1998/10/14 |
参議院本会議 1998年10月14日
○江田五月君 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題になりました金融機能の早期健全化のための法律案二案につき、総理及び大蔵大臣、衆議院送付の法律案の提出者並びに本院に提案された法律案の提出者に質問いたします。
便宜、衆議院送付の法律案を自民党案、本院に提案された法律案を民主党案と呼ばせていただきます。
深刻な不況の克服と経済の再建のために金融システムを再生させることは、私たちみんなの緊急の課題です。
既に、最悪の事態に備えて金融再生関連法が一昨日、本院で可決、成立しました。金融機関が破綻し、または破綻することが目に見えている場合に、特別公的管理等によって破綻や倒産の連鎖を断ち、世界金融恐慌の発生を防ぐ手だてが用意されたところです。あとは、そこまでは行かないが、体力の弱った金融機関に必要な限度で公的資金を投入して、体質を強化し、金融機能を一日も早く健全で力のあるものに立て直さなければなりません。
しかし、私がまず問題にしたいのは、政府・自民党の早期健全化法の使い方です。
きょう、あすにも資本注入しないとおかしくなる金融機関が仮にあるとすれば、それは破綻することが目に見えている金融機関であって、早期健全化にはなじまないのではありませんか。破綻処理と早期健全化が仕組みとして車の両輪だというのはそのとおりですが、なぜ、破綻処理策に加えて早期健全化策も事実上同時にでき上がらなければならないのですか。会期切れ寸前に、駆け込みで、議論を省き、真実に目をつぶる欠陥法をつくって、実は破綻に瀕した金融機関も早期健全化の枠組みで救おうという意図があるように思えるのです。総理、大蔵大臣及び両法案の提出者にお伺いします。
私がそのように疑うのは、単なる邪推ではありません。自民党案と民主党案はほとんど同じで、ちょっときついか緩いかぐらいの違い、まあ程度の差しかないかと思われるかもしれませんが、真実を直視した処理と真実に目をつぶった処理とでは基本にある理念や哲学が大違いなのです。
そこで、基本理念に関係した質問をいたします。
そこで伺いたいのは、現在の我が国の金融機関の財務状況をどう見ておられるかということです。先月の末に、新聞が大手銀行の自己資本比率の速報値を報道しました。それによると、軒並み八%以上で、二けたのものも珍しくありません。これなら、別に資本注入など必要ありませんね。ところが、私どもも含めて、現在の状況は極めて悪いというのがまあ常識になっているのです。だから、だれも、一部の人を除けば、健全化のための資本注入は必要だと言っているのです。これは、つまり公表された数字は偽りだとだれもが思っているということではありませんか。偽りと言って悪ければ、真実の財務状況を示していないということです。いかがですか、総理。
また、金融監督庁は随分検査に手間をかけていますが、結果をありのまま示すと、これらの数字が真実でないことが明らかになるから殊さらゆっくりしているのではありませんか。金融監督庁の責任者である総理大臣に伺います。
大蔵大臣も日銀総裁も、軒並み八%以上などということには疑問を呈されていますよね。違いますか。大蔵大臣に伺います。
しかし、私たちは、末弘厳太郎博士を引き合いに出すまでもなく、うその効用という言葉も知っています。真実を隠して危機を通り過ぎる方がいい場合もあるでしょう。私は、自民党案の提出者の皆さんが悪意で国民をだまし続けようとしているとは思いません。恐らく本当の病気を知らないままで健康になった方が連鎖倒産や貸し渋りの悪化などを避けることができ、経費も安くて済むとお考えなのでしょう。だから軒並み八%以上などという偽りの数字をそのままにして資本注入をしようとするのでしょう。違いますか。自民党提案者に伺います。
