1995/02/21

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衆院・予算委員会

「国際人権問題」で外相と論議

2月21日、衆議院予算委員会の分科会で、江田議員は河野洋平外務大臣に国際人権問題について質問した。

江田議員と河野氏(現自由民主党総裁)は、二人が社会民主連合代表、新自由クラブ代表だった17年前からの長いおつきあいだが、国会で論議をたたかわせるのは今回が初めてのこと。

質問のテーマは国際人権問題で、江田議員は日本外外交における人権問題の重要性を論じた上で、具体的な問題としてビルマ(ミャンマー)のアウンサン・スーチーさんの解放と日本のODA再開の問題、東チモールや西サハラの問題などを質問した。

○江田分科員 河野外務大臣とは、私が議員になってからずっと長い間、何かと深いおつき合いをさせていただいてきたと思っております。十数年前になりますか、参議院時代には私の属する社民連と河野さんの新自由クラブと一緒の会派を組ませていただいたり、一緒に参議院選挙を戦わせていただいたりしましたが、今は与野党に分かれております。なかなかおもしろいものだと思っておりますが、河野さんのお人柄や、平和や環境や人権などの問題についてのお考えもよく承知をしておるつもりで、尊敬を申し上げているわけですが、きょうはこういう機会をいただきましたので、国際社会における人権の問題について、最大限の敬意を表しながら、幾つか御質問したいと思います。

 ただ、冒頭ちょっとお断りをしたいんですが、三十分時間をいただいたんですが、五分おくれになっておりまして、私の次の日程で、この時間を五分間短縮させていただきたいんで、二十五分で質問を終わりたいと思いますので、ひとつよろしくお願いいたします。これは私の都合ですので、済みません。

 まず、我が国の外交における人権問題の位置づけ、さらに、河野外務大臣の国際人権問題についての基本的な考えについてお伺いをしたいと思います。

 私はやはり、今歴史の一番基本的な特徴というのは、地球が随分小さくなった、国境というのが随分狭くなった、こういうことだと思っております。この地球とか世界とかの運営の仕方について、世界のどの地域の人間も皆物を言う権利があるんだ、それぞれの地域に住む人たちがその代表者を自分たちで決めて、その代表者がみんなで集まって、この世界をどう動かしていこうか、そういう議論ができるような、そういうことを世界の人々みんなに保障をしていかなきゃいけないし、また、どの国もその領域の中に住む人々に対して、人間として尊重される、そういう人権というものを保障していく義務を世界に対して負っている、そういう時代が来ている。

 もちろん現実の壁というのは、これはもうとてつもなく厚いですから大変ですけれども、そのことを百も承知で、しかし日本もそのために、つまり、世界じゅうの人々の人権が守られていく、そういう世界をつくるためにありとあらゆる努力をしなきゃいけないという、そういう時代に来ていると思いますが、まず、その点について大臣の御見解を伺います。

○河野国務大臣 本当に長いおつき合いで、こういう立場で答弁をするのは何か妙な気がしますが、お尋ねでございますからお答えを申し上げたいと思います。

 私は、江田議員が、例えばアムネスティに非常に熱心であったり、その他世界各地に人権問題をテーマに飛んで歩いておられるということは百も承知でお答えを申し上げるわけでありますが、人権というものは人類共通の普遍的価値、こう我々は考えているわけで、正当な国際的な関心事項というのが我々の基本的な姿勢でございます。これは、つまり、そうした基本的な認識というものをベースにして世界の平和、安定というものの基盤が構築されるということが最も望ましいというふうに思っているわけでございます。

 したがって、我が国としても、重大な人権侵害、に関しては、国際社会が懸念を表明すること、それをすべて内政干渉だと言って排除したり、あるいは各国や地域の独自性を理由にして、人権尊重への努力を怠るということは適当ではないというふうに考えております。各国はその置かれた状況の中で、人権の保護のため最大限の努力を行う必要があるというのが我々の基本的な認識あるいは立場、主張でございます。問題は、それぞれ各国が置かれた状況の中で最大限の努力がなされるか、なされないか。なされているかどうかという評価には、これはいろいろあるかと思いますが、まず基本的にそういう考えを持っております。

○江田分科員 大変勇気づけられる御発言で敬意を表しますが、しかし、これはお互いもうわかっておるわけですが、現実の壁というのは非常に厚いし、また、それぞれの置かれている国の立場というものもあり、アプローチの仕方もいろいろある。しかし、だからといって、例えばアジアの人権とヨーロッパの人権とは異質のものだなんということはない。人権というのは普遍的な価値であって、そこに対してそれぞれの国ができる限りの努力をしなきゃならぬ、困難があるから後ろ向きになりますということであってはいけない、このことは同じ認識であろうと思っております。

