑を受けていく期間に、ちょっとでも自分自身に誇りを取り戻して、自分自身の生きる自信というのをちょっとでも増して、さらに、人の関係の中で自分をちゃんと律していく、そのスキルがちょっとでも増していくと、そういうふうにしていくためにはやっぱりそこに一定のいい環境がなければ、それにふさわしいですよ、もちろん、いい環境がなければできないと思うんですね。

 そこのところを、実は私は先日あるグループで東京拘置所に行ってみました。あそこは御存じのとおり長い歴史のある行刑施設ですが、本当に全く新しく今造り替えておる最中で、新しいからということもありますが、非常にいい、少なくとも管理棟は非常にいいことになっていると。そのときにある若い人、まあある意味でいえば、社会で今まで失敗をしたというようなことをそれほど経験していない人から、どうして一体受刑者のためにこんなに国民の税金使っていいもの造らなきゃいけないのかよく理解できないんですがと言われて、たちまち答えに窮して、いや、まあ、ここは未決の人のところだからと、無罪の推定があるからと答えたんだけれども、本当はそうじゃないんで、本当はもっと根本的な答えをちゃんとしなきゃいけないんだと思うんですが。

 そこで法務大臣、ごく普通の人たちに刑務所というのがいいものになっていく必要はあるんだということを納得させるに、法務大臣としてどういう言い方をされますか。是非これを伺っておきたいと思います。

○国務大臣(南野知惠子君) 受刑者の方々の処遇の在り方ということで、今先生からお問い合わせがございました。

 刑務所で、受刑所で自分の罪を悔い改めるということの必要性ということは、これは分かるわけでございます。その環境をどうするかということでございますが、そこに入っておられる方々は人間であります。罪を憎んで人を憎まず、その精神の環境をどう整えるかということが我々にとっては大切なことである。だからといってって、先生がおっしゃったように、もう一度入ってきたいような、そういう環境ということは社会がどのように見るだろうかということとの関連をしなければならない。社会に出ておられる方は、その日食べるか食べないかで生活している人もいるわけです。そういう人たちが真っ当に社会のルールを背負いながら仕事をしている、生きている。その人たちとどう見合わせていくかということは、これ大きな課題になってくるだろうと思います。

 そういう意味では、処遇の在り方、行刑改革会議の提言ということは、受刑者が真の意味で改善更生をすると、そして社会の復帰するためにその処遇において受刑者の人間性が十分に尊重されるということが不可欠であると思っております。行刑施設内において受刑者の人権がないがしろにされる、これももってのほかであろうかというふうに思います。人権も尊重するということの基本的な考えは持っていかなければいけないと思っております。私としましては、こういう点に皆さんたちと一緒になって今取り組んでいるわけでございまして、最も重要な考え方の一つであろうと思っております。

 もちろん刑の執行である以上、受刑者の処遇は犯罪の責任を自覚するということに足りる環境であるというふうにも思っております。受刑者の改善更生をさせるためには人間としての誇りを持つ。先生もおっしゃいました。誇りを持ちながら自信を回復させるということが必要であろうかと思っております。人間、受刑者も一人の人間としてどのように回復していくかということが、私は今、受刑所、いわゆる矯正行政の場でそれを母親と例えたわけであります。そのすばらしい環境に恵まれながら、どのように自分が発見できるか、次の人生を発見できるかというところの環境を整えなければいけない。そのときに、本当に寒い、もう凍えるようなところで自分は考えられるか、暑いところで考えられるかと、不衛生なところで考えられるか、ノミ、シラミにかかれながら自分が反省できるかということを考えたときには、常識的な環境があるだろうと思います。

○江田五月君 特に、最近、これは参考人質疑の中で聞いた話なんですけれども、ターミナルケア、つまり人が終末期を迎えたときにどういうふうに安らかに人生を終わりにさせるかということですよね。これが刑務所の中で重要性が増してきていると。

 つまり、社会というのは、やっぱりお互いの支え合いのシステムですね。その支え合いの社会のシステムが劣化をしてきて、ちゃんと支え合うことができない人たちがこぼれて、そして最後は刑務所というところに来て、そこで人生の終えんを迎えるというような、そういう不幸な事態というのが随分起きてきているというんですね。