しかし、本当にそれでうまくいくのでしょうか。私たちは、これではうまくいかないことを示す格好の事例を知っています。それは今年三月の資本注入です。あのときは、破綻のおそれのない銀行だ、これで貸し渋りはなくなるのだと言って一兆八千億円もつぎ込んだのでしたね。ところが、貸し渋りはなくならず、一千七百六十六億円つぎ込んだ日本長期信用銀行には、ついに破綻処理の道筋がつけられたのです。このお金はだれのお金ですか、返してもらえるのですか。あのとき銀行が書いた立派な健全化計画は何だったのですか。砂に書いたラブレターは、さざ波で消えてしまいます。金融危機管理審査委員会の先生方は責任を感じているのでしょうか。大蔵大臣に伺います。
総理、あなたは長銀の合併相手とされていた住友信託銀行の社長を公邸に呼んで合併を説得されましたね。あなたの考えていたことがそのまま実現していたら、確かに当座は皆ハッピーだったかもしれません。しかし、長銀や関連ノンバンクの実態は、その後明らかになったとおりです。真実を隠して合併を強行し問題を先送りしていたら、私たちが指摘していたとおり、もっともっと公的資金の投入は際限なく膨れ上がったのではありませんか。お答えください。
金融の世界にうその効用が通用しないことは、事実が証明しているのです。市場の目はごまかせないのですね。新しくつくる早期健全化のスキームは、前車のわだちを踏んではいけません。
そこで、自民党案の提出者に伺います。廃止される安定化のスキームから何を学び、そのわだちを踏まないようにどのような工夫をされたのですか、説明してください。
わだちの一つは、大蔵省任せにしたことです。すべて大蔵省にお任せで、大蔵省が音頭をとってどの銀行にも一律に資本注入するといった愚を繰り返してはいけません。そこで、私たちは、大蔵省から完全分離された独立の金融再生委員会をつくり、その判断で必要な銀行に適切な資本注入を行うことを提案しているのです。自民党案は、再生委員会が監督庁に随分権限をゆだねることになっているのに対し、民主党案にはその種の規定がありませんが、監督庁は委員会の下にあるので、ゆだねても委員会の力がそがれることはないと考えると、これは甘いですか。事務局の構成とか、何か理由があるのでしょう。せっかくついた財政と金融の分離の道筋が、変なところでおかしくなってはいけません。民主党案の提出者に伺います。
また、もう一つの前車のわだちは、言うまでもなく銀行の財務内容の把握の仕方です。銀行の言うことをうのみにするのか、真実の姿を把握するのかということです。資産査定のあり方で両案には根本的な差がありますね。まず、債権の分類と引き当てですが、自民党案では法律事項になっていません。やはりどうしても裁量行政が懐かしいのですか。行政の裁量がなければ適切な運営はできないとお考えですか。自民党案の提出者に伺います。
民主党案は、分類と引き当て率をはっきり法律に書いていますね。もう一つの資産査定が有価証券ですが、原価法、低価法といろいろあります。資産の現実の姿を知るためには、低価法がいいことははっきりしています。評価のときだけ突然価が下がったらどうするなどというのはためにする議論でしょう。しかし、自分のところはどうしても原価法でいきたいという銀行はどうしますか。無理やり低価法を押しつけると貸し渋りを助長するとの指摘もあります。
銀行も私企業であることは確かですが、同時に公共の財産である金融システムを構成し、公共的使命を担っているのですから、公的資金で健全化を図ろうとする以上、資本注入を行う場合の判断基準として低価法をとるのは当然と思います。それに、どうせ市場は株の含み損などはお見通しなのです。民主党案の提出者に伺います。
真実を知ることは怖いかもしれません。勇気が必要なのかもしれません。しかし、もう私たちはうそで固めた見せかけの安定や繁栄の夢をむさぼっているときではないのではありませんか。裸の王様はもうやめましょう。金融機関の真実の姿を白日のもとにさらし、国民の理解と納得を得た上で、真に必要な場合に限り、そのかわり思い切った額の資金を投入しようではありませんか。そのことは逆に、不必要な資金や損失になって消えてしまう資金の投入を防ぐことにもなるのです。
こうして、その場しのぎ、隠ぺい、先送りの金融行政を根っこから終わりにし、新しい金融行政で真に国際社会にも信用される金融システムにつくりかえることができるのだと確信します。ピンチの今がチャンスなのです。この好機を逸してはなりません。そのためには、自民党案ではだめで、民主党案をこそ成立させなければなりません。民主党案の提出者に覚悟を伺います。