 そこで、少し具体的な問題についてお聞きをいたします。

 まず最初に、先ほど私申し上げましたように、この地球の動かし方について、世界のどの地域の人もそれぞれ皆現代に生きている地球市民として参加をしていく権利があるんだ。すなわち参政権、自分の地域の代表者を自分たちが選んで、その代表者がこの地球の動かし方について協議をしていく、そこにかかわるという、そういう権利が認められなきゃならぬと思うんですが、その意味で一番今私ども心を痛めなきゃならぬのが、ビルマあるいはミャンマーの問題であろう。

 ここでは選挙が行われたわけですね。そして国民の代表者が決められたわけです。ところが、その代表者が集まって議会を開くことが妨げられている、そういう状況が続いている。そういう中で、ビルマという国名がミャンマーと変えられる、ラングーンという首都の名前がヤンゴンと変えられる。今日本にも大勢のビルマの人々がおられて、この皆さんはミャンマーとかヤンゴンとかというのは認めない、民宿をつくってそこの名前がビルマという名前で営業しているなんという、そういう皆さんもおられるわけですが、お互い議会に籍を置き、あるいは政府の役職を担って、この日本の民主主義を動かしていくために努力をしている立場からすれば、これはビルマ、ミャンマーの皆さんの民主主義への努力というのは人ごととは思ってはならないことだろうと思っております。

 経緯はいろいろございます。それは省略をしますが、ビルマの人権問題の象徴となっているのはアウン・サン・スー・チーさんの自宅軟禁状況ですね。これからの解放というもの、これはまだ実現をしていないので、我が国でもこの問題に対する関心は高い。昨年は、衆参国会議員全部で五百八人の署名活動があった。小杉隆さんが会長、鳩山由紀夫さんが事務局長、土井たか子さん、原文兵衛さんが顧問、私も副会長を務めて、アウン・サン・スーチーさんの解放を求める議員連盟というものを超党派百十一名から成る議員でつくりました。早くつくらないと、そのうち準備をしているうちにアウン・サン・スー・チーさん解放されてしまうんではないかなどと心配をしていましたが、この心配は実は杞憂で、なかなか簡単にはいかないという状況でございます。

 日本政府は、ODA大綱に基づいて人権状況の改善、民主化の促進のためにミャンマーへの経済協力を原則停止をしているわけですが、つい先日も新聞にいろいろ報道されたりして、日本政府の立場が揺らいでいるのではないかという心配を国際社会に与えた。聞いてみますと、いやそんなことはないんだということですが、そういう報道もあったりしましたので、あえてお伺いをしますが、アウン・サン・スー・チーさんの解放を含め、国際社会の大方が納得するような人権状況の改善がないと現在の方針を変更するということはない、こういう立場を日本はとるべきだと私は思いますが、いかがですか。

○河野国務大臣 我々も、民主化であるとか人権状況の改善というものに大きな関心を持っております。スー・チー女史はまさに議員おっしゃるように象徴的になっていますね。ほかのことが全部うまくいってもスー・チーさんだけはだめという場合に、じゃどうするかとか、いろいろなケースがあるんだと思います。ただ、やはりスー・チー女史という、選挙でも勝って非常に国民の支持を得たことのある方でありますだけに、その去就というものはどうしても関心が集まることだけは間違いがないわけで、我々もスー・チー女史の去就というものに関心を持っております。

 ただしかし、それだけではない、やはり少数民族に対する対応の仕方とか、それからそれ以外にも民主化への何か兆しというものがないだろうかということも、我々とすれば、これは我々とかつてのビルマ、今のミャンマーとの間には伝統的な長いおつき合いがありますから、言ってみればかつて非常に親目的だと言われた地、国でありますし、日本にも思い入れをたくさん持っている人たちがいるわけで、何とか支援をしたいという強い気持ちもあるわけです。支援したいという気持ちはあるけれども、今この支援の仕方によっては間違ったメッセージとして伝わるのではないかという気持ちから、先ほどお話しのように原則停止、そして人権とか民主化というものに改善の兆しが見えるまでは原則停止だよ、こういうことを言っているわけですけれども、そのことが一体何を指して民主化の兆しと言うか、人権問題の改善の兆しと言うかということについては、これは我々も慎重に考えなければならないと思います。

 欧米諸国がいろいろな動きがあるということで、マスコミの一部ではさまざまな報道がございますけれども、我々としてはミャンマーに対して支援をする気持ちがあります。ありますだけに、問題の改善をぜひしてほしい、こういう気持ち、だ、こういう気持ちをぜひミャンマーの人にわかってもらう、ミャンマーの人というか、現在の為政者の方々にわかってほしいという気持ちで私はおるわけでございます。

○江田分科員 言葉を慎重に選ばれて御説明いただいていることはよくわかるんですが、しかし、じっと聞いておりまして、やはり後で議事録をずっと読むと、これはどうなっているのかなという言い回しになっているのじゃないかという気がするのですね。