 これは私たちにいろんなことを教えていると思うんですが、そういう社会というのは一人一人の人間の人生の集合ですから、その最後のところが刑務所になるというのは、これ客観的事実としてそういうことが起きているわけですから、こうしたことも本当に真剣に取り組んで、人間の尊厳、尊厳を維持しながら終末期を迎える、それが刑務所になってしまうという、これはやっぱり不幸ですよね。一つ一つの事件を見ると、なぜそこへ至ったかというと、私はやっぱり不幸の連鎖でずっと来ていると。刑務所がもうその連鎖にもう一つ不幸の輪っかを付け加えるんじゃ、それはどうにもならない。やっぱりそこで不幸の連鎖を断ち切るという、そういう思いを是非持っていただきたい。そのために、幸福の連鎖じゃ困りますが、やっぱり刑務所の環境というものは改善をする必要があるんだという確信を持っていただきたいと思います。

 さてそこで、そうだとすると、やはり単独室原則とか一時間運動制、こんなことはやっぱり理想としてちゃんと掲げていなきゃいけないんじゃないかと思うんですが、先日来、法務大臣、これはもう今の実態を見るととても行刑担当者にそのことを命ずることはできないので法文に書かなかったと言われます。しかし、行刑担当者に命ずるんじゃないんで、正に法務大臣に命ずるという思いでそのことを書かれるということをやってはどうかと思うんですが、いかがですか。

○国務大臣(南野知惠子君) 先生がおっしゃるように、これも法律に書くということの難しさがあると。これはもう江田先生、もう大先輩であり、もうベテランであり、私なんか足下にも及ばないもう人間でありますけれども、法律に一遍書く、これは全部守らなければいけないという形になり、今四十七都道府県にそれができるかということが私にとっては大変つらいことであります。本当に書くなら、一時間なんてけち臭いこと言わず、二十四時間の間に何時間でもできるよと書きたいところでありますけれども、それは及びません。

 そういう意味で、各所、刑務所、刑務所ごとに、自分たちの所管ごとに、これはフレキシビリティーを持たせております。そして、現に一時間以上やっているところもあります。そういうことを考えるならば、そこにフレキシビリティーを持たせる、その所管、所管の人間性を持って展開されることが、一時間ぽっきりで切るよりも、もっと人間らしい処遇の仕方ができるのではないかなと思っております。

○江田五月君 今の、例えば房はやっぱり単独室が望ましいとか、あるいは一日一時間ぐらいは運動できるのが望ましいという、そういう理想はお持ちだと、これは確認していいですね。

○国務大臣(南野知惠子君) はい。それは当然持っております。

 今は独居生活で成長してきた子供たちがその場に行くわけでございます。昔は一人のお部屋に入れられることは悲しい、苦しい、耐えられないことだと思っていましたけれども、今は大勢の中で生活することが耐えられないことになってきております。そういう環境の変化ということもあり得ると思いますので、そういうことについては十分考えております。

 それから、先ほど先生がおっしゃいました高齢者の問題につきましても、中においてもやっぱり高齢者の増加ということがあります。そういうことについてどのように考えなきゃいけないかという、高齢者の介護の問題なども出てくるのではないかなというふうにも思っておりますし、その独居に与えてあげたい人がそうでないというのは、やはり再犯を防止する、また犯罪を犯すことを防止するということに力を入れていくことがいいのではないだろうか。

 今、独居室が取れないから、刑務所ばっかり造ればいいという問題ではない。そこら辺で御質問があって、見通しはどれくらいかと大分つつかれましたけれども、そういうことじゃなく、その見通しは立たないんです。立たない方向に持っていきたいんです。そういうことも御了解いただきたいと思います。

○江田五月君 次に、処遇の関係のことをちょっと伺っておきたいんですが、今回処遇が随分改善をされる、いろんな制限の緩和といったことがある、優遇措置といったこともある。それは全く賛成なんですが、なんですが、しかし、これもやはり、何でしたっけ、のみとはさみは使いようでしたかね、使いようでどうにでもなっちゃうんですね。

 先日の参考人質疑の中で山本譲司さんが、担当制というものの中ではどうしたって刑務官の裁量が大きくなる、担当者とそれから受刑者との間で、とんでもない担当者に当たったらもう受刑者の方はいたたまれないよと。そのときにこういう、ニンジンのえさをぶら下げられて、そら、はいつくばれとかなんとかといって、人間としての尊厳を根限り失う。もう犬や猫のようになれば、そうするとこういう処遇の改善などが行われるというようなことでは、これは駄目ですよね。