私は、特にこの際、総理に伺います。小渕内閣は、金融の再生と早期健全化のために四十三兆円に上る補正予算案を提出しました。つい先週までは十兆円の構想しか持っていなかったはずですね。それがなぜこんなに多額の予算を決断したのか。それは、私たち民主党が六十七兆円の提案をしたからです。しかし、私たちの提案は、真実を明らかにし、みんなが痛みや苦しみを乗り越えながら、新しい時代の扉を開いていこうという決意をすることを前提になされたものです。制度改革と予算はセットです。
総理、あなたは当然そのことをよく御存じですよね、私たちの代表である菅直人さんと党首会談をされたのですから。それなのにあなたは、予算の提案だけをつまみ食いされた。私たちの鼻を明かしたつもりかもしれませんが、使い方を間違うと、せっかくの公的資金が壮大なむだ遣いになってしまいます。国民は皆、あなたの決断を待っているのです。この国の立て直しのため、おいしいとこどりでなく、制度改革についても厳しい選択をされてはいかがですか。そのことが、大きな壁にぶつかっている我が国に今求められているのです。総理のみがなし得ることです。できなければ交代してもらわなければなりません。
最後に、大蔵大臣、政治家としてだけでなく、人生の大先輩でもあります。ぜひお聞かせください。本当にあなたは自民党案のようなびほう策で今の金融の状態がよくなるとお思いですか。そのような姿勢で新しい時代を迎えることができると思われますか。宮澤さん、日本国民にはまだよらしむべし、知らしむべからずがふさわしいのですか。真実を前にたじろがない勇気を期待するのは無謀ですか。二十一世紀に続く後進のために、総理経験者のあなたの真実の声を聞かせていただくようお願いして、私の質問を終わります。(拍手)
○衆議院議員(保岡興治君) 江田五月君にお答え申し上げます。
早期健全化策の枠組み整備に関するお尋ねでございますが、現在、国民生活に影響を与えているのは破綻していない金融機関であって、これらの金融機関が不良債権の処理と体質強化を行うことによって、金融機能の正常化をすることが何よりも重要であります。
今、国民の中に広がっている不安、企業の皆様方に押し寄せている貸し渋りやあるいは大変な資金回収、そしてまた、そこから生まれる将来の金融機関の不安から、新しい時代の立派な国際的に通用する金融サービスをどう手にしていくか、そういったことに今差し迫った喫緊の課題として対応するために本法律案を提出いたしました。そして迅速に思い切った対策を打ち出し、我が国の金融システムに対する内外の信認を回復することが喫緊の課題となっております。
このような状況を踏まえて、本法律案においては、金融システムの早期健全化対策として新たな資本増強制度を設けており、リストラを条件とするなど体力強化や得意分野への重点化を促すとともに、合併等金融再編を積極的に推進、支援していく仕組みを構築するものとなっておるところでございます。
うその効用という言葉を言われまして、真実を隠して本当の病気を知らないまま健康になった方が、経費も安くて済むと考えているのかという大変なお尋ねでございますが、自民党としては、従来より金融機関の透明性確保には全力を挙げているところであり、今度の法律案にもその点は十分に配慮した内容になって、いやしくも事実を隠し、国民をだますというようなことはあり得ません。
早期健全化スキームの改善点についてのお尋ねでありますが、本スキームにおいては、優先株等に加え普通株の引き受けを可能とし、国が積極的に経営関与を行いその健全化を図る、資本増強に当たっては、リストラ、経営責任、株主責任についてより厳格な条件をつけること、合併等金融再編を十分に視野に入れた仕組みとすること、資本増強の決定は、与野党合意のもとに設立させる新しくできる金融再生委員会がこれを行うことなど、従来の十三兆スキームとは抜本的に異なる内容となっております。さらに、共同修正案において情報開示及びそれを担保する制度等の充実が図られたところでございます。