 やはり基本のところ、すなわち、今の軍政で国民が投票したその結果が政治を動かす中に生かされていないという、これは遺憾なことであって、そしてかなり政治犯の皆さんも釈放されたとか、対話の兆しが生まれているとか、そういうことは非常にいいことではありますが、しかし、やはり国際社会が納得する人権状況の改善、民主化への進展がなければ、これは日本はミャンマーのことを思いながら、しかし、全力でミャンマーの皆さんの生活改善などをODAその他で援助をしますよということになっていかないんですよ、困るんですよ、それは。そこのところはやはりひとつはっきりさせていただきたいと思いますが、いかがですか。そういう立場でよろしいですか。

○河野国務大臣 繰り返し申し上げますが、我々としてはアジア全体の経済の発展を考えるときに、今のような状況では、あの地域だけがおくれてしまうのではないかというふうにも思うわけです。ですから、やはりアジア全体が経済的に発展をしていくためには、ぜひミャンマーにも考えてもらいたいという気持ちがある。しかし、少なくとも今の状況ではできません。ぜひ改善をしてもらいたい、こういう気持ちでおります。

○江田分科員 今の状況ではできません、改善をしてもらいたい、そういう気持ちだ、そこのところが結論だろうと受けとめておきたいと思います。

 次に、東チモール問題について伺います。
 これもまた随分タッチーな問題でございます。経過、背景についてはもう述べる時間がございませんが、インドネシアという国がある。すぐ隣に東チモールという国といいますか地域といいますかがある。これは植民地支配の時代に別の、片やオランダ、片やポルトガルの植民地になっていて、そして東チモールの皆さんは民族自決を求めてポルトガルから独立しようとした。一九七五年でしたが、その途端にインドネシアが軍事進攻して自分の領土にしてしまった。

 その間いろいろな、ああ言えばこう言うというのがありますが、日本はこれまで、ここの帰属についてはポルトガルとインドネシアが国連の仲介で話し合いをしておりますので、日本はそのどちらに加担するということを決めるわけにいかない、日本が領土の帰属を決める立場にない、したがって話し合いを見守るということでずっときているわけで、あわせ東チモールの領域内でいろいろな人権侵害が言われておった。そのことについては、日本はいろいろな形で人権状況の改善を求めてきた、こういうことだと私は理解をしておるのです。

 ことしの一月十二日、東チモールでまた住民がインドネシア国軍に殺されたという事件があったようですね。先日外務省の担当者の方に説明いただきましたが、日本政府も現地の大使館を通じて事実関係の調査等についてインドネシア政府に申し入れているようであります。東チモールの人権状況について、日本政府として引き続き重大な関心を持っていただきたいと思っております。

 やはり民族自決、これは二十世紀の課題で、二十一世紀まで持ち越す課題ではないと私は思うのですね。ですから、民族自決が課題になっているところは、とにかく国連がもっと積極的に動いて早く解決をする。東チモールの皆さんも、別に独立だけを求めているわけではないので、自分たちの運命については自分たちで決めさせてもらいたい、どこからの干渉なしに。そしてその上で、例えばインドネシアに入るというかもしれない、あるいは自治領というような格好があるかもしれない、独立ももちろん一つの選択肢だが、そういう決め方をさせてほしいということを言っているわけで、こういう課題については、日本も国連の中などでひとつ積極的に動きながら、民族自決というのはもう解決をしてしまうのだという意欲を持ってほしいと思いますが、いかがですか。

○川島政府委員 経緯につきましては、まさに先生の御指摘のとおりでございます。
 一番最近は、一月にまた六名ばかりどうも処刑されたのではないかという問題提起等があることも承知しておりますし、まさに御質問の中にもありましたとおり、関心はまた表明しておりまして、事実関係を見きわめることとしております。

 民族自決という一般論につきましては、確かにこれは今世紀における一つの重要な柱として国際関係において大きな意味合いを持つわけでございますけれども、ただ個々の、例えば東チモールについてどうかと言われますと、これはやはり日本としては、まずは国連事務総長の仲介努力を見守るということ以上には踏み出してはいないのが従来の立場でございますし、それは変える考えは今のところない次第でございます。

○江田分科員 ただ、国連事務総長の仲介による話し合いは、それはそれで大変重要で、話し合いもかなり精力的に行われていると聞いておりますが、問題は、当事者は東チモールという地域に住んでいる人々なんですね。その人々が自分たちの民族自決権というものを尊重してほしいと言っているわけです。ところがそうでない、旧宗主国と今支配を事実上行使をしている人々、ポルトガルとインドネシアが話し合いをしているわけで、その民族自決権を主張している皆さんが話し合いに入っていない、入れていただいていないというのは大変残念なことだと思います。