 やっぱりそうじゃないんで、そうしますと、この処遇の改善というものが一方でありながら、しかし、その担当制は担当制でずっと維持していくとすれば、その担当制の中にもっとやっぱり一定のメスが入るような格好が要るんではないかと。例えば、こういう処遇改善も、単なる担当者の裁量ではなくて、そこに一定のルールをちゃんと置くと。こういうことがあれば、より処遇がいい処遇になりますよと。それも、減点主義じゃなくて、減点主義というのはいつもこう見ているわけですから、その自分の担当者を。そうじゃなくて、プラス思考でやっていくというようなこともあるかもしれません。そういうルール化。それからチェック化、他人の目ですね。担当者だけじゃやっぱり駄目で、他人の目がそこへ入っていく。それともう一つは、今の不服審査会とかあるいは視察委員会とか、そういうレビュー。

 この三つぐらい、私、ぱらっと今考えただけなんですが、が必要かと思うんですが、この処遇の改善について、そうした私の問題提起にどうお答えになりますか。大臣、大臣。大臣に。

○国務大臣(南野知惠子君) 私がお話しした後、またフォローしていただけばいいというふうに思います。

○江田五月君 必要なら言います。

○国務大臣(南野知惠子君) 今、先生のお話、これはもう全くそのとおりだと思います。やはり任せっきりという、何のそこにマニュアルもない、何もそこに目的もない、ルールもないという任せっきりは、これはどうにもならない形であろうと思います。その中にどういうルールを作っていくかということは、お互い、基準は、最低基準なら最低基準、これが望ましい基準なら望ましい基準、いろいろな基準の取り方があると思います。それを施行した後でどう評価するかというのは、その所内所内でもできるし、又は担当がしていかなければならないと思っております。

 何か追加することがあれば。

○江田五月君 私の方で聞きましょう。

 局長、何か追加することがあれば。

○政府参考人(横田尤孝君) いや、大臣の答弁に付け加えることは特にございませんけれども。

 担当制につきましては、もう江田委員十分御承知のように、行刑改革会議でも十分御検討いただきましたし、その御提言もいただいたところでございまして、やはり担当制は担当制でやはりいいものがあるわけで、これは日本の行刑をずっと支えてきたものでありますし、それは十分な意義があったわけですが、しかし、その一方で、何か間のいろんなこともあったこともあるんでしょうけれども、問題が生じてきたのもまた事実。そこで、提言も言っておりますように、やはりそのいい点は残すと、基本的な形は残すと。そして、そのいい点は残しつつも、しかしやっぱり改めるべきは改めるべきだということだと思います。それは、先ほど先生おっしゃったようなことも含めて、今後行刑を行っていく上でいろんな工夫をまたしていきたいというふうに考えていること、そのことだけちょっと一言、まあ蛇足ですけれども。

○江田五月君 是非そこは本当に考えていただきたいと思うんですね。南野大臣は、刑務所というところを母親のおなかの中と例えられましたが、その自分の胎内に授かった子供というのは自分の自由にしていいものじゃないんですよ。これは授かっているわけですから、預かっているんですから、これを大事に考えていかなきゃいけないんで、親と子の関係は一つの例えですが、やっぱり、やっぱり最近は子供も子どもの権利条約とか簡単じゃありませんからね、そこはよく理解をしておいていただきたいと思います。

 不服審査会について。これは今、松岡委員の方からもお尋ねにいろいろあったことでありますが、事実上の制度としておつくりになって、人権救済制度ができればそっちへ移行していくという、そういうお話なんですが、私はこの不服審査会というのは極めて面白い試みだと思うんですね。行政不服審査法理論というものは、行政機構の中で行政の過ち、過ちというのは違法の場合もある、不当の場合もある。裁判所へ行ったら違法しかないんですが、行政手続の中でやるわけですから不当のことでもいいと、そういうものを改めていこうと。それで、申立て権を与える形でそういう行政を改めるきっかけを行政処分の相手方に与えて、でやっていくというわけですから、正に行政の中のシステムなんですね。