債権の分類と引き当てについてのお尋ねでございますが、この法律案に基づく早期健全化のための施策を講ずる前提として、金融機関は金融再生委員会が定めたところにより適切に資産の査定を行うこと、その結果に基づいて適切に引き当て等を行うこと、その保有する有価証券その他の資産を適切に評価することを法律案において明示したところでございます。裁量行政という御批判は当たらないものと考えます。
以上でございます。(拍手)
○峰崎直樹君 江田議員にお答えいたします。
自民党の金融機能早期健全化法案は、破綻に瀕した金融機関を救おうとするものではないかとの御質問でありました。
先ごろ成立した金融再生法案も、早期健全化法も、金融機関の本当の経営実態や体力を把握することに生命があります。民主党案は、厳格な資産査定と不良債権の引き当て、低価法による有価証券評価によって存続可能な銀行とそうでない銀行を峻別し、前者には早期健全化法案で、後者には金融再生法で対処するものであり、二つの法案がまさに金融危機管理の両輪となっています。
これに対して、自民党案は、いいかげんな資産査定と水膨れの有価証券評価によって、ある金融機関が存続可能かどうかの判断が恣意的に実際の存続可能性を無視して行われます。早期健全化法案のスキームによって、本来なら再生法によって措置されるべき存続不可能な銀行の一時的延命が行われ、近い将来国民経済により大きな悪影響を及ぼし、納税者の負担を招くことを大変危惧するものでございます。
次に、金融再生委員会の権限についてのお尋ねがありました。
昨日、金融再生関連法が成立しました。年内には金融再生委員会が発足し、金融破綻処理制度及び金融危機管理に関する企画立案、金融機関の破綻処理などの任務に当たることとなります。
我々は今、金融機関に公的資金を投入するという議論をしているわけですが、四十三兆円という巨額の税金を使うのであれば、当然のことながら国民に対し、納得のいく説明をすることが大前提であります。そのためには、まず第一に金融機関の真の経営実態を明らかにしなければなりません。本来、金融監督庁はそのためにあるべきですが、金融監督庁は国民や市場の信頼を完全に失ってしまいました。そこで、金融機関の真の経営実態を明らかにするという最も重要な任務は、金融再生委員会にゆだねることにしたわけです。
しかしながら、自由民主党外提出の法案では巧妙な言い回しにより、資産査定や引き当て率、有価証券の評価方法の基準づくりを金融監督庁に委任するとしています。委任できるではなく、委任するです。つまり、自民党案では、昨日成立したばかりの金融再生委員会は形骸化し、これまでどおり金融監督庁が資産査定や引き当て率、有価証券の評価方法を決めるわけです。結局、何も変わらない。これが自民党案の心髄であり、換骨奪胎とはまさにこのことであります。
このようなことでは、財政と金融の分離の道筋をおかしくするのではないかとのお尋ねがありました。
衆議院における金融再生法の修正協議では、大蔵省が手をかえ品をかえ、財政と金融の分離を骨抜きにしようとしたと言われております。しかし、財政と金融の分離は政治が決断したことであります。与野党を問わず、我々政治家はその方針を貫かなければなりません。自民党案には、さきに述べたように、金融再生委員会を形骸化するという問題点があります。共同修正に携わった与野党三会派は、そのことを自覚する必要があると考えます。
有価証券の評価方法についてお尋ねがありました。
民主党案では、公的資金による資本増強を申請する金融機関については、有価証券の評価方法は低価法にすることと定めております。公的資金を投入するのであれば、金融機関はありのままの姿を国民に見せる義務があります。したがって、有価証券の評価方法は、化粧を施した原価法ではなく、実態に近い低価法を採用するのが当然です。幾ら化粧を施しても、市場には全く通用しません。何よりもありのままの姿を見せる方が問題を一気に解決することになるのです。
なお、公的資金による資本増強を申請しない金融機関については、有価証券の評価方法は現行どおり原価法か低価法の選択制です。ただし、市場はそれを見透かしていますから、金融機関の経営者はそれを念頭に置いた上で賢明な選択をすべきと考えます。