 外務大臣、この問題について国として関心を持っているか持っていないか、この点だけでも結構ですが、お答えください。それと、民族自決権問題というのは解決をしたいという意欲をお持ちかどうか。

○河野国務大臣 東チモール問題には関心を持っております。
 私も、インドネシアの外務大臣に対して、この問題でお話を申し上げたことがございます。少なくとも現在は、インドネシアが同地域を効果的に統治しているという状況であるという認識があって、したがって、そういう状況下で少なくとも平和的に問題を解決してほしいということを私は期待をしているわけでございますが、たび重なって人が殺されている、あるいは亡くなっているという状況には、大変憂慮すべき事態だというふうには思います。しかし、いずれにしても、この問題、インドネシアがポルトガルとともに国連の仲介等を受けて話し合いで解決をしてもらうべきものであろうというふうに思っているのです。

 議員のおっしゃる民族自決云々という問題は、これまでどこでも言われてきた問題であって、そうした考え方が効果的にあるいは説得力を持っているということであれば、それはそれでいいと思うのです。ただ、そのことではなかなか問題が解決しないということになったときに、ではどういう方法があるかということを考えなければならないと思いますが、我々としては関心を持って、外相にはお話をその都度累次しておりますけれども、一義的にはやはりインドネシアがこの問題解決のイニシアチブを持っておられるというふうに思います。

○江田分科員 インドネシアが効果的に統治をしておるというこの評価はまた、これいろいろあって、無理やり人権をねじ曲げて統治しているのは効果的統治と言えるかとかいろいろありますが、まあそれはよろしい。

 次に、同じく民族自決の観点で問題となる地域というのは西サハラというところでございますが、河野外務大臣、西サハラというのはどこにあるか御存じですか。

○河野国務大臣 議員から質疑通告がございましたから、十分調べてまいりました。

○江田分科員 時間がありませんのでそれだけで結構ですが、ひとつこういう問題もあるのだということをよく御理解いただきたいと思います。

 人権問題でもう一つ、死刑廃止条約というのがありまして、もう時間がありませんが、死刑の問題というのは本当に、国民世論の動向などもありますけれども、しかし世界の大きな流れの中で、人がというか、国家権力などが、いかなる理由があっても自分の支配下にある人の命を奪うというようなことはいけないのではないか。人間の命というのは人間が奪うというものではなくて、やはり神というか仏というか何というかはわかりませんが、そういう人間の知恵を超えただれかにゆだねられているものではないか、そんな感じがするのですが、河野外務大臣の死刑というものに対しての基本的な考え方をお聞かせください。

○河野国務大臣 人の命というのは、本来、議員おっしゃったように、神様というか仏様というか天というか、そういうものが与えてくれたもので、そういうものにゆだねられているということが一番いいというふうに思います。

 ただ問題は、それぞれの社会がどうやって秩序を維持するかということについてさまざまな議論が行われて、最小限度の秩序維持のための方策ということとして法制が決められているということになれば、それはそれぞれの社会の法制にのっとるべきであろうと思うし、その法制度というものがやはりその国の国民の意思、意向というものを全く無視して変えられるというわけにはいかないのではないかというふうに思います。

○江田分科員 この問題については、実は私、三年前に同じ予算委員会分科会で当時の渡辺外務大臣にお尋ねをさせていただいたのですが、渡辺さんから「真剣に研究します。」という、そういう答えをいただいていまして、河野さんは自民党総裁を争った相手でございますが、ひとつぜひ真剣に考えていただきたいと思います。

 そのほか、例えばコロンビアの問題であるとか、あるいは今世界を見ますと、例えばチェチェンのことあるいはチベットのこと、ユーゴのこと、パレスチナのこと、南アは相当改善はされた、しかしまだいろいろ起きている、世界じゅうに人権について憂慮すべき事態というのはまだまだいっぱいあるわけです。日本はこれから国際社会の中で、国連の常任理事国問題、これはどうなるのか、いろいろありますが、いずれにしたってやはり国際社会のことは他人事じゃない、日本にとって自分のことだ、自分も国際社会の一員として国際状況をいろいろつくっていく、変えていく立場にあるんだという、そういうことですから、人権問題というのは日本にとっては重要な関心事でなければならぬ、世界のどの地域のことについてもそういう覚悟でやっていただきたいと思います。

 最後に、覚悟を一言伺って終わりにします。

○河野国務大臣 人権問題について、私も長く関心を持ってまいりました。現実の国際政治というものはなかなか大変なものだということは先ほど議員も御自身おっしゃったとおりでございますが、そうした現実の国際政治の中でどうやって人権問題というものを大事にしていくか、一種のチャレンジだという気持ちも実はいたしております。

○江田分科員 終わります。


1995/02/21

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