 行政の中のシステムで、行政不服審査法上でいえば、法務大臣がそういう不服を審査するときは再審査請求という形になるわけですが、再審査請求のときに外部の人間の意見を聞くと、しかもそれは内部の人間はその中に入っちゃいけないというそういう不服審査会をつくってやるというのは、従来の行政不服審査理論ではあり得ない話なんですが、それをあえてここで試みるというのは、非常にこれは面白い、面白いと言っちゃいけませんが、重要な試みでありまして、そういう認識をお持ちであるかどうか。いかがですか、大臣。

○国務大臣(南野知惠子君) いや、先生からお問い合わせあるまでもなく、それは大切なことだというふうに思っております。多くの方の意見をいただきながら、どのようにその問題を解決していくかということは、これ大切なことだと思います。

○江田五月君 行政というものが最近だんだん開かれてきているわけで、例えばパブリックコメントのこともあるでしょう。あるいは会議体をリアルタイム公開といったこともあるでしょう。そういう一連の行政のその体質改善の中でも、これは不服審査についてこういうシステムをつくってみるということは大変貴重なことで、これは大事にひとつしていただきたいと。

 いつごろつくるのなどという話は今あったので、これはもう是非やっていただきたいと思いますが、同時に、行刑改革会議の提言では人権救済制度ができたらそっちへ移行するということになっていますが、しかしこれ違うんですね。人権救済の方は人権に光を当ててこれをチェックをしていく。だけど、この行政不服審査の中でのチェックというのは人権だけじゃないんですよ。例えば、何があるかなと思っていろいろ考えて、余りいい案、いいものが出てこないんですけれども、私物を預かっていた、それが何かの事故で壊れてしまったと。人権侵害というようなことではない、まあちょっとした間違いで私物が壊れた。しかし、行政の手続の中では、いやそれはもうちょっと、人の物を預かっているんだから、ちゃんと壊れないようにしておかなきゃというようなことがある。

 こういうことは行政不服審査の手続の中では処理されるけれども、人権救済手続の中では処理されないというようなことがあるから、そうするとこの不服審査というものをやってみて、例えば五年の見直しのときに、いや、これはまあ人権救済制度はできているけれども、この手続は残しておいたら面白いねと、なかなかいい役割を果たしているねというようなことがあり得ると思うんですが、その辺の、どう言いますか、フレキシビリティー、これをお持ちだと、お持ちになるべきだと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(南野知惠子君) 情願というような問題の中にもいろいろな中身がございます。一律にこれだけ、これだけと、こういうカテゴリーだけに分けられる問題ではない。いろいろな悩み、不服というのが出てまいりますが、そういうことについてもこの委員会ではいろいろな方の意見を聞こうとしておりますので、その大切さというのは、一応施行されると思います、施行していく中でしっかりと受け止めていってみて、それがどのような行く末になるのかということはその後にまた検討したいと思っております。

○江田五月君 その後にまた検討したいという今の答弁を受け止めておきます。

 次に、教科指導とか改善指導について伺います。

 従来の監獄法の中では、そういう受刑者に対する指導というもの、これを受刑者が受ける義務と、こうしたものが書かれていなかった。それはやはり違うんじゃないかということで今回改めてこういう規定を置いて、これまでの受刑の、少なくとも法律の建前からいったら受刑の概念が大きく変わることではないかと思います。しかし、現実には、馬に水を飲ませようと思っても、泉にまで連れていくことはできても飲む気にさせなければ飲まない。だから、教科指導、改善指導といったものをしっかり受け止めて、それを受ける、そういう動機付けをいかにして受刑者につくっていくかというのは非常に重要だと思いますが、そういう観点からの教科指導、改善指導に取り組むノウハウといいますか、ソフトといいますかプログラム、これは一体今どこで作っておられるんでしょうかね。これは局長の方がいいのかな。

○政府参考人(横田尤孝君) お答えいたします。

 おっしゃるように、今回の法案では指導について、処遇についていわゆる義務付けがなされます。義務付けをすることがまた一つの動機付けになるだろうということがあるわけですけれども、幾ら義務付けたところで、やはり今委員おっしゃったように、水のあるところまで連れていっても飲ませることはなかなか難しい。これはもう相手は人間ですから、ましてや、大変難しいことであります。そのためにはどうしたらいいかということはいろいろあると思いますけれども、やっぱりその一つには、こうしたこれから私どもが行います改善指導、教科指導、新法による改善指導、教科指導というものをよりよく充実させて、そしてその実績を重ねていくこと、これもまた水を飲ませる上で大変大事なことではないかなというふうに思っています。