次に、金融機関の真実の姿を明らかにし、国民の理解と納得を得た上で必要な資金を思い切って投入すべきではないかとの質問を受けました。
御指摘のとおり、金融機関の情報開示を進めることと思い切った公的資金の投入は必ずセットで考える必要があります。ここで情報開示というときに、重要なのは開示される情報の中身です。議員も指摘されているとおり、ディスクローズされるのが金融機関経営のうその数字であっては何の意味もありません。情報開示されるべきは、不良債権に対して銀行経営の健全性を確保するために必要な真の引き当てを行い、市場実勢に合わせた有価証券の評価を行った後の正味の実力です。
金融機関の真の姿を浮き彫りにするという作業は、間接償却という形で不良債権の一括処理を行うことを同時に意味します。この不良債権の早期一括処理ということが我が国金融システムの安定化にとって大変重要です。不良債権を早期一括処理させた上で、自己資本が毀損し、過少となった部分を大胆な公的資金投入で埋め合わせてやる。これを同時に、場合によっては資本注入の申請を金融機関に義務づけてでもやろうというのが民主党案です。不良債権の処理を完了させてから増資を引き受けるため、公的資金で取得する株式にもロスが発生する可能性は非常に小さいと考えます。
これに対して、衆議院送付の法案は、引き当て基準を金融監督庁の裁量にゆだね、事実上、行政と銀行業界の談合にゆだねる結果、表に出るのはうその数字ばかりで、実態としては不良債権の完全処理をいつまでも先送りすることになります。そのような状態で公的資金を入れるため、引き受けた株式に損失が発生する可能性も極めて高いと言えます。まさに、廃止が決まった金融機能安定化特別措置法の愚を繰り返す金融機能永久不健全化法案と断ぜざるを得ません。(拍手)
○国務大臣(小渕恵三君) 江田五月議員にお答え申し上げます。
まず、早期健全化策の枠組み整備についてのお尋ねでございますが、現在、破綻しておられない金融機関が不良債権処理を速やかに処理するとともに、体質強化を行うことによって、金融機能を正常化することが何よりも必要であります。このため、機を失せずに思い切った対策を打ち出し、我が国の金融システムに対する内外の信認を回復することが現下の喫緊の課題であると考えております。
次に、主要行の自己資本比率についてお尋ねでありますが、各行は、現在、九月期中間決算の確定作業を行っておるところでありまして、九月末の自己資本比率を現時点で公表している銀行はないと承知をいたしております。
なお、自己査定結果を踏まえ、外部監査によるチェックを経て公表された主要行の本年三月期決算における自己資本比率は、いずれも八%が確保されていると承知いたしておりますが、いずれにせよ、自己査定の正確性、償却、引き当ての適切性につきましては、現在、金融監督庁の検査でチェックいたしておるところでございます。
検査結果の公表についてでございますが、金融監督庁におきましては、限られた要員のもと、現在、主要十九行に対する集中検査を可能な限り迅速に実施いたしております。
なお、個別金融機関の検査結果につきましては、取引先等に不測の損害を与える等の問題があり、当局から公表することは適当でないと考えますが、主要十九行に対する検査結果のうち、集計可能な計数につきましては、どの程度まで公表が可能か、検討してまいりたいと考えております。
次に、長銀と住友信託銀行の合併を強行した場合、結果的に公的資金の投入額が膨らんだのではないかとのお尋ねでありましたが、長銀問題につきましては、与野党合意を踏まえ、修正された金融再生法が先般成立いたしましたことから、政府といたしましては、この金融再生法のもとで適切に対処してまいる所存であります。
補正予算についてのお尋ねでありますが、四十三兆円の政府保証限度額につきましては、万全の対応を可能にするために必要な額と認識をいたしております。
金融機関の情報開示につきましては、今回の法案におきましても、情報等の適切かつ十分な開示が金融再生委員会が施策を講ずる上での原則の一つとされ、また、金融機関において資産の適切な査定を行うことが規定されていると承知をいたしております。
残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
○国務大臣(宮澤喜一君) 最初に、破綻処理策と早期健全化策との関係についてお尋ねがございました。
このごろ、存続可能な金融機関という言葉をよくお聞きになると思いますけれども、いわゆる護送船団時代には存続可能な金融機関という観念はなかったわけで、全部が存続可能であったわけであります。そういう行政が破れまして、初めて存続可能であるか可能でないかということが問題意識に上ってまいりまして、今や存続可能でない、可能性の極めて薄いものは退場をしてもらわなければならないということは、ほぼ一般的な観念になってまいったと思います。
そこから破綻処理策が必要になったわけでございまして、御承知のように、これは破綻または事実上破綻に近いものの処理でございますが、同時に、この処理策の中で預金者はもとより保護せられますけれども、優良な顧客等は何かの意味でやはり大事にしなければならない、できればレシーバーをつくるというようなことが議論され、法制化されたわけでございます。
それに対しまして、今度は存続可能な金融機関については、先ほどもお話がございましたが、今我が国の金融機関は決して強い状態にはございませんから、資本を強化する、そして貸し渋りなどが局限化、最小化されますように、また金融システムを回復するために早期健全化の政策が同時に必要になった。この二つの法律あるいは策は、したがいまして護送船団方式が終えんしたことに伴ういわば車の両輪と言われる政策であるというふうに考えておるわけでございます。
それから、銀行、殊に主要十九行の自己資本比率はどうも世の中で言われておるほど、そんなに高くはないのではないか、疑っていないかという意味でのお尋ねで、先ほど総理が言われましたように、先般某新聞が発表いたしましたのは九月期までを考えておりますので、九月期の決算はどこも出しておりませんから、これは推測であろうと思います。
また、主要行が三月期の決算の自己資本比率を外部のオーディティングも入れまして八%になっておるということを言っておられるわけですけれども、私自身も江田議員の言われますように決して偽りだとは思っておりませんけれども、本来各行の分類とか引き当てとかの基準というものが、おのおの各行が自分の方式でやっておるわけでございまして、決まった方式に従ってやっておりませんから、どうしてもそれは恣意的になりやすい、そういうことが基本的にございます。
したがいまして、金融監督庁の検査がここで行われまして、初めていわゆるマニュアルのようなものができて、それに従って各行が一つの基準できちんと計算をしてみませんと、真実のところどのぐらいあるかということはよくわからないというのが本当のところだろうと思います。
したがいまして、江田議員の言われましたような感想を私も実は持っておりまして、いずれにしても、そういうきちんとした客観的な統一基準ができて初めてどのぐらいの自己資本比率を持っているか、また、そこから銀行間の優劣が初めて客観的にわかって、そして自由競争が行われることになる。ただいまはそこに至ろうとしてまだ至っていない段階ではないかというふうに考えております。
それから次に、長銀の問題についてお尋ねがございました。私は、今年三月の資本注入について、各危機管理委員の方々は与えられた時間の中では熱心に真実におやりになったとは思っておりますが、大変に短い時間でございました。しかもその後に、長銀についてはいろいろな事情の変化があり、風説があって今日のような状況になってまいりました。それで、今日の状況から考えますと、これはまだこれからのことでございますけれども、恐らくは先般成立しました金融再生法のもとで委員会が処理をせられることになると思います。
その際に、三月に一千七百六十六億円の公的資金をつぎ込んだわけだが、これはどうなるかというお尋ねでございました。これはまだこれから起こるはずのことでございますけれども、長銀が特別管理下に仮に入りました場合に、優先株につきましては、管理の開始決定が公告されましたときに、優先株は預金保険機構がそれを取得することになるように法律に書いてございます。