 そんな意味で、私どもは、これからどんなふうにして効果的に行うようにしたらいいかということを考えておりまして、これは若干ちょっと時間をいただきまして御説明させていただきます。

 一般論ですけれども、受刑者の改善更生の意欲を喚起し、社会生活に適応する能力を育成するという効果を十分に上げるためには、まず受刑者自身が犯罪の責任を自覚し、自発的な意思に基づいて矯正処遇プログラムを受けるようにすることが必要であると。入所時の指導の段階から、円滑な社会復帰のためには所定のプログラムを受講することが不可欠であり、義務であることを十分に指導していくことを考えております。

 プログラムの内容でございますけれども、受刑者自らがその立ち直りについて考えるものとすることが肝要であります。このような観点から、既に矯正局におきましては、昨年、薬物事犯受刑者に対する教育処遇や被害者の視点を取り入れた教育について有識者の方々とともに研究会を開催し、受刑者自らがその問題について考える内容を盛り込むことを検討してまいりました。

 例えば、薬物事犯者向けのプログラムでは、これまで主として実施されてまいりました講義形式による教育に加えまして、受刑者が自分の薬物乱用の経験や影響等について自主的に話し合うことを通じて薬物依存から離脱する困難さを理解すると同時に、今後薬物に手を出さずに生活していくための具体的な方法を考えるグループワークを充実させることや、それからダルクなどの民間自助団体の協力を得まして薬物依存からの離脱に成功された方々と交流させ、また釈放後にダルクなどが実施するプログラムへの参加を動機付けることなど、どのようにしたら立ち直れるかを受刑者自らが考え、釈放後の具体的な行動に結び付けられるような、そういう内容を含んだ標準的なプログラムの策定に向けて現在取り組んでいるところでございます。

 それから、目下、性犯罪の再犯防止が大きな社会的な問題になっておりますけれども、それを目指したプログラムにつきましても、再犯防止についてのプログラムにつきましても、精神医学、心理学等の専門家の協力を得て効果的な処遇内容とするよう科学的、体系的なプログラムの策定作業を進めておりまして、先般、第一回目の性犯罪者処遇プログラム研究会を開催したところでございます。今後、メンバーの御指導を得ながら、本年度中に性犯罪者処遇プログラムを開発、策定する予定としております。

 さらに、効果的な処遇を実現するためには、指導する職員の専門性や能力の向上が不可欠であると考えております。行刑施設で教育的処遇を担当する職員につきましては、矯正研修所において効果的な矯正処遇を行うための専門的知識や技能の向上を目的とした行刑施設教育活動充実化研修という名称の研修がございますけれども、そういったものを含めた必要な研修を実施しております。

 今後はこれらの研修を一層活発に実施するほか、研修参加者の担当者に対する伝達研修というものを一層徹底実施させまして、担当者全員がその内容を確実に周知し専門性がより向上するよう努めますとともに、必要に応じて矯正研修所や矯正管区の専門的知識のある職員が施設に赴いて指導することも検討してまいります。

 このように、矯正局におきましては、局としての立場から基本的、統一的なプログラムの策定というものを試みておりますけれども、これは管区あるいは現場の施設、そして矯正研修所といったものを含めた矯正全体として取り組むべきものととらえておりまして、その努力を続けてまいります。

○江田五月君 義務にしたと。そこで、おまえ義務だから、この義務を果たさなかったら懲罰だぞなどなどというようなやり方ではこれは駄目なんで、義務にしたということは、つまり受刑者のために義務にしているわけですから、そこを履き違えないように頭の切替えでやっていただきたい。

 だんだん時間が気になりますが、出口の問題。

 私は、実はもう今をさかのぼる何十年前か、修習生、司法修習生のときに刑事裁判の修習でたまたま死刑事案に出会いまして、死刑の判決というものを練習ですから書いてみたんですけれども、その事案というのは刑務所から出てきた人がすぐまた次に殺人をしたという事案で、しかし、なぜすぐ殺人を犯したか、もちろん本人悪いんですよ、到底それは弁解できるような弁解があるわけじゃないんですが、しかしやっぱり出所後の受入れ体制がもうちょっと何とかなっていればというようなことを痛感をしたんですね。