問題はその取得の対価でございますけれども、これは法律的には後日、株価算定委員会によって決定されます。株価算定委員会が決定いたします場合に、公告時における資産価格が果たして何ほどであるかということ、当然のことながらそれによって決まるわけでございまして、純資産がある場合あるいはひょっとして純資産がない場合、いろんな場合が考え方としては想定されますから、及びいろいろな種類の株がございますから、それによりましてその配分をどうするかというようなことが当然問題になってまいると思います。したがいまして、純資産が残りました場合の価格決定は株価算定委員会によって決定され、それがプラスでございますと保険機構に支払われることになると思います。
それからもう一つ、劣後ローンが御承知のようにございますけれども、これは特別公的管理下に入りました告示の日に特別公的管理銀行の債務として引き継がれることになります。その債務がどのように処理されるかは、後日特別公的管理銀行が決定をすることになると思います。その点は以上でございます。
それから最後に、終わりに近いところで私についての何を考えているかをお尋ねがございました。
率直に申しまして、私はこのたびの二つの法案、一つは成立いたしましたが、一つはただいま御審議中でございますが、につきまして、大変長い期間にわたって両院の御審議に参加をさせていただいたわけでございますけれども、私が率直に感じましたことは、いわゆる護送船団方式はなくなったと申しながら、その間に長いこと生まれました慣習あるいはなれと申しますか、そういうものはなかなか急にはなくなっていない、そのことについての御指摘が大変に何度も厳しくなされたということについて、私は大変に実は感銘を受けております。
例えて申しますと、責任者の刑事責任はもとよりでございますけれども、経営者としての責任の追及というようなことは護送船団方式のもとではなかったことでございますから、初めてそういうことがしばしば御指摘の対象になった。あるいは、ディスクロージャーということについても随分お話がございました。護送船団方式のもとでは競争がございませんから、ディスクロージャーも入り用がないわけでございまして、本当の競争になりましたら健康なものは健康だとディスクローズする方が得でございます。黙っておるものは何か怪しいということになりますからディスクローズすることが得になる、そういうことになってくるに違いないと私は思っていますが、そういう意味でのディスクロージャーの必要性。あるいは、いろいろなものの評価基準というものが極めてあいまいであって、法定されておりませんから、行政とのなれ合いで決められることが多いというような点についてしばしば御指摘がありまして、また、成立いたしました法律案は既に修正を受けましたし、ただいま御審議中の法案も衆議院で修正があったわけで、これはこれらの点からの修正が多うございまして、それは私どもがともすれば、従来の惰性で気がつきませんでしたそれらの問題についての適切な御指摘であったというふうに考えております。
そこで、一つだけ私が感じておりますことは、それはそのとおりであってやがて行き着かなければならない姿ではございますけれども、何分にも長い間こういう慣行のもとに銀行は生きてまいり、また、行政が行われていた。それは厳しく改めなければならないことではあるけれども、実際今我が国の経済がこういう姿にありますときに、極限的に悪い姿にありますときに、決してゆっくりとは申しませんけれども、激変が起こるということは、行政の担当者としてはこれはまたこれで心配なことでございます。
決して厳しくあってはならないと申し上げているのではありませんけれども、銀行、金融界から自由な活気がにわかに萎縮をするというようなことがあってはならないということを私ども考えておりまして、この点は行政をいたしますものと御批判をされるお立場との違いであるかもしれませんが、基本的にこのたびの修正ということは私はさもあるべきことである、ただ、その限度とそれに入りますいろいろな経緯については、一つの行政的な範囲についても御理解を得たい、そういう感じがいたしておりますことを申し添えます。(拍手)
1998/10/14 |