 昨日、法務省の若い人と話しておって、刑余者という言葉を皆さん知っているかと言うと、刑余者という言葉をも知らないというのでちょっとびっくりしたんですけれども、出てからの更生保護施設であったり保護観察所のことであったり、あるいは社会一般であったり、仕事の関係であったり、厚生労働省とのことであったり、一杯山ほど問題があるんですが、一つだけ、こういうことをやっていると、北欧で、聞きました。

 つまり、刑務所の中に収容されている人たちに釈放の日がだんだん近づいてくると外出をさせる。外出して自分で仕事を探してこさせる。どこかいい仕事先があると、もちろん仕事先は、おまえ今どこに住んでいるのなんか言いますよね。そうすると、いや、刑務所にいますというんじゃ、なかなかそれはオーケーと言わないだろうから、そこは若干あるいは経歴詐称風のことを言うかもしれない。で、うまく決まった。採用担当者がこの人間はと見込んで採用することになった。となるとどうするかというと、刑務所の職員が今度一緒に、その受刑者と一緒にその雇用主のところに行くんだそうです。そして、いや、ありがとうございます、実はこれこれこういうことでこの人間は今こうなんですが、しかし是非出所後は雇ってくださいねと言うと、そう言われると、いやそれは知らなかった、もうあんた辞めてもらうとは言えないというんですね。それは、人事担当者としては、この人間と見込んだのにその目が狂っているということになるからね。

 そういうようなことまでひとつ考えてはいかがかと。今すぐこの法律でどうしろということにはならないでしょうけれども、ハローワーク大変だと思いますよ。しかし、それは刑を受けていない人間だってそう簡単に仕事がないのに、刑を受けた人間が何でそう仕事があるもんかと言っちゃおしまいで、やっぱり刑を受けた人間が出て仕事がないと、あるいは住む家もなくて生活保護も受けられないと。そうすると、これもまた再犯するしかしようがなくなって、社会的なコストでいうと、そういうものを止めるというのは一番まず最初にやらなきゃならぬことじゃないかと思いますが、ちょっと今のような提案について感想があればお答えください。

○国務大臣(南野知惠子君) 本当、生きていくためには仕事がなければ生きていけないと、そこら辺が一番大きなポイントになってくるだろうと思います。

 そういう意味で、このたびの改正の法案におきましては、外出もできる、外泊もできるというポイントを置いてございます。じゃ、何のために外出するのかといったときに、やはり仕事を探しに行くという条件がそこに、本人の自覚があり、本人の目的があり、本人がそうしたいという行動であるならば、それは許されていいものだろうというふうに思いますし、その本人の歩く道がしっかりと確保されることが我々の仕事であろうかと思っております。

○江田五月君 時間がほぼなくなりましたが、最後に警察庁に伺います。

 この今回の法律案というのは、これは刑事施設を対象にしていて、留置施設の方は全く現状どおりで、そこへ何も加えないということで、またこれは、留置施設は今後いろいろ議論していかなきゃならぬと思います。代用監獄というものがいいのか悪いのかといった議論、難しい議論がありますが。

 そんな中で一つ気になるのが、百四十七条でしたかね、留置場に対する警察庁長官の巡察という規定がある。この規定は、これによって留置場というものを警察庁所管に置こうと考えたり、あるいはこういう規定を置くことによって留置場というものを、従来の状況に何かを加えてこれを固定化さしたりと、そういうような意図はこれはありませんよね、確認ですが。

○政府参考人(安藤隆春君) お答えいたします。

 本法案は、御案内のとおり、受刑者処遇を中心としました内容としておりますので、代用監獄制度については取りあえず現状を維持するということで各種規定が置かれているわけでございまして、代用監獄制度を含む未決拘禁者の処遇等に関しましては今後引き続き検討を行うこととしておりまして、本法案の規定がその議論に影響を及ぼすことはないというふうに我々は考えております。

 結論的に言って、委員御指摘のとおり、この規定によって何ら現状を変更するものではございません。

○江田五月君 しっかりひとつ行刑施設の改革に取り組んでください。

 終わります。


2005年5月12日

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